07-06 建国三日目/外壁建築
これまでのあらすじ:建国準備をしつつ、婚約者との時間を過ごしています。
目を覚した時、アリスはまだ眠っていた。普段は大人しくて照れ屋なアリスの意外な部分が解って、僕もつい求めてしまったからなぁ……。
僕にしがみつくようにして眠るアリスを、そっと抱き寄せる。数時間前まで散々求めたくせに、まだ欲しくなってしまいそうだ。
「ん……ユート、君……」
「おはようアリス、身体の調子はどう?」
僕の質問に、顔を赤らめるアリス。顔を隠すように僕の胸元に頭を押し付けてくるが、一緒にお胸様も押し付けられる。落ち着け僕、落ち着け僕っ!!
「その……痛みは、もう大丈夫で……」
「そっか、それなら良かったよ。無理させてゴメンね」
「いえ……もう、ユート君のものですから……」
一々アリスが可愛いせいで、僕の中の獣が起きそう。
************************************************************
寝不足気味ではあるものの、やるべき事はやらなければならない。
午前中は、朝食の後でアリスとキリエを連れて、イングヴァルトに行く。午後からは、アーカディア島の住人総動員で外壁の建設に乗り出す予定だ。
「ユーちゃん、アルファ君が建築職人の所に行く前に、王城に寄るようにと言っていましたよ」
「そうなの? ……って、何でキリエに連絡が? 僕に直接すりゃいいのに」
「遠慮してくれたみたいですよ。この人数で建国するなら、相当に忙しいだろうと言っていましたから」
アルファめ、気を使いおって……でも、後でお礼を言っておかないとね。
他の婚約者達や仲間達に見送られて、僕達はイングヴァルトへ出発する。門弾を潜り、転移した先はイングヴァルトの王都から少し離れた森だ。
「さて、それじゃあ行こうか」
「はい、ユーちゃん」
「行きましょう、ユート君!」
その後、王都の門でひと騒動になってしまった。まさか新王国として布告されたアヴァロン王国の国王が、女の子を二人連れて徒歩で来るとは思わなかったらしい。鑑定板で身分を証明して、ようやく僕達は王都に入れた。
「今度から、馬車か何かで入るべきかな?」
「いっそ魔力駆動二輪で来ますか」
「まぁ、他には無いものですからね、一発で身元の証明になりそうです」
そんな冗談を言いながら歩く僕達だが、周囲の視線が凄い。
キリエやアリスに目を奪われる者が大多数だが、残りは僕に興味深そうな視線を向けて来ている。不動産屋の前に王城だったな、このまま歩いて行って大丈夫か?
……と思っていた矢先、久々の展開に遭遇した。
「よぉ兄ちゃん、随分別嬪を連れているなぁ」
「姉ちゃん達、こんなパッとしない奴より、俺らと遊ぼうぜ?」
「俺ら、この王都では名前の知れた冒険者なんだ、悪い事は言わないからよぉ」
懐かしいな、こういう奴ら。
しかし困ったなぁ。
「冒険者同士の私闘はご法度なんだよなぁ」
こいつらを攻撃したら、僕達が処罰されるかもしれん。それは嫌だ。
「あん、お前らも冒険者か? それならその二人はウチのパーティに貰ってやるよ」
仕方ない、私闘をしなければ良いんだよな。
空に向けて、銃剣を発砲する。その先には……。
「な、何だ……あれ……」
空に浮かぶ巨大な物体に、三人のチンピラ冒険者だけではなく街の人々も目を剥く。
「あれは”破滅を呼ぶ星”と言って、このユート・アーカディア・アヴァロンが所有する遺失魔道具だ。それで? 俺の婚約者、キリエ・アーカディアとアリシア・クラウディア・アークヴァルドが何だって? よく聞こえなかったから、もう一度言って貰えないか」
誠に遺憾だが、特別に威圧で許してやろう。
「……ア、アークヴァルド……公爵様の、ご令嬢……?」
「アーカディアって、まさかあの……天空島の……」
「アヴァロン……ま、まさかアヴァロン王……?」
ついでだ、少し殺気を向けてやろうか。
「で? 俺の連れが何だって……?」
……あれ? 三人共、泡を吹いて倒れちゃった。街の人も、何人か倒れたみたいだ。
「あ、あれ? やり過ぎた……?」
「……そうですね」
「まぁ、ユート君にしては穏便に事が収まりましたから……」
いつもなら、息子さんに実力行使だからね。
……
その後、王城でアルファに文句を言われた。
同盟国の上空に遺失魔道具兵器を出したのは確かに軽卒だったので、素直に謝罪しておいた。
「で、あの三人はどうする。アヴァロン王国国王とその婚約者二人に対する無礼、斬首刑が妥当な処罰だが」
僕らに絡んだだけで首切りはやり過ぎだろう。
「アヴァロン王は大変お怒りだとか聞かせて、一晩くらい牢屋に転がしといて。その後、アルファの執り成しで怒りを収めたことにしてくれればいいよ」
「……甘いやつだな、案外」
「実害が無かったからね。実害があったら、直々に殺すよ」
貴族になっても、王様になっても、僕のルールは変わっていないからね。ただ、少しだけ穏便に事を運ぼうとは思っているけど。
「とりあえず了承した。それでは、建築士を呼んであるから別室に行くぞ」
あっ、呼んでくれていたのね。
「ありがとう、アルファ」
「まぁ気にするな」
何だかんだ、気に掛けてくれるんだよな、アルファは。
その後、アルファも交えて住居や集合住宅の話をした。マンションやアパートの話題では、アルファも大分興味を抱いたみたいだ。
「モデルハウスとやらを見るのが楽しみだよ」
「僕もどんな風になるのか、今から楽しみにしているんだよね」
建築士との話し合いは恙無く終わり、僕達はキリエとアリスのドレスを仕立て依頼をしてから、アヴァロン王国に戻った。
さぁ、午後からは外壁作りだ!
************************************************************
昼食の後、僕は知り合いに声をかけて集まって貰った。アヴァロン王国が建国された土地、アーカディア島……その外周に、落下防止の壁を建設する為だ。
集まったのは、僕と婚約者で構成されるメインパーティ。そして、アーカディア邸で雇っている獣人組とドワーフ組。
加えて、テリー氏率いるパーティが手伝いに来てくれた。更には、アルファとブリック、マック、リア、政務が終わって自由時間だと言うアマダムが参加を申し出た。
これらのメンバーは、僕からではなく婚約者から連絡が行ったので、転移して来た彼等に驚いたものだ。
尚、クレアちゃんは参戦できない為、子守として母親のレイラさんが屋敷にいる。
総勢二十三名だ。これだけの人が集まってくれたのは、ありがたいね。
それでも先は長いだろうから、今日は出来るだけ距離を稼ぎたいところだ。なので、効率を考えてメンバーを割り振る。
東にはアリス、アルファ、リア、テリー氏、ハンス氏、フリオ氏、ミリア嬢の七名。
西にはリイン、マック、マルク、ジョリーン、リリルル、エルザの六名。
南にはアイリ、クラウス、メアリー、ジル、エミル、ブリックの六名。
北にはクリス、アマダム、キリエ、僕の四名。
基本的に所属、または出身に振り分けだ。リアはほら……アルファがリア充(リアと一緒だと充実)だから。
北出身が二人と少ないため、僕とキリエは北に行く事にする。
「さて、それじゃあ皆! 宜しくお願いします!」
レイラさんとクレアちゃんに見送られ、僕達はそれぞれ魔力駆動二輪で四方の転移門へと向かう。皆が魔力を充填してくれた疑似魔石を、宝物庫に入れてあるので、魔力枯渇状態は避けられるだろう。
……
北の転移門に着いた所で、僕達は魔導銃で早速建設に取り掛かる。
「魔法を一つの動作で発動できるとは興味深い。これは相当有用な遺失魔道具ではないか!」
「……ん、流石ユート」
そういや、この二人は魔導銃は初見だったか?
「後で二人に、もうちょい使い易いのを製作して贈るよ」
その言葉に、二人は笑顔を向ける。ほら、嫁と義兄になるわけだし……ね?
「どんどん行くぞ、先はまだ長いからな!」
流石は魔人族か。魔人族は種族特性で全ステータスに+20がかかっているので、魔力量も多い。その為、アマダムはどんどん先へ進んで行ってしまう。
「では、私は魔王陛下とこっちを進めてしまいますね」
そう言って、キリエがウインクを一つして、その後を追っていく……クリスに付いていろって事ね。
「……キリエに、後でお礼……」
「あぁ、そうだね。それじゃあ俺達も行こうか」
僕は魔力駆動二輪を出し、クリスに手招きする。
「僕が移動と魔力補充を担当するから、クリスはバンバン撃っちゃって」
「……ん、共同作業」
クリスの首肯を確認し、僕は魔力駆動二輪を発進させる。
「ちょっと練習しただけで、銃の扱いが上手くなったね」
「……嬉しい」
僕の前、横座りでシートに腰掛けているクリスが、僕の胸元にもたれ掛かる。うーん、ヘルメットじゃなければなぁ……。
「さ、どんどん行こうか」
「んっ!!」
二人で分業した外壁の建築は、北門から西門にかけて、一気に三分の一くらいまでを完成させた。
……
外壁建築は、思いの外順調に進んだ。人数の多い東・南・西組もふた手に分かれ、隣接する門に向かって建築を進めたようだ。
お陰で、予定していた四日は掛かるかと思っていた行程も、半分に削減できそうだな。
明日は王族勢は不参加だが、今日だけで随分と助かった。その為、僕達は皆へのお礼として全員でのお茶会を開く事にする。
「さて、じゃあやろうか!」
「はいっ!」
今日のお茶会のお菓子は、僕とリインで作る事にした。決めたのは僕で、キリエ・アリス・クリスとの時間は先程取れたし、今夜は……アイリの番だ。
なので、リインとの時間を取るべくそうした。
「ユートさん、何を作るんですか?」
「今日はコレで、スナック菓子を作るんだ」
「芋? でもこれって……毒芋ですよね……」
毒芋!?
「えっ、そんな呼び方されてんの?」
「え、えぇ……何個かに一個は毒が入っていて、世界中で中毒になった患者が居ると……」
あっ、多分芽だな。
料理に精通していない人でも、じゃが芋の芽は取り除かなければならない……これは、僕達が住んでいた世界では結構当り前の事だ。
「毒性があるのは、この芽の部分だよ。これを取り除き、調理してやれば毒性は無いんだ。前世ではこれを様々な調理法で調理して、親しまれていたんだよ」
この世界では、過去の勇者からそういった情報が齎されなかったのかな?いや、多分何百年も前の事だから、失伝したのかもしれないな。
「そ、そうなのですか!?」
「あぁ、こうやって皮を剥いて、芽を取り除き……こんな感じで切っていく」
大学に入ってから自炊していたし、転生後も母さんに料理をさせない為に台所に立っていた僕に、皮剥きなど朝飯前だ。皮剥きと芽の除去を終えたじゃが芋を、スティック状に切っていく。
そう、今日作るのはフライドポテトである。
「こ、こうですか?」
「うん、上手だよリイン」
リインは時折、姉さんやアリスと一緒に台所に立つ。今なら解る、きっとそれは花嫁修業だったのだと。
僕もコツなどを教えてあげると、リインの調理スピードは向上していった。
「さて、これを油で揚げるんだ」
「はい!」
油に投入した芋からジュウジュウと小気味の良い音がする。
「あ、色が変わってきましたね」
「きつね色って表現される色なんだけど、この色になったら大分火が通っていると思っていいよ。このクシを刺して、すんなり入れば大丈夫」
揚がった芋をバットにあけ、油を切ったら塩を振っていく。
「一つ味見してご覧」
手に取ったフライドポテトをリインに差し出すと、少し恥ずかしそうに口を開ける。うん、そう言えばこれ、あ~んだね。
「……わぁ、美味しいですね! 後を引くというか、ついつい手が伸びそうな味です!」
「お腹に溜まりやすいから、食べ過ぎに注意だね。じゃあ、これを更に盛り付けていこう」
二人でフライドポテトを盛り付けて行き、皆が待つテラスへ向かう。
フライドポテトは好評だった。
「まさか毒芋と称される芋が、こんなに美味い料理になるとはな」
「おう、こりゃあつい食べ過ぎてしまそうだ!」
「芽を取り除く……か。これは国中に布告しなければならないな!」
「寒冷地でも育つのだろう? 魔王国にとっては重要な食料になりそうだな」
王族勢も、どうやらフライドポテトがお気に召したらしいな。寒冷地でも育てやすい為、じゃが芋の栽培を各国で試してみるようだ。
「後は……そうだな、ポテトチップスやコロッケ、ポテトサラダに……肉じゃがもいいなぁ。後はやはりカレーライスか。色んな料理に使えるから、再現出来たらまた声をかけるよ」
僕の言葉は、王族勢の目を輝かせた。やはり、新しい物には目が無いらしいな。
「ふふっ、ユートさんのお陰で、また新しい名産物が増えそうですね」
そんなことを言ってしなだれ掛かってくるリインに、僕は何とか理性で煩悩を押さえ込んだのは余談だ。
************************************************************
さて、僕はここへ来てようやく取り掛かるべき物に手を付ける事にした。これまでは腕輪型携帯念話や世界の窓があったので構わなかったのだが、今後必要になるであろう物だ。
「そうだ、電話を作ろう」
これである。
詰まる所、遠距離通信の遺失魔道具を各国と、関係者に持たせるつもりだ。
腕輪は身内用だし、念話という性質上悪用もされ兼ねない。世界の窓はその性能と渡した面子から考えて、各国の王様用にすべきだろう。
ならば、作るべきは……理想形はスマホだな。
渡す範囲はアヴァロン勢、同盟国家の王と側近分かな。それと、先代魔王討伐の英雄には渡しておいても良いかもしれない。
当面は音声通信機能のみなのだが、後にネットワーク的な機能も追加していきたいと思っている。
それらの構成を考えて試作を繰り返し……そして、やっとプロトタイプが完成した。後で皆に渡して、使い勝手を見て貰う事にしよう。
……
さて、メグミからの定時連絡。
『イングヴァルト王国の隣にあるファムタール騎士国は、騎士国と名乗るだけあって高潔な方々が多いですよ』
『へぇ、結構順調に進んでいるのかな?』
『はい。盾を主武装とする騎士の方々もいて、少しお話を聞くことが出来ました。先輩にも、合流後に教わった戦い方を実演してお見せできるように、少し鍛錬しようかと思います』
相変わらずだなぁ、生真面目というか、何というか……しかし、メグミのそんな部分はとても好ましく、魅力的だと思う部分だ。
『無理はしないようにね?』
『はい、ですが先輩に成長した所を見せたいですし、頑張ってみます』
何この子、可愛い。
『あぁ、楽しみにしているよ。直接メグミに会えるのも含めてね』
『……不意打ちはずるいです』
そう言いつつも、声色はとても嬉しそうだ。
『ファムタール騎士王国が協力してくれているお陰で、明後日にはクロイツ教国に入れそうです。報告を済ませたら、先輩にご連絡しますね』
……例の件は、メグミはクリスの後のつもりのようだ。
『……婚約の約束は、私よりもクリス姫の方が先ですから』
心、読まれてないよね!? そんな不安を若干残しつつ、その日の念話通信は終了した。
……
さて、そろそろ来るか……と思っていたら、全く別のものが来た。
「信号を受信? 誰だろう……」
とりあえず受領すると、相手は獣王国に戻ったブリックだった。
『悪いユート、今大丈夫か?』
『あぁ、大丈夫だ。どうしたんだ、ブリック』
『おう、それがなぁ……』
ブリックから話を聞いたところ、ミリアン獣王国の友好国家であるジークハルト竜王国の国王陛下が、アヴァロン王国国王……つまり僕に会ってみたいのだと言う。
それに伴い、使者をアヴァロン王国へ向かわせたいとの事だ。使者は現在ミリアン獣王国に留まっているらしい。
『使者……か。王城なんかもまだ建設できてないんだけどなぁ……』
『それは先方にも伝えてある。開拓中なのは百も承知だってよ』
ふぅむ……まぁ、別に減るもんじゃないし良いけどね。
『日程は明日以降、いつでもアヴァロンに合わせるってよ』
『ふーん……解った、使者に会う事にしよう。じゃあ明日の午後、こっちに呼ぶからそのつもりでよろしく』
友好的なら早い内に関係を築けるし、敵対するなら早急に排除できる。まぁ、そんな相手の出方を見る意図もあるのは事実だが、それだけ言って来るのならば早く接点を持ちたいんだろう。
何よりジークハルト竜王国は、竜人族の国……そして竜人族の英雄がいる国だ。もしかしたら、使者に英雄がいるかもしれないしね。
『解った、先方には伝えておく。明日の午後イチで連絡するから、そしたら転移門を開いてくれ』
ブリックに了承の返事を告げ、念話通信を終える。
……
少し待った所で、扉をノックする音が聞こえる。
「どうぞ、アイリ」
「……! 失礼します、ユート様……」
僕の言葉に、自分が来るのを待っていたのだと察したアイリが、頬を染めながら入る。勿論、扉の鍵はかけさせた。
「待っていたよ、アイリ」
その言葉に、頬は更に紅潮していく。アイリは僕の前に立ち、服に手をかけようとして……その手を、僕が止めた。
「……ユート様?」
戸惑うアイリに、僕は顔を寄せる。
「僕がしてあげる」
「……っ!!」
ウサ耳がピコピコと動いている。相変わらず感情表現が豊かなウサ耳である。
「ユート様、不束者ですが……どうぞよろしくお願いします……」
「こちらこそよろしく。じゃあ……いいかな、”俺”のアイリ」
「はい……ユート様の私ですから……」
アイリを抱き寄せながら口付けを交わし……俺達は、ベッドに倒れ込んだ。
三日連続だというのに、俺とアイリの夜は日が昇る直前まで終わらなかった。
 




