07-05 建国二日目/新米国王
これまでのあらすじ:建国の為に行動開始です。
目を覚ますと、そこには一糸纏わぬ姿の姉さん……いや、キリエがいた。ニコニコしながら、僕の寝顔を見つめていたらしい。
「おはよう、キリエ」
「おはようございます、ユーちゃん」
「そう言えば、そっちの呼び方は変わらないんだね?」
婚約前と変わらぬ、愛称。
「えぇ、一番しっくりくるので変えなくてもいいかな、と」
まぁ、それも仕方あるまい。十五年間、毎日呼んでいた呼び名だからな。
「さて、起きようか。今日も建国の為にやる事が山程あるからね」
「えぇ、一緒に頑張りましょうね」
起き上がる僕の唇に、軽くキスをしてキリエもベッドから出る……何かいいなぁ、こういうの。
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朝食を済ませた後、僕達は今後の事について話し合う事にした。
「まずは島の外壁を作る。これは専用の遺失魔道具を用意したよ」
昨日の内に準備しておいた魔導銃と”石の壁”を刻印付与した疑似魔石弾をテーブルの上に置く。昨日、屋敷から少し離れた平地でテストしたが、特に問題は無さそうだ。
「王都そのものにも内壁を作るよ。内壁と外壁の間に、開拓村を作るつもりだ」
「王城はこの屋敷のある場所に作るんですよね? この屋敷はどうするんですか?」
「宝物庫に収納して、いつか別荘としてどこかに移築するよ。各国の為に用意した屋敷は、大使館として王都に設置しようかと思っているんだ」
僕の提案に、皆も笑顔で頷いてくれた。慣れ親しんだ屋敷だ、放棄するなんて有り得ないからね。
「ユート殿、我々が耕した自家菜園や花壇はどうなさるのでしょう?」
「勿論、花壇は王城用に流用する。菜園はマルクやジョリーンの為に用意する新居に移設するつもりだよ」
新居という言葉に、マルクとジョリーンの顔が赤くなる。彼等の結婚式は盛大に祝ってやるぞ!
「解りました、それでご主人様。各区画はどうなさるんですか?」
「東西南北〜!」
あぁ、それも今の内に説明するか。
「王都や開拓村は、各大陸に対応した区画分けにする」
一応は王城の周囲に貴族用の住宅地。各国の大使館もここに移設だ。そんなに数は要らないだろうから、そこそこの広さにしておくよ。
その周りは商業用の区画にする。そして、更にその周りに平民用の住宅地や、宿屋かな。
「なるほど、よろしいかと思います。宿屋が王都に入ってすぐにあれば、旅人も助かるでしょうからね」
「ご主人、商業区画はどうするんです?」
クラウスの質問が漠然としてて、何を指してるのか解らない。一応、現状の展望を話してみるか。
「一応は四方に露天商用の広場を設けるつもりだよ。各種族間の交流が主目的だから、全ての広場は環状の道路で繋ぐ予定」
露天商通りの外側は平民向け、内側は貴族向けの店舗を構えるつもりだ。
「ほぉ〜、流石ご主人! 綿密な計画じゃねぇですか!」
……こいつ、よく解ってないな? はぁ、今度模型でも作って説明してやろう。
「じゃあ今日は外壁ですか?」
「がいへき〜!」
リリルルはよく遊んでくれているので、クレアちゃんが非常に懐いている。クラウスやレイラさんには、色々頼む事が多いからなぁ……少し自重すべきか。
さて、今日の予定だが……。
「いや、今日はヴォルフィードとオーヴァンの建築職人に会いに行くから、皆は自由にしていていいよ」
お休みをあげられていなかったから、自由時間を作ってあげないと。
「それなら、今日はユートさんに着いていきますね。ヴォルフィードなら私が一緒の方が良いでしょう?」
「ん……私も行く」
うーん、休みにしてあげたいのだが。
と、ここで気付く。将来の奥さんとの時間も、少しは取らないといけないだろう。仕事にかまけて家庭を顧みない旦那になってはいけない。
「解った、今日の午前中の随伴は二人にお願いするよ」
キリエは朝、少しイチャイチャできたし……寝不足だろうから、今日はのんびりして貰うのがいいね。
「アイリ、午後から少しミリアンの方に向かうんだ。一緒に来てくれるかい?」
「はい、喜んで!」
嬉しそうに顔が綻んだ。うむ、この対応は正解みたいだな。
確かキリエの話だと、今夜は……。
「アリス、それで大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
僕の意図を察したようで、アリスも笑顔を向けてくれる。
……何と言うか、ハーレムなんだよね、これ。もうグレンの事をとやかく言えないな、その点に関してだけは。
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まずはヴォルフィード皇国の皇都リーヴォケインに向かう。勿論、服装はいつもの揃いの冒険者装備だ。
「確かここかな」
「皇都で最も高い評価を受けている建築士の営む店舗ですね」
「……大きい」
確かに大きな建物だ。不動産を兼ねた建築事務所みたいだね。
扉を開けて中に入ると、受付の人達が一斉に立ち上がって一礼した。
「いらっしゃいませ、アーカディア卿……いえ、もうアヴァロン王とお呼びしなければなりませんね」
「あぁ、どうも。この度はお忙しい中、無理な頼みに応じて下さって感謝しています」
店主らしき男性が握手を求めてくるので、その手を握り返す。
「皇帝陛下より、アヴァロン王が天空の島に新王国を建国する事が、大々的に布告されましてね。この国では今、その話題で持ち切りですよ」
何を余計な事してんだ皇帝陛下!
「そして、アヴァロン王が我が国に住居や建城の話を下さると聞き、この業界では我先にと競争が始まっておりましてね」
「そ、そうだったんですね……」
「ユートさん、自分がリーヴォケインの森を守った英雄って忘れていませんか?」
……そう言えば、そうだったね。
「えぇと、それでは本題に入らせて頂けますか?」
「勿論でございます、それではこちらへどうぞ」
恭しく一礼し、部屋へと案内してくる店主。
そうかぁ、身分的にはもう王様なんだもんなぁ……そういう扱いにも、慣れていかなければならないだろうな。
でも、だからといって相手を見下して良いわけではないのだ。その辺り、しっかり気を付けていこう。
ミリアン同様に、マンションやアパートの話も含めて相談すると、これまでに無い住居形態に店主は乗り気のようだ。
ヴォルフィード皇国と言えばエルフ、エルフと言えば森。西大陸の転移門を置く西区画には、木や草や花に囲まれた緑溢れる区画にしようと考えている。
ちなみに、エルフ族の事を考慮しているので、アヴァロン王国の建物は木造は厳禁にしている。それも店主の琴線に触れたようだ。
……
オーヴァン魔王国の王都グランディアでも、同様に歓迎された。
「ようこそお越し下さいました、アヴァロン国王陛下! 私、本日お話を伺わせて頂きますドバルドと申します、どうぞこちらへ」
店主ドバルド氏に案内される間も、その場に居る全ての従業員や客達が跪いていた。跪いた事はあったけど、跪かれた事は無かったと思うので、ちょっと引いた。
「……店主、ユートは慣れてない……楽にさせる……」
「畏まりました、クリスティーナ殿下! 皆さん、アヴァロン国王陛下のお許しです、楽にして下さい!」
クリスがそう言うと、ドバルド氏は皆に跪くのを止める様に周囲に呼び掛ける。
さ、さっさと案内してくれる? 視線がさ……。
「まぁ、このグランディアでもユートさんは大活躍でしたものね」
「ん……ユートは魔王国の恩人。皆、感謝してる……」
そう言われたら、まぁ悪い気はしないんだけどさ。慣れないといけないのは、こういう視線にもなんだろうなぁ。
「しかしアヴァロン国王陛下。この度の御来店、私共としては身に余る光栄なのですが、普通ならば王族の皆様や貴族の方々は、我々を呼び付けて話をする事が殆どにございます。差し支えなければ、今後はそのようにして頂いても宜しいかと」
「……あ、そういうものなんですか?」
「はい、そういうものでございます」
僕の反応に、ドバルド氏は苦笑していた。
「いやぁ、新米国王なもので、その辺りには疎いものでして」
「じきに慣れるでしょうとも。さぁ陛下方、こちらの応接室でお話を伺わせて頂きます」
気品溢れる応接室に通され、他国と同様の話を持ちかける。
こちらは、兵舎がマンションに近いタイプの集合住宅らしい。話を聞いてみたら、何か学生寮みたいな感じだという事が解った。
なので、魔王国側には兵舎よりも広い、各家庭が暮らすのに支障が無い部屋という事を伝えると、意欲が上がったようだ。
「それでは、もでるはうす? の建築が済みましたら……えー、どちらへご連絡差し上げればよろしいでしょうか……」
「あー、どうしよう。その辺はまだ整備して無かったな」
そうすると、予想外の助け船が。
「兄上に連絡させればいい……」
魔王陛下をパシリにする新王国の国王、その婚約者(魔王の妹)に、店主が引き攣った笑みを浮かべた。後でアマダムに連絡して、フォローをして貰おう……。
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午前の予定を消化し、アヴァロン王国のアーカディア邸で食事を済ませた僕は、アイリと一緒にミリアン獣王国の王都を二日連続で訪れている。
「昨日、すっかり忘れていたんだけどね。折角だから、皆のドレスみたいなのを仕立てようと思ってるんだ」
さっき、リインとクリスは彼女達の地元で済ませてあるから、午後はアイリの分だ。
「よ、よろしいのですか……?」
「よろしいのです」
アリスの分は、明日イングヴァルト王国に行く際にやるつもりだ。キリエの分はどうしようかな、もう僕が作るか? メグミの分も考えないとな。
おっと……今はアイリとの時間だ、彼女の事を考えないとな。
「……アイリ、手を」
「……はい」
ウサ耳、ピコピコ動いているよ。可愛いなぁ、もう。
アイリと手を繋いで、いつもの服飾店へ。そこで、ミリアン獣王国の流行だというドレスを仕立てて貰うように依頼する。
「いつもありがとうございます、アヴァロン王陛下。腕によりをかけ、承りましょう!」
いつも世話になっているなぁ。今度来る時は、何かお土産でも用意しようかな?
……
そんな中、外が何だか騒がしい事に気付く。
「な、何でしょうか……」
マップを見てみた所……見覚えのある反応が表示されている。
「影人か。アイリ!」
「はい、ユート様!」
僕達は店舗の外へ飛び出し、武器を宝物庫から取り出す。
「居た、あそこだ!」
「はいっ! 参ります!」
僕とアイリが駆け出す。僕はブーツの刻印付与を活用し、アイリは持ち前のスピードだ。
一気に影人と距離を詰めた僕達は、手にした武器に魔力を流し込んで”解呪”を発動しつつ切り付ける。安心したまえ、峰打ちじゃ。
「よし、処理完了だな」
「はい、衛兵に引き渡しましょう」
すると、僕達を見ていた獣人達が騒ぎ出した。
「あの人達、まさか……!」
「間違いない、王都防衛の英雄様じゃないか!」
「では、あの方は……まさか、噂のアヴァロン王陛下か!?」
「うおぉぉぉ! アヴァロン王陛下!!」
やべっ、騒ぎになっちまった!
歓声が沸き立つ中、ようやく駆け付けた衛兵達。
「も、もしやアヴァロン国王陛下でございましょうか!?」
「え、えぇ……まぁ……勝手にやってしまって申し訳ない」
「何をおっしゃいますか、陛下!」
「そうです! 我らが国の民の為、剣を振るって頂きありがとうございます!」
「お目にかかれて光栄です!」
う、うわぁ……持ち上げ過ぎだから。
「ごめん、アイリ。面倒事になって……」
「いえ、そういう所もお慕いしている部分ですから」
不意打ち気味に、そんな事を頬を染めて言われたら……ぐぅ、照れるじゃないか。僕達が解放されたのは、一時間ほど後だった。
……
夕方になった所で、アヴァロン王国に戻る。最初に戻ったのは、南の転移門だ。
「ユート様、何故こちらに?」
「うん、これの効果を確認しようと思ってね」
取り出したのは、外壁建設用に調整した魔導銃だ。
転移門の横に銃口を向け、引き金を引く。ズズズ……ッと地面が盛り上がり、転移門と同じくらいの高さに石の壁が出来上がった。幅は十メートル程、厚さは一メートル程だ。
「はぁ。一瞬で、壁が……流石はユート様です」
「アイリ、こっちこっち。どうだろ、断面はこんな感じなんだ」
断面をアイリに見て貰う。
「綺麗な断面です。これなら新しく壁を作っても、ピッタリいきますね」
でしょ? 上手くいってよかったよ。
「アイリも撃ってみてくれる?」
魔導銃を手渡すと、アイリは頷いて銃口を地面に向けた。引き金を引くと、アイリが驚いた表情をする。
「意外と魔力を消費しないんですね?」
「いや、消費量は今までと変わらないよ。アイリも称号に”アヴリウス大迷宮踏破者”が追加されて、ステータスに+50が入っているから消費量が少ないと感じたんだよ」
アイリにはその辺りの話をしていなかったっけ?
「そうでしたか、そんな恩恵があったのですね……」
「その内、他の大迷宮にも行く事になる。まだまだ強くなれそうだね」
「はいっ!」
何より、治癒の概念魔法は僕達に必須だ。必ず見つけ出してみせる。
「さて、それじゃあ試射も出来たから、戻ろうか」
魔力駆動二輪を宝物庫から出すと、アイリがピタッとくっついて来る。
「その、ご迷惑でなければ……後に乗せて頂いてもよろしいでしょうか……」
アイリからの可愛いおねだりに、僕は口元が緩んでしまった。
「もちろん良いとも。ほら、おいで」
魔力駆動二輪に跨り、アイリを促す。ぎゅっと腰に回された手、背中にピッタリくっ付くアイリから伝わる体温。
こういうツーリングも悪くないな。転移魔法で帰ろうとか言わなくてよかった。
……
今日の夕食は、僕も作ってみたいものがあったので調理場に立つ。
「……普通、王様が食事を作る事とか無いんですが……」
「新米王様は冒険者でもあるんだ、料理くらいするよ?」
僕の返答に、苦笑いするレイラさんはもう何も言わずに手伝ってくれるようだ。
「それで、何を作られるのですか?」
「用意した食材は、この豚肉と卵、そして黒パンだよ。メアリーとエミルは黒パンを細かく千切ってくれるかな?」
「はいです〜!」
「おまかせ下さい!」
良い返事だ、頼もしいね。
「ジョリーンは、この豚肉を……これくらいのサイズに切り分けて欲しいんだ」
「任せてくれ、ユート殿」
ジョリーンは何気に料理上手だからな。きっとマルクの為に覚えたに違いない。
「レイラさんは、お米を炊いて貰えるかな?」
「はい、普段お召し上がりの柔らかさでよろしいのですよね?」
「そうそう。僕はこれを切っておくからね」
さきほど、ミリアンで見つけた野菜……玉葱である。
今日作るのは、カツ丼だ。黒パンを千切ったものをパン粉として使うつもりである。
皆と一緒にワイワイと料理を進める。
卵に潜らせた豚肉に、黒パンで作ったパン粉をまぶして熱した油で揚げていく。それを丁度いいサイズに切り、フライパンで調味料と炒めた玉葱を加え、溶き卵でとじる。
「よし、カツ丼の完成だ!」
「おぉ〜!」
「いい匂いですっ!」
「これは初めて見る料理ですね」
「うむ、食べるのが楽しみだ!」
ボリュームもあるし、美味しいんだよね。
「さぁ、今の手順で人数分作っていくぞ!」
「「「「はいっ!」」」」
食卓に並ぶ丼と、一緒に作った和風スープ。皆の視線が並べられた食事に集中している。
「それじゃあ食べよう、いただきます」
僕の食事の挨拶に合わせて、皆も続き食事が始まる。カツ丼もスープも好評だった。
うん、また何か作ってあげようかな。
……
入浴を済ませた僕は、部屋でアリスを待つ。えぇいソワソワするな、僕っ!! やがて扉がノックされる。
「ユート君、お邪魔します……」
「うん、どうぞ……」
入って来たアリスの服装は、所謂ネグリジェというやつだった。凄まじい存在感を放つお胸様が強調されている……。
うん、清楚なアリスには、白が似合うね。
「えっと……キリエさんから聞いてますよね?」
顔を真っ赤にしながら、僕の隣に座る。
「うん、聞いているよ。アリス……良いんだね?」
その肩を抱き寄せて、僕はアリスに意思確認をする。
「はい、覚悟は済ませて来ました……私をユート君のものにして下さい……」
そんな事を言われたら、優しくしようと思っていたのに、野獣になってしまうじゃないか。よし、優しい野獣でいこう。
アリスの唇を唇で塞ぎ、そのサラサラの髪を撫でる。最初は強張っていたアリスの肩から力が抜けていくのが解る。
キスを中断し、アリスの頬を撫でる。
「それならアリス、これから君を”俺”のものにする……出来るだけ優しくするから」
「うぅ……はぃ……」
顔を真っ赤にしつつ微笑むアリス……我慢の限界でした。
その日、僕とアリスは夜明け前まで起きていた。イングヴァルトの訪問……日程ずらせば良かったと気付いたのは、お互いに疲れ切って眠りに落ちる寸前だった。
 




