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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第7章 アヴァロン王国
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07-03 建国/晩餐会にて

これまでのあらすじ:建国…する事になっちゃいました。

「はぁ……」

 溜息は、尽きない。四カ国が後見……つまり後ろ盾となって、このアーカディア島に新国家を樹立する事が決定した。国王は、僕らしい。

「はぁ……建国って何をすりゃ良いんだ……」

 僕達は今、露天風呂に皆で浸かっている。見た事、聞いた事、やった事が無い事をやれと言われても……。


「第一、国って言ったって国民も居ないのになぁ……」

 僕のぼやきに、すぐ側に居たクラウスとジルが反応する。

「俺達一家はミリアン獣王国から、ご主人の国に移民するつもりですけど?」

「僕達とエミル、それにメアリーも一緒です」

 マジか。

「いずれは俺もそうするつもりだな。こっちに国民が増えたら、仕事には困らなそうだからな」

 マルクは鍛冶で生計を立てる必要が有るもんね。今日の運転手役は、アルバイトです。

 国民、当面は六人です。


「それで? 国の名前は決まったのか?」

 そんな事を言うアルファだが、決まっているはずが無い。

「今日いきなりあんな提案されて、“はいそうですか”なんて行くか!」

 全然思いつかねぇよ。


 アーカディアじゃダメなの? と言ったのだが、アーカディア島は王都の扱いになる。その為、地名がアーカディアになるので、別の名前が要るというのだ。

 だから僕が国名を決めたら、ユート・アーカディア・○○○○って感じになるらしい。


「だからユートピアはどうですかとあれほど~!!」

 竹っぽい植物で作った覗き防止の刻印付与が施された塀の向こうから、姉さんがそんな事を大声で言ってくる。

「絶対嫌だって言ってるだろ~!!」

 ユートピアは死んでも嫌です。

 アーカディアが、理想郷アルカディアから来ているんだよなぁ……それっぽい名前が良いのかなぁ……。


 ……


 国名の事はとりあえず後回しにしておこう。

 お客様の歓待はそれぞれ仲間達にお願いしてある。

 イングヴァルトにはアリスとジル。ミリアンにはアイリ・クラウス。ヴォルフィードにはリイン・マルク。オーヴァンにはクリス・エルザに付いて貰っている。


 今日はこの後晩餐会の予定になっている。

 既に色々と下拵えはしてあるようなので、今はレイラさんが陣頭指揮を執って調理に右往左往している頃だろう。

 ちなみに、クレアちゃんはリリルルが遊んでくれている。明日はクラウスとレイラさん……いや、皆に一日休みを取って貰い、ゆっくり羽を伸ばしてもらおう。

 尚、勇者勢は本館の客間に部屋を用意した。マサヨシが余計な事をしないかが気掛かりである。


 そして、僕が今やっているのは“やる事リスト”の作成である。

「えーと、一応王城みたいなのは必要なんだよね? んで、国名は後にするとして……一応、区画をしっかり決めた上で住居を……農村とかも拓けるだろうし、城壁、あぁぁぁぁっ!! 頭がこんがらがるわ!!」

「結構キてますねぇ……お手伝いしますね、ユーちゃん」

 頼りになるのはいつもの事だが、誰のせいだと思っているのか!!


 あの後、アルファ達殿下勢とアーカディア勢の間で、僕に建国をさせるという会議が開かれていた事を知らされた。

 してやられたりぃっ!! 全員グルだったんかい!!

 まぁ、了承してしまった事は仕方が無いので、僕もやるからには真面目にやりますけどね!!


「とりあえず、喫緊で対応したいのは国名と王城の建設ですね。王城は同盟国に向けて、国として依頼をするのでどうでしょう?」

「……あー、そうか。イチから自分でやる必要ないのか」

「ええ、むしろそういう外注依頼も、国交の一つですよ」

 流石は天使、頼りになるな。


「町の区画は要相談になるでしょうが、前提としてはあまり奇抜な作りにはしない方が良いでしょうね。管理が大変です」

「それは確かに。あれだ、京都の通りみたいに整然としていた方が良いよね」

 この世界に京都の話題が話せるのは、姉さん以外には勇者くらいだろうが、メグミ以外の勇者にその辺の話を振れないしな。


 そういや、勇者は何やってるんだろ。ちょっと休憩がてら、マップで様子を見てみると……マサヨシは何か屋敷内をうろついている。

 何やってんのか気になるが、徒労に終わるだろう。だって、ヤツが行けるのは二階までだからね。

 三階への階段は、二階に上がる階段と同じ場所にある。ただし、限定的な認識阻害を付与しているのだ。

 三階には僕らの部屋があるからね。神竜の卵は僕の部屋……すぐ目の前に鎮座しているし。


 ユウキとマナは、庭園を見て回っているようだ。

 気に入ってくれたのだろうか? だとしたら、頑張って庭園を造った甲斐があるというものだ。


 メグミは部屋にいるみたいだな……客室じゃない方に。

 とりあえず、勇者達は思い思いに過ごしているようだ。


 ……


 さて、休憩は終わりにしてもうちょい頑張ろうかな。

「国交の為にも、大陸側の転移門は移設すべきかな」

「……あー、確かにそうかもしれませんね。でも、大丈夫でしょうか?」

「遺跡にあるワイズマン製の転移門は、同盟国の希望の位置に設置するべきじゃない? 最初は転移門を開くには僕達の誰かが開くようにするとしてさ。国の兵士とかが増えて来たら、門番を交代制で常駐させれば良いよ」

 流通ルートの確保は重要だからね、利便性を求めよう。アーカディア島のある程度の範囲に、各国にあるような壁を作り、そこに転移門を繋げれば良いんじゃないかな。


「成程。ユーちゃん、やる気ですね。最初は渋っていたのに」

「誰のせいだよ、誰の。やると決めたからには、しっかりやるよ。四カ国の同盟国として、半端は出来ないからね」

 やるからには全力全開である。


 ……


 晩餐会の前に、僕達の控室として用意した部屋にアーカディア勢が集まる。

「国名が決まらない!」

 結構悩んでいるんだけど、中々いい案が浮かばないのだ。

「ユートピ——」

「却下!!」

「——……むぅ」

 姉さんはユートピアに何でそんなに拘るのか。管理社会なんて嫌だよ、僕は……面倒臭いし。


 そんな中、挙手する手が。

「ユウキ?」

 そう、控室には勇者達も一緒に居る。

 マサヨシが不機嫌そうに目を閉じて座っているので、空気はあまりよろしくない。そんなマサヨシも、ユウキが意見を言おうとしている事に気付き、目を開いた。


「えっと……アヴァロンっていうのはどうですか? 先程、アーカディアがアルカディアを捩ったって聞いたんで……同じ“理想郷”を指す名前ですし」

 アヴァロン……アヴァロン王国、か。

「そうなると、僕はユート・アーカディア・アヴァロン、になるのかな……あれ、良いんじゃね? アヴァロン良くない?」

「いいですね、アヴァロン。いいじゃないですか、アヴァロン!」

 皆もアヴァロンの名を口にしていく。しっくり来たのか、皆ウンウンと頷いている。


「……アヴァロン王国、か。うん、ありがとうユウキ! 良い提案をしてくれて助かったよ!」

「あ……はい、役に立てたなら良かったです」

 そう言って、ユウキは笑顔を見せた。うんうん、ユウキはいいヤツだなぁ。

 そこで、こっちを睨んで来る置物マサヨシと違って。


 国の名前を命名した勇者ユウキの事は、アヴァロン王国の歴史にしっかり刻んでおこう。


 ……


 各国の会談参加者がパーティーホールに集まり、晩餐会の用意が整っていく。今夜の晩餐は、立食形式のビュッフェスタイルにしている。

「ほぉ、各々好きな物を皿に取って食べるのか」

「これまでにない形式だ、これはどこの国の文化なんだ、ユート殿?」

 ……あっ、こっちにはビュッフェスタイルってないのか!


『メグミ、名前借りて良い?』

『あっ、はい! 大丈夫です、先輩!』

 困った時は、可愛い後輩に頼らせて貰う。情けない先輩でごめんね!!

「これは勇者メグミ・ヤグチから教わったビュッフェスタイルという形式で、勇者の世界におけるパーティー等で多用される形式だそうです」

「ほぉ、勇者の世界の!」

「成程、興味深いな」

 各国のトップ達が、勇者の世界の話題で盛り上がる。


『ありがとうメグミ、助かったよ』

『お役に立てたようで、嬉しいですよ先輩』

 メグミに視線を向けながら念話を送ると、メグミは嬉しそうに微笑んでくれた。なんて素晴らしい後輩。僕の後輩、凄く可愛いです。

 で、マサヨシは何でことあるごとに僕を睨むのか。


 さて、それでは晩餐会を始める為に、ホスト役として挨拶をしなければならない。僕は各国家や仲間達が並ぶ場所から抜け出し、皆の顔が見える場所で振り返る。

「それでは、パーティーを始めるご挨拶をさせて頂きたいと思います」

 僕の宣言に、それまで話に花を咲かせていた皆も静まり返る。

「まずは四カ国……いや、五カ国になるのか。五カ国会談? 同盟? ……あぁもう面倒だ、世界同盟でいいや! 世界同盟が無事に開けた事、喜ばしく思います!」

 各国家の者は、皆口元を緩めて頷いた。

「これから手を取り合い、和平の輪を広げるべく共に歩んで参りましょう。僕も皆さんと肩を並べる事になった以上は、微力を尽くしたいと思います」

 僕の宣言に、アンドレイ叔父さんが拍手を贈ってくれる。その拍手が伝播していき、皆からの拍手を賜った。


「それでユート殿、国名は決まったのか?」

 獣王陛下の質問に、僕は視線をユウキに向ける。ユウキは口元を綻ばせ、頷いた。

「はい。国名について検討していた所、勇者ユウキ・サクライ殿が素晴らしい名を提案して下さいました。僕が建国する国の名前は……アヴァロン王国です」

 僕の宣言に、各国家の人達が頷く。

「勇者の名付けた国か……素晴らしいではないか」

 そう言いながら拍手を贈るアマダム。それが引き金となり、先程よりも大きな拍手が会場に鳴り響いた。


 ——僕の名前は、ユート・アーカディア・アヴァロン。

 僕が建国する国・アヴァロン王国の歴史が、今日ここから始まる。


 拍手が落ち着いた所を見計らって、僕は会場の中に居る人達に呼びかける。

「それでは、皆様グラスをお持ち下さい」

 僕の呼び掛けに、皆はテーブルに用意されているグラスを手に取っていく。

「目出度い席だ、お主達も共にグラスを取れ」

 獣王陛下の呼びかけで、給仕役として脇に控えていたアーカディア勢にもグラスが手渡されていく。全員にグラスが行き渡るのを待って、僕は皆に向かって音頭の言葉を口にした。

「それでは、ここに集った五つの国の繁栄と、末永く続く友好関係を祈念して……乾杯!!」

 一拍遅れて皆の乾杯の掛け声と共に、グラスが掲げられた。


 ……


 晩餐会は、最初は粛々とした雰囲気で行われていたのだが、徐々に賑やかになっていく。

「リアンナ殿下は、アルファルド殿下に嫁ぐのか! それは目出度い、祝福の言葉を贈らせて貰おう!」

 大声で祝福の声を上げる獣王陛下に、周囲の視線が集まる。

「ありがとうございます、獣王陛下」

「光栄に御座いますわ、陛下」

 隣り合ってそんな言葉を口にする二人に、獣王陛下は上機嫌に頷きグラスを差し出す。二人もそれに倣ってグラスを差し出し、チンッという音がした。

 更に周囲に居た人も、口々に祝福の言葉を述べていく。


 一方では、マックがアンドレイ叔父さんやアマダムと話をしている。マックの隣には、護衛の為かミランダさんが立っている。

「では、マックール殿下はまだ御独りか。我が国の貴族の娘等を娶ってみてはどうか?」

「ははは、それは興味深い申し出ですね。これは一度、王国にお邪魔してみたいものです」

 皇帝陛下やヴォークリンデ公爵に、早く身を固めろって煽られていたもんね、マック。

「それならば、一度舞踏会でも開かぬかイングヴァルト王。余もそろそろ、世継ぎを遺さねばならぬ歳になる」

「……魔王陛下、おいくつなんですか……」

 苦笑するミランダさん。そいつ、五百歳超えてますよ。


「ほう、ブリック殿下には許婚がおられるのですな」

「うむ、俺には勿体無い器量良しでな」

「恥ずかしながら、我が娘で御座いまして」

「殿下、ちゃんとマチルダ殿に頭が上がらないと言いませんと! ガハハハッ!」

「ちょっ……おま……っ!!」

 うそっ、ブリックって許婚が居たの!? お前、そういう事は早く言えよ!!

 それにしても、ブリックを尻に敷く女性……相当強いんだろうな、その許婚。


「ゲイル南方伯はお子様が二人いらっしゃるのですか」

「えぇ、娘が二人でしてね。本当は世継ぎに息子が欲しいのですが……」

「世継ぎ問題は、どの国も変わりませんなぁ」

 和やかに話しているのは、アレックス叔父さんとアングルスだ。

 アングルスには、ゲイル伯爵領で放置されたから敬語はもう使ってやらねぇ。普通にタメ語で話しかけても、平然と返して来たから堪えてないんだろうけどね。


 しかし、さっきから何だか話題が偏っている気がする。どうにも結婚やら、婚約やら、世継ぎの話ばかりじゃないか? 


「してユート殿……いえ、ここはもうアヴァロン国王陛下とお呼びするべきですな」

 確かこの人は、獣王国宰相のデリド氏だったか。

「新米国王ですし、まだ城も持たない身ですからね。呼び易いように呼んで頂いて構いませんよ」

「左様でございますか、では僭越ながらユート殿と」

 うーん、敬われるのには相変わらず慣れない……。


「ユート殿は美しい奥方に囲まれて、羨ましい限りですなぁ」

 ……ん? 


「奥方?」

「ええ。そちらのアーカディア女男爵に、各国の公爵令嬢や魔王国の王妹、我が獣王国の英雄の一人でしょう? 五人も居ると、大変では御座いませんか?」

 ……すげぇ勘違いをされているな。そもそも、一夫多妻はエルフ族とかの話でしょ。

「いえ、彼女達は僕のパーティメンバーで……」

「む、そうで御座いましたか……いえ、大変失礼を致しました」

 そう言って頭を下げる宰相閣下。


 しかし、そこへ乱入してくる人達が居た。

「ユート君、それならこれを機にアリスと婚約したらどうかね? 国王として、世継ぎは重要だぞ」

「アレックス叔父さん、何言っちゃってんの!? 酔ってんの!?」

 そういや、昔っからそんな事言ってたけど!!

「ほほう、それならばリイナレインも一緒に娶って貰うか。我が娘ながら、器量は良いと思うぞ、ユート殿」

「ヴォークリンデ公爵まで乗っかって来ちゃうの!?」

 この人が言うと、マジに聞こえるんだよ!!

「ユート、クリスを忘れて貰っては困るな。余はお前に任せると言って、あの時了承したではないか」

「それ、パーティメンバーとしての話じゃなかったっけ!?」

 アマダムまでグイグイ来るな!!

「それならばアイリ……でしたか。彼女も陛下の権限で奴隷から解放し、娶られればよろしいでしょう。嫁ぐ前に養子として我が伯爵家に迎えれば家格も問題にはなりませんぞ」

「えっ!? えっ!? 何この展開!!」

 何が起こってるの!? 僕は何に巻き込まれようとしているんだ!?


「待たれよ、各々方。ユートはもうアヴァロン王国の国王。ならば各国から婚約者を、となれば序列によって問題となり兼ねない」

 ……つまり、どの国の出身の子が第一王妃になるか、という問題が出て来るわけだ。

 そういう所、一々気にしないといけない立場なのか、もう……国王って本当に面倒だなぁ。


「だから、第一王妃の席には、何処の国にも属していない点を考慮し、キリエに座って貰うべきではなかろうか」

「本気で何言っちゃってんのお前!?」

 だって姉さんは僕の姉で……!!

「あ、そうしたらお父様とお母様に一度断りを入れて、養子ではなくして貰わないといけませんね」

 んんんんっ!?

「どちらにせよ、すぐに結婚して義理の娘になるのだから、レオナルド様やアリア様との関係性は大して変わらぬだろうからな。それが良いと思うぞ」

「ちょっと何言っているのか解んないです」

 割と、マジで。


「ふふっ、本当にずっと側にいられますね♪」

 めちゃくちゃいい笑顔で言う姉さん……あっ、これ本気の顔だ。

「ユート君、私はそれで構いませんよ。二番目でも三番目でも、ユート君の側に居られればそれで」

 はにかみながら、そんな事を言うアリスが可愛い。

「ユート様、生涯付いて行くと誓った身、もし受け入れて頂けるのであれば……お嫁さんにして下さいますか」

 ウサ耳をぴょこぴょこさせて、アイリもそんな言葉を……相変わらずウサ耳可愛いな。

「私は最初からその覚悟で、ユートさんに付いていく事を決めていましたので、不束者ですがよろしくお願い致します」

 モジモジしつつ、そう言ってくるリインの目は潤んでいる……くっ、相変わらず美人だな!

「……ユート、好き。お嫁さんにして……」

 めっちゃ短いながらも、クリスらしい告白……抑揚の無い声と真っ赤に染まった顔のギャップが、破壊力高い。


「で、でもさ……エルフの国でもあるまいし、一夫多妻制はまずいんじゃないのかな……?」

 ……空気が、凍った。


「……ユート君、イングヴァルト王国でも一夫多妻が認められているぞ?」

「……は?」

「獣王国も同じだな、余も第二王妃が病で他界するまでは二人娶っていた」

「……えっ」

「うむ、というか殆どの国が一夫多妻を認めている」

「……そ、そうなの?」

「と言うかユート? お前はもう国王なのだから、自国の婚姻制度くらいどうとでも出来るだろうが」

「……あ」

 言われてみれば、そりゃそうだ。


「ってか、そもそも……一夫一妻制が普通だと思っていたんだけど!! うそっ、一夫多妻が常識だったの!?」

「「「「うむ」」」」

 国家元首達が並んで頷いた! マ、マジか!!


「よく考えてみろ、ユート。王や貴族は世継ぎを残さねばならないだろうが。妻が一人だった場合、娘しか生まれない可能性だってあるんだぞ。イングヴァルトの貴族なんか、十人くらいの妻がいる家だってあるんだからな」

 十人とか、やべぇな。


「なので、ユーちゃんと私達が結婚する事に問題は無いわけです!」

「はい、そうなんですユート君!」

「ユート様、お返事を聞かせて下さい!」

「私達を娶って下さいますか、ユートさん!」

「……ユート」

『ちなみに先輩、私もやる事を済ませたら先輩のお嫁さんになりに戻って来ますからね』

 念話で、メグミまで来た!? ろ、六人……の、お嫁さん?

 ど、どうすりゃいいんだ、コレ……。


 そして、気付いた。

 彼女達の瞳に浮かぶのは、真剣な好意だった。そう、彼女達の想いは前々から、薄々感じていたはずだ。

 ……じゃあ、自分はどう思っているんだ?

 彼女達を、大切にしたいと思っている。幸せになって欲しい……そして出来るなら、自分が幸せにしたいと思っている。側に居たいと、側に居て欲しいと思っている。


 自分の心に向き合ってみれば、答えは出ているじゃないか。

 僕は彼女達が好きだ。そう心が叫んでいる。

 これ以上、自分の気持ちに目を背けて誤魔化すのは……真剣に想ってくれている彼女達に対して、失礼じゃないか。

 まだ複数の女性を嫁にする事に、抵抗を感じるのは否めない。けれど、それは僕自身の問題なんだよな。もう誤魔化したり、逃げたりしてはいけない。そんな気がする。


「……改めて、これからも末永くよろしく頼むよ。国の方が何とかなるまでは……婚約者って事で良いよね?」

 六人の少女に向けて、僕は嘘偽りの無い本音を伝えた。

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