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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第6章 オーヴァン魔王国
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06-16 幕間/ユート、買い物をする

 四つの大陸の間に存在する、空に浮かぶ不思議な島。

 神竜からある少年に譲渡されたその島は、アーカディア島と名付けられた。

 島の主の名はユート・アーカディア。銀級の冒険者として世界を旅する少年である。

 イングヴァルト王国とヴォルフィード皇国から、名誉男爵の爵位を叙爵された十五歳の少年。

 更に言えば、その二カ国に加えミリアン獣王国、オーヴァン魔王国から最上級の勲章を叙勲された少年。

 そして、勇者と聖女を両親に持ち、姉兼守護天使は最高神である創世神の遣いたる天使。

 パーティメンバーは公爵令嬢二人に魔王国の姫、そして一人のウサ耳奴隷少女。

 説明だけで、とんでもない少年なのだが……。


「……ねみぃ」

 徹夜明けである。


 というのも、先日オーヴァン魔王国での話し合いで決定した件。

 四カ国の和平協定を結ぶ為の会談場所として、アーカディア島を提供するという話が可決された。その為、ユートは会談場所としての体裁を整えようと、動き始めていたのである。

「はぁ……流石に皆に恥をかかせるわけにはいかないからなぁ……」

 目の前にある、羊皮紙に目を落とす。そこには”やる事リスト”という題名、その下には各国の王達を迎える為に必要な準備が書き出されていた。


 ユートという少年は、周囲からは大雑把かつ大胆な性格に誤解をされる。だが、何気に几帳面な性格であった。

 某後輩ならこう証言するだろう。

「アルバイト先では真面目で丁寧な仕事をしていたので、皆から頼りにされていましたね。正社員すら頼りにしていて、よく仕事を任せていましたから。あだ名が”アルバイト部長”でしたよ」

 どうやら、正社員並みに働いていたらしい。

 さて、そんなユート・アーカディア卿はその紙を手に、食堂へと向かう。今の時間ならば、皆そこに居るであろうからだ。


 ……


 早朝の食堂、そこに集っているのはユートの仲間達。

 姉・キリエに、ハトコのアリシア、名目上はユートの奴隷であるアイリ。

 リイナレイン、新加入したクリスティーナという五人の少女で構成されたメインパーティメンバー。

 続いて、クラウス・レイラ夫妻とその娘クレア、ジル・エミル兄妹に、メアリーという獣人族の使用人メンバー。

 鍛冶職人マルクとその妹にして銅級冒険者エルザ、マルクの恋人ジョリーンと、その仲間リリルル……ドワーフ族の食客メンバー。

 以上が、アーカディア邸に住んでいるメンバーだ。


 更に、今朝は加えてアルファルド・エミリオ・シャルロッテのイングヴァルト組や、ブリックにマックール、リアンナもいる。

 そして、勇者達の目を盗んでアーカディア島に転移しているメグミも居た。

 つまり、アーカディア関係者勢揃いである。


 朝の挨拶を済ませると、ユートが一枚の紙を机の上に置いた。

「四カ国会談の準備で必要と思われる物を書き出したんだ。添削を頼めないかなぁ」

 ユートがそんな事をしていると知らなかった一部を除くメンバー全員が、驚きの表情を見せた。几帳面な所を知っているキリエとメグミだけが、納得の表情をしているが。


「お前、そんな事をしていたのか……まさか徹夜か?」

「よくやるねぇ、ユート。ほぉ、良く出来ているなぁ」

「俺はよくわかんねぇけど、意外とユートが几帳面って事は解った」

「おい、ちゃんとしろよダメ王子」

「誰がダメ王子だ!」

 添削を依頼して、少しばかりの追記と削除を確認したユートは、転移魔法を施した門弾ゲートバレットを駆使して行動を開始した。


************************************************************


 イングヴァルト王国の冒険者ギルド王都支部を訪れたユートは、顔見知りの受付嬢に声をかける。

「ユートさん! お久し振りです!」

 看板受付嬢ソフィア、ユートのファン第一号を自称する女性である。


「どうも、ソフィアさん。今日は、依頼をしたくて来たんですよ……一応、指名依頼で」

「ユ、ユートさんが……依頼ですか?」

 普通なら自分でどうとでもしてしまうユートが、態々依頼をしに来た事自体に驚くソフィアだったが、依頼書を見て目を剥いた。

「銀級冒険者テリーさんのパーティへの指名依頼!? それも、内容が……国家会談の警護依頼!?」

 更に言えば、そこにはアルファルドを始めとする殿下勢のサイン入りである。あまりにもスケールの大きい依頼書の内容に、ソフィアは呆然としてしまう。


「ほ、本気……ですよね?」

「本気と書いてマジですね」

「相変わらず、とんでもないですね……解りました、責任を持ってこの依頼書の処理を引き受けます!」

 グッとガッツポーズを取るソフィアに、ユートは笑顔で首肯する。

「お願いします、ソフィアさん。経緯については、後日また飲み会でも開いた時にお話ししますね」

「超楽しみにしています!」


************************************************************


 続いてやって来たのはミリアン獣王国の王都レオングル。向かうのは、とある服飾店だ。

「おぉ、ユート様ではございませんか! 大変ご無沙汰しております!」

「お久し振りです、ブランさん。売れ行きはどうですか?」

「ハハハ、ユート様のデザインした服が大人気でして、好調も好調にございますよ」

 ユートは前世の知識を生かし、様々な服のデザインをブランと言う名の服飾店の店主に提供している。ブランはそれを形にし、販売しているのだが……これが、大当たりなのだ。


「それで、本日はどのような御用向きでしょう?」

「えぇと、まずいつものを。サイズはこちらに書いてます。それと、こんな感じの服をお願いしたいのです。それと、出来ればこういうのも……」

「ほほう、これはまた! かしこまりました、すぐにでも取り掛かりましょう!」

 ユートの手渡したラフ画を見たブランが、二つ返事で引き受ける。

 いつもの光景なので、店員達も「あぁ、またか」と苦笑気味だが、完成した服の試着等もさせて貰えるので楽しみは楽しみであった。


「それで、期日なのですが……四日って厳しいですよね?」

「いえ、やれますとも! むしろやらせて下さい!」

 ユートの依頼は、最優先。これはミリアン獣王国の王都では、暗黙の了解となっていた。

 今回ばかりは、ユートも無理を承知で頼み込む。店主ブランは、それを快く了承するのだった。


************************************************************


 続けて、そのままユートは王都のある店を訪ねる。そこは、自分達で家を建てるし、中古の家も取り扱う不動産屋である。そう、現在お空の上にあるアーカディア邸を建てた、あの不動産屋だ。

「ごめんください、店主殿はいらっしゃいますか?」

「あ、はい。少々お待ちを」

 奥に引っ込んでいった受付の男性は、ユートの顔を知らなかったらしい。


 そして、呼ばれた店主が顔を見せると……。

「これはユート様! ご無沙汰致しております!」

「ご無沙汰しています、ダルトンさん。今日は少し、お願いが御座いまして……」

「えぇ、えぇ、ユート様からのご依頼ならば、何なりと!」

 店主の対応に目を丸くした受付が、同僚からユートの正体を聞いて顔色が真っ青になった。

 ユートからの依頼は、会談で使用する為の什器制作。机や椅子などの注文だった。


「王都の家具屋も良いんですが、こちらで用意して頂いた家具がとても使い心地が良かったので、こちらにお願いしようかと思いましてね」

「光栄でございます。是非やらせて頂きましょう!」

 快く了承してくれた店主ダルトンに前金で支払い、ユートは次の場所へ向かう事にした。


************************************************************


 続いて向かったのは、ヴォルフィード皇国の王都リーヴォケイン。以前訪れた際、気になっていた店へと入る。

「いらっしゃいませ、何かお探しで?」

「えぇ、少し相談に乗って頂けますか? 実は……」

 ユートの相談内容に、店員は目を丸くした。

「な、長い絨毯ですか? それも……四枚も?」

「えぇ、実はさるお方が、国賓をお迎えするとの話でしてね。その為の準備をしているのですが、こちらの絨毯がとても質も良く品があると、友人が申しておりまして……」

 その友人が、まさか自国の公爵令嬢とは思うまい。


「さ、左様でございますか……しょ、少々お待ち頂いてよろしいでしょうか? 店主に確認して参りますので……」

 そう言って下がっていった受付嬢。

 話を聞いた店主は冷やかしじゃないのかと思いもしたが、もし本当ならば大事なので、前金でなければ受注は出来ないと伝えて突っぱねようと顔を見せ……表情を凍らせた。

 彼は、リーヴォケインの森が燃えた際に、消火活動に参加していたのだ。確かにあの時、店主は彼から魔導銃を受け取った。


「まっ、まさか、アーカディア卿では!?」

「あ、はい。ユート・アーカディアです」

「な、何たる光栄! まさか、この国の恩人が当店をご利用下さるとは! 絨毯で御座いましたね! 是非、私共にお任せ下さい!」

 店主の掌返しもそうだが、アーカディア卿と聞いて受付嬢は顔を青くした。まさか、噂のアーカディア卿がやって来たとは思ってもみなかったのだ。

「受付の方、店主殿へのお取次ぎ、ありがとうございました」

 にっこり微笑んで言うユートに、店主も受付嬢を褒め出す。受付嬢は安堵の溜息を盛大に吐いた。


************************************************************


 さて、ユートが次に向かったのはオーヴァン魔王国。南側の海岸付近にある街だ。

 海沿いの為、新鮮な魚介類が手に入ると思って来たのだが……視線が集まっている。

 買い物客、店の者、通り掛かった者、兵士達。その視線に篭められた感情に名前を付けるならば、”警戒”だろう。

「おじさん、この魚なんて名前?」

「……し、深海鮭だ」

「へー、おすすめの調理法ってある?」

 視線を意に介さず、ユートは買い物に勤しむ。ちょっとやそっとの視線で萎縮するような、ヤワな旅はしていないのだ。


「ここらだな、人間族を見かけたというのは! むっ、そこの人間族! この地に何用……で……」

「おや、アングルス殿」

 アングルス・ド・ゲイル伯爵。魔王アマダムの信頼厚い部下であり、このゲイル伯爵領を治める大貴族。


 街の人々は、あの人間は捕まって尋問されるな……と思ったのだが。

「アーカディア卿でしたか! 先日の王都での件、陛下より伺っておりますぞ!」

 めっちゃフレンドリーに話しかけた。

「「「んんんっ!?」」」

 街の人達は、何が起こったのか解らなかった。


 流石に王都での件や、それを成したのが人間族の冒険者である事は知っているが、その冒険者は屈強な大男とか、全身鎧の剣士とか、根も葉もない噂が立っていた。

 その為、まさかこの十五歳の少年が魔王国の王都を守護した英雄等とは思わなかったのだ。


「それより、クリスティーナ姫は御一緒では? 姫を娶られたと聞きましたが」

「娶ってねーし! まだ娶ってなんかいねーし! パーティメンバーに迎えただけだ!」

 ユートの敬語がログアウトしました。

「まだ……成程、これからという訳ですな」

「……疲れるから、その手の誤解はやめてくれない?」

 姫? クリスティーナ姫? 魔王陛下の妹君の、あの? 先代魔王の呪いから解放されたという報せがあった、あの!?

 まちのひとは、こんらんしている! 


 すると、我らが伯爵閣下が街の人々に向けて声高に宣言する。

「我が愛すべき伯爵領の民よ、聞け! この方は魔王陛下の客人、ユート・アーカディア名誉男爵! 先の王都グランディア防衛で武功を挙げた銀級の冒険者だ! クリスティーナ姫を先代の呪縛から解き放ったのも彼である! 各々、失礼の無い様に心掛けよ!」

 街の人々の視線がユートに集中している!! さっきの視線が”警戒”なら、今の視線は”敬意”!!

 そして、街の人々から次々と話しかけられるユートを満足げに見て、アングルスは一礼して去っていく!! ユートはアングルスを後でシメると決意した!!


 街の人に囲まれはしたが、良い食材や調理法は聞けたので、結果オーライだった。


************************************************************


 最後に、ユートはクエスト王国の王都カルネヴァーレを訪れる。

 ここに仕入れに来たのは、鋼材だ。各国の王を迎える際、ちょっとした歓迎の印と言うか、余興を思い付いたのだ。その為に、少し鋼材を仕入れて行く。


 この国でやらかした時は顔を隠して動いた為、特に囲まれる事は無かった。

「はぁ……落ち着いて買い物できるのって、いいなぁ……」

 自分が有名人になった気分だ、等と考えているユート。実際の所、一部では有名人なのだが……。


************************************************************


 アーカディア島に戻ったユートは気付いていなかった。

 自分が動き回っている間、ある会議が行われている事を。そして、満場一致である提案が可決された事を。


 ユートがその事を知るのは、四カ国会談の当日であった。

次回より、新章に突入します。

尚、ここまで渋滞阻止の為に毎日更新してきましたが、元の2日に1話のペース(幕間は1日1話)に戻ります。


今後の展開を察した方もいらっしゃるでしょうが、まぁそれはそれ。

ユート達の冒険は何処へ行き着くのか、今後ともどうぞご覧下さいませ。

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