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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第6章 オーヴァン魔王国
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06-15 幕間/殿下達の夜

 オーヴァン魔王国の王都グランディアの中心に座す、魔王の居城たる魔王城。

 その城の中にある会議室の一つで、ある人物達が顔を突き合わせていた。

 王都の住人達がいたら、きっと目を白黒させる光景だろう。何せ、種族が違うのだ。

 そして彼等のその身分を知れば、言葉が出ない程驚く事だろう。何せ、その面子が豪華過ぎる。


 イングヴァルト王国の第一王子、アルファルド・フォルトゥナ・イングヴァルト。

 ミリアン獣王国の第一王子、ブリック。

 ヴォルフィード皇国第一皇子、マックール・デア・ヴォルフィード。

 同じく第一皇女にして未来のイングヴァルト王国の王妃となるであろう、リアンナ・デア・ヴォルフィード。

 そしてオーヴァン魔王国の国家元首、アマダム・ガルバドス・ド・オーヴァン。

 実に凄まじい面子である。


 …………


「さて、集まって貰ったのは他でもない、ユートの事についてだ」

 口火を切ったのはアルファルドであった。つまり、この面子を集めたのはアルファルドという事になる。

「アイツの事? ユートが何かやらかしたのか?」

 ブリックの物言いはあまりにもあんまりな言い方なのだが、それを咎める者は一人としていない。ユートの日頃の行いのせいである。


「いや、これまでやらかして来た事を総合してだな。貴殿らに聞きたいのだが、各国はユートとキリエに対し、自国の者を同行させるに至っている。そこには彼女達のユートに対する想いがあってこそという部分は解っているが、それだけでもあるまい」

 アルファルドの言葉に、全員が顔を顰める。


 確かにアリスやリインは公爵家の者で、そう安易に出奔などさせられる存在ではない。先程パーティメンバーに加わったクリスもである。

 そして、王都防衛の英雄の一人であるアイリも、獣王国としては喉から手が出る程欲しい人材。

 しかし、彼女達はユートの側にいる。その理由は……。


「私は五年前、ユートの旅が終わったら我が国に仕えるよう勧誘すると宣言している」

 その言葉に、全員の表情が消える。そう、彼等は皆、自国にユートを仕えさせたいという考えがあった。

 遺失魔道具アーティファクトによる圧倒的な武力と、その遺失魔道具アーティファクトを楽々生み出す異能と称すべき能力。

 加えて、ユートが自国に仕えるならば、そのパーティメンバーがもれなく付いてくる。確実に欲しい人材なのである。


「まさか、半年にも満たない旅でこれだけの国とコネクションを作るとは、相変わらずの常識外れだが……貴殿達はどうか? ユートの士官について」

 アルファルドの言葉に、これはユート争奪戦が始まるのだと気付いた参加者。

「あぁ、俺もユートを勧誘してるぜ」

「私もだ、ヴォルフィード皇国もそれを認めている」

「余も後程、その為の時間を取るつもりだ」

「四カ国から勧誘……流石はユート様ですわね」

 リアンナの言葉に普段は苦笑する所なのだが、事はそんな場合では無い。その為、各参加者の視線は鋭いものとなっている。


「さて、これで各国のユートに対するスタンスが明確になった訳だが……これをきっかけにして、不和の空気が流れる可能性は否めない」

「それは確かに同意しよう。だが、あのユートを……と考えれば、どの種族・どの国も退くとは思えんな」

「……たしかにな」

「うむ、それだけユートという存在は強大なものだ」

 各国の参加者が、警戒を強める。


 ユート・アーカディア……各国を訪れた旅で、彼は数々の武功を挙げ、国家の危機を救い、多くの人を救った。

 勇者レオナルドと聖女アリアの息子にして、今や彼自身も英雄と呼ぶに相応しい。ならば、その英雄を自国に……その考えは、どの国にもあって然るべきだ。


 しかし、アルファルドが首を横に振る。

「その考えは至極当然。しかし、これから和平の協定を結ぼうという我々が、ユートの事で対立するのをアイツ自身が良しとしないだろう。それに、アイツの周囲の者達もだ」

「むぅ……」

「ふむ、確かにね」

「まぁそうであろうな」

 ユートがもし、どこにも仕官しないと言い出したら? キリエ達が、ユートを仕官させまいと動いたら? その可能性は十分有り得るだろう。


「アルファルド殿下よ、貴殿は何か考えがあるようだな。よければ聞かせて貰いたい」

 魔王アマダムの言葉に、アルファルドが頷く。


 ——そして、アルファルドは()()()()を持ちかけた。


 アルファルドの提案を聞き、真っ先に反応したのはブリックであった。

「ガハハハハッ、なるほどそう来たか!いいんじゃねぇか!」

 更にマックールも苦笑しながら口を開く。

「確かに、それなら四カ国間の友好関係にヒビが入る事もない。意外といい提案だと思うね」

 そして、魔王アマダムは……。

「うむ、第一にユートを如何に上手く扱うかという、目下の悩みも解決できる。更に言えば、四カ国の和平においてヤツ自身が旗印となるわけだ」


 そんな彼等に対し、リアンナは呆然としていた。

「……ま、まさか()()()()()()退()()ことで、和平を成すのですか?」

「その通りだリア。その為の条件は既にアイツ自身が揃えている。和平交渉の会場で、この提案を打ち出すつもりだが、どうだろうか」

「良いと思うぜ。あぁ、それならキリエ達に話を通すべきだろうな」

「うむ、彼女達がこの提案を支持してくれれば、確定だろうからな」

「クククッ……ユートの驚いた顔が目に浮かぶな」

「では、ここにキリエ達を呼ぶ。よろしいか?」

 アルファルドの言葉に首肯する参加者達。


 ……


 アルファルド達の話を聞いたユート以外のアーカディアパーティは、一様にして笑顔だった。

「私はその提案を支持します」

「私も賛成です」

「はい、私もよろしいと思いますわ」

「……賛成」

「せ、先輩はどこまでいくのでしょう……あっ、私も賛成です」

 イングヴァルトの者としてアリス、ミリアン出身としてアイリ、ヴォルフィードの者としてリイン、オーヴァンの姫としてクリス、何故か同行してきた盾の勇者メグミが、アルファルドの提案を支持する。


 そしてキリエは……。

「まずはユーちゃんの事を考え、その提案をしてくれた事に感謝します。私の意見を述べる前に確認したいのですが、それはユーちゃんを利用しようというつもりは無いと言い切れますか?」

 穏やかな声音に反し、キリエの視線は鋭い。


 それに対し、アルファルド達は……。

「皆無とは言えん。その力を借り受けたい時は、無論対価を支払って協力を願うだろう」

「アイツの力をアテにしたい時は、まぁ筋を通して頭下げるな」

「そうだな。まぁ、遺失魔道具アーティファクト狂いの馬鹿共は責任を以って押さえる必要も出るな」

「放置していたら勝手に暴れられるのが解ったからねぇ……今度は素直に協力を願い出るよ」


 四カ国の代表者の言葉に、キリエは目を細めた。

「正直なお言葉ありがとうございます、皆無なんて言っていたらそもそもこの会議自体無いでしょう。そんな言葉を信用出来ないですからね。そういう事でしたら私も賛成しましょう」

 頷くキリエに、各国の代表者達は安堵する。

 ある意味で、ユート関連の話において決定権を持っていると言っても過言ではないキリエの支持を得られた時点で、この議案は可決したと言える。


「ユーちゃんには、確かに和平会談の場で言うのが良いでしょう」

「あぁ、ノリと勢いか」

「はい、ノリと勢いです」

 ノリと勢いで数々の功績を挙げてきたユートには相応しい……その場にいる者全員の心は一つになった。

「よし、根回しも出来た……では詳細について、各自の意見を聞きたい」

 会議の夜は、更けていった。数日後に予定された和平会談まで、しばしばその会議は繰り返される事となる。


 ……当事者であるユートには、内密で。

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