06-14 幕間/メグミ・ヤグチの独白(2/2)
上谷先輩と再会した後、私は先輩の仲間……キリエさん、アリスさん、アイリさん、リインさんとも仲良くなれました。
それに、先輩が作った遺失魔道具も頂く事になってしまいました。遺失魔道具はとても稀少な物なのですが……でも、先輩のお手製という事で、ありがたく受け取ります。
一番気に入ったのは腕輪で、クロスリンクというそうです……これで、先輩といつでも話せます。
……
夜になり、先輩が散歩で外へ行ったので、私達はエントランスでお話をしていました。
そこへ、鏑木さん達がやって来ます。先輩が居ないことに気付いたのか、桜井さんと水無月さんはホッとした顔をしています。
「メグミ、彼女達と仲良くなったのかい?」
「えぇ、まぁ……」
すると、鏑木さんはとんでもないことを言い出しました。
「それなら良かったよ。そうだ、君達も俺達と一緒に旅をしないかい?」
その言葉に、その場の全員が目を丸くしました。
「君達の同行している、ユート・アーカディア……彼は人を殺す事を躊躇わない危険な男だろう? 海岸で魔人族を皆殺しにしたのが、確かな証拠じゃないか」
いえ、私達も本来ならば人を殺す事を求められた立場なんですが。
「それに彼は君達をコレクションか何かだと勘違いしているんじゃないかい? その証拠が、奴隷である君だよアイリさん。奴隷の首輪なんか付けられて、可哀相だとずっと思っていたんだ」
それは違います、先輩はアイリさんを大切に思っています。アイリさんだけではなく、他の皆さんの事も大切に思って接しているのに、鏑木さんに何が解るというのでしょうか。
「俺ならそんな扱いはしないよ、さぁ俺と一緒に行こう。もう、危険な戦いなんてしなくてもいいんだ。俺が必ず守ってみせるよ。アイリも、すぐに奴隷から解放するから」
アイリさんをさり気なく呼び捨てにし出しましたね、鏑木さん。私の時もそうでしたし、軟派な性格なんでしょうね、多分。
「俺達勇者の仲間として、一緒に旅をしよう。君達は銀級の冒険者なんだろう? それなら実力だって確かなはずだ。勇者の仲間として相応しいじゃないか」
危険な戦いはさせないと言うのに、旅について来いとはどういう事なんでしょうか。
もう、ツッコミどころが多すぎて、呆れてしまいます。
さて、キリエさん達の視線が冷たいものになりました。そして、口々に鏑木さんに否定の言葉を投げ付けていきます。
「黙って聞いていれば、身の程を知らずにベラベラと。貴方はユーちゃんに指摘された事が、全く身に染みていないんですか?」
「貴方達の命の危機を救ったユート君に対して、その物言いはどういう了見ですか? 恥を知るべきです」
「私は自分の意志でユート様の奴隷として同行しています。私達の絆を知らない貴方にどうこう言われる筋合いはありません」
「私達は富や名声の為にユートさんに同行しているのではありません。ユートさんだからこそ、側に居たいと思って同行しているんです」
その剣幕に、たじろぎながらも鏑木さんは反論しました。
「あんなヤツより、俺と一緒に来た方がいいよ。俺の方が君達の事を大切に思っているし、幸せにしてみせるさ!」
「「「「寝言は寝て言って下さい」」」」
うん、私も同感です。
そこへ先輩がやって来て、鏑木さんは先輩を睨んだ後部屋に戻っていきました。その後、先輩が桜井さんや水無月さんを名前で呼ぶ事にしたようで……。
待って下さい、私も! 私も名前で呼んで欲しいんです!
「わ、私の事もメグミと呼んで下さって大丈夫です!」
「わ、解ったよ、メグミ」
えへへ、長年の夢が一つ達成されました。心の中でガッツポーズです。
それにしても……なんか、鏑木さんと一緒に行動するの、辞めたくなってきましたね。
そう思っていたのに、食事を頂いた後で私達は鏑木さんに部屋に呼び出されました。かなり、先輩に対抗意識を燃やしてますね。
……先輩のお部屋、行きたいのに。
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翌日、寝不足気味で昼前に起きる羽目になりました。
身支度を整えてエントランスに集まると、外から先輩達が戻ってきました。
後で詳細を聞いて、私は呆れてしまいました。力技で、先代魔王の魔法に囚われていた、魔人族のお姫様を救い出してしまうだなんて。
……流石は主人公です。先輩の主人公力は留まる所を知りませんね、既に並の主人公の1.5倍(当社比)です。
その後、私達は魔人族のお姫様……クリスティーナ様とお会いし、お茶会に突入しました。
口数は少ないのですが、声や仕草が可愛らしい方ですね。
また鏑木さんの悪い癖が出ましたが、もう知りません、スルーです。
クリスティーナ様の希望で、先輩達の冒険譚を聞くのですが……あぁ、控えめに話していますね、これ。真実を知っているので、私は思わず苦笑してしまいました。
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先輩に対抗意識を燃やす鏑木さんが、先輩達の向かう大迷宮を攻略すると息巻いています。
何がしたいんでしょう、この人は。しかも、先輩達に付いていくようにして。
更にグレンという人が率いるパーティが加わったのですが、その際キリエさん達から彼の事を聞きました。
……あっ、生理的に無理。水無月さんにも、彼には近寄らないように忠告しなければ。
……
大迷宮に入った直後、先輩達と別行動になるのですが、私には腕輪があるので……寂しいですが、頑張ります。
しかし、鏑木さんがまた余計な事を言い出しました。
「ただの迷宮とは違うらしいし、キリエ達が心配だな。それにユート・アーカディアは信用ならないし……やはり、彼等を追い掛けよう」
「流石は勇者様ですね、マサヨシ殿。私達もお供しましょう!」
そう言って、さっさと歩き出す二人のお馬鹿さん。もう嫌になってきました。
……
結局、私達のパーティは散々な結果になりました。また先輩達やキリエさん達に、厳しい叱責を受けましたし……。
最も、私は根源魔法を会得出来ました。先輩にケルベロスが向かって行ったので、守らなければと盾で受け止めただけなのですが……良いのでしょうか。
叱責されて尚、方向性がおかしい鏑木さん。魔王陛下にいち早く情報を伝えようと、強行軍を決めました……強引に。もう嫌です、この人。
しかも、結局は夜遅くの為に魔王陛下に謁見する事は出来ず、私達は宿に泊まる事になりました。はぁ、余計な事しかしません、鏑木さんとグレンさん……。
……
そんな中でした、先輩からの念話が届いたのは。先輩に近況を報告すると、どうやら苦笑いしているようです。
『お疲れ様だったね、メグミ』
疲れました、先輩。なので慰めて下さい。
そんな事、言えませんけどね。
すると、キリエさんからとんでもなく素敵な提案が。
『そうです、メグミさん。もし良かったらアーカディア島へ来ませんか?』
アーカディア島……天空島アーカディア島? 先輩の、島。という事は、先輩の……先輩のお家!?
『そうだね、来るかい?』
優しい声色で、先輩もそう聞いてくれる。
いいんですか? いいんですね? 行っちゃいます、先輩のお家!!
『い、行きます! 行かせて下さい! 』
……
そして、私はアーカディア島を訪れました。
天空の島アーカディア島、そして先輩のお家であるアーカディア邸……とても大きいお屋敷で、なんと露天風呂まであるんです!
それにしても、キリエさん達……うわぁ、綺麗だなぁ……。
うぅ、ライバルは強敵揃いです。でも皆いい人なので、仲良くしていきたいですね。
それにしても、素敵な露天風呂……。
案内されたお部屋も、とても素晴らしいお部屋でした。先程までいた宿に戻る気は、ゼロからマイナスになりました。宿屋の方、ごめんなさい……比較対象が強大すぎます。
はぁ、何よりここには先輩がいる……もう、ここに住みたいです。
尚、宿屋ではグレンさんとそのパーティメンバーが……その、夜の営みを繰り広げたそうで、その声などにより鏑木さん達は寝不足だそうです。
私は、先輩のお家でぐっすり眠れたんですけどね。
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翌日、先輩に送って貰った後で魔王城へ向かいます。
勿論既に先輩達は到着済みと知っています。
そして予想通りの展開になり、鏑木さんの株が下がった所で……
「謁見中失礼致します! 魔王陛下に緊急のご報告! 先代魔王軍が王都の四方から接近中! その数、東二万、西二万、北三万、南三万! 十万の軍勢です!」
緊急事態に陥りました。
……
魔王陛下は私達に人間族の大陸に戻り、伝言をするようにという名目で逃がされました。
その時、魔王陛下によって一緒に転移させられたクリスティーナ姫。海岸で涙を流し、嘆くクリスティーナ姫の姿が心苦しくて……私には、その小さな体を抱き締めるしかできません。
その時でした。
「さて、行こうか」
……あっ、そう言えば先輩が一緒なんですよね。
何かまた、鏑木さんが先輩に食ってかかっていますけど、もういい加減にして欲しいです。
鏑木さんを無視して、先輩がクリスティーナ姫の顔の高さに、視線を合わせます。
「あぁ、君を兄貴の所へ連れて行く。やるんだろ、お仕置き」
冗談めかして言う先輩に、クリスティーナ姫は涙を拭って頷きます。
「んっ!!」
あぁ、なんて主人公とヒロインの図なんでしょう。クリスティーナ姫が羨ましいですね。
……
魔王陛下の目前に転移した先輩によって、集められたアーカディア島の関係者。
先輩は魔王陛下に対して”勝手に暴れる”だなんて暴論で、介入を宣言します。
……その時点では、王子様や王女様が混じっているなんて思ってもみなかったのですが。
それにしても、話には聞いていましたがバイクを作っているなんて……先輩はキリエさんとクリスティーナ姫を連れて行くとの事。
そして私は……。
「……連れて行って下さい、先輩」
先輩のバイクの前に立って、懇願します。
「……後ろに乗れ」
そう言って、宝物庫からヘルメットとグローブを投げ渡されました。
許可が出て良かった……私は先輩の後ろに跨って、その腰にギュッと抱き付きます。
何か喚いている鏑木さんは、また放置されました。
北の大門で起こった悲劇については……割愛します。
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魔王陛下に報告を済ませ、全員が叙勲を受けました。
その後、イングヴァルト王国の王子様達が先輩にした提案……アーカディア島を四カ国会議の会場にしたいという提案でした。
アーカディア島の人が勢揃いして相談したところ、満場一致で可決されました。
私とクリスティーナ姫……うっかり混じってしまっていましたね。
……
その話し合いの後、私はキリエさん達に呼び出されました。な、何でしょうか……?
「単刀直入に聞きましょう、メグミさん。ユーちゃんの事をどう思っていますか?」
あっ、これ恋のライバルによるバトルロワイヤルですね解ります。この世界で先輩に再会してから、もう開き直ってきましたからね、私。
「好きです、大好きです。先輩がこの世界に転生する前から、ずっとずっと好きでした」
だから、はっきり口にします。恋の戦い、勿論参戦させて貰います。
でも、皆さんの表情は笑顔でした。
「メグミさんも私達と同じ気持ちで、安心しました」
「はい、メグミ様なら申し分ありませんね」
「前世のユートさんの話、聞かせて下さいね」
「……メグミ、一緒」
あれっ、何かクリスティーナ姫もいるんですけど!?
「メグミさん。実はこっちの世界、大半の国が一夫多妻制です」
……はぁっ!? これ、恋のバトルロワイヤルじゃなくてハーレム要員への勧誘でした!?
「どうしますか? 一応、私達は全員でユーちゃんのお嫁さんになろうと共謀しているんですが」
お嫁さん。
「あっ、参加します」
二つ返事で答えてました。だって、先輩のお嫁さん……。
「では、パーティもこれで七人ですか」
嬉しそうな表情で言うアリスさん。可愛いです、この人も。ライバルじゃなくて同志だと解って、安心ですね。
「ですが、メグミ様は勇者としての立場があります。それはどうなさるのですか?」
……それは、私も一応考えていた事です。
「クロイツ教国に一度帰還し、魔王国の現状と四カ国会談について説明します。その後で、その……アーカディア島に加わらせて貰おうかと」
「解りました、それならユーちゃんには、その都度言えば大丈夫でしょう。勢いに弱いですから、ユーちゃん」
あ、そこも変わっていなかったんですね。昔一度だけ、勢いに任せて映画に誘ったら、来てくれたんですよね……。
それにしても、私を除いても五人の美少女……先輩ってば、そんな所まで主人公力を発揮しなくても……。
でも、皆さん素敵な方なので、仲良くやっていけそうですけどね。
……
その後、戻って来た鏑木さん達が魔王陛下に謁見した後、鏑木さんが先輩に食ってかかります。もう、先輩に絡むのが趣味なのかと思う程です。
「よくも俺達を置き去りにしたな、ユート・アーカディア! そんなに功績を独り占めしたかったか!」
先輩は褒賞を辞退しようとしていたんですけどね。まぁ、その場に居なかった鏑木さんには解らないでしょうけどね。
「それにメグミやクリスを連れ去って、何のつもりだ! メグミ、クリス、こっちにおいで。何もされなかったかい?」
何か微笑みながら言っていますが、いい加減に我慢の限界です。これ以上先輩を悪く言うのなら、もう容赦はしません。
「鏑木さん、あまりにもそれは先輩に対して失礼ではありませんか?」
これは最終通告のつもりです。
「メ、メグミ?」
私に続いて、クリスティーナ姫改めクリスさんも冷たい言葉を浴びせます。
「愛称で呼ぶのやめて……」
「えっ……」
「ユートは魔王国の英雄……あなたは違う……」
「私達は連れ去られたのではなく、自分の意思で先輩に同行したんです。それに先輩は優しい人です、変な事なんてしません。先輩に謝罪して下さい」
その後も鏑木さんは、先輩が正論で捻じ伏せても尚、一言も謝罪をしませんでした。もう良いです、鏑木さんは無視して先輩の所に行きましょう。
晩餐の後、四カ国会議がアーカディア島で開催される事が決定して、クリスさんが先輩のパーティに加わる事が決まりました。
鏑木さんが相変わらず暴走していますが、アーカディア島に行く事を決めたので、もうスルーしちゃいます。
さっさと鏑木さんを誘導して、クロイツ教国に義理を果たしたら先輩のお側に……そして、同志である皆さんと一緒に、先輩の……お嫁さんに……。
うん、それまでは頑張らないとですね……鏑木さんのお守を。




