00-08 幕間/ある日のアルファルド
私の名前はアルファルド・フォルトゥナ・イングヴァルト。先日、十一歳の誕生日を迎えたばかりだ。
普段は王立貴族学院で講義を受けながら、学院から戻ればイングヴァルト王国第一王子としての教育を受けている。王位継承権第一位である以上、数々の教育を施されるのは当然の事であり、その教育を受ける事が出来るのは国王である父上から賜った期待の表れ。
なればこそ、私はその教育を己の糧とし、この国を背負う王太子……ひいては王とならなければならない。
——そう思っていた、少なくとも今までは。
しかし、ある日。ある少年の言葉を聞いて、私は少し考えが変わった。
一年前、国王陛下の前で気後れもせずに口にした言葉。
「僕は未だ何も成し遂げてはおりません」
レオナルド様、アリア様の息子である事を、誇りに思ってはいるのだろう。何度か話した限りでは、両親の事をとても嬉しそうに話していた。
しかし両親の偉業は両親のもので、それは自分の功績ではないと言い放った。父と母の名前を利用して、地位や名誉を得ようとは思っていなかった。
それに比べて、私はどうだっただろうか。
王城の私室も、身に纏う衣服も、毎日の教育も、全ては国王である父上から賜ったものだ。
それが当たり前だと思っていた。それが自然な事だと思っていた。しかし、今ではそう思わない私がいる。
それらが父上から与えられたのは何故か? 私が成すべき事は何だろうか?
それをこの一年考えていた。
そして私は今、こう考えている。
私は、この国の王となる。より素晴らしい国にしてみせる。より美しい国にしてみせよう。尊敬する父上を超える王になってみせる。
そう決意した瞬間。私の世界は一変した。
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「そうです、殿下! 素晴らしい太刀筋ですぞ!!」
騎士団に稽古を付けて貰い、剣や槍、弓等の鍛錬を行う。これまで剣を持つ事はあっても、ここまで必死に振るった事は無かった。
その成果もあったのか、近頃は筋肉もついて来た気がする。
「おぉ……殿下、昨日よりも詠唱が早くなっております!」
魔法の鍛錬も、今では毎日欠かさず行っている。いざという時、剣や盾が無くとも身を守る力が必要だ。
少しずつではあるものの、使える魔法の種類や威力も向上している実感がある。
「正解で御座います。殿下は誠に聡明であらせられる」
政務の指導、地理や歴史の講義、帝王学。全ての教育も余すことなく身に付ける為、最近では余暇に本を読む事が増えた気がする。
アイツが世界を見て見識を広めるのであれば、私も負けてはいられないだろう。
騎馬、社交、薬学、用兵。思い付く様々な経験や知識を、率先して学んでいく。
それらは決して苦では無かった。むしろ喜びさえ感じている……目指すものに近付く為だ。
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「ここ最近、アルファルドは訓練や勉学に打ち込んでいるようだな」
「はい、騎士団や宮廷魔導師、教育担当の者達もアルファルド殿下の熱意を、ひしひしと感じていると申しておりました」
それだけではなく、執事や侍女、衛兵等も同様にアルファルドを賞賛していた。同時に、己を高めようと邁進するアルファルドの姿に、イングヴァルト王国の未来は明るいものであると確信を得る。
元々高かった王家に対する忠誠心が、これまで以上に高まっていく。民や臣を引っ張るカリスマ性を、アルファルドは自然に身に付けていった。
「隠居するのも早くなりそうだな」
「ご冗談を仰らないで下さい陛下。やって頂く仕事はまだまだ御座います」
アレックスが書類を執務机に置いて、恭しく一礼して去る。
「……ユート君の言葉に触発されたか。これだけでも、彼らが来てくれた甲斐があった」
アルファルドの心に火を点けた張本人が誰なのか、アンドレイは正確に把握していた。