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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第6章 オーヴァン魔王国

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06-13 幕間/メグミ・ヤグチの独白(1/2)

 私の名前は矢口恵。

 どこにでもいる、普通の高校生です……いえ、普通の高校生でした。

 今、私が居る場所は日本ではありませんでした。いえ、それどころか地球ですらありません。

 ……異世界、そう呼ぶべき場所でした。


************************************************************


 まるで書物に描かれた写真や挿絵の、ギリシャ神話のような建造物の中心で私は目を覚ましました。

 何が起こったのか、解りません。つい先程の記憶も無い状態。私は混乱していました。

 隣には見知らぬ男性。制服を着ているので、おそらく学生なのでしょう。

 彼も目を覚まし、私と同様に混乱した様子でした。


 そんな私達に近付いてくるのは、白を基調とした服を身に纏う初老の男性。

「お目覚めですか、勇者様。私共の召喚の声に応えて頂いたこと、心より感謝申し上げます」

 そう言って一礼する男性。勇者? 召喚? 応えた? 

 全く身に覚えのない事を言われ、私は警戒しました。


 ……


 初老の男性に案内された私達は、応接室のような場所で説明を受けます。その説明の内容は、私達の常識からかけ離れたものでした。


 この世界は、私達が暮らしていた世界ではない事。

 私達が居るのは東の大陸、クロイツ教国の教都キルシュタインという都市であること。

 初老の男性の名前が、ゴルドローゼ・マルクト・クロイツといい、この国の教皇……国家元首である事。

 この世界には七つの種族が住んでいる事。

 そして、その内の一種族である魔人族が、世界を支配しようとしている事。

 その為に、この世界の神様が勇者を召喚するように神託を降した事。

 そして、今十四人の勇者を召喚すべく、この教国を含めた各国が動いている事。


「私共が勇者様方を召喚した経緯は、以上となります。何かご質問はございますでしょうか?」

「では、まず元の世界に帰還する方法は?」

 男性……鏑木正義かぶらぎまさよしと言う名の男性が、そう質問する。

 そうだ、帰らないと……私は帰って、あの人の事を待たないと……。


 しかし、クロイツ教皇の返答は、私にとって絶望的なものだった。

「私共は、神の力を借りて召喚をする事は出来ます。送還についても同様。魔人族の王たる魔王を討伐して頂いたならば、神も送還の力を下賜して下さるでしょう」

 ……あぁ、これは避けようのない事。

 魔王討伐……つまり魔王を殺さなければ、私達は帰れない。それは、私にとって絶望です。


 人を殺すなんて出来ない。

 帰りたい。帰って、あの人が戻って来るのを待たなければ……。


 しかし、私の隣に座っていた鏑木さんは大きく頷いて、宣言してしまった。

「解りました。俺達が、この世界の為に力を尽くしましょう」

 ……え、私も?

「えっと、矢口さん。ここで教皇様に文句を言っても意味がないだろう? この世界を救って、俺達が家に帰れるように戦うつもりだ。大丈夫、君の事は俺が守ってみせるよ」

 軽く握った拳を胸元に当て、鏑木さんが宣言。


 整った顔立ちも相俟って、確かに彼は勇者に向いているのだろう。その表情や態度はカリスマ性を感じさせ、力強い言葉は人々を勇気付ける。

 彼は主人公なのだろう。物語を引っ張っていく、これから始まる勇者の冒険譚の主人公。


 頷かざるを得ない空気だった。

 鏑木さんは私を励まそうと声を掛けてくれるが、私の不安は拭えなかった。

 ……あぁ、あの人に会いたい。


************************************************************


 それからしばらく、私達は勇者の力を高めるべく訓練をした。

 そして魔物を討伐し……私は吐いた。

 生き物を、殺した。この手で、私が生き物を殺したのだ。

 剣を握った手に伝わる、生々しい感触が拭えない。

 それから、私は剣を持つと手が震えるようになった。


 それを見た鏑木さんは、盾を勧めてくれた。

「無理をしなくていい、メグミ。君は俺が守るって言っただろう? 万が一に備えて、盾だけでも持っておくといいよ」


 それから、私は盾を使って攻撃を受け止める役目になった。

 ほとんど鏑木さんが倒していくので、私の出番は殆ど無い。

 それにしても、何故私に断りもなく、下の名前で呼ぶのだろう……でも、守ると言ってくれた手前、そんな事は言えなかった。

 あの人になら、名前で呼んで貰いたいのだけれど……。


************************************************************


 ヒルベルト王国が召喚したという、二人の勇者が訪問して来た。ヒルベルト国王も一緒だ。

 魔人族の脅威に対し、協力体制を整えるつもりだそうだ。


 ヒルベルト王国の勇者も、男女二人組だった。

 男の子は桜井勇輝さくらいゆうきさん、私と同じ年。

 女の子は一つ年上の、水無月愛みなづきまなさん。

 女の子が居るのは嬉しい。あちらも同感だったのか、私にニコッと微笑んでくれた。

 可愛い人だな……愛想のない私と、大違いだ。


 そんな折、鏑木さんが私達に告げた言葉は、普通に考えたら有り得ない話だった。

「転移の魔導具で、オーヴァン魔王国の敵情視察が出来るらしいんだ。俺達も経験を積んでいるし、少しだけ様子を見に行ってみないか?」

 私達は反対した。しかし、鏑木さんは「大丈夫、俺が付いてる」とか、「すぐに戻れるから心配ないよ」とか言って、取り合ってくれない。

 そして、強引に……。

「さぁ行こう!」

 魔導具を起動してしまった。


************************************************************


 転移先は海岸だった。そこで私達は、魔人族の兵士に見つかってしまう。

「早速来たか魔人族め、勇者の力を見せてやる!」

「あ〜もう、仕方ないなぁ! やるだけやってみるかぁ!」

 鏑木さんと水無月さんは、魔人族と戦い始めました。


 鏑木さんは、最初は魔人族を押していた。だけど、徐々にその動きに翳りが……。

「くっ……!!」

 殺せないのか。魔人族とはいえ、相手は私達と違うのは長い、先端が尖った耳だけ。相手は……ヒトだ。


 その逡巡が隙となり、魔人族の数人が二人をすり抜けて私達の方へ向かって来ました。

 私と桜井さんは、逃げ出します。桜井さんは丸腰だし、錬成魔導師という戦闘に向かない職業です。私は騎士という職業ですが、盾しか持っていないし……剣は、握れません。

 しかし、魔人族は私達を殺そうと追って来ます。


 ——その時でした、あの人に会ったのは。


 宙に浮かぶ魔法陣から現れる、大量の海水と五人の人影。

 黒髪の……同じ年頃の少年と、四人の綺麗な少女達。そんな五人は、瞬く間に魔人達を瞬殺しました。

 最後の一人を拷問する少年に、鏑木さんが食ってかかりますが……少年に痛い所を突かれて一蹴されました。結局、魔人達は彼等によって殲滅されました。

 ……何故、水着なのでしょうか。


 ……


 どこからか取り出したパーテーションで着替えた彼等は、私達の傷の手当をしてくれます。その前に彼が名乗った名前……それが、私の頭から離れません。

 ——ユート・アーカディア。

 似ている。あの人に、似ている。

 名前が同じだからじゃない、一人称は違うけど話し方がそっくりだ。あの人と、そっくりすぎる。


************************************************************


 紆余曲折を経て、私達は魔人族の王……魔王に招かれました。いきなり、敵の総大将に招かれる……そんな事態に、馬車に乗せられた鏑木さん達は顔を強張らせています。

 でも、私の頭の中はアーカディア卿の事でいっぱいでした。

「大丈夫だメグミ、俺が必ず守るって約束したろ」

 私に向けて、微笑みかける鏑木さん。

 いえ、そうじゃないんですよ。


 尚、謁見した魔王……魔王陛下は、何か普通に良い人でした。むしろ、先代魔王討伐の英雄の一人でした。


 ……


 私は魔王陛下との謁見の後、アーカディア卿に力を貸して欲しいと懇願しました。ですが、それは断られてしまう事に。

 更に、私達の欠点を厳しい言葉で指摘してきたのですが……むしろ、アドバイスでした。そして、私の番……。

「なら、逃げるな。最前線で大盾を構え、仲間を守るために歯を食いしばって攻撃を受け止めろ。それが出来るステータスを君は持っている、ならば後は覚悟だけだ」

 私は目を見開く。

 ……あの癖、私を見る時の目。この人は……()()()だ。

 何故、この世界に貴方が? 何故、何故?

「何を不思議そうな顔をしている? その大盾は防具であり武器だぞ? その大質量で殴れば、大ダメージを与えられる。気が引けるなら、仲間への攻撃を防ぐだけでも構わない、それも戦場における重要な役割だ。やるなら覚えておけ、守るための戦いってものもあるんだ」

 厳しい口調なのに、その内容は私を導くもの。私の背中を押すもの。

 そして……厳しいように見えて、私の事を見る目はとても優しい。


 アーカディア卿。きっとその正体は……上谷先輩。


************************************************************


 私は夜、一人でアーカディア卿の部屋を訪ねました。

 そこには、アーカディア卿のお仲間さん達も一緒だったんですけどね。紙を広げて顔を突き合わせていたようで、きっと今後の相談でしょうか。


 アーカディア卿のお仲間さん達は、椅子を用意したりお茶を淹れる準備をしてくれました。

 あれ? 歓迎されないと思っていたのに……。


 とりあえず先程のアドバイスのお礼を伝えます。

 そして、私達のこれまでをアーカディア卿達に伝えていき……本来の目的に、挑戦です。


「そう言えば、()()達は何かお話をされていたんですか?」

「あーいや、オーヴァン魔王国での目的をどう果たそうかと思って、今後の予定について話し合っていたんだ」

「探している魔法、でしたっけ。えっと、()()()()達がどのような魔法を探しているのか、伺ってもいいでしょうか?」

「欠損の回復と、死者の蘇生だよ。仲間の為に、その魔法が必要なんだ」

「欠損回復……それに、死者蘇生……ですか。済みません、私も魔法については色々学んだつもりなのですが、()()()()のお役には立てないみたいです」

「いや、良いよ。そもそも矢口………………いや、今、何て?」


 ……作戦は、成功しました。

 話し込んでいる中で、以前と同じ呼び方をしてみました。その上、私を”矢口”と呼びましたね。

 話が弾む時、先輩は気が緩む癖がありますから。

「気付くのが遅いですよ、上谷先輩」

 ハッキリと、そう呼びます。嬉しいのか、悲しいのかも解らないですが、私の口は緩み、目からは涙が溢れて来ました。

「あー、降参。矢口、やるようになったじゃないか」

 負け惜しみですね、解ります。


 そして、先輩は色々な話をしてくれたのですが……あっ、主人公は鏑木さんじゃなくて、先輩だ!!

「……め、メチャクチャして来たんですね、先輩……」

「えっ、視線が冷たい」

 当たり前です。

「大暴れにも程がありませんか? 昔はよっぽどの事が無い限り、穏便に事を収めるタイプだったじゃないですか」

 昔は争い事とか、苦手だって言っていたのに。


「仕方ないんだよ、矢口。だってここは日本じゃない、異世界ファンタジーだ。力が無ければ奪われ、虐げられ、殺される……ここはそんな世界なんだよ」

 そんな先輩の言葉に、私は少し寂しくなりました。

 私の知っている頃の、あの先輩では無くなったような気がして……でも、変わらないものが、あります。


「確かにメチャクチャだと思うんですけどね……その理由が身内の為っていうのは、先輩らしいとは思いますよ。あまりにとんでもない旅話と変貌ぶりだったので驚きましたが、そういう優しい所は変わらないんですね」

 そこが変わっていなかった……私の一番大好きな所が、変わっていなかった。私は……それが、嬉しくて。

「はい、視線が右に動きました」

「うぐぅ……」

 照れ隠しに、先輩をからかっちゃいました。


 ——やっと……やっと会えました、上谷先輩……。

幕間/メグミ・ヤグチの独白(2/2)は、本日1時に投稿致します。

2話続けてお楽しみ頂ければと思います。

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