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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第6章 オーヴァン魔王国
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06-11 防衛完了/提案

これまでのあらすじ:皆がハッスルハッスル!

 オーヴァン魔王国の王都グランディア。

 その王都を囲む外壁に設えられた、北側の大門。十数分前までは、そこで先代魔王軍と王都防衛軍の戦闘が行われていた。

 しかし、そこに現れた()()()によって、戦闘行為は終わりを告げた。


 ——そう、僕だよ!!


 今現在、アマダムの指示に従って撤退している王都防衛軍は、こちらの様子を伺いながら傷病者の手当てをしている最中だ。

 対する先代魔王軍は、現在不可視の壁に囲まれている状態だ。そして、その壁の中で必死に走り回って“あるモノ”から逃げている。

「うわああああああ!!」

「来るな、来るなああぁぁぁっ!!」

「もう嫌だ、助けてくれぇぇっ!!」

「おのれ、人間めぇっ!! 戦いもしないとは、戦士の矜持を踏みにじるかああぁぁっ!!」

 おーおー、喚いているね。

 え、助けてくれ? ダメだね。

 それに、所詮は敗残兵のテロリストだろう? テロリストが戦士? テロリストに矜持? 笑わせてくれるね。


 さて、僕達は何をしているかと言うと……座って、のんびりしている。

 宝物庫ストレージから出したポット型遺失魔道具アーティファクトで、姉さんが淹れてくれたお茶を啜っている最中。戦闘になるといつから錯覚していた?

「アマダムに三十分で終わらせるって言ったし、あと七~八分で片付けるか」

 あぁ、ティーセットじゃなくて先代魔王軍をね。


「……こ、これは流石に……」

「ユート、鬼……」

 のんびりくつろぐ僕に、冷たい視線が突き刺さっている。うん、まぁやり過ぎだとは思うんだけどさ、やるなら徹底的にコケにしてやりたいんだよ。


 さて、彼らを囲んでいる“壁”だが、早速製作してみた根源魔法アカシックレコードの防御魔法を転用した物だ。

 悪意や害意を持つ者、そしてそいつが持つ物や、放つ魔法を防ぐ鉄壁の防御結界。僕はそれを“聖域”と呼ぶ事にしたのだが、“聖域”は自由に形等を変えられる。

 そこで、僕が創り出したのは外側ではなく、内側に向けて展開した“聖域”の檻。

 展開させているのは、設置型の遺失魔道具アーティファクト

 名付けて“聖域の檻”だ、うん……いいネーミングが思い付かなくてね。何か洒落の聞いた、ウィットに富んだネーミングは無いかなぁ……。


 そして、彼等が必死の形相で逃げているモノ……それは、見た目は金属製の球体である。それが独りでにコロコロと転がり、魔人達を追い掛けている。

 地雷パイセンと同じ原理に、ちょっとした機能を加えた機雷型遺失魔道具アーティファクト、通称・機雷先生である。

 “地図”“探査”“追跡”のコンボによる自動追尾機能を備えているのだ。

 無論、触れたらドーン! 彼等が逃げ回っているのは、その為である。


 そんなこんなで、そろそろ五分しか残っていないな。

「残念ながら、そろそろ時間か。じゃあ、生き残りくらいは相手してやろうかな」

 相手をするとは、正面から斬り合ったり、魔法を撃ち合ったりする事ではない。単に、僕が直接手を下すというだけの意味合い。

「それ、ポチっとな」

 手元のボタンを押すと、各々の遺失魔道具アーティファクトに付与していた宝物庫ストレージ遠隔収納の付与が発動する。


 走り回って、汗塗れ・泥塗れ・血塗れの魔人達が、こちらを睨む。

「き、貴様……こんな……事を、して……ただ、で、済むと……思うのか……っ!?」

「ただで済まないのはそっちね。いやはや、随分疲れたみたいだな? 機雷先生との追いかけっこお疲れさん、そろそろ時間も無いから終わりにしようか」

 そう言って、僕は宝物庫ストレージからバスケットボール大の球体を取り出す。

 機雷先生との追いかけっこの印象が強いのか、魔人達の顔が盛大に引き攣る。他に三つ取り出し、姉さん達にも持たせる。


「この世の地獄は堪能したか? 今度は先代魔王と一緒に、あの世の地獄を楽しんで来い」

 それをそのまま、魔人達の方へとブン投げた。他の三人も、僕に続きそれを放り投げる。

 爆裂魔法エクスプロージョンを“魔法増幅マジックブースト”した広範囲殲滅爆弾。

「聖域の檻、再起動」

 先代魔王軍の残党達約三千名は、再発動した根源魔法アカシックレコード製の檻の中で、引き攣った表情のまま爆発に飲み込まれて消滅した。


 ……


 肉片一つ残さずにこの世から退場した先代魔王軍。よし、しっかり全滅したようだな。

 さーて、皆はどんな感じかな。マップで皆の情報を確認すると、全員たいしたダメージも貰わずに敵を殲滅しまくったようだ。よしよし、重畳。

『皆、聞こえるかい? そっちは終わったみたいだね』

 念話で声を掛けると、皆から返答が帰って来る。

『はい、こっちは終了です』

『西の大門、殲滅完了ですよ』

『ユート様、南も殲滅を終えました』

 流石だね、皆。


『よし、それじゃあ王都内に戻ろうか。一度、合流しよう』

 僕は三発連続で門弾ゲートバレットを撃ち、転移魔法陣を展開する。

 そこから現れる仲間達。その表情はいつもと何ら変わらない。

「問題なく殲滅完了だ、それじゃあ謁見の間に戻ろうか」

 僕の言葉に首肯する仲間達。

 門弾ゲートバレットをもう一度放ち、謁見の間に空間を繋げる。


************************************************************


 謁見の間に入ると、玉座に座ってグッタリしているアマダムの姿があった。

「どうした、そんな顔して。殲滅は完了したぞ」

「知っているよ、視ていたからね……はぁ、心配した僕は何だったのかな? 十万の軍勢に対して、たった十八人で迎え討ち、大した負傷も無く完全勝利。君達ほんと何なんだい? もしかして神格とか持ってない?」

 いつになく外見年齢相応の言葉遣いになっているのは、気が抜けているからだろうか。うーん、そんなにやり過ぎたかな?

「そもそも、ユート達なんて全く戦ってないじゃないか、何だよあれ」

「戦ってやる価値が無い連中だったからね、勝手に踊って勝手に死んで貰ったよ」

「情け容赦ないな!!」

 テロリストに、そんなものは必要ない。それが僕のジャスティス。


 そう言えば、勇者やグレン達はどうしてるかなーっと……マサヨシとグレン達は、北の大門に向かって走っているな。

 そして、ユウキとマナは……ほほぉ、彼らは王都の中に入り込んだ先代魔王軍を、何人か捕縛したようだな。どうやら、王都民の避難誘導や手当てに尽力していたようだ。

 そしてまだ殺す覚悟までは持てないけど、奴ら相手に戦って勝利を収めた。

 うんうん、彼らは伸び代がありそうだ。


 ……


「さて、君達のお陰で王都グランディアは大した被害も無く守られた。褒賞を何にしようか考えているんだけど、希望はある?」

「え、僕は“勝手に暴れる”って言っただろ? 自分の都合で好き勝手やっただけなのに、そんなの貰えないよ」

 僕の言葉に、アマダムが「ハァ? 何言ってんのコイツ?」って顔をしている。折角の美少年顔が台無しだね。


「そもそも、何でそこまでするんだユート。君はまだ魔王国に来て、数日くらいしか経っていないのに」

 こいつこそ、何を言っているんだ。

「アマダムが死ぬかもしれなくて、クリスが泣いていたんだぞ? 君達は僕にとって、もう“身内”なんだ。なら、身内の為に何でもしちゃう系冒険者の僕としては、もうはっちゃけるしかないじゃないか」

「後半はちょっと何言っているのか解らぬのだが……むぅ、前半は、その……ありがとう」

「気にするなし」

 僕がやりたいようにやっただけだしね。


「……はぁ。まぁいい、我が国の危急に対し力を尽くしてくれた君達に、余は感謝の意を表したい。君達十八人の英雄に、オーヴァン魔王国の最上級勲章である魔王栄誉章を授与しよう」

 また勲章が増える事になったな、これで四カ国か。

「並びに、報奨金として金貨百枚を用意させよう」

 おぉ? 他国では五十枚だったのに。オーヴァン魔王国は意外と金持ちなのか?


「また、イングヴァルト王国第一王子アルファルド殿下、ミリアン獣王国第一王子ブリック殿下、ヴォルフィード皇国第一皇子マックール殿下、第一皇女リナンア殿下の助力に感謝し、三国に謝礼金を贈りたいと思う」

 そういうアマダムだが、アルファ達は苦笑して首を横に振る。

「いや魔王陛下、それは不要だ」

「おう、俺達はダチに付き合っただけだからな」

「お気持ちだけ頂いておこうじゃないか」

「ええ、その通りですわ」

「え、えー……うーん、でもなぁ……」

 素に戻るなよ、アマダム。


「代わりに、アマダム・ガルバドス・ド・オーヴァン魔王陛下に、イングヴァルト王国・ミリアン獣王国・ヴォルフィード皇国の国家元首からの言葉を伝えたいと思う」

 お、何か言われていたのかな?

「今述べた三カ国は、オーヴァン魔王国と和平協定を結ぶべく、話し合いの場を設けたいと考えている。その会議に参加して貰えるだろうか」

 アルファの言葉に、アマダムが目を大きく見開き……そして、その口元を緩めた。

「アルファルド殿下、その申し出を謹んで受けさせて貰いたいと思う」

 各大陸、その海を挟んだ端の国。この四カ国が和平協定を結び、種族間の不和を解消する事ができたならば……きっとどの国も、より活気に溢れる素晴らしい国になるだろう。


「さて、そうなると会場はどこにすべきだろうか」

 各国にとっては自国に招く事はステータスと言うか、メリットになるからなぁ……。

 四カ国とも、国家元首は総じてユルい人達だが、国王・獣王・皇帝・魔王としては、その名に恥じぬ働きぶりと強い信頼を国民に寄せられているわけだし。

 そうなると、揉める可能性があるんだよなぁ……。


 アマダムもその点については理解しているようで、難しい顔をしている。

 しかし、アルファ達は平然としているな。何か考えがあるのだろうか?

「なあ、アルファ。その協定について話し合う会場、何かアテがあるのか?」

「あると言えばある。だが、それについては“ある人物”の許可が必要なんだがな」

「あぁ、“ある人物”が了承してくれれば、どの国もメリットがあるわけだ」

「うむ、“ある人物”さえ了承してくれればの話だがね」

 うん、凄く嫌な予感がして来た。そして、こういう時の僕の嫌な予感は、当たる。

 第一、こいつらの視線が僕に集中している。


「ふむ? 殿下達は会場に付いて心当たりがあるようだ。差し支えなければ、聞かせて貰えるかな」

「その前に、しばし待って頂きたい……ユート、各国の王に渡しているあの遺失魔道具アーティファクト、あるか?」

「あ、世界の窓ウィンドウズ? そういやアマダムに渡してなかったな……ほい、これ」

 宝物庫ストレージから取り出した世界の窓ウィンドウズを、アルファに手渡す。

 何気に、三カ国同時に連絡が取れるように画面分割機能も付けたのよね。うん、完全に便利なテレビ電話だ。


『む、アルファルド。無事で何よりだ』

『ブリック、終わったのか』

『おぉマックールよ、事態は終結したのか』

 突然画面に映り出した三カ国の国家元首の顔に、アマダムの顔が凍り付いた。

「ユート、お前が作ったんだろ? 何コレ」

「遠距離音声通信と映像通信を可能にした遺失魔道具アーティファクト世界の窓ウィンドウズだ。後でアマダム用にも用意して渡そう、便利だよ」

「うん、便利そうなのは良いんだけど、僕の常識が崩れそうなんだけど」

 常識とは破壊するものだよ、アマダム。


 ……


 世界の窓ウィンドウズ越しに、四カ国の国家元首が顔合わせを済ませた。

 さすがに、このまま世界の窓ウィンドウズで話し合うとかいう話じゃ無いんだろうなぁ。

 あるよ、心当たり。あるんだけど、マジかー?


「さて、それでは本題に入りましょう。各国としては、四カ国の和平協定についての話し合いを自国で出来れば良いと考えるのが当然です」

 マックールが各国の王と殿下勢を見ながら、そう切り出した。その言葉に、各国家元首達も頷く。

「でも、それが不和の元になりかねねぇ。折角和平の為に話をするのに、喧嘩をするのも馬鹿らしいな」

 ブリックの言葉にも首肯する。そして、アルファが僕をジーッと見る。

「そこで、四カ国のどこにも属さない()()()()()()を、我々は提案したいと考えてる。しかし、その場所が第五の選択肢足りえるかは、“ある人物”の了承が必要だ」

 僕を見ながら言うな、バレバレだぞお前!!


『それでは、ユート君。君の意見を聞きかせてくれないかな』

『余も同じ考えだ。如何だろうか、ユート殿』

『私は良い話だと思うのだ、検討してくれぬかユート殿』

「ユート、余も御三方に賛成する。どうだろうか」

「確実に“ある人物”イコール僕ってなってるんですけど」

「「「「『『『他に誰が居る』』』」」」」

 ですよねー!!

「解った、解ったよ! 考えるからちょっと時間くれる? 僕一人で決めるわけにもいかない」

「それもそうだな。では今夜、再度話をする事でよろしいか」

 アルファの言葉に全員が首肯したので、その場はお開きになった。


************************************************************


 さて、問題は先程の話の件をどうするかだ。

 アマダムに許可を貰い、僕達は会議室を借りてそこにアーカディア島の関係者を集める。


「つまりアーカディア島を、四カ国会談の会場にしたいんだろ」

「ああ、それならば各国の間に不和が生まれないと判断した」

 まぁ、言いたい事は解るんだよなぁ……。

「この件を僕の一存だけで決めるつもりは無い。相談させて貰えるかな」

「まぁ当然だな。では、我々は席を外すべきかな」

 そう言って、アルファとブリック、マック、リアは退席する。


 さて、それではアーカディア島の住人達に向き直り、意見を聞こう。

「それじゃあ、皆の意見を聞かせて貰えるかな? 僕の事は置いておいて、自分の考えをありのまま伝えて欲しい」


 まず、獣人勢。

「えー、俺は賛成ですかねぇ」

「ご主人様、僕も賛成です」

「賛成に一票~!」

「私も賛成ですわ、ご主人様」

「獣王陛下をお招きするなんて名誉な事だと思うです! 賛成です!」

「さんせ~! さんせ~!」

 クラウス、ジル、メアリー、レイラさん、エミル、クレアちゃんは賛成と。

 クレアちゃん、賛成って意味解ってるのかな。可愛いからいいけど。


 続いてドワーフ勢。

「俺はいいと思うぜ? よく解らん国の王様とかなら反対するが、今回の四カ国はユートも認める身内の国なんだろ?」

「そうだね、私も賛成派かな! ユート兄の島に、四人も王様が来るなんてすっごいじゃん!」

「私も賛成です、ユート殿。この件を受ける事で、四つの国でのユート殿の立場も更に高いものとなるでしょう」

「そうですね、私も賛成ですよー。四カ国をうまくコントロール出来そうじゃ無いですか、ユートさんなら」

 マルクの意見は流石だと思った。エルザは相変わらずで、ジョリーンは僕を持ち上げすぎ、そしてリリルル意外と黒い。


 ではメインパーティ勢。

「「「「「「賛成!」」」」」」

 声を揃えての賛成である。


「ユーちゃんにお任せ……といつもなら言うのですけど。個人的な意見を聞かれたので、返答するなら賛成ですね」

「はい、故郷のイングヴァルト王国の事もありますし、私は賛成です」

「同じくミリアン獣王国出身としては、是非受けて頂きたいと思っています」

「私も同じですね。ヴォルフィードの為にも一つお願い出来れば」

 まぁ、姉さん以外は自国の事……いや、この娘達の言い方だと故郷とか実家扱いで、所属はアーカディア島のつもりでいないか、コレ。


「部、部外者なのに済みません……ですが、先輩の今後の事等を考えるなら賛成でして、意見を言うだけ言おうかと……」

「私も賛成……それと行ってみたい……」

 メグミとクリスがここに混じっている事に今気付いた。全く違和感無かったわ!

 それとクリスはアーカディアに連れて行った事無かったな、後で連れて行ってあげよう。

「……満場一致じゃないか。よし、この話は受ける事にしよう」


 僕としても、各国家の助けになる分には構わないからね。

 それに、四カ国はマルクの言う通り僕の身内の国だ。その四カ国が、僕の島で和平協定を結ぶ……か。

 それって、何か良いと思う。

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