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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第6章 オーヴァン魔王国
76/327

06-10 総力戦/蹂躙劇

これまでのあらすじ:仲間総動員で、先代魔王軍をフルボッコにします。


 ここは、オーヴァン魔王国の王都グランディアを囲む外壁に設えられた東側の大門。

 現在、東門では兵士達による抗戦が繰り広げられていた。

 アマダムから“拡声”の魔法で報じられた、遺失魔道具アーティファクトによる守りの光壁。その光壁が、先代魔王軍の侵入や攻撃を防いでくれている。

 内側からの攻撃は不思議な事に通る為、魔法による一方的な攻撃でその数を五百人程……全体で見れば僅かな人数を減らせた。


 しかし、先代魔王軍は未だ攻撃を諦めず、光壁を突破しようとしている。そして光壁に注がれる魔力が弱まった事で、先代魔王軍に属する魔人族達が光壁の中に入り込んでしまう。

 これまでの鬱憤を晴らすように、先代魔王軍達は周囲に居る魔人達を虐殺する。

 元より王都の住人達を避難させる為、半分以上の人員を割かれている。数の暴力に対し、兵士達は次々と劣勢に追い込まれていった。


 そんな中であった。

 聞き覚えの無い轟音を発しながら、門へ向けて突進してくる何かが双方の視界に映る。その数、四。

 その内の一人の周囲に水の矢ウォーターアローが数十本展開され、立て続けに放たれる。

 攻撃魔法としては初歩とされる水の矢ウォーターアローだと油断した先代魔王軍達。


 初歩魔法攻撃を気にせずに、すぐ側の兵士を刺し殺そうとした瞬間だった。その頭に水の矢ウォーターアローが命中した。

 頭が爆ぜた……それはまるで、高い場所から地面に落として潰れたトマトのように。

「なっ……何だこの威力は!?」

 そんな威力の水の矢ウォーターアローが、数十本。

 背筋が凍るほど正確な攻撃が、先代魔人族を次々と討ち取っていく。


 既に魔力駆動二輪を停車し、その機体を“宝物庫の指輪ストレージ”の中に収納していく四人の人影。

「さて、ではユートのオーダーに応えようか」

「畏まりました、殿下」

「殲滅、でいいんですよね!」

「はい、徹底的にとユート君は言いました。一人残らず、その命を刈り取ります」

 イングヴァルト王国で交流のあったアリシアが、そんな過激な発言をするとは思っていなかった三人は驚きつつ……納得してしまった。

(((あぁ、ユート(殿)(君)に染められたんだな……)))

 三人の心が一つになった瞬間であった。


「おい、人間族だぞ!」

「何故人間族が魔王国にいる!」

「今の魔法は、こいつらか!」

「殺せ、真の魔王陛下の敵だ!」

「殺せ!」

「殺せ!」

 四人の姿を見た先代魔王軍が沸き立つ。

 同族よりも、他種族を蹂躙する方が良い。先代魔王を討伐したレオナルドと同じ人間族なら、尚良い。

 そんな獲物が目の前に現れたのだ。たった四人しか居ない、早い者勝ちだ。

 我先にと駆け出す先代魔王軍を一瞥し、アルファルドが宣言する。


「確かに生かしておく価値は無いな。よし、殲滅だ」

 その宣言の直後、先代魔王軍や防衛軍双方にとっては、四人の手に見慣れない物が現れたように見えた。

「攻撃開始だ!」

「いざ!」

「ぶっぱなすよー」

「行きます!」

 イングヴァルト王国の第一王子とその護衛、そして公爵令嬢の手にしているのは、遺失魔道具アーティファクト製作者であるユートお気に入りの逸品。

 ——ドゥルルルルル……

 ——ズドドドドドドドド……ッ!! 

 そう、ガトリングガンである。

 アーカディア島で試射をさせて貰った経験のあるアルファ達や、普段からユートと行動を共にしているアリシアの扱いは上手い。

 狙いは防衛軍の居ない、先代魔王軍が固まっている場所。四人の救援者が、武骨な重火器から銃弾を吐き出し続ける。回転駆動音と発砲音、先代魔王軍の悲鳴が周囲に響き渡り、血や肉片が宙を舞う。


 僅か五分程度で、先代魔王軍は二万人から二千人まで減っていた。

 アルファルドは、弾切れを起こしたガトリングガンを宝物庫ストレージに収納し、新しいガトリングガンを取り出しては発砲する。

 エミリオはガトリングガンの弾が切れると、次にバズーカ砲を取り出した。先代魔王軍が未だ固まっている場所目掛けて撃ち込めば、着弾と同時に爆炎が発生する。

 シャルロッテはガトリングガンの次に、魔導銃を選択。ユートの用意した擬似魔石で魔力を補充し、風の槍ウィンドジャベリンを連射する。


 そして、蒼銀の髪を靡かせて立つアリシア・クラウディア・アークヴァルド。彼女は、他の三人と比べて静かに佇んでいた。

 その手に持つのは、愛しい想い人から贈られた銃機能を備えた槍にも見える杖。先ずその槍杖を両手で構え、その銃口を迫り来る先代魔王軍に向ける。


「……レールガン」

 その言葉と共に魔力を流して引き金を引けば、銃部分に刻印付与された“雷属性付与”が発動し、放たれる弾丸を超加速させる。

 目にも止まらぬ速度で放たれた弾丸により、迫っていた先代魔王軍の大半が肉体を抉られ即死。その余波に巻き込まれた魔人達も衝撃で深刻なダメージを負う。

 正に一撃必殺。

 しかしアリシアの槍杖に装填されているマガジンには、未だ十一発の弾が篭められている。更に連続して放たれるレールガン。


 会敵から僅か十分足らずで、先代魔王軍は残り百人程度にまで減少していた。

 恐怖が先代魔王軍を襲う。しかし進もうが退こうが、既に彼らの運命は決まっている。

 アマダムの“拡声”によって撤退を告げられた兵士達は、アリシアより後に下がっている。

「御三方、私の前には出ないようにして下さい」

「む……? 解った」

「了解しました!」

「はいはーい!」

 三人が下がったのを確認し、アリシアは切り札を発動する。


「”来たれ水の精霊一柱、我が声に耳を傾けよ。我が求むは激流の糸、万物を断つ刃となれ”」

 それは、ユートと一緒に“創り出した魔法”。

「”切り裂け、水の刃ウォーターカッター!!”」

 細く鋭く、高圧力で噴出する水の線。それを横薙ぎに振るうアリシア。


 先代魔王軍の端から端までを通過した水の刃ウォーターカッター。ズルリと重力に従ってズレていく、先代魔王軍の身体。

 ほんの数分で、彼らは一人残らず全滅した。


************************************************************


 一方、王都グランディアを囲む外壁に設えられた西側の大門。そこでもまた、激しい蹂躙劇が繰り広げられていた。

 ほんの数分前までは、先代魔王軍が蹂躙する側だった。しかし今は違う……彼らは蹂躙される側になっていた。

「な、何だあいつらは!!」

「エルフやドワーフが何で魔王国にいるんだよぉ!!」

「奴らが持っているのは何なんだ!? 見た事無いぞ、あんな武器!!」

「怯むな、囲んで殺せ! 相手はたった五人だぞ!!」

「ならお前が行けよ! 俺は嫌だぁぁ!」

 そんな恐慌状態の先代魔王軍に対し、かけられる慈悲は無かった。


「先代魔王に与する者よ、暴虐の限りを尽くして満足したか? その報いを受ける時だ」

 ヴォルフィード皇国第一皇子、マックールの森林魔法“樹木の拘束ウッドバインド”により拘束された魔人達は顔を青褪める。

「“来たれ風の精霊十柱、我が元に集え”」

 詠唱を開始したマックールに対し、魔人族の一人が吼える。

「奴に魔法を撃ち込め! 詠唱を止めればこっちのもんだ!!」

 身動きは出来ずとも、魔法は使える。そう判断した魔人達のうち、詠唱省略を行える者達がマックールに向けて魔法を放つ。その数、ゆうに千以上。


「“我が求むは天の息吹、この意に従い荒れ狂え”」

 しかし、マックールは守護の首飾りタリズマンの“魔法障壁”を展開し、それらを防ぎ切ってしまう。

「馬鹿なっ!?」

「諦めるな、撃てっ! 撃てえぇぇっ!!」

 凄まじい数の魔法の矢が襲い掛かるも、マックールは意に介さない。


「“敵を呑み込む、竜巻となれ。敵を切り裂く、鎌鼬となれ”」

 詠唱しているのは、風魔法の中でも上級とされる魔法。

「ヤツを止めろおおおぉぉぉぉっ!!」

 そう、広域に影響を及ぼす“殲滅級の魔法”である。


「”吹き荒べ、暴虐の颶風ハリケーン!!”」

 突如、魔人族達を囲むようにして十箇所で同時発生した凄まじい強風に、魔人達は樹木の拘束ウッドバインドに縛られたまま呼吸も出来ず、激しい風圧を全身に受け、次々とその人生を終えていく。

 一度の魔法行使で息絶えたその数は、五千人に上った。


 ……


「流石はマックールお兄様だわ。ねぇ、貴方達もそう思わない?」

 リアンナ・デア・ヴォルフィードの言葉に応えられる者は、誰一人としていない。

 何故ならば、彼らはその首に樹の蔦が巻き付けられ、窒息寸前で喘いでいるか、既に首の骨を折られて死んでいるかのどちらかなのだから。

 その異様な光景を生み出したのは、勿論リアンナである。


 森林魔法“樹木の結界ウッドサークル”によって、半径五キロメートルにまで展開された植物の成長促進とその操作。それにより、異常成長した木々の枝や蔦、そして地面に生える草が先代魔王軍の首元を絞め上げている。

 無論、半径五キロメートルなどという途方も無い範囲に展開できる魔法ではなく、いくらエルフ族が魔力量に長けているとはいえ、容易な事ではない。むしろ、不可能なのだ。

 しかしそれは可能となっている……ある人物の介入によって。


「それにしても、流石はユート様ですわ。これだけの大魔法を、私が扱う事ができるなんて思ってもみませんでした」

 そう、ユートによる魔力供給用の、大型擬似魔石の提供。そして、元はリイナレイン用に開発していた、樹木魔法を発動する為の媒体となる遺失魔道具アーティファクトによって、この樹海は完成した。


 ——遺失魔道具アーティファクト魔導増幅杖ブースターロッド”。


 木製のワンド型遺失魔道具アーティファクトで、使用者の魔法を増幅する付与魔法“魔法増幅マジックブースト”を付与している。

 ただし、この魔法は存在しない魔法である。ならば何故存在するのか? ユートの傍らにいる天使により、生み出された強化付与魔法だからだ。

 キリエによって生み出された付与魔法・魔法増幅マジックブーストを、ユートが刻印付与したお陰で、リアンナはこの大魔法を使用できたのだ。


「さて、そろそろ貴方達の時間も終わりですので、一言申し上げておきましょう」

 そう言って、リアンナは優雅にカーテシーをしてみせる。

「貴方達の敗因は、絶対に敵に回してはならない者……ユート・アーカディアの逆鱗に触れた事です。それでは皆さん、あの世の地獄へご案内しましょう」

 そう言って、リアンナは木々に指令を下す。“全員の首をへし折れ”と。鈍い音が次々とあちこちから響いて来るが、リアンナの関心は別のところにあった。

「アルファルド様はもう、片付けた後でしょうか。後でお話を聞かせて貰いましょう」

 その表情は、戦場に似つかわしくない恋する乙女の表情だった。


 ……


 さて、マックールとリアンナのエルフ兄妹が居る右翼側から所変わって、マルク・エルザのドワーフ兄妹の居る、左翼側。ここでは、激しい打撃音が次々と鳴り響いていた。

「どおおらああああっ!!」

 大型の戦槌を振り回すのは、マルク。

 戦槌を軽々と振り回す彼は、一撃で二、三人の魔人族を倒していっている……爆発で。

 そう、マルクの戦槌はユートお手製の遺失魔道具アーティファクトだ。

 そしてハンマー部分にあるのは、お馴染み地雷型遺失魔道具アーティファクトである。


 彼に対して先代魔王軍は剣や槍で応戦し、その攻撃は当たっている。そう、確かに当たっているのだが……。

 守護の首飾りタリズマンに、追加された”硬化””魔法反射”により、物理攻撃も魔法攻撃も弾き返す鉄壁の戦士と化したマルクには、微塵もダメージを与えられない。

「何だコイツは!!」

「刃が刺さらないぞ!」

「斬れもしねぇ、一体どうなっているんだ!」

「ば、化け物め!!」

 そんな悲鳴じみた罵声に耳を貸すようなマルクではない。更に獲物を求めて魔人族の群れに突進して行く。


 ……


「もー、しょうがないなぁバカ兄貴は」

 そう言いながら、魔人族に次々と斧を振るっているのは妹のエルザ。その斧は風を纏い、鎌鼬を発生させていた。

 無論、ユート特製のエルザ専用遺失魔道具アーティファクトである。

 ドワーフの膂力と腕力を駆使して、全長一メートル半はある斧を前方に翳す。

 手元のトリガーを引けば、放たれるのはパイルバンカーである。それも、“雷属性付与”版……つまりレールパイルバンカー。

 超高速で放たれたパイルバンカーは、小さな銃弾と違ってその大きさと質量も相俟って、広範囲に渡って衝撃波を発生させ、周囲の魔人族を巻き込みながら飛んで行く。

「うっは、すっごいねコレ! 気持ちいいわ~」

 どうやら、エルザは一度に大量虐殺がお好みらしい。


 宝物庫ストレージから取り出した杭を装填し直し、蒼い顔をした魔人族に向ける。

「そんな顔したってダーメ。殺す覚悟で来たんでしょ? なら殺される覚悟もしてなくちゃね。そしてユート兄はアンタ達の殲滅をご希望なの。だから、死んじゃってねー」

 愛らしい顔をしていながら、その目は笑っていない。

 引き攣った笑みを浮かべる先代魔王軍に向け、再びレールパイルバンカーが放たれた。


 ……


 右翼、左翼共に、絶好調で先代魔王軍を討伐していく最中。恐ろしいほどの静けさが、中央エリアを支配していた。

「……あ、あぁ……あ……」

 先代魔王軍の一人が、恐怖から声を漏らす。その視線は上空に向かっていた。

 リイナレイン・デア・ヴォークリンデの頭上。そこに展開された無数の水の槍ウォータージャベリン

 その数……約一万である。


 本来であれば、一万もの水の精霊を呼び出す事は不可能である。

 そもそも属性魔法は、自然界に存在する精霊に呼びかけ、その力を借りて魔法を行使する。即ち、この世界の魔法とは“精霊魔法”と呼べるものである。

 そして、百以上の精霊を呼び出すと言う事は普通ならば有り得ない。その場所や近隣の場所に居る精霊に呼び掛けて、その声に応えた精霊が集まり、魔法が発動するのだから。

 精々、半径百メートル以内にいる精霊ならば、三十柱もいれば多い方。百柱もいれば、そこは精霊に愛された自然豊かな大地だろう。


 しかし、魔王国の外れであり、現在は戦場である場所に好き好んで近寄って来る精霊はいない。詠唱で呼び掛けられ、「呼ばれたかー、しょうがないから行くかー」程度のものなのだ。

 最も、リイナレインが最初に呼び出した精霊は二十柱である。ならば、リイナレインは何故更に精霊を呼び出し、その数が一万もの数になったのか?


「なるほど、ユートさんの言っていた大気中の水分を集めると言うのは、こういう事なんですね」

 そう、精霊に呼び掛ける際に、大気中の水分を掻き集めて生成された水の槍ウォータージャベリン。リイナレイン用に、切り札としてユートが詠唱をアレンジしたもの。言わば水の槍ウォータージャベリンの強化版。

「精霊よ、感謝致します。それでは、先代魔王の遺志を継ぐ者達よ、祈りなさい。”敵を貫け、水の万槍ゲイ・ボルグ・ウォータージャベリン!! ”」

 一万を超える槍の雨が、先代魔王軍に向かって降り注ぐ。中級水魔法のスコールにより、地面は鮮血の水溜りを作っていく。

 圧倒的な槍雨により、西の門の先代魔王軍に与する魔人族も全滅した。


************************************************************


 一方、王都グランディアを囲む外壁に設えられた南側の大門。先代魔王軍は、ある人物を必死に避けていた。

 その人物とはミリアン獣王国第一王子、ブリックである。

 ブリックは南の門に辿り着いて尚、魔力駆動二輪から降りなかった。そのまま先代魔王軍に向けて突撃したのである。

「何だ、あの……何だあれ!!」

「知るか、いいからアレを止めろっ!!」

「どうやってだよ、攻撃が弾かれているんだぞ!!」

「魔法部隊、さっさとヤツを止めろーっ!!」

「無茶言うな、どんだけ撃っても効かないんだぞ!!」

「う、うわぁ!! 来たあぁぁっ!!」

 気付けば、先程まで数十メートルは向こうに居たブリックが、目前まで迫っていた。

 ブリックは今、時速五十キロメートルで魔人達を轢きながら縦横無尽に駆け回っているのだから。


「オラオラ、チンタラしてるとお陀仏だぞぉ!!」

「獣風情がああぁぁっ!!」

 グシャッと肉が潰れ弾ける音がまた聞こえる。ブリックは守護の首飾りタリズマンによる防壁を、攻撃に転用する事で大量殲滅を成す事にした。理由は簡単で、自分の得意分野は殴り合いだからである。


「俺は駆け回って殴るしか脳がねぇからなぁ」

 実は、仲間内で銃撃が最も苦手なのはブリックである。

 理由は簡単、狙うのが苦手なのだ。適当に撃って、狙いを外す。

 しかしその分、ミサイルランチャーやロケットランチャー等の爆発物は好きである。そして今、宝物庫ストレージから取り出したモノもだ。

「ほれほれっ! ほーれほれっ!」

 手に持ったグレネードランチャーから放たれたグレネード弾。接触式のそれが地面や魔人達に接触した瞬間、爆風が周囲を染める。

「うぎゃあああぁぁぁっ!?」

 魔力駆動二輪を駆り、超高速で走りながらグレネードを撒き散らす。

 その内、ブリックは面倒になって宝物庫から直接グレネードや手榴弾を放り投げ始めた。

 時速五十キロメートルで迫る防御結界、避けられても爆発物の雨霰。

 逃げ回っても、嗤いながらそれを追い掛けるたった一人の獣人。魔人達にとっては、この世の地獄であった。


 ……


「メアリーは奥の魔法使いを狙って! クラウスは迫ってくる連中を一斉掃射!!」

「あいあい~!」

 ジルの指示に従い、動き回って精密射撃を放つメアリー。

 村人時代、逃げる兎や鹿に矢を射て仕留めていたメアリーにとって、魔人族は的として大きい上に動きが鈍い。更に魔法使い達は詠唱の為に、足を止めている……ただの的なのだ。

 加えて、大好きなご主人様が製作した矢はただの矢ではない。


「機雷パイセン、それ~!」

 気の抜けるような間延びした声色ながらも、本人としては大真面目に矢を射る。放った矢の先は鏃ではなく、鏃と同サイズ・同質量の球体。

 それが魔人族の魔法使いに当たった瞬間、周囲を巻き込み爆発した。

 ——遺失魔道具アーティファクト“機雷矢”。

 敬愛するご主人様に倣い、メアリーは機雷パイセンと呼んでいる。


 ……


 そして、武器を手に駆け寄ってくる魔人達に対して、両手のガトリングガンを放つクラウス。

「挽肉にしてやるぜ、手前らぁっ!!」

 ミリアン獣王国でも使用していたので、操作方法は熟知している。

 尚、クラウスがガトリングガンを多用したがるのは、実はユートのせいだったりする。

 獣王国の王都レオングル防衛戦で、ユートが「自分のお気に入りを貸してやる」と言ったのだ。なので、クラウスにとってガトリングガンは、敬愛する主人であるユートの象徴と思っている。思い出深い逸品である。

「ご主人愛用のガトリングで、ご主人の為に戦う! これが俺の生き様だあぁぁっ!!」

 叫びながら、魔人族を次々と殺戮していくクラウスは、魔人族から見てみれば凶悪な狼獣人に映る事だろう。


 ……


 広範囲を巻き込めるロケットランチャーで応戦しつつ、尊敬するご主人様から渡されたゴーグルの形をした遺失魔道具アーティファクトを活用して戦場を見極めるジル。

 ——遺失魔道具“眼鏡型地図ゴーグルマップ”。

 最早ユートのセンスに情状酌量の余地は無い。

 そんな事は露知らず、素晴らしい遺失魔道具アーティファクトを託されたと誇らしく思うジルは、殲滅に気を取られている二人に指示を飛ばしていく。

「クラウス、そこから三時の方向へ移動して! メアリー、十時の方向に魔法使いがいる!」

 殲滅力に優れる二人をコントロールできるジルは、優秀な戦略家として成長著しいようだ。


 ……


 頼もしい仲間達を横目で見つつ、アイリは戦場を駆け巡る。

 脚力に優れたアイリは、ユートから許可された“切り札”を使うタイミングを見計らっていた。

 双銃刀を振るいながら撃ちながら、魔人族を翻弄する。しかし、先代魔王軍の魔人族は、アイリの事を逃げ回る兎獣人として見ていた。

「ほれほれ、兎ちゃんはどっちに逃げるかなぁ!」

「殺す前に、裸にひん剥いてあげちゃおうかぁ!」

「お前処女かぁ? 何なら死ぬ前に、俺達が卒業させてやるぞぉ?」

 戦闘の最中にあって厭らしい表情と哂い声。それが、アイリには我慢ならない。


「……下衆が」

 駆けながら、跳ねながら、斬りながら、撃ちながら……そして、準備が整ったのをアイリは確信する。

「後悔すると良いです、下衆共」

 宝物庫ストレージから取り出した、グリップ型のコントローラー。

 それを手にするアイリも過去二回、ユートが使った“それ”の猛威を目の当たりにしている。アイリは魔人族達の直上に向けて、ある弾を撃つ。

「何だぁ、何処狙って……」

「……は、何だあれ……」

 専用の門弾ゲートバレットによって召喚される、広範囲殲滅兵器“破滅を呼ぶ星リュシュフェル”。


「水による圧殺、風による窒息死、火による焼殺……どれがいいか考えていたのですが、下衆なお前達に相応しい殺し方が見つかりました……塵も残さず消え去ると良いでしょう」

 コントローラーを構えつつ、呆気に取られる先代魔王軍を一瞥するアイリ。

「こ、こいつを殺せえぇぇっ!!」

 アイリを狩るつもりの魔人達は、自分達が狩られる側という事にようやく思い至った。

 身の危険を察知した先代魔王軍がアイリに殺到しようとするが、もう遅い。


 それを考慮した上で、アイリは魔人達を“砲撃範囲”に追い込んでいたのだから。


「ユート様の遺失魔道具アーティファクトで死ぬお前達は幸せです、感謝しなさい」

 トリガーを引くと同時に放たれたのは、金属の球体。“雷属性付与”で放たれた、レールガン・ストライク。

 その衝撃で地面が爆ぜ、魔人達は肉片となって散っていった。守護の首飾りタリズマンで身を守っていたアイリを除き、その区域の敵は原型を留めずに生涯を終えた。


************************************************************


 尚、盛大に撃ったり投げたりしているユート製の銃火器類だが、その弾丸の補充等はアーカディア島で行われている。

 レイラ・エミル・ジョリーン・リリルルがせっせと宝物庫ストレージから取り出し、せっせと弾を装填し直して、せっせと宝物庫ストレージに戻して行く。

 それを応援しているクレアも含め、真の意味でアーカディア勢総動員で魔王国での戦闘に臨んでいた。


************************************************************


 ユート達が出陣してから、二十分程。

 魔眼で戦況を伺っていたアマダムは、アーカディア勢のあまりの無双っぷりに冷や汗をかいていた。

 東・西・南の大門。それぞれ二~三万の敵が襲っていたはずなのだが……。


 門の外で行われたその戦い振りは、虐殺という言葉が可愛く思えてくる。

 最早戦い等とは呼べない。

 あれは作業だ。ただ、敵を殺処分するだけの作業。


 ユートの自信の正体が、解った。軽々しく死地に一国の王子や皇子を借り出して尚、平然としている理由も。

 十万の先代魔王軍が居たとして、ユートは人が十万、兵士が十万と捉えていない。

 小蟻が十万匹居るから、殺虫剤を撒いて殺そうという程度の事態。仲間達にも「殺虫剤を渡すから、手伝ってね」程度の感覚。

 現に、彼の仲間達に一切の焦りや恐怖が無い。勝利を確信しながら、彼らはその力を振るっているのだ。


 さて……事ここに至って、確認しない訳にはいかない。北の大門……そこに向かった愛する妹と、盾の女勇者、そして勇者と聖女の子供達。

 どんな殺処分作業が繰り広げられているのか、興味半分恐怖半分の面持ちで、アマダムは魔眼による俯瞰視点を北に移し……そして、絶句した。


 ——そこは、正に地獄だった。

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