06-09 先代魔王軍襲来/集結
これまでのあらすじ:アヴリウス大迷宮を攻略したら、概念魔法を会得しました。
僕達は朝から王都へ入り、魔王城へ向かった。どこかの馬鹿者のせいで寝不足の勇者達は、まだ宿を出た所だ。
「それで、勇者達より先に報告を済ませてしまいます?」
「わざわざ待つ必要はありませんからね」
アリスとリインがそんな事を言うが、そこまでするつもりはない。
「いや、王城で勇者達の到着を待つよ。アマダムも報告を受けるのは一度の方が良いだろう」
魔王だからね、忙しそうだし。
ただし勇者達が来る前に、遺失魔道具を渡すのだけは先に済ませておきたい。
アマダムとクリスに、遺失魔道具……守護の首飾りをまだ渡していなかったからね。
それに、二人なら……うん、腕輪型携帯念話と宝物庫の指輪も渡すか。魔人族の英雄……父さん達の仲間と、その妹だもんね。
そして、それらの遺失魔道具はマサヨシやグレンに見られたくない。厄介な事になるのが目に見えているからだ。
「確かにその方が良いと思います。ユート様や私達が居れば、自分達を誇張して報告するのが難しいですからね」
アイリはマサヨシを何だと思ってるのか。まぁ、大迷宮でのやり取りで大体分かるけど。
「それじゃあ行きましょうか」
姉さんに促され、僕達は王城へ入っていく。
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「……何故、お前達の方が先に居るんだ、ユート・アーカディア」
フルネームで呼ぶなよこの野郎。
「普通に来ただけだぞ、むしろ遅かったな。待ちくたびれたよ」
暗にノロマと言って、アマダムとクリスに向き直る。
「待っていた? お前がか?」
既に二人には遺失魔道具を渡し、大迷宮攻略を果たした事を伝えた。ついでに、残念勇者が何か報告する気だとも伝えてある。
「報告は一度に済ませた方が、アマ……魔王陛下としても楽だろうからね」
「気遣い感謝しよう、ユート。さて、報告とやらを聞かせて貰えるかな」
穏やかに微笑みながら、アマダムが報告を促す。
……
そして、マサヨシが率先して報告を始める。
が、自分達が僕達の後をコソコソ付いて来て、メグミ以外一度も戦闘すらしていない事は省いている。
それに、見て来たかのように根源魔法や悪魔族の事を話しているが、少し誇張があるな。
いつから根源魔法は世界を救う勇者の為の究極魔法になったのか。
いつから悪魔族は勇者が討ち取るべき相手になったのか。
これ多分、本気でそう思っていそうだなぁ。
マナとユウキの表情が曇っていく。苦労するね、彼等も。
……
「ふむ、不明点は未だあるが、確かに報告は受け取った。それで、根源魔法とやらは何人が獲得できたのだ?」
その言葉に、マサヨシ達の顔が歪む。
「そ、それは……」
「僕達のパーティは全員、勇者達はメグミのみだ」
僕がサクッとバラす。
「……っ!!」
なに睨んでるんだよ、事実だろうが。
これまで口を挟まなかった僕が、ずっと何も言わないと思った? 残念でした、んな訳ないだろ。
「ふむ? 勇者達は一人しか獲得出来なかったのか。何か理由が?」
そもそも攻略できていませんから、なんて言えないわな。さーて、どう言い訳するのかな?
黙り込む勇者に、アマダムが首を傾げている。
そんな中、念話が送られてきた。
『……ユート』
この独特の喋り方はクリスか。早速腕輪を使いこなしているようだ。
『なんだい、クリス』
『……勇者達は、攻略したの?』
鋭いな。まぁ目の前の様子を見れば解るか。
『勇者達は、大迷宮で別行動だったんだけどね。僕達の後を尾けて来たんだよ』
その為、彼等はメグミ以外は大迷宮で戦闘すらしていない事を伝える。
『メグミ……出来たの?』
『あぁ、メグミは守護者の攻撃から僕を守ってくれた』
『……わかった』
僕にそう告げたクリスの視線が冷たい。その視線はマサヨシに向けられていた。
結局、うまく言葉が出て来ないマサヨシに業を煮やしたアマダムが、こちらに視線を向ける。
「ユート、お前達は全員が概念魔法を獲得している。お前達と勇者達の差は何だ?」
やれやれ、やはりこうなるよね。まぁ、至極当然の疑問だろう。
「アヴリウスという男の記録映像魔法によると、あの大迷宮は個々の強さを試すために入り組んだ迷宮になっていて、罠や強力な魔物が多数配置されている。最後の守護者も、まぁ強いしな」
「ふむ、そのようだな」
「どういう探索や戦闘をしたのかは一緒じゃなかったから知らないが、守護者と先に遭遇し、戦って倒したのは僕達だったからな。それで、攻略条件を満たさなかったと判定されたんじゃないか? 守護者戦で、僕を守る為に盾でケルベロスを受け止めてくれたメグミは、攻略に貢献したと判断されたんだろう」
オブラートに包んで話したので、勇者達があからさまにホッとした顔をしている。
しかし、だ。
「……ふぅん」
アマダムも察したな、これは。勇者達は居心地が悪そうだ。
「まぁ、そういう事なら理解出来なくもないな。それで、お前達はこの後どうするつもりだ?」
「各地の大迷宮を巡って、回復の概念魔法を探そうと思うよ。仲間達が待っているんだ、グズグズしていられない」
本人達は義手と義足が高性能ではしゃいでいるし、クラリスはクラリスでアーカディア島の守護霊を自称して島を探検している。待って……いるんだよね?
「そうか……それで、勇者達は……」
マサヨシ達にこれからの事を聞こうとしたアマダムだったが、その言葉が遮られてしまう。
「謁見中失礼致します! 魔王陛下に緊急のご報告! 先代魔王軍が王都の四方から接近中! その数、東二万、西二万、北三万、南三万! 十万の軍勢です!」
その言葉に、アマダムの表情が凍り付く。クリスも顔を青褪めさせて、アマダムの方へ視線を向けた。
十万……それも、四方からか。
「王都の外壁門を閉鎖せよ! 先代の軍は一般市民、女子供も容赦なく殺害するならず者共だぞ!」
「ハッ!!」
「全軍に通達、王都民を避難させよ!」
「はっ、ただちに!」
アマダムはそれからも矢継ぎ早に指示を出していき、兵士達はそれを受けて走り出す。
しかし、かなり状況は悪い。王都の兵士は、新兵含めて五万程度しかいないみたいだ。倍の戦力差は覆し難い。
『これは、支援要請が来るかな?』
『四方に散る場合、我々は何処に配置されるでしょうかねぇ』
トラブル遭遇は毎度の事だ。最早、この程度のトラブルに慌てる事は無い。
僕達は戦闘モードに思考を切り替えていた。
そして、指示を出し終えたアマダムが僕達に視線を向ける。
「ユートとその仲間達……そして勇者に冒険者グレンとその仲間達。お前達に頼みたい事がある」
先代魔王軍との戦いへの、参加要請。誰もがそう思っているだろう。
——しかし、僕は気付いてしまった……アマダムの目が、それを否定している。
「転移魔法陣の使用を許可する。人間族の大陸へ戻り、オーヴァン魔王国の現在の状態を報せて欲しい」
それが、魔王アマダムの結論だった。
「待て、魔王。俺は戦うつもりでいるぞ」
「不要だ、人間族の勇者よ。これは我々魔人族の問題だ」
十歳過ぎたくらいの少年にしか見えないアマダムだが、彼は魔王だ。そんな彼が発する威圧感に、マサヨシは後退る。
「ユート、アンドレイ達に報せて欲しい。これは、伝手のあるお前だから可能な事だ」
「……あぁ、アンドレイ叔父さんに、ミリアン獣王国やヴォルフィード皇国にも伝えておくよ」
それはつまり、“オーヴァン魔王国からの撤退”を肯定する言葉。僕の発言に、勇者達やグレン達だけでなく、姉さん以外のパーティメンバーも目を見開いた。
「四大陸の国家と伝手があるお前は、やはりおかしいな」
全く、余計な事を話している場合じゃないだろうに……。
「それとアマダム、これを活用してくれ」
僕が差し出したのは、試作した遺失魔道具だ。
「こいつは遺失魔道具で、防衛結界を発動出来る。魔力さえあれば、王都を覆う結界を維持する事も可能だろう。王都民の避難を進める為の、時間稼ぎに使ってくれ」
この説明なら、勇者達やグレン達はアヴリウス大迷宮で発見した物とでも思うだろう。
「感謝する、ユート」
そして、歩み出るクリス。
「ユート、皆……ありがとう。兄上や他のみんなに再会出来たのは、皆のお陰……」
「転移魔法陣のところへ案内する。ザナック、しばしここを頼む」
ザナックと呼ばれた執事は、恭しく一礼して応える。
……
王城の地下にある、秘匿された部屋の中。
「これは先代魔王が、各大陸に攻め込む為にと研究していた転移魔法陣だ……一方通行のな」
そう、三つの転移魔法陣が部屋の扉の先にあった。扉から見て右が西大陸、正面が南大陸、左が東大陸の物らしい。
「お前達が転移した後、この部屋は破壊する。万が一、先代魔王軍にここを占拠された時、他種族を危機に晒す事になるからな……先王は暴虐の魔王だったが、この魔法陣を用意した事は感謝せねばな。これで、お前達を無事に送り届ける事が出来る」
自嘲気味に笑い、魔法陣に魔力を流すアマダム。
「さぁ、行ってくれ。それと追加の伝言を頼む、先代魔王軍を討伐した後、各種族と和平の為の話し合いをしたいと」
負ける気は無いと言外に言っているのだが、その声には力を感じられない。
魔人族の英雄と言えど、流石に倍の戦力差を覆すのは困難……きっと、強がりなのだろう。
「解った」
「ユート……またね」
そう言って、輝き出す魔法陣の中に入った僕達に声をかけるクリス。だが……。
——トンッ
アマダムがその背中を押した。クリスはそのまま、魔法陣の中に入り……僕はそれを抱き止める。
「アマダム、お前……」
「兄上……!?」
アマダムの顔は、笑顔だった。
「妹を頼む、ユート。クリス、もう一度お前に会えて、僕は嬉しかったよ」
「兄上……!!」
魔法陣から出ようとするも……一歩、足りなかった。僕達は魔法陣の輝きに飲み込まれ、東の大陸……人間族の大陸へと飛ばされた。
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僕達が飛ばされたのは、イングヴァルト王国の隣にあるヒルベルト王国の海岸だ。
クリスは膝を突いて、海の向こうにあるだろうオーヴァン魔王国の方向を見つめて涙を流している。
「……クリス、元気を出してくれ。何とかして、魔王国へ行こう。まだ間に合うはずだ」
そんな言葉を投げ掛けるマサヨシだが、気休めにもならない。
海を渡る手段は? 陸路をどう進む? どれだけ時間が掛かる?
何の保証も無い言葉に過ぎない。
勇者達やグレン達がクリスを囲んで声をかけ、励まそうとしている。
そんな様子を横目に、僕は“準備”を進める。黙り込んで立っているだけに見えるだろうけどね。
マサヨシやグレンが非難めいた視線を時折向けて来るから、クリスの事を放置していると思っているんだろうな。
……
数分後、全ての準備は整ったようだ。
「さて、行こうか」
僕の言葉に、マサヨシが強い不快感を顔に浮かべる。
「何処へ行くというんだ! イングヴァルト王国か!? クリスの気持ちを考えろ、ユート・アーカディア!!」
何故フルネームで呼ぶんだよ、呼び難いだろうが。まぁ、コイツにユートなんて呼ばれたくないけどな。
ってかクリスって呼び捨てにしていいって言われたの、僕だけだった気がするんだが。
「黙っていろ、残念勇者。クリス、今すぐアマダムの加勢に行くぞ。戦うなら付いて来い」
「……ユート? でも……」
「行く手段を”俺”が持っていないと思うか?」
遺失魔道具の事は、アマダムやクリスには伝えてある。
マサヨシやグレンに、遺失魔道具の事を知られる事になる。
だが、それがどうした? そんな些末事、どうだって良いだろう?
友人と友人の為に、俺が全力を尽くすのは当然だ。
「行け……るの?」
「あぁ、君を兄貴の所へ連れて行く。やるんだろ、お仕置き」
冗談めかしてクリスの顔の位置に視線を合わせる。クリスは涙を流す目を、ゴシゴシと拭って……力強く頷いた。
「んっ!!」
俺は銃剣に門弾をセットする。
「おい待て、今すぐと言ったが、本当にそんな事が出来……」
——パァンッ!!
マサヨシが煩いので、銃声でその言葉を遮る。展開された転移魔法陣に、クリスや勇者達、グレン達が呆気に取られる。
「付いて来るかどうかは自分で考えろ。一分しかコイツは持続しないからな」
そう言って、俺は転移門を潜った。
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起点にしたのはアマダムに渡した防御用遺失魔道具。それは城の謁見の間に置かれ、魔導師達が魔力を注ぎ込んでいたらしい。
玉座に座り、魔眼で魔王国全体を見渡している様子のアマダムが、俺の姿に気付いて立ち上がる。
「ユート、何故ここに!?」
更に俺のパーティに、クリス、勇者達とグレン達が転移魔法陣から出て来るのを見て、アマダムは唖然としていた。
「クリス、それにお前達まで……何故、どうやって戻って来たのだ!?」
「よっ、アマダム。忘れていただろう、俺はあの両親の息子だぞ? あぁ、アンドレイ叔父さん他三カ国の王には、殿下経由で話を付けておいた」
「それは良いが、ユート! お前達を巻き込むつもりは無いと……!!」
「黙らっしゃいバカ魔王。クリス、お仕置きは後にしてくれよ」
そう言ってクリスの頭を軽く撫でると、アマダムに近付いていく。
「何を……何を考えているのだ、ユート……!?」
「言わなきゃ解らないのか、まったく……」
……その胸に、拳を軽く当てる。
「“手伝ってくれ”くらい言えよ。友達が困ってりゃ、いくらでも助けるぞ」
「……友、達」
「ほれ、どうするんだ」
俺の視線に、アマダムは逡巡し……そして、目を開いた。
「やはり、一国の王としてそれは出来ん。余もお前を友と思っているが、これは魔王としての余の責務。それを、無関係なお前達にまで負わせる気は無い」
うーむ、そう来るか。それなら仕方ないな。
「そうか。じゃあ協力はしないで……勝手に暴れさせて貰うわ」
「はぁっ!?」
俺の言葉に、目を剥くアマダム。落ち着けよ、魔王陛下。
「それじゃあ、助っ人を呼びますかね。そぉい!!」
もう一度、門弾を壁に放つ。そこから現れたのは……。
「やっとか、ユート」
「お待ちしていました、ユート殿」
「やっほー、ユート君久し振りー!」
イングヴァルト王国第一王子アルファルド・フォルトゥナ・イングヴァルト。その護衛、エミリオ・フォン・メルキセデクとシャルロット・エルナード。
「で? 話は付いたのかよ?」
ミリアン獣王国第一王子ブリック。
「あぁ、交渉決裂。だから、俺達は勝手に暴れるぞ」
「相変わらずメチャクチャだな、君は」
俺の言葉に苦笑いするのは、ヴォルフィード皇国第一皇子マックール・デア・ヴォルフィード。
「ですがユート様らしいですわ」
マックにそう返すのはヴォルフィード皇国第一皇女にしてアルファの婚約者リアンナ・デア・ヴォルフィード。
無論、それだけではない。
「久々の出番だな!」
「はい、頑張りましょう!」
「やっちゃう~!」
ミリアン獣王国で獣王武勲章を叙勲された、王都レオングル防衛の英雄クラウス、ジル、メアリー。
「ジョリーンやリリルルの分まで、頑張っちゃうよー!」
「そうだな、あいつらの分まで暴れてやろうぜ」
クエスト王国の王都カルネヴァーレ防衛に参戦した、腕利きのドワーフ兄妹マルクとエルザ。
アーカディア島に集結し、この戦争に駆け付けて貰った……俺の仲間達だ。
……
「よし、全員揃ったな。それじゃあ戦況を説明するぞ。現在、オーヴァン魔王国の王都グランディアに向けて先代魔王軍十万人が四方向より接近中。遺失魔道具で王都を守護結界が覆っているが、そんなに長時間はもたないだろう。これより俺達は四方に分散して、各自二~三万の雑魚を掃討する。何か質問は?」
「はーい!」
俺の言葉に、エルザが手を挙げる。うん、挙手とはいい心掛けだ。
「ねぇねぇユート兄、どこまでやっていい?」
「徹底的にやっていい、宝物庫も全解放してやる。むしろ、二度と馬鹿な真似が出来ないレベルまで追い込んで、連中の心をヘシ折れ。これは戦争だ、生死は問わん」
俺の過激な発言に、仲間達はニヤリと笑う。大分、俺の思考に染まって来たんじゃない?
逆に勇者達とグレン達は、展開に付いて行けずポカーンとしている。それはアマダムやクリス、魔人族の臣下達も同様だった。
「ユート、使っていいのか?」
「あぁ、好きな物を好きな時に好きなだけ使え」
アルファが問い掛けて来たのは、“遺失魔道具を使ってもいいのか”という意味。無論、構わない。
遺失魔道具の事がバレるだろう。
だが、俺の身内を守る為に、そんな些事に拘る方がバカげている。
なので、今回は最初から最後まで全力全開で、先代魔王軍を根こそぎ殲滅する。
「ユ、ユート……お前、一体何をするつもりだ?」
「勝手にやるって言ったよな? だから、四分散して数の暴力に対し、質の暴力で捻じ伏せ、叩きのめし、ブッ潰すだけだぞ」
「正気か!? その少人数で!!」
それに対し、前に出たのは姉さん達だ。
「正気も正気なんですよ、アマダムさん」
「ええ、ユート君ですから」
「むしろ、これでこそユート様です」
「ユートさんが本気になった以上、こちらの勝ちは決まりましたね」
四人の絶対的な信頼と自信に、アマダムが口を半開きにして呆けていた。
「……ユート、私も行く」
そんな事を言い出したのはクリスだ。
「クリス、馬鹿な事を言うな!!」
「馬鹿は兄上、後でお仕置き……」
ジト目でアマダムを睨んで怯ませると、クリスは再び視線を俺に向けた。
「お願い……」
……身内に甘いのが、俺だ。なら、答えは決まっている。
「特等席を用意してやる、世界で一番安全と言う連中まで居る場所だ。絶対に俺から離れるな」
「……はい」
頬をほんのり赤く染め、クリスが首肯した。その様子を見て、アマダムは頭を掻き毟った。
「ああああぁ! ほんっとうにお前は! そんな所までレオに似なくてもいいだろうが!」
「へ、陛下!?」
陛下ご乱心。
「ユート、二時間だ! 二時間で事態を収束できなければ、大人しく避難すると約束しろ!」
俺に指を突き付け、アマダムが妥協案を出して来る。
「何言ってんだ、お前?」
「戦争がそんなに早く解決するはずも無いか? だが、そこまで大口を叩くなら、二時間以内でなくてはならん! それ以上は罷りならんぞ!」
本当に、何言ってんの?
「三十分で終わるぞ」
「はぁっ!?」
……時間が停まる。
やれやれ、こんな所で時間を食う訳にもいかない。手を叩いて、全員の注意をこちらに向けると、俺は指示を出していく。
「さぁ、それじゃあ始めるぞ。全員の配置を説明するからよーく聞けよ」
東西南北に分かれるには、戦力バランスが重要だ。でも、そんなの関係ねぇ。
ここにいる連中、できる奴らばかりなんだ。なので、大陸ごとに分けちゃおう!
東はアルファとエミリオ・シャルの三人に、ウチのパーティからアリスを派遣。
西はマック・リアの二人と、マルク・エルザ兄妹、こちらにはリインを派遣する。
南はブリックに、ウチの獣人戦士三人、無論ここにはアイリを派遣だ。
では北は? 残った俺と姉さん、クリスの三人である。
はい、以上!!
「お前はバカか!? 死ぬ気なのか!?」
俺達の配置分けを聞いたアマダムが、絶叫気味にそんな事を言う……が、周囲の反応は全く真逆のものだった。
「いや、魔王陛下。ユート一人がいるだけで、その配置は絶対に安全だ」
「おう。間違いなく敵は全滅するぜ」
「恐らく、数分も持たないんじゃないのかな?」
アルファ・ブリック・マックの台詞に、アマダムの表情が引き攣る。
魔眼で解っているのだろう、彼等が各国の王子や皇子だと。そんな彼らにそこまで断言される俺を、化け物でも見るような目で見られる。
「お前、本当にこれまで何して来た?」
「色々。それより時間が惜しい、こっちは始めさせて貰うからな」
一方的な宣言に、アマダムがもう一度頭を掻き毟った。
「あぁもう好きにしろ!! ただし一人でも死んだら許さんからな!!」
俺が居るのに、そんな事態になるわけ無いじゃん。
「それじゃあ行こうか……さぁ、反撃の時間だ!!」
「「「「「応ッ!!」」」」」
その号令に、仲間達が腕を突き上げ応えた。
……
俺達は王城から外に出て、宝物庫から魔力駆動二輪を取り出す。それを見咎めたマサヨシが叫んだ。
「何だこれは、バイクなのか!?」
「こ、これはあの時の……!?」
あ、グレンはコレ見た事あったな。
「お前達は好きにやれ、時間が惜しいからもう行く」
そう言って発進しようとして……その前に立ちはだかったメグミに止められた。
「……連れて行って下さい、先輩」
その真剣な眼に、俺は溜息を吐く。
「……後ろに乗れ」
そう言って、ヘルメットとグローブを投げ渡す。
「はいっ!!」
「ユート、私は……?」
既に安全グッズ装備済みのクリス。この娘なら小柄だから、大丈夫だろう。
「……俺の前、おいで」
「んっ!!」
嬉しそうに俺の前に股がるクリス、押し付けられるお尻……でもそんな場合じゃないから気にしない!
背中からギュッと抱きしめてくる後輩の、圧倒的な胸囲度……き、気にしない!!
姉さんがニコニコしとるんじゃが、気にしないったら気にしない!! !
「ま、待て! メグミ! それなら俺も……!!」
そう言って姉さんに声を掛けようとするが……姉さんが走り出した。
俺も無視して走り出す。そして皆も走り出す。作った魔力駆動二輪で走り出す。
置いてけぼりを食らった彼等がどうするかは、知らん。
 




