00-07 遺失魔道具/決心
これまでのあらすじ:叔父さんは王様でした、王子様はイトコでした。
どうも、ユートです。
王城のベッドがふかふかすぎて、つい二度寝してしまいました。孤島に戻ったら、羽毛布団でも作ろうかしら。
************************************************************
王城にお泊りして、翌日。僕と姉さんは、アルファ・アリス・シルビアと共に王城の庭園でお茶をしていた。
「それではユート君は兵士達と一緒に、魔物の群れに向かっていったのですか!?」
驚いたアリスの様子に、それは驚くよなぁと我が事ながら呆れる。
「うん、後で兵士さんに怒られた」
まぁ、十歳の子供がしゃしゃり出れば、良識ある大人は怒るよね。父さんの場合、無茶をしなければ「それでこそ男だ!」とか言って笑うんだけどね。
「キリエお姉ちゃんは、法術で兵士さんを癒したのですよね?」
「ええ、そうですよ」
目をキラキラ輝かせるシルビアに、キリエ姉さんが笑顔で答える。
「……十一歳で神官にしか使えない法術を……それに神殿で洗礼を受けた事も無いはずでは……」
普通は使えないのかよ、法術。姉さん迂闊過ぎだろ、引っ込みつかないぞコレ。
と言うか、アルファも今気付いた! って顔しているけど……。
やれやれ、弟は姉のフォローも喜んでこなすのだ。
「アルファ、姉さんはちょっと特殊な事情があるんだよ。父さんと母さんの実子じゃないし……いつかちゃんと、説明するから」
小声でアルファに告げると、胡散臭そうな顔をしながらも、追求はしないでくれた。
子供達のお茶会を、周りの騎士達や侍女達が微笑ましそうに眺めて持ち場へ戻って行く。
王城へ向かう際にも、農村とか城下町とかを馬車から見たけど、良い国なんだろうな。まぁ、王様があのアンドレイ叔父さんだしな。
そこへ、アンドレイ叔父さんとアレックス叔父さんがやって来た。
「仲良くしているようで重畳だな」
アルファが席を立つので、僕達もそれに習う。
「良い良い、我が子や甥姪達の姿を見て、立ち寄ったに過ぎぬ、そのまま寛ぎなさい」
「ユート君、キリエちゃん。アリスと仲良くしてあげてくれ」
そう言って、軽く手を挙げて去って行く。
去って行くまではにこやかな親戚の叔父さんの顔だったが、回廊の辺りに行った頃には、二人は国王と宰相の顔になっていた。切り替えスイッチすげぇな。
……
アルファとシルビアは日課の教育を受けるとの事で、その間僕達は一緒に街へ出た。
アリスは公爵令嬢なのだが、街へはよく出るのだろうか? その事を聞いてみると、アリスは首を横に振る。
「今回はユート君とキリエさんがいるからです。普段ならこんな風に出歩く事など許可して貰えないんですよ」
「やはり、誘拐等を警戒されるからでしょうか?」
「そうですね、それに父は宰相を務めています。その地位を狙う者も少なからず居るでしょう……まぁ、恐らく私達に気付かれないように護衛の方がいらっしゃるはずですから」
うわぁ、ドロドロしてる。貴族って大変。
アリスの案内で、服飾店やら雑貨屋やらを巡る。その途中で、武具や防具を売る店舗を見かけた。
「ちょっと見ても良い?」
「あ、はい。大丈夫ですが」
「いいですよ。ユーちゃんも何か気になる物でもありました?」
ここまで僕は荷物持ちオンリーだった為か、アリスも姉さんも快く許可してくれた。ちなみに余談だが、女の子の買い物が長いのは異世界でも変わらないらしい。
「いや、市販の装備ってどんな感じなのかなって」
僕の持っている武器は父さんが作ったものだから、比較してみたい。
「いらっしゃい」
武具店に入ると、厳しいオッサンが無愛想に一瞥し、興味を失ったように視線を逸らす。
今はショートソードもラウンドシールドも、革鎧も身に纏っていない。そんな手ぶらで十歳前後の子供が、三人で入ってきたのだ。大方、武器を見てみたい子供特有の好奇心か、冷やかしだと思われているのだろうな。
ここに居るのが公爵令嬢だと知ったら、このオッサンどんな反応するかな?
そんな事を考えつつも、オッサンを気にせずに店内に視線を巡らせる。流石にあれこれ手に取って見るのは憚られるから、見るだけだ。
そう言えば、母さんから教えられた付与魔法があるな。オッサンに聞こえないように、小声でやる事にしよう。
「“解析”」
野草を採る時に教えて貰った付与魔法だ。
自分の眼に解析の付与を行うと、店内に陳列されている武器や防具の詳細が見て取れる。その際、一本のダガーだけは他の物とは違った。
「魔道具……? 火炎のダガー、か」
ガタンッと椅子が倒れる音が耳に届く。振り返ると、店のオッサンがこちらを驚いた顔で見ていた。
「ボウズ、それが火炎のダガーだと解るのか……?」
「え、えぇ……まぁ……」
そうか、魔道具である事を見抜いたのに驚いたのか。
解析した眼で火炎のダガーをよく見ると、魔石に式が刻み込まれている。
更によく見てみると、詳細な情報が浮かんで来た。それにしても、情報の見え方が……まるでゲームの表示みたいだ。
どうやら、式は魔力の文字で構成されたものらしい。文字の内容は、どうやら火炎弾の呪文詠唱を文字にした物のようだ。成程、こうやって魔道具は製作されているのか。
「店主殿、こちらに置かれている魔道具はこれのみでしょうか?」
「あ、あぁ……魔道具は中々出回らないし、そもそも魔石は高価で希少だからな。それに熟練の付与魔導師でも、二十回に一回成功する程度とか言われている程だ」
ふーむ、中々にレアな装備のようだ。魔道具を前にして、僕は他にも色々なものを鑑定してみたくなってきた。
しかし、前々から気になる点がある。
解析を付与した僕の眼に映るもの……物品、扉、そして人。全てに吹き出しのようなものが上に浮かび、それを更に注視すると吹き出しが拡大して文字が表示される。ちなみに何故か、表示言語は日本語だ。
物ならばその品名・製作者・等級が示され、更に注視すると下方に効果・物品の概要等が表示される。
扉なら、その先の空間名称が現れる。そして人は……名前・レベル・ジョブ・階級・HP・MPが表示され、更に注視すれば出身地・所属・所持スキル等が表示された。
ゲームかよ! ってツッコミ入れるのも仕方ないだろう。
だから、そんな疑問を姉さんに以前聞いてみたんだけど、その真実に少々呆れた。
「この世界を管理する世界神様の一柱が提案したみたいですよ」
「何でまたそんな事をしたんだろう?」
「大方、下界に面白い物や人間が存在しないかを観察したいからだろうと、創世神様が」
ツッコミどころはとても多いが、中々に有用な魔法な気がする。
「ちなみに、解析による表示はその人の見やすい形式で表現されます」
あぁ、だから日本語でゲーム画面なのね。
……
魔道具の話をしたところ、アルファがそれならば、と僕達を連れ出した。
そんなアルファに連れられて来たのは、王城の奥。それは所謂、宝物庫らしい。何か豪華な装飾がされた剣やら、色とりどりの宝石やらが整然と並べられている。
「い、いいの? 入っちゃって……」
「心配は要らん、父上の許可は頂いているからな」
なんて許可出しているんだ、叔父さん。僕らが邪な考えを持つ子供だったら、ここの宝石とか持っていっちゃうだろうが。
「不埒な考えをするようなら、最初から連れて来ないに決まっているだろう」
「……僕、声に出してないよね?」
「顔に出ているぞ、ユート」
おぉう、さすがは王子様だ。
視線を泳がせていくと、ここには多数の魔道具があった。
そんな中ふと、一本の剣に目が留まる。他の武器などと比べ、装飾もそんなに派手じゃない。しかし、目を惹き付けられる……何故だろう。
「……それに目を付けるか」
そう言ってアルファが剣を徐に手に取ると、僕に差し出してくる。
「抜いてみても良いぞ、ユート」
剣を受け取り、言われるままに剣を鞘から抜く。銀色に輝く両刃の剣は、不思議な力を感じさせる。
"解析"を付与した眼で見てみると、驚くべき事実が視えた。
「付与魔法を使うお前なら、魔道具に興味を示すかと思ったのだ……最も魔道具製作の為には魔石が必要で、魔石は高額だからそうそう流通していないものだが」
「でも、これに嵌め込まれているのは魔石じゃくて普通の宝石なんじゃないか? この石からは魔力を感じない」
「……気付いたか、その剣には魔石が無い。しかしその剣は確かに魔道具なのだ。その製法は未だ解明・再現されていない。故に、古代の付与魔導師が製作した魔石を用いない魔道具を……遺失魔道具と呼ぶ」
遺失魔道具……。
その存在にも驚いたが、僕は全く別の事に興味を惹かれていた。鑑定で視えたある情報が、この遺失魔道具そのものへの興味となっていた。
“製作者名:ショウヘイ・カンザキ”
************************************************************
翌日、僕達はアンドレイ叔父さんに呼ばれた。その場には宰相のアレックス叔父さん、第一王子であるアルファルドが同席する。
「さて、お使いの本当の理由を話しておくとしようか」
叔父さんが挨拶もそこそこに、今回のお使い旅行の真意を切り出す。
「レオが課した今回のお使いは、君達二人が成人を迎えた際に自立する、前準備のつもりだったのだよ。孤島から出た事のない君達二人が島の外の世界を体験し、十五歳になったその時にどう生きていくかを選ぶ為にも必要な旅だったと言う訳だ」
なるほど。この世界の成人は、元の世界の二十歳ではなく十五歳。
そして、成人した者は庇護者ではなくなる。自分の力で生きていかなければならないのだ。
「そこでだ。二人さえよければ、私の下で働く気はないかな? 甥姪である君達ならば、身分を振り翳す貴族達もそうそう手は出すまい」
笑顔で、アンドレイ叔父さんがそんな事を提案してきた。更に、アレックス叔父さんが話に参加して来る。
「魔王討伐の勇者レオナルドの子として、是非とも我が国に属し、陛下や殿下に仕えて貰いたいと思っているよ」
勇者の子……か。そうだな、そうなんだよな。でも……。
僕が返答に迷っていると、アンドレイ叔父さんが言葉を続ける。
「ゆくゆくは、我が息子アルファルドを支えて貰いたいと思っておる。どうだ、アルファルド」
「私にとって、父上のご提案はとても魅力的だと感じます。ですが、それは彼等の気持ち次第。親類であり、友でもある彼等に成し遂げたい事ややりたい事があるのであれば、私はその意志を尊重したいと存じます」
「うむ、それは無論の事。私もユート君やキリエ君を、大切に思っておる。二人の意志を優先するのは当然だ」
一つ頷いて、アルファがこちらに視線を向ける。字面だけ見るとプレッシャーをかけて来ている様に思えるが、三人の表情は真剣ながらも穏やかだから……これは、きっと三人の本心なのだろう。
チラリと、横の姉さんを見る。
ニコニコ顔で、こちらに視線を向けると一つ頷いた。姉さんは、僕の守護天使だ。きっと、僕の意見を尊重してくれているのだろう。
僕は、叔父さん達に……いや、イングヴァルト王国のトップ達に向け、口を開いた。
「大変ありがたく、身に余る栄誉なのですが……僕は、世界を見て回りたいと思います。孤島から出て、初めて見るものや初めて聞く事が多く、この世界には未知であるものが溢れている事を、この旅で学びました」
断られる事は織り込み済みだったのだろう。三人の表情や雰囲気に変化は無い。
「だから、僕はこの世界を見て回り、見識を広げたいと思います」
そう、魔道具や遺失魔道具。そして、前の世界にも存在しない不思議が、この異世界には溢れている。
僕はそれを見てみたい、知りたいと思ったのだ。
うむうむ、とアンドレイ叔父さんが頷いているが、それ以外にも理由がある。
「それに、僕は未だ何も成し遂げてはおりません」
その言葉に、アルファが目を細める。
「魔王を討伐した功績は父とその仲間のもの。母が国王陛下の姉であっても、僕自身はまだこの国に何の貢献も出来はしません」
そう、父が偉業を成し遂げた英雄であっても。母が、目の前に座す大国の王姉であったとしても。僕はただのユートだ。
「僕は1人の平民として、一から始めたいと思っています」
「うーむ、残念。しかし、胸に響く良い言葉だったぞユート君。何か困った事があれば、遠慮無く来なさい」
そう言って上機嫌に笑い飛ばすアンドレイ叔父さん。
「その歳でそこまで考えられるとは、実に立派だ! うーむ、ユート君。うちのアリスと婚約する気はないかね?」
そんな事をのたまうアレックス叔父さん。
「よくよく考えたら、お前が臣下になったら傅かれる事になるな、それではつまらんし、かえってこうなった方が良かったのかもしれん」
ニヤニヤしながらこっちを見るアルファ。
「そうなったら、またアルファルド殿下って呼ばないといけなくなるな」
「やめろ、今更お前にそう呼ばれると背中がむず痒くなる」
顔を見合わせ、互いに笑い声が吹き出した。
……
アンドレイ叔父さんからのお誘いで、初日と同じ面子でディナーを頂く。
話題は、先程の謁見の話だ。一通りの話を終えると、女性陣の反応は様々だった。
「へ、陛下直々のお誘いを、断ったんですか……?」
「ユートお兄ちゃんとキリエお姉ちゃんは探検者か冒険者になるのでしょうか」
「素晴らしいわユート君! 立派ねぇ」
「本当ですね。ユート君ならアリスを任せてもいいのではないかしら」
アリスは勧誘を断った事に驚き、シルビアは僕達に感心する。ジュリア叔母さんとティアナ叔母さんは、反応が旦那と似ていてちょっと面白い……内容は置いといて。
「と言うか、僕の意見は僕の意見として、姉さんはどうだったの?」
返答は解っているが、念の為聞いておこう。
「もちろん、ユーちゃんについて行くつもりですよ。お姉ちゃんですもの」
ほーら予想通りだ、まぁ守護天使だもんな。
「そうだ、ユート。世界を巡った後で、私はもう一度勧誘するつもりでいるからな」
「え?」
「お前が世界を巡って身に付けた知識や、文化の良い部分をイングヴァルトに取り入れる為だ。そうする事で、イングヴァルトを更に良い国にしていきたい」
僕と同じ十歳だというのに、風格は子供とは思えないな。
まぁ、アルファは第一王子だから、王位継承権第一位にあたる。その為、幼少の頃から英才教育を受けて育って来たのだろう、それならば納得できる。
「勿論、その時に改めてユートの意志を確認させて貰うが、強制はしない事を誓おう」
「その心配は最初からしてないよ」
アルファは、僕を対等な友人として扱ってくれているからな。
「解った、その時改めて返答するよ」
「うむ。ユート、お前はいずれ大人物になりそうだな」
「アルファが叔父さんの後を継いで王様になったら、イングヴァルトは更に発展しそうだな」
「ふむ、アルファルドも随分と大きくなったものだ」
「そうですわね、陛下。こんなに立派になって……」
「イングヴァルトも安泰ですな」
アルファの王者の風格を感じたのか、アンドレイ叔父さんやジュリア叔母さん、アレックス叔父さんは随分嬉しそうだ。
「……」
アリスは何かを考え込んでいるようだ。一体どうしたんだろうか。
************************************************************
夜が明けて、僕達は王城の門へ来ていた。僕達は今日、孤島へと帰るのだ。
見送りはアンドレイ叔父さん、ジュリア叔母さん、アルファ、シルビア、アレックス叔父さん、ティアナ叔母さん、アリスと、王家勢揃いだ。
王城の門とは言え、無用心過ぎる気もする……ホラ、門番の人が気を張ってる。門番さん、心中お察しします。
「それでは、お世話になりました」
「大変お世話になりました」
姉さんと一緒に頭を下げる。
「ユート君が成人を迎えたら、また来たまえ」
「はい、その際はよろしくお願いします」
アンドレイ叔父さんと握手を交わす。
「五年後、また会おうユート」
「あぁ、その時を楽しみにしているよ」
アルファとは、永い付き合いになる気がする。
「ユート君、アリスとの婚約の件はくれぐれもよく考えておいてくれたまえ」
「はぁ……」
アレックス叔父さん、そればっかだな。
別れの挨拶を済ませ、みんなに見送られながら門を出る。その際、背後から声がかかった。
「ユート君、キリエさん!」
振り返るとアリスが皆より少し前に出て、胸元で手を握り締めていた。
「私も五年後、もっと成長して……お二人と並べるようになっています!」
少し涙を目に浮かべて、アリスは堂々と宣言した。その胸の裡は計り知れないが、彼女は僕達との出会いで何かを決意したようだ。
「五年後、また会おう!」
「またお会いできる日を、楽しみにしています!」
僕達もアリスに声をかけて手を振る。
アリスも、大きく手を振ってくれた。
数日かけて、僕達は孤島に帰還した。父さんと母さんに迎えられ、日常に戻る。
——そして、僕は早速“ある事”を試してみる事にした。
序章と、この後に投稿する幕間までは一気に掲載しました。
その後は、まだ手を付けている最中なので毎日更新とか社畜には無理そうです。
あまり期間があかないように、頑張ろうと思います。