06-03 勇者の要請/先輩・後輩
これまでのあらすじ:魔王国に留まる事になった。
「力を貸して欲しい、か。どの程度までを求めていて、どんな理由で力を貸して欲しいのか……教えて貰えるかな」
僕の返答に、矢口が一つ頷く。
「我々は、勇者として修行をしている最中に、不慮の事故で魔王国へ転移しました。その為、魔王国の情報は最低限しか知らないのが現状です」
旅をして来たんじゃなく、不慮の事故だったのか。
「現状では、魔王国と事を構えるつもりではありません。ですが、不測の事態に備えて戦力を確保しておきたいのです」
成程、理由は真っ当だ。しかし、僕の返答は決まっている。
「うん、断る」
僕の即答に、矢口以外の勇者達がギョッとした表情になる。
「お前、勇者の要請を断るのか!?」
「何一つ成し遂げていない肩書だけの勇者君、君の何が偉いんだね」
「何だと!?」
噛み付くマサヨシを無視し、僕を真っ直ぐに見る矢口が口を開いた。
「やはり、引き受けては頂けませんか?」
「あぁ」
「……理由を、伺ってもよろしいでしょうか」
その言葉に、僕は溜息を吐く。
「僕達は僕達の事情があって魔王国に来たんだ、君達の存在がその事情を上回るなら協力するのも吝かではないが、残念ながら優先順位は低い」
もっと言えば、彼等に遺失魔道具の事を教える気が無い。
矢口だけならと思わなくもないが、そうしたら“鑑定”を持つ他の三人にもどっかで絶対バレるだろうし。
「どんな事情があるって言うんだ! 勇者の要請を上回る事情なんて……」
「仲間の命だ」
僕の言葉に、マサヨシがビクリと震えて止まる。人の、それも近しい人の命が掛かっていると言う言葉に、彼らは躊躇した。
欠損を抱えるジョリーンとリリルル、蘇生させると約束したクラリス。彼女達と目の前の彼等では、優先度が違う。
黙り込む勇者達に、僕は宣言する。
「文句があろうが無かろうが、肩書だけの勇者のお守りは御免被る」
ちなみに、勇者達のステータスはこんな感じ。
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【名前】マサヨシ・カブラギ
【種族/性別/年齢】人間(異世界人)/男/18歳
【職業/レベル】勇者・剣士/15
【状態】ヒュペリオンの加護
【ステータス】
体力:10(+100)
魔力:10(+100)
筋力:10(+100)
耐性:10(+100)
敏捷:10(+100)
精神:10(+100)
【技能】剣術Lv10・火魔法Lv10・水魔法Lv10・風魔法Lv10・地魔法Lv10・雷魔法Lv10
【称号】勇者
【賞罰】なし
【名前】ユウキ・サクライ
【種族/性別/年齢】人間(異世界人)/男/十五歳
【職業/レベル】勇者・錬成魔導師/5
【状態】ヒュペリオンの加護
【ステータス】
体力:3(+100)
魔力:5(+100)
筋力:3(+100)
耐性:3(+100)
敏捷:3(+100)
精神:5(+100)
【技能】火魔法Lv3・水魔法Lv3・風魔法Lv3・地魔法Lv3・雷魔法Lv3・錬成魔法Lv5
【称号】勇者
【賞罰】なし
【名前】マナ・ミナヅキ
【種族/性別/年齢】人間(異世界人)/女/17歳
【職業/レベル】勇者・魔導師/10
【状態】ヒュペリオンの加護
【ステータス】
体力:5(+100)
魔力:8(+100)
筋力:5(+100)
耐性:5(+100)
敏捷:5(+100)
精神:8(+100)
【技能】火魔法Lv7・水魔法Lv7・風魔法Lv7・地魔法Lv7・雷魔法Lv7
【称号】勇者
【賞罰】なし
メグミ・ヤグチ
【種族/性別/年齢】人間(異世界人)/女/十五歳
【職業/レベル】勇者・騎士/7
【状態】ヒュペリオンの加護
【ステータス】
体力:8(+100)
魔力:6(+100)
筋力:8(+100)
耐性:10(+100)
敏捷:7(+100)
精神:9(+100)
【技能】剣術Lv1・槍術Lv1・盾術Lv6・火魔法Lv5・水魔法Lv5・風魔法Lv5・地魔法Lv5・雷魔法Lv5
【称号】勇者
【賞罰】なし
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「第一、足を引っ張られるのも迷惑だ」
「なっ……!!」
そう、ハッキリ言って彼等四人は足手まとい以外の何者でもない。
ヒュペリオン……人間族の世界神の加護でステータスが上がっているが、彼等自身が磨き上げたステータスは非常に低いと言わざるを得ない。加護が無ければ、付与魔導師である僕よりも低いのだ。
顔を紅潮させ、今にも掴みかかりそうなマサヨシに視線を向ける。
「海岸での戦闘、何なら駄目出ししてやろうか? まずお前からだ勇者マサヨシ。戦いってものをお前は理解しているのか?」
「何だと! お前に何が……」
「自覚が無いようだから、厳しめに言ってやる。あの時敵に襲われながら、お前は相手を殺すことを躊躇っていただろう?」
「……っ!!」
図星を刺され、マサヨシが押し黙る。
「その結果、お前は自分だけでなく味方を危険に晒した。お前の覚悟が足りないせいでな。それを自覚していないというなら、お前に戦場に出る資格は無い」
味方を危険に晒したという言葉に、マサヨシは何も言えず表情を青褪めさせる。
ま、コイツはどうでもいいから無視して、次だ。
「勇者マナ、お前もだ」
「……うん」
おっ、彼女は自覚があるようだな。
「勇者として戦う以上は、意思を持ち、言語を解す者と戦い、相手を殺すのは必然だ。その覚悟がないならば、勇者なんて役目を背負うのを辞めた方が良い」
僕の言葉に、下唇を噛み締めて俯くマナ。マサヨシと違って自覚がある分、耳にも痛いだろう。
だから出来るだけ、厳し過ぎないように伝えたのだが……それでも、心に来るものは来るんだろうな。
「勇者ユウキ。錬成魔導師である君には酷な言い方かもしれないが、身を守る術くらいは身に付けるべきだ。丸腰で戦場に立つのは、素手で相手を殺せる技術と殺意がある者だけだ」
「……はい」
ユウキも、教師に叱られている生徒のように俯いている……あぁ、もう。
「錬成魔導師は確かに戦闘に向かないが、それは僕の付与魔法も同じだ。戦う覚悟を決めるなら、自分の持ち味を生かす術を模索しろ」
「……えっ?」
「力の使い方を覚えろ。それだけで、生存率は上がる」
真摯な目で僕を見つめ、頷くユウキ。同じ非戦闘員なのに戦場に出る運命からか、少しアドバイスしてしまったよ。
さて、最後だ。
「勇者メグミ。君は盾しか使わないのか?」
「……はい」
「これからも?」
「……はい、そのつもりです」
真っ直ぐな視線で、僕に頷く。
「なら、逃げるな。最前線で大盾を構え、仲間を守るために歯を食いしばって攻撃を受け止めろ。それが出来るステータスを君は持っている、ならば後は覚悟だけだ」
僕の言葉が意外だったのか、矢口は目を見開く。
「何を不思議そうな顔をしている? その大盾は防具であり武器だぞ? その大質量で殴ればダメージを与えられる。気が引けるなら、仲間への攻撃を防ぐだけでも構わない。それも戦場における重要な役割だ。やるなら覚えておけ、守るための戦いってものもあるんだ」
剣や槍を振り回すだけが騎士じゃない。騎士の勤めは、あくまで何かを守る事なのだから。
「話は終わりだ、僕達は僕達でやりたい事があるし、これで失礼するよ」
返事など聞く気はない。そのまま僕は立ち去るべく踵を返す。
……だが、その前に。
「ここは日本みたいな平和な場所じゃない。殺すのも殺されるのも嫌なら、引き籠もって誰かが事を成すのを待っていればいい。殺るか殺られるか、それがこの世界のルールだ」
背中越しにそう告げて、僕は今度こそ歩み去る。姉さん達も、それに続いた。
……
宛がわれた部屋に入ると、何故か姉さん達も付いて来た。
「珍しいですね、ユートさんがあんな風に言うなんて」
僕にそんな声をかけたのはリインだった。
「そうかい?」
「えぇ、普段ならそもそも相手をしないでしょう?」
……まぁ、確かにそうかもしれない。
「……同郷の人達は、やはり放っておけませんか?」
アリスも、リインに追従する。このメンバーは、全員僕が転生した経緯を知っているからな。
「……死ぬ事無く、あの世界に戻れるなら……そうしてやった方が、彼らの為でしょ? 生き残れる確立は上げてやった方がいいとは思ったからね」
隣に立っていたアイリの視線が、僕を射抜いた。え、何……?
「ユート様、お一人だけ対応が違う人がいました。ユート様が海岸での戦闘に介入したのは、あのメグミ・ヤグチさんが居たからですか?」
……鋭いな。
「解りやすいですよ、ユーちゃん。メグミさんを見る時だけ、目がちょっと優しかったです」
うぐぅ……よく見ていらっしゃる事で。厳しい顔をしていたつもりだったんだけどなぁ……。
「あの、もしかして前世で何かあったのですか?」
「……まぁ、知り合いではあるかな」
「聞きたいです」
アリスの言葉に、全員が頷く……うーん、別にいいんだけどさぁ……君達、目が恐いよ?
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矢口恵と知り合ったのは、アルバイトをしていたコンビニに彼女が入って来たからだ。
そのコンビニの店長が、碌でもないパワハラ野郎でセクハラ野郎だった。バイトの人数が足りないのは、店長が嫌で辞めていったせいだ。
そんな所にバイトで採用された哀れな女の子は、採用されてから二カ月ほどのある日の夜に、勤務を終えて帰ろうとした際に、店長の毒牙に掛かろうとしていた。
その時通り掛ったのが、その日夜勤シフトの僕だった。そこで、僕は店長から彼女を助けた。
がなり立てる店長から彼女を庇い、僕は本店と警察に通報した。
店長は捕まり、会社もクビ。店には新しい店長が来た。
その事件の後、彼女は店を辞めずに残った。
そして、僕を“先輩”と呼んで……多分、慕ってくれていたと思う。休憩時間に、様々な話をしたしね。
高校生になりたての彼女は、中学を卒業したらアルバイトをして、自分の小遣いを稼ぐつもりだったんだそうだ。母親がシングルマザーで、苦労しているとも言っていた。
親思いのいい子だったのだが、ある日その母親も病気で亡くなったと聞いた。
彼女は親戚に引き取られる事となり、他県へと引っ越して行った。
その後も何度か、メールでのやり取りが続いていた。
そんな中だ……僕が邪神に身体を乗っ取られ、姉さんによって解放されたのは。
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そんな僕の話を、四人は神妙な顔で聞いていた。
「まさか、こっちの世界で再会する事になるとは思わなかった。それにしても、十五歳って言っていたから時間が全然経っていない事になるんだけど、その辺はどうなの?」
姉さんにその件について聞いてみると、首を捻る。
「私もよく解らないんですが、推測できるのは……そうですね、召喚に使用されたのが時空魔法だったからではないでしょうか」
姉さんの説明によると、僕がこちらで十五年を過ごしていたとして、あちらでは矢口は十五年経過して三十歳。
しかし時空魔法によってその時間を捻じ曲げ、十五年前の矢口を召喚した可能性がある。これは、こちらとあちらの世界の時間の経過が同じだった場合だけどね。
「でも、そうするとよろしかったのですか? ユート様は身内にお優しい方です。勇者メグミ様の事も、身内としてお考えなのでは?」
アイリの矢口に対する呼び名に“様”が付いたな。僕にとって身内……大切な存在だと、確信したのだろう。
「……まだ、決め兼ねているんだ。少し、考えさせて欲しい」
僕の言葉に、四人は黙って頷いてくれた。
……
その後、僕達は部屋で今後の予定等について相談していた。
そこで、マップに表示が現れる……これは、予想外だ。
やがて、部屋の扉をノックする音が室内に響く。
「どちら様ですか」
誰が立っているのか解っているけれど、僕は扉に向かって問い掛けた。
「メグミ・ヤグチです。失礼ながら、少々お話させて頂けないでしょうか」
うーん、さっきの話から三十分くらい、あれだけ厳しい言葉をかけたのに来るとは。意外と神経が図太いのかな?
そんな失礼な事を考えながら、扉へ向かう。
「あれ、一人ですか?」
「はい。他の三人は、それぞれ思う所があったようです」
まぁ、無かったら死ぬだけだけどな。
「まぁ立ち話もなんだし、どうぞ」
「はい、失礼します」
出会ったばかりの女性を部屋に連れ込む……うん、悪い男だな! 何もしないけどね。
姉さん達は既に彼女の椅子を用意したり、お茶を淹れる準備をしたりしている。
「あ、あの……済みません、お邪魔してしまって」
「いえ、大丈夫ですよ」
「こちらの席にどうぞ、メグミ様」
「ど、どうもです……」
さっきの話で彼女が僕にとって“身内同然”だと解ったからだろうな。
あからさま過ぎぃ!! 明らかに矢口が、態度が違うと気付いてる!!
「え、えーと……それで、どうしたのかな?」
僕も席について、来訪の用件を聞く。
「あ、はい。えっと……先程の話の件です」
かなり扱き下ろしたからな、文句の一つでもあったか。
「ありがとうございました……私達の足りない所を指摘して頂いて」
文句じゃなくて、お礼だと?
「私達は、この世界に召喚されて勇者だ救世主だと、持て囃されたんです。そして、並みの魔物ならば一蹴出来る力がある事が解って……」
まぁ、ステータスが高いからな。
竜眼で見れば解る事なんだが、彼女達の状態には“ヒュペリオンの加護”というものがある。これは僕の“神竜の加護”と同じで、+100のステータス上昇が得られるのだ。ヒュペリオンというのは、人間族が崇めている神……つまり四柱の世界神の一柱である。
さて、最低でも+100という数値を持つ人間が、その辺に湧く魔物と相対したらどうなるか?
どれだけ攻撃されても、痛くも痒くも無いだろうな。そして腹パンでもかませば、大体素手で殺せる。最も、その技術と覚悟があればの話だけどね。
「……調子に乗ってしまっていたんだと思います、私達は」
調子に乗る矢口が想像できない。
「鏑木さんはその中でもステータスが高くて、私達の中ではリーダー格なんですが……鏑木さんに、ある人が言ったんです。オーヴァン魔王国へ転移する魔道具で、敵情視察をしたらどうかって」
……ほぉ、敵情視察に、ねぇ。
「その言葉を聞いて鏑木さんは同じクロイツ教国の召喚した私と、ヒルベルト王国から顔合わせに来ていた桜井さんと水無月さんを連れて、転移したんです」
「自分の意志で転移したんじゃねーか、あのアホ勇者!!」
不慮の事故どこ行った!
……解ったぞ、マサヨシの手前もあって、協力を要請する相手である僕の心象を良くしようと、矢口が誤魔化したかったんだな。
「ですが、その魔道具は一方通行の物だったんです。私達は教国に帰還する事も出来ず、魔王国に残らざるを得なくなりました」
そりゃあ、八方塞がりだな。土地勘のない場所……しかも、異世界に取り残されたわけだ。
「そこで、私達を見咎めた魔人達に襲われたんです」
運が悪かったという訳だな。いや、そもそも……。
「戦犯はマサヨシじゃないか」
僕の言葉に、矢口は苦笑した。
「そんな私達だったんですが、魔物なんかとは違う……本物の戦闘という物に遭遇して、解りました。私達は、持て囃されて調子に乗っていたんだと」
さっきも思ったが、矢口が調子に乗るってイメージ沸かない。いつも物静かで、大人しめな印象だったし。
あぁ、でもたまに話している時にテンション上がると、声のトーンが上がったり笑顔が増えたりするんだよな。
「でも、アーカディア卿や皆様が助けて下さって、先程も私達の欠点を指摘してくれました。自分を見直す機会を与えられたんだと、感謝しているんです」
そうそう、こんな風に。
「厳しい事を言って済まなかったね」
「いえ! アーカディア卿は、私達が死なないようにと心配したからこそ、指摘して下さったんだって、解っていますから」
……一応はその通りなんだけど、そんな風に言われると僕が善人みたいじゃない?
「昔、私の……先輩が教えて下さったんです。“小言を言うのも、叱るのも、注意するのも、その人に対して関心があるからこそなんだ”って。関心が無いと、無視したり放置したりするものなんだとも……」
……姉さん達、見んな。ちょっ、こっち見んなって!!
「だから、アーカディア卿が注意して下さったのは、私達を無視したり放置する為じゃないんだって思ったんです」
……ニコニコしとる。何なの、この天使。
「そう言えば、先輩達は何かお話をされていたんですか?」
「あーいや、オーヴァン魔王国での目的をどう果たそうかと思って、今後の予定について話し合っていたんだ」
「探している魔法、でしたっけ。えっと、上谷先輩達がどのような魔法を探しているのか、伺ってもいいでしょうか?」
「欠損の回復と、死者の蘇生だよ。仲間の為に、その魔法が必要なんだ」
それを話すくらいは別にいいだろう。
「欠損回復……それに、死者蘇生……ですか。済みません、私も魔法については色々学んだつもりなのですが、上谷先輩のお役には立てないみたいです」
「いや、良いよ。そもそも矢口………………いや、今、何て?」
何か、変じゃなかったか? 違和感が無かったせいで、違和感がある会話になっていなかったか?
「気付くのが遅いですよ、上谷先輩」
ハッキリと、そう呼ばれた。恐る恐る矢口の顔を見ると……彼女は泣きながら、笑っていた。
「い、いや……これはその……」
何とか誤魔化せ……ないかなぁ? 思わず、視線を姉さん達に向けてしまう。
「ユーちゃん、無理ですね」
「ユート君、気付くのが遅いですよ」
「見事なまでの自爆でした、ユート様」
「油断大敵ですよ、ユートさん」
ウチの女性陣の視線が冷たい!!
「先輩……上谷先輩ですよね?」
……身内同然の彼女に、嘘を吐くのは憚られる。
「あー、降参。矢口、やるようになったじゃないか」
ハハハ、負け犬の遠吠えである。
「顔立ちは少し違いますし、声も一人称も違います。ですが、仕草やクセが先輩そのままでしたよ。真っ直ぐにお礼を言われたりすると、先輩は必ず視線を右に逸らします。誤魔化そうとすると、視線が左、右と動きます」
えっ、僕にそんなクセがあったのか!!
女性陣を見ると、ウンウンと頷いている。待って、周知の事実!?
「以前の先輩と一番変わっていないのは、親しい人や近しい人に対しては甘い所です。そして素直な人にも優しいです。私にはずっと気にかけるような視線を向けていましたし、桜井さんや水無月さんが素直に先輩の言葉を受け止めた事で、態度が即軟化しました」
よく、解って、いらっしゃる……!! 何この娘、エスパー!?
……
止むを得ない事情で、矢口に僕の顛末を話さざるを得なくなった。
ちなみに、あちらでは僕は行方不明扱いらしい。まぁ、姉さんが塵も残さず消し飛ばしたからな。
うっ、姉さんの表情がすっごく申し訳無さそうな顔に……!! 単独の念話で、姉さんを宥めるのに苦労した。
そして、話ついでに僕の抱えている様々な事情を話す事にした。矢口なら、迂闊な事はしないだろう。
邪神に乗っ取られた僕、それを討伐した姉さん。謝罪の印に僕を転生させて下さった創世神様。
勇者レオナルドと聖女アリアの息子として生まれた事。魔人族以外の英雄から、色々可愛がられた事。
アルファやアリスとの出会い。左目を失った際に、開き直ってちょっと極端な判断基準になった事。
遺失魔道具との遭遇、そしてその真実を知った事。そして、遺失魔道具を製作し、戦闘付与魔導師として修行を積んだ事。
五年間の修業の後、姉さんと二人でイングヴァルト王国へ旅立った事。アリス、アイリ、リインが同行する事になった経緯。
イングヴァルト、ミリアン、ヴォルフィード、クエストでの冒険。そして悪魔族との戦いで、三カ国から叙勲を受けた事。
ついでに矢口にはアーカディア島や、クエスト王国で大暴れした黒騎士・バハムートの事も明かしておく。
いつにない特別扱いの事情説明に、女性陣の視線が痛いがそこは仕方ないじゃないか。
「……め、メチャクチャして来たんですね、先輩……」
「えっ、視線が冷たい」
「大暴れにも程がありませんか? 昔はよっぽどの事が無い限り、穏便に事を収めるタイプだったじゃないですか」
あー……そうだった、かな? 争い事とか、苦手だったからなぁ。
でも、変わらざるを得ない理由が、この世界にはあるのだ。
「仕方ないんだよ、矢口。だってここは日本じゃない、異世界だ。力が無ければ奪われ、虐げられ、殺される……ここはそんな世界なんだよ」
矢口はそんな僕の言葉に、少し哀しそうな顔をする。しかし、一度目を閉じて……そして、フッと微笑んだ。
「確かにメチャクチャだと思うんですけどね……その理由が身内の為っていうのは、先輩らしいとは思いますよ。あまりにとんでもない旅話と変貌ぶりだったので驚きましたが、そういう優しい所は変わらないんですね」
真っ直ぐに微笑み、そんな風に言われると照れるじゃないか。
「はい、視線が右に動きました」
「うぐぅ……」
強い、この後輩……。




