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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第6章 オーヴァン魔王国
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06-01 魔王国へ/遭遇戦

これまでのあらすじ:マルクやジョリーン達がアーカディア島の住人になった。


 あれから一夜明け、僕達は再び旅に出る。その前に挨拶をしていこうと、ガンツ爺さんの家を訪れていた。

「そうか、もう行くのか」

「あぁ、ジョリーンさん達の欠損を回復する魔法が無いか、色んな場所を探してみるつもりだよ」

「ワシらも世界各国を巡ったが、欠損を回復出来るような魔法は終ぞ聞いた事が無かったな。後、探していない場所といえば……オーヴァン魔王国ぐらいじゃないか」

 オーヴァン魔王国……か。元より行くつもりだった国だ、お誂え向きだな。


「……行く気か、魔王国へ」

「自分の目で確かめたい事もあるしね」

 魔王を討伐せよという、神々の神託。そして召喚された十四人の勇者。

 魔王国は戦場になるかもしれない。

 その前に魔王国を訪れて、未だ見ぬ魔法を探したい。それに魔王国が本当に討伐されなきゃいけない国なのか、それを見極めたい。

 場合によっては……世界相手に喧嘩を売る事になるかもしれないな。


「ユート、オーヴァン魔王国へ行くならば、気を付けろよ。現魔王はマトモな奴だが、奴に従わない先代魔王軍の連中があちこちで暗躍しているらしいからな」

 ガンツ爺さんは、現魔王アマダムを知っているようだ。折角の忠告、覚えておこう。

「解った、よく覚えておくよ」

「あぁ、そうしろ」


 ……


 ガンツ爺さんの工房を出て、マルクの工房からアーカディア島へ転移する。

 扉はマルクとジョリーンの部屋直通だから使わないよ! もしお楽しみ中だったら目も当てられないからね!


 屋敷に戻ると、メインパーティの四人は準備完了状態で待っていた。

「ごめん、待たせたかな?」

「いえ、そろそろ戻る頃だと思って、今出て来たんです」

 勘の良いことである。それでは、いよいよか。

「じゃあ行くか……オーヴァン魔王国へ」

 僕の言葉に首肯する姉さん達と共に、北の転移門へと向かう。門弾ゲートバレットで一瞬、楽ちん。


 さて、転移門を潜れば新たな冒険の地だ。

 これまでよりも、危険度が高い冒険になるかもしれない。だから、今まで以上に皆の装備を充実させてある。

 そして、いざという時は僕の遺失魔道具アーティファクト総動員で守ってみせる。

 誰にも、傷付けさせはしない。仲間達の背中を見ながら、僕はそう誓いを立てる。

「……行きますか、ユーちゃん」

「あぁ、行こう」

 僕は転移門を起動し、オーヴァン魔王国への時空の門を開く。


************************************************************


 転移門を潜った場所は、地下遺跡だ。オーヴァン魔王国の最南端にある。

「ここは海底十メートルの場所で、僕達は海底から浮上して海面に出た後大陸の海岸に上陸しなきゃいけない。念の為、守護の首飾りタリズマンで防御障壁をかけておいてくれ」

「解りました、それじゃあ……着替えますね」

 そう言って、コートを脱ぐ姉さん。チューブトップタイプのインナーに、ホットパンツ。実にセクシーな装い。

 神がかったバランスのボディラインを、魅力的に演出する服装だろう。


 アリスやアイリ、リインもコートを脱ぐ。

 アリスのビスチェトップスは、彼女の豊満なバストを一層魅力的に見せるインナーだ。

 コートを取り除いた事で胸元から肩にかけて、紐以外の障害物は無い。スベスベの肌も、黒いインナーと相俟って美しく映える。


 アイリはアメリカンアームホールというトップス。

 首元から脇下までの袖をカットしたタイプのインナーだ。コートで気付かなかったが、ささやかな胸が横からわずかに覗いており、とても扇情的だった。


 リインはキャミソールタイプのインナー。

 白く美しいリインの肌を、黒いインナーが一層際立たせる。言い方は悪いが薄い胸元に広めの襟口は、禁断の何かが見えてしまいそうでハラハラする。


 更にそれぞれ、インナーは肌に密着するタイプだから、コートが無いと身体のラインが……!! いや、そんな事考えてる場合じゃないだろ! 腰布まで外した状態で、皆は恥ずかしそうにこちらを見ている!

「ごめん、僕はこっち向いてるから!」

 何ガン見してんだ、僕の馬鹿! うあぁ、衣擦れの音が聞こえる。しかし……いいもの見せてもらったなぁ……。


 ……


 着替えを終えた姉さん達だったが、今度は服を脱いでいく僕をジーッと見られた。流石に、下は勘弁してもらった。

 姉さん、アリス、アイリの水着は以前見せて貰ったものと同じだが、リインの水着姿は初めてだ。

「ど、どうでしょう……フレアビキニというタイプの水着らしいのですが……」

 薄いグリーンのトップスの胸元全体をフリル状の布で覆ったデザイン。

 そして、同色のアンダーの部分もフリルをあしらっている。フリルいっぱい、夢もいっぱい。


「似合ってる、リイン。すごく素敵だよ……姉さん達と並ぶと、何かお互いの魅力が相乗効果で四倍だね」

 ちょっと意味が解らない褒め言葉になってしまったが、リイン含む四人は喜んでくれたので良しとしよう。

「……って、皆の魅力に悩殺されてる場合じゃねぇよ、僕! 魔王国なんだから、気を引き締めないと!」

 思わず自分で自分にツッコんでしまった。どんな危険があるか解らないのだ!


「そうですね……常に何かあっても、対応できるようにしなければ」

「はい、そうですね」

 歩き出した僕達は、海底への出口へ向かう。

 ぐぅっ……魅力的な水着姿の女の子達に囲まれているこの状況……! 嬉しいけど、そんな場合じゃないんだ! ……でも見ちゃう。

 僕の視線に気付くと、皆照れながらも笑顔を返してくれる。僕も笑顔を返す。その繰り返し。

 会話が無いのを何とかしなければとは思うのだが、言葉が出て来ねぇ〜。


 ……


 そして、ようやく海底への出口にたどり着く。

「……よし、気を引き締め直そう。オーヴァン魔王国の海だ、魔物なんかもたくさん居る可能性がある。全員、戦闘態勢は整えておいてくれ」

「「「「はい!」」」」

 僕の言葉に、四人は臨戦態勢を整える。

 銃機能を持たせた武器は、海中では使えない。なので、装備するのは火薬を使用しない魔導銃だ。

 マップで魔物が周囲に居ないのを確認し、僕は合図を出す。

「よし、行くぞ!」

 最初に僕が。そしてアイリ、アリス、リイン、姉さんが海中へ躍り出る。


 ……うわぁ、すげぇなこりゃ! 何というか、魔王国の海というから、肉食の魚とか海竜みたいなのとかがウヨウヨしてるのかと思っていたんだけど……とても透き通った、美しい海だ。

『すごく綺麗な海ですね?』

『そう……ですね。水は少し冷たいですけど』

『あっ、魚が泳いでいます』

 ……鰤に見える。

『何か、平和な光景だな』

『ユーちゃん、観光という意味ではシュノーケリングが出来たんです。一つ良しとしませんか』

『そうね、何事もポジティブに受け止めよう。さて、上陸するか……地上がどうかは解らないから、警戒は緩めないでね』

 僕の念話に、全員が首肯する。くそう、水着姿可愛いよ……僕が警戒を緩めるなよ!! 


 ……


 さて、地上には……マップに複数の光点。

『警戒態勢、光点を確認、色は赤……それと、中立の緑だ。赤の方は、敵対の意思がある証だ。僕達に気付いているとは限らないが、楽観視はしないでいこう』

 念話での指示に、全員が臨戦態勢に入る。

『ゆっくり水面に出て、様子を確認するか』

 首肯するのを確認し、水面へ向けて泳ぐ。


 顔を出すと、海岸で武器を持った魔人族の集団が何かを追いかけている。逃げているのは二人、魔人族と戦闘しているのが二人……そのどちらも人間っぽい。

 その内、逃走中の一人の顔を見て、僕は言葉を失った。

 真実の目プロビデンスで視ずとも、彼女の名前を僕は知っている。

 ——矢口やぐちめぐみ!?


『済まないが、個人的な事情で首を突っ込む。皆は……』

『解りました、行きましょう』

 ……全員の目が、一人で行くなという意思を痛い程伝えてくる。ここで待っていろ、なんて言おうものなら、後で何を言われるか解らない。

 なら、僕が言うことは一つだ。

『……”俺”について来い、絶対守り抜く』


 宝物庫ストレージから銃剣を取り出し、狙いを逃走中の二名と魔人族の間を狙う。

 そして、銃剣が濡れないように注意しながら引き金を引く。乾いた銃声が響くと同時に、周囲の海水ごと僕達は転移した。銃剣は濡れないように、瞬時に宝物庫ストレージ行きだ。

 突然、海水と共に現れた僕達に双方が止まる。

「な、何だ貴様ら!」

「……これから死ぬ奴に、名乗っても意味ねぇよ」

 僕の言葉に、武器を構える魔人族達。こちら側にいる数は十、あちらで戦闘しているのが六。


「殲滅」

 短くそう告げ、僕は再度宝物庫ストレージから銃剣を取り出す。同時に、姉さん達も宝物庫ストレージから主武装を取り出し構える。

 ——パァンッ! パァンッ! 

 僕の両手の銃剣から発射された弾が各々、魔人族の眉間に命中する。続け様に姉さんが放った弾が、その隣の魔人族の命を奪う。

 更に、アリスが一人。両手の銃刀でアイリが二人。弓銃の銃と弓の双方の機能でリインが二人。


 残る二人の表情が凍る。

「な、何だあの武器は……!」

「て、撤退するぞ!」

「逃げられると思っているのか?」

 両手にショットガンを装備し、一瞬で接近して魔人族の頭部に押し付ける。

「……わ、悪かった。謝罪する、だから命だけは……」

「そうか、死ね」

 ——ドパァンッ!! ドパァンッ!!


 両手のショットガンの引き金を引き、魔人族の頭を吹っ飛ばした。殺す気で襲って来て、殺されるのは嫌なんて言う奴は、生かしておく価値は無い。

 背後を振り返る。一人の少女は、大きな盾を持ってへたり込んでいる。黒髪は項辺りまでで切り揃えており、前髪が少し目にかかっている。

 痩せ型の体型も、平均より大きめの胸も、記憶の中の彼女と変わらない。確かに、僕の知っている……矢口恵だ。


 そして、もう一人は少年。

 平均より少し低い背、クセのある黒髪、顔には眼鏡を掛けている。体格は細身で、ナヨっとした印象を受ける……頼りなさそうだな。

 それも仕方ないか、ユウキ・サクライという名の彼は、丸腰なのだから。

 盾の少女と丸腰の少年……確かに、そりゃあの数を相手には出来ないだろう。うん、それは逃げるわ。


 そして、あちらで戦闘しているのが……マサヨシ・カブラギとマナ・ミナヅキか。

 マサヨシ少年は十八歳で、剣を手に魔人族と剣を打ち合う。

 茶髪は染めているのか地毛なのか。某アイドル事務所に所属していてもおかしくない、整った顔立ち……普通にイケメンだ。

 背が高く細身なのだが、筋肉がしっかりついているようで、所謂細マッチョだ。

 しかし、腰が引けているな。相手に押し込まれかけている。


 マナという少女は十七歳。

 背中まで伸ばした栗色の髪の毛、クリクリとした大きな瞳、少し低めの身長が、愛嬌を感じさせる。体型はやはり細身、しかし胸元のボリュームは並レベルだ。

 特筆する点は、やはり顔立ちだろうか。「アイドルです!」と言われたら、即納得する顔立ち。

 彼女はマサヨシ少年とは逆に、全体を俯瞰して魔法で牽制しているようだ。無詠唱とは中々やる。

 しかし、彼女も命を奪うことに気が引けるのか、手や足を狙っている。まどろっこしいな。


「仕方ない、介入するか」

 宝物庫ストレージからライフルを取り出し、魔人族に照準を合わせ……引き金を引く。戦場に、真っ赤な血の花が咲く。

 立て続けに照準を定めて引き金を引き、あっという間に残りは一人となった。

 流石にわずか三分そこらで、壊滅するとは思っていなかったようだ。顔を引き攣らせて後ずさる。


 残り一人……コイツは尋問だな。

 ”封印の縛鎖グレイプニル”を取り出し投げ付けて、最後の一人を拘束する。

「グッ……おのれぇっ、人間族め!!」

 地面に倒れ付し、こちらを睨む魔人族の下へ歩み寄る。

 ゆっくりと、着実に。これ、拘束した相手に威圧感を与えるにはいい手なのよね。


 さて、それじゃあ尋問を始めよう。

「お前は魔王の手の者か?」

「…………」

 歯を食いしばり、視線を逸らす。立場を理解していないようだな。

 ——パァンッ!!

「あがぁぁっ!?」

 取り敢えず、右足を撃つ。


「長生きの秘訣は、強情を張らないことだと俺は思うがね。で、誰の手の者だ」

「だ、誰が貴様なんぞに……!!」

「そうか、じゃあ次はコレな」

 ——ザクッ!!

 右の耳を斬り落とす。

「ぎぃやぁぁぁっ!?」


「左の耳は生かしておかないといけないし、次は何にしようかな。さて、質問に答える気になったか?」

「ぐっ……うっ……人間、風情に…………」

「よし、次は目にしよう」

 ——グチャッ!!

「あぁぁぁぁぁっ!?」


「まっ、待て!! そ、そこまでする事は無いだろう!!」

 思わぬところから制止が入った。相手は先程のマサヨシだ。

「腰抜けは黙って見てろ。見ていられないなら、目と耳をふさいで蹲っていればいい」

「こっ腰抜けだと!? 俺は勇者だぞ、腰抜けなんかじゃない!!」

 そう言って掴みかかってくる自称勇者のマサヨシくん十八歳。めんどくせー。


「召喚された異世界の勇者か? で、どれだけ魔物を斬った? どれだけ人型の魔物と戦った? どれだけ盗賊を殺した? どれだけ魔人族を殺した?」

「……っ!?」

「肉を斬る感触には慣れたか? 悲鳴や苦痛の声は耳に馴染んだか? 命乞いをする相手を斬り捨てられたか?」

 僕の言葉に、マサヨシは黙り込んだ。


「解ったら下がっていろ、腰抜け」

 マサヨシの手を振り解き、魔人族に向き直る。

「最後通告だ。質問に答えろ」

「……断る、殺せ」

 ふむ、強情な奴だ。しかしまぁ、主に命を捧げた戦士としては正しいのだろうな。


「そうか、先代魔王オルバーン・ガルバドス・ド・オーヴァンに仕えていた魔人騎士団の一員、バルディリス。望み通りその命を終わらせてやる」

 僕の言葉に、魔人族……バルディリスが残った右目を見開く。

「あの世で主君に誉めて貰え。ここまでされても主の情報を漏らそうとしない、お前の忠義は大したもんだった」

「……あの御方が、その程度でお褒めの言葉を下さるものか」

「そりゃ残念だ」

 ——パァンッ!! 

 忠義の騎士は、頭を撃ち抜かれて死んだ。苦しみが長引かないよう、脳への射撃だ。

「お疲れさん、バルディリス」


 ……


 事を済ませ、僕達はようやく現状に気付く。やっべ、まだ水着姿だったわ。

「着替える場所無いかなぁ」

「ユーちゃん? 転移するか、お風呂の時のやつを出せば良いんじゃないでしょうか?」

「あぁ、パーテーションか。姉さん達、身体が冷えると大変だから先に着替えなよ」

 僕は宝物庫ストレージからパーテーションを取り出し、姉さん達に着替えるように促す。姉さん達は、素直に従ってパーテーションの中へ入っていった。


 そんな僕に、マナという名前の少女が近寄ってくる。

「えーと、助けてくれてありがとう?」

 何故疑問形なのか。

「マナ、危険だ! 殺されるぞ!」

 そんなマナを止めようとするマサヨシ。こいつ、僕を快楽殺人鬼とか思ってないだろうな。


「通り掛かったら、襲われていたから勝手に介入させて貰ったよ。こっちの都合でした事だ、あまり気にしないでくれると助かるかな」

 僕の返答に、強張っていた表情を緩めるマナ。そして、後の方からユウキ少年と矢口恵が駆け寄って来る。

「あの、危ない所を助けて頂きありがとうございます」

「お陰で助かりました、本当にありがとうございました」

 矢口は知っていたが、ユウキ少年も礼儀正しいな。

 というか、マサヨシ君がこちらを睨んでいる。コイツとは反りが合わないだろうな。


 とりあえず、自己紹介くらいはしておくか。

「僕はユート・アーカディア。銀級冒険者で、付与魔導師だ」

 僕の自己紹介に、彼等は目を剥いた。

 そりゃそうだ、冒険者としては中堅以上の銀級冒険者で、そのくせハズレジョブの付与魔導師。ちぐはぐに思えるだろう。


「ユートの姉で同じく銀級冒険者、キリエです」

「アリスと申します」

「リインです」

「ユート様の奴隷で、アイリと申します」

 着替えを終えて、パーテーションから出て来た姉さん達がカーテシーで挨拶をかます。最後のアイリの自己紹介の、”僕の奴隷”の所でマサヨシの眉がピクリとしたのは見逃さなかった。


「姉さん達は、彼等の傷の手当てなんかを頼んでいいかな? 資材は好きに使って構わないから」

「解りました、ユーちゃんも身体が冷えない内に着替えて下さい」

 御言葉に甘えて、僕はパーテーションに入る。

 おぉう、身体がベタベタするなぁ……後で、風呂だな。


 ……


 手早く身体や髪を拭いて、着替えを済ませる。パーテーションを宝物庫ストレージに収納すると、丁度手当も終わった所みたいだな。

「待たせて済まない、そちらは終わった?」

「はい、こちらも丁度終わった所です」


 見れば、マサヨシ君はほぼ無傷。マナ少女もかすり傷程度で、大してダメージを受けていない。

 反面、ところどころ軽度の切り傷や打ち身の跡があるのが、矢口だ。

 そして、一番怪我が多いのがユウキ少年。むしろ良く走ったな、彼。矢口の盾による防御があったのもあるだろうけどさ。


「えっと、私達は一応勇者なんてものになったんだ。私の名前は水無月……じゃなくて、こっち風に言うとマナ・ミナヅキ! セカンドジョブは魔導師だよ!」

 セカンドジョブ? 

 気になったので、不自然にならないように解析アナライズさせて貰う。ほぉ、確かにジョブが二つあるな。

 一つは勇者、もう一つは魔導師。複数ジョブになれるのか。


「僕はユウキ・サクライって言います……十五歳で、セカンドジョブは錬成魔導師です……」

 バツが悪そうに言うユウキ少年。錬成魔導師は、あまり戦闘に向かないジョブの一つだ。

 大丈夫だよ少年、こっちは完全にハズレ扱いの付与魔導師だ。


「メグミ・ヤグチと申します。十五歳、セカンドジョブは騎士です」

 ……矢口。僕の知っている彼女そのままだし、十五歳と言う事は高校一年生のままなのか。地球とこの世界、時間の流れが違うのだろうか?

 そして、ジョブは騎士なのか……生真面目な彼女らしくもあり、争い事とかに向かなそうな彼女らしくない。それにしても、騎士と言う割には、盾以外持っていないように見えるが……。


「……マサヨシ・カブラギ、十八歳。セカンドジョブは剣士だ」

 軽く手拭いで顔を拭うマサヨシ君。

 僕に対する視線は、非常に厳しい。僕に煽られたのを根に持っているようだね、今も何か言いたそうにしているし。

 グレンとは別のベクトルで面倒くさそうな奴だな。


 ……


 そんな中、マップに光点が表示される。数は複数、移動速度は大分早い……馬か?

 姉さん達には、その事を念話で伝えておく。

 そして、そいつらは姿を見せた。

 馬じゃなく、馬っぽいものに乗っていた。グリフォンという幻獣である。

「貴様達は人間族か! 我ら魔人族の同胞を殺したな!」

 光点、赤。こいつ等の仲間……じゃないな?


「今度は、()()()()()の部下か」

 僕の言葉を聞き、リーダーらしい男は視線を鋭いものにする。

「……貴様、今なんと言った」

「アンタらは現魔王陛下の部下なんだろ? こいつ等は先代魔王軍の連中で、僕達に襲いかかって来たんだよ」

 そう告げると、リーダー格の男が魔人達の死体を見て唸る。知った顔でも居たのかね。


「ところで質問なんだが……さっきの言葉、魔人族は人間族に対して、襲いかかられても無抵抗で殺されろって意味合いと捉えていいのか? それが、共存を掲げる現魔王陛下の方針なのか?」

「バカな事を言うな、陛下を愚弄するならば斬って捨てるぞ!」

 剣を抜いてこちらを睨むリーダー格に続き、兵士達も剣を抜く。しかし、そんな一触即発の空気は思わぬ闖入者によって治められた。


<よさぬか、アングルス。そやつの言い分が正しい>


 脳裏に直接響く声。マップを確認するが、何の異常も無い。ならば、何故声が聞こえる?

「ですが陛下!!」

 ……()()、だと?

<控えろと言っておるのだ。余に恥をかかせる気か?>

 その言葉に、アングルスとやらがこちらを睨みながら剣を収める。

<部下が失礼をした。余は当代の魔王、アマダム・ガルバドス・ド・オーヴァンだ>

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