05-09 幕間/ガールズトークⅡ
それは、アーカディア島でのとある一日。
十人入ってもまだ余裕がある、このアーカディア邸の大浴室。そこにアーカディア島に住む女性陣が、一名を除いて勢揃いしていた。
ここに居ない女性……というか幼女はもう、父クラウスの添い寝で夢の中だ。
「はい、消音の遺失魔道具も起動完了です。それでは、第二十六回・女性陣会議を始めたいと思いまーす」
この会議、既に二十五回もやっていたらしい。一体いつやっていたのか。
「「「わー」」」
——パチパチパチパチ!!
既に慣れきっているメインパーティ勢のアリス・アイリ・リイン。リインが場の空気に染まっている事から、きっとヴォルフィード皇国を出立した後に何度か行われているのは確実だ。
「「「わ、わー……」」」
何度か付き合わされたので、取りあえず合いの手を入れる獣人勢のレイラ・メアリー・エミル。
「「「これ、何の茶番!?」」」
初めての展開に困惑するドワーフ勢の、ジョリーン・リリルル・エルザ。
……
「さて、それでは今回の反省点ですが!」
いつにないキリエの様子に、ドワーフ勢が引いた。
「ドワーフ族のお嫁さん候補が出来れば良かったんですが……」
「ジョリーンさんもリリルルさんも、彼氏持ちなんですよね」
アリスとリインの言葉に、水を向けられた二人は苦笑する。ちなみに、リリルルは菜園の世話以外では彼氏の所に足繁く顔を出している。仲は今も良好らしい。
「エルザさん、本当にユート様のお嫁さんになる気は無いのですか?」
「いやー、流石にあのユート兄を見るとね。私じゃ力不足って解っちゃうよ」
アイリの質問に、苦笑しながら答えるエルザ。黒騎士モードになったユートの、苛烈にして容赦の無い戦い振り。それは、戦闘能力に秀でたドワーフをして引いてしまう程だったらしい。
「というか、キリエ殿? その、差し出がましい質問かもしれないのですが……」
「ストップです、ジョリーンさん。私達は仲間にして家族、畏まる必要などありません。と言っても、他の皆さんも結構堅いんですけどね。もっと気楽にしてくれて構わないんですよ?」
キリエの言葉に、獣人勢とドワーフ勢が苦笑する。主人もしくは家主であるユートとその姉であるキリエ、そして公爵令嬢であるアリスとリインに対しては、やはり一歩引いてしまう傾向がある。
むしろその傾向が薄いクラウスや、その傾向が全然無いマルクがおかしいのかもしれない。
どうやら、キリエはアットホームな拠点にしたいらしい。理由は簡単、ユートがそういうのが好きだと知っているから。
でも、そう言うキリエも敬語は抜けないし、ユート以外は全員さん付けなのだが。ちなみに、アリスやリインもそうである。
「まぁ、それは追々でいいでしょう。それではジョリーンさん、質問を止めて済みませんでした、先をどうぞ」
「あ、はぁ……その、何故そんなにユート殿の嫁候補を増やしたいのか、解らなくてですね……」
「ああ、それですか。そうですね、簡単に言ってしまうと……」
一度目を閉じ、キリエが溜めを作る。ちなみに、意味は無い。ただ、その方が重大発言っぽくなると思ったからである。
そして、目を見開いたキリエは声高々に宣言する!!
「ユーちゃんの子供なら絶対可愛いでしょう!! それなら、複数居た方が絶対お徳でしょう!! 多ければ多いほどいいと思うんです!!」
「「「「「そんな理由!?」」」」」
「おぉ~」
流石にドワーフ勢に加え、レイラとエミルからもツッコミが入る! そしてメアリーのマイペースさが際立つ! 嫁候補を自称する三人が、キリエの言葉にウンウンと頷く! カオス!
喧騒がひとまず落ち着き、キリエが当然の事のように話を続ける。
「どうせなら、全種族網羅するくらいがいいと思うんですよね~。誰かドワーフ族でいい人いません?」
「ユート様に見合う格の持ち主ですと、王女殿下くらいだと思うのですが……確か、伯爵家のご長男を婿に迎えるって話ですね」
キリエの与太話に、律儀に返すリリルル。
というか、彼女の中ではユートと吊り合う存在が王女レベルと考えていた。何気にリリルルも天然である。
「そう言えば、まだ王女はいませんね。アリスさんとリインさんの格が高いですから、すっかり忘れていました」
「ご主人様が王女を娶る前提で話すから、キリエ様って凄いですよねぇ」
「レイラさん、遠くを見ないで下さいぃ!」
そんな中、アリスがトンデモ発言をする。
「この先向かう魔王国って、王女様居ないでしょうか?居るなら狙ってみてもいいかもしれませんよね」
その発言に、獣人勢とドワーフ勢が揃って目を剥く!
「あぁ、確かにいいかもしれませんね。魔人族との友好の印にもなるでしょう」
目が飛び出そうなくらいに、アリスとリインを凝視する!
「そもそも、ユート様なら建国くらいサクッと出来そうですしね」
アイリの発言もトンデモ発言なのだが、そこは納得してしまう!
「あ、それいいですね。建国しますか、アーカディア王国とか」
「あっ、これ本気の目だ」
キリエの目が本気なのを敏感に察知したエルザが、ついに匙を投げた。
更には各国の王子・皇子を通じて、建国の計画を立てるか等と相談しだす始末。
四人で盛り上がるキリエ達メインパーティ勢を置いて、獣人勢とドワーフ勢が風呂から上がった。
バスタオルで身体を拭きながら、皆が思っていた。
——なんか本気で、建国とかしちゃいそうな気がする、と。
今回でクエスト王国編は終了、次話よりオーヴァン魔王国編に突入致します。




