05-06 処理難航/新たな住人
これまでのあらすじ:王都カルネヴァーレを攻めた魔物を殲滅した。
僕達は事後処理に奔走していた。やらなければならない事は、山程あるのだ。
魔物の素材剥ぎ取り、魔核の回収、そして死骸の焼却処分。傷病者の手当てに、死者の亡骸を埋葬。
尚、この世界では主に火葬が一般的である。理由は単純、土葬しただけの死体は屍人になるからだ。
僕達はその手伝いに借り出されていたのだが、謎の黒騎士バハムート(=僕)が殲滅した魔物の処理を行っている。いるというか、いたのだが……。
「俺を治癒してくれ!」
「俺が先だっ!」
「おい、姉ちゃん! 俺、頭がいてぇんだ!」
姉さんに殺到するドワーフ達が、それを邪魔している。アリス、アイリ、リインがそれを警戒して武器を構え、姉さんは僕の影に隠れている状態だ。
「はぁ、このままじゃ埒が明かないな」
「ごめんなさい、皆……こんな事になるとは……」
尚、治癒魔法が使える神官はドワーフ族にも居る。だというのに、彼等は姉さんに治癒して貰おうと押し掛けて来ているのだ。
理由は簡単、姉さんが美人だからだろうな。
そろそろ力尽くで黙らせるかと思った矢先、凛とした声が響く。
「控えなさい貴方達! アーカディア名誉女男爵様に対して無礼ですよ!」
おい、ヴォークリンデ公爵家次女様。
「このまま女男爵様の邪魔をするならば、クエスト王国国王に対して貴方達を処罰して貰う事になります、それでもいいのですか!」
お前もか、アークヴァルド公爵家長女様。
「それに、アーカディア名誉男爵様に対しても無礼です! これ以上邪魔をするならば、お二人は貴方達をこの場で処罰する権限だってお持ちです!」
アイリの言う通り、確かにそんな権限があるな。無論、その場合は王国軍や警備兵とかの所へ赴き、事情の説明やら手続やら面倒な処理があるんだけどね。
ちなみに、そういう権限を行使するのは大体が悪党貴族で、そういう権限を行使しても処理とか全然しないんだとさ。
流石に爵位やら処罰やらを持ち出され、ドワーフ達は顔を蒼くして退いていった。
さっさと処理しなきゃ、今日中に終わらないっていうのに、余計な時間を取らせてくれたなぁ。
「サクサク済ませよう。大半がダメになっているとはいえ、それでも千匹分くらいは軽くある」
「そうですね、急いでやりましょう」
トラブルを避けるため、僕達は離れないようにしつつ素材や魔核を剥ぎ取っていく。
尚、この素材と魔核に関しての扱いだが、一度クエスト王国で引き取る事になるそうだ。戦闘時に五百匹程は宝物庫に放り込んでおいたので、懐は痛まないからいいんだけどね。
……
魔物の素材を剥ぎ取る者、剥ぎ取った素材を一箇所に集め仕分ける者、剥ぎ取り済みの魔物の死体を焼却場所へ運ぶ者と、三班に分かれて作業を進める。
僕達は剥ぎ取り班だ。剥ぎ取り用のナイフに“超高速振動”を付与しているからね、効率が良いのでこっちに志願した。
エルザもこちらに来ている。グレン達は仕分け班だ。ヤツの連れである女性陣が、剥ぎ取りや焼却に難色を示したらしいな。
マルクはジョリーンとリリルルを、神殿へと連れて行っているので不在だ。
欠損を回復する魔法……そんなものがあれば、神殿はもっと信仰心溢れる信者達で賑わっていると思う。
僕は後で、仲間達に相談してみようと思っている。欠損回復と死者蘇生の魔法を作る事が可能かどうかをだ。
魔力不足等の可能性も有り得るので、無理にとは言えない。
……
夜になっても、素材の剥ぎ取りや魔物の焼却作業が続いた。日が落ちれば屍獣化する魔物が出て来る為、厳戒態勢での作業だ。
つまり……。
「ほれっ!」
「はあっ!」
「えいっ!」
「やあっ!」
「はいっ!」
屍獣と化して立ち上がる端から、僕達がその首を斬り落としていく。アリスやリインは近接戦闘を覚えたてだが、しっかり対応出来ているな。近接戦闘訓練、継続的にやる事にしようか。
さて、素材の剥ぎ取りは難航していた。屍獣退治が追加された事も要因の一つではある。グレン達も渋々素材の剥ぎ取りに加わっているしね。
しかし、それ以外にも理由があった。その理由とは、そこかしこで聞こえて来る怒声に由来する。
「これは俺が討伐した魔物だ! その素材を貰って何が悪いんだ!」
「だから、一度国で集めた後に、分配すると言っているだろう!」
そんな会話が聞こえて来る。
剥ぎ取った素材は一度国が集め、その分け前はこの場にいる全員に分配されるという説明があったのだが、それに難色を示した連中が素材をネコババしようとしているらしい。
「いいからさっさと終わらせようよ、僕疲れたよ……」
「私もです……早く終わらないですかね……」
他のメンバーも、僕とリインの会話に同意する。剥ぎ取り作業はもう、うんざりだ。
……
飲まず食わずの急ピッチで進められた作業は、結局日を跨いだ頃に終了した。居合わせた冒険者達も、ドワーフの職人や手伝いに来ていた王都民も、兵士達も、皆疲労の色が濃かった。
これはアレだな、もっと魔物の死体を宝物庫に入れておけばよかったな。
僕の宝物庫に収納した魔物の死体、五百匹はあるんだけど……今日はもう手をつける気にならない、追々でいいや。
「お疲れー……」
「お疲れ様です……」
「お風呂入りたいですね……」
「確かにそうですね、血の臭いが染み付いている気がします……」
「ユーちゃん~……」
甘えたような声を出す姉さんは珍しい。よっぽど疲れたのだろう。
「そうだな、今日は島に一度戻ろうか」
幸い、絡んで来そうなグレンもクタクタなのか、パーティメンバーを連れて早々に引き上げていくようだ。
「何処か、住人達の死角になる場所でアーカディア島に転移しよう……」
僕達は住人達に見られない場所を探して……結局、マルクの工房へと向かう事にした。
やはり、マルクやジョリーン・リリルルが気になったのだ。
風呂が後回しになるが、女性陣は僕の提案に異を唱えなかった。気持ちは同じなのだろう。
……
マルクは、一人で工房に居た。
「おぅ、お前らか……」
項垂れるマルクに、何と声をかけていいのか解らない。
ジョリーンやリリルルの怪我は重傷で、しかも身体の欠損はやはり直らなかったようだ。更には、クラリスの死。
僕達の後から、エルザも姿を見せた。
「……兄貴」
エルザも、かける言葉が見つからないらしい。項垂れるマルクを見ているだけだ。
……こんな顔、いつまでもさせるわけにはいかないだろう。
「マルク、僕達はこれからの旅の中で、欠損回復や死者蘇生の方法を探す事にした」
僕の言葉に、マルクが肩をピクリと動かす。
「クラリスの遺体は“時間停止”の力を持つ遺失魔道具の中に保管してある。僕達がそれを見付けられるのがいつになるかは解らないけど、信じて待っていてくれるか」
僕の言葉に、マルクは顔を上げた。希望と絶望が入り混じった、複雑そうな顔。
「……聞いた事ねぇぞ、そんな魔法はよ……」
「無いなら作る手段を探すさ」
励ますように、僕はマルクの肩に手を置く。
「それまで……アーカディア島に来ないか? ジョリーンやリリルル、エルザも一緒で構わない」
僕の言葉に、マルクはしばし悩み……そして、頷いた。
……
エルザの案内でジョリーン達の拠点に向かい、ジョリーンとリリルルに療養場所の話を伝える。
「……アーカディア卿の拠点……か」
「あぁ。今、君達に必要なのは静養だ。マルクも鍛冶職人の仕事があるだろうし、僕達も冒険者として……そして、君達の回復手段を探す為に旅を続ける。エルザ一人で君達の世話をするのは大変だろう?」
エルザも、それに頷く。一人で二人を世話しながら、生活を維持するなんて相当無理をしないと不可能だ。
「僕達の拠点なら、君達の世話役が出来る仲間がいる。家賃なんて取らないから、安心してくれ」
渋っていたジョリーン達だったが、三十分程に渡る説得でようやく首を縦に振ってくれた。
「確かに右腕と右脚を失った今、自分で稼ぐ事は出来ないだろうな」
「私も一緒だわ。両腕が無いんじゃ、内職だって出来やしない」
「私も、一人で二人を世話しながら、三人分の生活費を稼ぐなんてどだい無理ね。兄貴の収入だってそこまで多いわけじゃないし」
三人共、島に行く事に納得してくれた。
まずは一安心かな。これからする話は、他人に聞かれたくない話だからね。
解放的なドワーフ族は、家の壁がそこまで厚くないんだよな。だから、どこの誰に聞かれるとも限らないのだ。
「大丈夫、マルクの工房から大分離れはするけれど、会うのは一瞬だからね」
僕の言葉に首を傾げる三人。それを流して、僕は門弾を放つ。
「さぁ行こう」
************************************************************
クラウス達に挨拶を済ませ、屋敷の応接間で恒例の説明を始める。説明を終えた頃には、ドワーフ冒険者三人は頬を引き攣らせていた。
まぁ実際、サラッと話しただけで信じられないだろうからなぁ。しかし事実なんだし、仕方ない。
「ア、アーカディア卿……あなたは本当に何者なんだ?」
「流石は勇者様のご子息……」
「アーカディア卿パネェ」
上から、ジョリーン・リリルル・エルザの発言である。エルザは何でその言い回しを知っているんだ。
「レイラさん、済まないけれど彼女達の部屋を準備して貰っていいかな?」
「かしこまりました、ご主人様。ではメアリーとエミルには、夜食をお願いしますね」
「任せて下さい~!」
「頑張りますぅ!」
頼もしいぜ、うちのメイドさん! メイド服なんて着てないんだけど、やっている事はメイドさんだからなぁ。ミリアンで、作るのも、いいかも。
あっ、ちゃんとジョリーンとマルクは同じ部屋にさせたよ。
……
さて、客間の準備が整うまでにやっておきたい事がある。
「マルク、ちょっと付き合ってくれ」
「あ、あぁ……構わないけどよ」
「姉さん達はジョリーンとリリルル、エルザを連れて風呂入っておいで。疲れたでしょ」
「そうですね、そうさせて貰いましょうか」
「はい、早く血の臭いを落としたいです……」
女性だもんね、その辺りやはり気になるだろう。僕は、その後でいいや。
「で、ユート。何をするんだ」
「あぁ、当面はジョリーンとリリルル用の義足や義手が必要だろ? 今からそれを作ってあげたいんだ」
「そうか、鍛冶職人の腕が鳴るな」
いつもの元気が無いマルク。
ここは、一つ驚かせていつもの調子を取り戻して貰おうか。
……
僕はマルクを工房に連れて行き、そこで義手や義足の製作を見せた。創造者の小箱での製作をだ。
「な、な、な……なんじゃそりゃあああぁぁぁぁっ!?」
うんうん、やはりマルクはいい反応をしてくれるな。
流石に、目の当たりにした光景に鍛冶職人として黙っていられなかったようで、矢継ぎ早に質問される。少しでも元気の足しになればいいと思って、僕はそれに一つ一つ答えていった。
************************************************************
僕とマルクは話をしたり作業をしたりで、結局貫徹してしまった。
朝風呂の後、ちょうど起きてきた皆を集める。
まずはコイツからだな。僕が形作り、マルクが鍛冶魔法で研磨や補強、そして稼動部などの調整を仕上げた義手と義足。それをジョリーンとリリルルに渡す。
これには、人形師と呼ばれる魔導師が使う“操作”という魔法を刻印付与した。これによって、念じるだけで手足が動くように出来ているのだ。
流石に普段通りとはいかないものの、自分の意志で動かせる手足を得た二人は大喜びだった。
「あぁ、こんなに素晴らしい物を……マルク、ありがとう!!」
感激して、マルクに抱き付くジョリーン。
「ありがとうございますアーカディア卿!!」
そして抱き付いたりはしないものの、感涙するリリルル。
……
さぁ……ここからが本題だ。
「姉さん、アリス、リイン……いいか?」
僕のかけた言葉の意味に、一瞬目を丸くした三人は……その意味を察したのか、力強く頷いた。
例の魔法創造を、パーティメンバー以外に話すのは危険と隣り合わせだ。
大丈夫、屋敷のメンバーは信頼出来る。それに、マルクもジョリーン達も、他人の秘密を軽々しく口にするような連中じゃない。
信じる……それは結構、覚悟のいる事なんだな、なんて思った。
「これから話すのは、僕達が検証中のある現象についてだ。その話については決して他言してはいけない……約束して貰えるかな」
僕の真剣な言葉に、一瞬の逡巡を見せる四人。そして……。
「ユートは、俺にとっちゃ大事なダチだからな。男マルク、絶対にお前達を裏切らねぇって誓うぜ」
「思えば、出会った時からアーカディア卿も皆様も、我々に対し心を砕いてくれていたな……そんな人達を裏切るなんて有り得ない」
「そうねぇ……アーカディア卿達のお陰で、私達は助かったんだものね。大恩ある人達を裏切るくらいなら、死んだ方がマシよ」
「アタシも、何があっても秘密は守るわ。それに、その話をしてくれるっていう事は、それだけアタシ達を信頼してくれたって事だもの!」
四人の様子に、僕達の判断は間違っていないと確信する。
では、話そう。僕達の秘密、その一部を。
……
“魔法創造”という特殊な現象。
それを使えば、欠損回復や死者蘇生を出来るかもしれないという事。そして、遺失魔道具を作製できる僕の技能。更に、クラリスの遺体は“時間停止”を付与した“宝物庫の指輪”の中に保管してある事を説明する。
屋敷のメンバーも、マルクも、ジョリーン達も目を見開いて驚いていた。
——話し終えてから、しばらくの間は誰も一言も発しない。痛いほどの静寂が場を満たす。
……最初にその沈黙を破ったのは、クラウスだった。
「遺失魔道具の件は知ってましたが、魔法創造については初めて聞きましたぜ。水臭いじゃねぇですか、もっと早く教えて下さいよ!」
努めて、明るい声でそんな事を言う。
「やっぱりご主人様達は最強です~!」
クラウスに乗っかり、いつもの調子でそんな事を言うメアリー。
「僕達のご主人様は、本当にとんでもない人達ですね」
苦笑して、ジルも受け止めてくれた様子を見せる。そして、続くのはレイラさんとエミルだった。
「クレアにはまだ内緒にしておきましょう、でないとポロッと口に出しちゃいそうですからね」
「それがいいと思います。あっ、私も絶対に口外しませんので!」
グッとガッツポーズを取るエミル、可愛い。
そんな屋敷メンバーの返答に、ドワーフ勢も口を開き始めた。
「確かに、公には出来ない秘密ばかりですね……私も他言しない事を誓います、この命にかけて」
「私もです、この身命にかけて誓いましょう。アーカディア卿達の秘密、何人たりとも漏らしません」
「アタシもっ! むしろ凄い秘密ばかりじゃない!? すっげー!」
「お、俺も誓うぜ……それで、ユート! もしかして、そいつを使えば……!!」
期待に満ちた視線を向けて来るマルク。見れば、全員が同様の視線を向けている。
「試してみよう。死者蘇生と、欠損回復の魔法創造を」
僕の力強い言葉に、全員が歓喜の声をあげた。
……
訓練場に集まった皆の見守る中、姉さん・アリス・リインが瞑想を続けている。詠唱は既にそれっぽーいのを考えて伝えている……が、既に十分以上微動だにしない。
流石に心配になって来るが、声をかけたりして集中を乱すわけにはいかない。
駆け寄りたい気持ちを抑えて、僕は“真実の目”と竜眼の双方を駆使して、三人の状態を確認し続ける。
更に五分程が経過し、やがて……三人が目を開いた。
「皆、大丈夫か?」
「すみません、皆さん……」
「二つの魔法創造は出来ないようなんです……」
「ユーちゃん、今すぐの治療は出来ないみたいですよ」
その言葉に、マルク達は肩を落とす。
しかし、僕はその言葉の正確な意味を悟った。見れば、姉さん達も同様の真実に辿り着いているようだ。
「……姉さん、確認だ。今すぐってのはそういう意味かな? 創造出来ないって事は、既に存在するって事?」
僕の言葉に、マルク達が顔を見合わせる。
「はい、この現象については私も理解が及んでいません……でも、原因が魔力の不足等ではありませんでした。そして……何故かは解りませんが、感覚的に理解できるんです。その二つ……欠損回復と死者蘇生の魔法は、存在します」
力強い姉さんの回答に、再び全員が歓声をあげた。
『魔法創造については、姉さんも解らないのか』
『ええ、すみません……でも、ユーちゃんと私達に関わる物であるのは、間違い無いでしょうね』
……ふむ。検証はこれからも行っていこう。そして……その謎も必ず解き明かしてやる。
それはそれとして、希望が見えた。
「よし! ここからの旅、二つの魔法を探す事にする。異論は無いか!」
「「「「はいっ!!」」」」
仲間達の言葉に、僕は強く頷く。大切な友人達の為に、必ず二つの魔法を見付けてみせる。
************************************************************
その後、ジョリーン達はアーカディア島に留まるだけでは申し訳ないと、菜園で野菜を育てる事にすると言い出した。
義足と義手があるから不可能ではないが、野菜を育てるのは苦労も多い。そう思って話をしたのだが、ジョリーン達は頑なだった。
「私は穀潰しになりたくないのだ、アーカディア卿……いえ、ユート殿」
「それにドワーフ族は、食材の調達なんかは女の仕事なんですよ」
「アタシはクエスト王国で細々と依頼をこなして、稼ぐつもり! あっそうだ! ねぇねぇ、ユート兄って呼んでもいい!?」
アーカディア邸では家賃や食費等がかからない分、食材を提供して協力したいという事か。
ちなみに、呼び名は好きにしてくれていいよエルザ。
更に、マルクが言葉を引き継ぐ。
「そんで、俺は鍛冶工房の仕事を再開するぜ。ユートのアイディアを形にするって約束したしな。それで、自分達の酒代くらいは稼いでみせるさ」
確かに、ウチはそんなに酒を常備していないからなぁ。たまに呑むけど、大体買うのはお土産用としてが多いし。ドワーフは飲む量がパネェからな。
結局、僕は彼らの話を了承する事にした。善意から言ってくれている事だからね、無碍には出来ない。
何か困ったら、すぐに腕輪で連絡するように伝えた。
ついでにマルクとジョリーンの部屋に扉を一枚追加し、その扉をマルクの工房と繋げる……もちろん鍵付きの扉だし、転移門同様に使用者制限をかけてあるとも。
これで、仕事場とアーカディア邸の自室、双方の行き来が大分楽になるだろうからね。
……
後日、工房に刻印を付与した後の事。ついでに王都の様子を見に行った時に、冒険者ギルドで聞いた話をしよう。
クエスト王は素材と魔核によって得られた金の六割を、討伐報酬としてバハムートに支払うとした。
バハムートが現れなければ支払えないが、その機会が訪れるまでは国王の責任で保管するそうだ。
残りは二割を国、一割は素材回収や魔物の焼却に当たった者、一割を傷病者への補填とした。
今回の件で、碌に対応していない国が二割? とは思うが、国家なんてそんなものだろう。それに兵士による抗戦や市民の誘導、戦後処理の為に人員を割くのも国だしな。
むしろ、僕達のような協力者や、傷病者への補填は意外だった。
一人頭で金貨三枚。一般人からしたら、とんでもない大金である。
ちょっと少ないね、だなんて思った僕は、そろそろ金銭感覚が麻痺しているようだ。
しかし、この国を治めるドワーフの国王は、きっと王として真っ当な人物なんだろうな。もし機会があれば、叔父さん達にドワーフの王の話をしてみよう。
 




