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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第5章 クエスト王国

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05-04 武器強化/天空島にて

これまでのあらすじ:魔物討伐依頼と素材集めの為に、鉱山に来ました。

 魔物の討伐は順調に進んだ。討伐に関して、僕は皆に特に指示を出さない状態を継続中だ。

 僕の考えを汲んだ四人は、索敵をアイリが担当、戦況分析と指示を姉さんが、初撃をリイン、追撃をアリスが担当し、効率よく魔物を討伐していく。

 ほとんど、クワガタアリなんだけどね。たまーに大きな体躯を持ち、酸性の糸を吐き出すアシッドスパイダーや、粘液状の身体に獲物を取り込んで捕食するスライムが現れる。

 しかし、それらも姉さん達の敵ではない。


 姉さんは元よりチートスペックだし、アイリも獣人としての身体能力を持つ。

 筆頭宮廷魔導師の弟子だったアリスも一流といって差し支えない実力を持ち、リインの弓術・魔法も流石はエルフ族だけあり、他のメンバーに見劣りしない。

 全員、銀級冒険者のライセンスカードに相応しい実力を有している。


 欲を言えば、アリスとリインは近接戦闘に持ち込まれると弱いのと、アイリは硬い敵に対する対抗手段が乏しい。

 そこは、新しい装備で賄う事にしようか。


 さて、そろそろ訓練は終わりでいいかな。

「討伐依頼に対して数は十分だけど、このまま駆逐していこうか。そろそろ僕も参戦しようかな?」

 四人に任せ切りでは、流石に僕が穀潰しになりそうだしね。


「了解です、ユーちゃん」

「はい、ユート君が居てくれると安心です!」

「ユート様、布陣はどうしましょう?」

「ユートさんが加わるなら、中衛でしょうか?」

 四人は笑顔で迎えてくれる。

 うーん、信頼をひしひしと感じるが君達、僕はしがない付与魔導師だよ? まぁいいか。


「連戦で疲れたと思うし、山頂付近までは僕が掃討しちゃおう。神竜の加護の効果がどれくらいなのかも、検証しておきたいからね。山頂付近にいるクロコダイルオオトカゲは、硬い・早い・強いの三拍子だから全員で討伐する」

 クロコダイルオオトカゲはまだ見た事がない。なので、油断せずに最大戦力で対応すべきだ。


 ……


 結果として、僕の戦闘能力は劇的に上がっているのは間違いなかった。神竜の加護、パネェ。

 最初は銃撃、これはいつも通り。

 続いて斬る、身体が軽いし敵の動きも読みやすいしで、サックリいけた。

 最後に殴る蹴る……何と全部一撃でノコギリアリを仕留めてしまった。


「ユーちゃん、こんなに強くなっていたんですね」

「自分でもびっくりだよ。神竜の加護のお陰だから、自惚れないようにしないと」

 自分自身の成長じゃない事を、しっかり自覚しないといけない。


 ……


 さて、そろそろ山頂付近だな。

「おっ、いるいる。こいつはクロコダイルオオトカゲの反応だろうな」

 魔物の光点はもう殆ど無い。


「そう言えば、ドワーフ達でもノコギリアリなんかは普通に討伐できると思ったんだけど……何で依頼が出たんだろう?」

 僕の疑問に答えたのは、やはりリインだった。

「ドワーフ達の坑夫は基本的に発掘に使用する器材しか持っておらず、天井付近から酸を吐き出したりするノコギリアリに対応出来なかったんでしょう」

 近寄って来ないと、対処出来なかったのか。成程、納得。

「ありがとうリイン」

「いえいえ」

 笑顔で返してくれるリイン、可愛い。


 ……


 山頂まで後少しという所にそいつはいた。

 大きな体躯の表面は、ワニのようにゴツゴツしている。身体の形状は確かにトカゲだが、その巨大な口は確かにワニのようだ。だからクロコダイルオオトカゲか。

「でけぇなー、さてどうしてやろうか」

 ちなみにコイツの身体から採れる素材は武器の強化に使えるらしいので、あまり傷を付けないでおきたい。


「最小限の損傷で済ませるには、どうするかな」

「倒せる事は確定なんですね」

「黒竜より強いと思う? あれ」

「私は見ていないので何とも言えませんが、竜とトカゲでは比較になりませんね」

 だよねー。さて、どうするか。


「頭を潰すか、首を落とすか」

「まぁ、常套手段ですね。方法はあるんですか?」

振動剣バイブレーションソードなら可能でしょうけど、首回りが太いんですよね」

 ……一つ、思いついた事がある。しかし、少々躊躇うな……でも、物は試しだ。

「……一つ相談がある、魔法の創造を試してみたいんだが」

「「「「……!!」」」」

 宝物庫ストレージの魔法が偶然創造された事で、アリスはかなり魔力を持っていかれていた。皆も、少し躊躇しているな。


「無理にとは言わないよ」

「大丈夫です、どんな魔法ですか?」

「……私もいけます、ユートさん」

 気丈にも、そんな返答をするアリスとリイン。

「水を圧縮して、細く……そして勢い良く、一直線に噴出する魔法だ」

「はい……やってみます」

「私も……試してみます」

「僕はレールガンを用意しておく。姉さんとアイリは二人の護衛を」

 全員の首肯、そして襲撃の準備に入る。


 アリスとリインは不安そうな表情で、目を閉じる。

 ……しかし、何も起こらないらしい。

「詠唱とかが解らないと、魔法自体使えませんから……」

「あの時は、ユートさんが考えた詠唱を使ったんですよね?」

 ……うーん、そう言えばそうだな。適当に何かでっち上げてみるか?


「じゃあ、僕と一緒に詠唱してみるか」

 その言葉に二人は首肯した。

 そして……。

「「”来たれ、水の精霊一柱……我が声に耳を傾けよ。我が求むは激流の糸、万物を断つ刃となれ……”」」

 ……あ、コレ成功する。不思議と確信があった。

「「”切り裂け、水の刃ウォーターカッター!!”」」


 目を見開き、杖を翳すアリスとリイン。その杖から噴き出した水の線、それをクロコダイルオオトカゲに向けて振り下ろす。

 僕達に気付いたクロコダイルオオトカゲだが、気付いた時には手遅れだった。

 ズバァッ!! という切断音。次いで、クロコダイルオオトカゲの首が自重によってずれ……地に落ちた。鋭い切り口から、遅れて噴き出す血。

 討伐完了、だな。


「……大丈夫かい、二人共?」

「はい。前の宝物庫ストレージの時と比べて、魔力の消費は少なかったと思います」

「そう……ですね、私もそこまで魔力を消費した訳では無いです」

 ”目”で確認しているが、確かに申告通り魔力消費量は多いものの、前回程ではないな。

 前回は100%から5%くらいまで減っていたのだが、今回は35%くらい残っている。


「僕の我儘を聞いてくれてありがとうアリス、リイン。ほら、魔力回復薬を飲んでおいて」

 宝物庫ストレージから取り出した魔力回復薬を手渡し、二人を労う。

「はい、ユート君の役に立てたようで嬉しいです」

「私も、ユートさんの期待に応えられて嬉しいです」

 笑顔で返してくれる二人……本当に優しい娘さんだよ。


 クロコダイルオオトカゲの身体は、丸ごと宝物庫ストレージ行きだ。相当量の素材になるから、後でじっくり解体しよう。

 アリスとリインの調子が戻るのを待って、僕達は鉱山を下山し始める。


 途中で会ったドワーフ達には討伐証明部位を見せ、魔物の駆除が終わった事を伝えておく。

 鉱山に入ってから、五時間程。

 ドワーフ達があまりの早さと量に、目を剥いていた。

 山頂までは普通に登ると三時間コース……うん、早いなコレ。


************************************************************


 二日後の朝方、僕達はカルネヴァーレへ戻っていた。

「で、コイツを討伐して持って来た……って事か……早いのもそうだが、でけぇな!?」

 クロコダイルオオトカゲはマルクの工房に置く場所がなかったので、その裏の開けた場所に置いた。

 周囲のドワーフ達が、何だ何だと寄ってくる。


「こいつはたまげた、山頂のヌシじゃねぇか!」

「こんな若い冒険者が討伐できたってのか!?」

「最近の若い奴は、やるもんだなぁ!!」

 ドワーフ達の賞賛に、一言言ってやりたい。

 この魔物、ウチの魔導師二人が瞬殺したんだぜ。言わないけどね。


「綺麗な切り口だな、一体どんな武器を使ったらこんな風に斬れるんだよ」

 水の刃だよ、とも言わない。そんな魔法は無いからね。

 水の刃は、ダイヤモンドの加工にも使われるそうだし、強力な魔法が手に入った訳だ。


 さて、僕は超高速振動を刻印付与済みの剥ぎ取りナイフで、素材を解体していく。

 僕の解体ショーに、ドワーフ職人達が目を剥いていた。解体の腕にではなく、解体しているナイフにだな。悪いけど、あげないよん。


 クロコダイルオオトカゲの肉は美味くて、高く売れるらしい。

 なので、一部を手伝いを申し出てくれた職人さん達に贈呈し、残りは僕達の分で半分。もう半分は、ギルドで買い取って貰おう。素材になる外皮と牙は、マルクの鍛冶魔法で使用するため売らない。


 依頼達成(四件合計)により僕達のパーティは金貨五枚をゲット。更にクロコダイルオオトカゲの素材と肉で、金貨四枚をゲットした。

 金貨五枚は山分けし、クロコダイルオオトカゲの売却料はアリスとリインで分ける事にした。

「良いんでしょうか……」

「やっぱり山分けでも……」

「アリス様とリイン様がクロコダイルオオトカゲを倒したのですから、その報酬はお二人のものですよ」

 欲がないな、うちのメンバー。


 ……


 その後、マルクの工房で武器の強化をお願いすることにした。素材を渡し、マルクの鍛冶魔法を見せて貰う。

「”来たれ鋼の精霊一柱、我が声に耳を傾けよ……”」

 もしかしたら遺失魔道具アーティファクト化できるかもしれないので、詠唱をよく聞いておこう。

「”この武器に新たな力を、武器強化アームズストレンジ”」

 詠唱完了と共に、素材と武器が光り輝く。そして、素材の光が武器に取り込まれていく。久々に(魔法行使以外で)ファンタジーな光景を見た気がするよ。


「よし、コイツの強化は完了だ! 次はこっちだな!」

 手渡された武器……自分の銃剣を真実の目プロビデンスで見ると、確かに性能や強度、そして等級が上がっている。そうか、等級も上がるのか。

 見た目はあまり変わっていない気もするが、解析アナライズで見ると相当強化されているのが解るな。


 更に、普通の鍛冶と武器強化で、アリスとリインの新装備も完成した。

 アリス専用の銃機能装備型魔法杖。長い柄の先端には刃も備えており、杖とも二股の槍とも見える。

 リイン専用の銃機能搭載型ロングボウ。こちらも、弓の中央から両翼を刃にし、近接戦闘に備えられるようにした。

 これで僕達の装備は、全て刃・銃の機能を持つ事になるな。今後の装備も、これを主にしようかな?


 ……


 折角だし、新しい武器の使い勝手を確認したい。でも、いきなり実戦は万が一に備えて避けた方がいい。

「アーカディア島で、習熟訓練をしようと思うんだけど、どう?」

「そうですね、使い勝手を確認するのは大切だと思います」

「私も、近接戦闘に備えて少し訓練をしようと思います」

「私もリインさんに同感です」

「ユート様、私も同じです」

 うん、皆はそう言うと思ってた。


「何でぇ、もう次の旅に出るのか? 訓練ならこの辺でやりゃあ良いじゃないか」

 ……マルクにはまだアーカディア島の事を教えてなかったな。

 よし、ここは一つ相談してみるか。それでは!

「アーカディアパーティ集合!」

「「「「はーい」」」」

「んっ? 何だ何だ?」

「マルクは待っててね。大丈夫、悪いようにはしない」

「お、おう……」


 さて、僕を中心に円陣を作って肩を組み、顔を突き合わせる。

 ……これ、目の保養になるな。そんな馬鹿な考えを打ち消し、皆の意思確認をする。

「マルクを連れて行くのに賛成の人!」

「「「「はい!」」」」

 満場一致!

「アーカディアスクラム解除!」

 一連の流れに、マルクは置いてけぼりだ。クエスチョンマークが頭に浮かんでいそうだな。


「マルク。満場一致で、君を本拠地に招待する事が決定したんだけど、来る?」

「……いや、行ってみたいけどよ……仕事もあるし、なぁ……」

「大丈夫。すぐに行って、すぐに帰って来られる方法がある。なんと移動にかかる時間は一瞬だ」

「はぁ!?」

 銃剣に門弾ゲートバレットを装填する。


「ユーちゃん、サイレンサーを付けないと」

「あっ、そうだったね」

「待て待て、俺の工房を壊す気か!?」

 あぁ、説明なしだとそう思われても仕方ないね。


「これは特別な弾丸で、転移魔法がかけられているんだ。これは物にぶつかると自壊するから、物は一切傷付かない」

「転移魔法だと!? おいおい、何でそんな物を持って……いや、そもそもそれって……」

「詳細は後だ、とりあえず来るか来ないか」

 僕の真剣な口調に、マルクは迷っていたものの表情を引き締めて応えた。


「行く、色々気になるしな」

「はいよ、一名様ご案内〜!」

 レッツ転移!


************************************************************


「な、何じゃこりゃあぁぁぁっ!?」

 いいリアクションだ、解っているなマルク。今回は事前に魔力駆動二輪を準備してなかったから、直接屋敷に転移だ。

「ようこそ、天空の島・アーカディア島へ。改めて自己紹介しよう、このアーカディア島の所有者、ユート・アーカディアだ。歓迎するよ、マルク」

 僕の自己紹介に、マルクは目を丸くしている……洒落じゃないぞ!?


 概要説明で、マルクの表情が今まで見たことないくらいまで引き攣っていった。

 そりゃ、遺失魔道具アーティファクトを作れるとか、神竜と戦って認められたとか、神竜の加護とか、島の譲渡とか、神竜の卵とか言っても普通は理解不能だろうから仕方ないね。

 でも、事実だから仕方ないね! 

 とりあえず、マルクを屋敷の皆に紹介する。クラウスとジルは、マルクを歓迎していた。

 高いもんねー、女性比率……。


「さて……それじゃあ鍛錬場で、少し訓練かな?」

 屋敷の近くで武器を振るっていると、クレアちゃんの情操教育によろしくないので、鍛錬場を作ってある。一見すると、コロシアムみたいな形になっているのだが、これは地魔法の”石のストーンウォール”で拵えた物だ。僕、頑張った!

「さーて、じゃあやっていこうか!」

 マルクには説明済みなので、付与魔法もバンバンかけちゃう。


「手によく馴染みますね……素晴らしいです、マルクさん」

 ガンレイピアを振るう姉さんが、うんうんと頷いている。ツインテールを靡かせて、腰布を翻しながら木製の目標に向けて刺突や薙ぎ払い、そして激しい動きの中にも関わらず正確な射撃を披露する。


 次いで、アリス。

「やっ! はっ! えいっ!」

 僕が教えた槍の使い方をおさらいするように、槍杖による突き、払い、打ち上げ。そして銃口を構えての狙撃。

 薙刀は女性にも扱えるって聞いていたから、教えてみたんだけど……アリスも意外とサマになっているな。


 そしてアイリは、得意な機動力を活かしたヒット&アウェイ。

「……素晴らしいです。まるで身体の一部のような感覚です!」

 高い身体能力と鋭敏な感覚は、獣人であるアイリの持ち味だ。その中で特に、重量とバランスを重視した双銃剣は、ピッタリみたいだ。

 双銃剣だと僕と被るな、今後は双銃刀と呼ぼう。


 そしてリインは、弓と銃を先に試す。

「すごい、こんなに素晴らしい武器は初めてです!」

 元々、リインは狙いが正確だったのだが、新たな弓はその能力を引き上げ百発百中。更に照準時間が大幅に短縮されている。

 その上、弓両翼の刃を振るうと、その切れ味は僕達のものと遜色ない。


 最後に僕は……。

「……凄いな、鍛冶の腕でこれ程の差が出るのか」

 振動剣バイブレーションソードは使っていないにも関わらず、鋭く綺麗な切り口を晒す木製人形。

 更に、手に馴染むお陰なのか、射撃性能が凄まじく上がっている。照準・連射・弾の交換……全てが一つの動作のように、淀みなく流れるように出来る。

「すげぇよ、マルク! これは最高の武器だよ!」


 僕に続いて、姉さん達もマルクを賞賛する。

「ありがとよ、鍛冶職人として最高の褒め言葉だぜ。そいつで、バンバン活躍してくれよ!」

「あぁ、未来の特級鍛冶職人の名前を広めるくらいにな」

 僕の言葉に、マルクは男臭い笑顔で応えた。


 そんな中、示し合わせたように()()()がやって来た。

「ユート、ここにいたのか……おや、そちらは?」

「あら、ドワーフ族の方ですの?」

 アルファ、ブリック、マックとリアが現れた。


「おぉ? もしかして、ユートの仲間か?」

「そだよー。こっちがイングヴァルト王国第一王子のアルファルド、こっちはミリアン獣王国の第一王子ブリック、それで彼等はヴォルフィード皇国の第一皇子のマックール、第一皇女のリアンナだよ」

 僕の紹介に、マルクの表情筋がマッハだ。


 そういや父さん達に王様勢・英雄勢は、ここには連れて来たこと無いな。まぁ、その内でいいか。

 リインとリアが近況報告をしたり、何気に初対面のブリックとマックが仲良くなったり、色々な事がありつつ親交を深める。


 ……


 そして、アルファ達からある情報が齎された。

「……勇者召喚?」

「あぁ、お前達がクエスト王国へ出立した直後に、神託があった。そして、今日の昼前に召喚が全て完了したという神託が下ったんだ」

 少し間がある気がするな。


「勇者召喚って儀式は、そんなに時間がかかるのか? もう三日経ってるけど……」

「いや、召喚の儀式自体は半日もあれば済む。しかし、今回は異例の事態だ。何せ、十四人の勇者が召喚されたからな」

「はぁっ!?」

 勇者が十四人!?

 過去三回の勇者召喚は、それぞれ一人ずつだった。今回に限って、何故十四人も!?

「おそらく、神々はそれだけ現状を憂いている……ってのが、諸国の首脳陣の考えだ」

「それで、今回の勇者召喚の理由は? これまでは何かしら、対象がいただろ?」


 過去の勇者を描いた物語では、その辺りにも触れられている。

 変異した強力な魔物……通称”変異種”の大量発生に対し、召喚されたのが錬金術の勇者ショウヘイ。

 神格を持つ邪悪な存在・邪神……それに対して召喚された、精霊に愛され会話も出来たと言われている勇者シンタロー。

 そして、前魔王の暴虐に対し召喚されたシマ……がダメダメなクソ野郎だったので、それを討伐し勇者の称号を引き継いで、魔王討伐の偉業を成したのが僕の父親、世界初の現地人の勇者レオナルドだ。

 このように勇者召喚は、苦難の時代に行われると言われている。


 しかし、そんな苦難が世界を襲っているなら、僕達もこんなにのんびり旅を出来ないんだけどなぁ。

 そんな疑問に、アルファが苦々しい顔で答えた。

「……現魔王であるアマダム・ガルバドス・ド・オーヴァンの討伐を示唆していた」

 現魔王……それは何か変じゃないか?

「現魔王って、各種族との和平を結ぼうとしてるって話じゃなかったか?」

「……そう言われているな」

 アルファ達の表情は、芳しくない。公になっている魔王の方針と、神の宣告……そのどちらが正しいのか、判断しかねているようだ。


「……魔人族、か。戦争になるのか」

「……そうなる可能性は、高いな」

 それは、大変よろしくないな。

「少し、色々考えようと思う。教えてくれてありがとう」

 それから互いの近況報告等を交して、その日はお開きになった。


 会った事のない魔人族の英雄。

 和平を謳う現魔王。

 召喚された十四人の勇者。

 それを戦わせようとしている、四柱の世界神……戦争ゲームを楽しんでいる世界神達。

 うん……気に食わないな。

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