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05-01 クエスト王国へ/ドワーフの冒険者

これまでのあらすじ:リインをパーティメンバーに迎え、総勢5人となったのじゃ。

 ヴォルフィード皇国の皇都リーヴォケインを出立してから、五日。アーカディア島の中心部にある屋敷に僕達は居た。

「ヴォルフィード皇国は大方回った……のかな?」

「まぁ、確かに観光する場所と言う意味では、名所は全て巡ったと思います……本気で観光するんですね」

 名所を案内してくれたリインが苦笑いしている。

「エルフ族の文化は、やはり自然との共存……これが一番なのですね」

「世界樹は非常に大きく感じました、獣王国にも大木があるのですが比べ物になりませんね」

 姉さんとアイリが、うんうんと頷きながら感想を口にする。


「食べ物も、菜食メインでしたね?」

「ええ、アリスさん。エルフ族は肉や魚を食べない訳では無いのですが、野菜を取ることがほとんどですね」

 お陰で、太ったエルフ族なんかはいないようだ。ちなみにリインは肉も野菜も魚もイケるので、食文化の違いはほぼ感じない。

 ほぼというのは、メニューにやはり何かしらの野菜が無いと……ってくらいだ。レイラさんがその辺りをうまくやってくれているので、問題はない。


 さて、そんな僕達はヴォルフィード皇国から、新たな地へ旅に出ようと考えている。

 その行き先の候補として、南大陸のジークハルト竜王国か、北大陸のオーヴァン魔王国……そして、西大陸のクエスト王国を考えている。オーヴァンにいるはずの魔人族の英雄以外、所在が解っているからね。


「普通に考えれば、ヴォルフィードと同じ西大陸にあるクエスト王国ですが……」

「うん姉さん、そんな目をしないで? 別に普通じゃない選択をする事にこだわってないからね?」

 普通は素晴らしいと心から思ってるのよ? 

「僕もこのままクエスト王国に行くのが良いと思う。皆の装備も強化出来るならしたいからね」


 ——クエスト王国はドワーフ族の国だ。

 ドワーフと言えば鍛冶、鍛冶と言えばドワーフ。ドワーフ族には優秀な鍛冶職人が多く、ドワーフ製の武器は冒険者の憧れなのだそうだ。この辺は、ゴンツやテリー氏達から聞いた。


「リインの弓も自分流で作っちゃってるしね」

「いえ、銃と一体になってる弓なんて他に見たこと無いですし、弓としての性能も高いと思いますよ」

 リインの弓は、メアリー用に製作したショートボウより少しサイズが大きく、強度も高くしたものだ。

 エルフ族は弓術に優れているだけたり、リインもメインウェポンを弓矢にした。

 しかし僕らの武器は、僕が自分流で作った物だ。本職の人が作った物には劣るだろう。幸い、お金もあるし見に行ってみたい。


「クエスト王国……そうするとガンツさんですね」

「そだね、酒を仕入れていかないとね」

 ガンツさん……ドワーフ族で鍛冶職人の最高峰とされている人物。そして、勇者レオナルドの仲間である。

「酒が無いと態度悪いからな、あの爺さん」

「英雄を爺さん扱いですか……何と言うか、流石と言うか……」

 リイン、慣れだよ。アリスもアイリも、今は苦笑するだけである……諦めただけなのかもしれない。


 ……


 さて、次の行き先が決まった僕達は、旅の準備を開始する。

 準備といっても、大した事ではないんだけどね。食料や水を買い足す、以上。

宝物庫の指輪ストレージ……この指輪だけで、旅が劇的に変わりますね。ユートさんの遺失魔道具アーティファクトを目の当たりにしたら、エルフじゃなくても目の色を変えそうです」


 確かに、僕は自分で製作しているから便利だなぁくらいにしか思っていないが、この世界に現存する遺失魔道具アーティファクトは極少数であり、その製法も明らかにはなっていない。

 そんな稀少な品を目の当たりにすれば、手に入れたいと思うのも解らなくはない。


 まぁ、だからと言って無関係な人間にあげたり、製法を教えたりはしない。そんな事をすればきっと、欲望に負けて悪用する者、他者を傷付ける者が現れる。そうなれば戦いが起こり、戦争が起こり、惨劇になるだろう。

 それは僕の本意ではない。余計な争いの火種にならないように、遺失魔道具アーティファクト製作者である事は隠す必要がある。

 ……身内の為に、どうしても必要な場合はその限りではない。


 姉さんの銃機能付きレイピア……言い難いからガンレイピアと呼ぼう、それにアリスの杖と魔導銃、アイリの双銃剣、リインの弓銃……そして僕の双銃剣もグレードアップしたい。

 それに加えて、以前から考えていた”ある物”を製作してみたいと思っている。なので、協力してくれる鍛冶職人がいればいいなぁ。


************************************************************


 イングヴァルト・ミリアン・ヴォルフィードの順で、知り合いにクエスト王国へ向かう旨の連絡を済ませて翌朝。

「さぁ、行こうか。新しい国への旅だ!」

「「「「はいっ!」」」」

 四人の元気のいい返事を聞き、ヴォルフィード皇国の皇都リーヴォケインから南へ向けて馬車を走らせる。

 目的地は、ヴォルフィード皇国の南にあるドワーフ族の国、クエスト王国。ドワーフ達の国かぁ……どんな国かな?


 そんな期待に満ちた出立だったのだが、水を差す連中がいる。マップに、僕達を追跡する光点が映ったのだ。そして、光点は赤……敵意を示す色だな。 

「どうやら、ヴォルフィードの研究者や貴族だな。どれどれ……おぉ、総勢八組! 予想よりも多かったな!」

「ユートさん、あのぅ……何か嬉しそうじゃありません?」

「いやぁ、折角皇帝陛下やアンドレイ叔父さんがいろいろ考えて、僕なんかを叙爵してくれたのにね? それを台無しにする阿呆がこんなにいるとはねー! 我激おこ!」

 コイツらに手加減する理由は無くなった。


「それでユート様、いかが致しましょうか?」

 アイリの質問に、僕は笑顔で答える。

「魔物の多い所に放置していく。僕らは魔物避け出来るから大丈夫、安心して」

「相手する手間すら惜しみましたね、ユート君……」

 まぁね! 手加減はしないと言ったが、相手にするとは言っていない。


 馬具と馬車に刻印付与をして、この馬車は”魔物避け”と”消音”が使用できるように改良した。

 丁度よく、銀級冒険者以上でなくては相手を出来ないと言われている魔物・キマイラの生活圏内が近いので、彼らにぶつけてやろう。


 魔力を流し、付与効果を発動しながらキマイラの生活圏内を突っ走る。それを追いながら、周囲にいる同じ目的の競争相手に注意を払っていた研究者や貴族どもは、一台の馬車が襲われて初めてキマイラの生活圏内に入ってしまったことに気付く。

「馬鹿なっ!?」

「奴らは普通に走っているのに!?」

遺失魔道具アーティファクトの力なのか! クソっ!」

 キマイラは足が早いし、空も飛べる。精々頑張るといい。


「さーて、国境まであと二時間くらいかなー」

「……見事に容赦なしです」

 リイン、その内慣れるよ。あ、また光点が減ったな、御愁傷様。


************************************************************


 一晩野営をして翌日、僕達は問題なく国境に辿り着いた。別に門や壁があるわけではない。

「エルフとドワーフはそこまで仲が悪くないんです。持ちつ持たれつで、交流もそれなりにあるんですよ」

 とはリインの弁だ。

 少しずつ、堅苦しい口調が抜けてきている。このパーティにも慣れて来たのかな?


 さて、ここから先はドワーフ族の国・クエスト王国だ。

 何か依頼が舞い込んで来そうな名前だよなぁ……なんて事を考えていると、マップに光点が表示される。別に魔物とか敵対者じゃない。

 マップに加え、竜眼で見るとドワーフ族の冒険者だな。

 光点は四つで、移動速度はそこまで速くないから徒歩か。このまま進むと、僕達が追い抜く形だ。

「まぁ、別に他人を避ける道中じゃないし、いいか」

 一応、先にドワーフ族の冒険者が居る事を皆に伝える。


 十分程進むと、ドワーフ族の冒険者達の姿が見えた。

 馬車の音に、冒険者のドワーフ達が背後を振り返る。彼女達は僕達に向けて、徐に手を振り出した。

 おぉう、なんという大胆な恰好なんだろう。

 四人中二人は、レオタード系の衣装、もう二人はビキニ風の衣装だ。その上から金属製の鎧を纏っている。


 そしてドワーフ族の特徴故か、全員が身長百センチメートルくらい。溢れ出る背徳感。

 ちなみに、ドワーフ族は女性にも髭が生えるっていう知識が前世ではあったのだが……そんな事無いな。その代わりなのか、髪の毛が結構モコモコっとしている気がする。多分体毛が伸びるのが早い種族なのだろう。

 ガンツ爺さんも髭が長かったな、そう言えば。


 さて、手を振られてどうするかだが……。

「特に敵意は無さそうだし、折角の第一国民発見だ。ちょっと会話してみようか」

「そうですね、問題無さそうです。アイリさん」

 姉さんと共に御者台に座り、馬車の操縦を教わっていたアイリが、指示通りに手綱やブレーキレバーを操作して馬車を停める。


「馬車を停めさせてしまって申し訳ない、あなた方は商人か?」

 おっ? 一礼して馬車を停めさせた事を謝罪するなんて、僕達の旅では珍しくまともな対応だ。

「いえ、私達は冒険者です。我々のパーティリーダーは、こちらのユート様です」

「ユート・アーカディアと申します。何かお困り事ですか?」

 アイリの紹介に乗っかり、馬車を停めた要件を聞く。


冒険者どうぎょうしゃでしたか……それに家名持ちとは、爵位をお持ちなのですか。いえ、でしたら構わないのです」

「ジョリーン、一応聞いてみるべきではない?」

「しかし、冒険者にとって水は生命線だろう。余っていたとしても……それに相手は貴族なのだぞ」

 む? 水?

「もしかして、水が足りないのでしょうか?」

 聞いてみると、ジョリーンと呼ばれた女性が躊躇いつつも事情を話してくれた。


 彼女達は銅級の冒険者で、国境付近に現れた魔物の討伐依頼を受けて遠征していたそうだ。

 しかし、魔物の攻撃により水筒を破損させてしまい、飲み水が足りなくなってしまった。彼女達もドワーフだから水筒は補修出来たのだが、肝心の中身が無い。

 この辺りに飲み水に使える水源も無く、困っていた所だという。


「成程。アリス、水魔法の水は飲み水に使えるんだよね?」

「はい、問題ありません。では、水筒を出して頂けますか?」

 二つ返事で水魔法による給水を了承した僕達の様子に、ドワーフ達は驚く。

「み、水を頂けるのですか?」

「同業者ですし、困った時はお互い様でしょう?」

 それくらい、お安い御用だ。

「あ、ありがとうございます……ですがその前に、対価について聞かせて頂けますか? 大変失礼な言い方になるかもしれませんが、私には将来を約束した恋人がいまして……」

 うおぉい!? 何でそんな話になるんだ!! ……と思い、気付いた。


 冒険者を名乗る貴族で、馬車に同乗しているのは姉さん・アリス・アイリ・リイン。見事なまでのハーレム状態。

 これ、女好きグレンの同類と思われてるわ! なんて不名誉な! 


 出来るだけ、内心のを表に出さないように笑顔で告げる。

「困った時はお互い様と言いました、対価など求めませんよ。もし心苦しいというならば、腕のいい鍛冶職人を紹介して頂けませんか?」

 この国に来た目的の一つは、いい鍛冶職人を探す事だからね。まぁ、それも出来ないならば無理強いはしない。問答無用で水を押し付けておさらばだ。


 そこまでする理由は簡単で、珍しくまともな対応の冒険者に出会ったからである。テリー氏達のパーティ以来の、第一印象からまともな冒険者だからね!

 ゴンツ達は第一印象がアレだったし、グレンの野郎は言うに及ばずである。


「そ、そんな事でよろしいのですか?」

「ええ、構いませんよ」

 少し迷いながら、パーティリーダーらしいジョリーンという女性ドワーフは、ようやく首を縦に振った。

「で、では……その、お願い致します」

「はい。アリス、頼めるかな?」

「はい、任せて下さい♪」

 おや? 随分と張り切っている気がするな。

「ユーちゃん、基本的に何でも自分で解決しちゃいますから。少しくらい、皆に頼った方が良いですよ」

 姉さんが、そんな助言を小声で伝えて来る。


 確かに、遺失魔道具アーティファクトで何でも解決できるからな。でも、こういう時には皆に頼ればいいのか。

 というか、普段から少しお願いしても良かったのか。あんまり負担にならないようにと思っていたんだけどね。


 そんな事を考えていたら、アリスが水筒に水を満たしていた。

「あ、ありがとうございます!」

「一口飲んで問題無いか確認して下さいね。一応、私達も普段から口にしているので大丈夫だとは思いますが」

 やり切った感溢れるアリスの笑顔に、少しずつ皆にお願いする事もいいのかなんて思った。


 ……


 僕達はその後、ジョリーンさん率いるドワーフの冒険者達を馬車に乗せる。聞けばクエスト王国の王都へ戻る最中だと言うので、道案内を理由に同乗させたのだ。

「水を恵んで貰った上、馬車に乗せて貰えるとは……」

「失礼ながら、貴方は貴族の方なのですよね?」

「えぇ、ちょっとした働きで名誉男爵の爵位を頂きました。ですが領地も役職もない身ですし、永代の爵位ではありませんから」


 そう、名誉爵位というのは永代ではない……つまり、一世代のみで子には引き継がれない。そういう意味では、大した爵位では無いとも言えるものなのだ。


「しかし、アーカディア卿。貴殿は冒険者の身の上なのですよね? 冒険者が爵位を賜るのは、相当な功績をあげた場合に限るはずなのですが……」

「あー、色々とコネクションがあったお陰です。私自身は大したことない、しがない付与魔導師なので」

 ジョリーンさんは付与魔導師という所に眉を顰めるが、特に突っ込んで来ないので何も言わない。

 多分これ、姉さん達に戦わせて後から付与魔法で援護するだけの奴と思われてるんだろうな。


 そんな空気を払拭する明るい声が馬車に響く。

「凄くない!? この馬車、乗り心地良いわ!!」

「揺れが全然無い、こんな馬車初めてよ!!」

「リリルルもエルザも、はしゃがないでよ」

 これは随分と賑やかだな。うーん、クラウス達を乗せていた頃を思い出すね。


 ……


 馬車は順調に進んでいった。クエスト王国の王都まで、あと十時間前後という所かな。しかし、既に日も落ちかけている。

「今日は、ここらへんで野営かな?」

「そうですね。それでは、野営の準備をしましょうか」

 その言葉に、ドワーフ勢が頷く。


「我々は、自分達のテントや寝袋があるので……皆さんは馬車で寝泊まりされるのですか?」

「いえ、私達もテントですよ」

 ちょっと赤の他人には中を見せられないテントね。

 ついでに、テントなんかは彼女達を乗せる前に、馬車の後の方で宝物庫ストレージの中から出しておいた。調理器具や食材もだ。


「調理器具の設置を姉さんとアイリに頼むよ。アリス、リインには食材の準備をお願い出来るかな? テントの設営はこっちでやるね」

「解りました、ユーちゃん」

「はい、美味しいのを作りますね!」

「ユートさん、テントの方お願いします」

「ユート様、調理器具はあの開けた場所でよろしいですね?」

「うん、皆お願いね」


 僕達のやり取りに、ドワーフ達は興味深そうな視線を向けて来る。

 ただの後から付与魔法をかけて、女性陣を矢面に立たせていると思っていた男が、女性陣と良好な関係を築いている様子だからだろう。

 ちなみに、このパーティで最前線に立つのは姉さん、アイリなのは事実だが、僕は前に行ったり後ろに行ったりだな。そもそも、銃メインの戦法だからな。


 ドワーフ達は干し肉と黒パン、クズ野菜のスープにする予定だったらしく、僕達は食事を共にするように誘った。こちらは肉や野菜がたくさんあるからね。

 そしてヴォルフィードにはパスタのような物があったので、今夜はミートスパゲッティ風の料理だ。それに加えて、身体が温まるように野菜のスープを煮込んでいる。


「あ、あの……本当にご相伴に預かってもよろしいのですか?」

「姉さん達も最初からそのつもりで、多めに作っていたので構いませんよ。むしろ僕達だけでは食べ切れないので、手伝って貰えると助かります」

 勿論、腕輪クロスリンクの念話で指示していたんだけどね!

「そ、それではお言葉に甘えて……」


 ……


 そんな風に、夕食の支度が済む頃だった。マップに知っている人間の表示が現れたのだ。

 げっ、こいつは……。


「失礼、旅の方で……ムッ! 君は!」

「……やぁ、ご無沙汰」

 三人の女性を引き連れて現れたのは、銀級冒険者のグレンだ。めんどくせー。

「君達、何故ここに?」

「それをアンタに話す義務は無いだろう?」

 僕とグレンの様子に、ジョリーンさんが声をかける。

「横から失礼します、アーカディア卿。この銀級冒険者と知り合いなのですか?」

 こいつの事を知っているらしいな。あー、類友と思われてるんだろうなぁ。


「ミリアン獣王国を旅していた時に、ちょっとありましてね」

「ユーちゃんと決闘して、私達を自分のパーティに引き抜こうとしたんですよ」

 オブラートに包んでやろうと思ったのに。

「ユート君が勝ちましたけどね」

「圧勝でした」

「そんな事があったんですか?」

 女性陣、容赦無いね。

 ドワーフ達が目を見開いて僕を見る。決闘で付与魔導師が勝ったと聞いたからだろう。


「ぬぅ……って、また女性が増えているね。エルフ族とドワーフ族の冒険者ですか? 私は銀級冒険者にして、魔法剣士のグレンと申します」

 リインに気付き、恭しく一礼するグレン。この変わり身の早さには感心するばかりだ、真似したくないけど。


「初めまして、リインと申します」

 素っ気なく返すリイン。これは、グレンの事を姉さん達が念話で注意するように伝えたな?

「銅級冒険者パーティのリーダー、ジョリーンと申します。この度はアーカディア卿のご厚意に甘え、王都までご一緒させて頂いています」

 ジョリーンさん達も冷たい視線を向けている。何やらかしたの、コイツ。

「三日前に王都にやって来て、次々に女性を口説き回ってたんだよ」

 確か、エルザだったか。エルザがグレンの所業を小声で教えてくれる。そりゃ、視線も冷たくなるわな。


「ふぅ、君は麗しき女性を誑かすのが得意なのかい? 銅級付与魔導師君」

「アンタに言われたくはないな、獣人女性が増えてるじゃないか。それに、僕達は銀級に昇級したんでその呼び方やめてもらえるかな」

 銀級ライセンスを見せると、グレンは目を剥いた。

「……どんな卑怯な手を使ったのか、気になるね」

 何で僕が銀級に昇級すると、卑怯な手を使ったという話になるのか。


 まぁいい、馬鹿の相手は疲れるだけだ。

「悪いが僕達はこれから食事でね。姉さん達が真心込めて作ってくれた料理が冷めるのは勿体無い」

「むっ、それは確かにその通りだ。良いだろう、話はその後にしよう」

 何で当たり前のように座るんだ、お前。後のパーティメンバーがバツの悪そうな顔しているぞ。


「じゃあ食べよう。いただきます」

「いや待て、なぜ君達だけ食べるのかね」

 何言ってんだ、こいつ。こちらの食事の準備は既に終わっていたのだ。何故こいつらの分があると思えるのか。

「言っておくが用意したのは僕達の分の食事だぞ? アンタらは自分達で食事の準備しろよ、火は使っていいから」

「仕方ないな、君の分を寄こしたまえ」

 図々しいにも程があるだろ!!


「人の食料を奪おうとするなんて、あなたは盗賊ですか?」

 流石に姉さんが口を出した。

「それは誤解ですキリエさん、私はただ、貴女の手料理を口にしたいだけです」

「問題外です、自分達の食料はあるのでしょう? それでお腹を満たして下さい」

 珍しく姉さんが、おこだ。流石のグレンも、姉さんにそこまで言われては引き下がった。


 はぁ……何か今夜はコイツら、ずっとここに居そうだな。

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