04-13 幕間/看板受付嬢ソフィアのお仕事
私の名前はソフィア。冒険者ギルド・イングヴァルト王国・王都支部に勤めるギルド職員です。
今年で十八歳になりますが、結婚などはまだまだ縁がないのが現状です。
冒険者ギルドには、様々な人が訪れます。大半は農村等出身の人で、一旗上げて富と名声を! なんて理由が多いですね。
もしくは仕事が無くて食い詰めた傭兵だったり、貴族の三男・四男であったり。
……しかし、たまに不思議な人や、とんでもない人が来るのです。
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「すみません、冒険者の登録をお願いしたいんです」
その人は、蒼銀の髪を靡かせた美しい少女でした。
鑑定板でその身分を知って、私はびっくりしましたね。何せ公爵令嬢が護衛も付けず、一人で冒険者登録に来たんですから。
流石に小声で止めましたが、公爵令嬢はどうしてもと言うのです。流石に支部長に相談しましたよ? ですが支部長宛に届いたという、公爵閣下からの同意書を見せられては何も言えませんでした。正気ですか、公爵閣下。
——結局、公爵令嬢……アリシア・クラウディア・アークヴァルド様の冒険者登録を行いました。
その後、度々依頼の完了報告をしにくるアリシア様は、順調に依頼をこなしていった。
「エカテリーナ様より、魔法を教えて頂いたんです」
筆頭宮廷魔導師の弟子だったんですか。なるほど、もしかしたら宮廷魔導師になる為の経験を積む為に、冒険者として銅級や銀級になるようにとか、言われているのかもしれません。
エカテリーナ様は大層厳しいお方だそうですからね。
アリシア様に言い寄ろうとする男性冒険者を止めるのは、骨が折れました。
そして半年ほどで、アリシア様は銅級に昇級されました。
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その数カ月後、銀級の冒険者がギルドを訪れたのです。名前は……グラン? グリン? 忘れました。
「おぉ、そのサラサラの金髪に青い瞳! 華奢にして母性を感じさせるその肢体、なんて美しい人なんだ! よろしければ、今夜一緒に食事でもどうですか?」
二人も女性を連れていて、更に女性を口説くとは。
銀級の熟練冒険者なら実入りも良いのでしょうが、安定した収入というわけでもないですし。確かに顔立ちは整っていますが、自意識過剰とでも言うべき態度も癪に障ります。
勿論、仕事を理由に辞退しました。その後もギルドに現れた時は言い寄られましたが、同僚が窓口を変わってくれたので問題ありませんでした。
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そして、その数ヶ月後に現れた二人。
付与魔導師のユートさんと、剣士のキリエさん。
冒険者登録の際に一悶着ありましたが、ゴブリンの大群から東の村を防衛したという報告の後、その出自を知りました。
まさか、勇者レオナルド様と聖女アリア様のお子さんだったなんて!!
私は、レオナルド様の物語のファンなのです。そんな生ける伝説のお二方の息子さんと娘さんに出会えた奇跡を、神様に感謝しなくては!
ユートさんとキリエさんは、その後も目覚ましい活躍を見せ、あっという間に銅級に昇級しました。流石ですね。
ですが、ミリアン獣王国へ旅に出ると言っていましたが……大丈夫でしょうか。
それに、ユートさんとキリエさんの舎弟を自称するゴンツさん達も、銅級に返り咲いたのを機に、ユートさん達を追って獣王国に向かったのですが、生きていますかね。
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そしてつい先日、なんとアルファルド殿下がギルドに訪れたのです。
「事情があり、身分を隠して他国に向かう事になった。身分証として使用するため、冒険者のライセンスカードを用いたい」
公爵令嬢に続き、第一王子とその護衛二人のライセンスカードを発行する事になった。私は何かに取り憑かれたりしていないかしら?
「それと、この依頼書の処理を頼む」
差し出されたのは、確かに冒険者ギルド宛の依頼書だ。
内容は……護衛の指名依頼。それも、銀級冒険者向けのだ。
そして指名された冒険者は……ユート、キリエ、アリス、アイリ。
……え? ユートとキリエ?
「ユートさん達、いつの間に銀級に!?それとアリス、アイリって誰!?」
「む?ユート達を知っているのか?」
私の独り言を聞いて、アルファルド殿下にそう言われました。むしろ、殿下こそユートさん達をご存知なのが不思議なんですが!?
「ユ、ユートさんとキリエさんの登録や、銅級昇級の手続をしたのが私でして、その縁で存じています!」
「ふむ、そうか。あいつらと同じ担当とは、縁を感じるものだな。あぁ、依頼の件だがユート達からの了承は得ている」
本当だ、受注の所にユートさんのサインがされていました。
つまり、私的に殿下とお会いして依頼を口頭で受けたという事でしょうか……?
ユートさん、凄い人だと思っていましたが……そのスケールは、私が思うよりもずっと大きい人のようです。
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それから、十日後……ユートさんが、冒険者ギルドを訪れました。訪れたのですが……何か、増えてる!?
「こんにちは、ソフィアさん。ご無沙汰しています」
「お久し振りです、ソフィアさん」
のほほんと挨拶してくる!! まって、脳の処理が追い付かない!!
「お、お久し振りです……えっと、何故アリシア様と一緒に? そちらの獣人族の方と、エルフ族の方は?」
何とも不思議な一団。勇者と聖女の息子&娘に、イングヴァルト王国の公爵令嬢に、奴隷の首輪を付けた兎人族の少女に、エルフ族の女性。
全員、デザインが統一された服を着ていて……何だろう、この只事では無い感じは!?
「えーと、パーティメンバーです」
ですよね、解ります! 知りたいのはそうなった経緯の方!
そこへ現れたのは、ドーマ支部長でした。
「おう、ユートじゃねえか! って、随分と別嬪さん連れているな? この色男!」
「お久し振りです、ドーマ支部長。喧嘩なら買いますよ?」
「やめとく、後が怖そうだ。それより、今夜は用事はあるか? 無いなら付き合えよ」
「そうですね、今夜は特に予定は無いのでお付き合いしましょう。ソフィアさんもどうです?」
私も!? いいんですか!?
「私が御邪魔してよろしいのでしたら、お付き合いします」
とりあえず、受付生活三年で鍛えたポーカーフェイスで動揺を押し殺し、返事をします。
飲み会の席なら、詳しい事情が聴けそうですからね。
……
なんて、とんでもない話なんでしょう……。
獣王国では悪魔族による侵攻を打ち破り、皇国では貴族と悪魔族の暗躍から皇女と森を守るだなんて。
更にはイングヴァルト・ミリアン・ヴォルフィードから、最上級の勲章を叙勲。
そして、そして……名誉男爵に名誉女男爵!? それもイングヴァルトとヴォルフィードの、二カ国で!?
「さっ流石ですユートさん、キリエさん! お二人のファンとしてこれ程心躍る事は無いですよ!!」
「いつから僕等のファンなんて居たんだ……」
銅級になる前からですかね。第一号というか、発足したのは私ですが。
ちなみに、ユートさんの鑑定板によるステータスを見てとてもビックリしました。登録した時とはまるで別人かと思うくらい、ステータスが上昇していたんです。
だというのに、私と話す時の態度は何も変わらないまま。見ていて胸がキュンとするような笑顔。物腰柔らかな口調。ユートさん、ずっとそのままでいて下さいね。
——勇者レオナルド様と聖女アリア様の息子にして、新進気鋭の冒険者であるユート・アーカディア名誉男爵様。
きっと、ユートさんは大きな事を成し遂げるに違いありません。
……ちょっと、キリエさん達女性陣の視線が気になるんですけどね。
 




