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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第4章 ヴォルフィード皇国

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04-12 幕間/リイナレインの回想

 最初は、単なる人間族のお客様に対する興味でした。それが恋心に変わるとは、初対面の時には思ってもみなかったのです。


************************************************************


 私の名前はリイナレン・デア・ヴォークリンデ。ヴォークリンデ公爵家の次女です。


 あの人に初めて出会ったのは、皇城で開かれた晩餐会。

「リイン、あの方がアルファルド殿下よ。容姿だけではなく、その志や物腰も素晴らしい方なの」

 リアの婚約者となったアルファルド殿下は、確かに整ったお顔立ちだわ。

 晩餐会の前に、二人でお茶をしたらしい。リアってば……なんて幸せそうな顔で話すのかしら。ふふっ、出会って間もないのに、随分と入れ込んでいるみたい。


 ふと、私はその隣の少年に目を留めた。

 貴族と話しながら、言葉を返している姿はどこか辿々しい。慣れていないのかしら? もしかして、新任の兵士なのかもしれない。

 少し気になって、リアに尋ねてみた。

「ねぇ、リア? あの方は? 確か……ユート様だったかしら」

 皇帝陛下の晩餐会のご挨拶では、確かアルファルド殿下のご友人で、ローレン様とエメリア様の秘蔵っ子……と仰っていたかしら。


「ユート様?ユート様は……何と言うか、面白い方ね。アルファルド殿下とも気安い感じでお話をされていたわ。お兄様も、ユート様がお気に入りみたいなのよ」

「マックール殿下が?」

「それに、成人間もない若さで銀級の冒険者に上り詰めたそうよ」

 それは興味を唆られる。後で、ご挨拶に伺おう。


 ……


 談笑の時間も半ばの頃。アルファルド殿下へのご挨拶を済ませた私は、貴賓席の反対側に居たユート様の所へ向かう。

 あら、ユート様は疲れた表情をしているわ。やっぱり、慣れていないのね。


 私に気付いたユート様に、カーテシーをして名乗る。

「お初にお目に掛かります。私、ヴォークリンデ公爵家が長女、リイナレインと申します」

「お初にお目に掛かります、リイナレイン様。本当に平凡な付与魔導師の冒険者で、ユートと申します」

 付与魔導師……付与魔導師で冒険者なの? そんな事があるのかしら、人間族はそれが普通なの?

 いえ、ローレン様とエメリア様の秘蔵っ子と言われるくらいなのだから、付与魔法の他にもきっと何か戦う術を持っているんだわ。


「実はリアから話を伺ったのです。アルファルド殿下の御友人で、類稀な才能を持つ銀級の冒険者だと」

「私には過分な評価ですよ。アルファルド殿下は私を買い被っていらっしゃいますから」

 苦笑するけれど、不快な感じでは無さそう。驕りとか、虚栄心を感じさせないその態度は、とても好ましい。

「謙虚なのですね、ユート様は」

 気になったので、今度冒険の話を聞かせて欲しいとお願いすると、ユート様は快諾してくれた。

 彼の第一印象は、穏やかな少年……そんな感じだった。


 ……


 しばらく後、マックール殿下がユート様の所へ向かっていた。それを見た私とリアも、一緒に貴賓席へ向かう。

「失礼致します、殿下」

「リアンナ殿下」

 リアの表情、普段は見せない蕩けそうな笑顔。アルファルド殿下も満更でもなさそう、お似合いだわ。

「ユート様が、冒険の話をして下さるとリインから聞きまして、伺わせて頂きました。私も興味がありまして」

「うむ、私もだ。ユートよ、聞かせてくれるか?」


 私達のお願いを、ユート様は笑顔で了承して下さる。マックール殿下に、ぞんざいな口調で会話しているのには驚いたけどね。本当に、リアの言った通り殿下のお気に入りみたいね。


 ……


 ユート様のお話は、とても刺激的だった。

 アルファルド殿下との出会い、魔物との戦い、ゴブリンから村を守り抜き、魔物の氾濫スタンピードを食い止めた。更にはミリアン獣王国での叙勲に至る経緯は、まるで英雄の冒険奇譚のよう。

「いや、実に興味深い話だったよ、ユート!」

「ユート様達は、凄い冒険をして来られたのですね」

「まるで、勇者レオナルド様のようです!」

 私達の賞賛に、ユート様は照れたように笑った。


 そんなユート様を卑下した様子で割り込んだのは、バルボッサ伯爵。

 確か、伯爵はリアに婚約申込みをしていたはず。なるほど、ケチを付けるならここだと思ったのね。

 伯爵はマックール殿下の言葉にも耳を貸さず、挙げ句の果てにはアルファルド殿下に決闘の申込みをしてしまう始末。

 何を考えているのでしょう、一国の王子を相手に決闘だなんて。


 しかしアルファルド殿下はそれを受けてしまった。その理由が……。

「問題無かろう、リアンナ殿下を娶るに相応しい男だと証明する良い機会だ」

 なるほど、リアが惚れ込むのも無理はないわね。


 ……


 その後のダンスの時間、ダンスを踊れないと言うユート様。

 そうだわ、ユート様にダンスを教えて差し上げよう。

 その時、彼が連れている女性三人に紹介して貰えるように、お願いしてみようかしら。人間族の二人と、獣人族の少女。お友達になれないかしら?


 ダンスの相手を引き受けてくれたユート様にお願いしてみたところ、ユート様は快諾して下さった。

 そうだ、折角だわ。ユート様とも、是非お友達に。それなら、呼び方から変えるべきね。

 少し躊躇したものの、ユート様は私の愛称を呼んでくださった。私も、これからは彼の事をユートさんと呼ぶ。

 ……何かしら。リイン、ユートさんと呼び合うと、何だかこそばゆい感じがした。


 お連れの三人とユートさんがダンスを終えた後、約束通りユートさんが紹介してくれた。

 キリエさんは完璧という言葉がピッタリな程の美人だったわ。ユートさんの義姉なのだそう。

 アリスさんは……エルフ族の女性が羨むボディラインだった、悔しい。でも、とても気さくで優しい人だったな。

 アイリさんは兎の獣人だった……ちょっと耳を触らせてもらったけど、すごくフワフワ。奴隷だそうだけど、そんな風には見えなかった……ユートさん達も奴隷扱いしていなかったし。


 友人になって欲しいとお願いしたら、三人共快諾してくれたわ。なんて素敵なのでしょう、今夜は良い夜ね。

 その後、ユートさんが遺失魔道具アーティファクトのアクセサリーをくれた。殿下やリアだけでなく、私にまで……ユートさんって、本当に何者なのかしら?


************************************************************


 翌朝、ユートさんに連れられて行ったのは……天空の島だった。

 アーカディア島と名付けられたこの島の所有者は、なんとユートさんだと言う。


 更に、ユートさんの秘密が明かされる。勇者様と聖女様の息子で、遺失魔道具アーティファクトを製作する事が出来る付与魔導師なのだと言う。

 更に、昨夜の冒険談の真実。アーカディア島の主になった経緯。

 まるで物語の英雄だと思っていたけれど……実際は、伝説の勇者様なのでは? なんて思ってしまう。

 ユートさんは、いつかこの世界を変える何かを成し遂げるのではなんて、そんな事を考えてしまった。


 その後、アーカディア島で、つーりんぐ?というのを楽しんだ。魔力駆動二輪と呼んでいた乗り物は凄かったわ。


 ……


 アーカディア島から戻って、アルファルド殿下とバルボッサ伯爵の決闘の時間が来る。

 アルファルド殿下は終始落ち着いていて、エルフ相手に魔法で押し切った。最後は剣を突き付けていたけれど、魔法勝負で完封したと言っていいわ。

 素晴らしい技量、どれ程の弛まぬ努力を続けてこられたんだろう。


 そんなアルファルド殿下に対し、バルボッサ伯爵は卑劣な手段に出た。アルファルド殿下の背中に向け、奇襲をかけたのだ。

 でも、届かない……ユートさんが魔法を斬ったから。コートを風に靡かせて武器を振るうユートさんは、とても凛々しかったな。


 ユートさんとアルファルド殿下が、皇帝陛下からのお言葉を賜った後、私達はユートさんの遺失魔道具アーティファクトを使ったステータスの話を聞いた。

 魔法の講義はとても充実していたわ。私は満たされた気分で、屋敷に戻る。


 ……その時は、あんな事になるとは思っていなかった。


************************************************************


 夜、ユートさん達が暗殺者の襲撃を受け、リアが拐われたとマックール殿下が念話で報せてくれた。

 ユートさん達が兵士詰め所から皇都の門へ急行したと聞き、私も屋敷を飛び出して向かった。

 遠目から見て、すぐに異変に気付く……森が燃えている。私達エルフ族の友である、森が……!!


 兵士達の中にユートさんの姿を見つけ、私は駆け寄った。

「ユートさん!リアは……リアがっ!!」

「解ってる、リアは必ず助け出す」

 ユートさんは目を閉じて何かを考えているようだ。


 ……そう、彼から聞かされた武勇伝。私はそれを目の当たりにするのだと、直感した。


 ユートさんは目を開き、矢継ぎ早に指示を出し始める。その中には、遺失魔道具アーティファクト使用の指示が含まれていた。

 マックール殿下が止めようとすると、ユートさんが厳しい口調でこう言う。

「リアの為だ、文句あるか!!」

 リアを守る為に……でも、遺失魔道具アーティファクトの事が知られたら、ユートさんは……。

 それを知って尚、ユートさんは躊躇せずに指示を出す。申し訳なさ、有難さ……そして、なんて頼もしいのかしら。


 アルファルド殿下達は、リアを追って魔力駆動二輪で走り出す。

 私はキリエさん達と共に、森の火を消し止める様に言われた。そんなユートさんの指示に、キリエさん達が動き出す。

 でも、こうしている間にリアがどんな目に遭っているか……そんな不安を抱く私に、ユートさんが顔を向けた。

「……”俺”を信じろ、リイン」

 それは、確信した表情だった。全てを守り抜くと、それが出来ると信じて疑わない表情。

 その言葉を……ユートさんを、私は信じよう。


 それから、どれだけの時間が経ったのか。ユートさんから遺失魔道具アーティファクトを借り受けたエルフ達と共に、消火活動は続く。

 私は、私がやるべき事を……!!


 火は徐々に消し止められていった。そんな時だった、あの人の声が聞こえたのは。

「燃えている木から距離をとれ!巻き込まれても責任は持たないぞ!」

 ユートさんの警告。

 その直後に、空に現れた巨大な物体。見た事も無い造形、空に浮かぶ威容、圧倒的な存在感……。

 ユートさんの、遺失魔道具アーティファクトだ!

 その底部の砲塔から水が放たれ、残る炎がまとめて消し止められた。凄い……まるで、水の精霊の怒りの様。


 ……


 森は守られたけれど、リアがまだだ。

「総員、下がれ! これからリアンナ皇女殿下を浚った不埒者を捕らえる! 指示に従わずに怪我をしても、俺は知らん!」

 その言葉に、慌ててエルフ達が距離を取る。私達は、逆にユートさんの側に駆け寄った。

「ユート、リアは……!」

「無事だ。これからバルボッサの馬車をここに強制転移させ、取り戻す」

「私に、何か出来る事があるでしょうか?」

 私は親友の為に、何でもするつもり。

 するとユートさんは頷き返して、指示を出した。私は、荷車にいる誘拐者に遺失魔道具アーティファクトを投げる役割だ。


 バルボッサ伯爵が拘束を逃れたものの、最終的に馬車は停まった。

 リアに駆け寄るアルファルド殿下。互いに見つめ合い、何事かを話している。

 リア……良かった……。


 しかし、私の視界の隅にいたバルボッサ伯爵が、二人に向けて魔法を……!

 最悪の瞬間を想像した私。けれど私の想像も、バルボッサ伯爵の魔法も掻き消したのは……やはり、あの人だった。転移魔法で二人の側に舞い降り、迫る炎の玉ファイヤーボールを斬り裂いていく、黒いコートの冒険者。

「ユート……さん」


 迫る炎の玉ファイヤーボールを次々に斬り、掻き消す姿は圧倒的だ。

 魔法を斬りながらも、ユートさんはバルボッサ伯爵を銃で撃ち抜いた。なんて技量なの……本当に、底の知れない人。

 それから、何かを話している様子だったけれど、ユートさんはバルボッサ伯爵に向けて炎魔法の弾を放つ。炎に囲まれた伯爵の絶叫が、その場に響く。

 圧倒的……その言葉が、何よりも相応しい。これが、勇者と聖女の息子なのね。


 バルボッサを処断したユートさんが荷車に向かった時に、それは現れた。

 ここから見た感じでは、バルボッサに付き従っていた二人の従者が、ユートさんの遺失魔道具アーティファクトを破壊して立ち上がったみたいに見えた。

 更には、エルフ族の身体が背中が裂けていく。血飛沫をあげ、肉片を撒き散らしながら……それが、姿を現した。まさか……あれが、ユートさんに聞いた悪魔族!? それが二体も……!!


 と思ったら、一体が瞬殺された。あっ、きっとユートさんの勘気に触れたんだな、と思いました。

 もう一体は防御魔法で受け止めたみたい。

 そして反撃に、黒い炎の攻撃。ユートさんの銃剣に掻き消される。

 両手を交互に突き出しながら、黒炎玉が放たれる。ユートさんが銃で掻き消しながら攻撃する。

 悪魔族の右腕が肥大化する。ユートさんに殴り付けたら、ユートさんの盾が爆発する。右腕が無くなっている。

 悪魔族、逃走。ユートさんの両手に巨大な銃が握られる。

 悪魔族はあっさり死にました。流石はユートさんです。

 もう、圧倒的な展開過ぎて……ユートさん、あなたは一体何者なの……?


 ……


 皇帝陛下の事態が収拾した事を告げる宣言に沸く皇都の民を、私はぼんやりと見ていた。ユートさん達は、旅の中でこんな風に歩き続けて来たんだ……。

 とんでもない人みたいに言われてションボリしているユートさん。さっきまで勇猛果敢に戦っていた人と、同一人物にはとても見えない。

 それよりも……。

「……でも、ユートさんはそれでも優しい人だと思いましたよ。動揺する私の背中を押してくれましたし、皇都の人達にも力を貸して下さったんですから」

 ユートさん、あなたのお陰で私達は何も奪われずにいられました。


 そんな中、エルフの一人がユートさんに詰め寄った。それをきっかけに何人ものエルフが駆け寄り、ユートさんに食って掛かる。

 ……やはり遺失魔道具アーティファクトを見て、目の色を変える者達が……。


 ユートさんはそこから逃れ、エルフ達を威圧した。そして、貸し出していた遺失魔道具アーティファクトを回収してしまう。あんな事までできるのね。

 すると、エルフ達は遺失魔道具アーティファクトを渡せと恥知らずな事を言う。


「つまり、お前達は“俺”の敵なんだな?なら、こちらもそれなりの対応をするだけだ。命を捨てる覚悟で前に出ろ。俺は敵には一切容赦しない」

 顔を青ざめた皇帝陛下が割って入り、エルフ達は兵士に拘束され連れて行かれた。

 ユートさん……エルフの事を、嫌いになってしまったでしょうか。


 そんな中、歩み寄って来るのは……私のお父様、ヴォークリンデ公爵だ。

「お初にお目に掛かる、ユート殿。私はヴォルフガング・デア・ヴォークリンデ。ヴォークリンデ公爵家の当主であり、リイナレインの父親でもある」

「こちらこそお初にお目に掛かります、公爵閣下。人間族の冒険者で、ユートと申します」

 助力への感謝を告げるお父様に対し、仲間や友人の為なら何でもすると返すユートさん。それを受けて、お父様とユートさんが話をする事になった。


 ユートさん……私達を嫌いになっていませんか?

 不安を抱いたそんな中、ユートさんが念話を送ってきてくれる。

『大丈夫だよ。今夜は遅いから、お父さんと一緒に帰るといい』

 その優しい念話に、私は胸の内を温める。あぁ、なんて素敵な人なんだろう。

 私はユートさん達に一礼し、お父様に続く。


************************************************************


 翌朝、私は皇城のテラスに居たユートさん達の元に、お父様と連れ立って訪問する。

「君は遺失魔道具アーティファクトを製作出来るのか」

「ノーコメントです」

 ですよねー。


 それ以外の質問をしていくと、ユートさんは普通に答えている。良かった、お父様も表情を和らげている。

 そして昨夜の経緯や悪魔族の話が、ユートさんから説明されていく。

 国防を担うお父様は、ユートさんの遺失魔道具アーティファクトの力に頼りたいみたい。でも、ユートさんにそのつもりは無いのでしょう。


 だけど彼は、次いでこんな事を言った。

「そう言えば、風の噂で聞いた話なのですが。どこかの誰かの手元にですね、遺失魔道具アーティファクトがあるそうなんですよ」

 ユートさんは名前を伏せて、遺失魔道具アーティファクトを提供するつもりみたい……悪魔族を判別する事が出来る遺失魔道具アーティファクトを。

 しかもヴォルフィード以外に、イングヴァルト王国とミリアン獣王国にも。

 ヴォルフィード皇国に力を貸すのが嫌なのではなく、遺失魔道具アーティファクトを製作できる事を明言するのが嫌だったのね。まぁ、昨夜の件を考えたら当然でしょう。


 そして、ヴォルフィード皇国に力を貸す理由は……。

「何でも、大切な友人がその国に居るとか」

 地位や名誉を求めず、大切なものの為に……そんなユートさんだから、こんなに惹かれるんだ。

 そこで私は自覚した……私はこの人に、恋しているらしい。


 ……


 ユートさんが遺失魔道具アーティファクト製作のためにアーカディア島へ向かっている間、私はキリエさん達と話をしていた。

「ユーちゃんの旅に同行したい、ですか。理由を聞かせて頂けますか?」

 キリエさん、アリスさん、アイリさんの視線に、私は真っすぐに答えます。

「はい、私はユートさんに……その、恋をしています。ユートさんの側に居たいのです」

 少し恥ずかしいけれど、これはハッキリ言わなければならない事。包み隠さず、ユートさんへの想いを打ち明ける。


 その言葉に、キリエさん達は笑顔で頷いてくれた。

「解りました、私はリインさんの加入に賛成します」

「私も賛成です!」

「はい、リイン様ならば私も賛成します」

 三人は、私を暖かく迎え入れてくれた。


「ユーちゃんは身内に甘いので、外堀を埋めていけば断らないでしょう」

「そうですね、公爵閣下に話をしておくのがいいのではないでしょうか?」

「皇帝陛下も巻き込んでしまいましょう。マックール殿下やリアンナ殿下を通して話を通せばいいと思います」

 次々に、私を同行させる為のプランを練り始める三人。なんて頼もしい……!!

「公爵閣下へは、遺失魔道具アーティファクトを製作できる人物とのコネクションを維持する為とでもすれば、うまくいくのでは?」

「そうですね、それで話をしてみます」


 ……


 その後、私はすぐにお父様にその旨を伝えた。最初は訝しげに聞いていたお父様が、私の真意を問い質す。

遺失魔道具アーティファクトを生み出す事が出来るユート殿と、ヴォルフィード皇国の繋がりを保つ為、か。確かに、それは必要な措置であろう。しかし、お前の本心はどうなのだ? もしや、ユート殿に惚れたのではないのか」

 うっ、鋭い……!! 流石はお父様……。

「……ユートさんが、好きなのは……その、通りです」


 そう言うと、お父様は優しい表情で笑った。初めて見る、とても穏やかな顔。

「ならば良い、リイナレイン。国の為に己が身を……と言うならば、私は反対だった。しかし、ユート殿に対する愛情を貫き通したいと言うのならば、お前の背を押し応援しよう」

 ユートさんなら、その内大出世しそうだしな、なんて言いながらお父様は席を立った。

 政務に戻るお父様に、私は深く頭を下げた。


 ……


 ユートさん達の出立報告を受けて、皇帝陛下からの叙勲を急遽行う事になった。私達も同様に叙勲を賜るので、陛下の前に跪いている。

 そして、叙勲の後。まずはアルファルド殿下と、マックール殿下への特別褒章が与えられた。

 最後に……。

 ユートさんに対する特別褒章として、私をパーティメンバーに加入させるという形になった。

「よろしくお願いします、ユートさん」

「えっ、えっ!?リインは大丈夫なの!?それでいいの!?」

 そんなに慌てなくても……好きな人にそんな反応されると、ちょっと傷付きます。

「はい、お父様からの命令でもありますが、私が望んでいる事でもありますから」

 その言葉に、ユートさんが頬を少し赤らめた。良かった、嫌というわけではないみたいね。


「ユーちゃん、リインさんからは事前に相談されていたんです。私達は賛成ですよ」

「はい、リインさんならうまくやっていけそうです!」

「リイン様の分の服も、レオングルで仕立てて貰わなければいけませんね」

 キリエさん達も、後押しをしてくれる。


「……ダメですか、ユートさん」

 目を見つめ、懇願する。すると、お父様が私とユートさんに歩み寄り、肩に手を置く。

「至らない娘だが、どうかよろしく頼む。貴殿にならば、安心して任せられる」

 その言葉に、ユートさんは……。

「はぁ、僕の負けです。任されました、公爵閣下」

 私の同行を、認めてくれました。


 ……


 アルファルド殿下の提案で、イングヴァルト王を御招きする事になった。殿下達はそちらにかかりきりになるので、私はユートさん達と一緒に行動する。

 そうよね、もう私もユートさんのパーティの一員……なのよね。気を張らないと、嬉しくて口元が緩みそう。


 その後、獣王国へ転移したのだけれど……一国の王に謁見するのって、こんな短時間で簡単に出来る事だったかしら? 獣王陛下との謁見は、即座に行われた。

 ユートさん達は、獣王国で英雄と呼ばれているみたい。

 獣王陛下もヴォルフィードとの友好同盟に、前向きに動く事を宣言なさった。三カ国の友好同盟……その中心に居るのは、紛れもなく……。


 ……


 そしてユートさん達に連れて行かれたのは、王都レオングルの服飾店。ユートさん達は、店主以下全員……客も含めて、特別扱いされていた。

 ユートさん達の服とデザインを合わせた物を仕立てて貰いに来たのだけれど、ユートさんが来た時の為に作っておいたらしい。店主の発想も凄いけど、自発的にそこまでさせるユートさんも凄い。


「リイナレイン様で御座いましたか、いくつかインナーの試作がございますので、試着してみては如何でしょう?」

 案内された部屋で、インナーウェアを見させて貰う。凄い、こんなにたくさんの種類があるの!?

 キリエさん達にもアドバイスを貰って、私がインナーを決めたのは二時間後くらいだった。


 私が選んだインナーや、御揃いの旅装束を着てみると……いよいよ、実感する。私はこれから、このパーティの一員として旅をするんだわ。

 好きな人と、同志と一緒に……期待に胸が高鳴るって、こういう感じなのね。


 ……


 その後、ヴォルフィード公国に戻った私達。

 いよいよイングヴァルト王を招く段になる。転移魔法陣を潜って来たイングヴァルト王は、ユートさんに軽い調子で声をかける。

「やぁ、ユート君。毎度毎度、君には驚かされるな」

「やっ、叔父さん。毎度毎度、トラブルに巻き込まれただけだよ」

 本当に気安い関係なのね!? アルファルド殿下から伺ってはいたけれど、目の当たりにすると衝撃を受けてしまうわ。


 そして、両陛下の会談の後。

 私達は、イングヴァルト王国国王陛下から金十字勲一等を授与された。ユートさんは、これで三カ国の最上級の勲章を叙勲される事になった。素直に凄い。

 更には……。

「それに加え、ユートとキリエよ。お前達に両国より名誉男爵、名誉女男爵の爵位を授ける」

 ……名誉爵位は、他国の貴族に対して功績などを讃え贈られるもの。ユートさんがどれだけ両国にとって特別な存在かが解る。

 一つは、ユートさんを狙う遺失魔道具アーティファクト狙いの貴族を黙らせる為。そして、恐らくは自国とユートさんとのコネクションの為でしょう。


「解りました、そのお話を謹んで受けさせて頂きます」

 そう言って跪くユートさんに、私達も続けて跪く。その後、ユートさん達の家名をどうするかという件を話していた所、アルファルド殿下やマックール殿下が提案した。

 ユート・アーカディア名誉男爵。それが、私の心を奪った人の名前。


 ……リイナレイン・デア・アーカディア……うん、変じゃ無いわよね?

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