04-09 ヴォークリンデ公爵/猿芝居
これまでのあらすじ:バルボッサも悪魔族も、しっかり殺しました。
戦闘終了と同時に、皇帝陛下が僕に歩み寄る。同時に、仲間達も僕に駆け寄って来た。
「……これほどとは思わなかった、ユート殿。貴殿がいなければ、リアは浚われていたであろうし、森の火もこんなに早く消し止める事は出来なかっただろう。君は我が国の英雄だ、礼を言わせてくれ」
そう言って、皇帝陛下が僕に頭を下げる。エルフ達がどよめき、マックやリア、リインも目を丸くして驚いている。
「やめて下さい、皇帝陛下。そんなに簡単に下げていい頭では無いでしょう? 僕は自分の都合で首を突っ込んだだけです。それに……」
周囲を見渡す。
「リアを救出できたのは、ここに居る仲間や友人達が居たからこそです。そして森の火を消し止めたのも、皇都の兵士達や皇都民が力を合わせたからこその結果です。僕が英雄なら、ここに居る皆が英雄です」
僕の言葉に、皇帝陛下がようやく頭を上げてくれた。
「皆が英雄……か。そんな事を言う者がいるとは思わなかった。ヒトとは欲望の塊だ……そしてその欲望が肥大化し、歯止めが利かなくなれば……バルボッサのようになってしまうのだろうな」
欲望……そうだな、確かに僕もそう思う。
しかし、ヒトと欲望は切っても切り離せない。何故なら、生きたいというのも欲望だし、食べるのも寝るのも欲求からだ。
……性欲があるからこそ、こうして繁殖できるわけですしおすし。
「大切なのは、欲望との付き合い方を考える事ですかね。自分の欲を理性でコントロールできれば、ああはならないはずです」
「……貴殿の言う通りだな」
そう言って、皇帝陛下は頷いた。
続いて、皇帝陛下がアルファに向き直る。アルファの腕にしがみつくリアに、少し寂しそうに……でも、嬉しそうな感情が乗った視線を向ける。
「リアンナよ、まずは無事でよかった」
「申し訳ありません、お父様……ご心配をおかけ致しました」
「いや、いいのだ。リアンナ、アルファルド殿下はお前の為に、危機も省みずに救出に向かった。お前と殿下も、共に思い合っている様を見る事が出来た。婚約を正式なものにすべく、イングヴァルト王に掛け合おうと思うが、構わんな?」
「はい、お父様!」
その言葉に、嬉しそうに頷くリア。皇帝陛下は微笑み、アルファに視線を向ける。
「アルファルド殿下。娘の為に身を挺してくれた事、心から感謝する。どうか、娘を頼む」
「はい、その為に身命を賭す事を誓います」
その言葉に、陛下は力強く頷いた。
そして、今度は周囲のエルフ族達に視線を巡らせる。
「聞け、我が愛する民達よ! バルボッサ元伯爵の暴挙により、浚われたリアンナは救われた! 火を放たれた森は傷付いたものの、これから傷を癒せば元の美しい姿を戻せるであろう!」
その言葉に、エルフ族が喜びの歓声を上げる。
しばし歓声に頷いていた陛下が、それを手で制す。
「人間族の友人、ユート殿は言った! 皆が居たからこそ、事態を迅速に収める事が出来たと! 娘や森が守られたのは、皆の力だと! 皆が英雄なのだと!」
どよめきが起こる。そして、信じられないものを見た、という視線を向けられる。
「……解せぬ」
普通に頑張ったじゃん、僕。
「いや、お前自分のやった事を理解していないのか?」
マックの呆れたような声に、僕は首を傾げる。やった事?
遺失魔道具を提供し、森林火災の消火活動。
その最後に、新型遺失魔道具でドーン!
バルボッサの馬車を、強制転移。
バルボッサを処す。
悪魔族がふざけた事をぬかしたので、頭を吹っ飛ばす。
もう一匹の悪魔族の攻撃を全部潰し、最後にミンチ。
……うん、いつも通りじゃないかな。
「ダメだった? ちょっと調子乗った?」
「えっ、アレが普通……なんですか?」
リアが、ちょっと引いてるんですが!
「ユート様は、戦闘時にはちょっとテンションが変わりますからね」
「でも容赦ないユート君は、たまに恐いけど頼もしいですよ?」
「だそうです。良かったですね、ユーちゃん」
仲間内では既に慣れたからねー、みたいな反応されている。えっ、そんなにヤバイ人に見られてたの、僕?
「……でも、ユートさんはそれでも優しい人だと思いましたよ。動揺する私の背中を押してくれましたし、皇都の人達にも力を貸して下さったんですから」
穏やかに微笑みながらそう言うリインに、癒される。うーむ、リインは優しい子だなぁ。
……
そんなやり取りを遠巻きに見ていたエルフの一人が、僕の前に歩み出る。
「君! これは、これは遺失魔道具ではないのか!?」
僕が貸し出した魔導銃を手に、エルフが質問……というより、これ詰問じゃないのか? 詰め寄ってきてるんですけど。
そして、それをきっかけに何人ものエルフが駆け寄って、僕を取り囲む。
「この武器はどうやって作ったのだ!? それもこんなに大量に!」
「アルファルド殿下達が乗っていた、アレは一体なんなのだ!」
「転移魔法を使っていたが、あれも遺失魔道具ではないのか!?」
「君が使っていた武器は一体何だったんだ!」
「そうだそうだ! それに出したり消したり、どうやったのだ!!」
「君が使っている武器は、銃という物では無いのか!?」
「空に浮いていたのは何だったんだ!」
「あの爆発する盾は一体何だ!」
「最後に使っていたのはどんな構造をしているんだ! 何故回転していたんだ!」
「バルボッサ伯爵は何故あんな暴挙に出たのだ!」
「エルフの身体を破って現れたのは何者だったのだ!」
「君は一体何なんだ!」
「あの女性達は何者なんだ!」
「リイナレイン様とはどういう関係なのだ!」
「彼女達のスリーサイズはいくつなのだ!」
矢継ぎ早に口々に詰問してくるエルフ達。恐いよ!!
「そんなに一斉に聞かれて解るか! あと、最後のヤツ。どういう意図で聞いてきたのか、後できっちり話をしようか?」
お前、ツラ覚えたからな?
しかし、僕の言葉は耳に入らなかった様子で、更に口々に質問をされる。何十人ものエルフに(それも野郎に)取り囲まれて、暑苦しいし五月蝿いし痛いしで、そろそろ我慢の限界だ。
「増幅!」
地面を蹴り、跳び上がった僕は門弾を使って姉さん達の側に転移。
ふぅ、暑かったぜ。夜風が涼しく感じるな。
しかし、諦めないエルフ達が一斉にこちらに駆け出そうとするので……。
――ドゥルルルルルル!!
取り出したガトリングガンを回転させた。撃たないよ、流石に……今はまだね。
先程の惨劇を目の当たりにしていたエルフ達が、足を止め静まり返る。
「悪いが質問には全てノーコメントで!!」
話す気が無いからね、威圧で済むとありがたい。
苦虫を噛み潰した様な表情のエルフ達に、とりあえずは大丈夫そうだと判断する。
「あぁそうだ、貸していたモノを返して貰おうか」
魔導銃を貸し出す際に、持ち逃げされる可能性があったので仕掛けを施しておいたのだ。
僕の手元にあるボタンを押す事で、魔導銃が吸収が発動。吸収した魔力を使って転移魔法陣を展開し、アーカディアの工房に転移する。
後で、片付けなきゃな……姉さん達、手伝ってくれるかなぁ……。
「なっ! アレを何処へやったのだ!」
「返して貰っただけだよ? 貸し出すって、最初に言ったはずだけど」
何を当たり前の事を言わせるんだ。
「なんて事を! アレを返せ!」
「返すも何も、あれは僕の物だ。その言い分はどうなんだ?」
「何を生意気な、二十年も生きていない小童が!!」
……やっぱり、こうなるのか。まぁ、予想はしていたけどね。
「ふぅん……なら、どうするつもりだ」
僕の言葉に、エルフ達の目が敵意を帯びる。
「……大人しく渡せば、痛い目は見ずに済むぞ小僧」
簒奪を選ぶか。
「つまり、お前達は“俺”の敵なんだな? なら、こちらもそれなりの対応をするだけだ。命を捨てる覚悟で前に出ろ。俺は敵には一切容赦しない」
遺失魔道具の事をバラすと決心した時に、覚悟は決めていた……エルフ族を、敵に回す覚悟をだ。
俺の言葉に、顔を青ざめた皇帝陛下が僕を庇うように立つ。
「よさぬか、馬鹿者!! ユート殿の言い分が正しい、何故それが解らぬ!!」
「陛下のお言葉と言えど、ここは引けません!! 遺失魔道具の謎の解明は、我らエルフ族の悲願ではありませんか!!」
「左様!! その謎を解き明かす鍵が目の前にあるというのに、指を咥えて見ているなど出来るはずがありませぬ!!」
「陛下、エルフ族の発展の為には、あの少年の力を解明するのが近道なのです!! どうか許可を!!」
こいつら、クズだな。
あまりに身勝手な言い草に、皇帝陛下が怒った。
「ならんならん!! 我が国を救ってくれた英雄に何たる言い草か!! 近衛兵達は、こやつらを引っ立てろ!! 一晩牢屋で頭を冷やすがいい!!」
「なっ、陛下!! そんな馬鹿な話が!!」
「黙れ、聞く耳を持たん!! 近衛兵!!」
「「「ハハッ!!」」」
いやはや、怒涛の展開だった。
「……国を代表して、謝罪させて欲しい。済まなかった、ユート殿」
「……まぁ、こうなるんじゃないかとは思っていたので。頭を上げて下さい、陛下」
何度も頭を下げられても、こっちとしても困っちゃう。
そんな中、一人のエルフの男性が歩み寄って来る。
“目”で確認すると……彼はヴォークリンデ公爵。と言う事は、リインの父親だ。称号を見ると、この人は内務卿らしいな。
「お初にお目に掛かる、ユート殿。私はヴォルフガング・デア・ヴォークリンデ。ヴォークリンデ公爵家の当主であり、リイナレインの父親でもある」
「こちらこそお初にお目に掛かります、公爵閣下。人間族の冒険者で、ユートと申します」
「此度の助力、皇国貴族に名を連ねる者として感謝の意を表したい。ユート殿の尽力のお陰で皇女殿下も、我らが愛する森も救う事が出来た」
うーん、堅い。
それにこの人、値踏みするような視線なんだよな。
でも、リインのお父さんだもんな。こんな優しい子の父親なんだから、人格者なんだとは思う。
「いえ、僕は仲間や友人の為なら何でもすると決めていますから。マック……じゃない、マックール殿下やリアンナ殿下、リイナレイン様の故郷の為に、すべき事をしただけです」
結局、今回も僕が動いたのはヴォルフィード皇国の為じゃない。エルフ族の為じゃない。人間族とエルフ族の友好の為じゃない。
僕にとっての身内の為である。だから、そんなに畏まられると居心地が悪くなるんだよね。
「左様か。して、ユート殿。少し今回の件で事実確認はさせて貰いたい。済まないが、時間を取らせて貰ってもよろしいか?」
「答えられる事なら答えます」
予防線は張っておく。
空気がちょっとピリピリして来たので、更に居心地は悪い。皇都民や兵士達も、遠巻きにこちらを見ている。
「では、明日にでも時間を貰えるかね。今夜は色々あったし、貴殿も疲れているだろう」
「解りました、では明日に」
「では頼んだ。リイナレイン、帰るぞ」
「……はい、お父様」
その返事に頷き、公爵閣下は踵を返して立ち去った。寂しそうに僕に視線を向けるリインに、念話を送る。
『大丈夫だよ。今夜は遅いから、お父さんと一緒に帰るといい』
『お父様が済みません、ユートさん……今夜は失礼しますね』
申し訳無さそうに一礼して、リインも公爵閣下の後に続いた。
「……ユート殿、あれは私の弟でな。悪人では無いのだが、生真面目過ぎるというか、何と言うか……」
「実直な方なのですね、公爵閣下は。まぁ、その辺は明日にでも。今夜は引き上げましょう」
「うむ……そうだな」
そのまま、僕達も皇城に引き上げた。
ついでに残った暗殺者は、きっちりトドメを刺しておく。マックとリアに引かれた。
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騒々しい夜は、太陽が昇ると同時に終わりを告げた。皇城の客室で目を覚まし、窓の外に視線をやる。
今居るのは勿論、血肉を床にブチ撒けた部屋ではない。派手にブチ撒けたからな……あの部屋どうするんだろ?
まっ、そこは僕の考える事じゃないか。
他人に丸投げなのだが、一応は客だからね。暗殺者の掃除はしたので、後始末くらいはお願いしてもいいだろう。
そんな事を考えつつ、僕はいつもの服に着替える。
うん、大分この服にも慣れて来たな。
向かう先は客室の並ぶ廊下の先にあるテラスだ。マップを見ると、姉さん達がそこに居たからね。
「おはよう、皆」
声をかけると、三人とも笑顔を返してくれた。
「おはようございます、ユーちゃん」
「おはようございます。昨日はお疲れ様でした」
「おはようございます。ユート様、ゆっくり休めましたか?」
「あぁ、皆もお疲れ様。十分休めたよ」
そう言って、僕は空いた席に座る。
テラスから外を見ると、城壁の向こうにある兵士詰め所からゾロゾロとエルフ達が歩いているのが見えた。昨日、僕に絡んできた奴らだな。
「彼等は我が皇国の研究者でな。魔道具や遺失魔道具の話題に目が無いのが玉に瑕なのだが、優秀な研究者達なのだ」
僕達が集まったテラスの入口に、ヴォークリンデ公爵とリインが立っていた。
僕達は立ち上がって一礼する。
「おはようございます、公爵閣下。朝からご尊顔を拝見出来、光栄に御座います」
「慣れない挨拶はするものではない、ユート殿。肩の力を抜き、気を楽にすると良い」
そう言って、公爵が歩み寄る。姉さん達は席を空け、公爵が僕の正面に座る。
「君達も座ると良い。リイナレイン、お前も座りなさい」
「はい、お父様」
「では、私達も失礼して……」
丸いテーブルを囲み、顔を突き合わせる僕達。ピリピリするなぁ。
「そうしていると、昨夜大立ち回りをした少年とは思えないな」
「今は色々あって、気が抜けてしまっていまして。昨夜は大騒動でしたからね」
「それもそうか。朝からの来訪、済まなかったな」
おや、謝るとは意外。
「お気になさらないで下さい。僕達と違い、お忙しいのでしょう? ヴォークリンデ公爵閣下は立場あるお方ですから」
「そう言って貰えると助かるな。では、話をさせて貰おう」
「はい」
一気に、緊張感が漂う。
「君は遺失魔道具を製作出来るのか」
ド直球!!
「ノーコメントです」
僕の返答にピクリと眉を動かす公爵。でも、昨夜も「言える事は話す」と予防線は張っておいたからね。
一国の内務卿に対する対応では無いのだろうけど、僕には関係ないからね。この国の人間じゃないし。
「では質問を変えよう。兵舎で皇都に入った際の君の鑑定結果を見た。あれは嘘偽りの無い真実か?」
「はい、何も手を加えてはおりません」
その返答に、公爵はウム、と頷いた。今の返しにより、僕が答えられる事には答えると確信を得たようだ。
「にわかには信じ難いが、昨夜の戦いを見れば納得だ。実に素晴らしい戦いぶりだった」
「恐縮です」
ここは持ち上げて来るんだね。その後の話をしやすくする為なのだろう。
「バルボッサ元伯爵との確執、その原因は何だったのだ」
「先日開いて頂いた晩餐会で、私達の冒険の話に聞き耳を立てていたバルボッサが虚言と決め付け、更にはアルファとリアの婚約にケチを付けて、挙句の果てには決闘の申し込み。あー、その原因はあの脳筋剣鬼なんだよなぁ……後でもっかい文句言うか」
「ユーちゃん、質問に答えて下さいってば」
「あと、ユート様。口調が乱れています」
おっと! 思わず素に戻っちゃったよ。
「失礼致しました」
「いや、構わぬ。続けたまえ」
本当に構わないって顔しているな。堅物に見えるけど、意外と大らかな人なのかな?
「バルボッサ元伯爵は決闘に敗北した後、アルファルド殿下に対し奇襲を仕掛けたので、僕が攻撃を無力化して元伯爵に一撃を入れました」
「……それは聞き及んでいる」
股間にシューッしたのは知っていたのか。公爵も僕を微妙な視線で見て来る。あれでも、手加減してたのよ? 回復薬を使えば治るようにはしていたんだし。
さて、その後の事だ。
「その夜、元伯爵は僕達の泊まらせて頂いている客室に暗殺者を送り込んで来ました」
「うむ、暗殺者の件も報告を受けた。君達が暗殺者と対峙している間に、皇女殿下は浚われていたのか」
暗殺者は全て処分した。しかし、その隙にリアは拉致されてしまったのだ。
「そのようです」
そして皇帝陛下への報告、兵士詰め所の転移陣から皇都門へ急行、元伯爵によって周辺の森に火を点けられている状態だった事を説明する。
「……ふむ。そして、消火活動とリアンナ皇女殿下の救出に分かれたのだな」
「はい、その通りです」
ここで、公爵の眉間に皺が寄った。
「そこから先の話をしたい。君が対峙したのは、一体何者だったのだ?」
まぁ、そこは押えておきたいポイントだろう。そして、実際それを話すのは必要な事だ。国家レベルの問題として取り扱って貰うべきだと思う。なのでここは、包み隠さずに情報を開示する。
「詳細は僕にも解りませんが、奴らは悪魔族と名乗っていました。僕達が最初に遭遇したのは、ミリアン獣王国を旅している際です」
そして“悪魔の果実”を獣人族に売り、影を纏った……通称・影人に変貌させた事。その影人を操り、王都レオングルへ侵攻した事。それを撃退した事を説明する。
「悪魔族は、元伯爵の息のかかった城の使用人の身体を奪っていたようですね。そうやって、多種族の国に潜り込んで暗躍している可能性があります」
「今回の奴等の目的は何だったのか、君は知っているのか?」
「対峙した際に、自分から話していました。繁殖の為に、苗床となる女性を浚う……と」
あの時に狙っていやがったのは、リアだけじゃなく姉さんやアリス、アイリもだった。思い出しただけでムカついてくるな。
「……気分の悪くなる話だ」
「同感です」
だからこそ先制攻撃で、一匹は脳漿炸裂デビルにしたわけだし。
「悪魔族に対する対策を、進めねばなるまい」
「そうですね」
国家存亡の危機だ、それは当然だろう。
「そこで話を戻したい。もう一度尋ねるが、君は遺失魔道具を製作出来るのか?」
「ノーコメントです」
……その場に、冷たい風が吹いた。場の空気が凍っている。
「……国防に関わる重大事だ、出来れば話を先へ進めたいのだがな」
「そう言われましても、答えられる事には答えると昨夜も申し上げましたから」
そもそもヴォルフィードの国防については、僕は直接関係しない。
とはいえ、だ。直接は関係しないが、間接的には関係するので……これくらいは、しても良いだろう。
「そう言えば、風の噂で聞いた話なのですが。どこかの誰かの手元にですね、遺失魔道具があるそうなんですよ。どこの誰かは知りませんけどね」
僕の言葉に、ピクリと眉を動かす公爵閣下。
「何でも、悪魔族とかいう奴らの種族名を看破する事の出来る遺失魔道具らしいのです。それを、ある国に献上しようと考えているそうですよ」
その言葉に、リインが伏せがちだった顔を上げて、僕を見る。
白々しいよね、解ってる。
僕が遺失魔道具製作者である事は、この国では明言しない。エルフの研究者に囲まれるのは、もう嫌だ。
しかしだ……この皇国は、リインやマック、リアのいる国。そして、エメリアさんの母国なのだ。身内に甘い系冒険者の僕としては、何とかしてあげたい。
かなりグレーなんだけど、一肌脱ごう……善意の第三者を名乗ってね。
「その噂に興味があるな。どの国に献上するという話は聞いていないのかね」
「イングヴァルト王国とミリアン獣王国、そして……ヴォルフィード皇国という話だった気がしますね」
僕の言葉に、公爵は目を閉じる。
「そのどこかの誰かは、何の為にそんな回りくどい事をするのか……気になる所だ。その人物は何を望んでいるのだろうな」
遠回しなやりとりは白々しくて、滑稽に思える。公爵も付き合ってくれているけどね。
「何でも、大切な友人がその国に居るとか」
公爵の口元が緩んだ。
「……そうか。もしその人物に会えたのなら、歓迎の宴でも開きたいものだな」
そう言って、公爵閣下は立ち上がった。
「そろそろ政務の時間だな、私はここらで失礼しよう」
恐らく、今の件を皇帝陛下に伝えに行くつもりだろう。無論、僕もそのつもりで話をしていた。
「リイナレイン、ユート殿達の歓待を任せる、粗相の無いように努めなさい」
リインは穏やかに微笑みながら、公爵に一礼する。
「はい、お父様」
「では、失礼する」
颯爽と立ち去っていくヴォークリンデ公爵閣下。
「随分、厳格な感じの人だな。っと、ごめん。悪口のつもりじゃなかったんだ」
「ふふっ、解っていますよ。あれで良いお父様なんです」
「うん。それは何となく解るよ」
僕の言葉に、リインは嬉しそうに笑った。




