04-08 リア救出/戦いの終結
これまでのあらすじ:消火活動、完了です。
火を消し止めた俺は、すぐに腕輪を使ってアルファに信号を送る。それに対するレスポンスは、すぐだった。
『ユートか! そちらはどうだ!』
『こっちはもう終わった、そっちはどうだ?』
『今、馬車を目視で確認した! これから制圧する!』
珍しくアルファが燃えているな。
しかし、三人で走行中の馬車を制圧するのは困難を極めるし、リアを人質に取られるかもしれない。こちらが応援に行くつもりだったが、手勢は多い方が良いよな?
『アルファ、エミリオ、シャル。作戦がある』
『何だ、すぐに教えてくれ!』
余裕がないアルファ。彼のこんな口調は初めてだ。
――作戦はこうだ。
アルファは加速して、馬車の前に出させる。エミリオとシャルは馬車が進路を変えないように、両隣を走らせる。
俺がアルファの魔力駆動二輪を基点にして、転移魔法陣を展開する。そして、フルボッコ。
『よし、了解した!』
『お任せを、ユート殿!』
『やっちゃうぞー!』
マップで三人の動向を確認しながら、門弾を準備する。後は、消火活動を終えてこちらにジリジリと近寄ってくるエルフ達かな。
「総員、下がれ! これからリアンナ皇女殿下を浚った不埒者を捕らえる! 指示に従わずに怪我をしても、俺は知らん!」
俺の言葉に、慌ててエルフ族達が距離を取る。何をやらかすか解らない危険人物と思われていないか?
姉さんとアリス、アイリは俺の側に。そして、マックとリインも俺に駆け寄って来た。
「ユート、リアは……!」
「無事だ。これからバルボッサの馬車をここに強制転移させ、取り戻す」
その言葉に、マックとリインの表情が引き締まる。
「私に、何か出来る事があるでしょうか?」
親友の為だ、何かせずにはいられないのだろう。見ればマックも同じように、決意に満ちた視線で頷く。
ならば、その意を汲むとしようか。俺は一つ頷き返し、腕輪を起動した状態で、この場にいるメンバーとアルファ達に聞こえるように指示を出す。
「『アルファ達は通過したら、魔力駆動二輪を降りてその場で戦闘体勢を取れ』」
『『『了解!』』』
「『姉さん、アリス、アイリ、リインは高所に登って馬車の中にいるバルボッサ、従者二名、御者に“封印の縛鎖”を投げ拘束』」
「「「はいっ!」」」
「解りました!」
「『マックは森林魔法で馬車の勢いを止めろ。馬には罪が無いから、俺が止める』」
「任せろ!」
それじゃあ、そろそろ反撃と行こうか。
……
真実の目で、アルファ達の状況を確認する。よし、アルファはうまく前に出たし、エミリオとシャルもしっかり馬車の両脇に陣取った。
「『よし、行くぞ!』」
門弾を放つ。
まず、アルファが魔法陣から飛び出して来た。そのまま右に車体を傾け、ドリフトしながら急停止。
次いで馬、そして馬車が飛び出して来た。
その直後にスピードを落としたエミリオとシャル。
馬車を強制転移させるのは、これでクリアだ。
「捕縛部隊!」
「了解です!」
「いきますっ!」
「はぁっ!」
「えいっ!」
姉さん、アリス、アイリ、リインが投げた縛鎖が、馬車に乗っているバルボッサ達を捕らえる。
「ぬうっ!」
「な、何だこれはっ!」
「うわああぁっ!」
従者二人は、荷台に拘束状態で転がったらしい。御者も拘束された勢いで馬車から転がり落ち、荷台に轢かれた。
「あっ、死んだな」
別に転落死しなくても、末路は同じだけどな。バルボッサ達は、全員殺す。
これで制圧……かと思いきや、そう簡単にはいかなかったようだ。
「済みませんユーちゃん、バルボッサが!」
バルボッサは従者を盾にして、自分だけは縛鎖から逃れたようだ。
従者達が拘束されたのに気付き、バルボッサはリアを掴んで立たせ、盾にする。
「このっ……皇女がどうなってもいいのかっ!!」
短剣をリアの喉元に突き付けるバルボッサ。うん、フォーアウトだ。
「マック、任せた」
増幅発動。馬の背に飛び乗り、荷車と馬を接続する木材にショットガンを放ち破壊する。
驚いた馬は暴れ、振り落とされそうになる。
「まずい。馬車の操縦は教わったが、乗馬は教わってないな」
やっちまってから気付いた。失敗失敗。
「“……彼の者を捕らえよ、樹木の拘束”」
俺の合図から始めた、マックの詠唱が終わった瞬間。
森の木々や地面の草木が馬と荷車に殺到し、その動きを封じる。森の中では本当にエルフ族は凄いな。
「おっと!」
馬の背から飛び降り、地面に撃った門弾を通って姉さん達の前に転移する。
俺も捕まる所だった。マックの事だしその辺も配慮していたとは思うけどな。まぁ馬をどうするか迷っていたし、助かった。
「よし、止まったな」
すると、停止した馬車の荷台に駆け寄る者が一人。
「無事か、リア!」
「アルファ様!」
拘束されて荷台に転がっていたリアを、アルファが抱き起こす。
「アルファ様……信じて待っていましたわ。必ず来て下さると……」
「そうか……待たせたな、リア」
見つめ合い、二人だけの世界に入ろうとしている。
美男美女の再会のシーン、実に絵になるのだがそれどころではなくてだな。
――パァンッ!!
邪魔してごめんと思いつつ、銃声を響かせる。俺の足元に撃った門弾だ。転移先はアルファの持つ遺失魔道具を起点にした、二人の側。
そして、二人に迫っていた炎の玉を、解呪発動中の銃剣で斬り裂いていく。
「ユート!!」
「リアを連れて下がってろ、落とし前はこっちで適当に付けておく」
魔力保有量に優れたエルフ族の放つ炎の玉だ、威力はともかく数が多い。
しかし俺には増幅がある。魔力を消費し続けるのがネックだが、グレンとの決闘の時とは違う。神竜の加護を受けているから、大分余裕が出来た。
「さぁ、懺悔の時間だ」
迫り来る炎の玉を次々に斬り、掻き消す。
「クソッ!」
「決闘の後の奇襲といい、貴族らしくないな。盗賊の方がお似合いだぜ、馬鹿ボッサ」
「黙れ、小汚い人間風情がっ!!」
炎の玉を斬りながら、狙いを定めて引き金を引く。
「ぐあぁっ!?」
銃弾はバルボッサの右腕を撃ち抜いた。
「い、いでぇ……っ!! ぎ、ぎさまぁっ!!」
「今のは決闘の後の不意打ち分。これは暗殺未遂の分だ」
そのまま、バルボッサの左腕に狙いを定め、撃ち抜く。
「ぎぃあぁぁっ!?」
「で、これがリアの誘拐の分。そして、さっきリアを盾にした分な」
左脚、右脚も容赦なく撃つ。
「あぁぁぁっ!!」
悲鳴が上がり、鮮血が舞う。四肢に銃弾を受けたバルボッサが、地面にうつ伏せに倒れる。
これで止めをゆっくり、落ち着いて、確実に刺せるな。バルボッサに歩み寄りながら、俺は言葉を紡ぐ。
「終わりだな、色男」
「貴様、私は伯爵だぞ! 不敬罪だ、貴様を処刑してやるからなっ!!」
バルボッサは憎しみの篭もった歪んだ表情で、俺に唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。
そんな無様な男を見下しながら、鼻で笑う。
「処刑されるのはお前だ」
銃剣の刃を、その眉間に突き付ける。鋭い切っ先に、バルボッサはようやく自分の立ち位置を理解したらしい。
「ま、待て……貴様、エルフ族を敵に回す気か!? 私はエルフの貴族だぞ、ヴォルフィード皇国の貴族なんだぞっ!? 人間族とエルフ族の間で戦争を起こす気か!?」
ちょっと何言ってるのか解らないです。
「皇帝陛下、この国にバルボッサなんて伯爵がいるのか?」
俺に水を向けられた皇帝陛下は、溜息を吐きながら首を横に振る。
「そんな貴族が居たんだがな。我が娘を拉致し、国賓に殺意を持って攻撃し、エルフの友たるリーヴォケインの森を焼き払おうとしたので、爵位を剥奪したところだ……たった今な」
「陛下っ!?」
いや、何驚いてんだコイツ? 皇女の拉致・国賓への攻撃・森への放火とか、当然死罪だろう。
そんな事も考え付かないほど馬鹿なのか? 馬鹿なのか。
「そういう事だ、お前に明日は無い」
「ま、待て! 待ってくれ! 助けてくれるなら奴隷にでも何でもなる! だから、命だけは……!!」
見苦しい事この上ないな。それにしても、貴族が元貴族になって奴隷落ちとか、なんて絵に描いたような転落人生だろう。
「元貴族のプライドを捨てて、奴隷になってもいいと?」
「そ、そうだ……頼む!!」
目を見れば、それが本心ではない事が解る。
エルフ族達は皆、緑系統の美しい目をしているのだが、コイツの目は違う。なんて暗く、澱んで濁った目だろう。
恐らく、自分の手の者に牢獄か奴隷商館から脱走させ、奴隷契約を解除して他国に逃げ、復讐の機会を……とか、そんな感じだろうな。
こいつならやりかねない、やりそう、絶対やる。
「……生きたいか?」
「い、生きたい! 頼む、助けてくれ!!」
必死に声を張り上げて、バルボッサが助命を訴える。
「そうか、だが残念。さっきアルファとリアを攻撃して、五度目のアウトだ、死ね」
「なぁっ!? ま、待てっ!! 待って……」
待たない。バルボッサの足元に、魔導銃で炎の玉を放つ。更に、両脇にも放つ。そして、眼前に。
バルボッサは、燃え盛る炎に囲まれた。
「ま、待て!! 待てと言っているっ!! 火を、火を消してくれっ!! 頼むっ!! 頼むからあぁっ!!」
一息に殺してやるだなんて、甘い。コイツは自分が得意な火魔法で、焼けて死ぬ。
「あああぁぁぁっっ!! 熱いっあづっ……だすげ……あぁっぎゃああああああぁぁぁぁっ!!」
悲鳴をあげる元貴族の罪人。
拘束されて命の危険に怯えたリアの恐怖や、火を放たれ焼かれたこの森の木々の苦しみを、死ぬ瞬間まで存分に味わうといい。
……
「さて……御者はもう死んだし、残りの二人を殺すか」
「ユ、ユート殿? 流石にそこまでは……」
皇帝が俺に容赦を促すが、それは無理な相談だ。
「ヤツの指示に従う事を選んだ以上、俺の中で殺すと決めた。あぁ、一人暗殺者を残してある。そいつも殺すから、勝手に手を出さないようにして貰おう」
皇帝は俺の言葉に一歩後退り、身震いしながら小さく頷いた。
まぁ、コイツらはバルボッサ程には思うところは無いので、一撃であっさり終わらせてやる事にしよう……。
そんな事を考えながら、馬車の荷台に歩み寄った瞬間だった。
「クククッ、面白い人間がいたものだ」
「しかし困るな、我々の玩具を壊されてしまっては」
馬車の荷台で、平然とそいつらは立ち上がった。“封印の縛鎖”が、力任せに引き千切られている。
俺は警戒レベルを上げ……己の浅慮に、呆れた。
真実の目が教えてくれていたこいつらの情報は、生命反応と敵味方の判断だけだった。
理由は簡単で、リアやバルボッサは事前に“解析”の効果が適用されていたし、御者は御者台に座るという位置関係上の理由で解析されていた。
しかし、こいつらは今まで直接俺の視界には入っていなかった。だから遅れてしまった……そいつらの“種族名”に。
「悪魔族か、それも二匹」
ミリアン獣王国で遭遇した女悪魔と同様、種族名に“悪魔族”と表示されている。
今はエルフに見えるけど、女悪魔もパッと見は獣人に見えたからな。擬態とか、変身とかの魔法があるのだろう。
「ほう、我々が悪魔族と知っているか、人間」
「何処で知ったのかは興味があるが、今はそれ所では無い」
エルフ族の身体が背中から盛り上がる。そして、背中が裂けて鮮血が噴出すと、そこから悪魔族本体が姿を現した。
グロい。グロいの、そんなに得意じゃないんだけどな。
「痩せ細ったエルフの身体はいかん、窮屈で窒息するかと思ったわ」
「これでやっとスッキリした」
どうやら、悪魔族はエルフの身体に取り付き、支配していたようだ。自分が前世で死んだ時の事を思い出し、胸糞悪くなった。
「我ら悪魔族の繁殖の為、苗床となる女を探していたが……人間や獣人もいるとはな」
「エルフ族以外も手に入るのは好都合だった」
「それに、あそこの紺色の髪の人間からは、強い気配を感じるぞ」
「うむ、優秀な悪魔が生まれ――」
――ドパァァンッ!!
片方の悪魔族の頭部が吹き飛ぶ。
「なっ……!?」
戯言をほざいていたので、ムカついて殺った。反省も後悔もしていない。
具体的には、銃剣からの発砲レールガンVerで、鼻から上を吹っ飛ばした。
「貴様っ!!」
更にもう一匹の悪魔族を狙って撃つが、その弾は見えない壁によって止められた。
「防御系の魔法か?」
「魔法だと? そんな脆弱な物ではない、呪法だ! 愚かな人間よ、悪魔族の力を思い知らせてやろう!」
悪魔族は、そう言って手を翳した。
「焼け死ね、人間!!」
その手から放たれたのは、黒い炎の塊だ。呼び方や詠唱の仕様は違うけど、魔力によって構成された術式だな。
まぁ、それならこれでいい。
「せいっ」
適当な掛け声と共に、銃剣を奮う。魔力で構成されているならば、この通り“解呪”で掻き消せる。
「なっ、呪法を斬っただとっ!?」
お前ら、驚き方にバリエーションを持たせろよ。
「ならば、貴様が対応出来ない数を撃つまでよ! はああぁぁっ!!」
両手を交互に突き出しながら、黒炎玉を放つ悪魔族。
そうね、流石にそれを斬るのは疲れる……だから、撃つ。宝物庫から取り出したのはマシンガン。
装填するマガジンは、全て“解呪”を刻印付与した弾だ。
俺は容赦なく引き金を引く。黒炎玉が次々と消滅していく。
「何ッ!? 何だその武器はッ!? グオアアァァッ!!」
解呪した弾は何処へ行くかって、そりゃあ魔法を突き抜けて真っ直ぐ飛ぶ。そこに居るのは悪魔族……攻撃時は防御の呪法を使えないらしい。
なら、当たる。それも大量に当たる。
更に悪魔族が、魔力を用いているらしい呪法とやらで身体強化とか、そういう効果上昇系のバフをしていたらそれも当然、解呪。良い事尽くめだな。
「くっ……何という攻撃だ……!」
両手と胴体から夥しいドス黒い血を流しながら、悪魔族が苦々しげに俺を睨む。
「……で?」
終わりか? と見返す。俺の態度に、悪魔族は癇に障ったのか右脚で地面を力いっぱい踏み付けた。
「調子に乗るな、人間ッ!!」
どうやら、激おこのようだ。一緒だね、俺も激おこだよ。
悪魔族が右腕を天に掲げると、腕がボコボコっと盛り上がって一回りくらい大きくなった。
獣王国で女悪魔もやっていたが、気持ち悪いな。悪魔族の共通技能だろうか、これは。
「死ねぇっ!!」
勢いよく駆け出し、右腕を突き出してくる。
「……ふん」
俺はそんな様子を鼻で笑って、宝物庫から一つの盾を取り出す。
「そんな盾で、防ぎ切れるものかよっ!」
悪魔族の言葉を流して、増幅で身体能力を強化し、脚を踏ん張る。その右腕が盾に激突した瞬間。
――ドゴオォンッ!!
「ギャアァァァッ!?」
吸収で相手の魔力を奪い、その魔力を使って発動する爆裂魔法の刻印付与が施された、お馴染みの遺失魔道具。
発想の転換、地雷パイセンを盾に付けたらやべぇんじゃね? という案から生まれた盾。
――持つ地雷パイセンである。
無論、指向性を持たせているので、爆風とかは俺の方には来ないように調整してある。反動は凄いけどね。
「ぐあぁっ、腕がっ! 俺の腕がっ!!」
「あぁ、吹っ飛んだか。ざまぁ」
持つ地雷パイセンの爆裂魔法で、悪魔族の右腕が消し飛んだ。殺すと決めた対象にしか使わないけど、これはヤバい威力だな。
「………………で?」
もうお仕舞い? と、問いかけておく。
「ぐぐっ……貴様だけは殺すッ!!」
ほぉ、次はどんな攻撃で来るだろうか。どんな攻撃も、俺の付与魔法と遺失魔道具で尽く潰して、最後に盛大に殺す。
そのつもりだったのだが、悪魔族は踵を返した。
「覚えていろっ!!」
なんて素敵な捨て台詞。
「逃げんのかよ」
そう、悪魔族は一目散に回れ右、逃げ出した。でも当然、逃がさない。
「俺のターン、ドロー」
宝物庫から、ガトリングガンを両手に取り出す。
それではガトリング先生、よろしくお願いします。
――ドゥルルルルルルルッ!!
――ドドドドドドドドドド……!!
「グギャアアアアアアアァァァァッ!?」
背後から殺到する銃弾の壁が、悪魔族を襲う。
途中から「待てぇっ! 待ってくれっ!」とか、「頼む、止めて……」とか、「ウギャアアアァッ!!」とか聞こえてくるけど、待たないし止めない。待ってやる義務は無いし、止めてやる義理が無いな。
「よし、終わりだな」
弾を撃ち尽くした頃には、飛び散ったドス黒い血液と、ミンチになった肉片が散乱していた。
視線を向ければ、バルボッサも燃え尽きて黒い炭になっていた。
真実の目で念を押して確認するが、バルボッサ・悪魔族二匹・御者の生命反応は無い。
よし、これで掃討完了だな。




