04-07 暗殺者/燃える森
これまでのあらすじ:バルボッサ伯爵がフルボッコになりました。
さて、今は夜。僕達は皇城の各々に用意された客室に戻っているのだが……マップに害意を示す赤い光点が表示された。
その数は十五人。確認した所、全員暗殺者だ。
やれやれ、バルボッサ伯爵だろうな。決闘に負けた腹いせと、僕に対する報復か。
仲間達にそれを念話で伝える。
『器の小ささは皇国でもトップクラスですね』
『自分の自業自得ですものね』
『それでユート様、どうなさるのですか?』
『決まってる、殲滅だ』
殺意を向けてくる相手に、遠慮してやる必要など無い。
これでツーアウトだが、殺意には殺意だ。競技が変わってレッドカードだな。
一応、暗殺者とバルボッサの繋がりは確認するけどね。
僕達はそれぞれの部屋で、臨戦態勢で待機していた。
マップで確認した所、暗殺者以外にも何人かいるみたいだ。多分、バルボッサの息が掛かった城の使用人かな?
僕達の居る客室に向かってくる暗殺者達が、窓の前で立ち止まる。何か、花の香りがして来たな。
”解析”で確認すると、”睡眠香”というものらしい。
これはエルフの国では麻酔代わりに、医療目的で使用されるらしいね。医療用の技術が暗殺の為に使うなんて、医療関係者からすれば冒涜と言えるだろう。
最も僕達には効果が無いので、無駄なんだけどね。
”守護の首飾り”による、”異物排除”の常時発動。これを作っておいて正解だったよ。
……
寝入った振りをしながら、暗殺者が入って来るのを待つ。
やがて窓が開き、二人の黒いマントで顔や身体を隠した人影が侵入してくる。
手に持っているのは、ナイフ。どうやら、致死性の毒が塗られているようだ。
これで現行犯だ。
部屋に侵入してきた連中に封印の縛鎖を投げ付ける。
「な、なんだこれは!?」
「ぐぅっ……動けん!!」
さて、皆はどうかな? 他のメンバーでも封印の縛鎖を使用できるように、既に宝物庫は解放してあるから大丈夫だとは思うが。
『そっちは大丈夫?』
『問題ありません』
『こちらもです』
『賊二名を捕縛しました』
『私もだ』
『ユート殿、どうしますか』
『処刑しちゃう?』
処す? 処す。 その前にやる事があるけどね。
……
門弾で転移魔法陣を開き、全員を集める。
ついでに音が外に漏れないように、遺失魔道具も発動。
――遺失魔道具”円環の静寂”。
外の音は聞こえず、中の音が漏れない静音空間。これは楽器を製作し、試しに演奏する時に使っていたやつだ。
「ユーちゃん、どうします?」
「ん? そりゃ実力行使だよ?」
今回の実力行使はちょっと過激だけどね。
銃剣を手に、”俺”は襲撃者達を見下ろす。
「雇い主と自分の命、好きな方を選ぶといい。お前らを雇ったのは誰だ?」
「……主君を売る暗殺者がいるとでも思っているのか?」
「そ。じゃあ死ね」
――パァンッ!
眉間に弾丸を撃ち込む。一人目があっさり死んだ。
「「「……っ!?」」」
暗殺者達の表情が引き攣る。だが、こいつらの心情も事情も俺には関係ない。
「次、お前な。雇い主の事を吐け」
「そ、そんな脅しには屈しな……」
――ドパァンッ!!
銃剣の代わりに出したショットガンで、頭をかるーく吹き飛ばす。
「次、面倒くさいから話したい奴だけ目を閉じろ」
三名ほどが目を閉じるが、他は目を開けて睨み付けてくる。
つまり、覚悟完了なんだな?
――ドゥルルルルルルルッ!!
ガトリングガンによる、挽肉作成作業。
悲鳴を上げる間もなく、三人の暗殺者以外は挽肉になった。
「よし、雇い主についてだ、話せ」
「は、話したら命は助けてくれるのか!?」
――サクッ。
一刀両断、暗殺者は残り二人になった。
「聞かれたことだけ答えりゃいいのに、馬鹿だなぁ。さぁ、どっちでもいい、雇い主について話せ」
「や、雇い主はバルボッサ伯爵です! 貴方とイングヴァルト王子、その護衛騎士の殺害と、可能なら女性の拉致を指示されました!」
「お、おい! おまっ……」
――ズパンッ!!
転がる生首。残る暗殺者は一人。
「今の言葉を皇帝陛下の前で言えるか? 言えないなら殺す」
「い、言います! 全て包み隠さず真実をお話します!」
よし、証言者を確保だ。
遺失魔道具を解き、俺は皇城の侍女を呼ぶ鐘を鳴らす。やってきた侍女は、部屋の惨状に腰を抜かした。
「皇帝陛下に至急、謁見の許可を取り付けろ。このゴミの処理は兵士の方が得意だろうから、そっちに手配しておけ」
普段はしない命令口調で要件を告げると、侍女は涙目で走り去った。話が通れば良いんだけどなぁ。
「さて、このゴミは衛兵に丸投げするぞ。全員無事だが……ん?」
俺はマップを確認し始めたのだが、おかしい。
「……何でリアがあんな所に?」
マックやリインは自室の居るのだが、リアだけが城の外……皇都リーヴォケインの城下町を移動している?
……まずい!
「アルファ、すぐに皇帝に話してこい! リアが攫われたかもしれんと言え!」
「な、なんだとっ!? わかった!!」
リアに渡した遺失魔道具の位置をマップに表示させた所、リアの自室に置かれていた。普通のアクセサリーと同じ感覚で、外してしまったのか?
第一、ここはヴォルフィード皇国で、彼女はそこの皇女だ。城の中で襲われるなんて思わなかっただろう。
「エミリオとシャルはアルファを守れ! 姉さん、アリス、アイリは着いてこい! リアを攫ったヤツを追うぞ!」
マップを見れば、リアと一緒に居るのは……バルボッサ伯爵だ。
もう一人は御者、あと二人は城の使用人だ。
レッドカードと言ったな、あれは嘘だ。これでスリーアウトだ。
この移動速度は、馬車か。もう、既にバルボッサは皇都門へ向かっているようだ。
リアは今、俺の魔力で付与された遺失魔道具を手元に持っていない。なので、転移魔法で追い付くことは出来ない。
……
急いで皇城から出るが、このままでは取り逃がす。そこへ、皇帝陛下とマック達がやって来た。
「ユート殿、リアンナがさらわれたとは事実か!?」
「事実です、皇都門に行く方法はありますか?」
「よ、よし! 転移陣で行ける! こちらへ着いてきてくれ!」
皇帝陛下に続き、皇城前の兵士詰め所へ向かう。有事の際に皇都を守るための転移門があるらしい。
まさか、それを貴族の暴走の為に使うハメになるとは思わなかっただろうな。
「陛下、お供します!」
詰め所にいた兵士達も、一大事とあって臨戦態勢でやって来た。兵士達の案内で転移陣に到着し、兵士達が数人がかりで転移陣を起動させる。
「行くぞ!」
我先にと転移陣に駆け寄った陛下に、俺達や兵士達が続いた。
************************************************************
そこは、まるで地獄だった。炎が燃え盛り、炎に焼かれた者達が地面でのた打ち回る。
その炎が燃やしているのは木々だ。自然を愛するエルフにとって、大切な森の木々が燃えている。
こんな事をしたのは誰か? そんなの、決まっている。
「何があった、答えられる者はいるか!」
「へ、陛下……!!」
今にも命の火が消えそうな兵士が、全身に負った火傷による苦痛に喘ぎながらも、報告しようとする。
「姉さん!」
「”偉大なる創世の神に……”」
回復の法術の詠唱をしながら、姉さんが兵士に手を翳す。
「バッ……バルボッサ……伯爵が、火を……!」
クソが、やっぱりか。
そこへ、リインが駆け寄ってくる。
「ユートさん! リアは……リアがっ!!」
「解ってる、リアは必ず助け出す」
縋りついてくるリイン。その目尻から、涙が溢れて頬を伝う。
――そうだ、やるべき事を見極めろ。優先すべき事を選択しろ。
バルボッサに何も奪わせはしない。リアも、森の木々も、何もかも守り抜く。
その為には、力が必要だ。そして、俺には遺失魔道具という力がある。
マックやリア、リインは僕の友達だ。身内の為ならば、ちょっとやそっとの厄介事を背負っても構わない。
後の事は、その時考えれば良い!!
「皇帝陛下! 今すぐ魔法が使える者を集めてくれ! 水魔法優先だ!」
「う、うむ!!」
「アルファはリアを攫ったバルボッサを追え! 魔力駆動二輪を使えば、すぐ追いつける!」
「待てユート! 言っただろう、この国では……」
「リアの為だ、文句あるか!!」
俺を止めようとしたマックを一喝する。流石に面食らったマック。
「俺は友人の為なら、多少厄介事を背負う羽目になっても構わない。今はリアを取り戻す事が最優先だ、違うか?」
「……すまん、ユート」
その返答にうなずき、アルファに視線を向ける。
「お前の未来の嫁、きっちり奪い返して来い! 面倒事は俺がどうにでもしてやる!」
「……解った、感謝する!」
アルファが首を縦に振る。その両脇に立つエミリオとシャルも、同行する気満々だ。
「姉さん、アリス、アイリ! 火を消すぞ! リインも手伝え!」
「でもっ、リアは……!!」
「いいかリイン、リアの未来の旦那が彼女を助けに行く。俺達はここで火をさっさと消し止めて、アルファ達を追う」
親友の危機に動揺が抜けないリインを落ち付かせる為、出来るだけ乱暴にならないように気をつけながら言う。
「大丈夫だ。バルボッサが何をしようと、ヤツには何も奪わせはしない……俺が、俺達がさせない」
「……ユートさん」
リインが、俺の言葉を咀嚼する。落ち着きを取り戻したら、手伝って貰おう。
「ユート、ここは頼んだぞ」
宝物庫から魔力駆動二輪を出したアルファだが、それを一度止める。そうだ、忘れる所だった。
「アルファ、ヘルメット貸せ」
自分の掌に刻印を浮かべ、それをヘルメットのアイガードに押し付ける。
「これで俺と同じマップが見れる! よし、行け!」
「感謝する、ユート。ここは頼んだ!」
魔力駆動二輪を駆り、アルファ達は森の奥へ向けて走り出す。
……
さぁ、こっちはここからが本番だ。
「水魔法を使い、火を消し止めろ!!」
既に皇帝陛下の指示を受け、水魔法が使える魔導師達が消火活動を開始している。しかし手が足りないのが現状だ。
「皆、俺は魔導銃の量産を行う。皆は魔導銃を使って、水魔法で消火作業を支援してくれ。魔力の限界までぶっ放せ!」
「はい、ユーちゃん!」
「解りました、ユート君!」
「ではユート様、行って参ります」
最後に残されたリインが、不安そうに俺を見る。
「……俺を信じろ、リイン」
その言葉に、リインは俺を見つめ……そして、頷いた。
俺は皇帝陛下の側へ行き、エルフ達にむけて声を張り上げる。魔導銃を高く掲げながらだ。
「水魔法が使えない者には、この魔導銃を貸し出す! こいつがあれば、誰でも水魔法が使える!」
そう言い終えると、視線を姉さんに向ける。姉さんは頷き、魔導銃を構えた。
「行きます!」
木の上に狙いを定め引き金を引くと、水の玉が放たれた。放たれた水の玉は、木の上で弾ける。
水魔法”水の炸裂”の篭められた弾によるものだ。
魔導銃の性能に、エルフ達は目を見開いている。手を止めんなよ。
「アリス! アイリ!」
「はいっ!」
「消し止めますっ!」
続けて、アリスとアイリが魔導銃をぶっ放す。姉さんが放ったものと遜色ない水の炸裂。
エルフ達の目が、魔導銃に集中した。
そして、リイン。
「リイン、行けっ!!」
俺の呼び掛けに、リインは頭をブンブンと振る……何かを振り払うように。そして、すぐに視線を燃える森の木々に向けた。
その視線からは、強い意思を感じる……覚悟を決めたようだな。
「……はいっ、信じますっ!!」
凛々しい表情で、リインが魔導銃を木々の方へ向け……魔導銃から水の炸裂を放つ。
それを見たマックも、自分の魔導銃を宝物庫から取り出して、消火活動の最前線に向かった。
よし、俺も自分がすべき事をしよう。
「皇帝陛下、俺はこれを大量生産してくる! その間に、水魔法が使える連中を前へ!」
「う、うむ! 頼んだ!」
返答を聞くやいなや、地面に門弾を撃ち、転移する。
……
アーカディア島の屋敷、その地下工房。設置してある創造者の小箱に、魔導銃と疑似魔石の創造の記憶をセットし、起動させる。
材料は腐るほどある、問題無い。
その取出口に常時発動の宝物庫を設置し、俺はすぐにヴォルフィードへ戻る。
すぐに戻った俺に皇帝陛下が目を剥くが、今は構っている暇はない。
「魔導銃の貸与を希望する奴は並べ! グズグズするやつは引っ込め! エルフ族の友である木々を守りたい奴はさっさと来い!」
声を張り上げると、兵士達が我先にと殺到する。
魔導銃を宝物庫から取り出すと、”刻印の印章”を使って刻印付与を施していく。水魔法以外にも、付与しておきたいモノがあるからだ。
それを兵士や、森を守ろうと駆け付けた皇都民に手渡していく。魔導銃を受け取ったエルフ達は、大急ぎで消火活動に加わっていく。
「水魔法が使えない俺でも、水魔法が使えるようになるなんて!」
「凄いぜ、この銃!」
「これなら、森を守れるわ!」
「これは魔導具……いや、遺失魔道具なのか……!?」
「あの少年がこれを作ったのか……?」
「疑問は後だ! 森を守れーっ!!」
物量作戦は功を奏し、延焼は止まった。
「燃えている木を囲めー!」
「消えろーっ!」
「リーヴォケインの森を守るんだっ!」
エルフ達の努力もあり、森を覆う炎が消し止められていく。
「ユート殿! お陰で何とかなりそうだ! して、リアは……!」
「大丈夫だ、アルファがもう追い付く!」
アルファが馬車に追い付いた時、門弾ですぐに動けるようにしたい。エルフ達に消火作業は任せてもいいが……折角、アレを作ったのだ。使ってみよう。
取り出したのは銃のグリップ状の物。これは”ある物”のコントローラーだ。
「燃えている木から距離をとれ! 巻き込まれても責任は持たないぞ!」
警告の為に大声で叫び、残された炎上している木の上に門弾を放つ。
そこから現れた物を見て、エルフ達が目を見開いた。
「何だ……あれは!?」
「空に何か浮いているぞ!!」
そう、魔法陣の門から現れた”ある物”が、空に浮いているのだ……新開発した遺失魔道具が。
――範囲攻撃用遺失魔道具”破滅を呼ぶ星”。
発動魔法を水魔法に選択し、グリップを構える。
何が起こるのかは解らなくとも、その場にいては危ないと察したエルフ達が慌てて退避する。
「これで最後だ」
トリガーを引く。同時に、破滅を呼ぶ星の底部に備え付けている砲塔から、水魔法”水の奔流”が放たれた。
直下の木々と炎を飲み込む水の奔流。木々を可能な限り傷付けないように、威力はかなり落としている。
しかし、焼けてボロボロになった木や、細い枝は耐え切れないだろう……ごめんね、リーヴォケインの森。
水の奔流が収まり姿を見せたのは、炎による蹂躙から解放された、リーヴォケインの木々があった。
あちこち焼けてしまっているものの、森は守られた。その事実に気付いたエルフ達が、歓喜の歓声を上げた。




