04-06 アルファの実力/アウト
これまでのあらすじ:マック達に僕達の秘密を明かした。
存分にツーリングを楽しんだ後、僕達は決闘を執り行う試合場へ赴く。
僕達はいつもの装備で、エミリオとシャルは王国騎士団や魔導師団の正装。
そしてアルファは、動きやすい装いだ。とはいえ王族らしく、きらびやかさは無いものの、上質で上品な服装なんだけどね。
シャツにベスト、長ズボンである。腰にはイングヴァルト王家の剣を、佩剣として下げている。
貴族達が見守る中、既に決闘の相手が待っていた。僕達の到着を待ち侘びたかのような表情で、バルボッサ伯爵がニヤリと笑う。
「逃げずに来た勇気には敬意を表しましょう、アルファルド殿下」
敬意を表してない、小馬鹿にしたような笑みを浮かべてバルボッサ伯爵がアルファを出迎える。
「決闘の申し出に応じ参った。私の準備は出来ている」
小馬鹿にする馬鹿には付き合わず、アルファは素っ気なく言う。そんなアルファに、バルボッサ伯爵はカチンと来たようだ。
「この立ち会い、ヴォルフィード皇国が第一皇子、マックール・デア・ヴォルフィードが務めよう。相手の命を奪う事は厳禁とする! では両者、開始位置へ!」
初期位置は、マックから各々五メートル程離れた位置。互いに背を向けて歩いていき、開始位置で立ち止まる。
「決闘を開始する。では、始め!」
「エルフ族の力、存分に思い知るがいい!」
決闘開始の宣言と共に、先手を取ったのはバルボッサ伯爵。火属性魔法”火の玉”を放つ。
剥詠唱じゃないな。予め詠唱を済ませ、魔法を”発動待機”状態にしていたのだろう。
別に、詠唱を先に済ませる事が卑怯とは言わない。そんな輩は掃いて捨てるほど居るし。
発動待機というのは、技能の一つ。火魔法という技能の中に”発動待機”という技能……いわば、子技能というか、派生技能が存在する。
ちなみにこの場合、火魔法のみに技能が適用され、水魔法などの他属性はそれぞれ”発動待機”技能を取得し直す必要がある。
取得条件は解らない、技能レベルに依存するんじゃないかな。”詠唱省略”や”詠唱短縮”も、同様だ。
ちなみに、付与魔法は詠唱省略が低レベルで取得出来た。僕が左目をプロトタイプにしていた頃だったので、何レベルで取得したのか知らないのよね。
バルボッサ伯爵が放った火の玉は十発。それがアルファに殺到するが、アルファは慌てた様子もなく対応してみせた。
「火の玉」
「おっ、魔法で勝負するのか」
そう、アルファは同じ魔法を同じ数、”詠唱省略”で放ったのだ。ちなみに”発動待機”よりも詠唱省略の方が、”取得技能”レベルは高い。
エルフに対して、魔法で勝負するか……どうやら、徹底的に鼻っ柱を折ってやるつもりみたいだな。
「おのれ、小癪なっ!!」
一度詠唱を終えた呪文は、魔力を込めるだけで同じ魔法を放てる。魔法を連続で撃つ、一種の裏技だ。その裏技を駆使して、バルボッサ伯爵は更に火の玉を放つ。
だが、アルファはその尽くを相殺していく。魔法の精度は、アルファの方が明らかに上だな。
――と言うか、エルフである事を考えたら伯爵弱い。
「この、人間風情がっ!!」
歯軋りしながら魔法を連発する伯爵。しかし、一向にアルファを押し切る事は出来ない。
更には、アルファの方が手数を増やしていった。
伯爵の火の玉は十発。呼び掛けた火の精霊は、十柱。
裏技のデメリットとして、それ以外の魔法を使いたいなら詠唱し直さなければならない。それは手数を増やしたい場合も同様だ。
なので、伯爵の攻め手は十発で固定されてしまう。
対するアルファは詠唱省略で放つので、徐々に火の精霊の数を増やしている。
「お、おのれっ!!」
やがて、伯爵の目前で炎が衝突して爆ぜる。
「うあぁっ!」
咄嗟に腕で顔を庇うが、戦場で視界を自ら遮るとはね。
決定的なその隙に、アルファは瞬時に接近。伯爵が再び顔を晒した瞬間に、その喉元に剣を突き付ける。
「勝負ありだな」
「ぐぐっ……!!」
余裕の表情で剣を突き付けるアルファと、怒りや恥辱が綯交ぜになった表情の伯爵。どちらが勝者で、どちらが敗者か、一目瞭然だ。
「そこまで! 勝者、アルファルド殿下!」
静けさに覆われた試合場内に、マックの宣言が響き渡る。
同時に、歓声が沸き起こった。
結局アルファは、息を乱すことなく決闘を制した。というか、伯爵弱すぎ。
剣を引き、踵を返すアルファ。
その堂々とした姿は、流石は王子だな。
決闘を制したアルファへ、賞賛の声が投げ掛けられる。
一部の貴族は苦虫を噛み殺したような顔だな。
僕らの側まで歩いて戻って来たアルファを出迎え……ようとして、その脇を擦り抜けて銃剣を振るう。
発動した付与は“解呪”だ。アルファの背中に向けて放たれた炎の玉十発を、銃剣の刃で斬る。
「魔法を……斬ったのか!?」
撃った本人・バルボッサ伯爵が目を剥くが、ここまでやらかした以上容赦はしない。
銃剣には予めゴム弾を篭めていた。伯爵の“あの部分”に狙いを定め……
「相手の股間にシューッ!!」
「ほがぁっ!?」
――超エキサイティンッ!
「よし、更に追撃を……」
「ダメです、ユーちゃん。それ以上はいけません……」
止められちゃったよ、ちぇっ。
「ユ、ユート? 今、何の躊躇いも無く股間を狙って銃を撃ったよな?」
流石のマックも、冷や汗モノだったらしい。ちょっと腰が引けている。
「うん、僕の身内に手を出した以上、容赦はしねぇ」
きっぱり、ハッキリ言うと、マックの表情が引き攣った。
その後、伯爵は従者達に運ばれて行った。泡を噴いてビクンビクンしている様子、ざまぁ。
まぁ安心しろ、バカボッサ。回復魔法や回復薬で治るから、一応。
その後、貴族連中の僕を見る目が、ヤバい奴を見る視線になったのは誠に遺憾である。
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決闘の後、僕達は皇帝陛下に呼び出された。
「アルファルド殿下の実力、しかと見届けた。頼もしい義息子ができる事を、喜ばしく思う」
「恐縮です、皇帝陛下」
アルファの礼に、皇帝陛下は鷹揚に頷き……次いで、僕を見る。
「そしてユート殿……また容赦無くバルボッサ伯爵を打ちのめしたな」
「神聖なる決闘に泥を塗る行為でしたから。それに僕は、アルファの護衛としてここに居ますしね」
最も、それは建前だ。
「……で? 本音は?」
それを察しているアルファが、ジト目で問い掛けて来る。
「僕の身内に対して奇襲を仕掛ける奴を放置する程、僕は甘くない。命があるだけ儲けものだ、逆に感謝して欲しいね」
ちなみに僕の基準はスリーアウト制だ。決闘後の奇襲でワンアウトだ。
ドン引き気味の皇帝陛下に、真顔で僕は確認を取る。言質が欲しい。
「敵と判断したら殺す事も厭いません。場合によっては、殺しますけど良いですか」
サラッと告げると、皇帝陛下が目を剥く。僕がそこまでするとは思わなかったのだろうな。
だが、これで懲りるタイプじゃないだろう、必ず何か仕掛けて来るはずだ。
「勿論、程度によります。明らかに殺意を持って襲い掛かって来るとか、そういう場合以外では……股間にゴム弾を何度も撃ち込む程度で済ませましょう」
盛大に、男性陣の顔が引き攣った。ドン引きである。
「そ、それならば、致し方あるまい……国賓を害すなど、皇国の恥だからな。可能な限りは容赦を頼むが、自衛する場合に限っては……仕方ないだろうな」
「では、そのように」
まぁ、可能な限り殺す気は無い。しかしスリーアウトになったら殺す。
……
謁見の間を出た僕達は、応接室に集まった。
「アルファルド殿下、見事だったよ」
「お見事でございました、殿下!」
「恐縮だ、マックール殿下、リアンナ殿下」
「アルファルド殿下の技量に、このリイナレイン感服致しました」
「そう言ってもらえるとは光栄だ」
エルフ組の賞賛に、アルファが言葉を返す。
「先程の決闘で見せた魔法は詠唱をしていなかったね。あれは詠唱省略だろう?」
流石はエルフ族の皇子、鋭い観察眼だな。
「火魔法と風魔法に適正があってな、先日習得したばかりの技能なんだ」
おや、そうだったのか。使いこなしている風に見えたが、意外とそうでもなかったのかな?
まぁ冷静に相手の出方を見て対処していたから、余裕は十二分にあったんだろうけどね。
「アルファの剣の腕は知ってたけど、魔法も随分技能レベルが高いよね」
「……? お前の左目には、そんな物も見えるのか?」
あれ、技能レベルの話はしてなかったんだっけか?
「ユート、その話を聞かせてもらえないかな。少し興味があるんだ」
「じゃあ、僕のステータスで説明しようか」
僕は宝物庫から、以前作成したステータスプレートを出す。
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【名前】ユート
【種族/性別/年齢】人間/男/15
【職業/レベル】付与魔導師/21
【状態】天使の守護・神竜の加護
【ステータス】
体力:37(+100)
魔力:35(+30)(+100)
筋力:34(+100)
耐性:38(+100)
敏捷:33(+100)
精神:36(+100)
【技能】付与魔法LV5→6・遺失魔道具製作LV6→7・魔道具製作LV5→6・銃撃LV3→4・剣術LV3→4・刻印付与魔法Lv5・竜眼Lv3
【称号】勇者の息子・聖女の息子・刻印の付与魔導師・遺失魔道具職人・銃使い・人間武器庫・ゴブリンキラー・魔物ハンター・悪魔の天敵・獣人族の友・神代の竜に認められし者・卵の守り人・天空島の主→アーカディア島の主・王族タラし(NEW)
【賞罰】ミリアン獣王国 獣王武勲章
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「って、王族タラしって何だ!!」
「本当に追加されましたね」
もしかすると、アイリの発言を拾って追加されたんじゃないのか? だとしたら、追加したのは世界神の線が濃厚だ。
一度、キッチリ話をつけるべきかもしれない。場合によっては強制引退に追い込む事も辞さない。
「し、神竜の加護……これは凄まじいな」
「ユートさんと話していると、私の知識なんて大したことがないものに思えます……」
冷汗を流すエルフ組はスルーして、解析プレートを用いて説明する。
「まず、鑑定と解析の違いは言ったよね? 種族・技能・称号が表示されるか否かなんだ」
全員が頷く。
「種族は言わずもがな。むしろ鑑定の魔法で見る事が出来るから、鑑定板で何故表示されないのかって思うくらいだ。ショウヘイさんにも事情があったのかもね」
「ユート様が言うと、本当にそういう理由かもしれないって思いますわね」
遺失魔道具製作者という共通点があるからね。
「で、称号。何か変なの追加されてたけど、そこは諦めてしまおう」
「ユート様、元気出して下さい」
僕の二の腕を抱えるアイリだが、言い出したの君だからな。でも、控えめながら柔らかい感触にちょっと元気が出た。
「うん。で、称号は基本的に自称しても追加はされない。他者から称された称号が追加される事が基本みたいだね」
「ユートさんの称号、たくさんありますね」
「うん、特殊な物以外は他者の評価で得る。また、特別な事を成した時にも追加される。”アーカディア島の主”とかね」
一つ頷いて、アルファが質問をしてくる。
「何故、称号が鑑定板に適用されなかったと思う?」
「製作者が自分か、自分と近しい者の称号を公にしたくなかったからだろうな。まぁ、僕も助かっているんだけどね」
最悪、勇者の子とか遺失魔道具職人はいいんだ。神代の竜に認められし者とか、ヤバいだろ。
「で、今回の本題、技能だね」
この世界の常識に喧嘩を売るような技能が多いから、解りやすく付与魔法で説明しよう。
「僕の付与魔法は、今Lv8だ。僕が見た事のある技能レベルの最大値は99」
「例の竜がそうだったのか」
「うん、そうだよ」
技能レベルの最大値は、神竜の取得していたLv99だと思う。
「それで、この魔法系や武術系の技能には、子技能というか派生技能というか……そういうのがあるんだ」
魔法系なら、”発動待機”とか”詠唱短縮”・”詠唱省略”とかだな。
それらの技能を習得するのに必要な条件は不明だが、おそらくはレベル制限だろう。Lv3で、発動待機を取得する……とかかな。
ちなみに、派生技能にはLvという概念が無いようだ。元となる親技能に付随する技能だからなのだと、僕は推測している。
それらを説明し、最後に付け加える。
「今の説明は、僕が調査した結果から推測したものだ。真実とは限らないから、そこは注意しておいて欲しい」
頷く皆だが、僕の推測に対しての疑念は無さそうだな。
あんまり信用しすぎなのもどうかと思うが、信頼してくれるのは嬉しいから何も言わないでおこう。
そして、イングヴァルト王国組とヴォルフィード皇国組から、自分のステータスが見たいという申し出があった。まぁ、あんなの見せられたら気になるよなぁ……。
しかし、言いにくいし言わないが、僕程称号や技能は多くないからな?
「まぁ、折角だしステータスプレートはプレゼントするよ」
その場でステータスプレートを製作し、皆に手渡す。
皆は嬉しそうに魔力を流して、自分のステータスを表示させていく。
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【名前】アルファルド・フォルトゥナ・イングヴァルト
【種族/性別/年齢】人間/男/15
【国籍/階級】イングヴァルト王国/第一王子
【職業/レベル】剣士/19
【ステータス】
体力:63
魔力:61
筋力:64
耐性:60
敏捷:59
精神:61
【技能】剣術Lv6・火魔法Lv5・風魔法Lv5
【称号】第一王子・剣士・リアンナの婚約者(NEW)
【賞罰】無し
【名前】エミリオ・フォン・メルキセデク
【種族/性別/年齢】人間/男/15
【国籍/階級】イングヴァルト王国/メルキセデク伯爵家長男
【職業/レベル】騎士/21
【ステータス】
体力:67
魔力:32
筋力:69
耐性:66
敏捷:48
精神:39
【技能】剣術Lv7・盾術Lv6・騎馬Lv5
【称号】騎士・アルファルドの護衛
【賞罰】無し
【名前】シャルロット・エルナード
【種族/性別/年齢】人間/女/15
【国籍/階級】イングヴァルト王国/エルナード侯爵家令嬢
【職業/レベル】魔導師/22
【ステータス】
体力:41
魔力:76
筋力:39
耐性:40
敏捷:53
精神:72
【技能】火魔法Lv5・水魔法Lv4・風魔法Lv5・地魔法Lv3
【称号】四属性魔導師・アルファルドの護衛
【賞罰】無し
【名前】マックール・デア・ヴォルフィード
【種族/性別/年齢】エルフ/男/189
【国籍/階級】ヴォルフィード皇国/第一皇子
【職業/レベル】魔導師/28
【ステータス】
体力:61
魔力:84(+20)
筋力:63
耐性:62
敏捷:73
精神:82(+20)
【技能】風魔法LV9・水魔法LV8・弓術LV7・剣術Lv8・森林魔法Lv8
【称号】エルフの皇子・精霊魔導師・節度ある女好き(NEW)
【賞罰】無し
【名前】リアンナ・デア・ヴォルフィード
【種族/性別/年齢】エルフ/女/146
【国籍/階級】ヴォルフィード皇国/第一皇女
【職業/レベル】魔導師/24
【ステータス】
体力:49
魔力:75(+20)
筋力:48
耐性:45
敏捷:71
精神:79(+20)
【技能】風魔法LV5・弓術LV5・森林魔法Lv7
【称号】エルフの皇女・精霊魔導師・アルファルドの婚約者(NEW)
【賞罰】無し
【名前】リイナレイン・デア・ヴォークリンデ
【種族/性別/年齢】エルフ/女/98歳
【国籍/階級】ヴォルフィード皇国/ヴォークリンデ公爵家次女
【職業/レベル】魔導師/25
【ステータス】
体力:51
魔力:79(+20)
筋力:49
耐性:47
敏捷:78
精神:80(+20)
【技能】風魔法LV6・水魔法Lv7・地魔法Lv5・弓術LV8・森林魔法Lv6
【称号】公爵令嬢・精霊魔導師・弓使い
【賞罰】無し
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これが、彼等のステータスだ。実は意外と、レベルやステータスがかけ離れていない。
「少々意外だ。長命なエルフ族だから、レベル等は掛け離されていると思ったのだが……」
「我々エルフ族は長い時を生きるせいか、気長な性格の者が多いんだ。だからレベルやステータスに頓着しないのも理由の一つだね。それに、ヴォルフィード皇国には魔物があまり寄り付かない。他の国との戦争でレベルが上がる事が殆どだよ」
そういうものなのか。
ちなみに、エルフで百歳くらいというのは、人間で十五歳くらいの感覚なのだと言う。
「つまり僕達にしてみれば、君達は同年代くらいの感覚なのさ」
「成程、それで友達になりたいって言っていたのか」
最初は何事かと思ったよ。
「ふむ……魔法ステータスの+20は、どうやらエルフの種族特性でしょうか?」
「多分そうだと思う。種族ごとに特性があるんだろうね」
どうやらエルフ族は、魔法・敏捷・精神のステータスに種族特性によるステータス上昇が付与されるらしい。
逆に、体力・耐久・敏捷のステータスに種族特性が反映されているのが獣人の特性だろうな。
「アルファルド殿下の婚約者……ふふっ」
リアは、その称号を見てニマニマしている。ベタ惚れじゃないか!
ちらりと視線をアルファに向けると、僕の視線に気付いて眉間に皺を寄せた。
「何だ?」
「いや、良かったな」
それだけ言っておこう。アルファも後で、客室で“リアンナの婚約者”という称号を見てニヤニヤしておけ。




