04-04 交流/晩餐会
これまでのあらすじ:マックール皇子殿下、グイグイ来る。
お茶会の後、アルファとリアンナ皇女は庭園を見て回るようだ。最初に比べて、互いの表情に変化が見られる。
緊張感が抜けて、自然体で話しているように見える。
「リアはアルファルド殿下を気に入ったようだね。アルファルド殿下も、満更でも無さそうかな?」
そう言いながらお茶を飲むマック。確かに、アルファの表情は穏やかで、安らいでいるように見えるな。
「そうみたいです。これなら、婚約はうまく行きそうですね」
さて、あちらは大丈夫そうだと思っていたら、マックが姉さん達を見る。
「ところでユート、君の連れている女性達は全員君の恋人なのかい?」
「ちょっと何言ってるのか解かんないです」
一夫多妻の国じゃなければ、三股野郎って言われてる事になるよね。
そこで、フローラ皇女がため息を吐く。
「お兄様、ユート様がお困りでいらっしゃいます」
「フローラ、私の見立てではユートは彼女達を悪からず思いつつも恋仲ではない。今ならまだ私が入り込む余地はあるのだ」
この皇子、姉さん達を狙ってるのか。
「美しい女性に愛を囁くのは、男の本分だと私は思うね。ユートと彼女達が良いのならば、私の夫人に迎えるのもいいと思うのだよ」
グレンと同類なのか。場合によっては、凹ませる所存。
しかし、女性陣はハッキリとそれを否定した。
「光栄ではございますが、私はユーちゃん以外の男性に添い遂げるつもりはありません」
「はい、私も同じ気持ちです」
「私は既に、ユート様の所有物ですので」
そんな姉さん、アリス、アイリの返答。
うおぉい、マジで言ってるのか皆……自分にモテ期が来ているのか? 本気にするぞ?
そんな僕達を見て、マックは笑顔で頷いた。
「成程、私の入る余地は無かったか。ならばさっきの言葉は忘れてくれ」
そう言って、マックはお茶に口を付けた。あれっ、すごくあっさり引き下がったよ?
「不思議そうな顔だね、ユート。私は他人の恋人を略奪するような、愚かな真似はしないよ。恋人や夫婦というものは、心から通じ合う者の間で結ばれる関係だろう?」
「成程、納得しました」
女性は好きだが、分別をしっかり弁えているということか。つまり、節度ある女好き……不敬な言い方だな、これ。
「どこぞの銀級冒険者に聞かせてやりたい、いい台詞でしたね」
「「全くです」」
うん、オチもついたね。
……
そんなこんなでマックとも仲良くなりつつ、アルファ達が戻って来たので城へ戻る。
アルファとリアンナ殿下は、だいぶ打ち解けたようで距離感が縮まった気がするな。
城に戻った僕達は、謁見の間ではなく応接室に通された。
そこでは皇帝陛下と、ローレンさん・エメリアさん夫妻が談笑していた。
「戻ったか。リアンナ、アルファルド殿下とは話せたか?」
「はい、お父様。アルファルド殿下のお人柄に触れ、殿下の妻となれる事を嬉しく思いますわ」
リアンナ皇女殿下は、笑顔でそう言っている。胸元で両手を合わせるその仕草は、可愛らしい印象を与える。
「そうか。娘はいかがか、アルファルド殿下」
「素晴らしい女性だと感じました。彼女を妻に迎えられる事を光栄に思います」
「それならば重畳。婚約の話は勧めて構わないだろう、これはイングヴァルト王への親書だ」
「確かにお預かりしました、必ず父に届けます」
「うむ。これから末永く、宜しく頼むよ」
そう言って、皇帝陛下とアルファが固く握手を交わす。
アルファもリアンナ皇女殿下も、互いを気に入ったという事だろう。後で何か、お祝いをプレゼントしようかな。
何が良いだろうか。うーむ、後で姉さん達や、エミリオとシャルに相談しようかな。
「さて、ユート。この国はどうかね?」
おっと、矛先がこっちに来たな。
「自然に溢れ、美しい都だと感じました。それに、自然と共存するエルフ族も素晴らしい種族ですね」
僕の言葉に鷹揚に頷く皇帝陛下。
「お主達の旅の目的はローレンから聞いた。このヴォルフィード皇国の文化や風習を、心ゆくまで見ていってくれ」
「ありがとうございます、陛下の御厚情痛み入ります」
恭しく一礼し、感謝を述べる。この辺りのマナーは、アリスが色々教えてくれているお陰で助かっているな。
「お父様、アルファルド殿下方が折角いらっしゃったのですから、晩餐会を開いてはいかがでしょう?」
リアンナ殿下のそんな言葉に、皇帝陛下は笑顔で頷く。
「うむ、私もそう思ってな。今、準備を進めているところだ」
急な来訪だったにも拘らず、歓迎してくれているようだな。まぁ、未来の義息子だもんね。
「それでは、私は政務に戻らせて貰おう。マックール達は引き続き、アルファルド殿下達を歓待して差し上げなさい」
「畏まりました、父上」
「うむ、では失礼するぞ」
歩み去っていく皇帝陛下に、全員跪いて頭を下げる。
……
陛下の姿が見えなくなったのを確認すると、我先にとローレンさんが立ち上がる。
「さて、ユート。少し稽古を付けてやろうか!」
「やっぱりこうなるんか!」
この脳筋め!
「剣鬼様の稽古ですか、羨ましいですな……」
本気で羨ましそうにこちらを見るエミリオ。
「エミリオはローレンさんに稽古を付けてほしいの?」
「それはもう! 剣の極地に達したと言われるローレン様に稽古をつけてもらえるなんて、イングヴァルト王国の兵士や騎士なら誰もが羨むことですよ!」
ふむ、そういうもんか。
「どう? ローレンさん」
エミリオとのやり取りを見ていたローレンさんが、笑顔で頷く。
「そこまで言われちまったら、相手をしてやるしかねぇな! エミリオだったか? ちょっくら見てやるよ!」
その言葉に、エミリオのテンションが爆上がりした。
「よろしいのですか! なんたる光栄!」
だが、エミリオはすぐに我にかえる。彼は遊びに来た訳ではないのだ。
「いや、しかし……私には殿下の護衛としての役割が……」
「アルファには僕が付いておくから、行っておいでよ」
ローレンさんに会えるのを楽しみにしていたくらいだからな。これくらいしても良いだろう。
「アルファ、僕が代わりの護衛で構わない?」
「あぁ、無論だ。お前の実力はよく知っているからな」
どうも、魔物をミンチにする系冒険者、ユートです。アルファに手を出す不埒者には、ミンチか息子喪失の二択だぜ!
「殿下、ユート殿……では、お言葉に甘えて……」
「よし、じゃあ練兵場借りてやるか! 行くぜ!」
「はいっ!」
嬉々として歩いていくローレンさんとエミリオに、思わず苦笑してしまう。
「殿下の護衛じゃ、私のお話に付き合って貰うわけにもいかないわねぇ」
おっと、薀蓄講義叔母さんが待っていたんだった。
「ユ、ユート君! 殿下の護衛、お願いしちゃっていいのかな!? いいのかな!?」
そういや、エメリアさんに憧れて魔導師になったとか言ってたっけ。
「エメリアさん、この子はシャル。エメリアさんのファンなんだと。少し、話に付き合ってやってよ」
「あら、そうなの? 嬉しいわ〜、シャルちゃん。私と少しお話する?」
「ぜっ、是非っ!! うわ〜ん、ユート君ありがと〜!」
感動で抱き着いてくるシャルに、またもや苦笑。何か、同じ年って感じがしないんだよなぁ。
「仕方のない奴だな。まぁ折角だ、お前も行ってこい」
僕同様に苦笑して、アルファが許可を出す。
「ありがとうございます、殿下! 行って参りますっ!」
「それじゃあ、折角だしテラスでお茶でもしながら話しましょうか。行きましょう、シャルちゃん」
「はい、エメリア様!」
今にも喜びで飛び跳ねそうにしながら、シャルがエメリアさんを追っ掛ける。
……
「ははは、君の仲間は本当に面白い人物が揃っているね」
「えぇ、お陰で賑やかな旅でしたよ」
そう答えると、マックが苦笑して首を振る。
「ユート、私は既に君を友人だと思っているんだ。アルファルド殿下に接するように、気楽に接してくれないかな」
何か、アルファといいブリックといい、このマックといい……僕に対してフランク過ぎないか?
「あの、流石に不敬では?」
「私が良いと言っているのにかい? それに、マックと愛称を付けてくれた割には呼んでくれないじゃないか。アルファルド殿下とのやりとりが、私は羨ましいのだよ」
「ユート……お前という奴は、マックール殿下までタラし込んだのか?」
甚だ心外な評価だぞ!?
「タラし込んだって何だよ、マックは最初からこんな感じだったぞ。ブリックだって元々の性格だろ」
ちょっとしたお節介がてら、アルファとマックの間にある距離を埋めるべく、さり気なく巻き込む。
「アルファルド殿下、ブリックとは? 貴殿以外にも誰か、ユートが懇意にしている者がいるのか?」
「うむ、ミリアン獣王国の王子であるブリック殿下とも、こんな感じのやり取りをしている」
「ハハハ! 三人もの王子や皇子に対してか? ユート、君は大物だな!」
うん、二人の距離感を縮める切っ掛けにはなったかな? 内容は承諾しかねるがな!
「ユート様の称号に、殿下タラしという称号が追加されるのも近そうですね」
「やめろアイリ、マジでそうなりそうだから!」
ここで、アルファとマック、そして三皇女が首を傾げる。
「称号っていうのは、何だ?」
「あっ、そうか。アルファ達にもその辺は割愛して説明していたからなぁ」
うーん、マック達に遺失魔道具の説明をしていいものか。
「解析という魔法があるんだ。鑑定と同じでステータスや賞罰が確認できるんだけど、鑑定よりも見れるものが多い。その一つが称号だね」
「……まさか、お前」
僕の左目に、意識が向けられた。アルファは知っているからね。
「うん、解析が付与されてる。僕の左目の義眼にね」
「義眼だって!? 本物の目だとばかり思っていたよ!」
「それよりも、ユート様? その義眼で、解析という魔法が使えるのですね? まさか……遺失魔道具ではないのですか?」
鋭い指摘だ、リアンナ殿下。まぁ、そう思うよね。
「入手元は明かせないけど、確かにこれは遺失魔道具だよ。”真実の目”っていうんだ」
遺失魔道具である事を明かすと、マックやリアンナ殿下達の表情が曇った。
「ユート、遺失魔道具を所持している事は、決して公言してはいけない」
いつになく真剣な様子のマックは、周囲を伺う。大丈夫だよ、マップには僕達以外の反応は無いから。
「エルフ族は魔法を得意とする種族だ。しかし、そんなエルフ族にも遺失魔道具の製法は明らかになっていない。魔導具製作に長けた付与魔導師などは、遺失魔道具と聞いたら目の色を変えて入手に動き出すかもしれん」
魔法の第一人者としてのプライドから来るものか。確かに、バレたら面倒事になりそうだな。
「解った、秘密にしておくよ」
「うむ、それがいい」
そうなると、あまり派手な事は出来ないだろうなぁ。
……
マック達と話す間に、僕達はだいぶ打ち解けられた。そして、夜になると侍女達が僕達を呼びに来る。
「それでは、お召し物をご用意致しましたので、ご案内させて頂きます」
服まで用意されたのか!? この服じゃだめなのかな、金貨一枚したんだけど。
そんな事を言うわけにもいかず、僕達はそれぞれ案内された部屋で衣装替えだ。
僕は、貴族っぽい出で立ちの服を着ることになった。に、似合わねぇ……!!
侍女に案内され、控室に向かったら、そこには男性陣が揃っていた。
「似合っているじゃないか、ユート」
アルファは似合うな、流石王子様。
「うむ、どこかの貴族のようですな」
エミリオも貴族だからな、着こなし感がパネェ。
「やめてくれ、柄じゃないって解ってるから」
貴族とか、肩が凝りそうで勘弁な!
そんな風にバカ話をしていたら、すぐに女性陣がやって来た。
「お待たせしました」
アリスを先頭に、皆がドレス姿を披露してくれる。
アリスはローブデコルテというタイプの、可憐な白いドレスだ。
姉さんはプリンセスドレスという、黒いドレスに白いショールをかけている。
アイリはイノセントドレスというタイプで、胸元が白いシースルーになっていて、ドレス生地は淡いブルーだ。
そして、シャルは黄色のバブルドレスというタイプみたいだ。
ドレスの種類が解る理由は、勿論”目”のお陰だ。ちなみに、どれも金貨十枚前後のお値段である。
「どうどう? 似合うー?」
「似合うと思うよ、シャル。ねぇ、エミリオ?」
「う、うむ! 似合っているじゃないか!」
「ほんと? やったね!」
天真爛漫に笑うシャル、その様子に目を奪われているエミリオ。これは、春のかほりがするぜ!
「ユーちゃん、私達はどうですか?」
期待に満ちた視線を向けてくる三人。
「勿論似合っているよ。三人とも美人だから、そういう姿も決まっているね」
本心そのままに返答すると、三人共嬉しそうに目尻を下げた。今日はうっすら化粧もしているみたいだな。
「普段はしてないけど、化粧をすると更に可愛いね?」
三人が更に喜びでクネクネしだした。
「お前、ジゴロの才能があるんだな。男女問わず」
「問うに決まってんだろ、変なこと言うなよ!」
誰が野郎を口説くもんか! いや、別にジゴロじゃないし! 口説いてるわけじゃないし!
……
控室で談笑していたら、侍女さんが案内の為に呼びに来た。晩餐会の会場に辿り着いて、僕達はびっくりしてしまう。
人、人、人。会場には、百人くらいのエルフ族がひしめいていた。
あっ、ローレンさんとエメリアさんも居る。二人はエルフ達に囲まれて、談笑しているようだ。
「それでは、お席にご案内させて頂きます」
恭しく一礼した侍女さんが歩き始めたので、僕達もそれに続く。
僕達の入場に気が付いたのか、エルフ達の視線が集中する。
晩餐会というから、皇族と僕達のものだと思ったんだけどな。どうやら、立食形式のパーティーらしい。
最も、上座の方にはテーブルと椅子があり、そこは皇帝陛下と妃、殿下達の席なのだろう……と思っていたら、その席の一部に僕達は通された。
どういうことなの、教えて偉い人。
『誰か、知ってたら教えてくれる? 僕らの案内された席には、どういう意味があるんだ?』
腕輪で呼び掛けると、アルファが答えてくれた。
『最奥の席が皇帝陛下の席、その右隣は皇妃殿下の席、左側は皇子殿下や皇女殿下の席になる。私達が通された、その間に位置する席は貴賓席だな』
『なるほど、ありがとう』
ここは、今日のお客さん席って事ね。
タイミングを見計らったかのように、最奥の席の後ろにある扉が開く。
扉から姿を表したのは無論、皇帝陛下だ。貴族達も、僕達も跪いてそれを迎える。
皇帝陛下の後ろから、第一皇妃とリアンナ殿下、第二皇妃とマック・エリザベート殿下、第三皇妃とフローラ殿下。
皇妃は序列順で、その実子と一緒に入場しているようだね。皇妃は右、皇子・皇女殿下達は左の席へ分かれ、一斉に着席する。
「楽にせよ」
皇帝陛下の言葉に、貴族達は立ち上がる……のだが、僕達は跪いたままだ。これは、事前に控室で侍女さんが説明してくれていた。
「此度は、イングヴァルト王国の第一王子、アルファルド殿下を賓客として迎えておる。我が国の第一皇女リアンナとの婚約を記念する晩餐会である」
その宣言に、貴族の一部がざわつく。
「静まれ。皇国の品位を損ねるならば、退出させるぞ」
こういう席で退出命令を受ける事は恥とされるらしい。まぁ、当り前だよな。
「また、アルファルド殿下の友にして、我が国の英雄エメリア、その夫ローレンの秘蔵っ子であるユート殿をお迎えした」
おい皇帝、勇者の息子って事を隠せば良いってモンじゃないぞ! ローレンさんとエメリアさんは、何を笑顔で頷いてる!
会場の視線が僕とアルファに集中してるだろうが!
「今宵は未来の義息子と、未来の英雄を迎えた喜ばしい夜だ。各々、存分に楽しむが良い」
楽しめるか、この空気で!?
……
晩餐会が始まると、最初の三十分くらいはそれぞれの席で談笑しながら食事を楽しむのがマナーなのだと言う。何故三十分くらいかというと、皇帝陛下お抱えの楽団の最初の曲が終わるのがそれくらいなのだ。
次の曲になると、どうやら挨拶周りのタイミングになるらしい。皇帝陛下は勿論、僕やアルファの下へエルフ達が殺到する。
「この度は、リアンナ皇女殿下との御婚約との事で、お祝いの言葉を送らせて頂きたく」
「丁寧な挨拶、痛み入る。皇女殿下共々、末永くよろしく頼む」
「イングヴァルト王国は豊かな国と聞きます、この先、皇国との交流について殿下は如何御考えでしょうか」
「その事については、現王である父が皇帝陛下と対話する機会に具体的な話となるであろう。しかし、皇国と王国はより親密な関係を築けると、私は考えている」
流石は王子様、次々と投げかけられる言葉に淀みなく対応していく姿は、実に頼もしい王子っぷリだ。
僕はと言うと……
「ローレン様とエメリア様の秘蔵っ子との事ですが、一体どのような経緯でお二人に師事なさったのですか?」
「えーと、僕の両親がお二人の知り合いでして、お二人が遊びに来られる際に、まぁ……鍛錬して貰ったり、講義をして貰ったりと……」
大体、二~三カ月に一回のペースでな。
「ユート殿は貴族では無いようですが、アルファルド殿下とはどのようなご関係で?」
うわっ、面倒臭い質問来たね!
「幼少の頃、魔物(の大群およそ百匹)に襲われている殿下を、(乱入して)御助けしたのがきっかけでして……」
嘘は吐いてないよ!
更には、姉さん達にもエルフ族が……主に野郎共が殺到する。
まぁ、三人とも……いや、シャル含め四人とも美人だから仕方ないけどな。
しかし、姉さん達はにこやかに、かつ適度にあしらっているようだ。
「あなたの様な美しい女性がいらっしゃるとは、人間族は興味深い。今度、お時間を頂けるならば皇都をご案内させて頂きたいのですが……」
「ありがとうございます、弟や殿下も喜ぶと思います」
何処の難聴系主人公か!
「公爵閣下の御令嬢と伺いましたが、何方か御婚約をなさっておいでですか? もし未だならば、私も候補に立候補出来ればと思うのですが」
「御申し出は大変嬉しく思いますが、私も父も婚約の相手を既に決めておりまして、ご期待に添えず申し訳ございません」
そこでチラッと僕を見るの、やめようよ?
「獣人族の中でも、特に兎人族は愛嬌がありますね。毎日その姿が見られたならば、心穏やかな日々になる事でしょう」
「ありがとうございます、主人のユート様もそう思って下さっていると嬉しいです」
あのさ、僕を引き合いに出すのやめない!? エルフ族の視線が厳しいものになってきたんだよ!
そこへ、一人の少女が僕の前に歩み出た。美しい金色の髪を長く伸ばし、翡翠色の瞳が僕を見つめている。
彼女は完璧なカーテシーをして、名乗りを上げた。
「お初にお目に掛かります。私、ヴォークリンデ公爵家が次女、リイナレインと申します」
公爵家って事は、皇弟か皇妹の子供なのかな?
「お初にお目に掛かります、リイナレイン様。本当に平凡な付与魔導師の冒険者で、ユートと申します」
「うふふ、平凡な付与魔導師がローレン様やエメリア様のお眼鏡にかなうとは思えませんわ」
コロコロと笑う様は、同年代の少女にしか見えない。エルフ族だから、僕達より年上なんだけどな。
「実はリアから話を伺ったのです。アルファルド殿下の御友人で、類稀な才能を持つ銀級の冒険者だと」
貴族社会のドロドロを感じさせない、純粋な興味の視線。
リアとはリアンナ皇女殿下だよな? どうやら、従姉妹同士で仲が良いらしいね。
きっとアルファ→リア→リイナレイン様、という感じで情報が知らされたのだろう。
おっと、ボーっとしていたら失礼だな。
「私には過分な評価ですよ。アルファルド殿下は私を買い被っていらっしゃいますから」
「謙虚なのですね、ユート様は」
本当に何を聞いたの、そしてアルファは何を話したのよ。
「後程、冒険の話を聞かせて下さいますか?」
「ええ、喜んで」
僕の返答に、リイナレイン様は嬉しそうに微笑んだ。




