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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第4章 ヴォルフィード皇国
46/327

04-03 皇都入り/皇族との対面

これまでのあらすじ:エミリオとシャルと仲良くなった。

 いやぁ、珍しい事もあるもんだ。

「あっさり着いたな、皇都」

「珍しいですね、こんなにあっさり着くなんて」

「獣王国では、色々ありましたからね」

「いえ、まだ油断は出来ません。皇都の門を潜るまで、何が起こるか気を抜かない方がいいでしょう」


「お前達……今まで一体、どんな旅をして来たんだ」

 満場一致であっさり皇都に到着した事に対する僕達の感想を聞いて、アルファ達は頬を引き攣らせていた。色々あったのさ、色々ね。


 さて、このヴォルフィード皇国の皇都は、名をリーヴォケインと言う。

 ……何か取り出しただけで相手の死が確定する、剣の様な杖の名前に似ているな。


 皇都リーヴォケインの門には、商人や冒険者が並んでいる。ゆっくり進む列を見ると、人間族の冒険者や、獣人の商人なんかも居るようだね。

「この分だと、しばらく待ちそうですな」

「スタリオンちゃん、お利口にしててね~」

 皇都付近で魔力駆動二輪を宝物庫ストレージに収納し、スタリオンと箱馬車をアーカディア島から連れて来て乗り換えた。

 流石に目立つからね! アルファの旅の目的の為にも、目立たないようにしなければ! 

 ――そう思っていた時期が、僕にもありました。


 ……


 時間をかけて並んでいたのだが、いよいよ僕達の番……となった所で、門番達に別室へ連れて行かれたのだ。

 他の人達は身分証を確認して、馬車や荷物をチェックしたら通していたじゃんか。何で僕達の扱いはこうなるんだ?


「……やはり、すんなりとは通れないんでしょうかね、私達は」

「この場合、私の事情が原因なのか、お前達の事情が原因なのか……少々解りかねるな」

 そっか、今回アルファ達もいるもんな。


 さて。待たされる事、多分五分くらい。ある物を持った兵士が現れ、手に持ったそいつを差し出してきた。

「所持していた荷物や、乗って来た馬車のチェックは済んでいるから、後はこれだけ頼みたい。済まないが、君達には鑑定板によるチェックも受けて貰う」

 鑑定板……と来ましたか。


 これは少々まずい。というのも、いくつか知られたくない、もしくは公にしたくない事があるのだ。

 一つは僕のステータス。

 鑑定板では種族・技能・称号・状態は解らないが、それでもステータス値が“神竜の加護”で+100という底上げを受けている。これ、結構な数値だ。


 もう一つは、アリス・アルファ・エミリオ・シャルの身分と、アイリが奴隷である事がバレてしまう。イングヴァルト王国に友好同盟を持ちかけている以上、最低でもアルファの名前は知られているだろう。お忍びがお忍びでなくなる。


『どうする、アルファ』

 腕輪クロスリンクでアルファ達と相談するが、建設的な案は出ない。

『受けるしかあるまい、他に道は無いだろう』

 アルファのその言葉が全てだった。


 已む無く、僕達は鑑定板に手を置いた。


************************************************************


【名前】ユート

【性別/年齢】男/15

【職業/レベル】付与魔導師エンチャンター/21

【ステータス】

 体力:137

 魔力:165

 筋力:134

 耐性:138

 敏捷:133

 精神:136

【賞罰】ミリアン獣王国 獣王武勲章


【名前】キリエ

【性別/年齢】女/16

【職業/レベル】剣士フェンサー/25

【ステータス】

 体力:88

 魔力:100

 筋力:71

 耐性:86

 敏捷:104

 精神:91

【賞罰】ミリアン獣王国 獣王武勲章


【名前】アリシア・クラウディア・アークヴァルド

【性別/年齢】女/15歳

【国籍/階級】イングヴァルト王国/アークヴァルド公爵家令嬢

【職業/レベル】魔導師ウィザード/22

【ステータス】

 体力:55

 魔力:83

 筋力:52

 耐性:50

 敏捷:82

 精神:73

【賞罰】ミリアン獣王国 獣王武勲章


【名前】アイリ

【性別/年齢】女/13歳

【国籍/階級】ミリアン獣王国/ユートの奴隷

【職業/レベル】戦士ファイター/15

【ステータス】

 体力:59

 魔力:38

 筋力:57

 耐性:53

 敏捷:90

 精神:50

【賞罰】ミリアン獣王国 獣王武勲章


【名前】アルファルド・フォルトゥナ・イングヴァルト

【性別/年齢】男/15歳

【国籍/階級】イングヴァルト王国/イングヴァルト王国第一王子

【職業/レベル】剣士ソードマン/19

【ステータス】

 体力:63

 魔力:61

 筋力:64

 耐性:60

 敏捷:59

 精神:61

【賞罰】無し


【名前】エミリオ・フォン・メルキセデク

【性別/年齢】男/15歳

【国籍/階級】イングヴァルト王国/メルキセデク伯爵家長男

【職業/レベル】騎士ナイト/21

【ステータス】

 体力:67

 魔力:32

 筋力:69

 耐性:66

 敏捷:48

 精神:39

【賞罰】無し


 シャルロット・エルナード

【性別/年齢】女/15歳

【国籍/階級】イングヴァルト王国/エルナード侯爵家令嬢

【職業/レベル】魔導師ウィザード/22

【ステータス】

 体力:41

 魔力:76

 筋力:39

 耐性:40

 敏捷:53

 精神:72

【賞罰】無し


************************************************************


 僕達のステータスを転写して確認した兵士が、一部の羊皮紙を見て口元を引き攣らせた。多分僕のステータスと、アルファと貴族組の階級が原因か。

 表情を引き締め直したが、口元がヒクヒクしているぞ。

「はい、確認が取れました。ユートさん……貴方が来る際に、ご案内するようにとの指示を仰せ付かっています」

 やはり、僕の方の事情だったか。


 誰がそんな事を……とは言わない。

「ローレン様とエメリア様ですね、どちらに伺えばよろしいでしょうか?」

「既にこの詰め所に来て頂いておりますので、これより別室にご案内致します。馬車と馬はこちらでお預かりしておきますので、出発の際に近くの兵士にお声を掛けて下さい」

 あらまぁ、至れり尽くせり。


「解りました、ありがとうございます」

「それでは案内は私が務めさせて頂きます。こちらへどうぞ」

 隣に立っていた別の兵士が、案内役みたいだな。僕達は、兵士の後に続いて皇都の門を潜った。


「しかし、話には聞いていたがお前のステータスはとんでもないな」

「あんな数値、初めて見ましたが」

 盗み見るなよ、君ら。

「むしろ驚いたのはこっちだ」

 エミリオは騎士として鍛えていただろうし、シャルも魔導師だって解っていたけど……アルファのステータスはおかしい。


「お前のステータス、普通の王子様のものか? めっちゃ高いじゃないか」

「ふっ、どこかの付与魔導師に負けるわけにはいかないからな……いや、負けたが」

 まぁ、神竜の加護に関しては、ズルみたいなもんだから。


 ……


 兵士に案内された先、貴賓室であろう豪華な部屋の扉だ。案内の兵士が扉をノックすると、中から入室を許可する声が聞こえて来た。

「入って良いぞ」

「失礼致します」

 兵士が扉を開き、恭しく一礼する。

「ユート殿をお連れ致しました」

「あぁ、ご苦労だったね」


 浅黒い肌に、銀色の長髪。身に纏うのは黒い貴族風のコート。

 ダークエルフ族の英雄、剣鬼ローレン。

「入っておいでなさい」

 透き通るような白い肌、鮮やかな緑色の髪。旦那とは正反対の白いコートを身に纏う女性。

 エルフ族の英雄、大魔導師エメリア。


 魔王討伐の勇者レオナルドの仲間であり、異種族で結婚した夫婦である。

「失礼します」

「では、私は外に立っておりますので」

 僕達全員が入室したのを待って、兵士は扉前で警備を担当するようだ。


 扉が完全に閉まったのを確認して、二人に挨拶をする。

「久し振りローレンさん、エメリアさん」

「ご無沙汰しております。ご壮健のようで何よりです」

「あぁ、久し振りだなぁ。どうだ、鍛えているか? 久し振りに稽古でも付けてやろうか」

「ちょっと、脳筋は後にしてよ。ユートにキリエ、久し振りね。そちらはお友達かしら? 良かったら紹介してくれる?」

 ナイスだエメリアさん! 旅先でまで脳筋訓練に付き合ってられるか!


「あぁ、まずはアリス。僕達のパーティメンバーで、魔導師だ」

「アリスと申します、お会い出来て光栄です!」

 ちょっと興奮気味に自己紹介するアリスに苦笑しつつ、続きだ。


「こっちが兎獣人のアイリ、二刀流の戦士だよ」

「お初にお目にかかります。ユート様の奴隷で、アイリと申します」

 奴隷は余計よ、アイリ。


「それで、こっちが……」

「お初にお目にかかります、アルファルド・フォルトゥナ・イングヴァルトと申します」

「エミリオ・フォン・メルキセデクです! お会い出来て光栄です!」

「大魔導師様に憧れて魔導師になりました! シャルロット・エルナードです!」

 僕の紹介を待ちきれず、自分で自己紹介しちゃったよこいつら。

 相変わらずテンション上がるんだね。僕が冷めてるだけか?


「ほぉ、アンドレイの息子か? あいつより筋が良さそうだな。そっちの騎士もいい、しっかり鍛えているみてぇだな」

「ローレンさん、手合わせ前提で批評するのやめない?」

「あらあら、可愛い子達ねぇ。ユート、この中に恋人はいるの?」

「いないから。変な勘繰りするならベアトリクスさん並の対応になるからな」

「それは嫌ね。もう、からかい甲斐があるんだか無いんだか」

 からかうのが前提か! 


「ところで、僕達が来る事を解っていたみたいに居合わせたけど、どんなカラクリ?」

「普通に森林魔法よ? 森の木々が、あなた達の来訪を教えてくれたの。”何かよく解らない物に乗っているけど、ユートという人間が来ました”って。何に乗ってたの?」

「凄いな、森林魔法!」

 森が自主的に教えてくれたって事だよな? やべぇ。


 ……


「それでだ! 皇帝にはお前達の事を話してあるんだが、会ってみてぇって言っててな。一緒に来てくれるか?」

「どうする、アルファ……お忍び……」

「鑑定板で私が来た事は知られただろう。ならば、もうどうにでもなれだ」

 投げやり王子……。

「そっか、お前さんは王子だもんな。ってか、何で王子がそんな格好でユートと旅なんぞしてんだ?」

 仕方ない、事情を説明しよう。


 二国の間での友好同盟の話、アルファと王女の婚約話、僕達が護衛として同行した経緯を説明する。

「なるほどな、理解した」

「二国間の友好同盟ね、とても素晴らしい事だわ。メイトリクス皇帝は他種族との交流を増やすべきと言っていたから、その第一歩なのでしょうね」

 へぇ、そうなんだ。

 それよりも、皇帝の名前に恐怖を感じる。【職業】コマンドー、とかじゃないよね?


「イングヴァルトに同盟を持ち掛けたのは、簡単な話だな。勇者レオナルドを輩出し、英雄とも知己の間柄の王だぞ、アンドレイは」

 あー、つまりは……。

「同盟を結ぶ人間族の国家として、最も現実的だったと?」

「まぁ、俺らがアンドレイの話をしたのもある」

 成程ねぇ。


「それならば、私に異はありません」

「んじゃ、謁見だな」

 再び兵士に声を掛け、早馬で謁見願いを知らせて貰う。僕達は馬車で皇帝の座す城へ向かった。


************************************************************


 皇帝城に着いて、僕達は控室に案内された。とりあえず謁見の前に、見た目は平凡な冒険者装備から着替える。

 僕達は例の服だ。アルファは王子らしい服装に、エミリオは騎士装備、シャルは魔導師のローブ姿だ。


「ほー、こう見ると一つのクランに見えなくもないな」

 僕達の服を見て、ローレンさんがウンウン頷いている。確かにそうかもね。

 尚、クランとは冒険者同士で結成したチームやグループだ。ゲームとかでは、こっちをギルドと呼称する事もあるね。


 やがて、控室に兵士がやって来る。

「お待たせ致しました、皇帝陛下が謁見なさいます」

「では、行くか」

 案内の騎士を先頭に、ローレンさんとエメリアさん、アルファ、エミリオとシャル、僕達の順に続く。


 ……


 謁見の間には、エルフ族の貴族達が壁沿いに並ぶ。

 玉座の周りには、歳若いエルフ……恐らくは皇子と皇女だろうな。その周りに女性が三人いる……彼女達は、皇帝の妃だった。一夫多妻なのね、この国。

 そして、やはり美男美女ばかりだ。


 そんな事を考えていると、衛兵が声を張り上げる。

「ヴォルフィード皇国が君主、メイトリクス・デア・ヴォルフィード皇帝陛下の御入場!!」

 その言葉に、全員が一斉に跪く。この辺の作法は今までと同じで、助かるわー。


 開かれた扉から現れたのは、美しい金色の長髪を靡かせた、白磁のように白い肌の男性だ。あの人が皇帝陛下か。

 背はスラリと高く、体付きは非常に細い。そして、イケメンである。


「面を上げよ」

 おっと、気づけば皇帝陛下は玉座に座ったところだった。

「よくぞ参られた、アルファルド殿下。特に先触れの無い訪問だったが歓迎しよう」

 嫌味言われたね。まぁ、仕方が無いだろうが……いや、ここは助け舟を出すか。


「発言をお許し頂けますか、皇帝陛下」

「ほぅ? もしや、そなたがローレン達の話していたユートか? 良かろう、発言を許可する」

「おい、ユート?」

 訝しげなアルファを無視して、僕は言葉を選びながら口を開く。


「この度の訪問、実は私が主導で計画したものです。私は今、冒険者として世界を巡る旅を送っている最中でして」

 僕が主導で計画したよ、旅の行程はね! 

「そして英雄様方にご挨拶に行くつもりだと話をしたところ、アルファルド殿下と王女殿下の婚約の話を伺いまして」

 アルファからの依頼とは言わない。


「ふむ、それで?」

「ヴォルフィード皇国に来てみたいっぽかったので、連れてきちゃいました。主にノリと勢いで」

 てへぺろ。

 僕の言葉に、その場に居る者全員が呆気にとられる。


 今の言い方なら嘘では無い……言葉を一部省略したけど!

 これなら、僕がアルファを無理矢理連れて来たように聞こえるだろう。それも、一国の王子をだ。

 王子拉致のインパクトで、王子来訪のインパクトを軽減できるだろう。できるといいなー。


「話には聞いていたが、随分と型破りなのだな……しかし、プクク……ハハハハハッ、ノリと勢いか! ハハハハハッ!」

 陛下、大爆笑。

「ハハハハハ……その破天荒さ、ローレン達から聞いた父君を思わせるよ。うむ、ノリと勢いなら仕方ないな! ハハハハハッ!」

「父に似たようでして。それと陛下、私の出自は……」

「うむ、解っておる。お主はただのユートという名の冒険者。それで良かろう?」

「ありがとうございます」

 どうやら、ローレンさん達から話が伝わっていたようだ。


「リアンナ」

 皇帝陛下が子供達の内、一人に声をかける。

「はい、お父様」

 前に出たのは、ウェーブがかった金色のロングヘアの少女だ。

 全体的に細身だな。穏やかな雰囲気を醸し出す、正に淑女といった感じだ。


「お初にお目に掛ります、アルファルド殿下。メイトリクス・デア・ヴォルフィードが娘、リアンナ・デア・ヴォルフィードと申します。どうぞ、よしなに」

「お初にお目に掛かる、リアンナ皇女殿下。アルファルド・フォルトゥナ・イングヴァルトだ。こちらこそ、末永くよろしく頼む」

 ……王族の婚約って、こんな感じなん? すごく堅いよ。


「皇帝陛下。折角ですし殿下達を誘って、お茶会でもしてみては如何でしょうか? 若者同士、交流を深めるいい機会ですわ」

「ふむ、確かに良いかもしれぬな。エルフ族と人間族の、友好の懸け橋。この交流が、その一つともなろう。リアンナ、どうか?」

「はい、とても素晴らしい提案だと思います。エメリア様、ご提案に感謝致しますわ」

 ほんと、ナイス提案かもしれんよエメリアさん。


 ……


 謁見の間を辞して、皇城の庭に通される。

 おぉ、見事な庭園だな。豊かな自然の草木と咲き誇る花、石造りの動物を模した彫像。

 これは、自然溢れるエルフ族の国ならではかもしれない。こういう雰囲気は大好きだ。


「それでは、殿下。こちらへ」

「あぁ」

 リアンナ皇女殿下が、アルファを案内する。婚約者同士の席だからね、僕達が邪魔をするわけにはいかない。

 後は若いお二人でってやつだな。


 代わりに、僕達には他の皇子皇女が付き添ってくれる。

「お初にお目に掛かる、私はマックール・デア・ヴォルフィード。このヴォルフィード皇国の第一皇子だ」

「同じく第二皇女、フローラ・デア・ヴォルフィードと申しますわ」

「第三皇女、エリザベート・デア・ヴォルフィードと申します」

 四人兄妹なんだな、ここは。


 マックール殿下の顔立ちは皇帝陛下によく似ている。フローラ殿下とエリザベート殿下も、リアンナ殿下に似た顔立ちだ。

 多分、並んだら成長過程みたいになるんじゃなかろうか?


 マックール殿下は、皇帝陛下譲りの金髪を後で括っている。

 フローラ殿下はショートボブ、エリザベート殿下はロングストレートのヘアスタイルだね。

 勿論全員、美男美女だ。


 おっと、挨拶を返さなくては。

「初めまして、殿下方。ユートと申します」

「同じくキリエと申します。お会い出来て光栄です」

「イングヴァルト王国アークヴァルド公爵家が長女、アリシア・クラウディア・アークヴァルドと申します」

「メルキセデク伯爵家嫡男、エミリオ・フォン・メルキセデクと申します」

「エルナード侯爵家が次女、シャルロット・エルナードと申します」


 正式な王族との対面なので、一応は奴隷の身分のアイリは控えている。だが、マックール殿下はそれに気付いたようだ。

「そちらの獣人の少女は?」

「私の……一応、扱いとしては奴隷でして、アイリといいます」

「一応……? あぁ、成程。獣人に対する差別の為の方便か」

 おや、察しが良いなマックール殿下。


「我が国は人種差別を禁じている国だ。体裁の為に名乗る奴隷身分なら不要、名乗りを許可する」

「お言葉に甘えまして、兎人族のアイリと申します。名乗らせて頂く栄誉、身に余る光栄でございます」

 アリスに仕込まれた名乗りも、カーテシーも様になっているな。

「うむ、この場では君も客人だ。身分差を忘れ、寛ぎたまえ」

 話が解るな、この皇子様。


「妹と未来の義弟は二人にしてやるのがいいだろう。そこのテラスで、ティータイムにしよう」

 皇子様の手振りで、侍女達が速やかにお茶会の準備に入る。


「この国は自然が豊かで、大地の息吹を感じるようですね」

 これはリップサービスではなく、本音だ。自然の存在感を肌で感じる。

「貴殿は大地の恵みを感じる心を持っているようだ、気が合いそうだな」

 穏やかに微笑み、皇子殿下が席を勧めてくれる。

 それに一礼すると、皇子殿下・第二皇女殿下・第三皇女殿下の順で座る。僕達はそれを待って、爵位順に座っていった。

 事前にアリスが教えてくれたマナーである。


 全員が着席したのを見計らったかのように、侍女達がお茶と茶菓子を運んで来る。

 全ての準備を終えた侍女達は、一礼すると下がっていった……あれ、給仕とかはしないんだ?

「不思議そうな顔しているな」

 皇子殿下が苦笑気味に指摘してくる。


「この西大陸では、客人を招いてのティータイムの場合、メイドではなくホスト役が茶を注ぐんだ」

 へぇ、なるほど。そういう文化なんだなぁ、勉強になる。

 そんな事を考えていると、皇子殿下がティーポットからお茶を注ぎ始めた。同時に、第二皇女・第三皇女もお茶を注いでいる。


 皇子殿下の淹れたお茶は、僕とエミリオに。

 第二皇女殿下のお茶は、アリスとシャルに。

 第三皇女殿下のお茶は、姉さんとアイリに差し出された。

「お茶を配るのにも、作法がおありで?」

「うん? そういうのが気になる性格かい?」

 他国の文化とか、知りたいタチです。それよりも、皇子殿下……口調がラフになって来ているんじゃ?


「世界を旅している理由の一つが、他国の文化や風習を学ぶ事でもありまして」

「あぁ、成程。そういう事なら説明しようか。異性同士のお茶会では無い限り、同性が淹れたお茶を差し出す・受け取るんだ」

 ほほぅ、成程。

「そして、立場が上の者から立場が上の相手にお茶を差し出す」

「成程、ご教授に感謝致します、マックール殿下」

 そう返したのだが、殿下は苦笑いをした。


「口煩いメイド達は下げたのだし、肩の力を抜いて話してくれて構わないよ? あまり堅苦しいのは苦手なんじゃないか? 私も苦手なんだ」

 フランクな皇子殿下だわ。まぁ、ガッチガチに堅いよりはいいんだけどね。


「では、お言葉に甘えて。殿下は結構フランクな方なんですね」

 エミリオとシャルが、やっちまったよコイツって顔をしているが、マックール殿下はいい笑顔だ。

「うんうん、良いな。言いたい事や聞きたい事を遠慮する事は無いぞ。君達も、気楽に接してくれ」


「ですが殿下、我々は……」

「エミリオ、マックール殿下の御厚意なんだ。いつも君は敬語だから、無理にフランクにする事はないけど……そうだな、僕やアルファに接するようにしてみたら?」

 エミリオに諭すように言うが、マックール殿下は耳聡いらしい。エルフ耳の性能か、個人の性能か。


「アルファとは、アルファルド殿下の事かい? 愛称で呼んでいるんだね」

「えぇ、アルファがそうするようにと」

「いいねぇ、愛称。私も愛称で呼んでくれないかい?」

 殿下、何か顔が徐々に近付いて来ているのですが。しかし、マックール……だもんな。

「あ、愛称……じゃあ、マック殿下?」

 何処のハンバーガーで有名なチェーン店なのか! でも、関西ならマ●ドらしいよ! どうも、生前は関東在住だったユートです。


「良いね良いね! 殿下は要らないよ、マックと呼び捨てでいい、アルファルド殿下にもそうしているんだろう? なら私もそうしてくれると嬉しいよ!」

 殿下前のめり。エミリオとシャルが引いてる。

 グイグイ来るぞ、この皇子!!

2018/5/2 キャラクターのレベル・ステータスを見直し、訂正。

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