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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第4章 ヴォルフィード皇国
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04-02 和解/皇国へ

これまでのあらすじ:エミリオとシャルを、アーカディア島に招待する事にしました。

 エミリオとシャルを迎える予定の前日。

 僕はレイラさんとクレアちゃんを除くメンバーを集めて、会議を開いていた。

 今日の議題は、明日の件とは無関係な話だ。そっちはもう準備出来ているからね。

 そう、今日の議題とは!!


「クレアちゃんの情操教育の為にも、より良い環境を確保すべきだと思うの」

「「「過保護……」」」

 そんな事は、無い。

「なので侵入者迎撃用に、ちょっと洒落にならないレベルの兵器を作りたいなぁと思っています」

「「「物騒な議題!?」」」


 いや、だってとても可愛いんだよ、クレアちゃん。

 二歳だから言葉は練習中なんだけど、必死に何かを伝えようと身振り手振りする様はヤバイね。ついつい可愛がってしまう。


 そんな僕の様子に、クラウス・レイラ夫妻も苦笑いしている。

「ユーちゃんは自分の子供ができたら、親バカになりそうですねぇ」

 バカ親にはなりたくないけど、確かに親バカにはなるかもね。


「まぁ、その可能性は否定出来ない。アクセル君もそうだけど、僕って子供に甘いのかも」

 可愛いは正義だから仕方ないね。

「「子供……」」

 何を赤くなっているのかね、そこの二人。


「それで、ご主人様。迎撃兵器と言ってましたけど、何を作るんだ?」

「地雷型遺失魔道具アーティファクトの進化型」

 常時発動型で、魔力を集めて蓄積し踏んだ敵を爆殺する。味方が踏んだ場合は爆裂魔法が発動しない、良心設計。

「つまり敵味方判別機能搭載、地雷パイセン・マークツー」


 僕の説明を聞いていた全員が、顔を引き攣らせた。

「これ、止めなきゃいけないやつ〜!」

「エミル、ご主人様に考え直すように言うんだ。ご主人様、エミルにも甘いから」

「お兄ちゃんの目が、死んだ魚の目にっ!?」

 アーカディアは通常運転です。結局、地雷パイセン・マークツーは止められました。


************************************************************


 翌日、アルファに率いられて、エミリオとシャルがアーカディア島の転移門を潜って来た。

「エミリオ、シャル。ようこそアーカディア島へ」

「こ、この度はお招きに預かり……」

「うわー、ここがユート君の島なんだ? すっごい広いねー!」

 貴族らしく、招待に対する礼を言おうとするエミリオを遮り、シャルが興奮した様子で周囲を見渡す。


「シャル! お前も貴族なら、それなりの対応をだな……」

「大丈夫だよ、エミリオ。僕は平民なんだし、そんなに堅くならないで気軽に接してくれると嬉しいな」

 アリス以外、アーカディア島のメンバーは平民なのだ。むしろ、貴族が冒険者のパーティに居る方が不思議なんじゃないかな。


「むぅ……そう仰られるのであれば……」

 まだ、視線が冷たいの。

「今回二人を招いたのは、ヴォルフィード皇国まで一緒に旅をする中で、アーカディア島にちょくちょく転移する事を考えての招待なんだ」

 さぁ、説明フェイズだ。


 アーカディア島はその存在が公になっていない、僕が所有者の天空島である事。

 ここに僕達の拠点がある事。

 アルファとブリックを、友人としてここに招いた事がある事。

 ヴォルフィード皇国への道中、野営するよりもこの島で寝泊りする方が、アルファの身の安全を確保できる事。

 その前準備として、二人を島に招待した事を説明する。


「成程、確かに殿下の御身を考えれば、この島に宿泊するのが良いですね」

 とりあえず、納得してくれたらしいエミリオ。

「ユート君って何者? 空飛ぶ島の主とか、ちょっと半端じゃないよね!」

 僕に対して、興味を抱いたらしいシャルがそんな事を言う。

 あれ、二人は僕の事をどこまで知っているんだろう?


 アルファに視線を向けると、その意味に気付いたらしく、二人に向き直る。

「ユートがここまで秘密を明かしている以上、もう少し情報を開示するべきだな」

 聞けば、勇者レオナルドと聖女アリアの子供であり、アルファ達とはイトコの間柄である事は知っているが、それ以上は知らされていなかったそうだ。


「アルファが二人を信頼しているのは解っているし、お任せするよ?」

「ふむ、その言葉に甘えさせて貰うか。二人とも、この島の事もそうだが、これから話す事は他言無用だ」

 そう前置きして、アルファが僕の事を話し出した。


 遺失魔道具アーティファクトを製作する事の出来る戦闘付与魔導師である事。

 そして、ミリアン獣王国を襲った悪魔族の脅威から、王都レオングルを防衛した救国の英雄となった事。

 天空島の支配者だった黒竜と戦い、実力を認められ島の所有権を譲り受けた事。


 アルファの説明に、二人の表情がどんどん引き攣っていった。

 最後に、以前ここにアルファ達を招いた際、秘密を共有できる間柄でない者を連れてくるわけにはいかなかった事も話された。

「そ、そういった事情があったのですか……ユート殿、これまでのご無礼、どうかお許し願いたい」

 非常に申し訳無さそうな顔で、跪いてエミリオが頭を下げる。待って、僕確かにアルファのイトコだけど、平民だから!


「エミリオはずっと礼儀正しかったじゃないか、謝る事なんて無いよ。それより見て欲しい物があるんだ」

 そんな畏まられる立場じゃないし、場の空気も気まずくなる。それは嫌なので、気にしてない事をアピールしつつも話題を逸らそう。


 そこで取り出したのは、お馴染み魔力駆動二輪だ。

「これは……」

「僕が作った遺失魔道具アーティファクトで、魔力を通して動く自走式の乗り物だよ。折角だから、少しこいつでアーカディア島を走ってみよう」

 僕達も、自分の宝物庫ストレージから魔力駆動二輪を出す。さぁ、皆で一緒にツーリングだ。


 ……


『こんなのひどいよ、あんまりだよ』

『……悪かったって』

 ヘルメットの通信機ごしに、拗ねるシャルに謝罪する。

 シャルは現在、エミリオの後ろに乗っている……小柄なシャルは、魔力駆動二輪に乗ると地面に足が付かなかったのだ。

 女性用は男性用に比べ、車高を調整してあるのだが……それでも、シャルは小柄だからなぁ。


『シャル、ユート殿も悪気があったわけではないのだ。そろそろ機嫌を直したらどうだ』

『いや、ホントごめん。今度シャル専用機を作るから、許して』

『ほんと? うーん……なら、許してあげるよ』

 エミリオが宥め、僕が平謝りして何とかシャルは機嫌を直してくれた。


『折角だし、それぞれの機体を弄るか。全部僕のヤツを元にしてるから、似たり寄ったりになっているし。デザインを変えて専用機っぽくしてみよう』

 後で、皆の要望を聞いてみよう。


 ……


 そのままアーカディア島を走って、昼前に屋敷に到着。

 屋敷の庭ではレイラさんとメアリー、エミルが食材を準備し、クラウスとジルが食器やテーブルを準備してくれていた。

 クレアちゃんは、玩具で遊んでいるようだ。


「お帰りなさいませ、ご主人様。お食事のご用意は出来ております」

「ありがとうございます、レイラさん。それじゃあ、やりますかー!」

 テーブルの中央部分には網が設置されている。そう、今日は焼肉屋風のセットを使った、エミリオとシャルの歓迎焼肉パーティーだ。


 折角なので、遺失魔道具アーティファクトではなく、実際の炭火で焼くぜ。

「それじゃあやり方を説明するね。こうして熱くなった炭火の上にある鉄網に、お肉を乗せます」

 広い鉄網なので、小さめのお肉を人数分、一気にやってしまおう。


「焼きます」

 引っくり返して、おぉ良い焼き目が付いた。そして反対側もしっかり焼けたら、上手に焼けましたー。


 皆のお皿に焼いた肉を乗せる。

「では、タレを付けて食べます」

 うん、これぞ焼肉。とてもうまい。

 ちなみに僕が使っているのは箸だが、皆にはフォークを用意したよ。


 皆もそれぞれに肉を食べた所、美味しかったようだ。

「ただ焼いただけの肉とは思えんな」

「焼肉っていう、皆で囲んで肉を焼いて、タレに付けて食べる文化なんだ。タレは色々な種類があるから、試してみてよ」

 牛や豚の肉以外にも、野菜やキノコ類も用意している。

「このタレが肉に合って、美味いですね」

「ほんと! 思わず食べ過ぎちゃいそうだよ!」

 たーんとお食べ。


 ……


 屋外焼肉パーティーを終えて、僕達は満腹状態のまま屋敷で寛ぐ。いかんな、寝てしまいそうだ。

「それにしても立派なお屋敷だね!」

「確か、ミリアン獣王国で購入なさったとか?」

「そうだよ。ベアトリクスさんが紹介してくれた店で建てて貰ったんだ」

 ベアトリクスさんの名前が出て、二人は表情を引き攣らせた。


「ユ、ユート殿は、英雄様達とも面識があるのですね」

「うん。でだ、ヴォルフィード皇国にはローレンさんとエメリアさんが居る」

 今回、その二人にも会いに行くつもりだ。

「ローレン……まさか、ダークエルフ族最高の冒険者、剣鬼ローレン様!?」

「エメリア様って言えば、全属性の大魔導師エメリア様だよね!?」


 そういや、物語でもそんな称号で書かれていたな。僕からしたら、脳筋叔父さんと薀蓄叔母さんなんだけどな。

 ローレンさんは、僕を鍛えると言って、よくしごかれた。

 エメリアさんは魔法の話をするのが好きで、よく魔法の講義を長時間に渡り聞かされた。

 まぁ、お陰で少しは体力を付けられたし、魔法の知識も得られたから感謝しているけどね。


「まぁ、会ってみれば解るさ」

「剣鬼様にお会い出来る……け、稽古を付けて貰ったり出来るでしょうか!?」

「大魔導師様と魔法のお話ができるかなぁ!」

 この二人を生贄にすれば、久し振りの脳筋鍛錬と薀蓄講義から逃れられるんじゃね? 

 おっと、友達を売るなんてダメだ。でも、紹介するくらいはいいよね。


「ユート様、悪い顔をしていますね」

「あれは悪い事を考えてる~」

 僕って顔に出やすいのかね。


「それでヴォルフィード皇国へは、アーカディア島の転移門から向かうよ」

 そこからは普通に旅する感じだね。野営が必要なタイミングで、屋敷に戻って寝泊りだ。

 わざわざ危険のある野営をする必要は無い。


「あぁ、ユート。言い忘れていたのだが、身分を隠す必要があるので、私達も冒険者登録をしたのだ、内密でな」

 三人が、胸元から銀色のライセンスを取り出す。

「つまり、我々は銀級冒険者のパーティとして行動する事になるんです」

 冒険者としての身分を取得したのか。成程、アリスみたいに名前や身分を明かさずに行くつもりだな。


「それでだな、出来るだけ目立たないように行きたいと思う。お前達の装備を、以前の物に戻して貰えないか?」

 あー、仕立てて貰った服は目立つもんなぁ。他の三人も、笑顔で頷いてくれているし、以前の服装で向かうとしよう。

「解った、そうするよ」

「済まないな、折角仕立てた服なのに」

「気にしなくていいって」

 事情が事情だ、仕方ないさ。


************************************************************


 残る一日を準備に充てて、いよいよ出発の日。

 アンドレイ叔父さんに挨拶を済ませ、僕達はアルファの部屋から屋敷へ転移する。

「それじゃあ行って来るけど、何かあったら連絡してね」

 屋敷の事はクラウス達に任せ、ヴォルフィード皇国側の転移門へ向かう。

『いやっふー! 楽しい~!』

 シャル専用の魔力駆動二輪、完成して良かったよ。お陰でシャルもご機嫌みたいだ。


『しかし、このバイク? も、頂いた遺失魔道具アーティファクトも夢のような性能ですね!』

 そうそう、エミリオとシャルにも、いつもの三点セットを提供しているよ。守護の首飾りタリズマンとか、護衛には必須だよね。


 お陰でエミリオも最初の頃の冷たい視線はもう無くなって、同年代の友人っぽくなってきたかな? 

 今夜は風呂に入った後にでも、皆で軽く一杯やるか。

 そうだ、この旅の間は女性陣と混浴しなくて済むんじゃね、コレ!?

 その時、姉さんからハッ! という感じの視線が向けられた。どうしてこういう時ばっかり心を読めるんだろうね、姉さんは。


 一時間もしない内に、ヴォルフィード皇国の遺跡に通じる転移門に到着。

「それじゃあ新たな大陸への冒険だ。みんな、準備はいいか?」

「勿論です、ユーちゃん」

「はい、問題ありません!」

「私も大丈夫です」

「うむ、行けるぞ」

「問題ありませんよ、ユート殿」

「早く行こー!」

 いい返事が返って来て、いよいよ冒険ムードになってきた。


 魔力を流し、転移門を起動させる。

「さぁ、行こう!」

 僕を先頭に、転移門を潜る。


 ……


 転移門の先は、草木の生い茂る遺跡だ。

「ユート、ここはヴォルフィード皇国のどの辺なんだ?」

「最東端にある遺跡で、地中深い位置なんだ」

 出入口になっているのは、樹の洞だね。認識阻害の空間魔法が掛かっているから、普通じゃ見付けられない。


「……よく見付けたな、お前」

 ”真実の目プロビデンス”無しでは見付けられなかっただろうね。

遺失魔道具アーティファクト様々だな。さぁ、行こう」

 僕の後に続いて、皆が追従する。基本的に一本道だから、迷う事は無い。


 僕達のパーティに加え、アルファ・エミリオ・シャルの装備にも刻印付与を施した。その甲斐あって、それなりに急な坂道を登っても疲労はそこまで感じずに済んでいる。

 そのまま順調に進み続け、ようやく地上に出た。


 ……


「ユート、ここは……」

「ヴォルフィード皇国の東にある森の中だよ。ここから西に真っ直ぐ行くと、ヴォルフィード皇国の皇都がある」

「では、ここからは馬車ですか」

 馬車で走っても良いのだが、整備されていない森の中だ。

 そんな所を走らせたら、付与で強化してもスタリオンの負担になるだろう。疲れたり、怪我をしてしまうと思うのだ。


 そのことを説明し、ニヤリと笑う。

「幸い人が居ないからね。ここは、遺失魔道具アーティファクトを活用するのが良いんじゃないかな」

 魔力駆動二輪を人数分用意したのは、これも理由の一つなのだ。

「……人が居たら、すぐに降りるようにすればいい、か。こういう時、お前の目があると楽だな」

 真実の目プロビデンスには、範囲捜索エリアサーチの付与があるからね。人が近くに居れば、すぐに解る。


「んー、広範囲で確認したけど、皇都付近まで人は居ないな。これなら今日の夜には皇都に着きそうだ」

「では、行きますか?」

 すぐに向かっても良いのだが……旅としては味気無いよなぁ。


「夜に着くとなると、どちらにせよ皇都で一泊になるんだよね。それなら、少し速度を落として行っても良いんじゃないかと思う」

 折角、屋敷の方もレイラさん達が準備してくれているしね。

「確かに、レイラさんやエミルちゃんが張り切っていましたね」

「ふむ、確かにその厚意を無碍にするのは好ましくないな」

 僕の言葉に、アリスとアルファも首肯する。


「それじゃ、観光しながら行くって事?」

「折角の旅だしね。途中で立ち寄れそうな場所があれば良いんだけど、完全に森だなこれは。何か無いかなー」

「ゆっくり向かいながら、探してみればいいのではないでしょうか?」

 エミリオの言う通りだな。ここでマップだけ見ていても、あんまり意味は無いかもしれない。

「そうだね、とりあえず動いてみるか」


************************************************************


 のんびりと魔力駆動二輪で流しながら、皇都の方へと向かう。

 流れる景色は森、森、森。珍しい草木やキノコがちらほら見えるが、足を止めるほどの物ではなさそうだ。

『何というか、森一色だな』

『無理もありません、エルフ族は森と共に生きる種族ですから』

 姉さんがそう言ったので、エルフ族の事を思い返してみる。


 エルフ族は妖精族の一種族であり、自然と豊かさを好む種族だ。そんな彼等は森や泉に住み、自然と共に生きると言われている。

 森と共に生きるというのは、自然を愛し自然を守る事に由来する。その為、森の樹を伐採したり、傷付けたりするのは禁じられているそうだ。


『木造の家とかは無さそうだなぁ』

『レンガ等で作っているのかもしれませんね』


『エルフは、美男美女が多いと言われているんですよね?』

『あぁ、そうらしい』

『確かにエメリアさんも美人だったわな』

 長命種であるエルフ族には、美しく若々しい時間が長いそうだ。あと、やっぱりあるよエルフ耳。


『長命な種族柄、エルフ族は気長で穏やかな性格の者が多いそうですな』

 しかし彼等の気分を損ねると、手に負えなくなると言われているのだ。何故なら、永い年月を生きるエルフ族は総じて知識に富み、魔法を得意とする。


 加えてもう一つ。

『森の中でエルフと事を構えるのは、自殺行為と言われるくらいだな』

『エルフ族の固有魔法だったっけ? 森林魔法だよね、確か』

 そう、エルフ達が最も得意としているのが、森林魔法というエルフ固有の魔法だ。森の精霊と密接な関係にあるエルフ族は、森に働きかける魔法を使えるのだ。


『農業には向いていそうだな。しかし、実際ただのツーリングだなこりゃ』

『トラブルに巻き込まれるよりは良いと思います、ユート様』

 それもそうね。いっつもトラブルに巻き込まれているからね、僕達。


 ……


「さて、それじゃあ今日はここまでかな?」

「日も暮れてきた、確かにその方が良さそうだな」

 魔力駆動二輪を停め、宝物庫ストレージに収納する。エミリオは感心したように、シャルはめっちゃ大喜びな様子だった。


 僕は、近場にある大きな岩に向けて掌を当てる。これで、岩に“僕の魔力”を記憶させた。

「ユート君、それは何をしているの?」

「屋敷からここに転移する為に、僕の魔力を記憶させているんだ」

「ふぅん? よく解らないけど、それもユート君の魔法に役立つんだね」

 シャルに詳しい説明はしないでおく。公に出来る事じゃないからね。


 よくよく考えてみれば母さんの魔法ゲートと、僕が使っていた門弾ゲートバレットは似て非なるものだった。

 というのも、母さんのゲートは転移先にゲートを開く人が居たわけじゃないのに、空間を接続していた。


 それを長い間疑問に思っていたのだが、黒竜から譲渡された竜眼でその理由が解った。

 あのイングヴァルトの西海岸に、母さんの魔力が篭められた魔石を埋めていたのだ。それを目印に、ゲートを開いていたらしい。


 そこで、僕は転移したい場所にある物に自分の魔力を流し込む事で、門弾ゲートバレットによる転移の目印にする事を思い付いた。


 また、皆が身に付けている遺失魔道具アーティファクトには、僕の魔力で刻印を付与している。僕の魔力が込められた刻印を起点に、いつでもゲートを開けるのだ。


 ただまぁ、それを知られるのはあまりよろしくない。だってほら、王族に渡しちゃっているし……僕の作った遺失魔道具アーティファクトを。

 変な輩から、「暗殺を企てているんじゃないのか!」なんて言われたら、面倒くさいじゃろ? 


************************************************************


 屋敷に戻り、レイラさん達が作ってくれた料理に舌鼓を打つ。

 尚、うちの食事は使用人扱いの皆も、一緒に食べるのが通例である。最初は難色を示されたんだけどね。

「僕が、賑やかな食事が好きなんだ。残念な雇い主に捕まったと諦めて貰って、一緒に食べよう」

 こう言って、無理矢理納得させた。


 そんな話をアルファ達にしたのだが、別段気にする様子は無かった。

 王侯貴族の使用人なんかは、やはり主の食事が終わった後に、別室でグレードを下げた物を食べるそうだ。

 でもそんなの関係ねぇ。他所は他所、ウチはウチなのだ。


 ……


 折角なので、皆で露天風呂に入る。無論、男女別れてだ。

 約三名からの無言の圧力を感じたが、仕方ないよね! 

「屋外に面した風呂とは、また珍しいな」

「本当は、景色なんかを楽しむものなんだけどね。ここだと、遠目に山くらいしか見えないからなぁ」

 男風呂で、僕はアルファ・エミリオ・クラウス・ジルと湯に浸かっている。

 もちろん、身体を洗った後だ。


「使用人の身分で、ご主人様達のご入浴にご一緒していいんでしょうか……」

「良いんだよ、そもそも使用人って事にしてるけど、僕にとっては仲間なんだから。細かい事気にしてると、ハゲるぞ?」

「それは嫌ですね!」

 だろう? だからジルよ、もっと肩の力を抜きたまえよ。


「ユート殿は不思議な人ですな。勇者様と聖女様のご子息であり、自身も獣王国では英雄と呼ばれているのに、身分や立場を気にしない……そんな御仁、初めて見ました」

「慣れろエミリオ、こいつはこういうヤツなんだ。だからこそ、私もこうしてのんびり羽を伸ばせるのだしな」


 まぁアルファは、普通は七人程の規模で旅を楽しむなんて、出来ない立場の人間だからな。

「明日はヴォルフィード皇国の皇都入りだ、今の内に寛いでおこうよ」

 そんな僕の言葉に、二人も首肯してくれた。

 ところでだ……。


 ……


「やっぱりアリシア様の胸は大きいですね!」

「シャルロットさん、そんな事を大きな声で言わないで下さい!」

「確かに、アリス様の胸は豊かでいらっしゃいます……羨ましいです」

「アイリさん、大丈夫ですよ。好きな人に揉んで貰うと大きくなるそうです」

「「「そうなんですか!?」」」


「ふふふ、若いっていいですねぇ」

「ママも若いよー!」

「確かに、レイラさんは若くて綺麗~!」

「大人の魅力ですぅ!」


「キリエさんもスタイルいいし、アイリちゃんは可愛いし……くぅっ、同年代なのに! 同年代なのに!」

「でも、シャルさんはお肌が綺麗じゃないですか~。すべすべです~」

「きゃっ、メアリーちゃん! いきなりそんな所を触っちゃ……」


 ……


 ……聞こえてくる女性陣の会話が、ちょっとね。

「上がらないのか?」

「……まだ、浸かっていようかと思います」

「……上がれないのか?」

「……」

 ……

「なぁ、良い湯だな」

「あぁ、良い湯だな」

「えぇ、良い湯です」

 のぼせる前に、上がれたらいいな。

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