03-09 幕間/銀級冒険者グレンの独白
今回はオマケ的な話の為、短めです。
私の名前はグレン。銀級の冒険者だ。
優れた剣技と魔法の才能に溢れ、単身で銀級まで上り詰めた。それに加えて、整った容姿で女性の心を魅了してしまうのが困りものだ。
しかし、求められれば応えるのが男の甲斐性。何人でも受け入れてしまうこの度量、一国の王にも引けは取るまい。
いずれ勇者レオナルド様のように、世界に私の名を轟かせるだろう。そう、私の歩む道こそが世界の歴史となるのだ。
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人間族の大陸を旅した私は、二人の恋人達と共に南の大陸へと渡った。
私は女性を尊敬し、愛でる事にかけて定評のある男だ。何人が相手でもかまわない。全員を等しく愛するのも、私の勤めなのさ。
魔導師のミレア、狩人のシャロンは、私の旅に潤いを与えてくれる。今宵も彼女達に、愛を囁くつもりだ。
そんな中、既に日も落ちてそろそろ野営かという頃合いだ。
野営は良くないね。ベッドは無いし、身を濯ぐ水も貴重だ。
何より、誰か一人は夜番を担当する必要がある。
大体、女性陣が順番に夜番をし、最後に私が見張りに立つのが恒例だ。そうしなければ、等しく愛してあげられないだろう?
今夜も野営に丁度いい場所を探していると、夜番の焚き火であろう灯りが見える。
「グレン様、誰かが野営をしているようですね」
「そのようだね、シャロン」
報告してくれるシャロンに、感謝を込めて頬を撫でる。
「夜番を共同で出来るかもしれないな。そうすれば君達の負担が減らせるだろうし、挨拶をしてみようか」
夜番の時間を減らす事で、私達の夜の時間を増やせるかもしれない。相手が真っ当な連中ならばの話だけどね。
そこで出会ったのは、銅級冒険者のパーティ。
リーダーらしい黒髪の少年は、成人したてであろうか、その歳で銅級冒険者とは中々の物かもしれないな。ふぅん、連れている獣人の四人は彼の奴隷かな。
そして、二人の女性……私は、その二人の女性を一目見た瞬間に、雷に打たれたような衝撃を感じた。
均整のとれたプロポーションに、濃紺の髪を側頭部で二つに結った女性。
まるでこの世のものでは無いのではないかと思わせる程に、彼女は美しい。まさに、天使だ。
もう一人の女性も非常に美しい。豊かな胸に、キュッとくびれた腰付きが目を引く。
蒼銀の髪は旅をしている最中と思えない程にサラサラで、この手で梳いてあげたいと思わせる。そして、どことなく漂う気品は、深窓の令嬢という言葉を感じさせた。
彼女達に、嘘偽りの無い賞賛を贈り、その御名を伺う。
「は、はぁ……キリエと申しますが」
「ア、アリスです……」
おやおや、動揺させてしまったかな?
彼女達は褒められ慣れていないのだろうか、いや、そんなはずはないだろう。
ふふん、この少年では気の利いた言い回しなどは出来そうにない、だからだろうな。
彼では彼女達を満足させる事など出来まい。ならば、彼女達の幸せのためにも私がその美しい手を取ろうではないか。
「キリエさん、アリスさん。良かったら私達と旅をしませんか?銀級冒険者であるこの私ならば、貴女達を守る事も容易いでしょう、そう……死が私達を分かつまで、ね」
私は彼女達を幸せにする義務がある、そう確信している。
いつかは金級そして聖銀、聖金冒険者となるであろう私なら、彼女達を幸せにする事ができるだろう。
しかし、返ってきたのは予想外の返事だった。
「「あ、結構です」」
おかしいな、私の言葉を否定する材料など……あぁ、そうか。彼女達は、獣人の奴隷少女達を気遣っているのだな。
その心配を払拭してあげるには、やはり彼女達も連れて行ってあげるのが一番だろう。
「ご安心下さい、そちらの仔ウサギちゃんに仔犬ちゃんも、私が幸せにしてみせます。大丈夫、私は全員を平等に愛せる甲斐性を持つ男です」
「ただの女好きじゃねーか」
少年が何かを言った気がするが、気に留めるほどの事ではない。よく言われるが、女性を愛する事に何の罪があるというのか。いや、無いね。
しかし、そんな私の言葉にも彼女達は首を縦には振らなかった。
「お断りします、ユーちゃんと離れる気はありません」
「私もユート君に着いていくために旅に出たので」
「私のご主人様は、ユート様です」
「私もご主人様と一緒がいい〜!」
そう言いながら、少年の腕に抱き着くキリエさんとアリスさん。仔ウサギちゃんはそっと少年のチュニックの裾を握り、仔犬ちゃんは足にしがみついた。
なんて事だ、私の誘いを断るだなんて普通じゃない。
そうか、彼に弱みを握られているんだな。うん、そうに違いない。
少年は最初とは打って変わって、私の言葉に対して喧嘩腰で応じた。ふん、化けの皮が剥がれはじめたな。
しかし、アリスさんとキリエさんが少年の前に立つ。あぁ、凛々しい顔も美しいな。
「失礼なのはそちらでしょう」
「貴方がどれだけ強くても、ユーちゃんの足元にも及びません」
面白い、この銀級冒険者であり、一流の魔法剣士である私より強いとはね。
ここまで彼女達に言わしめるならば、さぞや上級職なのだろう。そう思ってジョブを聞いてやったのだが……。
「付与魔導師だけど?」
これは面白い冗談だ。
銅級冒険者風情の、それもハズレジョブが私より強いとはね! しかし、吐いた唾は飲めないのが冒険者。そこまで言うならば、冒険者らしく実力で答えを出すべきだろう。
「君も冒険者の端くれなら、僕から彼女達を奪ってみせたまえ!それとも怖いかね、付与魔導師君!」
実力差を恐れて引き下がるならば、痛い目を見ずに済む。彼女達は優しい女性達のようだからね、いくらロクデナシとは言え、ここまで旅を共にしてきた人間が痛め付けられるのは、心苦しいだろう。
しかしそんな私の配慮に対し、小生意気にも少年は挑発してきた。
「相手になってやるから、かかって来いよ」
なんて、身の程を知らない言葉か。
流石に馬鹿にされて、温厚でいられる私ではない。
更に少年は、私に見せつけるようにキリエさんとアリスさんに、頬に口付けするよう言ったらしい。
その口付けは私のような男にこそ相応しいというのにだ! これは彼からの宣戦布告だろう!
いいとも、その挑戦を受けて立ってやろうではないか!
……
有り得ない。
有り得ない有り得ない!!
まさか、この私が銅級の付与魔導師に敗れるだと!? 私の剣撃を全て受け止め、魔法を斬り、更には剣を弾くだなんて有り得ない!!
喉元に突き付けられた奇形の剣の刃が、妖しく月明かりを反射している。
剣を引いた少年だが、何かインチキがあったに違いない!
その背中は無防備だ……いや、例え相手が卑怯者であろうと、銀級冒険者にして未来の世界の覇者となる私に、卑怯な真似は許されない。
「くっ、何かの間違いだ! もう一度私と勝負しろ! 今度は手加減はしない!」
「やってもいいけど……今度はこっちも手加減出来ないぞ?」
——パパパァンッ!!
狼の魔物……ここまで接近しているのに、気付けないとは。
いや、それよりあの武器は何だ? そうか、彼の力は武器に頼ったものなのだ! それならば、先程の戦いに説明がつく!
彼の武器を打ち破れる装備を手に入れ、その時こそ正々堂々と叩き潰すしか、彼女達を解放する事はできないだろう。
やむを得ない、ここは一度退くしか無いな……。
待っていてくれ、美しき人達よ。必ず彼の魔の手から、解放してみせよう。
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王都レオングルに辿り着いて、数時間。私は恋人達と共に、衛兵に拘束されてしまった。
何でも獣人族が人間族に殺害されたと言う。
私達は鑑定板で身の潔白を証明できたのだが、人間族が今街をうろつけば、獣人族に囲まれて殺されかねないと衛兵が言う。結局、私達は保護という名目の軟禁を余儀なくされてしまった。
しかし、獣人殺し……まさか、あの少年じゃないだろうな。
……
それから数日して、私達は軟禁から解放された。事件はどうやら終結したようだ。
という事は、犯人は捕らえられたか処分されたのだろう。
ようやく王都の街を散策すると、噂話が耳に入ってくる。この獣王国の王と王子、更には勇者レオナルドの仲間であった拳聖様が、王都を襲う魔物と戦い勝利したのだと言う。
更にはその場に、人間族の冒険者も加勢したのだとか。それ程の戦果を挙げる冒険者ならば、おそらく聖銀、いや聖金冒険者かもしれないな。
私はその正体に心当たりがある。勇者レオナルド様が御身分を隠して、友の為に駆け付けたのでは無いかと推理している。
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例の冒険者の名前は、ユートと言うらしい。聞き覚えがある気がするが、何処でだっただろうか? そんな上級冒険者がいたか、ちょっと記憶に無いな。
そんな事を考えていたら、あの少年に出会した。となれば、獣人殺しは彼では無かったようだな。
彼の事はどうでもいいが、キリエさんやアリスさんにまで累が及ぶのはよろしくない。その点に関しては、良かったというべきだろう。
しかし随分と身形が良くなったな。冒険者として、実績を挙げているという事か……例の武器の力を頼って。
しかし、あの仔犬ちゃんは奴隷から解放したようだな。仔ウサギちゃんは解放しないのかと問い質すが、彼女自身が反論してくる。
かわいそうに、そうするように強制されているんだね。
安心したまえ、仔ウサギちゃん。君もキリエさんやアリスさんと同様に、彼から解放してあげるからね。
今はまだ、あの得体の知れない武器に対抗する手段が見つからない。彼が私と同じ銀級に上り詰めるまでに、私も対抗策を練らなければならないな。
そうだ、ドワーフの国へ行くことにしよう。あそこならば、魔導具の武器が多いと聞くからね。彼に対抗する、いい武器が手に入るだろう。
「君も早く銀級になりたまえよ、そうでなければ張り合いがない」
そう再戦を仄めかす言葉を残し、私はその場を立ち去る。なんてクールなんだ、私は。
この背中を目に焼き付けて、解放の日を心待ちにしていてくれ。三人の未来の恋人達よ。




