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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第3章 天空の島

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03-09 幕間/銀級冒険者グレンの独白

今回はオマケ的な話の為、短めです。

 私の名前はグレン。銀級の冒険者だ。

 優れた剣技と魔法の才能に溢れ、単身で銀級まで上り詰めた。それに加えて、整った容姿で女性の心を魅了してしまうのが困りものだ。

 しかし、求められれば応えるのが男の甲斐性。何人でも受け入れてしまうこの度量、一国の王にも引けは取るまい。

 いずれ勇者レオナルド様のように、世界に私の名を轟かせるだろう。そう、私の歩む道こそが世界の歴史となるのだ。


************************************************************


 人間族の大陸を旅した私は、二人の恋人達と共に南の大陸へと渡った。

 私は女性を尊敬し、愛でる事にかけて定評のある男だ。何人が相手でもかまわない。全員を等しく愛するのも、私の勤めなのさ。

 魔導師のミレア、狩人のシャロンは、私の旅に潤いを与えてくれる。今宵も彼女達に、愛を囁くつもりだ。


 そんな中、既に日も落ちてそろそろ野営かという頃合いだ。

 野営は良くないね。ベッドは無いし、身を濯ぐ水も貴重だ。

 何より、誰か一人は夜番を担当する必要がある。

 大体、女性陣が順番に夜番をし、最後に私が見張りに立つのが恒例だ。そうしなければ、等しく愛してあげられないだろう?


 今夜も野営に丁度いい場所を探していると、夜番の焚き火であろう灯りが見える。

「グレン様、誰かが野営をしているようですね」

「そのようだね、シャロン」

 報告してくれるシャロンに、感謝を込めて頬を撫でる。

「夜番を共同で出来るかもしれないな。そうすれば君達の負担が減らせるだろうし、挨拶をしてみようか」

 夜番の時間を減らす事で、私達の夜の時間を増やせるかもしれない。相手が真っ当な連中ならばの話だけどね。


 そこで出会ったのは、銅級冒険者のパーティ。

 リーダーらしい黒髪の少年は、成人したてであろうか、その歳で銅級冒険者とは中々の物かもしれないな。ふぅん、連れている獣人の四人は彼の奴隷かな。

 そして、二人の女性……私は、その二人の女性を一目見た瞬間に、雷に打たれたような衝撃を感じた。


 均整のとれたプロポーションに、濃紺の髪を側頭部で二つに結った女性。

 まるでこの世のものでは無いのではないかと思わせる程に、彼女は美しい。まさに、天使だ。

 もう一人の女性も非常に美しい。豊かな胸に、キュッとくびれた腰付きが目を引く。

 蒼銀の髪は旅をしている最中と思えない程にサラサラで、この手で梳いてあげたいと思わせる。そして、どことなく漂う気品は、深窓の令嬢という言葉を感じさせた。


 彼女達に、嘘偽りの無い賞賛を贈り、その御名を伺う。

「は、はぁ……キリエと申しますが」

「ア、アリスです……」

 おやおや、動揺させてしまったかな?


 彼女達は褒められ慣れていないのだろうか、いや、そんなはずはないだろう。

 ふふん、この少年では気の利いた言い回しなどは出来そうにない、だからだろうな。

 彼では彼女達を満足させる事など出来まい。ならば、彼女達の幸せのためにも私がその美しい手を取ろうではないか。


「キリエさん、アリスさん。良かったら私達と旅をしませんか?銀級冒険者であるこの私ならば、貴女達を守る事も容易いでしょう、そう……死が私達を分かつまで、ね」

 私は彼女達を幸せにする義務がある、そう確信している。

 いつかは金級そして聖銀、聖金冒険者となるであろう私なら、彼女達を幸せにする事ができるだろう。


 しかし、返ってきたのは予想外の返事だった。

「「あ、結構です」」

 おかしいな、私の言葉を否定する材料など……あぁ、そうか。彼女達は、獣人の奴隷少女達を気遣っているのだな。

 その心配を払拭してあげるには、やはり彼女達も連れて行ってあげるのが一番だろう。

「ご安心下さい、そちらの仔ウサギちゃんに仔犬ちゃんも、私が幸せにしてみせます。大丈夫、私は全員を平等に愛せる甲斐性を持つ男です」

「ただの女好きじゃねーか」

 少年が何かを言った気がするが、気に留めるほどの事ではない。よく言われるが、女性を愛する事に何の罪があるというのか。いや、無いね。


 しかし、そんな私の言葉にも彼女達は首を縦には振らなかった。

「お断りします、ユーちゃんと離れる気はありません」

「私もユート君に着いていくために旅に出たので」

「私のご主人様は、ユート様です」

「私もご主人様と一緒がいい〜!」


 そう言いながら、少年の腕に抱き着くキリエさんとアリスさん。仔ウサギちゃんはそっと少年のチュニックの裾を握り、仔犬ちゃんは足にしがみついた。

 なんて事だ、私の誘いを断るだなんて普通じゃない。

 そうか、彼に弱みを握られているんだな。うん、そうに違いない。

 少年は最初とは打って変わって、私の言葉に対して喧嘩腰で応じた。ふん、化けの皮が剥がれはじめたな。


 しかし、アリスさんとキリエさんが少年の前に立つ。あぁ、凛々しい顔も美しいな。

「失礼なのはそちらでしょう」

「貴方がどれだけ強くても、ユーちゃんの足元にも及びません」

 面白い、この銀級冒険者であり、一流の魔法剣士である私より強いとはね。

 ここまで彼女達に言わしめるならば、さぞや上級職なのだろう。そう思ってジョブを聞いてやったのだが……。


「付与魔導師だけど?」


 これは面白い冗談だ。

 銅級冒険者風情の、それもハズレジョブが私より強いとはね! しかし、吐いた唾は飲めないのが冒険者。そこまで言うならば、冒険者らしく実力で答えを出すべきだろう。


「君も冒険者の端くれなら、僕から彼女達を奪ってみせたまえ!それとも怖いかね、付与魔導師君!」

 実力差を恐れて引き下がるならば、痛い目を見ずに済む。彼女達は優しい女性達のようだからね、いくらロクデナシとは言え、ここまで旅を共にしてきた人間が痛め付けられるのは、心苦しいだろう。


 しかしそんな私の配慮に対し、小生意気にも少年は挑発してきた。

「相手になってやるから、()()()()()()()

 なんて、身の程を知らない言葉か。


 流石に馬鹿にされて、温厚でいられる私ではない。

 更に少年は、私に見せつけるようにキリエさんとアリスさんに、頬に口付けするよう言ったらしい。

 その口付けは私のような男にこそ相応しいというのにだ! これは彼からの宣戦布告だろう!

 いいとも、その挑戦を受けて立ってやろうではないか!


 ……


 有り得ない。

 有り得ない有り得ない!!

 まさか、この私が銅級の付与魔導師に敗れるだと!? 私の剣撃を全て受け止め、魔法を斬り、更には剣を弾くだなんて有り得ない!!

 喉元に突き付けられた奇形の剣の刃が、妖しく月明かりを反射している。


 剣を引いた少年だが、何かインチキがあったに違いない!

 その背中は無防備だ……いや、例え相手が卑怯者であろうと、銀級冒険者にして未来の世界の覇者となる私に、卑怯な真似は許されない。


「くっ、何かの間違いだ! もう一度私と勝負しろ! 今度は手加減はしない!」

「やってもいいけど……今度はこっちも手加減出来ないぞ?」

 ——パパパァンッ!!

 狼の魔物……ここまで接近しているのに、気付けないとは。

 いや、それよりあの武器は何だ? そうか、彼の力は武器に頼ったものなのだ! それならば、先程の戦いに説明がつく!


 彼の武器を打ち破れる装備を手に入れ、その時こそ正々堂々と叩き潰すしか、彼女達を解放する事はできないだろう。

 やむを得ない、ここは一度退くしか無いな……。

 待っていてくれ、美しき人達よ。必ず彼の魔の手から、解放してみせよう。


************************************************************


 王都レオングルに辿り着いて、数時間。私は恋人達と共に、衛兵に拘束されてしまった。

 何でも獣人族が人間族に殺害されたと言う。

 私達は鑑定板で身の潔白を証明できたのだが、人間族が今街をうろつけば、獣人族に囲まれて殺されかねないと衛兵が言う。結局、私達は保護という名目の軟禁を余儀なくされてしまった。

 しかし、獣人殺し……まさか、あの少年じゃないだろうな。


 ……


 それから数日して、私達は軟禁から解放された。事件はどうやら終結したようだ。

 という事は、犯人は捕らえられたか処分されたのだろう。


 ようやく王都の街を散策すると、噂話が耳に入ってくる。この獣王国の王と王子、更には勇者レオナルドの仲間であった拳聖様が、王都を襲う魔物と戦い勝利したのだと言う。

 更にはその場に、人間族の冒険者も加勢したのだとか。それ程の戦果を挙げる冒険者ならば、おそらく聖銀、いや聖金冒険者かもしれないな。


 私はその正体に心当たりがある。勇者レオナルド様が御身分を隠して、友の為に駆け付けたのでは無いかと推理している。


************************************************************


 例の冒険者の名前は、ユートと言うらしい。聞き覚えがある気がするが、何処でだっただろうか? そんな上級冒険者がいたか、ちょっと記憶に無いな。


 そんな事を考えていたら、あの少年に出会した。となれば、獣人殺しは彼では無かったようだな。

 彼の事はどうでもいいが、キリエさんやアリスさんにまで累が及ぶのはよろしくない。その点に関しては、良かったというべきだろう。


 しかし随分と身形が良くなったな。冒険者として、実績を挙げているという事か……例の武器の力を頼って。

 しかし、あの仔犬ちゃんは奴隷から解放したようだな。仔ウサギちゃんは解放しないのかと問い質すが、彼女自身が反論してくる。

 かわいそうに、そうするように強制されているんだね。

 安心したまえ、仔ウサギちゃん。君もキリエさんやアリスさんと同様に、彼から解放してあげるからね。


 今はまだ、あの得体の知れない武器に対抗する手段が見つからない。彼が私と同じ銀級に上り詰めるまでに、私も対抗策を練らなければならないな。

 そうだ、ドワーフの国へ行くことにしよう。あそこならば、魔導具の武器が多いと聞くからね。彼に対抗する、いい武器が手に入るだろう。


「君も早く銀級になりたまえよ、そうでなければ張り合いがない」

 そう再戦を仄めかす言葉を残し、私はその場を立ち去る。なんてクールなんだ、私は。

 この背中を目に焼き付けて、解放の日を心待ちにしていてくれ。三人の未来の恋人達よ。

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