03-07 二国会談/招待
これまでのあらすじ:新しい服を買いました。
僕達は今、東と南の大陸を繋ぐ大橋の中程にある、休憩スペースを訪れている。
普段は商人達の憩いの場として利用される場所だが、今日は物々しい雰囲気が満ちている。それは仕方がないだろう、何せ人間族の大国・イングヴァルト王国の国王と第一王子、獣人族の国・ミリアン獣王国の獣王と第一王子が、会談の為に訪れているのだ。
商人達に配慮して、会談用に天幕を用意してあるのだが、兵士の数と雰囲気で配慮台無しである。
「で、僕達は何でここにいるのかね?」
こことは、天幕の中である。僕の右隣にアリス、左隣に姉さん、アイリの順で座っている。
国のトップ同士の会談に、一冒険者が立ち入る余地など無い。なのに、何故かここに通されたのだ。
僕のそんなぼやきに、イングヴァルト側の兵士がジロリと睨んでくる。多分、「それはこっちのセリフだ、冒険者のガキが!」って所か。
仕方ないじゃん、ここに来るように言ったのは両陛下だよ? 文句があるなら、そっちに言って欲しいものだ。
……
やがて双方の準備が整ったようで、僕達は立つように言われた。
天幕の両脇から現れた両陛下と第一王子達。その表情はいつものユルユルとしたものではなく、王族としての威厳を感じさせた。
「話はしたが、会うのは初めてになるな。お初にお目にかかる、イングヴァルト王。此度はミリアン獣王国の要請に応えて頂き、感謝する」
「こちらこそだ、獣王。平和の為の会談であらば、我がイングヴァルト王国は何度でも応えようではないか」
口調は堅苦しいものの、雰囲気は悪くないな。共に差し出した手を、ガッチリと握って握手している。
「それでは、まずは席に着こうか」
「そうしよう。他の者達も着席してくれたまえ」
叔父さんと獣王陛下に促され、両陛下・両王子が座った後で椅子に座る。
そこから一時間は、もう話が難し過ぎてわけわかんない。
多分、人間族における獣人差別に対する解決の働きかけや、獣人族による人間族への報復ゲリラ集団の拿捕など、互いの問題に対しての協力要請なのだろう。これらは少し問答があったものの、恙無く話がついたようだ。
続いては、イングヴァルトとミリアンの間で交易を活性化させようというものだ。これについては、すんなりと決着。それはそうだろう、両陛下の知り合いが関わるのだ。
ベアトリクス商会の代表。叔父さんにしてみればかつての仲間、獣王陛下にしてみれば飲み友達なのだから。
そんなこんなで、両国の関係改善に向けた話し合いは終始穏やかに進んだ。
やがて、話は最近の近況へと移る。
「ところでユート君、君がくれた遺失魔道具で獣王とも何度かやり取りをしたのだが、また随分と活躍したようだね」
ちょっと眠くなってきたところへ、そんな話を振られた。
「えっ? あ、はい」
「ははは、退屈だったか? 解るぞ、ユート。俺も話し合いより、身体を動かす方が得意だからな」
いや、脳筋と一緒にしないで?
「失礼しました、両陛下。私共のパーティリーダーであるユートは、昨夜遅くまで起きていたので少々寝不足のようで」
姉さんがそんなフォローをしてくれる。たしかに、アーカディア島に屋敷をいつでも転移できるように、整地作業をしていたので寝不足ではある。
「そうかそうか、若いとは素晴らしいな」
「全くですな、イングヴァルト王」
「何か勘違いしてるだろ、叔父さんも獣王陛下も」
そんな嬉し恥ずかしイベントねぇから! そういう空気に向かいそうな時は、強引に誤魔化しているから!
「そう言えばユート。ベアトリクスから聞いたんだが、屋敷を買ったんだと?」
「む、そうなのか? ユート、ミリアンに定住する気になったのか?」
ブリックとアルファの間で、一瞬火花が散ったような気がした。
「あぁ、旅の拠点を作る事にしたんだ。屋敷はほら、宝物庫で」
「「や、屋敷のような巨大な物も入るのか!?」」
入るのよ。
「成程な、移動する屋敷とは想像の埒外だ。お前の発想には毎回驚かされるな」
「持ってる武器もヤバいし、どういう頭の構造してるんだ?」
「解るぞブリック殿下、こいつの頭はおかしいんだ」
「やはりそうだよな」
「あれっ、僕もしかしてディスられてる?」
流れるように悪口に移行していない?
「褒めているつもりだ。お前が悪人じゃなくてよかったよ」
「たしかにな。あれだけの力と能力を持ちながら、やってる事は人助けだからなぁ」
そうだろうか?
僕が旅に出てからしてきた事と言えば、ゴブファミリーをミンチにした事だろ?
魔物の氾濫で溢れた魔物を滅殺したろ?
奴隷商人を襲う盗賊を捕縛したろ?
悪徳奴隷商人を再起不能にしたろ?
銀級女好き冒険者をいてこましたろ?
んで、王都防衛。
加えて言うなら、その間で何人もの馬鹿野郎共の息子さんが犠牲になった。
一部除いたら、確かに人助けになるのかなぁ。好きにやってるだけなんだけどね!
「それでは今回の会談だが、残った事案は一つか」
「異存はない、イングヴァルト王」
すると両陛下は立ち上がり、僕達の正面で並び立った。これは僕らも立った方がいいよな。
「冒険者ユート、キリエ、アリス、アイリ。此度は両国会談への尽力、誠に大義であった」
「これは両国家の未来に関わる重要な会談であり、お主達の存在なくして実現は困難であっただろう」
「「その功績に報いるため、諸君らにこれを授けよう」」
侍女がテーブルの上に銀色の物を並べていく。これは……ライセンスカードか!
「本来は、金級でも良いと思ったんだがなぁ……」
「それは私がやめておいた方がいいと言ってな。聞けば銀級への昇級に必要な実績は、達成まであとわずかとギルドから聞いてな」
「少しのショートカットくらいなら文句は無いだろうと、イングヴァルト王から助言を受けたのだ。普通は逆なんだがな」
色々と、両陛下が配慮した上での昇級らしい。
まぁ、金級とか言われたら流石に辞退するけど、銀級ならまだ……必要条件の依頼達成数も、五十件中四十件くらいはクリアしてるし。
「両陛下の御配慮、痛み入ります。謹んでお受けします」
ここは、ご厚意に甘えさせて貰おう。
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【称号】和睦の架け橋(NEW)
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さて、会談を終えた僕達は完成した屋敷を見に来たのだが……。
「ほぉ、これは見事なもんだな!」
「うむ、ミリアン獣王国には腕の良い職人が居るのだな」
なぜか、両陛下・両王子同行である。おたくら、政務はいいのか? 友好同盟が締結したなら、やるべき事なんて山ほどありそうなんだけどな。
「いかがで御座いますか、ユート様」
「素晴らしいの一言に尽きますね。こんなに立派な屋敷に仕上げて下さって、ありがとうございます」
僕以外のメンバーも、とても気に入ったようだ。部屋の中をあちらこちら見て回っている。
「ですがユート様、建てる場所は本当にこちらでよろしかったのでしょうか……?」
「あぁ、大丈夫ですよ。実はある事情で魔道具を持っていまして、空間収納が出来るんです」
「空間収納!? それはそれは、とんでもない物をお持ちですね!」
感覚が麻痺しかけているけど、遺失魔道具って製法が判明していない特殊な魔導具なんだよなぁ……。自分が作れるから、その稀少さを忘れそうになる。
店主と職人さん達にお礼を言って、屋敷を宝物庫に収納する。やはり、驚かれた。
せっかくなので、その場にもう一度出す。何か拍手されて、尊敬の眼差しで見られた。
しまった、また余計な話題を産んでしまったか。
「さて、それでは私はそろそろ戻るとするか」
「待たれよ、イングヴァルト王。折角ここまで来たのだ、今宵は我が王宮で晩餐でもどうか」
「それはかたじけない。では、お言葉に甘えるとしようか」
王様同士のやり取りって、堅いよなぁ。僕だと肩がこりそうで向かないと思うわ。アルファとブリックは頑張れー。
すると、アンドレイ叔父さんが僕に視線を向ける。
「ユート君。そういう訳だから、ひとつゲートを頼めないかな?」
「あぁ、ジュリア叔母さんを連れて来たいんだね。解ったよ、それじゃあ腕輪で連絡をしておいてくれるかな?」
「あぁ、助かるよ!」
そして、晩餐会には何故か僕達も招かれた。まぁ、いつもの事だし慣れてきたかもしれないな。
……
さて、午前中は会談、午後一番で屋敷の受け取りと、本日の予定を全て消化したのだが、まだ時間は昼過ぎだ。
「晩餐会までは時間があるな。どうしようか」
「そうですね、とりあえず屋敷を設置してはどうでしょう?」
それもそうだなぁ。
あっ、そうだ。
『皆、ちょっと相談いいかな?』
腕輪で呼び掛けると、三人はすぐに反応してくれた。
『どうしましたか、ユート君?』
『相談ですか、ユート様。ですが、何故腕輪で?』
すぐ側に、まだ両陛下と王子が居るからね。
『アルファとブリックを、アーカディア島に招いてみたいんだけど、どうかな? 二人は友達だし、人格的にも信頼出来る。それに、何か開拓の助言を得られるかもしれない』
それに、ある物を追加生産したのだ。折角だし二人にも試してみて貰いたい。
『私は賛成です』
『私も問題無いと思います』
『ユート様の御心のままに』
反対意見が無いのはいいけど、益々アイリの態度が仰々しくなってきた気がする。
両陛下は王宮で話の続きをするそうで、そのタイミングで両王子を誘う事にした。
「アルファ、ブリック。もし良かったら、ちょっと付き合ってくれないか? 旅の途中で、興味深い場所を見つけたんだ」
「ほう? お前がそうまで言うとはな。いいだろう、付き合おうではないか。ブリック殿下はどうなされる?」
「俺もユートがそこまで言う場所が気になるな、付き合うぜ」
両陛下に二人を連れて行ってもいいか確認すると、二つ返事でOKだった。危機感が無いというべきか、信頼されていると取るべきか、迷うの。
護衛の兵士達が難色を示したが、アルファとブリックに諭されて渋々引き下がる。
申し訳ない気持ちはあるんだけど、人となりを知らない貴方達を連れて行くわけにはいかないんだ。ごめんなさい。
まずは、門弾で遺跡へ飛ぶ。
「ふむ、これは遺跡か」
「ほほぉ、こいつは見事なもんだ」
いきなりアーカディア島では驚いてしまうと思って、時系列に沿って説明しながら連れて行くことにしたのだ。
「ここはミリアン獣王国の最北端にある、洞窟の中の遺跡なんだ。そして、僕達はここでコイツを見つけた」
転移門に手を置く。同時に魔力を流して、転移門を起動させた。
前は擬似魔石を消費する程に貯蓄魔力が不足していたが、今は改善されている。僕の遺失魔道具で、ちょちょっとね。
ついでに、転移門に使用者制限をかけておいた。奇しくもアーカディア島の主になったが、そうなった以上はあそこに侵入されるのは面白くないからね。
「この大きな建造物……ユート、まさかお前が作った遺失魔道具じゃないよな?」
見た感じ古いでしょうが、アルファ。何でもかんでも僕が犯人ってわけじゃないんだぞ?
「遺失魔道具だけど、僕の作じゃないよ。この遺跡を作った誰かの作だね」
その誰か……毎度お馴染み、ショウヘイさんではなかった。
製作者は”エルヴィオラ・ディアクロフト・ワイズマン”という人なのだが……全く知らない名前なのだ。アリスもアイリも知らなかった。
姉さんは知っているだろうが、それは天使だからだ。なので、天使特権で知っている事を教えて貰うのは、自分ルールで控えている。
銃製作とかは、どうしても戦力の確保に必要だったから、教えて貰っちゃったんだけどね。
「さぁ、転移門を潜ってみようか」
起動した転移門を潜る。転移門の先に広がるのは、広大な大地だ。この辺りは手付かずだからね。
「おい、ユート。ここは、何処なんだ」
「ここは僕達が見付けた無人島……でいいのかな? 人は居なかったし。黒竜はいたけど」
「竜!?」
「うん、竜。そいつと戦って、認められて島を譲渡されたんだ」
「すまん、ちょっと何を言っているのか解らない」
僕も他人から聞いたら、頭を疑うかもしれないな。
……
それから少々時間がかかったが、経緯を説明すると二人はとりあえず納得したようだ。
「まぁ、何にせよ……ようこそ、アーカディア島へ」
「アーカディア島……ふむ、良い名前だな」
「なぁ、ここはミリアン獣王国の土地じゃないのか?」
王子として、自国の土地なのではないかと勘ぐるのも無理はないか。転移門は確かにミリアン獣王国にあったわけだしな。
「ここは四大大陸の中心に浮かぶ天空の島で、どの国にも属していないよ」
「天空の島……確かにウチの国の土地じゃ無さそうだなぁ」
残念そうに言うブリックだが、根が素直なので後からグチグチ言う事はあるまい。
「転移門もミリアンだけじゃなく、イングヴァルト王国の最西端、西大陸のヴォルフィード皇国最東端、北のオーヴァン魔王国最南端に設置されているのが確認出来た」
ちなみに、それらの転移門も既に僕の管理下にある。ミリアン獣王国以外にも転移門があるという可能性は、当然考えたからね。
「なに、そうなのか? そんな遺跡があったとは聞いていないが……」
アルファは自国にも先程のような遺跡がある事を知らなかったようで、驚いていた。
無理もないだろう、魔力溜まりを感知する何らかの技能が無ければ、気付けないからね。
……
しばし質問タイムが続いて、ようやく落ち着きを取り戻した所で、野営地点に出発する事にしよう。
「さて、それじゃあ屋敷を設置する場所に向かうんだけど……折角だし、いい物を用意したんだ」
僕が宝物庫から取り出したのは、過去に一度使用した物だ。それを複数用意したので、試乗して貰おう。
「おぉっ、これってあの時の……確か、バイクだったか!」
悪魔族を追跡する際に魔力駆動二輪に乗っていたブリックが、歓喜の声をあげる。
そっか、操縦してみたかったんだね。用意してよかった。
そう、折角なので魔力駆動二輪は、人数分と予備機三台程を用意した。アルファとブリックのは、ボディにそれぞれの国のエンブレムをあしらっている専用機だぜ。
続いて、それぞれにヘルメットと手袋を渡す。安全第一だからね、ここはしっかり言い含めておく。
尚、アイリとブリックは耳の部分の問題があるから、耳を覆える上に聴力を阻害しないようにした特別製のヘルメットにした。
簡単に操作方法をレクチャーし、少し練習走行を済ませる。
おぉ……全員、飲み込みが早い。車体のバランスもしっかり取れているし、問題無さそうだな。
それでは、いざ。
「よし、行こうか!」
アクセルを回して走り出すと、他のメンバーも後に続く。
『これもまた、凄い遺失魔道具だな!』
『こいつぁ気持ちいいぜ、まるで風になったみてぇだ!』
ヘルメットには“通信”の付与がされているので、互いに会話も出来る。
『気に入ってくれたみたいで良かったよ、じゃあ少しツーリングと洒落込むか!』
折角なので、そのまま真っ直ぐ向かうのではなく、少し迂回して行った。
……
一時間ほど走ると、やがて僕達が野営に使っている地点に到着した。
「ふぅ、中々に楽しかったな」
「あぁ、日頃のストレスが吹っ飛んだぜ」
行動を共にするにつれて、アルファとブリックも仲が良くなった気がするな。
「それじゃあ、屋敷を設置して少しお茶にでもしようか」
宝物庫に収納していた屋敷を、昨夜の内に整地しておいた場所に出す。一瞬で屋敷が出て来たのを見て、僕と姉さん以外が顔を引き攣らせた。
「お前、常識を覚えた方がいいぞ、ユート」
「失礼な、常識外だと解っているからこそ、こうして他人の目に触れない所でやっているんじゃないか」
僕だって、旅の間に孤島では学べなかった常識を学ぼうと、頑張っているんだぞ?
「はぁ、まぁ仲間内だけの場ではそれでいいが、頼むから世界に混乱を齎さないでくれよ」
「でもまぁ、いいじゃねぇか。ユートなら間違った力の使い方はしねぇよ」
くっ、ブリックにフォローされる日が来るとは……!!
「まぁまぁ、とりあえずお茶を淹れますので、一息つきましょう」
姉さんに促され、僕達は屋敷の中へ入っていく。ふーむ、やっぱりテントとは違うな。
家はいい、とても落ち着く。僕にはまだ帰れる場所がある……こんなに嬉しい事は無い。
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しばらく雑談をしながらお茶を楽しみ、やがて空が夕焼けに染まり出した。
「そろそろ王宮に戻った方がいいな」
そう言うと、アルファとブリックは名残惜しそうな顔だ。
「“空間接続”の付与をした遺失魔道具を、後でプレゼントするからさ」
アルファの部屋には姿見があったから、そいつと繋ごうかな。
「魔力駆動二輪もプレゼントするから、好きな時に来て気晴らしにツーリングでもするといいよ」
「む、いいのか?」
「そいつぁ助かるけどよ」
「最初からそのつもりで用意していたからね」
そう言うと、二人は嬉しそうに礼を言ってきた。王子ってストレス溜まるんだなぁ。ブリックなんか、悩みが無さそうに見えるのにね。
結局、屋敷内は僕達の家だからと言って、その隣に隣接する転移門を用意する事で話は落ち着いた。
そのままイングヴァルト王城へと転移し、ジュリア叔母さんを迎えに行ってから獣王国の王宮へ戻ると、アンドレイ叔父さんと獣王陛下が談笑していた。
挨拶もそこそこに、僕達は晩餐会の会場へと向かう。
今回はアンドレイ叔父さんとジュリア叔母さんしか来訪していないが、今度はシルビアやアクセル君も連れて来てあげたいかな。
「獣王よ、次はイングヴァルトに来てくれたまえ。貴殿らの歓迎に勝るとも劣らないもてなしを約束しよう」
「それは楽しみだ、イングヴァルト王。ぜひ伺わせて貰おう」
酒を酌み交わしながら笑顔を交し合う両陛下。人間と獣人の架け橋は、しっかり架かったようで何よりだ。
さて、冒険の拠点も出来た事だし、そろそろ新たな場所へ旅立つか!




