03-06 世界の窓/新衣装
これまでのあらすじ:イングヴァルトとミリアンの橋渡し役になりました。
こちら実況のユートです。現在、ミリアン獣王国の王宮……その謁見の間で、大混乱が巻き起こっております。
理由は簡単、その手に持った遺失魔道具に驚いたからです。おまわりさん、僕です。
構想はずっとあったから、試しに作ってみたかったんだよね。テレビ電話っぽくなるような、映像と音声をリアルタイムにやり取りできる通信器具を。
ちなみに、門弾を使用して、姉さんとアリスにイングヴァルトに跳んで貰っている。モノを叔父さんに渡して貰いたかったからね。
行くなら姪である姉さんとアリスが適任だろう。僕が行ってもいいんだけど、アイリを放置するわけにはいかないからね。
さて……そんな訳で二カ国間遠距離会談が実現した。したのだが……。
「ユート殿! これは何なのだ!? まさか、ここに映っているのはイングヴァルト王か!?」
『ユート君、またとんでもない物を作ったね! これは一体何だい!? まさか、王国と獣王国を繋いでいるのかい!?』
両陛下、混乱状態。
「これは僕が製作した新しい遺失魔道具で、”世界の窓”って言うものです。通信用に作ってみました」
ネーミングに行きあたりばったり感が溢れてる。形状は、愛あふれるパッドみたいな感じにした。
『うぅむ、これは素晴らしいな。ユート君、この遺失魔道具は……』
「献上するよ、叔父さん。獣王陛下との連絡に役立ててね」
『感謝するよ! いやはや、これはいい物だ!』
「ユ、ユート殿? イングヴァルト王なのだよな?」
僕と叔父さんの気安いやり取りに、獣王陛下が顔を引き攣らせている。
「そうですけど?」
「い、一国の王を叔父さんと呼ぶ、貴殿は一体何者なのだ……?」
あれ、言ってなかったっけ?
「アンドレイ叔父さん……イングヴァルト国王陛下は、僕の母の弟なんですよ。言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないぞ!? という事は、ユート殿も公爵家の!?」
公爵って王族の血縁だもんね。
「僕は平民ですよ、母さんは国を出奔したので」
『獣王、ユート君の母親は確かに我が姉君であるアリア・フォルトゥナ・イングヴァルトである。つまり、その父親は……』
「アリア……イングヴァルト王女にして、種族を問わず傷を癒やすと名高い聖女アリア殿? では……その夫は、まさか……」
『うむ、勇者レオナルド。それが彼の父君だ』
「「「「「な、なんだってー!?」」」」」
どこのミステリーをレポートする人達か。
「ではユート殿は、勇者殿と聖女殿の間に生まれた息子で! イングヴァルト王の甥で! この国の救国の英雄という事か!?」
『救国の英雄!? 獣王、それは一体どういう事か!?』
『父上、先程から何か騒がしいようですが……む、キリエとアリス? 来ていたのか?』
『あら、アルファ君』
『ご無沙汰しています、殿下』
おや、あっちではアルファが来たようだ。
「親父殿、ユートが来ているって聞いたが……おぉ、アイリも居たか!!」
「お久し振りです、ブリック殿下」
おっ、こっちにもブリックが来たな。
『む? なんだ今の声は?』
「親父殿、それ何だ?」
「おい、ブリック! これを見ろ! ユート殿が遺失魔道具でイングヴァルト王が甥で聖女殿の勇者殿が息子でだな!」
「何言ってんだ親父!? 意味不明だぞ!? って何だこれは、意味不明だ!!」
『ちょっ、ユートか!? ユートだな!? 何だこれは!!』
『落ち着けアルファルド! 今は獣王との会談中でだな!』
『獣王と会談!? 一体どういう経緯でそんな事に!? ハッ、ユートだな! そっちにいるのかユート!?』
「何かあると僕が原因という風潮、どうかと思います」
「ユート様が関わると、誰でもこうなりますよね」
「どういう意味だよ、アイリ」
そんな諦めたような表情で、溜息吐くなよ。混乱は、しばらく続いた。
……
落ち着きを取り戻した後、何とか会談は終わった。
大陸を結ぶ橋の途中にある休憩スペースで、十日後に直接顔を合わせての会談を行う事になった。
何故か、僕もその場に来るように言われた。その日って、拠点の屋敷が出来る日なんだけどなぁ……。
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僕達は天空島に戻り、出しっ放しの野営セットで食事の準備を進める。今日は牛っぽい肉を使ったシチューである。
何故、牛肉ではなく牛肉っぽいのか。実はコレ、ミノタウロスの肉らしい。
い、一応解析では“食用可能”ってなってるよ? 竜眼では“まぁまぁ美味”ってなってるよ?
でも、ちょっと気が引けるよね、魔物肉って。
そう思っていたのだが……。
「あ、コレ美味いわ」
「意外と……美味しいですね」
「ほ、本当ですか……? では……もぐっ」
「もぐもぐ……魔物の肉って、食べられるんですね」
少し筋張っている気がするが、食える食える。
……
そんな緊張感溢れる夕食の後は、お風呂タイムなのだが。
「ふははははは! 作ってやったぞ、露天風呂!」
温泉じゃないのが残念だが、折角の自由空間だ! うん、これは何とか僕の手で作れたよ。“造形”の刻印が大活躍であった。
「広いですね~」
「ユート君、この壁は何ですか?」
「……男湯と女湯で分けてるんだよ」
そう言うと、女性陣の表情が曇った。な、何でそんな顔をするのかな!?
「ユート様、それではお背中を流す事が出来ません」
「ユート君、私達と一緒に入るの嫌ですか?」
「ユーちゃん、お姉ちゃんは悲しいです」
女性陣の視線が痛い!! 震えるチワワみたいな目をするんじゃない!! ええい、いつまでも流される僕ではないぞ!!
「そもそも男女が一緒に入浴したりするのは、倫理的にもどうかと僕は思っている。僕がいた世界では、男女が別々にお風呂に入るのが常識だった。男女七歳にして同衾せずという言葉もあったんだ。これから仲間が増える事も想定して、その辺りをしっかりしておくべきだと僕は思う」
どうだ、今日こそは言ってやったぞ。毅然とした態度で、自分の意志をちゃんと伝えた! やれば出来る子だ、僕!
「……ユーちゃん」
「……ユート君」
「……ユート様」
「だから、とりあえず三日に一度くらい、水着着用で一緒に入る事にして慣らしませんか。だから泣かないで下さい勘弁して下さいお願いします」
泣かれると、弱い。
……
結局、その日は四人でお風呂に入りました。うれしはずかしな状態で、のぼせそうです。
「そう言えば、この島の名前はあるんですか?」
「いや、名も無い島だよ」
思い出したように問い掛けてきたアリスに答える。
実際、この島は解析で見ても“名称:無し”なのだ。つまり、名無し島。
「それなら、名前を付けることも可能なのでは?」
「そうですね、いつまでも名無し島ではどうかと思いますし」
ふむ、確かにアイリやアリスの言う通りだな。しかし、天空の島の名前か……。
「城だったら、候補があったんだがな」
「ユーちゃん、何を考えているか大体解りますが、本気でその名前にする気ですか?」
「絶対やらねぇ、絶対にだ」
色んな人に怒られるだろうからね!
「それなら“ユートピア”はどうですか!」
「ユートピアって名前は嫌だ! それはやめよう、自分の名前が入った島とか無いわー」
「えー」
僕達のやり取りに、アリスとアイリが首を傾げる。
「ユートピア? ユート君の島という意味ですか?」
「ダブルミーニングです。それに加えて、ユーちゃんが生きていた世界では“理想郷”という意味もあるんですよ」
「理想郷……ですか。素晴らしい名前なのですね」
理想郷、ねぇ……そうできるといいけどね。
「でもユートピアは嫌だ」
「むぅ、いいじゃないですかユートピア。素敵じゃないですかユートピア。びっくりするほどユートピア」
「連呼するなし」
拗ねる姉さんは珍しいな。ちょっと可愛いと思います。
理想郷はいいと思う……あ、そうだ。
「それなら“アルカディア”は? これも確か理想郷の名前だよね」
「アルカディア……ですか?」
「ユートピアって管理主義でもあるらしいし、好みじゃないかな。アルカディアは自由主義だったはずだよね?」
「むー、確かにそうですね……でも、アルカディアは実際の地名ですから、あまりお勧めは出来ませんけど」
確かに、実際の地名にするのは少々気が引けるな。
あぁ、そうだ。
「なら、“アーカディア”はどうかな。ローマ字だとそう読めなくもないよね?」
「ローマ字?」
「あー、前世での言語だよ」
「「へぇ~」」
大体、前世でのって言えば納得してくれるアリスとアイリ、可愛いです。
「アーカディアですか、成程……そうですね、いいかもしれません」
「じゃあ、今からこの天空島はアーカディア島だね」
……おい、待て。
「解析常時発動の左目に映る情報が、“名称:アーカディア島”ってなったんだけど」
「ユーちゃんが島の所有者だからでしょうね」
レスポンス早いな、この島!
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その数日後、僕達は改めて王都を訪れた。
服飾店に頼んでいた、仕立てが終わるのが今日の予定なのだ。服飾店に入ると、店員がすぐに店長を呼んでくる旨を伝えて奥へ向かった。
「流石はプロ、一度来ただけの僕達の顔を覚えていたんだね」
そんな感想を口にすると、三人から呆れた顔をされた。な、何だよぅ……。
「ユート君、そもそも人間族が獣王国に来るとしたら、大半が商人です。服飾店ではなくもっと他の商店なら人間族も多いのでしょうけど……」
「それに、ユート様はご自分が王都防衛を果たした、救国の英雄だという点をお忘れではありませんか?」
そういや、そうだったな。それで覚えられていたのか。
「それに、ユーちゃんは素敵ですからね」
それは、無い。
すぐに店主が店の奥から姿を見せ、応接室へ通された。店主はえらい上機嫌だ。
「いやはや、いい仕事をさせて頂きました! これ程の大仕事、獣王陛下の服を仕立てて以来ですよ!」
「そ、そうですか……」
めちゃくちゃテンション高いな。ちょっと怖いよ?
「ユート様のアイディアを実現した品がこちらになります、どうぞお手に取ってご覧になって下さい!」
それぞれに、上質な布で出来た風呂敷のような包みを差し出してくる。この包みの中に服が入っているんだな。
「あの、折角ですし試着をしてもよろしいでしょうか?」
姉さんの要望を聞き、店主は笑顔で首肯してくれた。
僕も気になるし、試着するのは賛成だ。
それぞれ、試着用の個室に通される。一人一人に店員が付くのだが、僕には店主自らが付き添ってきた。
「おぉ、いい肌触りですね」
「えぇ、冒険者の方々が身に付けられる中では、最上級の布にございます」
”目”で確認すると、魔物由来の素材らしい。
地底蚕の糸、五等級の素材じゃないか! 五等級ともなると、それなりに高価な物だ。
「ささ、どうぞ着てみて下さい」
折角だし、お言葉に甘えよう。先程の肌触り抜群のノースリーブのタンクトップシャツ、黒革のズボンと黒革のフード付きコートを身に付けていく。
うーん、満足の行く仕事だ。
「素晴らしい出来ですね、これ程の品を用意して頂けるなんて」
「お褒め頂き光栄です。よくお似合いですよ、ユート様」
黒ずくめになっちゃったけど、まぁいいか。昔から私服は黒が好きだったんだよね。
すると、扉がノックされる。
「どうしましたか」
「失礼します、オーナー。お嬢様方が、ユート様に試着した所を見て欲しいと仰っていまして」
あー、成程。
確かにあの三人なら、言い出しそうだ。
「僕の試着も終わっていますので、構いませんよ」
「左様でございますか、それではこちらへどうぞ」
試着室を出て再び応接室へ向かうと、試着を終えた三人が待っていた。
三人はそれぞれ異なるトップスにした。姉さんはチューブトップス、アリスはビスチェトップス、アイリはアメリカンスリーブトップスだ。
皆、僕より丈が短く時折お臍がチラリと見えたり見えなかったりする。チラリズム万歳。
下半身は僕と同じ材質の、黒革のホットパンツだ。手足には同色のアームカバー、ニーソックス。
腰回りを隠すように、それぞれ白い腰巻きマントを巻いている。そして、上半身には僕と類似したデザインで、色と丈違いの白いハーフコート。
折角なので、パーティメンバーの制服みたいなイメージで製作してもらったのだ。
「どうですか、ユーちゃん?」
「ユート君、似合いますか?」
「本当によろしいのでしょうか、こんな素晴らしい出来の服を……」
期待に満ちた、三人の視線が僕に集中する。
「三人共、イメージ通りぴったりだ。とても良く似合っていて、可愛いよ」
歯が浮きそうなセリフだが、本当にそうなんだから仕方ない。可愛いは正義だ。
僕の言葉に安心したのか、三人は満面の笑みである。
「ふふ、気に入って頂けたようで、私共としても嬉しゅう御座います。そのまま来て行かれますか?」
折角だし、そうさせて貰うのがいいかな?
「えぇ、そうさせて頂きます」
新しい服って、ワクワクするよね!
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新たな服を身に纏って、レオングルを歩いていた所……見覚えのある人物に出会った。
「む、君は!」
「あー、そういや王都に向かっていたんだったな」
銀級冒険者のグレンである。考えてみれば、こいつらも王都レオングルを目指して旅していたっけな。
「随分といい身なりになったじゃないか、銅級付与魔導師君」
「そっちも相変わらず良い装備だな、銀級冒険者。良く似合っていて、毎度ながら男前だな」
面倒事になりそうなので、適当にあしらうか。
「おや、意外と見る目があるようだね。まぁ、そんなに美しい女性達を連れているから、目は肥えていそうだ」
リップサービスを真に受けるなよ。
「おや、そう言えば仔犬ちゃんの姿が見えないね。もしかして愛想を尽かされたのかい」
「違法な奴隷商人から保護していただけだ。ここで奴隷から解放して、親元に帰したんだよ」
「ふぅん? そういう割には、そこの仔ウサギちゃんは奴隷として連れ歩くんだね」
やけに突っかかるな、コイツ。
少しイラッと来た所、アイリが僕の前に出る。
「私は自分の意志でユート様の奴隷として、着いて行くと決めました。それが何かおかしいのでしょうか」
おぉう、アイリの喧嘩腰。珍しいな、いつもは冷静なのに。
「そう怒らないでくれ、仔ウサギちゃん。可愛い顔が台無しだよ」
「台無しにしているのは、目の前の気障ったらしい男性のせいだと思いますが」
言うね、アイリ。すっごい清々しい。
「今日はどうやらご機嫌麗しくないようだ、また改めて声を掛けさせて貰おうかな。それじゃあね天使様、お姫様、仔ウサギちゃん」
そう言って、グレンは踵を返した。
「君も早く銀級になりたまえよ、そうでなければ張り合いがない」
そう言って立ち去るグレン。その背中を見送りつつ、溜息を吐いてしまう。
「三歩歩けば忘れるタチか、あいつ? 決闘で惨敗したヤツの台詞じゃないだろ」
「「「ですねぇ……」」」
 




