00-04 はじめてのおつかい/異世界編
これまでのあらすじ:Q.ねぇ、ちゃんと風呂に入ってる? A.姉ちゃんと風呂に入ってます。
ユートです、十歳になりました。
はじめてのおつかいという言葉を聞くと、子供奮闘記よりもリアルガチという言葉が脳裏に浮かびます。
大丈夫、言葉が伝わらなくても身振り手振りと、めげないハートで何とか出来そう。
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ある日突然、父さんが言い出した。
「よし、お前達初めてのお使いに行って来い」
「んっ!?」
この島から東の方角には大陸がある。その大陸の西部には、イングヴァルトという王国があるらしい。
お使いとは、その王国に住む父さんの知り合いに、手紙を渡して来いというものだった。
「王都の門番にこのメダリオンを見せれば、アンドレイ叔父さんに会えるはずだ」
そう言って渡されたメダリオン……これは高価そうだけど、普通にメダルだな。多分、身分証明の代わりみたいなモノなのだろう。
それに加えて、封筒みたいなのに入った手紙を渡された。
アンドレイ叔父さんとは母さんの弟で、時折島を訪ねて来るナイスミドルなおじさんだ。服がそれなりに高そうな感じなので、きっと商人とかなのだろうと思っている。
……しかし雰囲気と言うか、貫禄がある人だ……貴族とかの可能性もあるのかもしれない。
「二人なら何とかなるだろ。いい経験になると思うしな!」
「もう、あなたってばそんな無責任な……」
「大丈夫だって、俺らの子だぞ? それに良い機会だし友達作って来い! 百人くらい!」
友達百人でっきるっかなー♪ じゃないぞ。
まぁ、言っても無駄だって解っている。父さんは理不尽な事はそうそう言わない……そして、言っても聞かない。
何より姉の表情が……何か輝いている。
「姉弟で旅行……楽しみです」
キリエ姉さんも中々に頑固者である……こうなった以上、僕も腹を括るしかない。
不安そうな表情の母さんに、僕はとりあえず聞いておく事にした。
「バナナはおやつに入りますか?」
「ユート、バナナはデザートよ」
うん、だよね。
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海を渡る所までは、母さんが送ってくれると言うのでお言葉に甘える事にした。
「……“世界を繋げ、ゲート”」
長い詠唱を終えた母さんが魔法を発動させると、扉程の大きさの魔法陣が展開される。父さんと姉さんがさも当然と言う感じでその魔法陣を潜っていくので、僕も後に続いた。
その先は海辺の砂浜では無く、その海の向こうにある大陸。砂浜では無く切り立った崖で、そのすぐ横に立っているのは灯台のようだ。
こうして僕達は、母さんの転移魔法で東大陸に到着した。
「これが転移魔法かぁ……凄いね、一瞬で海を渡っちゃったよ」
「そうだろ。母さんはすげぇだろ」
「もう、レオ……さて、それじゃあここからは……」
「うん。行くって決めた以上は、二人でおつかいをしてくるよ」
何すればいいのか解んないんだけどね。
「よし! それでこそ、俺達の子だ!」
ニッと笑い、乱暴に頭を撫でる父さん。
「くれぐれも気を付けるのよ……」
逆に母さんは心配そうだが、まぁ致し方あるまい。
あれ、二人はキリエ姉さんが天使だって知っているはずなんだけどなぁ……まぁ、それでも心配なんだろうな。
「それじゃあ、行ってきます」
「お父様、お母様、行って参ります」
僕達が街道を歩き出すが、父さんと母さんはまだその場に留まっていた。
「アリア、ゲート開いてくれねぇと帰れないんだが……」
「ちょっと黙ってて」
「はい」
何やってんだか、あのバカップル夫婦……。
……
灯台のある崖から坂を下っていくと、そこには広い岩場がある。そこに、魔物がいた。
「ハーピィですね」
顔から胸までが人間の女性で、翼と下半身が鳥の魔物。鋭い爪を持つ有翼獣で、食糧を持つ冒険者や商人を襲っては、積荷も人も喰らってしまう悪食の魔物である。
迂回して回避は出来ないだろうし、とりあえず戦闘準備だ。
「“攻撃力増加”」
まず、自分の攻撃力を上昇させておく。僕は白いチュニックと黒いズボン、チュニックの上に革鎧を着込んでいる。
手にするは無骨な剣と、盾を持つ……所謂ショートソードと、ラウンドシールド。この武器と防具は、父・レオナルドの鍛えた物だ。
「姉さんにはこれ。“魔法効果上昇”」
身体能力を上昇させずとも強い姉さんには“魔法効果上昇”をかける。
姉さんの装備は白いワンピースで、その腰部分を帯みたいなもので纏めている。上に羽織るのは茶色のマント。
手に持つのは、同じく父さんが鍛えたレイピアだ。
「ユーちゃん、作戦はどうしますか?」
「ハーピィの特徴はやはり空を飛ぶ点、それに鋭い爪での攻撃って父さんが言ってた。それなら、まずはヤツを地面に叩き落とす」
作戦は、姉さんが風の魔法でハーピィを地面に落とす。その隙に僕がハーピィの羽を斬り、爪に注意しながら止めを刺す。
「解りました、始めますね。“来たれ風の精霊三柱、我が元に集え”……」
姉さんが魔法の詠唱を始めた瞬間、ハーピィがこっちを見た。羽を広げたハーピィが空に舞い上がる。
「姉さん、僕が引き付ける!」
「ええ、お願いします」
前に出て、シールドを構える。鋭い爪を構えて急降下しようとするハーピィだったが、姉さんの詠唱が間に合った。
「“敵を撃て、風の矢”!!」
僕に向かって真っ直ぐ急降下するハーピィに、姉さんの放つ風の矢が三発立て続けに突き刺さる。
「三点バースト、大成功ですね」
それ、銃の話だよ姉さん。
風の矢を食らって地面へ落下するハーピィ。体勢が整う前に、僕は素早く駆け出す。
「そーれっ!!」
ハーピィの両羽の付け根をショートソードで切る。痛みに悶えるハーピィが爪を振り回すが、それは予想済みだ。ラウンドシールドで受け止める。
「ユーちゃん、右へ跳んで下さい」
「了解!」
既に、次の詠唱をしていた姉さんから指示が来た。僕は右に頭から跳ぶと、そのまま前転して勢いのまま立ち上がり、体勢を整える。
その僕に向かって走ろうとしたハーピィだが……。
「“水の矢”!!」
その頭に姉さんの放った水の矢が突き刺さり、ハーピィはそのまま倒れ付した。
「討伐完了ですね、ユーちゃん」
「そう言えば、二人だけで魔物と戦ったの初めてだったね」
島にも時折魔物は出る。そういう時は、父さんが基本的に倒していたんだけど、僕らも八歳を過ぎた頃からは、魔物との戦闘に参加していた。
僕達が魔物と戦う事、母さんは嫌がったんだけどね。父さんが、身を守る為の力はあって困るものじゃないって説得したんだ。
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初戦闘を終えた後、僕達はイングヴァルト王国があるだろう方向へと歩を進める。
そのまま街道を歩いて行くと、広い荒野に出た。大きな岩等がゴロゴロしている感じの荒野には、先客が居たようだ。
「兵隊さんですね」
「もしかして、イングヴァルト王国の軍かな? 戦っているのは魔物みたいだ」
荒野から少し北側に生い茂る木々の間から、狼やイノシシ等の魔物が飛び出してくると、兵士達に向かって突っ込んで行く。
「でも、これは……数が多すぎやしないか?」
「魔物の異常発生でしょうか」
姉さんは暢気に様子を見ているようだったが、僕は違った。兵士の中には、倒れて動かなくなった人達が何人も居たのだ。
——その瞬間、僕の足が勝手に動いていた。