03-02 遺跡/転移門
これまでのあらすじ:お風呂は…いいものだ。
マップにかかった、魔力の集まる洞窟を目指して一時間ほど。洞窟を目視で確認出来た……のだが。
「うーん、歩いては行けないね」
そう、洞窟は断崖の中程にあり、海岸からは歩いて行けない。どうやら船を使うか、泳がなければ辿り着けないようだ。
「これでは、スタリオンを連れて行けませんね。どうしますか?」
「選択肢は三つあるよ? 一つは諦めてそのままイスタの町を目指す」
「ユーちゃんが絶対に選ばない選択ですね」
そうかな?
「二つ目はイスタの町にスタリオンを預けて、もう一度ここへ来る」
「それだと、二度手間になりますね」
アリスの言う通り、手間はかかる。
「本命の三つ目は、コイツを使う」
「それは、確か門弾……あっ!」
「気付いたね、アイリ。スタリオンと馬車をこの場で預けて、今すぐ洞窟に行く」
僕達だから出来る荒業だけどね。
「「「三つ目ですよね?」」」
「勿論! 折角の冒険の気配、足踏みしてられないよ」
ワクワクが止まらないのだ!
「さて、誰に預けようかな?」
「ユート様、メアリーに頼んではどうでしょうか。彼女の住んでいた村には馬車職人がいると聞きました。頼めば預かってくれるのでは?」
「そうなんだ? それなら聞いてみようか」
早速、腕輪でメアリーに呼び掛ける。
『メアリー、聞こえるかな? ユートなんだけど』
『ご主人様〜! しばらくぶりです〜!』
まだ十数日しか経っていないよ、メアリー。まぁ、それだけ彼女にとって、出会ってからの数日間は密度の濃い旅だったのだろう。
『それで、どうされましたかご主人様〜?』
メアリーに、スタリオンと箱馬車を預けられないか聞いてみると、メアリーは快く承諾してくれた。
『ですがご主人様、箱馬車は宝物庫に入れた方がいいのでは〜? 部外者に見られたら、盗まれてしまうかもしれませんよ〜』
外見は古めかしい箱馬車にしているが、中身は快適な旅の為に今も弄っているからな。確かにメアリーの言う通りだ。
『そうだね、それならスタリオンを預かってもらいたいんだ』
『お馬さん、スタリオンって名前になったんですね〜! それなら私の家で預かれますから、どうぞです〜!』
おぉ、それは助かるな。
……
メアリーに渡しておいた門弾と、僕が岩肌に撃った門弾を空間接続。
「ご主人様、キリエ様、アリス様、アイリちゃん! お久しぶりです〜!」
「こんにちは、メアリー」
「お元気そうですね」
「メアリー、ユート様のお願いを聞いてくれてありがとうございます」
女性陣がキャッキャと楽しそうにしている、これはいい光景だ。
「ご主人様のお願いですから〜!」
まったくメアリーは、相変わらず可愛い子だなぁ。
「それじゃあ、今回一つ使ったから」
メアリーに門弾を渡しておく。まだ四つあるはずだが、念の為にね。
「はい〜! それじゃあ、スタリオンをお預かりしますね〜!」
スタリオンも久し振りのメアリーに、喜んでいるようだ。よく、旅の間にご飯をあげていたからな。
「それでは、また〜!」
「ヒヒィン!」
手を振って、メアリーとスタリオンが門を潜っていった。
門弾接続時間は一分しかないから、折角の再会も慌ただしくなってしまったな。
「今度、メアリーやジル、クラウスの所に顔を出しに行こうか」
「ふふっ、きっと喜びますね」
ちなみにアイリ同様に、クラウス達にも獣王陛下からの武勲章と銅級ライセンスが下賜されたそうだ。
村でも英雄扱いされているらしい。しかし、それを鼻にかけないのが彼等の良い所で、村人としてしっかり働いているそうだ。きっと村の中では、人気者なんだろうな。
メアリーを見送った僕達は、ようやく行動を開始できる。
「それじゃ、箱馬車を収納してボートを出そうか」
旅の始めに使って以来のボートだな。少し狭いが、四人なら乗れる乗れる。
「さぁ、準備完了だ。クルージングと洒落込もう」
「「「はい!」」」
先に女性陣がボートに乗り込む。
前の座席に姉さん、その後ろにアリスとアイリ。僕は最後尾だ。
「ユート君、オール等は無いのでしょうか?」
「いえ、アリス様。ユート様が作ったボートですよ」
「……あー」
その反応、何なんだい?
「まぁ、見ればわかるよ。しっかり捕まっていてね」
ボートを後ろから押して、海面に進水させる。僕も飛び乗って、最後尾の座席へ。
「さぁ、行こう」
最後尾の座席、肘掛けにある台座に手を乗せて魔力を流すと、ボートの背面に施した刻印部分から風が噴き出す。風がボートの推進力となり、海面を進み出す。
「風を噴射して進むんですか!」
「凄いですね! オールも帆も要らないなんて!」
風に靡く髪を押さえながら、アリスとアイリは周囲をキョロキョロ見ている。アイリのウサ耳が、風を受けて揺れている、可愛い。
「風が気持ちいいですねー!」
「こんな速さで走る船、他にないですよー!」
「潮風でベタベタになってしまうので、後で洗い流さないといけないですけれどね」
三人とも、ボートが気に入ったようだ。
調子に乗って、三十分程クルージングを続けてしまったよ。
……
さて、クルージングを終えて洞窟の入口に辿り着いたのだが。
「半分くらい海水で沈んでいるな。このままボートで中に入ろう」
ボートの風量を調整し、ゆっくりと進む。
「ユート君、松明を用意しますか?」
「入口は大丈夫だろうけど、奥の方では酸素が少なくなるから火は避けたいかな。発光を付与した遺失魔道具があるから、それを使おう」
「「……さんそ?」」
アリスとアイリが首を傾げる。
「酸素って言っても解らないのか……そうだなぁ、何から説明したもんか」
僕の浅い科学知識で納得させられるかどうか。まぁ、物は試しだな。
「まず、火が燃えるのに必要なものがある。何か解るかな?」
「薪でしょうか?」
「それに、蝋燭の蝋でしょうか?」
「そうだね、それを燃料と呼ぶんだ」
ふむ、と頷く二人。
「さて、物が燃える条件はもう二つある。一つは火種だ」
「火を点けるのもですね、それは解ります」
「ユート君、もう一つがさっき言っていた”さんそ”なんですか?」
アリスは頭の回転が早いな。
「そうなんだ。酸素って言うのは空気の中に存在する、火を燃やすのに必要な目に見えないものなんだ」
「魔力みたいですね!」
「確かに、そうですね」
「そうだね。それに加えて、酸素っていうのは僕達が呼吸するのに必要なものなんだ」
ほぉ~、と感心した表情でこちらを見る二人。姉さんは、うんうんと頷いて微笑んでいる。
「さて、酸素が必要なのは解って貰えたよね? でも、火が燃えたり、僕達が呼吸したりすると、酸素っていうのは二酸化炭素っていうものに変化してしまう。これは燃えないものだから火は消えてしまうし、僕達も呼吸ができなくなってしまう」
「成程、それでユート様は松明の使用に難色を示したのですね?」
「そう言う事」
「それじゃあ、魔導銃も火魔法の攻撃は避けるべきですね」
良かった、二人は納得してくれたようだ。
さて、時速二十キロメートルくらいでゆっくり進んでいるのだが……下に徐々に下がっているのではないだろうか?
やがて、行き止まりになった。岩盤が行く手を塞いでいる。
「行き止まり、ですか」
「ユート様、どうしましょう?」
「ちょっと待ってね、マップで見てみるよ」
マップを平面から立体に切り替える。
「岩盤の下に通れる穴がある。ちゃんと先に続いているみたいだ」
「潜るしかないですね」
姉さんの言葉に首肯する。
「三人とも、水着に着替えてくれるかな? 僕はその間に、遺失魔道具を用意するから」
……
背後から聞こえる衣擦れの音を、必死で意識しないようにしながら”創造者の小箱”である物を制作する。
形状はシュノーケルっぽくしているが、あれは浅瀬でしか使えない。なので、これに”息継ぎ”の付与をかけておく。
「ユーちゃん、準備できましたよ」
振り返れば、昨夜と同じ水着姿の三人。うん、何度見てもこれはいいものだ。
僕も革鎧やチュニック、ブーツを脱いで宝物庫へ収納。
「やっぱり、良く似合っているね」
照れながらもじもじする三人の水着美少女。眼福です。
三人にシュノーケル型遺失魔道具を渡していく。
「これは、この水中メガネの部分をこう当てて、マウスピースっていう部分を口に咥えるんだ」
実演しながら教えると、皆すぐに順応してくれた。
「なるほど、これで水中でも物が見え、息も続くのですね」
「画期的ですね、一財産築けるのでは?」
「遺失魔道具って時点で、公に出来ないよ」
アイリの言葉に苦笑しつつ確認すれば、皆の準備は整ったようだ。
「それじゃあ行こう、会話は腕輪でね」
海中に飛び込み、ボートを宝物庫に収納。クルージングの後は海中遊泳か。
……
この世界の海水は、工場排水などが無いおかげで透き通っていて、綺麗だ。
魚もたくさん泳いでいて、観光気分全開だな。
『ユーちゃん、進む方向はこちらで合っていますか?』
『あぁ、大丈夫だよ』
先頭を行くのは姉さん、その後ろにアリスとアイリ、殿が僕だ。理由は簡単、一番強いのが姉さんだからである。僕が最後尾なのは、三人の様子を把握して、何かあれば付与魔法や遺失魔道具で対処できるようにだ。
それはいいのだが、目のやり場に困る。見ますけどね、ムッツリじゃないから。
五分程進んだ所で、頭上にあったゴツゴツした岩肌が無くなった。マップで確認すると、ここから地上に上がれるようだ。
『海中のお散歩はここまでみたいだ。念の為、僕が先に登るよ』
切り札の”増幅”をいつでも発動できるように準備して、水面から顔を出す。普通の洞窟だな。マップでも、魔物や人の反応は無い。
「どうですか?」
「大丈夫みたいだ」
一人ずつ、手を差し出して引き上げる。
「さて、何が出るのやら」
「ふふっ、楽しそうな顔してます」
「そう?」
四人で並びながら進む……水着姿のままなの、何でよ?
……
海中洞窟を抜けた先で、魔力を感じる。
「動物も魔物もいない、でも魔力はある……何だろうな、これ」
「これは、もしかしたら魔素溜まりかもしれませんね」
お、初めて聞く単語だ。
「アリス、魔素溜まりって何だい?」
「あ、知らなかったんですね。魔素溜まりと言うのは、魔力が湧き出る源泉もしくは魔力を集める物体により、魔力が他の場所よりも多い場所を言うんです」
「ほぉ~、魔力を集める物体は置いとくとして、源泉っていうのは地面から魔力が吹き出すのかな?」
「そう言われていますね。大地の核から龍脈を通り、各源泉に魔力が流れているという研究者もいます。どの国でも、源泉と龍脈から溢れてくる魔力は、大地の恵みと考えられているんですよ」
多分、この星が放出している魔力なんだろうな。どういう理屈かは解らないけどね。
「それにしても、アリス様は博識ですね」
「魔法の先生に教えて頂いたんです。エカテリーナ様という、イングヴァルト王国の筆頭宮廷魔導師様ですね」
「何と言うか、凄いのですね……アリス様も」
公爵令嬢で、国の筆頭宮廷魔導師の弟子で、一流と言ってもいいほどの魔導師。確かに、アリスも普通ではない。
……
雑談しながら歩く事、十分程。
「この先で行き止まりみたいだ」
銃剣を取り出し、万が一に備える。女性陣もその後ろで、それぞれのメインウェポンを構えている……水着姿のままで。まぁ、“守護の首飾り”があるから大丈夫だとは思うけどね。
洞窟を進むと、広い空洞に出た。
「これは……遺跡なのか?」
そう、空洞の中心部にあったのは、明らかに人が製作した建造物に見える。更に言えば、見た目で言うと……門だろうか。
「秘匿された文明の遺跡でしょうか……」
「ユート様、その“目”ならば何か解るのでは?」
それもそうだ、その為の真実の目です。
ジッと門らしきものを見つめ、情報を確認する。
「……これは、来て良かったな。僕が発見したかった物の一つが見つかったよ」
「えっ」
「この門は転移門という、遺失魔道具だ。別の場所への転移を可能とする物だよ」
僕の言葉に、アリスとアイリが首を傾げる。
「転移門……ですか。確かに凄いですが、ユート君は既に門弾があるのでは?」
「うん、そっちじゃないんだよ。この転移門、魔力を集める力があるんだ」
そう、僕が探していた魔法である。魔素溜まりの原因は恐らくこの転移門だろうな。この近辺の魔力を集めているのだろう。
「ふむふむ……やっぱり日本語で付与したのね。なるほど、こういう詠唱になっていたのか……。よしよし、これを擬似魔石に刻印すれば、周囲の魔力を集めて充填出来る。どれくらいの吸収量になるんだろう? 一度試してみないといけないかな……」
「始まりましたね、ユーちゃんの癖が」
「何だか、ブツブツと言っていますね」
「表情は凄く楽しそうですが」
「ユーちゃんは新しい物を見つけたり、試してみたい事を前にすると考え込むんですよ。ちょっと子供っぽくて可愛いんですけどね」
「「へぇ~……」」
「聞こえているからね?」
子供扱いはやめて頂きたい。
さて、転移門に使われている素材や魔法の詠唱等は確認出来た。
「折角だし、実際に起動させて見るか」
どれだけ魔力が必要になるのか解らないしな。転移門に手を当て、魔力を流す。
「うおっ!? すげぇ吸われる!!」
これは、僕だけの魔力じゃ間に合わないかもしれない! 僕は慌てて擬似魔石を宝物庫から取り出し、魔力を補充する。
それから三十分程、そんな作業を繰り返し……転移門は起動した。
「相当量の魔力を喰うなぁ。用意していた擬似魔石、半分を消費しちゃったよ……」
まさか、こんなに魔力を消費するとは予想外だった。
「大丈夫ですか、ユーちゃん?」
「うん、大丈夫。しかしとんでもないな、これを使っていたのは相当古い文明みたいだけど、どうやって魔力を調達していたんだろ」
そして、コイツは何処へ繋がっているんだろうな。
「ユート様、この先に何があるのかは解るんですか?」
「いや、解らないんだ。だから、コイツを使ってみよう」
取り出した物に、アリスとアイリがビクッと後ずさる。
「め、目玉!?」
「何のですか!? 誰のですか!? くり貫いたんですか!?」
しまった、流石に目玉をヒョイッと取り出したら、引くよな。配慮が足りなかったな。
「安心して、僕の義眼のプロトタイプだよ、視界共有だけが付与されているんだ。よく見て、そこまでリアルじゃないでしょ?」
「あ……ほんとですね」
「ユート様の勘気に触れた誰かの物かと思いましたよ」
アイリ、お前僕を何だと思っているんだ。
「確かに敵には容赦しないけど、僕もちゃんと線引きはしているよ? 僕の身内を傷付けたら遠慮なく殺すけど、それ以外なら欠損なんかが無いように注意しているんだ。後で回復できる余地を与えとかないとね」
「あっ、はい……」
「そういう基準があるんですね……」
あるんです。
未遂くらいなら二度と逆らえないように再起不能にはするけど殺さない。殺意は無くただ敵対しただけなら、実力行使で黙らせる。
さて、プロトタイプを転移門の先に置いてみる。
「お、見えた。うーん、見た感じ普通の平原だな。生き物は……見た限りでは原住民も動物も、魔物もいないようだ」
これなら、潜っても大丈夫……だと思う。
「念の為、僕が最初に行ってみるよ。それで問題が無いようなら腕輪で合図をするから、潜って来てね」
「うーん……気をつけて下さいね、ユーちゃん」
「うん、気を付ける。それじゃあ、行って来るね」
銃剣を取り出し、臨戦態勢で転移門を潜る。
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わずかな抵抗を、突き抜けた感覚。何だろう、シャボン玉を突き抜けた感じ? 突き抜けたこと無いけど。
その後で、風が激しく吹き付けた。
「うおおお、風強いな……お、さっきの景色だな。広いなー」
風に耐え、手で庇を作りながら目を開けると、目前には広がる大平原があった。建造物が無いお陰か、空が近く見え……る?
「……雲、真横に無いか?」
そう、普段であれば天高く流れる雲が……随分近くにある。具体的に言えば、地面からビル三階くらいの高さに。ビルの一階が三メートルと仮定すれば六メートルくらいだ。とても近い。
「まさか、ここって……」
背後を振り返る。少し先に、地面の途切れる箇所があった。しかし、その先にあるのは海面ではない。
「ここは……空の上なのか」




