03-01 北への旅/浴槽完成
これまでのあらすじ:アイリをパーティに加え、4人旅です。
王都から旅に出て、十日。僕達は冒険者として依頼を受けながら、都や町、村を巡っていた。
ハイスペック箱馬車を作って、本当に良かった。移動速度が段違いだからね。
さて、今日も一つの依頼完了報告だ。
「こんにちはー」
「おぉ、人間の兄さんか」
「ユートですってば。今日は依頼完了の報告です」
「依頼の品、毒消し草を十個ですね」
ジーッと手渡した毒消し草を見て、頷く受付嬢(御年四十二歳)。
「はい、確かに! いつも早いねぇ!」
遺失魔道具使ってますからね。魔物の討伐や、素材の採取といった依頼を中心に受けている僕達だが、既に依頼は三十件はこなしてきたんじゃないだろうか。
依頼の完了手続を済ませ、掲示板を見るも手頃な依頼は無さそうだ。
「ほとんど鉄級の依頼ですねぇ」
「ユート君、そろそろ次の町でしょうか?」
依頼書を見て首を傾げる姉さん、今後の方針を僕に尋ねるアリス。
そこへ、アイリが一つの提案をして来た。
「ユート様、次の目的地ならばイスタの町をお勧めします」
「イスタの町?」
「ミリアン獣王国の最北端の町で、漁業が盛んな地域です。ユート様は様々な文化に触れたいとの事でしたので、一度行かれてみては? 最も、その西側には虎獣人族の獣皇が治めるリレック獣皇国との国境もありますが」
そういや、獣人の国は四つあるんだっけか。
「獣皇国か。どんな国なの?」
「獣皇国は必要があれば他国と戦争をするし、必要があれば交易もします。実利主義で、他種族に対してはある種寛容と言えますね」
ある意味、国としては普通の国なのかもしれない。
「獣王国との関係はどうなのでしょう?」
「ここ五十年は戦争も無く、互いに不干渉ですね」
まぁ、それなら問題はないのかな。
「それじゃあイスタの町を目指してみようか。獣皇国に行くか行かないかは、その後で決めても遅くは無いと思うんだ」
「私はユーちゃんに着いていきますから」
「私もユート君に着いていきます」
「私は奴隷ですから、ユート様に付き従うのみです」
「……自己主張、してもいいからね?」
……
宿を引き払い、僕達はまた旅路へ。
「スタリオン、またお願いね」
スタリオンとは、箱馬車を引いてくれる僕達の馬だ。いつまでも名前無しなのは可愛そうだと言う事で、かっこいい名前を付けてあげようと悩んだ結果、スタリオンになった。
気に入ってくれているみたいで、僕に擦り寄ってくる。こいつも僕達の旅の仲間だ。
「ユート様、スタリオンの飼料も仕入れて来ました」
「ありがとう、アイリ。良かったなー、スタリオン」
「ヒィン!」
可愛い奴め、また付与魔法で強化してやるからな!
さて、出立の前にここで一度ステータスを見ておこう。戦力の把握は必須事項だからね。
僕の”真実の目”があれば、ギルドで鑑定板を使わせてもらわなくても済むから、楽だね。それに鑑定板には、技能や称号は出ないからな。
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【名前】ユート
【職業/レベル】付与魔導師/18
【称号】悪魔の天敵(NEW)・獣人族の友(NEW)
【賞罰】ミリアン獣王国 獣王武勲章(NEW)
【名前】キリエ
【職業/レベル】剣士/24
【称号】獣人族の友(NEW)
【賞罰】ミリアン獣王国 獣王武勲章(NEW)
【名前】アリシア・クラウディア・アークヴァルド
【職業/レベル】魔導師/21
【称号】獣人族の友(NEW)
【賞罰】ミリアン獣王国 獣王武勲章(NEW)
【名前】アイリ
【種族/性別/年齢】獣人(兎)/女/13歳
【国籍/階級】ミリアン獣王国/ユートの奴隷
【職業/レベル】戦士/14
【ステータス】
体力:58
魔力:37
筋力:56
耐性:52
敏捷:89
精神:49
【技能】剣術Lv2・銃Lv2
【称号】兎獣人族・ユートの奴隷(NEW)・人間族の友(NEW)
【賞罰】ミリアン獣王国 獣王武勲章(NEW)
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僕のレベル及びステータスの伸びの悪さと、姉さんのスペックの高さは相変わらずだ。僕は何かに呪われてるんじゃなかろうか?
アリスは順調に成長しているようだ。
アイリは獣人族なので、レベル差はあれど元のスペックが高い。彼女も戦力として期待できる。
いざとなれば、僕の付与魔法で強化もできるしね。
……
昼過ぎに町を出発し、目指すはイスタの町だ。
「イスタの町へは、馬車で一日半と商人の方が言っていました」
「私達なら半日でしょうか?」
「そうすると到着が夜中になりそうですね」
「焦る旅じゃないからね。一晩野営をして、明日の午前中にイスタの町に入ろうか」
異議はないようで、三人共笑顔で頷いてくれる。
そんな話をしつつも、時折馬車を狙って現れる魔物達。
「今度は火吹きトカゲですか」
「火蜥蜴ですね」
頼むから、カタカナで言わないでね。
「それでは、水魔法で討伐しますね」
「頼むよアリス、護衛は任せろ」
馬車を止め、こちらに迫る四匹の火蜥蜴を見据えるアリス。真実の目で他に潜む魔物がいないかを確認しつつ、僕とアイリはアリスの前に立つ。
火蜥蜴達は、僕とアイリを睨み火を吹いてくる。
「「”障壁”」」
守護の首飾りに付与された障壁で、火吹き攻撃を防御。
その間にも、アリスの詠唱は滞り無く進み……。
「”敵を撃て、水の矢!”」
放たれた四本の水の矢が、火蜥蜴を貫いた。
「お見事!」
「流石です、アリス様」
本当にアリスの魔法は強力だな。
「討伐完了ですね。素材はどうします?」
「一々この場で素材を剥いでいたら、時間が勿体無いからさ。宝物庫に入れて、あとで素材を剥ごうかと」
汚れるし、魔物が襲ってくる度に素材の剥ぎ取りをしていたら、あっという間に日が暮れてしまうからね。効率重視だ、あとでまとめて剥ぐ。
「普通の冒険者なら、この場で素材を剥いでしまい、不要な部位を焼却処分して行くんですけどね」
苦笑するアイリだが、まぁ気持ちは解る。普通じゃないという自覚は、ある。
……
そんな普通じゃない旅路も、夜が来れば中断になる。僕達が野営箇所に定めたのは、草原のど真ん中だ。
野営エリアを囲むのは白い麻紐なのだが、これは”認識阻害”の遺失魔道具だ。
”快適安全空間”では、馬車とスタリオンを守る事が出来ない。そのため王都付近での事件の間は、僕が夜の番をしていたからね。
王都を発つ前に開発しておいたのだ。
最近、食事は女性陣が用意してくれるようになった。何でも、淑女の嗜みです! だそうだ。皆、いいお嫁さんになりそうだね。
さて、その間に僕がやる事と言えば、魔物の素材の剥ぎ取りだ。汚れ仕事になるから、可能な限り女性陣にはやらせたくないしね。今日は十五匹の魔物を討伐したので、一苦労である。
「これで終わりだー!」
ようやく、最後の魔物の素材を剥いで、”収納鞄”に収納。
はぁ、何という血溜まり。”携帯型洗浄水栓”で血を洗い流す。
そのまま、自分も頭からシャワー。とりあえず血を洗い流すだけで、後でちゃんと入るけどね。消臭の魔法とか無いだろうか?
「ユート様、お疲れ様です。作業は終わられましたか?」
「丁度終わった所だよ、そっちはどうだい?」
「はい、食事はいつでも。ですが、先にしっかりと洗浄なさってからの方がよろしいのでは?」
まだ血の匂いがするからなぁ。皆が作ってくれた折角のご飯が、台無しになるのも嫌だ。
「そうだね、そうさせて貰おうかな」
「はい、ではそのように」
アイリは微笑んで一礼すると、姉さんとアリスの下へ歩いていく。うんうん、アイリもすっかり馴染んだなぁ。
布と木材で作った、仮囲い。別に遺失魔道具でも何でもない。
人が五、六人は入っても余裕があるこの囲い、当然シャワー用のスペースだ。広くしたのは理由がある。
「ようやく完成したぞ、浴槽! やっぱり日本人なら浴槽に浸からないとね!」
正確にはもう日本人じゃないけど、心は日本人のままだ!
囲いも、この浴槽を置くために広めに作ったのだ。
浴槽に給湯の遺失魔道具を設置し、給湯開始! その間に頭からお湯で流し、上から順番に血の匂いを洗い落としていく。
洗い終わるかというところで……背後に、気配……!!
「失礼しますね、ユーちゃん」
「おっ、お邪魔します!」
「ユート様、お背中をお流ししましょうか?」
「何やってくれちゃってんの!?」
まさか、乱入してくるとは……!!
流石にまずい。
彼女達の一糸纏わぬ姿を目の当たりにした場合、僕の身体の一部が反応するのは至極当然。そして流れる気まずさ、そんな状態で旅が出来るかっ!!
更に言えば、姉さんもアリスもアイリも、それぞれタイプは違えど紛うことなき美少女だ。僕の理性さんと煩悩さんの戦い、どちらに軍配があがるであろうか。
僕は、自分のその辺りを信用し切れない。だって孤島にいたんだ、そんなシチュエーション無かったんだ! 姉さんと毎日風呂に入っていたけど、正直イッパイイッパイでした。
「いえ、心配いりませんよ? 水着着用です」
「マジだよね!? 着てるのね、姉さん!?」
「先程出立前に購入したんです、流石に裸はまだ恥ずかしいので……」
「ナイスだアリス!! それよりまだって所ツッコまないほうがいい!?」
「お望みなら、脱ぎますが」
「脱ぐなアイリーっ!!」
ちなみに、僕は、全裸なんですが。
「こっち向かないんですか、ユーちゃん?」
「大丈夫だよね、向いていいんだよね? 信じるよ?」
「大丈夫です、お姉ちゃん嘘吐きません」
うん、信じる。
……良かったー、ちゃんと水着着てたー。
それにしても、うん。これはこうして見れば、うん。ハラショー。
姉さんは、紺色のビキニタイプの水着。ブラトップはホルターネックで、いやらしさを感じさせず色気を感じさせる。バランスの取れたプロポーションに、健康的な肌が何とも言えません。
アリスは、蒼のワンピース……と見せかけて、モノキニってやつじゃないか? 前から見るとレオタードタイプだが、後ろから見るとビキニタイプに見える。白磁のような白い肌に加え、もはや暴力的とも言える胸部装甲の存在感は圧倒的だ。
アイリは白い水着で、チューブトップタイプのトップスに……ローライズだ!? あっ、尻尾のせいか!! 滑らかな肌の肩とお臍が露出し、更にウサ耳ウサ尻尾が可愛らしい。控えめな胸だが無いわけではなく、ささやかな膨らみが背徳感に拍車をかける。
折角の水着姿を見せてくれたわけだ。ここは、何か言うべきだろう。
「皆、とっても似合ってるよ……そしてありがとうございます!!」
「「「ハッキリ言った!?」」」
だって、目が幸せなんだもの。
「い、意外と食いついてくれましたね……いえ、決して嫌なわけでは……」
今更恥ずかしくなったのか、姉さんが照れてモジモジしだした。なんてレアな表情なんだろう。
「いや、僕も健全な思春期男子だよ? こんな素敵な水着姿見せられたら、そりゃ嬉しいよ。僕、ムッツリじゃないから」
「ブリック殿下に言われた事、意外と気にしてますか!?」
してないやい! 宝物庫から予備の手拭いを出して腰に巻き、とりあえず正座する。
「な、何で正座……?」
「……いや、何か凄い神々しいモノ見てるなーと思って、何となく」
美の女神が三人で並んで立ってるのよ? 正座しないと失礼じゃない?
「あれ、ユーちゃん? それって……」
「ん? あぁ、浴槽。後で三人に見せて驚かせようと思ったんだけどね」
「浴槽まで作ってしまったんですか!」
「これが、浴槽なのですね……村では水を桶に汲んで行水でしたから、見るのは初めてです!」
おっ、いいねいいね。三人共、浴槽に興味津々だね! それじゃあ折角だし、一番風呂を堪能して貰おうか。
「で、何故こうなった?」
浴槽に、四人。
僕の右に姉さん、左にアリス、膝の上にアイリ。うん、おかしいよね!!
「ユーちゃんだけ入れないなんて、可愛そうじゃないですか」
僕の右腕を抱きしめるようにする姉さん……胸の、谷間に右腕が挟まれている!?
「ユート君が作ってくれたんですから、ユート君も一番風呂に入らないと」
僕の左手を恥ずかしそうに握るアリス……左腕に、触れたり離れたりする柔らかいモノが……。
「ユート様、私達が一緒では不満でしょうか?」
僕の膝の上に座るアリスの、柔らかいお尻が太ももに押し付けられている……尻尾も押し付けられている。
「とても素敵な感触で、本当にありがとうございます」
「「「正直!!」」」
いや、ムッツリじゃないからさ。
三十分程、久しぶりの浴槽を堪能した僕は、流石に身体を洗う所にいる訳にはいかないので、浴槽から上がると同時に囲いの外へ。
残念そうな顔するなっ!! 襲っちゃうかもしれないでしょうが!! 浴場で欲情とかあかんやつ!
「ユーちゃん、それ別に上手くないです」
ほっとけ!!
その後、皆が作ってくれたご飯を堪能し、快適安全空間で眠る。ここでも、当然接近される訳で、夜な夜な僕の理性が試されている。
右にアリス。左にアイリ。アイリの先に姉さん。
昨日は、右に姉さん・左にアリス・その隣にアイリだった。
こやつら、ローテーション組んでいるっ!? あったかやわらかで、こんなん寝れるかっ!!
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翌朝、スッキリした表情の女性陣。
こちとら寝不足だよ!! でもありがとうございます!!
問題は、この旅のメンバーの女性比率の高さだな。こちとら思春期男子だぞ、もう。
さて、野営設備を宝物庫に撤収し、イスタの町へ。だけど、その途中で。
「姉さん、ちょっと止まってくれる?」
御者台の姉さんに、停止をお願いする。すぐに僕の意を汲んだ姉さんが、馬を止まらせてくれる。
「どうかしましたか、ユーちゃん?」
「うん、海岸線の所に洞窟があるみたいなんだけど、そこに魔力反応があるんだ」
真実の目に付与されている、”魔力感知”。王都レオングルでの影対策に施した付与だ。これは詠唱をアリスが知っていたので、渡りに船と追加したのである。
「魔力反応、ですか?」
「うん、でも生物の反応が無いんだ。何かあるのかもしれない」
「ふふっ、冒険したいんですね?」
「あぁ、僕の我儘だから、駄目ならそう言ってくれていいからさ」
「そんなに、キラキラした顔されたら嫌なんて言えませんよ」
「それに、私達のパーティリーダーはユート様です。ユート様の行く場所へ、どこへなりとも着いて参りますよ」
いつの間にかパーティリーダーになってたわ。まぁ、許可が得られたようなので、行ってみることにしよう!
2018/5/2 キャラクターのレベル・ステータスを見直し、訂正。
 




