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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
アフターストーリー

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フリード編15 正体/説得

 ウィンドルグ王国の王都に展開された、ユートの遺失魔道具アーティファクト護国の円蓋(ガーディアンズドーム)】による聖域。その範囲の外は邪竜の瘴気で満たされ、生きとし生ける者は皆無となっている。地の底から噴出する瘴気は今も、増加傾向にあった。


「ったく……世界の終わりってのは、何度見ても気分が悪くなる。とりあえず……」

 ユートは聖域内の瘴気を【神の全能の眼(プロビデンス・ホルス)】で確認し、両手を広げる。

「こっから消えろ」

 そう告げると同時に、聖域内の瘴気がユートの頭上に向けて集まっていく。

『な、何だこれは……貴様、一体何を……』

 瘴気が集まっていく、その理由……それはユートが、”力”の根源魔法アカシックレコードを行使したからだ。瘴気を対象とした引力を発生させ、聖域内の瘴気を一カ所に集中させているのである。


「邪悪な竜……ねぇ。随分と背伸びしたもんだが、お前の正体はこの()()()()()()だろう? なにせ、お前の肉体は既に滅んでいるんだから」

 竜の姿は、生物の頂点とされるそれを模しただけ。本来は実体の無い存在である事を、ユートは見抜いていた。

『な、何を世迷言を……』

「僕の眼は特別製でね……お前を見た瞬間に、この世界を汚染して来た邪竜の正体ってのが視えたのさ」

 ユートの眼、【神の全能の眼(プロビデンス・ホルス)】。それは彼の生み出した刻印付与魔法を施された、正真正銘の神の眼だ。ありとあらゆる物の本質を見抜き、現在過去未来を詳らかにする規格外の性能を持つ。


「どうやら、魂が瘴気おまえの主食みたいだな。魂を喰らい貪り、それを元にして瘴気を生み出しているみたいだが……ユーリは、お前にとっちゃご馳走だったんだろうな」

 ユーリ……その正体は、元勇者フミナ・ヌマジリだ。彼女の魂は、常人よりも強かった。その理由は、彼女の魂が辿って来た軌跡にある。

 一度は勇者として異世界ヴェルスフィアに召喚され、その後に憤怒の大罪の化身となった。その際に彼女の魂は、普通の人間よりも上位のステージに昇っていた。ステータスや能力を奪われても、生を終えて転生してもそれは変わらない。肉体が弱体化しても、滅びても、魂はそのままなのだから当然だろう。

「しかしユーリ……いや、フミナの魂は消滅した。そうなると次は、他の人間を狙うんだろう? そうはさせたくないんでね……まずは、この国から出ていきな」

 ユートがそう言って、手を水平に振り払う。その瞬間、一カ所に集約された瘴気が白い光によって消滅した。


 これで、脅威は去った。ユートと邪竜……いや、瘴気の怪物のやり取りを見ていた者達は、そう思って安堵の溜息を吐く。

『無駄だ。我が正体を見抜いたのは褒めてやる。だがそれだけだ……』

 しかしそれはぬか喜びだとばかりに、声が響き渡る。

『貴様の言う通り、この瘴気の全てが我だ』

 それは、聖域の外から聞こえた。瘴気に囲まれている以上、ウィンドルグ王国の窮地は変わらない。それを突き付けられた事で、ウィンドルグ王国の民達は絶望で膝を突く。


『いつまでその魔力障壁は保てる? 魔力が尽きる前に我を滅ぼすか? その為には、瘴気を全て消滅させるほかない!! 貴様にそれが出来るか!! 人間!!』

 そんな瘴気の怪物の言葉に、ユートはあっさりとした様子で応える。

「出来るけど?」

 気負った様子もなく、あくまで自然体。そんなユートの余裕の返答に、瘴気の怪物は言葉を失った。

 同時にウィンドルグ王国の民達は、余裕のある声色と発言に希望を覚える。何の確証も無い、そんな言葉であるのに……何故か、ユートの声は彼等の恐怖を薄れさせていく。

『……よ、世迷言を。たかが人間に、そんな事が出来るものか……!!』

 瘴気の怪物がユートの言葉を否定しようと、そんな事を宣う。

「いや、出来るよ?」

 そんな発言をぶった切るのは、当然ユートだ。


 ただし……

()()()()()()、お前を消滅させれば良いだけの話じゃないか」

 その発言内容は、ブッ飛んでいた。


『……は?』

 瘴気の怪物は、一瞬思考が停止した。

「……は?」

 ウィンドルグ国王は、何を言っているのかしらん? と、耳を疑った。

「「「「「…………は?」」」」」

 ウィンドルグ王国の民達は、この男は何を言っているんだとユートの頭を疑った。


「……嘘、でしょ……?」

 フランドールはこの世界を滅ぼすというユートの発言を聞いて、止めなくてはと思い立った。しかし、そんなフランドールを止める者がいた。

「フラン殿、心配は要らぬ……」

 背に傷を負いながらも、立ち上がろうとするフリードリヒ。彼の言葉に、フランドールは歩みを止め……そして、振り返る。

「フリード……様……」

 不安そうなフランドールの表情に対し、フリードリヒは確信に満ちた表情で頷き返す。

「ユート様を、信じて頂きたい……あの御方は、創造の神……必ずや、貴女達に救いを齎して下さる……」


……


 困惑と恐怖に満たされた、ウィンドルグ王国。その上空に、フワリと浮かび上がるユート。聖域の維持は大して苦でもないが、この状況が長く続くのはウィンドルグ王国の民達の為にも良くないだろう……そう考えての行動なのだが、何の予備動作も無く浮き上がるので誰もが目を見開いていた。

 そんな事情は露知らず、ユートはウィンドルグ王城に向け、呼び掛ける。

「この国の王は居るだろうか?」

 そんな呼び掛けに対する返事は、間を置く事は無かった。国の行く末を見守ろうと、ウィンドルグ王は外の様子を見守っていたのだから。


「余が、この国の王……ウィンドルグ王国国王、ヴェルナイト・ジーン・ウィンドルグだ」

 そんなウィンドルグ王に、ユートは一つ頷いて挨拶を返す。

「そうか。俺は異世界ヴェルスフィアにあるアヴァロン王国国王、ユート・アーカディア・アヴァロンだ。どうぞよろしく」

 何ともあっさりとした、国王同士の初対面の挨拶。しかし事態はまだ終わっていない為、ウィンドルグ王もそこには触れずに話を先に進める。だってほら、聞き逃せないとんでも発言だったし。

「う、む……此度は、救援に駆け付けて貰った事を感謝する……して、アヴァロンの王よ。先の発言について……その、真意を問いたいのだが」

 ウィンドルグ王の言葉を受けて、ユートも「まぁ気になるだろうさ」といった様子で何度も頷く。

「まず前提条件だが……この世界は既に終末を迎えている。それは言わずとも理解できるだろう?」

 瘴気に侵された地には草木も生えず、立ち入ろうものなら生命はすぐさま息絶え、瘴気の魔物へと変貌してしまう。こんな状態になってしまった世界で、果たしてどれくらい生きながらえる事が出来るか。少なくとも、ウィンドルグ王国の外は壊滅してしまっているのだ。


「う、む……だが、しかし……!!」

 それでも、民達の為に抗わなくてはならない。相手が例え、自分達よりも強大な存在だったとしても。そんな覚悟を決め、ウィンドルグ王はユートを説得しようとする。

 だが、その言葉をぶった切って、ユートはニッと笑った。

「だが、この聖域内は別だ」

 ユートが人差し指で示したのは、現在ウィンドルグ王国を守る聖域の結界。確かに聖域内は、瘴気に侵されずに済んでいる。

「無理矢理だけど、フリードも世話になった事だし……君達を、我々の世界に移住させる。この状態のままね」


 ユート達の世界に、移住する。この状態のまま。どういう事だ? 彼は何が言いたいのだ? 国王も、民も、ヴェルスフィアから駆け付けた者以外は意味が解らずに困惑状態だ。

 ウィンドルグ王はいくら考えても意味が解らなかったので、仕方が無いから詳細を聞く事にした。

「……ちょっと、何言っているか解らんのだが」

 めっちゃ素の状態だった。王同士の対話であるのだが、そんな事はもうどうでもよかった。お前は一体何をする気だと、詰め寄らないだけマシだとすら思っていた。まぁ、相手は空中だから詰め寄れないんだけど。


 ユートはここでようやく、自分が何をしようとしているのかハッキリと明言する事にした。

 最初は世界を滅ぼすと言って緊張させ、しかし希望は潰えていないのだと情報を小出しにして食い付かせる。竜眼で感情の色を見れば、彼等が自分の言葉にどれくらい食い付くのかが見て取れたのだから。

「民も臣も救いたいだろう? 城も家も畑も必要だろう? この国はまだ生き永らえられるだろう? それなら、異世界に移住しようじゃないか。ヴェルスフィアに、国ごと転移させる。この聖域内を、まるっと」

 今現在、展開されている聖域。その内側だけをヴェルスフィアに転移させれば、この世界が滅んでも大丈夫だよね? という事だった。


「な、何と……!? そのような事が、可能なのか……!?」

 信じられない!! と言わんばかりのウィンドルグ王に、ユートはへらっと笑って応える。

「出来るよー。インディアンじゃないけど、創造神、ウソツカナイ」

「済まん、全く意味が解らぬ……」

 インディアンって何? よりも、創造神ってどういう事? の方が比重が大きい。しかしこの男は創世の神から直々に、創造神を名乗る事を許されている。ウィンドルグ王は知らないが。


 一人か二人が世界を渡るだけでも、普通は国を挙げての儀式を要する。竜召喚も似たようなものなのだから、ウィンドルグ王だけでなく貴族も平民もそれは察する事が出来た。

 だというのに、広大な土地ごとの転移。そんなもの、人間業ではない。本当に、そんな奇跡を起こせるというのか? それもこんな青年が、安請け合いをするように。


 しかしながら、ウィンドルグ王は不思議と確信していた……この青年は、きっとそれが出来るのだろうと。フリードリヒと会わなかったならば、疑ってかかっただろう。しかしながら、フリードリヒの主君であるユートならば……もしかしたら、という予感があった。

 だが、どうしても気になる。

「貴殿は何故、そこまでして……」

 ユートにとって、守るべきは自分の国。そしてウィンドルグ王国は、文字通り別の世界の国だ。この国が滅ぼうと、フリードリヒさえ連れ戻せば何の問題も無いはずだ。

 だというのに、そんな奇跡と称するのも生温い……神の所業に等しい手段で、ウィンドルグ王国を救う理由。それが、解らなかった。


 それも無理のない事だ。この世界の人間達は、ユート・アーカディア・アヴァロンを知らないのだから。

「何故、ね。企業秘密だが教えてあげよう……俺は、()()()()()()()

 ウィンドルグ王国の者達は、何言ってんだろう? と思いはした。しかし、それでも余計な事は言わずにユートの言葉を待つ。

「俺の左腕……フリードはさ、僕に何かを願う事が滅多に無いんだ。そんな彼が、俺に願ったんだ……無辜の民を、救って欲しいと。自分はボロボロになるまで戦って、この国を守る為に命を懸けて。この国を救う……それがフリードの願いなら、俺はいくらでも力を貸すよ」

 ユートはそう言って、両手を広げる。


「変神」


 純白の光と共に、ユートは神化してその姿を見せ付ける。これが、彼等を説得する最後の一手だ。なので、神の放つオーラもバンバン垂れ流している。

 案の定、民達は……勿論、騎士や魔導師、貴族達も膝を突いて頭を垂れる。それは、ウィンドルグ王も例外ではなかった。

「そ、その神々しさ……っ!! き、貴殿は、一体……!?」

 一気に、王の心の天秤は傾いていた。勿論、ユートの想定通りにだ。

「なに、通りすがりの付与魔導師で、瘴気の怪物みたいな連中の天敵だよ……さて、答えを聞こう。異世界転移を、君達は受け入れるか?」

 その言葉を受けて、ウィンドルグ王は一瞬逡巡し……しかし、すぐに決断を下した。

「……この世界を捨てるのは、忍びない。しかし貴殿の言う通り……このままこの世界に残れば、我々は瘴気に侵され死に絶えるであろう」

 それは、座して滅びを待つ事に他ならない。だが、民達は生きたいと願うだろう。王である自分でさえも、生きたいと思っているのだ。ならば、選択肢は最初から一つだけだ。


「我が国の民が、無辜の民達が救われるのであれば……答えなど、最早一つしかない……アヴァロンの王よ……!! どうか、頼む……ッ!! 私に差し出せるものならば、この命も差し出そう!!」

 そんな決死の懇願に、ユートはまたもへらっと笑って頷いた。

「こんなに民の事を思っている王の命を貰ったら、その民達に恨まれるだろうさ。それにウィンドルグ王国の王は、アンタだ。しっかりヴェルスフィアで、良い国にしてくれればオッケーって事で」


 そうと決まれば、早々に行動を起こすのがユートクオリティ。しかし、こういう時にはアレが必要だ。

「それじゃあ始めるぞ? さぁ、国ごとお引越しの時間だ!!」

 ユートがそう言うと同時に聖域が持ち上がり、浮上していく。それに伴って、聖域の内側あるウィンドルグ王国の大地も浮かび上がっていく。それはまるで、アヴァロン王国があるアーカディア島の様に。

 同時に、上空に巨大な魔法陣が描かれていく。暗雲の空に描かれる白い魔法陣は、まるで天国への門のようにも見えた。


************************************************************


 しかし、瘴気の怪物が黙っているはずも無い。

『逃がさぬぞ、虫けら共……!!』

 聖域の外は、瘴気の怪物の世界。そこから、まだ殲滅されていない邪人や瘴気の魔物達が集まり出す。ウィンドルグ王国が存在した場所に一気に雪崩れ込んだそれらは、聖域ごと呑み込まんとばかりに積み上がっていく。それはまるで、一本の触手の様にも見えた。

 同時に鳥などの生物が変貌した瘴気の魔物が、一斉に舞い上がる。それらは聖域ではなく、描かれていくユートの魔法陣に向かっていった。魔法陣を破壊し、聖域の行き場を無くす……そういう意図であろう。


「ま、そう来るよな? でもそんなの関係ねぇ」

 ユートがそう言うと同時に、アヴァロン王国の精鋭達は魔導兵騎を駆り、聖域の外へと飛び出していく。彼等は慣れた様子で空を駆け、飛翔する魔物に攻撃を開始した。

「皆さん!! ユーちゃんの魔法陣に、近付けさせないで下さい!!」

 キリエがそう声を張り上げれば、返って来る言葉は「応!!」という答えのみ。世界の滅亡と、生命の存続を賭けた最後の攻防戦が開始される。

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