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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
アフターストーリー

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316/327

フリード編7 行軍/検問にて

 飛空艇ラ・ミエール。その中で、ウィンドルグ王国の面々は眼下の景色に盛り上がっていた。

「まさか空を飛ぶ船とは! 素晴らしい!」

「陸路と違い、魔物や野盗を警戒する必要もないのはありがたいな」

「空から見ると、我等が国はこの様な景色なのか……」

 最初は飛空艇に乗る事におっかなびっくりだったウィンドルグ王国軍も、不安より興味が勝ったらしい。今では窓の外を眺めて、初めての体験に心を躍らせている。


「気を緩めるなよ、これから我々は魔物の大群と戦うのだからな」

 そう言って部下達に釘を刺したのは、エディ・フォン・バルカスだ。

 彼は騎士団長であり、王の側近。その立ち位置を考えれば、国で王の傍らに立つべきである。そんな彼がこの行軍に加わっているのには、理由があった。


 理由の一つは、召喚された竜・フリードリヒである。

 人化の遺失魔道具アーティファクトや、生体端末アバター……そして、この飛空艇ラ・ミエールを所有する青年。それらは全て、彼が仕える王より下賜された物だと言う。

 その上、騎士団の精鋭でも歯が立たない圧倒的な実力。その試合を見ていたエディも、フリードリヒには敵わないと直感で悟っていた。

 更には、フランドールに対する彼の接し方だ。婚約破棄を受けて傷付いたフランドール。そんな彼女を気遣い、支える姿は王宮でも度々目撃されている。そのお陰で、フランドールは穏やかそうな笑顔を浮かべるようになった。

 ウィンドルグ王は彼の存在を重視しており、エディやダリウスも彼を厚遇する事に賛同した。

 エディが同行する理由としては、それだけでも十分であった。


 頭が痛いのは、もう一つの理由である。それは勿論、フランドールとキースナイトの確執だ。これには、ウィンドルグ王も盛大に頭を抱えた。


 フランドールは竜の巫女である。巫女たる彼女は、召喚竜フリードリヒと行動を共にするのが役目。彼女がヴォルテール王国に向かうのは、何ら問題が無い。

 対するキースナイトだが、彼は王太子位を剥奪されたものの王子である事に変わりは無い。王の名代としてヴォルテール王国に向かうのは、王子の中の誰か。その責務に最も向いていたのが、キースナイトなのであった。

 ちなみに最悪の場合キースナイトの身に何かあっても、問題無いという面もある。既に見限られつつある状況なのだ。


 そんな召喚竜と公爵令嬢、そして第一王子。ハッキリ言って、禄でもない事が起こる予感がビンビンである。

 キースナイトがフランドールを侮辱するならば、フリードリヒは確実にウィンドルグ王国を見限るだろう。そうなっては、目も当てられない。

 その為、この行軍にはキースナイトのストッパー役が必要だった。


 宰相であるダリウスは、論外だ。彼はフランドールの実の父親であり、キースナイトに対して憤りを抱いている。表面上は普段通りだが、キースナイトの廃嫡を最も喜んでいるのは彼だろう。

 そこで白羽の矢が立ったのは、エディだ。彼は幼少期よりキースナイトに剣術を教えており、いわば師匠である。その為、キースナイトもエディには頭が上がらないのだ。


 ……


「バルカス卿、あれが国境の検問だろうか?」

 フリードリヒの視線の先には、砦の様な建造物があった。隣国・ヴォルテール王国の検問である。

「その通りだ。む、やはり警戒されているな……」

「当然であろうな。まぁそれも想定内、検問の手前で一度着地しよう」

「そうだな。魔物討伐に加勢する意思があると、伝えるべきであろう」

 そんなやり取りをする二人を、苛立たしそうに睨み付ける者が居た。お察しだろうが、キースナイトである。


――王太子たる私に伺いも立てずに、話を進めるとは何事か……!!


 そうは思いつつも、口に出さない。自分の立ち位置の危うさを、流石のキースナイトも痛感させられたからだ。


************************************************************


 それは、フリードリヒが召喚されて三日目の夜の事だった。王太子廃嫡を言い渡されたキースナイトは、実母である第一王妃に呼び出された。

「母上、お呼びで……」

「キースナイト! なんという事を仕出かしたのですか!」

 部屋に入るなり、怒りを内包した口調でキースナイトは怒鳴り付けられた。第一王妃であり、キースナイトの生母である【ディアナ・バリウス・ウィンドルグ】……彼女は、本気で怒り狂っていた。


「は、母上……?」

 母から、初めて怒声を浴びせられたキースナイトは硬直する。そんなキースナイトの間抜け面に、ディアナは盛大な溜息を吐いてしまった。


「フランドール様との婚約を破棄し、更には王太子位の剥奪。私がどれだけ貴方を王太子にする為に骨を折ったのか、理解していないのかしら?」

「そ、それは……!! で、ですが母上ならば!! 父上の愛情を一身に受けておられる母上の御言葉ならば、父上も……!!」

 そんなキースナイトの発言に、ディアナは彼以上の声量で怒鳴りつけた。

「もう一度、貴方を王太子にしてくれとでも言うつもり!?」

 その形相に、流石のキースナイトも怯む。一気に勢いを失い、視線を泳がせて口を噤んでしまう。

「貴方は自分の仕出かした事の重大さに、気付いていないようね!? フランドール様を貶める発言を、よりにもよって公の場でするなんて!! 彼女は我が国の宰相である、クロスロード公爵家のご息女なのよ!? 陛下の右腕たるクロスロード公爵のご息女が婚約者だからこそ、貴方を王太子に推せたというのに!!」

 ディアナの言葉に、キースナイトは流石にまずい事をしたのだと理解した。フランドールを糾弾した場には、ダリウスが居たのである。自分の娘を貶められたダリウスが、自分に対してどのような感情を抱いているか? それくらい、考えなしのキースナイトでも解ったのだ。


 母親の剣幕と、自分の落ち度の実感……流石のキースナイトも言葉が出なかった。しかし現状を打破しなければならないと、気を取り直して再度訴えた。

「た、確かに浅はかな行動だったと、今では理解しております!! で、ですが!! 私が王太子では無くなったら……第二王子のヴェルナンドか、第三王子のルディウスが王太子になってしまいます! どうか、父上に……!!」

 何とかウィンドルグ王に掛け合う様に促すキースナイト。それに対する返答は、先程までとは違い冷え切った声だった。

「だからこそ、フランドール様をあなたの婚約者にして頂いたのを、あなたはすっかり忘れているようね?」

 その言葉に、ディアナの怒り全てが凝縮されていた。


 しかし、キースナイトは脊髄反射で反論してしまう……それが、虎の尾を踏む事になると気付かずに。

「フ、フランを娶れなくとも、私にはユーリが……!!」

「愚か者ッ!! 竜の巫女とは言え、公爵令嬢と平民を比較しろとでも言うつもり!?」

 ディアナは叫びながら、キースナイトに手にしていた物を投げ付けた。中身の入っていたティーカップだ。キースナイトはそれを躱すも、注がれていた冷め切った紅茶を浴びてしまう。


 紅茶に濡れた、間の抜けた様子の息子。それを見遣ったディアナは、鼻で笑いながら言葉を放つ。

「他の王妃達は、自分の息子とフランドール様との婚約を打診するはず。彼女との婚約を結んだ王子が、王太子の席に座る事になるでしょう」

「……そんな」

 彼が黙り込むと、彼女は淡々と話を続ける。

「陛下から、遣いの者が来たわ」

「それなら!」

 一縷の望みに縋ったキースナイトだったが、ディアナはそんな彼に冷淡な視線で告げた。

「貴方がこれ以上フランドール様や、彼女の召喚した竜を侮辱するならば、王家に貴方の席は無いそうよ」

「な、何ですって!?」

 驚愕するキースナイトに、ディアナは盛大な溜息を吐く。

「あの御方は、正しく王よ。王としての重責を理解なさっているの。個人的な感情より、王家の益を優先させるわ。当然でしょう?」

「そ、そんな……」

 もはやそんな言葉しか口に出来ない息子に、ディアナは怒りの形相を向けた。


「フランドール様の召喚した竜を、陛下は随分と買っていらっしゃるわ。貴方と彼のどちらを取るかと言われれば、間違いなく彼を選ぶ事でしょうね」

「……私は息子です!! そんな事は……!!」

「ウィンドルグ王国に繁栄を齎す召喚竜と、醜態を晒し続けた愚かな王子!! どちらが重要視されているかくらい、貴方の足りない頭でも解るでしょう!! もう貴方と話す事など、何も無いわ!! さっさと出て行きなさい!」

 その叫びと共に、ディアナが控えていた侍女に視線を向ける。すると二人の侍女がキースナイトに歩み寄り、退室を迫った。

「殿下、王妃様はご気分が優れないようです」

「ご退室を」

 侍女達の視線は、主人の息子を見る目では無かった。まるで路傍の石を見る様な、敬意も何も感じさせない無感情な視線。


 自分の味方は、最早ユーリだけ……そう思ったキースナイトは、苦々しい表情を浮かべてディアナの部屋を後にした。


************************************************************


 数日前の、苦々しい記憶。それを思い返したキースナイトは、フリードリヒの背中を睨み付けていた。また、その一歩後ろに立つフランドール……彼女に対しても、キースナイトは苛立ちを覚える。


――元はと言えば、フランがユーリに嫌がらせをしたのが悪いんじゃないか……!!


 未だにフランドールがユーリを虐めたと疑っていないキースナイトは、心の中で自分を正当化する。

 しかし父親であるウィンドルグ王と母親であるディアナの怒りの言葉に、これ以上はまずいと踏み止まっていた。


 そんな事を考える内に、飛空挺は着陸。その正八面体の一部が開き、フリードリヒとエディが検問の兵士達の方へと歩き始めた。

 自分に何の声も掛けない事に苛立ちを覚えながら、キースナイトもそれに続く。


 そんな彼の姿に、同行した兵士達が眉を顰めた。

「王の名代とは名ばかりで、実際にはただのお飾りだろ?」

「ヴォルテール王国は知らなくとも、実際には王太子位を廃嫡されているのにな」

「バルカス騎士団長が居るから、下手な真似は出来ないと思うけどな……」

 小声で囁かれる、キースナイトへの風評。勿論、彼の耳には届かないように注意を払っている。

 しかしながら、それを耳にしている者も居た。


 一人はフランドール。フリードリヒと共に飛空挺を降りるべきか否か、そう迷っている間の事である。

 元とはいえ、婚約者だった男への悪評だ。根が善良な彼女が、それを気に掛けない訳が無い。しかし彼のここ最近の振る舞いに、兵士達がそう言いたくなるのも理解できる。

 故に、彼女は黙って飛空艇を降りる事にした。このままでは、流石に自分が窘めない訳にもいかないからだ。


 もう一人は、ユーリである。

 彼女はフランドールと違い、キースナイトに対して侮蔑の視線を向けていた。王太子位を剥奪され、騎士団からも貶されているこの状況……その発端に自分が関わっていた、むしろきっかけであったにも関わらず、キースナイトを内心で扱き下ろしていた。


――部下からもこんな風に思われているんだから、どうしようもないわね。あーあ、ゲームではあんなに素敵だったのに……ダメになるのは一瞬なのね。


 キースナイトの転落人生を、他人事として切り捨てていたユーリ。彼女はそれでも主人公であり、幸せなエンディングが待っていると信じて疑わなかった。

 キースナイトのルートが駄目、ならば他の攻略対象の男性とエンディングを目指せば良い……その程度の認識だったのだ。


 ……


 警戒心を露わにし、いつでも武器を抜けるように構えている検問の兵士達。エディは堂々と彼等に向き合い、声を張り上げた。

「我が名はエディ・フォン・バルカス!! ウィンドルグ王国騎士団の長を務める者だ!! 我々は貴国の危機を耳にし、助力に参ったウィンドルグ王国の使者だ!! この検問の責任者へ、取次ぎを頼みたい!!」

 歴戦の戦士……隣国であろうとも、そう評価されているエディ。彼の宣言に、ヴォルテール王国の検問兵達は目を見開いた。


「……ウィ、ウィンドルグ王国だと……?」

「確かに、ウィンドルグの王都の方から来たが……」

「し、しかし空を移動したアレは何なんだ? 竜には見えないぞ……?」

 素直に取り次いでいいものか? そういった迷いが生まれるのも、無理は無い。ウィンドルグ王国が竜召喚の儀を行う、竜信仰の国である事は周知の事実。しかし飛空艇ラ・ミエールのインパクトが、あまりにもでかすぎる。


 そんな混乱の中、一人の男が検問施設から歩み出て来た。

「き、騎士団長バルカス殿……お初にお目に掛かる。私の名はモルド・フォン・ハルート、この検問の責任者を務めている」

「丁寧な挨拶痛み入る、ハルート殿。突然の来訪を詫びよう……あと、アレについてもさぞ驚かれただろう」

「う、うむ……それで、アレは何なのだろうか? 空を飛んでいる様に見えたのだが……」

 そこへ、フリードリヒが歩み出た。エディがなんと説明した物か……という表情をしていたからだ。

「バルカス卿、その説明は私がしよう」

「かたじけない、フリードリヒ殿。確かに私より、貴殿が語る方がよろしかろう」


 フリードリヒに視線を向けたハルートは、内心で首を傾げる。

 一見すれば、若き貴族の青年といった風貌。しかし騎士団長であるエディが、丁寧に応対をしているのだ。

 しかしながら、王族では無い。王族の衣服には、自国の紋章を設える。これはウィンドルグ王国のみならず、ヴォルテール王国……そして他の国家も同様だ。検問を任される騎士であるハルートは、それを重々理解していた。


 そんな彼に向けたフリードリヒの一言が、混乱を加速させた。

「お初にお目に掛かる。我が名はフリードリヒ・ムラーノ……此度の竜召喚の儀で召喚された者だ。我が竜の姿は巨体故、こうして人の姿を取っている。背後のモノは、私が天空の王より下賜された空を飛ぶ船だ」

「……は?」

 この青年は、何を言っているのだ? という表情。それに、エディも苦笑いしてしまう。

「心中察するが、彼の言葉は事実だ。フリードリヒ殿は、確かに竜の巫女によって召喚された竜。もう一体の竜も、彼によって齎された叡智によって人の姿を取っておられる」

 エディが補足するが、更にハルートは頭を悩ませる。


――人の姿を取った竜に、もう一体の竜? エディは一体何を言っているのか? 叡智って何ぞ? 空を飛ぶ船だって? そんなモノが存在するとでも? ああ、でも確かにさっき空に浮いていたなぁ……。


 口をあんぐりと開け、呆けているハルートを責めるのは酷というものだろう。何せ、理解可能な範囲の外の話である。


 しかし、ここで無駄に時間を浪費する訳にもいかない。

「それで、貴国の現在の状態は? 助力が必要ならば、我々はこのまま飛空艇で戦場へと急行したいと考えている」

 フリードリヒの言葉に、ハルートは何とか頭を回転させる。

「う、うむ……」

 国軍が劣勢に追い込まれている現状を、素直に明かすのも面白い事ではない。しかしこのままでは、致命的な事態に陥りかねないのも事実。

「北方より現れた変異種は、我が国の町や村を襲い南下した。王都より派遣された討伐隊が応戦するも、如何せん数が多く……半数以上の変異種が、王都にまで到達しているとの報せを受けている」

 実際には、大敗を喫して討伐隊は壊滅。ヴォルテール王国は残された戦力を集結させ、王都にて籠城戦を繰り広げている。素直にそう言えないのは、ヴォルテール王国兵としてのプライドが邪魔をしたからだ。


 同じ騎士として、そんなハルートの苦々しい気持ちはエディにも解った。ここは黙ってその言葉を受け入れ、検問を通る許可を得るのが建設的だと判断する。

「数の暴力は侮れぬからな、致し方あるまい。しかし、それならば援軍に参ったのは正解だったやも知れぬな」

 ハルートの、ひいてはヴォルテール王国の誇りを傷付けないように、エディは頷いて肯定して見せた。というよりも、ここで何やかんやして時間を浪費したくないのが本音であった。


「う、うむ……念の為、通信で伺いをたてる。時間を取らせて申し訳ないが、しばし待たれよ。そこのお前、通信装置で王都に判断を仰げ。あぁ、騎士団長殿が直々に参られたという事を、忘れずに伝えよ」

「は、ははっ!!」

 ハルートもエディの内心は解っている。しかしそんな体裁を取り繕う会話に、信頼しても良いのではないかという気持ちにさせた。


 ……


 ものの数分で、兵士が戻って来る。しかしその顔色は真っ青で、表情は不安と恐怖に歪んでいた。

「隊長ォッ!! お、王都より指示が!! 王都の門が陥落したとのこと!! 大至急、ウィンドルグ王国の方々をお通しせよとの事!!」

 慌てた様子で駆けて来た兵士の言葉に、その場に居た全員の顔色が変わった。

 王都の門……それが陥落したという事は当然、変異した魔物達が王都の中に踏み入り、暴れまわるという事だ。

「な、何だと!? わ、解った!! ウィンドルグ王国の皆様方、我が国は貴国の援軍に感謝致す!! 申し訳ないが、すぐに向かって頂きたく……!!」

 恥も外聞も捨て、縋りつく様に懇願するハルート。そんな彼を、情けないと笑う者は一人も居ない。


「ハルート卿、失礼する!! バルカス卿、すぐに出る!!」

「心得ているとも!! 参ろう、フリードリヒ殿!! ハルート殿、我等は全力を尽くそう!!」

 飛空艇に向かって駆け出す、フリードリヒとエディ。昇降タラップの脇で待っていたフランドールも、会話は届いていた。

「フラン殿、急ごう」

「かしこまりました、フリード様」

 フリードリヒの言葉に、素直に頷いて追従するフランドール。その様子を見たキースナイトの眉間に、皺が出来る。しかし、そんなキースナイトにエディが声を掛けた。

「殿下、事態は急を要する模様です」

「あぁ、その様だな」

 面白くなさそうに、キースナイトは飛空艇に戻る。大股で歩く姿に、エディは溜息を吐いた。


************************************************************


 緊急発進した飛空艇ラ・ミエール。しかし、その速度は馬より早い……といった程度だ。

「フリードリヒ殿、この飛空艇は速度を上げる事は……?」

 その言葉に、フリードリヒは沈痛な面持ちだ。

「実は元々、この飛空艇は行軍用ではない。今現在の速度が、最高速度なのだ」

 そう……実はこの飛空艇ラ・ミエールは、空中遊覧用に生み出された物なのだ。見た目は第五〇徒だけど。

 しかし、事態は急を要する。ならば……先行する手段が、無いわけではない。


「ヴォルガノス殿」

 振り返り、フリードリヒはヴォルガノスを見る。

「何だろうか、フリードリヒ殿?」

 姿勢よく立つ、白い意匠を身に纏った美女。白銀の長髪を靡かせ、一歩前に出る。


()()するのは如何か?」

「ふむ……では、()()か?」


 簡潔なやり取り。しかし、互いに意図は察する事が出来ている。その会話に主語は無いが、二人が何をするつもりなのかは自明の理。周囲も、これから起こる事象を察していた。

「どこから出れば良いのかな?」

「案内しよう。フラン殿、私は先行して王都の救援に向かいましょう」

「解りました……フリード様、どうかお気を付けて」

 フランドールに頷いて、歩き出すフリードリヒ。ヴォルガノスも、彼に続いて歩き出す。

 一刻も早く、ヴォルテール王国の王都へ向かわなければならない。エディも、騎士団員も……そして、キースナイトですらそれを理解していた。


 しかし、それに待ったをかける者が居た。

「ちょっと!! 何処に行くつもり!?」

 それは勿論、守護竜ヴォルガノスの巫女である……ユーリだった。

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