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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
アフターストーリー

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306/327

新婚旅行/6日目

 中国観光を満喫したユート達は次の観光地へと転移し、現地で確保した旅館から出る。午前中にチェックインしたので、時間は十分あった。


「これが、この国のかつての首都なんですね」

 そう、ユート達は転移魔法を駆使し、京都へと訪れていたのだ。

 何故に京都なのか?

 それは、海外の雰囲気にユートが飽きて「そうだ、京都行こう!」なんて言い出したからではない。

「都会とは違う魅力が、京都にはあるからね。それに、温泉に入りたかったんだ」

 アヴァロン王国のカブラギ領……温泉街には、源泉から引っ張った温泉がある。その元となった、本場の温泉に入りたくなったのだった。


 尚、確保した高級旅館には貸し切りの温泉がある。無論、混浴であった。旅館の人達から向けられた視線は、無論冷たい視線だったのだが……それで堪える程、ユートは繊細ではない。


************************************************************


 温泉でのんびりする前に、ユート達は京都観光と洒落込む。

 最初の観光は、やはりあの有名なお寺である。

「ここが、清水寺です」

 平安京遷都以前からの歴史をもつ寺、修学旅行の定番スポットである。ユートやメグミ、ファルシアムも来た事がある。


「道の両脇にお店が並んでいますね」

「並んでいるのは、土産物のお店が大半みたいですね」

 アイリとリイナレインが、興味深そうに視線を彷徨わせている。

「あ、八ツ橋! 折角だし、皆でつまもうか!」

 ユートは嬉々として、八ツ橋を買いに土産物屋に突撃する。

「楽しそうですね」

 ユートの様子に苦笑するソフィアに、アリシアが微笑む。

「この旅行は、ユート君にとっても良い息抜きになったみたいです。王としての責任や、神になる重圧から解放されていますから」

 それが一時的なものだと、皆が解っている。責任や重圧からは、逃れる事は出来ない。しかしそれでも、こうして年相応の少年の顔を見せるユートに……妻として、愛しい気持ちが心の内から溢れ出して来るのだ。


「お待たせー! なんか色々な味があるみたいだよ。抹茶とチョコは知っていたけど、桜八ツ橋とかキャラメル八ツ橋とかは知らなかったよ」

「色々な種類があるんですねぇ」

「面白いねー!」

 早速、皆で八ツ橋をつまんでみる。ワイワイと食べ比べを楽しむユート達は、当然のごとく目立っていた。


 そんな一団を遠巻きに見ていたのは、地元の大学生達だった。男一人に対して、女十二人というハーレムを目の当たりにして表情を歪める。

「あのガキ、ムカつくな」

「周りの女共も、見る目ねぇな……おい、やるか?」

 それは女性陣を連れ出し、ユートを痛め付けよう……という意味合い。

 すぐさま、彼等は人手を集める事にした。


 ……


 参道を進み、境内に入ったユート達。

「本堂の前に、音羽の滝に行こうか」

 清水寺の名前の由来になった、有名な観光スポットだ。

 ユートに連れられてやって来た音羽の滝を、ヴェルスフィア出身の面々は興味深そうに眺めている。

「ユート様、これはどういう滝なのですか?」

 アイリの視線の先には行列が出来ているのだが、その理由が景観だけなのかと首を傾げる。


「清水寺ってね、清らかな水の寺って意味合いなんだよ。この滝の水は、その由来なんだ」

 ふむふむと、興味深そうにユートの説明に耳を傾けている。

「最も、人気の由来は……願いが叶うというご利益だろうけどね」

 ピクリ、と反応する嫁勢。

「三筋の水それぞれにご利益があるらしいよ。左から“学問成就”、“恋愛成就”、“延命長寿”だってさ」

 その説明に、嫁勢は考え込み……そして、視線をユートに向けた。


「……もう、叶った」

 クリスティーナの言葉に、ユートは首を傾げる。

「うん?」

「真ん中は無いですね。もう、最愛の旦那様と結ばれましたから」

 キリエの言葉に、十一人の嫁達も頷いていた。その反応に、ユートは少し照れ臭さを感じる。

 最も、逆の立場なら? 同じ事を言いそうだ。

「右もー、願う程の事でも無いかなってー」

 ユートも彼女達も、神に至った存在だ。既に、普通に生きるならば不老不死である。わざわざ延命長寿を願う事はない。


「よし、それなら僕は学問かな。まだまだ、学ぶ事もたくさんあるからね」

 王としても、神としても勉強不足……そう考えているユートは、左の滝に視線を向けた。

 そんなユートに、嫁勢も続く。

「私もユートと同じで、新米女王だもの。負けていられないわ」

 プリシアが、悪戯っぽく嘯いた。嫁としては旦那をたてるが、エメアリアの女王としてはアヴァロン王に後れを取るつもりは無いらしい。

「私もー!」

「そうですね、皆で成長していくんですもの」

 皆が、ユートやプリシアに続いていく。


 皆が口を付ける前に、キリエが注意点を告げる。

「ちなみに口にするのは、一口だけです」

 いくつも選ぶと、どの願い事も叶わなくなってしまうらしい。

 また何口も飲むと、ご利益はその都度半減していくそうだ。

「何事も欲張ってはいけないですよ、という戒めの意味が込められているようです」

「成程、真理だな」

 何事も謙虚が一番だと、ユートは笑顔で頷いた。


************************************************************


 音羽の滝を後にしたユート達は、本堂を訪れた。舞台造から景色を眺めるユート達。

「わぁ、良い眺め!」

 エイルが笑顔で景色を見渡している。飛びたい! とか言い出さないだろうかと、ユートは内心警戒していた。


「思い切って物事を決断することを「清水の舞台から飛び降りるつもりで」と言うんですが……」

 メグミの解説に、ソフィアが首を傾げる。

「ここから飛び降りるんですか?」

 下を見る。それなりに高い。

「まぁ、普通に……」

「……大丈夫そうですね」

 リイナレインとアリシアが、そんな事を言い出した。

「飛び降りないでね、お願いだから」

 相変わらずのアグレッシブ公爵令嬢だと、ユートは内心思う。

 しかし、既に彼女達はユートの妻だ。アグレッシブ王妃様なのだ。どっちにしろ、自重して頂きたい事に変わりはない。


「この程度の高さなら、普通に行けるのでは?」

「アヴァロン王国軍の者なら、これくらいは全員がクリアできそうですね」

「待ってアイリ、キリエ? 別に試練でも何でもないのよ?」

 アイリとキリエの発言に、思わずファルシアムがツッコミを入れる。

「……思い切る程の高さじゃ、ない」

 クリスティーナとソフィアの発言に、ユートは苦笑する。

 ちなみに彼等の認識では”ヴェルスフィア人なら”的な考えだが……一般的なヴェルスフィア人の身体能力は、地球人と大差ない。


 ……


 参道でユート達を見かけて、嫁勢をユートから奪い暴行しようと画策する不良達。仲間に声を掛けていき、その人数は十八人が集まった。

「おい、居たぞ。あいつらだ」

 彼等の視線の先には、ユートの嫁達が居る。

 それぞれが絶世の美女・美少女と形容するに相応しい、優れた容姿を備えいる。そんな彼女達を抱けると想像しただけで、どいつもこいつも興奮していた。

 清水の舞台で談笑しているユート達に、近付こうと一歩踏み出すリーダー格の不良。


 ――その瞬間であった。


 不良達……十八人全員の衣服が、重力に従って落ちる。晒される不良達の裸体。

「キャアァッ!! 変態よおぉっ!!」

 小太り気味な熟女の叫び声が、清水の舞台に響き渡る。

「なあっ!? 何だこりゃあぁっ!?」

 慌てたのは、不良達だ。先程まで着ていたはずの衣服が、足元に散らばっている。鋭利な刃物で切裂かれたかのように、全て細かい布きれになっていた。


 更に、彼等にとっては不幸な事が起こっていた。彼等の下半身である。

「こんな人の多い観光スポットで、全裸になっておっ勃ててやがる!!」

「真正のド変態だな!!」

 アヴァロン王妃勢の姿を見て、彼女達を犯す想像をしただけで……彼等は、体の一部を元気にしていた。

 周囲の観光客達からは、公衆の場で裸体を晒すという行為で興奮していると思われているのだった。

「ストリーキングか!?」

「露出狂だ! 警察を呼べぇ!!」


 騒然とする清水寺の本堂で、彼等を中心に人が集まっていた。中には、証拠写真や証拠動画を撮影する者までいる。

「ち、ちがっ!! 服が勝手にっ!!」

「おい! コラ! 撮るなバカ、止めろぉっ!!」

 幼い子供を連れた親達は、変態集団を見せないように気を配るので精一杯だった。

「パパー、あの人達なんで裸なのー?」

「見るな! 目が腐るぞ!」


 そこへ、警備員や警官が駆け付ける。

「大人しくしろ!」

「本当に、こんな馬鹿な事をやらかすなんて……」

「通報を受けた時は、耳を疑ったけどな……」

 随分と早い到着なのだが……実は匿名の人物から、不良がこの場所で露出行為を行っていると通報があったのだ。人数までご丁寧に伝えており、大勢の警官が警棒を持って構えていた。

「ち、ちがっ……!! お、俺達は……!!」

「猥褻物陳列罪で現行犯逮捕だ! 一人も逃がすな!」

 駆け出して来た警官から逃げようと、舞台の先へと駆け出す不良達。フルオープン状態でだ。

「ちがうんだああぁぁぁぁっ!!」

 リーダー格の不良の叫びが、清水の舞台に響き渡った。


 そして彼等は、思い切った。とっても思い切ったのだ。

 全裸の男達、清水の舞台から飛び降りる……ワイドショーやネットニュースで、大々的に取り上げられる事請け合いだった。

 既に某SNSサイトでは、彼等の行動が写真や動画で拡散されている。顔出しに加えてモロ出しである、家族や友人・恋人が頭を抱えている事だろう。


 晴れ晴れとした表情のユートが、落ちた不良達を見る。幸いな事に、死亡者は居なかった。

「いやぁ、良い仕事をした」

 無論、全てはユートの仕業である。彼等はユートの妻である彼女達に手を出そうとし、仲間を集めていた。その時点で、悪意があるのは明白である。

 そんな連中に対して、ユートが手加減をするなど有り得ない。

 時間を停止させ、不良達の衣服を裁断。数分前に時間を遡って通報しておいた。


 王妃に手を出そうとした不埒者達を、社会的に殺す。それがユートの下した判決だった。


************************************************************


 ――伏見稲荷大社。

 奥社への参道に密に並ぶ、千本鳥居を歩くユート達。

「鳥居、ですか……これは、どういった物なのですか?」

 興味深そうに鳥居を見るリイナレインが、ユートに問い掛ける。

「確か、神様の領域に通じる門みたいなものだったと思う」

 曖昧な返答のユートは、キリエに視線を向ける。キリエは創世神直属の天使であるから、鳥居についても知識があるだろう、と。

「ユーちゃんの説明も、間違いではないですよ」

 そう前置きして、キリエが説明を始める。

「鳥居とは、神域と人間が住む俗界を区画する結界です。神域への入口を示すものであり、ユーちゃんの言う通り一種の「門」といえますね」

「それってつまり、神界門なのかしら?」

 神界門……それはヴェルスフィアにおいて、世界神の座す神域に通じる門である。

「えーと、宗教上の構造物ですから。神界門の様な異次元に通じてはいませんよ」

 鳥居は別に、神力で象られた物でもない。


「ちなみにこの伏見稲荷大社は、稲荷神社の総本宮ですね」

「ヴェルスフィアでいうと、大神殿と神殿みたいなものかしら?」

 メグミとファルシアムの説明は、ヴェルスフィア勢にも理解しやすいものだった。

 ヴェルスフィアにおいて、神を崇める神殿の大元となるのが大神殿だ。そして、各国や各領地に建てられたものが一般的に神殿と呼ばれる場所である。

「創世神様の大神殿は、王都の神殿という事になるのですね」

 ノエルがそう言うと、他の面々も頷いた。

 ヴェルスフィアで初めて建立された創世神の神殿は、アヴァロン王国の王都であるアーカディアに建立された神殿だ。建造したのが創世神に認められた創造神ユートであり、彼の結婚式においては創世神直々に降臨した。

 誰がどう考えても、創世神の大神殿は王都アーカディアの神殿だろう。


「そういえば、ヒルド達の大神殿はどこにあるんだ?」

「……それ、聞いちゃうー?」

 ヒルドの目が笑っていなかった。

「あるでしょー? 東大陸にー。宗教国家がー」

 ……そう、ユート達とも悪い意味で縁深い国だ。

「クロイツ教国か。存在そのものを忘れていたな」

 それはユート達が、メグミ・ユウキ・マナを救出した神殿である。

「管理権限を取り戻してから、クロイツ教国の神官や巫女が毎日のように喧しい。それも、内容がアヴァロン王国に否定的なものばかり。私がアヴァロン王の妻である事を知っていながらね、あの国は何でああなってしまったのかしら? 理解に苦しむわね。ディスマルクが余計な事をしたばかりに、教国とは名ばかりの国になってしまったわ。本当に嘆かわしくて嘆かわしくて、ユー君? 聞いてる?」

 口調がヒュペリオンモードになり、珍しく早口で捲し立てる。その上、内容が非常にアレである。


「相当、鬱憤が溜まっているんだな」

「ええ、本当に。最近、本気で悩んでいる事があるのよ」

 そう言って、ヒルドがにっこりと微笑んだ。

「あの国の大神殿をー、破壊しないー?」

 ヒルドモードに戻って言うが、目が笑っていなかった。これはかなり、本気である。

「上層部はくそったればっかりだが、一般市民まで罪を問う気はないよ……今のところね。神殿は彼等の心の拠り所だろう? まぁ、ムカついてるなら託宣で脅してやれば良いんじゃないかな?」

「それもそうだねー、戻ったらそうしようかなー」

 中々にストレスが溜まっている様で、ユートはヒルドの頭を撫でてやる。それだけで、ヒルドはふにゃっと笑うのだった。


「ちなみにー、ビスドランの大神殿は獣聖国だよー。エクドルフィンの大神殿はー、世界樹の麓だねー」

「そういやあったな、世界樹」

 ファンタジーのお約束である、世界樹。無論、ヴェルスフィアにも世界樹は存在する。しかし世界樹に関しては、特に大きな問題が起こっていなかった。

 その理由は、西大陸に存在する国家全てが世界同盟加盟国だからである。エルフ五国もドワーフやダークエルフの国も、良好な国交を維持しているのだ。

 お陰で世界樹を巡る争いも、世界樹を救ったりするイベントも発生していない。


 ちなみに世界樹は大気中の魔素を吸収して、西大陸全土の植物への栄養にしている。その為、西大陸の植物には魔力が蓄えられていくのだ。

 その結果より効力のある薬草が育ったり、より大きな作物が育つ。また、西大陸に植物系の魔物が多いのもそれが理由である。


「魔王国……グランディア」

 クリスティーナが告げるのは、オーヴァン魔王国の大神殿の場所。魔王国の王都グランディアに、旧ディスマルク大神殿があったのだ。

 最も、今は既に取り壊されている。そして、新たにヴァンディーガ大神殿を建立する……のだが、アマダムは内心では乗り気でなかったりする。

「ヴァンディーガの大神殿を建てなければならないアマダムには、同情するよ……」

 創世神から遣わされた、新たな魔人族の世界神ヴァンディーガ。ユート曰く”ガチムチドMオネェ神”である。

 ある意味、ユートにとって彼は天敵であった。


 ……


 千本鳥居を歩き、稲荷山の山頂で景色を眺めた後。

「これは”おもかる石”ってヤツだね。この灯篭の前で願い事をして、この石を持ち上げた時に思ったよりも軽ければ願いが叶うんだと」

「へぇ~……どれどれ」

 エイルが持ち上げる。

「羽根の様に軽い」

「だろうよ」

 エイルの正体は、ステータスがカンストしている神竜バハムートである。

「あ、軽いですね」

「むしろ重さを感じない……」

「まぁ、普段から訓練にも参加していますから」

 嫁勢達は、全くと言って良いほど重さを感じていない。アヴァロン王国の王妃は、創造神の従属神……つまり、女神様達である。ちなみに最終決戦後に婚約したファルシアムなのだが、ユートに新たな身体を創造して貰った際に女神化出来るようになっていた。


「平穏無事に過ごせますように……っと」

 そう言って持ち上げるユートだったが……思った通りの重さであった。

「……想定より重くも軽くも無いって、これはどっちなんだ? どっちにもならんのか?」

 その言葉に、嫁達は苦笑いしかできない。

「どうやら、平穏無事は程遠いのかもしれないわね」

「折角、色々片が付いたのに……」

 プリシアの言葉に、ユートは肩を落とすのだった。


************************************************************


 伏見稲荷大社の奥の院で参拝したユート達だが、お守り等は購入せずにその場を後にする。その理由は、実に単純であった。

 ユートはユートなりに、神になる事に対して誇りや責任感を抱いている。神となるのならば、安易に他の神に頼るような真似はしないという思いがあったのだ。

 尚、参拝の際に何を告げたかと言うと「初めまして、新神のユートです」という内容であった。

 その際にユートが、この大社が祀る神がクスリと笑ったのを感じたのは余談である。


 さて、そんなユート達は旅館に戻るのだが……。

「うぅん、美味しい♪」

「豪勢なお料理ですね……初めて見る料理ばかりです!」

 旅館の用意した料理に、舌鼓を打っていた。

「旅館の料理ってその味もさる事ながら、雰囲気も含めて特別な感じがするよね」

 ユートの感想に、メグミもニッコリと微笑む。

「学生時代の就学旅行もそうですね。特別感という意味では、この新婚旅行の方が上ですけれど」


 余談ではあるが、並べられた料理はこの旅館の板前達が、全身全霊を込めて作った料理だった。その理由は無論、ユートの嫁達にある。

 この旅館は高級旅館で、訪れた客を従業員が総出で出迎えるのだが……今日も出迎えに並んでいると、現れた美女・美少女・美幼女集団。板前達は、ハートを鷲摑みにされた。

 美の化身と形容できる彼女達が、料理を楽しみにしていると言ってしまったばかりに、板前達はこの旅館に勤めて初めてと言って良いほどに全力を出した。


「明日は、いよいよ最終日なんですね……」

「もう少し地球を観光したい気もします……」

 滅多にない、アリシアやリイナレインの我侭とも思える発言。

「じゃあ……」

 思わずユートも「じゃあ延長するか!」なんて口走りそうになった。しかし、それを止める存在がいる。

「ユーちゃん?」

 嫁筆頭、第一王妃様。

「あ、はい……」

 すぐさま、ショボンとしてしまうユート。しかし、それならば! と代替案を考えた。

「じゃあ子供達が生まれたら、また旅行に来よう」

 その言葉に、嫁勢がピクリと反応する。


 ――ユートと彼女達の息子・娘。それは、数カ月前にアヴァロン王国を訪れていた。


「そうですね、それも良いですね」

「名案! それ採用!」

「はい、とても素敵だと思います!」

「お母さんにも、アユミを紹介したいですし……」

 孫であるアユミを連れて行ったら、メグミの母・香織も霊体で顔を見せるのではなかろうか。

「その時は、何処を旅しようかなぁ……」

 既に待ちきれないと言わんばかりに、ユートは思いを巡らせる。気が早いにも、程があった。

 だがそれは、ユートだけではなく嫁勢も同じらしい。口々に何処がいいとか、こんな事をしたいと話し合う。


 新婚夫婦の夜は、まだまだ終わらない。

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