00-03 成長/才能
これまでのあらすじ:天使さんがお姉ちゃんになりました。
僕の名前はユート、二歳です。レオナルドとアリアの間に生まれた平民の子供です。
姉の名前はキリエ、天使です。天使の様に優しいとか、天使のように美しいんじゃないんです。優しくて美人だけど。この姉、マジもんの天使です。
創世神様に遣わされたその天使は、僕の守護天使なのだそうです。何故か養女になりますとゴリ押しして、僕の両親の養子になりました。
ここまでで、何か質問ありますか? 僕の頭がおかしくなっている? ハハハ、正常ですとも……だからこそ、悩ましいんですけどね。
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三ヶ月で寝返り、六ヶ月で首もすわりハイハイもでき、十カ月であんよも上手、一歳で言葉も話せるようになりました。
更に一年かけて、この世界の事も教わった僕は現在、父・レオナルドに肩車して貰って、海辺に来ていました。
「よーし、ユート! 今日は魚の気分だ、釣りをするぞ!」
ニカッと笑って、父さんは釣り竿の準備をし始める。
姉さんに色々教わって、僕はやっと身の回りの事が把握できた。
ここは、どの国にも属していない孤島だ……住民は僕達だけ。森にはイノシシやら鹿やら色々いる。
島は小さすぎず、大き過ぎず。
この島に両親は移住して来て、開拓を始めたという。鉄腕か。
両親の努力の甲斐あって、木造のログハウスみたいな住居以外に、井戸や水路も製作されていた。DASHか。
この両親、何でこんな孤島に移住したんだろうか。
狩りの腕前からして、父さんは剣士とか似合いそうだし。母さんは毎日欠かさず神への祈りを捧げたり、料理の天災だったり。
普通に街暮らしでも不自由は無さそうなんだけどなぁ……。
そんな中、父さんが魚をどんどん釣っていく。TOKI●か。
折角海辺に来たので、僕は少し海水浴を楽しむ事にする。
「ユート、お前泳げるようになるの早いなぁ」
二歳児がクロールで二十五メートルくらい泳いでいる光景に、父さんは暢気にそんな事を言っていた。
「父さんの教え方が良かったんだよ」
その言葉に苦笑する我が父。
「しかし、アレだな。わざわざ顔を水面から上げるのはムダじゃないか?」
「何言ってるの、父さん。息が続かないよ」
僕の言葉に、ポカンとした後。
「そうか、アリア……いや、母さんの”付与魔法”かけてもらってなかったのか。じゃあ息継ぎが必要だもんな」
「……”付与魔法”」
そういえば、魔法がある世界でしたね。
付与魔法とは、対象に魔法を付与する事でその能力や特性を強化・増強する魔法。ゲーム等で言う、バフ系・デバフ系の魔法の事である
僕も前世ではゲームとかはそれなりに齧っていた。白魔導士的なキャラクターの支援魔法の事かな。
しかし、水の中で息が出来る魔法なんてあるのか。
地味な魔法だな、なんて一瞬思ったが、すぐさま考えを改める。
例えば冒険などで、深い河や湖等に潜る必要がある場合。例えば魔物みたいなヤツらに、水の中に引き込まれた場合。
そんな時、息が出来なければ……陸に生きる生物が死に至るのは、至極当然だ。
しかし、水の中で息が出来るなら水中で活動が可能だ。この魔法は、非常に有効な魔法なのではないか。
この世界には魔法がある。
属性とかも、火・水・風・地・光・闇属性があり。攻撃・防御・回復・付与・召喚と種類があって。職業も、魔導士とか神官とか召喚士とかがある。
魔導士以外でも、魔法は重宝されている。水属性魔導士は飲み水を売ったり、地属性魔導士は建築工事で活躍してるそうだ。
魔法には、勿論適正があるらしい。
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僕の名前はユート、九歳です。
あれから七年。僕は毎日父さんと母さん、そして両親の友人に鍛えられてきた。
父さん達からは格闘術や体術、剣を始めとした武器での戦い方を学んでいる。母さん達からは攻撃・防御・回復・補助・召喚・付与の魔法や法術を教わった。
七年の歳月があっという間に思えるほど、様々な事を教わって来た。
異世界召喚や異世界転生の物語は、前世で結構小説とかアニメで人気があった。僕もそういう作品を見たりしていた。
それに比べて、僕の剣や体術は……まぁ、並みかな? 魔法は……一つを除いてまともに使えない。
父さんと母さんに師事し、どれだけ特訓しても、武術や多くの魔法には才能が開花しなかった。
唯一、僕が得意としているのは、ある魔法……そう、”付与魔法”だけだ。
味方に能力強化の魔法をかけたり、敵に能力低下の魔法をかけたり……そんな、サポート要員まっしぐらの超後衛スキルである。
しかし、付与魔法だけではまともに戦闘など出来ない。魔力を除いては、始まりの村の村人と変わらない、貧弱なスペックである。
そう、僕は“付与だけしか出来ない役立たず”らしい。
「”攻撃力増加”」
僕の両手の掌が淡い光を放つと、キリエ姉さんの身体が光に包まれる。
「ほぅ……ユーちゃんの付与魔法、また効果が上がっていますね……」
蕩けそうな表情で微笑む姉さん。十歳の女の子にしては、色気を感じさせる表情だ。紳士という名の変態どもが、目の色変えて飛んで来そうな感じである。
「うーん……魔力の容量は人より少し多いくらい、制御も良い感じ……属性なんて適性だけなら全属性。付与魔法の耐性系や効果付与系の魔法は、全属性使えるし……」
「動き自体も、すごくいいとは思うんだがなぁ……でも、うーん……」
両親が、僕を見て首を捻っている。何とも言い難い感じである。
付与以外は「うん、まぁ……こんなもんだよね」って感じだもんな。
両親達の教え方に問題があるわけじゃない、むしろ凄く教え上手だと思う。
解っているさ、自分でも。異世界転生して、チート能力で敵をバッタバッタとなぎ倒し、名声と富を得るタイプの主人公なんていなかった。
いたとしてもそれは僕の役回りじゃないのだろう。きっと僕は、平凡な村人とかそんな感じなのさ。
とは言え、才能が無いのは百も承知。ならば努力あるのみ。日課の筋トレや走り込み、呪文詠唱や魔力制御の練習は欠かさない。家の事を手伝ったりしながらだけどね。
よく、父さんと一緒に狩りや釣りや山菜を取りに行っているが、それもいい運動になる。
「それっ!」
イノシシの眉間に、矢が突き刺さる。獣狩りくらいなら、それなりに出来るんだけどなぁ……。
そんな風にたそがれていると、姉さんが近付いて来た。
「ユーちゃん見て下さい、大漁です」
釣りは姉さんの得意分野だ。魚が「どうぞ私を食べて下さい」と言わんばかりに、これでもかってくらい寄って来るので冗談みたいに釣れる。
うわぁ、秋の味覚と言えばの、秋刀魚じゃないの、これ?
「ユーちゃんもイノシシを狩れたんですね。大きさも良い感じだし、今日は御馳走です」
「半日でイノシシ一匹だよ、あんまり成果としては芳しくない」
二匹程、逃がしちゃったんだよね。
その日は秋刀魚を焼いて、イノシシの肉に塩振って焼きました、美味しかったです。お米が欲しいなぁ……このラインナップ。
食後は森で集めた薪でお湯にする。そう、お風呂だ。ちなみに浴槽は父さんと僕で作った。
父さんは何故か、家事とか土木のスキルも持っているらしい。この立派な木造の家だって父さんの作である。何気に父さんは多才なのだ。
子供二人で一緒になってお湯に浸かる。理由? 薪の節約の為だよ。
女の子と一緒にお風呂とか、前世でも無かったんだけどね。家族相手だし、そんな何か……変な盛り上がりとか無いよ、うん。
ちなみに、父さんと母さんが一緒に入るのにはツッコミを入れない方向だ。バカップル夫婦め。