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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
終章

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299/327

23-18 結婚式/永遠の誓い

これまでのあらすじ:ついに迎えた結婚式当日、創世神様が降臨なさった。

 僕達の前に現れたのは、遍く世界を創り見守る至高の神……創世神様だった。

 更に共に現れた天使達が、参列者の頭上で舞い踊るように飛んでいる。おっと……この式場だけではなく、アヴァロン王国全土の上空に天使達が現れたようだ。

 これは、つまり……。


「面を上げよ」

 威厳溢れる声が響き、式場は静寂に包まれた。

「此度の婚礼の儀、まずは祝福の言葉を贈ろう」

 やはり、その為にお越し下さったのか……何て事だ。ありがたいやら、申し訳無いやら。

「今日この時、夫婦として新たな道を歩む者達よ。なんじ、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、互いを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くす事を誓うか?」

 創世神様、それ神父の役目じゃ……いや、神父は神の言葉を代弁するんだっけ? あれ、違ったっけ?

 ……ま、細かい事は構わなくていいか!


「はい、誓います」

 僕の誓約の言葉を聞き、後ろに控える花嫁達も誓いの言葉を口にした。

 創世神様の視線が、アルファ達に向けられる。

「はい、誓います」

 一人ずつが誓いの言葉を口にしていき、創世神様が頷く。

「六組の新たな夫婦よ、その誓いを違える事なく、その愛が永遠たる事を願う……ここに、婚礼の儀は成った」

 厳かなその言葉を受けて、改めて実感する……僕達は、夫婦になったのだと。


「それでは、指輪の交換を」

 創世神様に促され、僕達は入場順に祭壇の前で指輪を互いに嵌めていく。

 最も僕の左手の薬指に、十二の指輪を嵌める訳にはいかない。その為キリエが嵌めてくれた指輪に、後に続く花嫁達が口付けをしていく。


 僕達の結婚指輪は、神力で創造した神器だ。

 当然、花嫁達の指輪に刻印付与を施した……最も、それは魔法でも神威かむいでもない。

 ただ永遠の愛を誓うという意味を込めた、そんな刻印だ。


 ……


 天使の羽根が舞い散る式場、僕達六組の新夫婦が揃って祭壇の上に立つ。広く作っておいて正解だった。

 御前に並ぶ僕達に、創世神様があの言葉を告げる。

「――では、誓いの口付けを」


 ヴェルスフィアの結婚の儀式では、このタイミングで誓いのキスは無いらしい。

 だから本当はそこをカットして、後でしようと話していたんだけど……やっぱり日本式を取り入れるという僕達の意向を、創世神様が汲んでくれたのかな。


「新郎アルファルド、新婦リアンナ、前へ」

 これも、入場順である。頑張れアルファ、リア。

 戸惑いながらも、見つめ合う二人。先に切り出すのは、アルファだった。

「リアンナ……この先の人生を、君と歩める事が嬉しい」

「アルファルド様……私もです。私はずっと、貴方のお側に……」

 言葉を、視線を交した二人。そしてゆっくりと近付いていく互いの唇が、触れ合った。


 続いては、ブリックとマチルダだ。

「マチルダ……今日からは夫婦だ、よろしく頼む」

「はい、ブリック様……未来永劫、お側で支えると誓います」

 この二人の婚約期間は長かったらしい。ついに今日、その長い婚約期間を終え……それよりも長い夫婦としての人生を歩む。

 それに対する喜びを滲ませて、二人が口付けを交した。


 そして、マックとエリアさん。

 酔いに任せて関係を持った二人だが、そこから互いに愛を育ててのスピード婚約・スピード結婚と相成った訳である。

「エリア、この先続く長い人生……私と共に歩んでくれ」

「マック……貴方となら、どこまでも……」

 切っ掛けがどうあれ、燃え上がったその愛は本物だ。短いながらも情熱的な口付けを交していた。


 続くはアマダムとミランダ。

 そこそこの期間、いい感じの関係だった二人も、ついにゴールインである。くっつけようと奮闘した甲斐があったぜ。

「ミランダ、僕を選んでくれてありがとう」

「それは私の台詞です、アマダム様……私を選んで下さり、ありがとうございます……」

 長い期間を経て育った愛情を示すかの様に、二人は他の面々よりも少しだけ長く口付けを交わす。


 その後に続くはヴェルデとフィリスさんである。

 つい先日のお見合いパーティーで、互いに関心を抱いたという二人。そこから今日に至るまでに、どんなドラマがあったのかは知らない。見つめ合う二人の表情には、相手への純粋な愛情が浮かんでいる。

「フィリス……俺を支えて欲しい。その分、俺がお前を幸せにする」

「勿論です、ヴェルデ様。この身命を賭して……貴方を支えて参ります」

 溢れんばかりの想いを相手に伝えるかのように、二人は一瞬……しかし深い口付けを交わした。


************************************************************


 ——さて、いよいよ僕達の番だ。

 婚約者達が、僕の前に並ぶ。一人一人に声をかけようとした所で、キリエが僕の口元に人差し指を当てる。

「ユーちゃん……私達から」

 そう言って、キリエは僕の頬に手を添える。

「私は十六年間、あなたの側で歩んで来ました……これからも、あなたの隣で歩んでいく事をここに誓います」

 そう言って、キリエが僕の唇を奪う。

 すぐに離された唇、触れるだけの簡単なキス。だけど、今までで一番強い想いが篭められたキスだった。


「ユート君。初めて出会った時から、私はユート君に心を奪われていました。常に前を向いて歩くあなたを、これからも愛していきます」

 アリスが、キリエに続いて僕にキスをする。

 万感の思いを篭められたその言葉と口付けに、僕の胸の奥が更に熱くなっていく。彼女達への愛情が、更に強く大きくなっていく。


「立場や身分が変わろうと、あなたへの想いは決して変わりません。ユート様……出会った時からずっと、私はあなたのものです」

 三番目はやはりアイリだ。

 奴隷だった頃から変わらず、アイリは僕に全てを捧げてくれていた。ならば、これからの人生を彼女達に捧げよう。彼女からの口付けに、僕はそんな想いを籠めて受け入れた。


「あの日、あなたが私達を救ってくれた時から……こうして結ばれる為に進み続けて来ました。次の目標は、あなたと生涯添い遂げる事です、ユートさん」

 僕の首に手を回して、キスをしてくるリイン。

 いつも僕や他の皆を陰から支えてくれる彼女は、この先もそうやって側で支えてくれるのだろう。頼りになる姉さん女房からのキスに、僕は感謝の想いを籠める。


「……ユート、私達の……旦那様。たくさん、たくさんありがとう。私の未来を、全部ユートにあげる、ね」

 珍しく口数が多いクリスは、瞳を潤ませながら背伸びをしてキスをしてくれた。

 無口で表情の変化があまり無いように見られる彼女だが、意外と感情表現豊かなのを僕は知っている。この先も、もっと彼女の色んな顔を……彼女の魅力を見付けていけるだろう。


「私は、後輩を卒業して……あなたのお嫁さんになります。どこまでも、どこまでも付いて行きます……大好きです、ユートさん」

 既に、その頬を涙が伝っている。それを拭う事もせず、顔を寄せるメグミ。

 日本での平和な人生を捨て、遠い異世界で僕と共に生きる事を選んでくれた彼女。僕の全てを賭けて、必ず幸せにしてみせる。先輩ではなく、夫として……。


「初めて出会った時は、汝と婚姻を結ぶとは思っていなかった。だが、汝とならばこの先の未来は素晴らしいものになるだろう……だから、お兄ちゃん? これからもよろしくね」

 神竜モードから普段の調子に代わっての、相変わらずあっけらかんとした様子でキスをしてくるエイル。

 こんな感じで、これからも僕の周りを盛り上げてくれるんだろう……この頼りになる幼いお嫁様は。


「どれだけ愛を囁き、どれ程感謝をしても、貴方への想いを伝えるのは困難でしょう。これから共に歩んでいく中で、貴方に届けて行く事にします……覚悟しててねー、ユー君ー!」

 エイル同様、神モードと普段モードを使い分けてくるヒルドからの口付け。

 見た目よりも頑固な彼女だ。有言実行してくれる事だろうから、覚悟しておこうかな。無論、やられっぱなしは性に合わない。僕も彼女に、沢山の想いを伝えていこう。


「私は、ご存知の通り平凡な女ですが……それでも、ユートさんへの想いだけは自信を持って言えます。愛しています、ユートさん」

 相変わらず、妙に自信が無さげなノエルからのキスを受け止める。

 僕を想ってくれた事……そして、その想いを打ち明けてくれた事。何よりこうして、僕との未来を約束してくれた事が嬉しい。触れ合う唇から、その想いが伝わっていると良いな。


「アヴァロンの王とエメアリアの女王という立場は残るけれど……それでも、私はユートとこうなれて嬉しいわ。これからもよろしくね、愛する旦那様」

 僕の胸に手を添えて、口付けて来るプリシア。

 王としての身分など、そんなに気にする事じゃない。だって僕にとって、エメアリアも僕の国だ……愛するプリシアの国なのだから。彼女にとってアヴァロンがそうであるように。


「初めて冒険者ギルドで会った時には、こうなるなんて思ってもみませんでした。今ではユートさんなしの人生なんて考えられないくらいです……どうか、よろしくお願いしますね」

 そう言って目尻を下げたソフィアと、キスを交わす。

 確かに、あの時はソフィアとこうなると思ってもみなかったな。でも、僕だって同じ気持ちだ。彼女達が居ない人生なんて、考えられない。必ず僕の全てを賭けて守り抜こう。


「今日この日を貴方と、そして想いを同じとする彼女達と迎えられて良かった。もう、自分を押し殺したりしないわ。愛しているわ、ユート君……」

 穏やかに微笑みながら、ファムが僕の唇を奪う。

 己を犠牲にしてまで世界を守ろうとした、彼女の気高さを尊敬すると同時に……僕への想いを取ってくれた事への感謝と愛情を篭めて、その口付けに応える。


 全員との誓いの口付けが済み、僕は彼女達に視線を巡らせる。

 ——創世神様の天使。

「第一王妃、キリエ・アーカディア・アヴァロン」

「はい、ユーちゃん!」


 ——魔導姫の称号を得た大魔導師。

「第二王妃、アリシア・クラウディア・アヴァロン」

「はいっ、ユート君!」


 ——元奴隷の獣剣姫。

「第三王妃、アイリ・レオングル・アヴァロン」

「はい、ユート様!」


 ——精霊に愛された精霊姫。

「第四王妃、リイナレイン・デア・ヴォークリンデ・アヴァロン」

「はい、ユートさん!」


 ——魔王族の血を引く魔剣姫。

「第五王妃、クリスティーナ・ガルバドス・ド・アヴァロン」

「……んっ、ユート」


 ——盾騎士の勇者姫。

「第六王妃、メグミ・ヤグチ・アヴァロン」

「はい、ユートさん……!」


 ——神代の竜。

「第七王妃、エイル・バハムート・アヴァロン」

「はーい、お兄ちゃん!」


 ——聖母と呼ばれる世界神。

「第八王妃、ヒュペリオン・イグナティア・アヴァロン」

「はい、ユー君ー!」


 ——神々に愛された騎士姫。

「第九王妃、ノエル・アイングラム・アヴァロン」

「はい……ユートさん!」


 ——エメアリア女王の召喚姫。

「第十王妃、プリシア・アーカディア・エメアリア」

「うん、ユート!」


 ——亡国の血を引く、吸血姫。

「第十一王妃、ソフィア・ガルバドス・ド・アヴァロン」

「ええ、ユートさん!」


 ——転生したワイズマンの首魁。

「第十二王妃、ファルシアム・デア・ディアクロフト・アヴァロン」

「はい、ユート君!」


「今日この時から、僕達は夫婦だ」

 僕は一度目を閉じて、彼女達との出会いから今までの事を反芻する。もう、言うべき言葉は決まっている。

「必ず君達を幸せにする事を約束する。永遠の愛を、ここに誓う……“俺”を信じて、付いて来てくれ」

 目尻に涙を浮かべて頷く、愛しい人達。


 全員の誓いの口付けが終わった事で、創世神様が一歩前に出た。

「ここに新たな夫婦が誕生した事を、創世の神として祝おう。前途ある新たなる夫婦達に、祝福を!!」

 創世神様の宣言。直後、割れんばかりの拍手が巻き起こる。

 僕達六組の新郎新婦へ向けられた、祝福の拍手だ。


 気が付いた時には、創世神様は既に姿を消していた。天使達はまだ、僕らの頭上で舞い飛んでいるけどね。

 僕達はそのまま移動して、神殿のすぐ脇に設えた鐘へと向かう。鐘のある塔には、新郎新婦全員が持つ為の紐を垂らしてある。

「それじゃあ、せーのっ!!」

 僕の合図と一緒に、全員で紐を引いて鐘を鳴らす。


 ”祝福の鐘”と名付けたこの鐘は、遺失魔道具アーティファクトだ。

 効果は大したものではない。単に、鐘に込めた僕の神力によって発動される付与魔法を与えるだけ。

 体力回復とか、状態異常耐性とか、そんなささやかなものだ。

 そんな付与魔法が、鐘が鳴る度にアヴァロン王国のみならず……世界中に放たれる。

 別に、世界平和の為とかじゃない。ただ単に、僕達の記念すべき日にケチが付かないと良いなぁと思っただけ。


 ――今日一日くらいは、誰も死んだり傷付いたりしませんように。


************************************************************


「さぁ! ブーケトスの時間だ!!」

 マイクを持って、集まった人々に声をかける。僕の言葉に、大半の人が首を傾げているね。まぁ、当然か……ヴェルスフィアの結婚式に、ブーケトスは無い。

「これは、地球の結婚式に伝わるジンクスだよ。花嫁が投げたブーケをゲットした人が、次の花嫁になる番だとか……そんな風に言われているんだ」

 僕の言葉に、未婚の女性達の視線が鋭いものとなった。ちょっと、なんて言うか……獲物を狙う獣の目にしか見えないんですけど?


 例えば、拳聖とか? 職人ギルドの補佐をしてるドワーフとか? まだ相手がお決まりではない、各国の姫君達とか?

 更に、既にお相手を見付けた女性達の一部も参加するらしい。

 アレか、ブーケを手にして次は自分達が!! って事か。逞しいな……。

 合計で十七のブーケが飛ぶ訳だから、競争率は高くないよね! とか思っていたんだが……これ、大激戦になるぞ……。


「……そ、それでは……怪我とかしないようにね? 花嫁の皆……どうぞ!!」

 僕の合図で、空へとブーケを投げる花嫁達。

「って、飛距離!!」

 ブーケトスってよりも、全力投球だね!? ついでに言うと、高度もそれなりである。


「行くぜっ!!」

 我先にと上空へ跳び出すベアトリクスさん……必死だな、ロリババア。

「はあぁぁっ!!」

 ベアトリクスさんにフィジカルで敵わないと判断したリリルルが、反対側の中空を舞うブーケを狙って疾走!?

「次は私の番……次は私の番っ!!」

 君、魔導師でしたよねシャルさんや? 何その、前衛職にも負けない猛ダッシュは。

 更にはエリザベート殿下やフローラ殿下、シャルル達まで……。

 う、うん……これは伝えちゃいけない文化だったみたいね!!


 ……


 結果、ブーケを見事掴み獲ったのは……。

「ッシャア!!」

 まぁ、某拳聖は言うに及ばないだろう。必死過ぎワロタ。

「はぁ、はぁ……やった! やったわ!!」

 もう一人、ガチで必死だったリリルル。う、うん……頑張った、ね?

「ふふふ、ゲットしたよ……!!」

 笑顔でゲットしたブーケを振って、エミリオに駆け寄るシャル。それ、プレッシャーかけてるよ。

「ダーム様! 無事に取れました!!」

「やっぱりシャルルは凄いね!!」

 無邪気にはしゃぐ幼いカップル。君達成人まで数年あるよね? その間、誰も結婚させない気かい?

「こ、これでクロード殿下と……!!」

「ジオルギウス殿下……次は、私達が……!!」

 エリザベート殿下とフローラ殿下の目が超本気。


 そんな六名以外は、一般女性四名と貴族令嬢七名がゲットしておられた。その表情はガチ過ぎて、正直ドン引きです。

「これ、正直には言えねぇなぁ……」

「次の挙式予定者、決まってますからね……」

 そう、既に挙式予約が入っているのだ。カミーユとミレイナ、そしてジーナ王女とベンツ氏の……。

 尚、当人達は日取りも決まっているので、ブーケ争奪戦には不参加であった。


「説明の時に言った”次の花嫁”は、余計だった……」

 苦笑いしか出来ない僕のもとに、念話が届く。

『ユート君、こっちで誤魔化してあげよっか?』

『ユートさんは男性だから、そのへんのジンクスの知識は曖昧だった事にしましょう』

 マナ! ノゾミ!

 流石は勇者だ! 愛してる、友達・仲間として!!


 結果、勇者女子達の説明で”ブーケを手にした者は、幸せな結婚に巡り合う”というのが起源、と誤魔化して貰った。

 嘘は心苦しいものの、皆の心の平穏のためにさ……というか、うん。それがヴェルスフィア流ブーケトスという事にしよう、そうしよう!


 ……


 その後、披露宴代わりの立食パーティーを行い、僕達の結婚式は無事に終了した。

 誰も彼もが笑顔に満ち溢れて、多くの人から祝福されて……本当に、幸せだった。


 その先は、平穏な日常……の合間、仕事に忙殺されたり、トラブルに対処したり、子供達が無事に生まれて来たり……。

 幸せな日々を、僕達は駆け抜けて行った。


 ――そして、約束の日が訪れる。

拙作”刻印の付与魔導師エンチャンター”にお付き合い頂いた皆々様、誠にありがとうございました。

次話をもって、この物語は終幕となります。

それでは、刻印の付与魔導師エンチャンターことユートの迎える未来を、ご覧下さいませ。

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