23-18 結婚式/永遠の誓い
これまでのあらすじ:ついに迎えた結婚式当日、創世神様が降臨なさった。
僕達の前に現れたのは、遍く世界を創り見守る至高の神……創世神様だった。
更に共に現れた天使達が、参列者の頭上で舞い踊るように飛んでいる。おっと……この式場だけではなく、アヴァロン王国全土の上空に天使達が現れたようだ。
これは、つまり……。
「面を上げよ」
威厳溢れる声が響き、式場は静寂に包まれた。
「此度の婚礼の儀、まずは祝福の言葉を贈ろう」
やはり、その為にお越し下さったのか……何て事だ。ありがたいやら、申し訳無いやら。
「今日この時、夫婦として新たな道を歩む者達よ。汝、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、互いを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くす事を誓うか?」
創世神様、それ神父の役目じゃ……いや、神父は神の言葉を代弁するんだっけ? あれ、違ったっけ?
……ま、細かい事は構わなくていいか!
「はい、誓います」
僕の誓約の言葉を聞き、後ろに控える花嫁達も誓いの言葉を口にした。
創世神様の視線が、アルファ達に向けられる。
「はい、誓います」
一人ずつが誓いの言葉を口にしていき、創世神様が頷く。
「六組の新たな夫婦よ、その誓いを違える事なく、その愛が永遠たる事を願う……ここに、婚礼の儀は成った」
厳かなその言葉を受けて、改めて実感する……僕達は、夫婦になったのだと。
「それでは、指輪の交換を」
創世神様に促され、僕達は入場順に祭壇の前で指輪を互いに嵌めていく。
最も僕の左手の薬指に、十二の指輪を嵌める訳にはいかない。その為キリエが嵌めてくれた指輪に、後に続く花嫁達が口付けをしていく。
僕達の結婚指輪は、神力で創造した神器だ。
当然、花嫁達の指輪に刻印付与を施した……最も、それは魔法でも神威でもない。
ただ永遠の愛を誓うという意味を込めた、そんな刻印だ。
……
天使の羽根が舞い散る式場、僕達六組の新夫婦が揃って祭壇の上に立つ。広く作っておいて正解だった。
御前に並ぶ僕達に、創世神様があの言葉を告げる。
「――では、誓いの口付けを」
ヴェルスフィアの結婚の儀式では、このタイミングで誓いのキスは無いらしい。
だから本当はそこをカットして、後でしようと話していたんだけど……やっぱり日本式を取り入れるという僕達の意向を、創世神様が汲んでくれたのかな。
「新郎アルファルド、新婦リアンナ、前へ」
これも、入場順である。頑張れアルファ、リア。
戸惑いながらも、見つめ合う二人。先に切り出すのは、アルファだった。
「リアンナ……この先の人生を、君と歩める事が嬉しい」
「アルファルド様……私もです。私はずっと、貴方のお側に……」
言葉を、視線を交した二人。そしてゆっくりと近付いていく互いの唇が、触れ合った。
続いては、ブリックとマチルダだ。
「マチルダ……今日からは夫婦だ、よろしく頼む」
「はい、ブリック様……未来永劫、お側で支えると誓います」
この二人の婚約期間は長かったらしい。ついに今日、その長い婚約期間を終え……それよりも長い夫婦としての人生を歩む。
それに対する喜びを滲ませて、二人が口付けを交した。
そして、マックとエリアさん。
酔いに任せて関係を持った二人だが、そこから互いに愛を育ててのスピード婚約・スピード結婚と相成った訳である。
「エリア、この先続く長い人生……私と共に歩んでくれ」
「マック……貴方となら、どこまでも……」
切っ掛けがどうあれ、燃え上がったその愛は本物だ。短いながらも情熱的な口付けを交していた。
続くはアマダムとミランダ。
そこそこの期間、いい感じの関係だった二人も、ついにゴールインである。くっつけようと奮闘した甲斐があったぜ。
「ミランダ、僕を選んでくれてありがとう」
「それは私の台詞です、アマダム様……私を選んで下さり、ありがとうございます……」
長い期間を経て育った愛情を示すかの様に、二人は他の面々よりも少しだけ長く口付けを交わす。
その後に続くはヴェルデとフィリスさんである。
つい先日のお見合いパーティーで、互いに関心を抱いたという二人。そこから今日に至るまでに、どんなドラマがあったのかは知らない。見つめ合う二人の表情には、相手への純粋な愛情が浮かんでいる。
「フィリス……俺を支えて欲しい。その分、俺がお前を幸せにする」
「勿論です、ヴェルデ様。この身命を賭して……貴方を支えて参ります」
溢れんばかりの想いを相手に伝えるかのように、二人は一瞬……しかし深い口付けを交わした。
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——さて、いよいよ僕達の番だ。
婚約者達が、僕の前に並ぶ。一人一人に声をかけようとした所で、キリエが僕の口元に人差し指を当てる。
「ユーちゃん……私達から」
そう言って、キリエは僕の頬に手を添える。
「私は十六年間、あなたの側で歩んで来ました……これからも、あなたの隣で歩んでいく事をここに誓います」
そう言って、キリエが僕の唇を奪う。
すぐに離された唇、触れるだけの簡単なキス。だけど、今までで一番強い想いが篭められたキスだった。
「ユート君。初めて出会った時から、私はユート君に心を奪われていました。常に前を向いて歩くあなたを、これからも愛していきます」
アリスが、キリエに続いて僕にキスをする。
万感の思いを篭められたその言葉と口付けに、僕の胸の奥が更に熱くなっていく。彼女達への愛情が、更に強く大きくなっていく。
「立場や身分が変わろうと、あなたへの想いは決して変わりません。ユート様……出会った時からずっと、私はあなたのものです」
三番目はやはりアイリだ。
奴隷だった頃から変わらず、アイリは僕に全てを捧げてくれていた。ならば、これからの人生を彼女達に捧げよう。彼女からの口付けに、僕はそんな想いを籠めて受け入れた。
「あの日、あなたが私達を救ってくれた時から……こうして結ばれる為に進み続けて来ました。次の目標は、あなたと生涯添い遂げる事です、ユートさん」
僕の首に手を回して、キスをしてくるリイン。
いつも僕や他の皆を陰から支えてくれる彼女は、この先もそうやって側で支えてくれるのだろう。頼りになる姉さん女房からのキスに、僕は感謝の想いを籠める。
「……ユート、私達の……旦那様。たくさん、たくさんありがとう。私の未来を、全部ユートにあげる、ね」
珍しく口数が多いクリスは、瞳を潤ませながら背伸びをしてキスをしてくれた。
無口で表情の変化があまり無いように見られる彼女だが、意外と感情表現豊かなのを僕は知っている。この先も、もっと彼女の色んな顔を……彼女の魅力を見付けていけるだろう。
「私は、後輩を卒業して……あなたのお嫁さんになります。どこまでも、どこまでも付いて行きます……大好きです、ユートさん」
既に、その頬を涙が伝っている。それを拭う事もせず、顔を寄せるメグミ。
日本での平和な人生を捨て、遠い異世界で僕と共に生きる事を選んでくれた彼女。僕の全てを賭けて、必ず幸せにしてみせる。先輩ではなく、夫として……。
「初めて出会った時は、汝と婚姻を結ぶとは思っていなかった。だが、汝とならばこの先の未来は素晴らしいものになるだろう……だから、お兄ちゃん? これからもよろしくね」
神竜モードから普段の調子に代わっての、相変わらずあっけらかんとした様子でキスをしてくるエイル。
こんな感じで、これからも僕の周りを盛り上げてくれるんだろう……この頼りになる幼いお嫁様は。
「どれだけ愛を囁き、どれ程感謝をしても、貴方への想いを伝えるのは困難でしょう。これから共に歩んでいく中で、貴方に届けて行く事にします……覚悟しててねー、ユー君ー!」
エイル同様、神モードと普段モードを使い分けてくるヒルドからの口付け。
見た目よりも頑固な彼女だ。有言実行してくれる事だろうから、覚悟しておこうかな。無論、やられっぱなしは性に合わない。僕も彼女に、沢山の想いを伝えていこう。
「私は、ご存知の通り平凡な女ですが……それでも、ユートさんへの想いだけは自信を持って言えます。愛しています、ユートさん」
相変わらず、妙に自信が無さげなノエルからのキスを受け止める。
僕を想ってくれた事……そして、その想いを打ち明けてくれた事。何よりこうして、僕との未来を約束してくれた事が嬉しい。触れ合う唇から、その想いが伝わっていると良いな。
「アヴァロンの王とエメアリアの女王という立場は残るけれど……それでも、私はユートとこうなれて嬉しいわ。これからもよろしくね、愛する旦那様」
僕の胸に手を添えて、口付けて来るプリシア。
王としての身分など、そんなに気にする事じゃない。だって僕にとって、エメアリアも僕の国だ……愛するプリシアの国なのだから。彼女にとってアヴァロンがそうであるように。
「初めて冒険者ギルドで会った時には、こうなるなんて思ってもみませんでした。今ではユートさんなしの人生なんて考えられないくらいです……どうか、よろしくお願いしますね」
そう言って目尻を下げたソフィアと、キスを交わす。
確かに、あの時はソフィアとこうなると思ってもみなかったな。でも、僕だって同じ気持ちだ。彼女達が居ない人生なんて、考えられない。必ず僕の全てを賭けて守り抜こう。
「今日この日を貴方と、そして想いを同じとする彼女達と迎えられて良かった。もう、自分を押し殺したりしないわ。愛しているわ、ユート君……」
穏やかに微笑みながら、ファムが僕の唇を奪う。
己を犠牲にしてまで世界を守ろうとした、彼女の気高さを尊敬すると同時に……僕への想いを取ってくれた事への感謝と愛情を篭めて、その口付けに応える。
全員との誓いの口付けが済み、僕は彼女達に視線を巡らせる。
——創世神様の天使。
「第一王妃、キリエ・アーカディア・アヴァロン」
「はい、ユーちゃん!」
——魔導姫の称号を得た大魔導師。
「第二王妃、アリシア・クラウディア・アヴァロン」
「はいっ、ユート君!」
——元奴隷の獣剣姫。
「第三王妃、アイリ・レオングル・アヴァロン」
「はい、ユート様!」
——精霊に愛された精霊姫。
「第四王妃、リイナレイン・デア・ヴォークリンデ・アヴァロン」
「はい、ユートさん!」
——魔王族の血を引く魔剣姫。
「第五王妃、クリスティーナ・ガルバドス・ド・アヴァロン」
「……んっ、ユート」
——盾騎士の勇者姫。
「第六王妃、メグミ・ヤグチ・アヴァロン」
「はい、ユートさん……!」
——神代の竜。
「第七王妃、エイル・バハムート・アヴァロン」
「はーい、お兄ちゃん!」
——聖母と呼ばれる世界神。
「第八王妃、ヒュペリオン・イグナティア・アヴァロン」
「はい、ユー君ー!」
——神々に愛された騎士姫。
「第九王妃、ノエル・アイングラム・アヴァロン」
「はい……ユートさん!」
——エメアリア女王の召喚姫。
「第十王妃、プリシア・アーカディア・エメアリア」
「うん、ユート!」
——亡国の血を引く、吸血姫。
「第十一王妃、ソフィア・ガルバドス・ド・アヴァロン」
「ええ、ユートさん!」
——転生したワイズマンの首魁。
「第十二王妃、ファルシアム・デア・ディアクロフト・アヴァロン」
「はい、ユート君!」
「今日この時から、僕達は夫婦だ」
僕は一度目を閉じて、彼女達との出会いから今までの事を反芻する。もう、言うべき言葉は決まっている。
「必ず君達を幸せにする事を約束する。永遠の愛を、ここに誓う……“俺”を信じて、付いて来てくれ」
目尻に涙を浮かべて頷く、愛しい人達。
全員の誓いの口付けが終わった事で、創世神様が一歩前に出た。
「ここに新たな夫婦が誕生した事を、創世の神として祝おう。前途ある新たなる夫婦達に、祝福を!!」
創世神様の宣言。直後、割れんばかりの拍手が巻き起こる。
僕達六組の新郎新婦へ向けられた、祝福の拍手だ。
気が付いた時には、創世神様は既に姿を消していた。天使達はまだ、僕らの頭上で舞い飛んでいるけどね。
僕達はそのまま移動して、神殿のすぐ脇に設えた鐘へと向かう。鐘のある塔には、新郎新婦全員が持つ為の紐を垂らしてある。
「それじゃあ、せーのっ!!」
僕の合図と一緒に、全員で紐を引いて鐘を鳴らす。
”祝福の鐘”と名付けたこの鐘は、遺失魔道具だ。
効果は大したものではない。単に、鐘に込めた僕の神力によって発動される付与魔法を与えるだけ。
体力回復とか、状態異常耐性とか、そんなささやかなものだ。
そんな付与魔法が、鐘が鳴る度にアヴァロン王国のみならず……世界中に放たれる。
別に、世界平和の為とかじゃない。ただ単に、僕達の記念すべき日にケチが付かないと良いなぁと思っただけ。
――今日一日くらいは、誰も死んだり傷付いたりしませんように。
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「さぁ! ブーケトスの時間だ!!」
マイクを持って、集まった人々に声をかける。僕の言葉に、大半の人が首を傾げているね。まぁ、当然か……ヴェルスフィアの結婚式に、ブーケトスは無い。
「これは、地球の結婚式に伝わるジンクスだよ。花嫁が投げたブーケをゲットした人が、次の花嫁になる番だとか……そんな風に言われているんだ」
僕の言葉に、未婚の女性達の視線が鋭いものとなった。ちょっと、なんて言うか……獲物を狙う獣の目にしか見えないんですけど?
例えば、拳聖とか? 職人ギルドの補佐をしてるドワーフとか? まだ相手がお決まりではない、各国の姫君達とか?
更に、既にお相手を見付けた女性達の一部も参加するらしい。
アレか、ブーケを手にして次は自分達が!! って事か。逞しいな……。
合計で十七のブーケが飛ぶ訳だから、競争率は高くないよね! とか思っていたんだが……これ、大激戦になるぞ……。
「……そ、それでは……怪我とかしないようにね? 花嫁の皆……どうぞ!!」
僕の合図で、空へとブーケを投げる花嫁達。
「って、飛距離!!」
ブーケトスってよりも、全力投球だね!? ついでに言うと、高度もそれなりである。
「行くぜっ!!」
我先にと上空へ跳び出すベアトリクスさん……必死だな、ロリババア。
「はあぁぁっ!!」
ベアトリクスさんにフィジカルで敵わないと判断したリリルルが、反対側の中空を舞うブーケを狙って疾走!?
「次は私の番……次は私の番っ!!」
君、魔導師でしたよねシャルさんや? 何その、前衛職にも負けない猛ダッシュは。
更にはエリザベート殿下やフローラ殿下、シャルル達まで……。
う、うん……これは伝えちゃいけない文化だったみたいね!!
……
結果、ブーケを見事掴み獲ったのは……。
「ッシャア!!」
まぁ、某拳聖は言うに及ばないだろう。必死過ぎワロタ。
「はぁ、はぁ……やった! やったわ!!」
もう一人、ガチで必死だったリリルル。う、うん……頑張った、ね?
「ふふふ、ゲットしたよ……!!」
笑顔でゲットしたブーケを振って、エミリオに駆け寄るシャル。それ、プレッシャーかけてるよ。
「ダーム様! 無事に取れました!!」
「やっぱりシャルルは凄いね!!」
無邪気にはしゃぐ幼いカップル。君達成人まで数年あるよね? その間、誰も結婚させない気かい?
「こ、これでクロード殿下と……!!」
「ジオルギウス殿下……次は、私達が……!!」
エリザベート殿下とフローラ殿下の目が超本気。
そんな六名以外は、一般女性四名と貴族令嬢七名がゲットしておられた。その表情はガチ過ぎて、正直ドン引きです。
「これ、正直には言えねぇなぁ……」
「次の挙式予定者、決まってますからね……」
そう、既に挙式予約が入っているのだ。カミーユとミレイナ、そしてジーナ王女とベンツ氏の……。
尚、当人達は日取りも決まっているので、ブーケ争奪戦には不参加であった。
「説明の時に言った”次の花嫁”は、余計だった……」
苦笑いしか出来ない僕のもとに、念話が届く。
『ユート君、こっちで誤魔化してあげよっか?』
『ユートさんは男性だから、そのへんのジンクスの知識は曖昧だった事にしましょう』
マナ! ノゾミ!
流石は勇者だ! 愛してる、友達・仲間として!!
結果、勇者女子達の説明で”ブーケを手にした者は、幸せな結婚に巡り合う”というのが起源、と誤魔化して貰った。
嘘は心苦しいものの、皆の心の平穏のためにさ……というか、うん。それがヴェルスフィア流ブーケトスという事にしよう、そうしよう!
……
その後、披露宴代わりの立食パーティーを行い、僕達の結婚式は無事に終了した。
誰も彼もが笑顔に満ち溢れて、多くの人から祝福されて……本当に、幸せだった。
その先は、平穏な日常……の合間、仕事に忙殺されたり、トラブルに対処したり、子供達が無事に生まれて来たり……。
幸せな日々を、僕達は駆け抜けて行った。
――そして、約束の日が訪れる。
拙作”刻印の付与魔導師”にお付き合い頂いた皆々様、誠にありがとうございました。
次話をもって、この物語は終幕となります。
それでは、刻印の付与魔導師ことユートの迎える未来を、ご覧下さいませ。




