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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
終章

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288/327

23-07 全首脳会談/エルヴィオラの決断

これまでのあらすじ:ヴァンディーガをクーリングオフしたい。

 ヴェルスフィアに帰還して、五日後。僕達は各国の王や友人を招き、盛大なパーティーを開いた。

 ヴェルスフィアの国々……数々の問題や、永きに渡る諍いによって争っていた国々。しかし肩を並べて共に戦ったお陰か、誰も彼もが笑顔だった。

 ……だからやめられないんだよな、この生き方を。


 さて、そんなパーティーの最中。ある人物から、一つの提案があった。

「おい、アヴァロン王。今回の件で、世界中の国が一度は集まっただろう。同盟に加盟してねぇ国が、そろそろ騒ぎ出すんじゃねぇのか?」

 ギルス皇帝、ガイウス・グローリア・ギルスであった。相変わらず高圧的ではあるが、内容はマトモである。

 非加盟国か……確かに、そうかもしれないな。

「あの場に集められた以上、部外者とは言えないもんなぁ。説明はしないとダメか」


 神界門を目指す道中、駄神によって強制転移させられた世界中の戦力。その中には、世界同盟に加盟していない国も居た。

 東のベルデス市国とドラグニル王国……そして、クロイツ教国。南のリレック獣皇国と、ニグルス獣聖国。この五カ国だ。


 僕とギルス皇帝の会話に、他の国王達も混ざって来た。

「しかし、敵対した国だろう?」

「使者等を送っても、捕らえられて拷問されるのではないか?」

 そう言うのは獣帝ケビンさんと、ユエル王クラインだ。

 うちのコアメンバーが行けば、その程度の悪意は簡単に退けられる。しかし……そこまでする必要があるかと言われると、無いんだよね。

 ちなみにドラグニルとベルデスはあの戦いで敵対寸前だったものの、結局は様子見だった。僕がディスマルクの事を暴露するまでは交戦する気満々だったけどね。


「クロイツ教国は確実に問題を起こすだろう。奴等は未だにアヴァロン王国を敵視している」

 アルファ達、殿下勢も話に加わり出した。気が付けば、国家元首とその子供が勢揃いしてないか?

 さて、ゴルトローゼ等のやらかした連中は既にこの世にいない。だけど、教国はまだ国としての体裁を保っている。

 恐らくは誰かしらが指導者として立ったのだろう。どうせ、アヴァロン憎しで民を纏め上げてるんじゃないかな。


「相手の懐に潜り込めないなら、こっちの掌の上に来て貰うか」

 転がす気満々の台詞に、王達が苦笑する。実際に転がされたギルス皇帝など、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「つまり、全世界の国を集めるのね? 面白そうじゃない」

 ファムが不敵な笑みを浮かべる。アンタ、色々と暴露してからはっちゃけてませんか? 僕に言われたくないだろうけど。


************************************************************


 そして十日後、僕達はノア二号機・浮遊殿に集まった。

 やる事は、ホシノ兄弟討伐の時と同じだ。転移の姿見を非加盟国に送り、直接浮遊殿に転移させた。

 こうして、初めてヴェルスフィアにおける国家元首が勢揃いしたわけだ。


 アヴァロン王国国王である僕。

 東大陸のエメアリア魔法国女王、プリシア。

 ファムタール騎士王、コーバッツさん。

 ギルス帝国皇帝、ガイウス。

 ヒルベルト王、ラインハルト。

 イングヴァルト王、アンドレイ叔父さん。

 南はミリアン獣王、バナードさん。

 ジークハルト竜王、フレズさん。

 ケルム獣帝国、ケビンさん。

 西からはヴォルフィード皇帝、メイトリクスさん。

 クエスト王、ドルガさん。

 ラルグリス王、バルムンクさん。

 ポーラ大公、ファム。

 シンフォニア王、ヴェルデ。

 トルメキア女王、メリッサさん。

 ユエル王、クライン。

 そして北大陸のオーヴァン魔王、アマダム。

 加盟国側は、この十七名が円卓の前に立っている。


 そして、非加盟国である五カ国。

 ベルデス市国国王、セブルス・カルロ・ベルデス。

 クロイツ教国の新教皇を名乗る、ジルヴァ・マルクト・クロイツ。

 ドラグニル王国の国王、ヴォクシー・グラン・ドラグニル。

 リレック獣皇国、獣皇ラカン。

 ニグルス獣聖国、獣聖ボルト。


 これが、今ヴェルスフィアに存在する二十二カ国の王だ。


 ……


 緊張感溢れる非加盟五カ国に対し、加盟国側は平然としている。

 さて、円卓に着いた全国家元首が座ったし始めようかな。

「じゃあ、今回の騒動について話そうか。まずは……ヒルド・ビイト・エクル、おいでー」

 とりあえず、神々を円卓に呼ぶ。すると、余計な口を挟む変態がいた。

「あら、ユートちゃん? アタシはぁ?」

「黙れド変態、ちゃん付けするな。むしろ永遠に黙れ」

「んっ…!! そういうプレイ!? そういうプレイなのね!?」

 罵っただけで欲情しやがった。やっぱり、アイツは殺処分した方がこの世界の為なんじゃないかな……。

 ちなみに、ヴァンディーガも現在は人化している。


 怪訝そうな顔をする面々。その一人でもあるヴェルデが、僕に問い掛けて来た。

「ユート、何だアレ?」

「新しい魔人族の神」

「ヴァンディーガよ、よろしくねん!」

 その言葉に、全員が押し黙った。

「……!?」

 あれが!? みたいな顔をするアマダム。心中お察しする。

「文句は創世神様にお願いするよ。僕はこの件にノータッチだから」

「アタシにタッチしても良いのよ!?」

「うるせぇ、黙ってろド変態」

 いちいち話に入ってくんじゃねぇ。


「あ、あれを信仰しろと……!?」

「こいつを信仰しなきゃいけない魔人族の民には、心よりお悔やみ申し上げます」

 むしろ、信仰しない方が良いんじゃないかな。


「さて、クソドMは放置するとして……三人共、本来の姿になって」

 ニッコリ笑うヒルド、ニヤリと笑うビイト、クスリと笑うエクル。性格が良く出ているね。

 三人はそれぞれ光を纏い、人化した姿から神の身へと戻る。

 放たれる光は神々しく、その場に居る者達が一斉に跪いた。僕やユウキ、婚約者達は跪かないよ。


「紹介しよう、まずはヒュペリオン」

「はーい、ユー君ー……人の子よ、傾聴なさい。我が名はヒュペリオン。創世神様より預かりし、東の地を治めし神」

 ……ヒルド、神様モードだとそんな風に喋るんだ? 嫁の新しい一面を知った所で、次だ。

「それじゃ、次はビスドランか」

「おう。我が名はビスドラン……闘神だとか何とか呼ばれてるが、ヒュペリオン同様に創世神様から南の大陸を預かった神だ」

「で、エクドルフィン」

「良いでしょう……我が名は妖精神エクドルフィン。他の二柱同様に、創世神様より西大陸の管理を任じられた神です」

 物音一つしない部屋に、神々の声が響き渡る。


 跪く者達は、声一つ発する事が出来ない……そりゃそうか。こんな至近距離に、神気を放つ神々が三柱もいるわけだしな。

「さてと。このままじゃ話が進められないし、神気を収められるかな?」

「あん? 別に人化すりゃ良いだろ?」

 そう言って、ビイトが人化を始める。最初、人化する時にブツクサ言っていた奴とは思えないなぁ。

 同じ事を考えたのか、ヒルドやエクルも苦笑して人化する。


「か、神々が……この場に……!?」

 そう言って驚いているのは、ニグルス獣聖だ。

「あぁ。折角居るんだし、出席して貰った。それじゃあ、そこの空いてる席に座ってねー」

「おう」

「ええ」

「了解だよー」

 神々に対する僕の態度、そして僕の言葉に対する神々の態度に、非加盟国が目を剥いている。


 ヴァンディーガ・ビスドラン・エクドルフィン・ヒュペリオンの順で、僕とアマダムの間に座る。ヴァンディーガが隣に座った事で、アマダムの表情が引き攣った……。

「魔王殿は、これから苦労するわね」

 苦笑するプリシアに、僕もまた苦笑で返すしか出来ない。


「じゃあ、まずは魔人族の世界神・ディスマルクの末路について話そうか」


 ……


 僕は全ての国々が集められてから、ディスマルク討伐までの事を話した。

「ここまでで、何か聞きたい事はあるか?」

 僕が問い掛けると、挙手も無しに立ち上がる者が居た。やはりと言うか何と言うか……当然、クロイツ新教皇だ。

「神を討伐だと? 何たる不敬! 貴様、自分のした事が解っているのか、アヴァロン王!」

 やはり、クロイツはそういう感じなのね。国柄なのかな、これは。


「じゃあアンタは、こう言いたいわけだ。我々地上に生きる者は全て、ディスマルクの玩具でいれば良かったと?」

 僕の言葉に、新教皇が口を噤んだ。

「良いか、ディスマルクは他の三柱から力を奪い、ヴェルスフィアに生きる者全てを玩具にしていたんだ。その結果、滅びた国は二桁にのぼる。そんな駄神をお前は擁護するんだな?」

「そ、そんな証拠は……」

 あるんだなぁ。むしろ、居る。


「ユー君の言葉を肯定します」

「あぁ、事実だ」

「私もユートの言葉は真実だと告げましょう」

 そう、神々である。流石に神々の言葉には異を唱えられないのか、新教皇が黙る。

「この場には他の三柱も居る。そしてディスマルク討伐にあたって、三柱の神も我々と共に戦った訳だな。で? これ以上の説明は必要か?」

 新教皇は、ついに黙り込んだ。


 神を討伐した事を責めるなら、共に戦った神々も糾弾する事になる訳だ。しかも彼等が信仰する、人間族の世界神・ヒュペリオンまで、ね。


 黙して立ち呆ける新教皇。何かを言おうとするも、言葉が出て来ないようだ。

「何もないなら、座ると良い。さて、他に何かあるかな?」

 すると、挙手する者が居た。ドラグニル国王である。

「よろしいだろうか?」

「どうぞ、ドラグニル王」

 僕が発言を促すと、ドラグニル王が立ち上がる。


「アヴァロン王。貴殿は神になられたのだったか?」

「あぁ、それか……神化は出来るが、まだ神を名乗る気は無いな。この世界でやるべき事を終えて、次の世代にバトンタッチするまではね」

 僕があっさり告げた言葉に、非加盟国の内数カ国が睨み付けて来る。

 具体的にはクロイツ・ニグルス・リレックだ。ドラグニル王は成程と頷き、ベルデス王は純粋に驚いていた。


「神になっただぁ? どんな手品を使ったか知らねぇが、お前が神だと証明出来るのかよ。遺失魔道具アーティファクトでそう見せかけたとか、そんな所じゃねぇのか?」

 そんな事を言い出したのは、リレック獣皇である。懲りないね、こいつも。

「左様、人が神に至るとは考え難い」

「その通りだ、アヴァロン王! 人の身でありながら神を名乗るなど、不敬極まりない! 貴様は神を侮辱している!」

 便乗したニグルス獣聖とクロイツ新教皇なのだが……新教皇は、何か小物感がヤバいね。


 ここは、神々にお願いしようかね。

「では、その辺について神々からお言葉をどうぞ!」

「ユー君は、確かに神に至りました」

「おう」

「ええ」

 ヒルド・ビイト・エクルの言葉に、三カ国の王は表情を歪めた。


 そして……その顔が凍り付く事になる。

「よろしくて、アナタ達?」

 ド変態が、動いた。

「ひっ……!?」

 アマダムが、呻いた。

「本来であれば、神であるアタシ達がこの場に居る事自体が奇跡なのよ? じゃあ、何故アタシ達はここに居るとお思い?」

「あ、え……」

「理由は一つ、ユートちゃんの希望だからよ。創世神様が直々に創造の神とお認めになり、私達世界神よりも格上の上級神なのよ。そんな彼の言葉だからこそ、アタシ達はこの場に居るの」

 そうなん? と視線を三柱に向けると、苦笑しつつも頷いている。そうなのか。


「だ……だが、しかし……!!」

 尚も認めようとしない新教皇。いい加減ウザいので、黙らせるかぁ。

「――変神へんしん

 白金の光を放ち、己の身を神の身体へ。

 うーん……最近、神化し過ぎかなぁ? この会談が終わったら、ちょっと自重しようかな。


 さて、今回は神気を垂れ流しにする。そうすると、どうなるか? 神の威光によって、全世界の王や貴族達が平伏した。

「どうした、クロイツ新教皇? 何か言いたい事があるんじゃあないのか」

「……っ!!」

 ひれ伏したままの新教皇に視線を向けると、彼は凄い形相だった。しかし僕の神気に晒されて、何も言えないまま頭を下げていた。

「特に無いようだな。じゃあ、元に戻ろうかね」

 神化を解いて、僕は各国の王達に着席を促す。


 ……


 あ、それと勇者の件かな。

「神界門に向かう道中で敵対した勇者達は、地球に帰還した。マサヨシは自分の意志で、アヴァロン王国に再び仕官したがな」

 その言葉に、リレック獣皇とクロイツ新教皇が眉尻を上げて立ち上がった。

「ふざけるな! 我が国の勇者を勝手に!」

「その通りだ! 第一、マサヨシ・カブラギはクロイツ教国の勇者だ! メグミ・ヤグチ、ユウキ・サクライ、マナ・ミナヅキもだ!」

 唾を飛ばしながら激昂する両王に、周囲の視線は冷たい。


 ところで、ニグルス獣聖は? と見てみると、獣聖ボルトは僕を真っすぐに見ていた。

「獣聖殿は、意見は無いのかね?」

「……ディスマルク神を地球で討伐し、アヴァロン王達はヴェルスフィアに帰還したのだろう。ならば、勇者達が故郷への帰還を望んだ……違うか」

 おや、彼は随分と冷静だね。

「その通りだ。勇者フミナ・ノブヨシ・セツナ・ゴウ・クイナ・シノは、地球への帰還を望んだ」

 最も、シノは身寄りを無くして行く宛てが無いので、アヴァロン王国に居候しているけどね。その結果、地球に戻りたいというのなら、戻らせてあげるつもりである。


 さて、それじゃあリレックとクロイツを扱き下ろすか……と思ったら、マサヨシが前に出た。

「陛下、発言をよろしいでしょうか」

 マサヨシが!? 僕に対して!? 陛下だと!?

「何か悪い物でも食ったのか!? お前、拾い食いとかしてないだろうな!?」

「おま……っ!! こういう場だから、お前を立ててやろうと思って!! 何で普通の対応をしたら、いちいち驚くんだユート!!」

「自分の胸に手を当ててみろ!!」

「反省してるって言っただろうが!!」

 言い合いを始める僕とマサヨシ。それを見て、各国の王達がポカーンとしてしまった。


 そんな様子を見て、苦笑しながら他の勇者も前に出て来た。

「私はクロイツ教国から、正式な手続きを踏んで亡命しています。二度とクロイツの勇者として扱わないで下さい」

 メグミが絶対零度の視線で、新教皇を睨む。

「僕とマナもです。第一、ヒルベルトから強引に所属権を略取したクロイツを、信用出来るとでも?」

「そうそう。なので、私達もメグミン同様にアヴァロンの勇者なので!」

 ユウキとマナの言葉に、ラインハルトが立ち上がった。

「勇者達は物ではない、我が国は彼等を縛るつもりはない。アヴァロン王国に、正式に所属権を譲渡する事を宣言する」

 その発言に、会場がざわめいた。


「それと、ニグルス・リレックの勇者達が地球に帰る事に、何の不具合も無いんじゃないでしょうか?」

「そうそう。だって討伐すべき邪悪な神も、悪魔族の王も、みーんな倒されたんだからさ?」

 ノゾミとタイシが、援護射撃を入れる。そう言われては、獣皇と新教皇も二の句が継げないようだ。

 勇者が召喚された理由が、排除されたのだ。やったのは僕だけど。つまりヴェルスフィアに居続ける理由は、もう無いという事だね。

「何を勝手な事を……!!」

「勝手なのはそっちだ、新教皇猊下。俺達はあんた達の道具じゃない……俺達の行先は、俺たち自身が決める!!」

 マサヨシの宣言に、新教皇は顔を真っ赤にしている。そろそろ血管切れんじゃない?


「アヴァロン王よ。ヴェルスフィアに残る事を決めた勇者達を、一国が独占するのはどうかと思うが……」

 苦々しい様子でそう言うのは、ベルデス市国の王セブルスである。まぁ、言わんとする事は解るけどさ。

「僕は政治の話より、勇者の心情を取るけどね」

 その結果、アヴァロンと敵対する国が現れたとしても構わない。

「彼等の心を無視して、何が王だって話だと思わない?」

 そこまで悪感情を向けて来ている訳では無いので、威圧的な話し方は避けておく。


 すると、セブルス王はふむ……と頷く。

「では、勇者達に問いたい。ヴェルスフィアで生きる事を決めた貴殿達は、何処で生きたい?」

 その言葉に、勇者達は笑顔で頷いた。

「私はアヴァロン王の婚約者です。アヴァロン王国以外にありません」

「この王様、放置するととんでもない事をするからね。手綱を握るヤツが必要なので」

「ユウキってば、相棒を放っておけないって言えば良いじゃん。なので、アヴァロンだね!」

「俺は、罪を償う為にユートの下で働くと決めた。アヴァロン王国以外は考えられない」

「私はラルグリスの勇者……なんですけど、ムラーノ侯爵に嫁入りするので、将来的にはアヴァロンですね」

「俺はほら、エメアリア魔法国の勇者ですから? 最も、エメアリア女王がアヴァロン王の嫁さんになるんだけどさ」

 最終的に、アヴァロンに集中するわけである。これには、非加盟国の表情も険しい。でも、流れは既にこっちなんだよねぇ。

「それで? 勇者達はこう言っているが、そんなの関係ねぇ!! っていう国は?」

 流石に、それ以上の意見を言える国は無かった。


 ……


「他に何か質問や意見はあるか? 無いなら終わりにしようか」

 そう言うと、挙手する者が居た。加盟国側からである。

「ファム……いや、ポーラ大公? 何かあるのかな?」

「えぇ、発言してよろしいかしら?」

 そう言うと、ファムが立ち上がる。その表情は、穏やかな笑みを湛えた世界会議の時の顔でもなければ、茶目っ気を滲ませた普段の表情でもない。無表情……そして、鋭い視線をしていた。


「まずは、改めて自己紹介させて頂きます。私の名はファルシアム・デア・ポーラ。同時に、根源魔法アカシックレコードを大迷宮に遺した大賢者アークセージ・ワイズマンが一人……エルヴィオラ・ディアクロフト・ワイズマン」

 その言葉に、非加盟国が目を剥いた。大迷宮を生み出したワイズマンの一人が目の前に居るとは思わなかったらしい。

「ほ、本当なのか……!?」

「それは僕が保証しよう。彼女は確かに、ワイズマンの首魁だ」

 信じられないと言いたげなニグルス獣聖。話が進まないから、余計な口を挟ませないようにしよう。

「……ワイズマン、大迷宮の主というわけか」

 ベルデス王も、緊張感を滲ませて呟いた。


「さて、我々ワイズマンが大迷宮と根源魔法アカシックレコードを遺したのは、悪魔族と神を倒す為でした。その悲願はユート・アーカディア・アヴァロンと、彼を支える仲間達によって達成された。大迷宮……そして、ワイズマンの役目は終わったのです」

 ……雲行きが、怪しくなってきたぞ?

根源魔法アカシックレコードは世界の為に遺された。しかし、根源魔法アカシックレコードを同じ人同士の争いに使われる事を、我々は良しとしません」

 その言葉を受けて、各国の王達の表情が凍り付いた。それはつまり……。

「故にワイズマンを代表して、宣言します。大迷宮を封鎖し、根源魔法アカシックレコードは破棄します」


 その言葉に、真っ先に反論したのはリレック獣皇。

「馬鹿言うな! 何の権利があって……!!」

 いや、馬鹿はお前だろ。

「大迷宮も根源魔法アカシックレコードも、我々が生み出したものです。それを残すも破棄するも、我々ワイズマンの意思一つ。それのどこがおかしいのですか?」

「ぐぬ……っ!!」

 ど正論に呻く獣皇。


 だが、そこに口を挟む馬鹿もいた。

「待たれよ! 既に根源魔法アカシックレコードを会得している者達が居るではないか! そいつらが根源魔法アカシックレコードを使って、世の平穏を乱すかもしれん! その時に、根源魔法アカシックレコードが無ければ、対抗する手段が無くなるではないか!!」

 クロイツ新教皇が、僕を指差しながら言う。僕が世を乱すと決め付けていやがるので、加盟国側から冷たい視線が注がれる。


 しかしファム……いや、エルヴィオラの言葉は冷たく、突き放すような言葉だった。

「何も解っていないのですね。根源魔法アカシックレコードの事も、アヴァロン王の事も」

 クロイツ新教皇から視線を外し、世界各国の王達を見渡すエルヴィオラ。

 そして、彼女は冷たい声のまま話を続ける。

「このアーカディア島は、我々ワイズマンと神代の竜バハムートが遺した島。では、何故バハムートがここを守っていたのでしょう?」

「……?」


 言っている意味が解からない者ばかりらしい。

 僕は察した。おそらく、このアーカディア島には……。

「その答えは……このアーカディア島に、世界各地の大迷宮を構成する、迷宮核があるからです」

 やはりそうだったか。


 僕は立ち上がり、エルヴィオラと向き合う。

「おかしいとは思っていたんだ。各大迷宮の最深部……ワイズマンの隠れ家に、大迷宮を構成する核が無かった」

 アヴリウス大迷宮を攻略する際に、アリスから教えて貰った迷宮核の事。しかしワイズマンの隠れ家にあったのは、根源魔法アカシックレコードを会得させる石版と彼等の生活した痕跡くらいだった。


「そして、アーカディア島をバハムートが守っていた理由もだ。エイルに聞いた訳じゃないが、ワイズマンに関わる何かが隠されているとは思っていた」

 僕が推理を口にすると、エルヴィオラが苦笑する。

「それでは、ユート・アーカディア・アヴァロン。あなたはこの先、私が何をするか解りますか?」

 彼女の挑戦的な視線が、僕を射抜く。


 ワイズマンは後世の為に、根源魔法アカシックレコードを遺した。世界にとって闘争の火種となる物を、一つたりとも残す気は無いだろう。

「……それも含めての転生か、苦労性だな?」

 僕の言葉に、エルヴィオラが苦笑した。

「やはり、解るみたいですね」

「僕が君の立場なら、同じ事をするからね」

 彼女が転生を繰り返した事。そして、彼女が嫌う自分の根源魔法アカシックレコードを保持し続ける理由。全てはその為か。

「付与の根源魔法アカシックレコード……それを使って、根源魔法アカシックレコードを奪うつもりだな?」

「正解です」


 その言葉に、全員が驚きを見せた。驚いていないのは僕とエルヴィオラ以外、エイルとディアマントくらいか。

「抵抗は無意味と宣言しておきましょう。私はこう見えてもワイズマンの筆頭、ワイズマンが生み出した全ての根源魔法アカシックレコードを保有しているのですから」

 そう……それはつまり、僕と同等の力を持つという事。

 流石の非加盟国も、それ以上は口を開けなかった。


「じゃ、ほれ」

 僕は、エルヴィオラに手を差し出す。

「……あれ? 良いの、ユート君? 失くしちゃうのよ、根源魔法アカシックレコード

「いや、最初からそのつもりだったんだろうに。言ったろ、僕も同じ事をするって」


 彼女がこうする理由、そして気持ちは僕にも解る。

 それは、彼女がこの世界を愛しているからこそだ。

「自分達が愛し、守りたいと思ってきた世界。そんな世界を、自分達が生み出した力で傷付けたくない……そういう気持ち、解るよ」

 エルヴィオラは驚いた表情を見せ……そして、微笑んだ。

「ユート君、大迷宮を攻略したのがあなたで良かったわ……本当に、ありがとう」

 差し出した手を、エルヴィオラが握り締める。


「天空の王、ユート・アーカディア・アヴァロン。ワイズマンを代表して、感謝します。我々の悲願を成し遂げてくれて、ありがとう」


 ――僕の中から、抜け落ちていくのが解る。ワイズマン達が遺した力、根源魔法アカシックレコード


「アレキサンドリア、ビルゲート、ディアマント、ギャラハム、ヨシュア、ティルファニア、アヴリウス……そして、エルヴィオラ。我々が世界を守れたのは、君達のお陰だ。偉大なる大賢者アークセージ達に、この世界の一員として感謝を」


 そしてワイズマン達が遺した根源魔法アカシックレコードは、全て返し終えた。そう……奪われるのではない、返したのだ。


 ……


 僕が率先してエルヴィオラに根源魔法アカシックレコードを返却した為か。他の面々も大人しく根源魔法アカシックレコードをエルヴィオラに返却していった。


 そして……。

「それでは、全ての大迷宮と繋がる核をここに」

 それに応じたのは、エイルだ。

 円卓の中央に突然姿を現した、淡く輝く巨大な球体。エイルはずっと無限収納庫イベントリみたいな技能スキルを以って、この核を守っていたのか。

 それにエルヴィオラが手を触れさせた瞬間、核から放たれていた輝きが弱まっていく。

 やがて、球体は光を失った。これで、全ての大迷宮は機能を停止したのだろう。


「これで、私の役目は終わりました。ジルベール、今後はあなたがポーラ公国の大公を引き継ぎなさい」

「かしこまりました、陛下……必ずや、良い国にしてみせます」

 ……は?

「待った、ファム? どういう意味だ?」

「そういう意味よ? 私はこれで御役御免。転生する事なく、生涯を終えるつもり」

 そう言うと、ファムは光を放つ。その身体が、粒子のように消えようとしていた。


「後の世の為、根源魔法アカシックレコードは無くした方が良い。私がそれを保有したままこの世に居ては、今度はそれが争いの火種になるわ……それは、嫌なのよ」

 ……そういう事か。

「僕達なりに、今後も世界の為に頑張ってみるよ。ありがとう、ファム」

「うふふ、頑張ってねユート君。天国から見守っているわ」

 そして、ファムの身体が徐々に消え始めて……。


「……って、待った!! ディア、貴女なに見送ろうとしてんの!?」

 ……あ。そういえば、ディアマントが居たな。

「え? 私は残るわよ?」

 しれっと言い放つディアマント。

「ちょっ……なんで!? あなたもワイズマンの一人として……!!」

「いやぁ。あの戦いの時にさ、そこの……フリードだっけ? ちょっとイイなぁって思ってね。生前独身だったし、ここは女としての喜びをね?」

「んなっ!?」

「私ですか!?」

「ここへ来てフラグ立てたのか、フリード!! やるじゃん!!」

「ユート君、ちょっと黙ってて!!」

「はいっ!!」


「ズルいわよ!! 私だって残りたいわよ!! ユート君の事好きなのに、役目のために諦めるしか無いからって!!」

 ファムのアプローチって本気だったのか、やっぱり。そのくせ、どこか諦め混じってる感情の色だったから、気にはかけていたんだけど。

「でもヴィオラ、そこまで消えたら貴女ダメなんじゃ……」

「やっぱ、ディアも消えよう!? ね!?」

 道連れか。

「嫌よ!!」

「じゃあユート君、私にも身体!! 身体創って!!」

 はっ!?

「いや、あれは創造の根源魔法アカシックレコードで創るわけだから、今はもう……」

「それ、奪ってないわよ!!」

「何やってんだ!? 根源魔法アカシックレコードは遺さないんじゃなかったのか!?」

「ワイズマン製の根源魔法アカシックレコードは返して貰ったけど、創造はユート君の自前でしょ!? 人の物を盗んだりしないもん!!」

 あ、ホントに残ってるわ。

「そういう事なら……そぉい!!」

 舌の根も乾かぬ内に神化じゃい! ファムそっくりの身体を創るぜ!


「……何がどうなっているんだ?」

「とりあえず、蚊帳の外だな……我々」

 あ、非加盟国が完全においてけぼりになってる。


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