02-07 身内/悪魔族
これまでのあらすじ:ベアトリクスお嬢様が匿ってくれたよ。
さて、ベアトリクスさんの屋敷に匿って貰う事になった。色々とゴタゴタしたが、夕方には落ち着きを取り戻し……僕は、姉さんとアリス、そして獣人達に声をかけた。
「それでご主人様、お話とは?」
「とりあえず、座ってくれるかな。長くなるかもしれないからね」
立ったままでいようとする獣人達を説得し、何とか席に座らせた。
「本当は皆には僕達が抱えている秘密を明かさずに、王都で別れるつもりだった」
別れるという言葉に、四人の表情が曇る。
「だが、事ここに至って、もう僕達は運命共同体だ。だから、君達に僕達の事を明かそうと思う」
姉さんとアリスには、あらかじめその事は伝えておいた。だから、二人から異論は出ない。
「……お願いします、ご主人様」
アイリの言葉に、他の三人も表情を引き締めた。
それから、僕達は話をした。
僕と姉さんが、勇者と聖女の子である事。アリスが、アークヴァルド公爵家の令嬢である事。
僕が特殊な付与魔導師で、遺失魔道具を製作できる事。複数の遺失魔道具を製作し、所有している事。
それらを、四人に説明していった。アリスの本来のライセンスカードや、僕の遺失魔道具を見せると、四人は表情をどんどん引き攣らせていった。
話を終えると、四人は疲れたようにぐったりしていた。もう日も落ちて、外は真っ暗だ。
「俄かには信じがたい話でしたが、ご主人様の人となりを知っていますから……信じます」
「俺らに嘘ついても、ご主人様達に得する事がねぇからなぁ……」
「ご主人様達は凄い~!」
「奴隷にされたのは不運でしたが、ご主人様達に救って頂けたのは間違いなく幸運でしたね」
納得してくれたらしい彼等に、続けて今後の事を伝える。
「どんな手を使ってでも、皆を奴隷から解放してみせる。そして、僕達の身の潔白を証明する。最後まで、付き合ってくれるかな」
そう言うと、四人は不敵な表情で首を縦に振った。
「最後まで付き合わせて貰いますよ、乗りかかった船だし!」
「ご主人様達と一緒なら、無敵~!」
「僕も、最後までお付き合いします!」
「はい……どこまでも、お供させて頂きます」
ケモ耳ピコピコ、尻尾をブンブンさせながら、四人は力強い返事を返してくれた。
「ありがとう。それじゃあ……いっちょやるか!!」
「「「「「「おーっ!!」」」」」」
僕の号令に、一斉に手を突き上げる。
本来ならば、獣人達は巻き込みたくなかった……しかし、どう足掻いても影や獣王国との間で、悶着が一つや二つあるだろう。身を守る術を与えるには、僕達の情報を開示する必要があったのだ。
「いいねぇ、若いねぇ。魔王討伐の旅を思い出すよ」
いつの間に潜り込んだんだよ、ベアトリクスお嬢様。
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そして翌朝。
やる事が決まったならば、次は準備だ。影に対する対策を準備する必要がある。というわけで、それを作っているのだが……。
「なっ……」
「な……」
「な〜……」
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!!」
自動生産工場を見て、獣人達はたいそう驚いていた。
付与前の弾丸を大量生産する様子に、ベアトリクスさんが凄まじい形相で僕に飛び付く。
「ユート、これ売ってくれ! 言い値で払う!」
「ミリアン獣王国の年間国家予算と同等額を持ってきたら考える」
いくらか知らんが。
流石にそれは無理なのか、ベアトリクスさんが拗ねる。
「いいじゃねぇかよ! いけず!」
「知り合いだからといって、渡せるものと渡せないものがあるんだよ」
それに工場が公に知れてしまったら、職人さん達の仕事を奪う事になってしまう。これはあくまで、鍛冶適性のない僕の為に製作した物なのだ。誰が相手でも渡す気はない。
それを説明すると、ようやくベアトリクスさんは引き下がった……渋々だけど。
「さて、それじゃあこれを装備してみてくれ」
この先、荒事になるかもしれないからね。なので獣人達にも、遺失魔道具の装備を用意した。
「ま、まさか俺が……遺失魔道具の装備をつける事になるなんて……」
クラウスには胴と腕、脚を守る鎧に、”振動”を付与した大太刀。作ってみたかったんだ、刀。
「こんな貴重な装備を……よろしいのですか?」
ジルにも同じ鎧と、”振動”ショートソード。そして、ラウンドシールドには”硬化”と”魔法反射”を付与しておいた。
「ご主人様製の武器、嬉しいです〜!」
メアリーには”軽量化”を施した革鎧だ。そして弓を改良し、リボルバー式銃とショートボウが融合した新兵器として贈呈した。
そしてアイリはと言うと……金属板を仕込み、”硬化”と”軽量化”を付与した革鎧を渡した所、要望があった。
「ご主人様のように、二刀流で戦いたいのです。それと、銃というのは私にも使えるものでしょうか?」
などと言い出した。
これには頭を悩ませたが、僕の銃剣とは異なるアプローチを試してみる。片刃の剣に、銃の機能を盛込んだ。鍔部分が、拳銃になっております。
尚、扱いやすいようにリボルバーではなくオートマティックタイプだ。柄尻にマガジンを収められる。
それらの武装に加え、”宝物庫”と”首飾り”、”腕輪”も手渡す。
これは流石に、イングヴァルト王家とかに繋がるとまずいので、その辺りを改良して作った。
更に、保険も用意しておく。
「これは魔力を貯められる特殊な材質の石だ。明日の夜まで、こまめに魔力を貯めておいてくれ」
そう言って、四人に疑似魔石を五つずつ渡す。これは魔力を貯めておける、魔力タンクのようなものだ。
というのも、クラウスは元々樵、ジルとアイリ、メアリーは村民である。その為、魔力操作の修行などした事は無いし、魔力量も多くはない。
遺失魔道具を使うと、すぐに魔力が枯渇するだろう。その為の対策は必要なのだ。
魔力生成や、空気中の魔力を吸収するような魔法は……あるかもしれないが、まだ僕は知らない。
地雷パイセンに付与したのは吸収で、触れた対象の魔力を吸収する効果しかないしな。
……
姉さんとアリスに遺失魔道具のレクチャーをして貰っている間、僕は自分の装備を作っている。これから行う事の為に、必要な装備なのだ。
「ユート、あいつらに秘密を伝えて良かったのか? この件が片付いたら、あいつらとはお別れなんだろ?」
僕が秘密を明かし、遺失魔道具まで渡したのは、心境の変化があったから。それを察したベアトリクスさんが、僕に問いかけてきた。
「この先、どう転んでも戦闘になる。その時、彼等を守りながら戦えるかは解らない。その為にも、必要な事だったんだ」
「なぁユート、あいつらは……お前の”身内”か?」
僕が、身内に甘い事を知っているからこその、質問。
「言わなきゃ、解らない?」
身内以外に、遺失魔道具を渡すなんて有り得ない。あの四人は、ここまでの旅で苦楽を共にした仲間だ。
「だからこそ、って訳か。OK、それならいい」
踵を返し、部屋を後にしようとするベアトリクスさん。その前に……。
「ベアトリクスさん」
「あん? 何だよ……って、おっとっと!」
イングヴァルト勢にも渡した、遺失魔道具三点セットが入った箱を投げ渡す。
「渡すの、忘れてたわ!」
「おい、私の扱い低くないか!? お前のおしめ変えてやったの誰だと思ってんだよ!」
「一回変えようとしたら失敗して、二度とやんなかったのは覚えてるぞ」
「覚えてるん!? お前が生後半年くらいの時だぞ!?」
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夜が更け、皆が寝静まった頃。僕は、先程作った装備を身に付け、外に出る。
「検証は必要だからな……上手くいくといいんだが」
真実の目で広範囲索敵を開始する。王都から五キロメートル程離れた場所に、それはいた。ここからだと、約十キロメートルくらいか?
装備と同時に完成させた”あるモノ”を使い、僕は移動を開始した。
三十分ほど移動すると、王都から離れたとある町に辿り着いた。僕は屋根の上に立って、意識を”目”に集中する。”目”に写る情報から、目標の位置を把握した。
「うまく、いくかね」
手に持ったのは、一発の弾丸だ。これが上手く行けば、獣王との交渉材料にもなるだろう。
屋根から屋根へ跳んで移動し、町中にある古い小屋に辿り着いた。
小屋の中では、一人の獣人……彼は鼠の獣人だな。中肉中背で、年の頃は四十代くらいか?
その男が奇形の果実のような物を持って、不気味な笑みを浮かべていた。ブツブツと言っているが、小声なのでよく聞き取れないな。ちょっと近付いてみよう。
「……獣人の誇りを……この悪魔の果実で……」
おい、その名称やめようぜ。それはちょっとヤバイよ、お前。超人になったりしちゃうよ。
さて、あの果実は悪魔の果実というらしい。早速真実の目で果実を見ると、各項目が”不明”と表示される。この果実が、あの影の原因か?
「人間族へ……報復を……」
……ほう?
「国を、正常に……」
……んー?
「悪魔との契約で……」
何か、嫌な予感がするぞ?
様子を窺っていると、果実を持つ男は狂ったように笑い出した。
「ははひはは! 天罰の時は近い! 我等が世界を統べるのだ! ふひひひは!!」
あっ、これアカンやつや。そろそろ、試すか。
「なぁ、ちょっと話を聞かせてくれるか?」
十分後、小屋の床に狂った鼠獣人が股間を抑えて蹲っている。もちろん、実力行使の結果だ。
机の上に置かれた通称・悪魔の果実を宝物庫に回収し、男に向き直る。
「つまり、謎の商人に渡された悪魔の果実を喰えば、人間族を滅ぼす力が与えられる。月が満ちる夜に、同志達がこの果実を食べて、大橋から人間族の大陸に攻め込む、という話なんだな?」
「は、はひ……っ!!」
大橋で繋がっているのはイングヴァルト王国だ。イングヴァルトはアリスの故郷で、母さんの故郷で、アルファ達が住んでいる。看過は出来ない。
「情報提供に感謝するよ、悪魔の果実は貰っていく。命までは奪わないが……相応の報いは受けて貰う」
サイレンサーを装備した銃剣で両手足を撃ち抜く。
「あがぁぁぁっ!?」
痛みに悶え、鼠獣人が叫び声をあげる。
小屋から出ると、叫び声に気付いたらしい住民達が、松明を手に家から出てきた。
「さっきの叫び、聞いたか!?」
「あぁ、まさか盗賊でも来たのか!?」
「おい、町長に知らせろ!」
「各家を回れ、住民の無事を確かめるんだ!」
慌てながらも冷静に対処しようと、指示を出していく大人の獣人達。僕はその間を平然と通り過ぎるが、誰も僕に気づいた様子は無い。
――遺失魔道具”陰行の衣”。
その名が示す通り、気配遮断等の隠蔽系魔法を付与した、ボディスーツだ。
見た目は黒いライダースーツに、フルフェイスのヘルメットを装着した……つまるところ、不審人物だ。前世ならば職質待ったなしだね!
ちなみに、”隠蔽の紙箱”と機能は大して変わらないけど、新たに製作した理由。忍者っぽくて、カッコイイと思ったからです、ハイ。
さて、その商人とやらが怪しいのは間違いない。問題は、どうやって見つけるかだが……。
一度解析した物は、マップで検索する事ができる。ならば……。
……
二時間後、僕はミリアン獣王国の王都レオングルを再度訪れていた。そこに、そいつはいた。
悪魔の果実を持つ者の大半は、一つずつしか持っていない。
しかし僕の真実の目が捉えたその女は、五つの果実を持っているようだ。鼠獣人が言っていた商人とは、彼女のことだと思う。
見た目は猫獣人だ……しかし、僕の”目”に映る情報はそれを否定している。
……彼女は”悪魔族”らしい。
魔人族とは違う種族みたいだな。影と違って”解析”が有効なのは助かった。
そのまま、悪魔族の女は住宅地を抜けて広場へ向かうようだ。追跡していくと、広場のど真ん中で止まった。
「そこのあなた、何か用かしら?」
ハスキーボイスが耳に届く。振り返った女の視線は、僕を射抜いている。
”隠行の衣”は機能している。しかし、それでも悪魔族にはバレてしまったようだ。
「……悪魔の果実、というものについて聞きたい」
「あら、客かしら? それにしては、穏やかじゃない視線だわ」
フルフェイスのヘルメット着用中なんですが。まぁいい、情報を読み取るのが先決だし、気にせず更に凝視する。
「気にいらないわ、その”左目”」
途端、女がマントの下に隠していたらしいナイフを投擲してくる。狙いは僕の左目か。
「ちっ」
舌打ちして、銃剣でナイフを弾く。更に女は、鞭を取り出すとそれを振るった。迫り来る鞭をステップで避けながら、”俺”はこの先の動きを考える。
”悪魔族”……初めて聞く種族だ。この事件の黒幕は、おそらくこの女だろう。
身の潔白の証明、事件の終息……その為に、この女を捕縛する必要がある。ならば、こいつだ!
「そらっ!!」
封印の縛鎖を投げ付け、捕縛を試みる。
「……!!」
横に跳んでそれを避ける女。
「ちっ、勘の良い」
「ちっ、魔導具か」
互いに睨み合い、隙を伺う。
「悪魔の果実をバラ撒いて何を企んでいる、悪魔族」
「その左目も魔導具か。素直に答えるとでも思ってるのかい?」
「すんなり答えてくれたら嬉しいね、余計な手間が省ける」
「やれるもんならやってみな、坊や!!」
そう言うと、女は口を大きく開く。その口から、黒い炎の球が吐き出された。
「何だそりゃ!」
横っ飛びして球を避けると、地面に着弾した黒い炎が地面を焼く。
「出し惜しみしてる場合じゃないか!」
銃剣を両手で構え、交互に引き金を引く。
「ぐうっ!?」
心臓を避け、腹や手足に着弾した弾丸が、悪魔族の肉を抉った。
「ぐぅっ……銃だって? こんなに連続で撃てるものは、知らないわ……」
銃声は、サイレンサーを付けているから大きな音はさせずに済む。それでも、近隣を巡回していた兵士に気取られたようだ。
「貴様ら、そこで何をしている!」
兵士三人が、俺と悪魔族に気付き駆け寄ってくる。
それを見て、悪魔族はニヤリと笑った。
「逢瀬はお開きかしら」
「お望みなら、場所を変えるが」
「折角だけど、遠慮しておくわ!!」
そう言って、悪魔族が口から再び黒炎の球を吐く。目標は兵士達だ。
「クソッタレが!!」
一か八か、銃剣の刀身に付与された”解呪”を起動して、黒炎を斬る。
「な……魔法を、斬った……」
獣人兵士が呆気にとられているが、こっちはそれどころではない。悪魔族に視線を向けるが、既に姿は無かった。
「逃がしたか……」
俺の呟きに、獣人兵士が武器を構える。
「貴様、何者だ。先程の女の事も含め、洗いざらい吐いてもらうぞ!」
「悪いが時間が無くてね。そろそろ戻らないと連れが起きてしまう、今夜はお暇させて貰うよ」
獣人達から走って逃げる。
「貴様っ! 待てっ!」
角を曲がって更に加速すると、隠蔽の付与を起動して獣人兵士達を振り切った。
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【名前】ユート
【称号】暗躍者(NEW)
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