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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第22章 地球

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22-07 地球防衛戦/アヴァロンコアメンバー編Ⅲ

<さいたま市>


 大きな多目的アリーナの上に立ち、下に見える広場を厳しい顔で睨むのは、エルフ族の令嬢。その手に握った弓には、眩い光が宿っている。

「罪無き人々を苦しめる……それが神のする事ですか?」

 聞く者のいないその独り言には、純粋な哀しみと気高い怒りが込められていた。

 その手にした弓を構えると、弦を引き絞る。それだけで、その弓には光の矢が生み出されていた。

「邪悪な神の処罰は、私達の旦那様に任せましょう」

 彼女は魔導師でも、弓使いでもない……精霊魔弓士である。引き絞った弦を解き放てば、光の矢が不規則な動きで同時に十三本放たれた。

 放たれた矢は、それぞれが意思を持ったかのように飛んでいき、人々を襲おうとしていた魔物の急所を貫き通す。


 ……


 急所を貫かれて尚、動こうとする魔物達もいる。そんな魔物に迫るのは、吸血鬼族の末裔。高い身体能力を駆使した高速移動で、魔物と逃げ惑う人々の間に割って入る。

「あなた達は、食事をしたいのでしょう?」

 その言葉と同時に繰り出される、長く靭やかな脚から繰り出される蹴り。更に彼女は背負う翼を駆使して宙に浮き、もう片方の脚で隣の魔物に蹴りを見舞う。続けてそのまま回転し、回し蹴りを繰り出して二匹の魔物を蹴り飛ばし、その後ろに続く魔物を睨む。

「吸血鬼族の力を振る舞いましょう。存分に味わいなさい」

 長く、秘していたその来歴。それを受け入れてくれた愛する男と、仲間達の為に。そして、力無き人々を救う為に。

 忌み嫌われたその力を、存分に発揮する覚悟は出来ている。


 ……


 広場中央の低い建造物の上で、吸血鬼の姿をチラリと見て微笑んだのは魔王の妹。その手に持った鎌をクルクルと振り回し、建物の屋上から飛び降りる。吸血鬼とは逆側の広場で逃げ惑う人々を守るように着地すると、地面に鎌の石突を突き立てた。

「……通行、止め」

 その言葉と同時に、地面が凍り付く。逆さまの氷柱つららのように氷の杭が生えると、魔物達の身体を貫いていく。

「ギャアァァァッ!?」

「ウゴアァァァッ!!」

 透明な氷の杭は血で紅く染まる。魔王妹の背後の人々が震え上がったのは、その凄惨な光景を目の当たりにしたからか。周囲に展開された氷杭の結界によって冷やされた気温のせいか。

 それとも、顔色一つ変えずに魔物達を屠った少女の美貌に身震いしたか。


 ……


 そんな彼女達の上空で、翼をはためかせる少女。人間族の英雄を産んだ国の令嬢にして、宮廷魔導師の愛弟子。蒼銀の髪を靡かせ、上空で魔物を生み出す魔物を睨む。

「これ以上の犠牲は出しません。早々に消えて失せなさい」

 怒りを滲ませた声色。日頃の彼女ならば、絶対に発しない絶対零度のオーラ。

 魔物産みがまた一体の魔物を産み落とす。そのまま地上に降り立つ前に、無詠唱で放った光の矢ライトアローがその身体を消し飛ばす。

 わざと産ませているわけでも、勿体振っているわけでもない。彼女は、魔物産みを倒しても地上に墜落したら、その巨体故に一般人に被害が出る事を危惧したのだ。故に。

「整いました」

 常に展開し続けてきた、光の球。その一発一発が、レールガンに匹敵する破壊力を持つそれは、光と風の複合魔法。

「閃光の風矢」

 それが千発、同時に放たれた。

 光の壁の様に襲い掛かる魔導姫の放つ魔法に、魔物産みは塵一つ残さず消滅した。同時に、魔物産みの周囲で彼女を狙っていた飛行型の魔物も巻き込まれて消滅し、残るは地上。


 ……


 身を翻した魔導姫は、愛用の槍杖を突き出す。

「掃討を開始します」

 言葉と共に放たれた水の矢ウォーターアローが、魔物の身体を消滅させる。それが合図だったかのように、四人が示し合わせたかのように広場に集まる。

「容赦は要りませんね」

 蒼銀のロングヘアを靡かせ、槍杖を構えるアリシア。彼女の周囲に、光の槍が形成されていく。

「悔い改めなさい」

 金色の三つ編みを揺らし、弓を翳すリイナレイン。弦を引き絞り、光の矢を形成していく。

「……逃さない」

 二つ結びにした長い銀髪を持つ、クリスティーナは鎌をクルクルと回す。鎌に宿した氷魔法により、大気中の水分が凝固し氷の礫になる。

「一気に片を付けましょう」

 金色ショートヘアの前髪をかき上げて、ソフィアが掌を翳す。黒い闇の塊が生成され、直径一メートル程の球体になった。


「閃光の槍雨」

「精霊の鏑矢」

「氷結の飛礫」

「暗黒の弾幕」

 完全同時に放たれた、殲滅を目的とした魔法の雨霰。市民を避けて飛ぶそれらが、魔物の命を無慈悲に奪ってゆく。


 瞬く間に魔物を殺し尽くした彼女達は、逃げ惑っていた人々に視線を向ける。中には、魔物の手に掛かった者達も居た。

 アリシアとソフィアは魂魄魔法を発動し、魔物に殺された人々の魂を掻き集める。そして、リイナレインとクリスティーナが時間魔法を発動し、傷付いた者の傷や、死んだ者の身体を巻き戻す。

「傷が……傷が治った!?」

「あ、あれ……?私、化物に……」

「お母さーん!!」

「き、奇跡だ!!」

「おぉ……め、女神様だぁっ!!」

 向けられる熱のこもった視線に苦笑しつつ、四人の女神は空へと舞い上がる。

「魔物が何処かに残っているかも知れません」

「そうですね、手分けして殲滅しましょう」

 アリシアとソフィアの言葉に、リイナレインとクリスティーナも頷いて応える。四方に散って飛び去る彼女達に、地上で呆然としていた人々から、感謝の叫びが響き渡った。


************************************************************

<梅田>


 百貨店やホテル、オフィスビルが乱立する西日本最大の都市。高層ビルの前に広がる、広い道路を魔物が闊歩している。

 百貨店ビルの中程にある、展望フロア上に立つ桃色の髪の少女が、杖を手に上空を睨む。

「ユートが居なかったら、この世界は大変な事になっていたわね」

 視線の先の魔物産みは、十体のゴーレムによってその身を削られていく。彼女もまた、その巨体が墜落する事による被害を考慮し、上空で消滅させようと考えていた。

 戦乙女ヴァルキュリア達は、レールガンを駆使して魔物産みを末端から削り進めていく。更に彼女自身も、魔法やレールガンを放ち魔物産みを攻撃する。


 魔物産みの身体が、ある武器の有効範囲まで削れたと判断し、彼女は武器を持ち替える。

「範囲指定弾!!」

 撃ち出した弾が魔物産みの中心に着弾すると、弾が砕け散る。その着弾点を中心に球状の魔法陣が展開され、魔物産みを包囲する。

「消えなさいっ!!」

 魔法陣に向け、放たれたのは反物質弾。原理とかその辺りはサッパリながら、切り札にどうぞ、とばかりにユートが創造して与えた、虐殺兵器。

 シャレにならない威力と、超広範囲を消滅させるその兵器を使うには、制限が必要だった。その範囲内のみで爆発すれば良いと考えた、ユートの苦肉の策…………それが、範囲指定弾である。

「〜……ッ!?」

反物質弾頭が着弾すると同時に広がる、地獄の業火もかくやという熱量。魔物産みは、悲鳴にならない悲鳴を上げながら破滅の光に呑み込まれた。

 ついでに範囲指定弾は遮光と防音を兼ね備えており、目や耳を潰さないように配慮されている。


 ……


 地上で戦闘する獣人剣士は、魔物産みが討伐された事を確信する。

「流石はプリシアさんです、こちらも負けていられませんね」

 両手に愛用の双銃刀を握り、獣化した少女がビル前を駆け抜ける。その行く手を阻み、彼女を喰らおうと襲い掛かる魔物達。しかし彼女の身体能力と鍛え上げた技術の前では、障害足り得ない。

 兎の耳を揺らし、人型・獣型・ゴーレム問わず、首や四肢を斬り落として疾走する少女は、そのまま道路の中央にある換気塔に向けて駆け抜け、三角飛びで換気塔の上に跳び上がる。

 双銃刀を宝物庫ストレージに収め、ロケットランチャーを取り出すと追い掛けて来た魔物に向けて発射する。群れを成して追い掛けて来ていた魔物達は、爆発に巻き込まれ吹き飛び、絶命していく。獣剣姫は更に換気塔から飛び上がり、道路上で暴れ回る魔物に向けてロケットランチャーの引き金を引く。


「魔物産みが消えた今、残る魔物を殲滅するだけ……」

 そう呟きながら殲滅対象を見出すべく巡らせた視線、首の無い鎧騎士が大剣を振るう寸前の様子が見えた。その大剣が狙うのは、建物の中にいる人々。

 目を吊り上げた彼女は、空を蹴る。獣化により大幅に強化されている兎人族の跳躍力、更に女神化による基礎能力の底上げ。一条の矢の如く水平に跳んだ獣剣姫は、その強化された脚で首無し騎士デュラハンを蹴り飛ばす。

「……ッ!!」

 蹴り飛ばされつつも体勢を立て直したデュラハンと、蹴りを見舞った後にクルッと後ろ宙返りをして着地した兎獣人が向かい合う。一瞬で距離を詰め、両手の双銃剣を振るう獣剣姫。

「消え去りなさい」

 縦横十字に両断されたデュラハンの残骸が、地に落ちる。

 建物内でその光景を目の当たりにした一般人達は、自分達を救った存在に目を奪われる。兎の耳と尻尾を持つ、銀髪の美少女剣士……凄惨な光景を目の当たりにして尚、その姿に見惚れて息を呑む。次の瞬間、少女は再び駆け出して行った。


 ……


 駅と一体となっている商業ビル。その上空に魔物産みが現れたのは、現在から一時間程前だった。

 異形の存在、そして生み出される魔物達。それを目の当たりにし、人々は恐怖の声を上げ、震え上がった。

 しかし現在は、それとは違った声を上げていた。最初は、魔物同士の仲間割れかと勘違いしていた。しかし後から現れた()()は、まるで建物や人々を守るかのように怪物達を虐殺していった。

 その姿は、まるで……。

「ド、ドラゴン……!! 頑張れ!!」

「いいぞー、黒いドラゴン!!」

「お……俺達を助けた後で、食べたりしない……よな!?」

「うるせぇ、応援しろ!!」

 その黒い竜……神竜バハムートは、現れてすぐに魔物産みを黒い極光で消し飛ばした。更にその巨大な翼をはばたかせて、建物の屋上や壁にいる魔物を狙っていったのだ。


『うーん、この身体じゃあ建物とかにいる魔物を狙うのは難しいね』

 独りちて、神竜バハムートは地上の魔物達に目を向ける。大型の魔物はクラリスが、数の多い魔物はカレナシアが、そして上空の魔物はディアマントが対応しており、既にその数は半分以下まで数を減らしている。

 それ以外の魔物は、大体が壁をよじ登ったり、屋上から中に入ろうとしている魔物ばかりだ。

『……よし、こっちでやろっかな!!』

黒い極光を放った神竜バハムートに、住民達がざわめく。その身体を包む黒い光がやがて小さくなり、完全に収まったその場にいた存在に、人々は目を剥いた。

「おっ、女の子ぉっ!?」

「ナンデ!? 幼女ナンデ!?」


 そんな騒がしくなったビル群に向けて、魔導装甲を纏ったエイルは銃を両手に構える。

「乱れ撃ちだーっ!!」

 連続して放たれる発砲音。一見、無造作に見えるその銃撃は、正確に魔物の頭部や心臓・急所を撃ち抜き、その数を減らしていく。

「そーれっ!!」

 空中で地面を蹴るように跳び、銃を撃ちながら滑空する。地面に降り立ち、薬莢を捨て、弾を込め直して空中に跳び上がる。

「さぁて、他の皆はどうしてるかな……っと!!」

 嬉々とした様子で銃撃を再開しつつ、エイルは仲間達に思いを馳せた。


 ……


 屋外で逃げ惑う人々を追って、獣型の魔物が駆け抜ける。その口を大きく開けて襲い掛かる魔物が、突然横に吹き飛ぶ。

「ギュアアッ!?」

 壁に叩き付けられ、倒れ伏す魔物。逃げていた市民は何が起こったのかと立ち止まる。その視界に飛び込んで来たのは、白い翼を広げて宙を舞う金髪の女性だった。

 素朴な可憐さを感じさせる女性が掌を魔物に向ける。それは、力の根源魔法アカシックレコードによる念動力。その力で、魔物から市民を救ったのだ。


 女性はそのまま、別の場所の魔物に掌を翳し、そして振るう。

「グオオオォッ!?」

「ギャンッ!?」

 同じように念動力に捕らわれた魔物が、先の魔物の上に落下する。

「数も大分減って来ましたね……ここは、一気に終わらせてしまいましょうか」

 他の魔物達も、念動力で投げ付けて一箇所にまとめていく。


 周辺の魔物を全て一箇所にまとめると、女性……元は一介の兵士であり、今は天空の王の第九王妃予定者である騎士姫は、剣を抜く。

「この世界は、私の大切な人達の故郷。あなた達にこれ以上荒らさせはしません!!」

 その剣が纏うのは、法力の刃。元より信仰していた聖母神ヒュペリオン、現在は共に戦うビスドランとエクドルフィンへの信仰心。そして最愛の存在である創造神への想い。

 彼女の想いに対して神達から与えられた法力で形成された刃は、巨大過ぎる光の剣となっていた。全長三メートルはあろうかという光の剣を見て、逃げ惑っていた市民達が息を呑む。

 市民や魔物からの視線を意に介さず、真剣な面差しの騎士姫が剣を構えた。

「はああぁぁっ!!」

 裂帛の気合いと共に、騎士姫が光の剣を横薙ぎに振るう。その一閃が、集められた魔物を尽く両断した。


 ……


「ふぅ……この辺りはこれでお終いですね……」

 一息ついて、意識を地図マップに向けるノエル。魔物を示す赤い丸のマークは、全て消え去っていた。

 そんなノエルの下へ、プリシアが舞い降りる。

「ノエル、無事に片付いたわ」

「はい、プリシアさん。それで、この後なんですけど……傷付いた人々の治療を行いたいのですが……」

 ノエルの言葉に、プリシアは笑顔で頷く。

「私に異論は無いわ。他のメンバーや、ユートならそうするもの」

「はい、そうですね! でも、怪我をした人達をどうやって集めたら……」

 そこへ、同じく掃討を終えたアイリとエイルが駆け寄って来る。

「お疲れ様ですプリシア様、ノエル様」

「皆無事だね、良かった良かった!」


 そして怪我をした市民達に向けて、回復をして回る四人。

 彼女達は気付いていない。自分達の美貌、そして女神化した際に身に纏う白いレオタードのような装束。市民達……特に男性が、その容姿に心を奪われていたのだ。

 すぐに、人の群れが押し寄せて来るのは自明の理だった……。


************************************************************

<池袋>


 マサヨシが戦闘を繰り広げていた市街地。駅の東口にある五差路から、首都高速道路の間にある道。その四方では、守護の根源魔法アカシックレコード“聖域”が展開されていた。魔物の散逸を防ぐ為である。

 そして既に、市民達は聖域の外に逃れていた。何せ、この場には創造神として覚醒したユートが居たのだ。魔物から市民を守りながら戦うのは、ディスマルクに隙を与える事になり兼ねない。故に、ユートは市民を安全圏内へと逃がしていた。


「魔物を産むヤツは、キリエさんとメグミンにお願いするね!」

「私達は、地上の魔物を掃討します!」

 魔導師の勇者マナ、神官の勇者ノゾミが武器を構えて宣言する。そんな二人に、キリエとメグミも頷きで返す。

「お願いします、お二人共」

「上の生産魔物は任せて下さい」

 落ち着いた様子で舞い上がるキリエとメグミ。そのまま一直線に飛翔し、魔物産みの更に上空で制止するキリエ。

 逆に、メグミは魔物産みの真下に陣取り、四枚の盾を宝物庫ストレージから召喚する。盾は力の根源魔法アカシックレコードによって四方へ展開され、メグミを中心とした巨大な聖域の天蓋を形成する。


「キリエさん、いつでも大丈夫です!」

 メグミの声掛けに、キリエも準備を開始する。

「解りました、行きます!」

 キリエは白い翼を大きく広げると、巨大な魔法陣を展開した。瞬間、魔物産みが高度を急速に下げ、メグミの聖域に衝突して悲鳴を上げた。

「ギョガアアァァァァッ!!」

 キリエが発動したのは、力の根源魔法アカシックレコードによる“超重力”。メグミが聖域を発動したのは、超重力を受けた魔物産みを地上に落下させない為。

「「潰れて消えなさい」」

 二人の言葉と同時に、魔物産みは圧殺された。その死骸はキリエが収納弾で回収する。

 メグミは聖域の上の光景が見えない様に光も遮断していた。眼下で自分達の様子を見守っている市民に、トラウマを植え付けかねない。また、グロテスクな結末を迎える事は予想済みだった。それを至近距離で直視するのは、異世界に順応した今の自分でもちょっと耐えられないと思ったのだ。


 ……


 聖域の天蓋が消えると同時に、上空で不気味な姿を晒していた魔物産みが消失した事に気付いた一般市民達が、歓声を上げた。その歓声が、驚愕の声に変わる。

 アミューズメント施設の屋上から、隣のビルへと跳躍する少女が、眼下の魔物達に向けて魔法としか思えない攻撃を放ったからだ。


「魔導師たる者、優位な場所を確保するのは定石だよねーっ!!」

 屋上から一方的に攻撃する姿を、卑怯という者は居ない。地面には、市民に襲い掛かろうとして聖域の壁を攻撃している魔物達や、周囲に獲物が居ないかと暴れ回って破壊行為に勤しむ魔物達……そして、ビル上にいるマナとノゾミを襲おうと、壁を登ろうとしている魔物達が、犇めいているのだ。

「さぁさぁ、ここぞとばかりに勇者属性フルスロットルで行くよん! 雷の洗礼サンダーレイン!!」

 ビル周辺で暴れ回る魔物達に、天から降り注ぐ落雷。ものの数秒で、炭と化した魔物達の残骸が道路に残された。


「私もやろうかな」

 鞘に入れたままの刀を掲げて、ビルの下で威嚇の叫びを上げているゴブリンやオーク、オーガを睨むノゾミ。

「おっと、下で無双しないの?」

「刀で斬ったら、一般の人達が動揺すると思うからね。法術で片付けるよ」

「それもそっか!」

 ノゾミは、高校生くらいの少女じぶんが日本刀っぽい物を振り回して、いつものように魔物を一刀のもとに両断していけば、市民達に不要なトラウマを植え付け兼ねない事を危惧していた。法術の攻撃ならば、現実感が薄れて丁度良いという判断であった。


「それじゃあ……法力の光弾」

 詠唱をぶっちぎって放たれた光の弾。正確無比に魔物に飛んでいった光弾が、聖域の壁周辺で市民を襲おうと迫っていた魔物達を撃ち抜いて行く。

 信仰の代わりに神の力の一端を借り受ける法術である、法力の光弾。その力で浄化された魔物達は、命中した部分から灰になって消滅していく。

 これならば、グロくない! というノゾミチョイスであった。


そんな彼女達の側に、二人の女神が降り立った。

「流石ですね、二人共」

「あっ、キリエさん!メグミン!おかえり!」

「お帰りなさい、お見事でした!」

「ありがとうございます。お二人も流石ですね」

 笑顔で言葉を交わし合う四人だが、そんな彼女達の立つビル屋上に魔物達が姿を見せた。


「グギャギャギャ!」

「グルルルル……!!」

 四人の少女達の姿を認めて、欲望を発散しようと駆け出すゴブリン達。獣型の魔物達は四人を食い散らかそうと涎を垂らしている。

「おっと」

「来ちゃいましたか」

 宝物庫ストレージからガンレイピアを取り出すキリエ。メグミは逆に四枚の盾を収納し、愛用の大盾を構える。


「ゲッゲッゲ! グギャオォッ!!」

 醜悪な笑い声を上げて駆け寄るゴブリンだが、それよりも獣型の魔物の方が接近は早い。

 そんな魔物に向けて、マナが失笑を浮かべて弾を撃ち出した。獣型魔物の足元の地面に接触した弾が、炸裂する。グレネードランチャーである。この角度ならば、下から見上げても魔法的な何かだと思う事だろう。


 が、そんなマナの配慮を台無しにする者が居た。キリエである。

 ドパァンッ!! という発砲音と共に、ゴブリンの一匹の頭部が消し飛んだ。お馴染みのレールガンである。

「あ、キリエさん……」

 あーあ……みたいな反応をされて、キリエは珍しく困惑顔を浮かべた。

「あ、あれ? まずかったですか?」

「一般の人達に、魔法的な力を見せ付けておけばいいかなと思ってたんですよ……」

「あ、あー……」

 やっちゃった、という表情のキリエ。こういう表情を見せるようになるくらいには、マナやノゾミとは良好な関係を築いていた。


「まぁ、やってしまったものは仕方ないです。むしろ開き直りましょう」

 珍しいメグミの過激発言に、マナとノゾミが困惑する。

「どしたの、メグミン? いつもならもっと、こう、さ?」

「夫婦揃って暴走するのだけは、やめてね……?」

 二人の物言いに苦笑しつつも、メグミは眼下を見る。まだ、魔物の群れが地上で蠢いているのだ。

「それも大事ですが、さっさと魔物を殲滅する方が良いと思うんです。まだあれだけの魔物が居ますから、聖域で守られていてもあの人達は不安を拭いされていないはずでしょう」

 言われてみれば、メグミの発言はもっともだった。戦闘を引き延ばすよりも、戦闘を早期終結させる方が、一般市民の安心感が違うだろう。


「確かに! それじゃあ、やっちゃうかぁ!」

「そうだね、一気に片を付けちゃいましょう」

 マナとノゾミも、手加減を捨てる模様。

 そんなやり取りの間、頭部を吹き飛ばされた仲間を目の当たりにして混乱していたゴブリン達が、四人を敵と判断して武器を構えた。

「それでは、行きましょうか」

 キリエの号令と共に、四人が散開する。


 迫り来るゴブリン達の目前に瞬動で移動し、キリエはガンレイピアを振るう。普段は刺突攻撃を中心にしているが、彼女の愛剣は斬れ味も抜群なのだ。ゴブリンの首を落とし、そのまま彼女はビルとビルの間に飛び降りる。

 そんなキリエを追い掛けていた、マナがグレネードランチャーからグレネード弾を撒き散らす。キリエの着地地点の魔物を爆殺したのだ。

 高所から、爆発した地面に飛び降りた彼女の姿を見た人々が、悲鳴を上げる。しかし、難なくキリエは着地する。着地と同時に一回転してガンレイピアを振るい、生じた風圧で炎を掻き消す。


「ひゅーっ、やっぱキリエさんカッコいいね!」

「ふふっ、ありがとうございます。援護、お任せしますね?」

「任されたよっ!!」

 武器をマシンガンに持ち替え、マナが魔物に向けて引き金を引く。キリエの死角から迫る魔物を排除するのが目的だ。魔物からの奇襲に煩わされずに済む分、キリエは目前の敵を蹴散らす事に集中できる。

「さぁ、殲滅しましょう!」

「OK、派手にいっくよー!!」


 反対側のビル下に降り立ったメグミとノゾミ。着地を狙って飛び掛かって来た獣魔物を、盾を振るって殴り飛ばすメグミ。しかし、逆側からも魔物は飛び掛かって来ていた。

「はいはい、コレね」

 炸裂音。至近距離まで迫った魔物の頭部に、ノゾミが手にしたショットガンから放たれた散弾が全弾命中した。

「では行きましょう、ノゾミさん」

「良いわよ、メグミ」

 気安い態度で声をかけ合い、直後に二人の視線は鋭いものに変化した。


「せいっ!!」

 縦に振り下ろした刀が、ゴブリンを真っ二つにする。逆方向では、力強く踏み込んでシールドバッシュをオークに叩き込んでいた。更に追撃の銃弾。法力刃フォースエッジでスケルトンナイトを斬り、浄化させる。その背後に迫る三つ目熊に、大盾に収納されたパイルバンカーを撃ち込む。

 互いが互いをフォローし合う姿は、まるで踊っているかの様にすら見える。淀みなく苛烈に、そして一糸乱れぬ連携で、目まぐるしく戦いの舞踏を繰り広げる。


 そんな光景に、最初こそ恐れ慄いていた一般市民達。二人の少女が魔物達を蹴散らしていく様にいつしか見惚れ、応援の声が上がり始める。

 その声は全体へと波及し、やがて大きな声援が贈られていた。


************************************************************


 大暴れを開始した四人をバイザーに映る映像で見て、苦笑する者が居た。

「いやぁ、ノリにノってるな」

 ユート・アーカディア・アヴァロン。魔導装甲バハムートに身を包んだ、アヴァロン王国の王である。

 彼は現在、四人の仲間を引き連れて垂直に飛翔していた。


「ねぇ、ユート? 本気で大丈夫なの?」

 傍らで、同様に飛翔しているユウキが不安げに声をかける。既に相当な高度まで達しており、心なしか息苦しさを感じる気がしていた。

「大丈夫だよ? その為に、皆の魔導装甲も調整済みだし」

「……本当に何でもありだよな、お前……」

 複雑そうに言うマサヨシに、グレンが苦笑してしまう。彼自身、何度も同じことを思って来たからである。


「それにしても、驚きました。まさか、斯様な場所にディスマルクが潜んでいたとは……」

 そう、彼等は現在、ディスマルクを討伐するべく飛翔しているのだ。

「正直、俺もヤツの居場所を突き止めた瞬間は、信じられなかったよ」

 彼等が目指す場所。それは、地球から三十八万キロメートル以上離れた星にして、この地球唯一の衛星。


「まさか、月に居るとはな……あの野郎」

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