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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第21章 ヴェルスフィア

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21-09 幕間/大罪の化身VS勇者

 ノゾミが固有技能ユニークスキルに覚醒した事で、勝率が上がった事を確信するタイシ・マナ・ノゾミ。

「にしても、五体だぞおぉ? どう動きを止めるかね……」

 目の前で高笑いをしているゴウの身体は、既に異形と呼んでも差し支えが無い。”傲慢の大罪の化身”となったゴウは、その髪が逆立ち、牙が生え、爪が伸びている。

「……何か、ライオン系の獣みたいだな」


 そんな事を呟くと、ゴウがタイシを睨んだ。

「……おい、お前。頭が高いぞ」

 突然の上から目線だった。

「いきなりそれかよ。何で俺がへりくだらなきゃいかんのよ」

「黙れっ!! 俺は神に匹敵する存在だぞ!!」

 その発言に、タイシは思わず「うわぁ……」という声が口から漏れた。


「おい、お前。アヴァロンの王など、所詮は紛い物だ。真の神である俺に絶対服従を誓うなら、命は助けてやっても良いぞ。そうだな、忠誠の証にマナとノゾミを俺の下に連れて来い、アレは俺の物だ」

「もう、痛々し過ぎて見てらんないよ! 何よ、その発想!? 厨二病の深度が高過ぎるでしょおぉ!?」

「誰が厨二病だ!! ええい無礼な奴め、やはり貴様は死ね!!」

 そう言って、ゴウがタイシに向けて剣を一振り。タイシは移動の根源魔法アカシックレコードを発動して瞬間転移ワープした。

「ぬぅっ!?」

「もうアレだ、あまりにもあんまりだから、手足を斬ろう」

 物騒な事を口走るタイシだったが、傲慢の化身となったゴウを封じるには封印の縛鎖グレイプニルでは役不足だと察していた。その結論に至るのは、致し方なかった。


「貴様、誰の許しを得て俺を見下している!!」

 そう、タイシが転移したのは立っていた場所の直上。つまり、目線がゴウより上だった。

 ゴウは苛立ちを露わにし、再び剣を振るう。

「俺は正面からやり合うのは苦手なんだよおぉ……」

 瞬間、タイシの姿が消える。


「ぬぅっ!? また消えやがった、今度は何処に……」

「ここだよ」

 背後から、声。直後、両肩と脚の付け根を何かが通る感覚を、ゴウは感じた。次いで襲い掛かって来るのは、痛み。

「うぎゃああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 突然の痛みにゴウは暴れようとするも、両手足が無い為に地面に顔面から激突。そして、芋虫の様に這い蹲りながら身を揺する。


「悪いね、俺は剣士でも銃使いでもなくて、暗殺者アサシンなのよ」

 そう言って、タイシは視線を他へ向けた。

 残る大罪の化身は、三体。そう、既に”憤怒の大罪の化身”は、ゴウと同じ末路を辿っていた。


************************************************************


 タイシとゴウが言い合っている中、マナは既に戦闘を開始していた。

「殺す殺す殺す殺す!!」

 体毛が生え、牙が生え、顔の輪郭も変貌するフミナ。両手の爪を伸ばして、高速移動しながらマナに接近していた。

 フミナは弓使いではなく、狩人。短刀などの訓練も積んでいるし、技能スキルも備えている。

「素早さ、パワー、そしてその容姿……まるで人狼ウェアウルフだよね」

 ひらりと爪を躱したマナは、無詠唱で雷の槍サンダージャベリンを放つ。至近距離から放たれたジャベリンにも関わらず、フミナは素早い身のこなしで躱す。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」

「さっきから、そればっかだね」

 マナが放つ魔法を高速移動で回避しながら、フミナが再びマナに近付き爪による攻撃を繰り出す。


 マナは魔導師だが、身体能力が低いかと言われれば否。大迷宮攻略、悪魔族との戦闘をこなしてきた彼女が、その程度であるはずが無い。

 数々の戦いに、大迷宮踏破ボーナス。更に、自身の固有技能ユニークスキル愛の魂ラブソウル”によるステータス強化。

 加えてアヴァロン王国での訓練にも、積極的に参加している……浮浪者や難民が、他国の騎士を圧倒する身体能力を得た、アヴァロン王国の訓練に参加しているのだ!!

 ただの魔導師であろうはずもない、彼女もまた魔導と近接戦闘を使い分ける、実戦魔導師であった!! しかもマナは、ユートによる付与魔法で基礎能力を向上させている!!


「えいっ」

 スパッ!! という感じで、いとも容易くフミナの片眼を斬る。

 この程度の速度、アヴァロン王国のコアメンバーならば誰でも見切れる!! そして、アヴァロン王国の戦士は戦うと決めた以上、情けも容赦もないのだ!!

「ぐあああぁぁぁあっ!! このアマッ!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」

「死なないよーだ!!」


 接近するフミナのステップを見切り、雷の矢サンダーアローを放つ。

 それを高速移動で避けるフミナ……の進路には、動きを読んでいたマナの雷の球サンダーボールが設置されていた。フミナは足元の雷の球サンダーボールに気付かず、まともに接触してしまう。

「んぎゃっ!?」

 間抜けな悲鳴を口から漏らし、雷属性魔法の麻痺スタンに身を侵される。


 大罪の化身はステータスの向上により、状態異常に対してある程度の耐性を得る。しかし、マナのステータスは憤怒の化身フミナを余裕で上回っており、折角の耐性も効果を得られていなかった。

 そして、そんな麻痺スタン状態のフミナを放置する程、マナは愚かではない。

「ごめんね?」

 サラリと言い放ち、マナは魔法を行使する。同時に放たれた、四筋の水の線。

 メグミより伝授された創造魔法、“水の刃ウォーターカッター”。ダイヤモンドをも切断するその魔法が、フミナの四肢をあっさりと切断した。

「んぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 走る激痛に、フミナが絶叫を上げる。それを無視して、マナは視線をノゾミに向けた。


************************************************************


 その髪を蛇に変化させ、伸縮も自由自在に行う異形の少女。”嫉妬の大罪の化身”シノ・トノザキによる蛇の攻撃を捌きながら、ノゾミは機を窺う。

「何その動き、ムカつく……綺麗な顔立ちもムカつくし、スタイルもムカつくし、服もムカつくし……」

 ブツブツと恨み言を口にしながら、シノの攻撃が激しさを増す。

「まるでメドゥーサですね……いや、ゴルゴーンでしょうか?」

「博識ぶってるのもムカつくし……」

 伸びて来る蛇を、次々と斬り捨ててノゾミは距離を空けようとする。しかし、伸縮自在な蛇には距離など関係ないようだった。


 視線を動かすと、未だに封印の縛鎖グレイプニルで縛られて、抜け出そうともがいているセツナとクイナの姿が見える。

 完全な大罪の化身になっていない二人を見て、ノゾミはある仮説に行き着いた。

「もしかして、私達に対する害意があるか無いかで、進行度が違う……?」


 思えば、セツナとクイナは最初こそユート達に対して攻撃の意思を見せていたが、ユートの暴露以降は傍観に徹していた。ディスマルクの蛮行を知った為である。

 即座に大罪の化身となったゴウ・フミナ・シノは、私怨からノゾミ達を害そうと行動していた。

 それ故にノゾミは、大罪化の進行度合いの違いは、負の感情の有無なのではないかと推測した。

最も、そうだとしても”暴食の大罪の化身”となりかけている二人を、あのまま抑え続ける事は出来ないだろう。その身体の変異も、シノ達よりは遅いものの同様に進んでいる。

 でも、何でブタっぽい姿なのか。やはり、暴食の化身だからなのだろうか。


「余所見をする余裕があるの? ムカつく!!」

 瞬間、蛇と同時に魔法が放たれた。大量の水の矢ウォーターアローだ。

「……はっ!!」

 ユートによるステータス向上付与魔法による脚力を駆使して、ノゾミはある技能を発動した。瞬動である。

「消えた!? ムカつくなぁっ!!」

 更に瞬動を発動し、ノゾミはシノに向けて接近する。

「来るな!! ムカつくんだよっ!!」

 放たれる集中豪雨の様な水の矢ウォーターアロー。それを刀で斬りながら、ノゾミは障害物の無い動線を作り出す。瞬動を発動するのに必要な、最低条件だ。


「……行きます」

 シノの目前。一瞬で距離を詰めて来たノゾミを見て、シノが目を見開く。

「ぬがあぁぁぁっ!! 死ねっ!! 死ねっ!!! 死ねぇぇぇっ!!」

 シノは伸ばしていた蛇を引き戻し、ノゾミに向けて一斉にけしかける。

 しかし、ノゾミは涼しい顔で更に瞬動を発動した。シノの真横に立ち、その髪をザックリと斬る。


「死なないよ、私も……あなた達も」

 そう言いながら、ノゾミがその掌をシノの左胸に当てる。

「はあっ!!」

 法力を解放し、シノの身体を対象に”ある力”を行使する。すると、法力を注ぎ込まれたシノの身体から、黒い非物体が飛び出した。

 同時にシノの身体にヒビのような物が発生する。やがて、そのヒビが全身に広がり……異形の姿が硝子の様に割れ落ち、その内側からシノ本来の姿が現れた。

「っ……よし!!」

 小さくガッツポーズを取るノゾミ。


 ――”希望の魂ホープソウル”。

 その力の一つ、自分や触れた相手に対する”害を与えるモノ”の排除。状態異常バッドステータスも、憑依した幽霊ゴーストも、邪悪な神に植え付けられた呪いすらも吹き飛ばす。

 正に、最後の希望を与える力。


「……成功してよかった」

 シノは意識を失い、倒れ伏している。命に別状が無い事を、創造神の遺失魔道具アーティファクトで確認し、ノゾミは安堵の息を吐いた。

 一瞬、そのまま介抱してあげようかと思ったノゾミだが、すぐにそんな思いを振り切る。残り四人を、大罪から解放しなければならないのだ。


 ……


 ノゾミは駆け出し、セツナとクイナへと近付いた。

「今、解放して……」

 そう言って、二人に手を伸ばそうとしたノゾミ。しかしその瞬間、背筋に悪寒が走る。

「食べ物おぉっ!!」

「飯だあぁっ!!」

 封印の縛鎖グレイプニルを引き千切って、同時にノゾミに手を伸ばして来る。乱用したせいか、瞬動がすぐに使えない。

「のぞみん!!」

「ノゾミちゃん!!」

 こちらに向けて移動しようとしている、マナとタイシの姿が見えた。しかし……間に合わない。


「そこまでだ!!」


 風が、通り過ぎた。見れば、セツナとクイナの身体に拳型の窪みが生まれていた。

 振り返れば、そこには魔導兵騎から飛び降りたらしいフリードリヒの姿。

「……ふ、ふーさん!?」

 ニッと笑ったフリードリヒが、顎をしゃくる。そうだ、今は二人を……と思って再び前を向くと、セツナとクイナが地面に叩き付けられた。

「のんちゃん、大丈夫!?」

「ノゾミ殿、お怪我は無いか?」

 心配そうにしながらも、セツナの動きを封じるクラリス。凛々しい表情でクイナを取り押さえているのはカレンだ。

「クーちゃん! カレンさん!」


 そして、ポンと肩に置かれる大きな手。

「無事か、のん」

「……ふーさん」

 その手の感触に、ホッとした表情をするノゾミ。

「はは、フリード達のお陰でうまくいったか」

「流石、フリードチームだねぇ!」

 安心した様子で、タイシとマナも駆け付ける。

「さぁ、のん。彼等も解放してやると良い」

「はいっ!!」

 促されたノゾミは、セツナとクイナから邪悪なモノを祓う。続けて、四肢を失ったフミナとゴウもだ。


 ……


「でも、のぞみんの固有技能ユニークスキルは不思議だね? 邪悪なモノを祓うんでしょ? のぞみんは、サムライ剣士なのに」

「いや、私のセカンドジョブ……神官プリーストだから……」

「「「「「……あっ」」」」」

「ちょっと!? 皆、私をずっと剣士だと思ってたの!?」

 バツが悪そうに視線を逸らす。フリードリヒまでもが。


 むくれるノゾミに声をかけるべく、フリードリヒが口を開こうとした瞬間だった。

 ユート達が向かった山の頂から、光の線が奔った。

「なっ!?」

「注意しろっ!!」

 警戒を促す指示も虚しく、数名の兵士が光の線によって命を落とした。


「くそっ!! 何だよアレは!!」

 憤慨しつつも、タイシが山頂に目を向ける。すると、彼の男から念話が入った。

『済まないタイシ、戦闘で死んだ奴等は宝物庫ストレージに収納してくれるか』

 声の主は、やはりユートである。

 宝物庫ストレージに収納すれば、死んだ後でも蘇生が可能だ。今の自分達は時間の根源魔法アカシックレコードを未取得の為、ユート・ユウキ・女神勢に任せるしかない。

『あ、あぁ……了解。んで、今の何?』

『マサヨシの新必殺技』

 ユートのあっさりした一言に、タイシの表情が歪む。

『鏑木君かぁ……戦ってんでしょ?』

『そだよー。おっと、お互い戦場だ。集中しよう』

 話はそこまで、といわんばかりのユートに、タイシは沈痛な面持ちになる。しかし……。

『……そうだな、こっちは任せろ王様』

 返答は、無かった。


 ……


「皆、ユートさんからの指示だ。宝物庫ストレージに死者を収納しろってさ」

 その言葉に、仲間達も思考が思い至る。ユート達による死者蘇生があったじゃないか、と。

 即座に動き出す仲間達を見て、タイシは一つ溜息を吐いた。

「……ユートさん、鏑木君を助けたりは……しないよなあぁ……」

 タイシは、マサヨシの気持ちが解らないでも無かった。何故なら、タイシだってユートに対する劣等感や嫉妬心がある。

 ただ、それ以上に感謝と敬意、信頼の念……そして、友情が勝っているだけ。自分はレインベルと共に、ユートに救われた。生涯、彼に仕えようと思っている。


 だからこそ、タイシの脳裏にこびり付く思い。マサヨシも……きっかけがあれば、ユートと肩を並べられるんじゃないか。

 そんな思いを抱いて、タイシは歩き出す。

 全ては、この戦いが終わったその時に……。

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