02-04 大橋/獣王国
これまでのあらすじ:アイリのウサ耳がピーン!ってなった。可愛い。
ひょんな事から馬車を手に入れた僕達は、四日はかかる予定だった行程を大幅に短縮する事に成功した。もう、イングヴァルト王国の端にまで来ている。
「おぉ、海だ!」
ベルクリエの町を出て一日かけ、街道の先に海が見えてきたのだ。ようやく、獣人達を故郷に送る目前だ。
「この海を越えたら、ミリアン獣王国だ。もうすぐ帰れるぞ」
しかし、獣人達の反応は芳しくない。どうした君達、テンション低いぞ?
「ユーちゃん……やはり自重しませんでしたねぇ」
「ユート君はいつもこんな感じなんですか?」
「えぇ、孤島の家はとんでもない事になっています。技術の最先端と言っても、過言ではありません」
ん、もしかして馬車かな?
************************************************************
それは今朝の事。起きてきたアリスが、慌てて僕にしがみついて来たのだ。
「ユート君、大変です! 私達の馬車がありません!」
そうですね、大変です。右腕がとても幸せな事になっています。
更に、反対側にはアイリが飛びついてきました。
「ご主人様! 馬車があった場所に! 見覚えのない箱馬車がっ!!」
控えめながら、それはそれで素敵な感触が僕の二の腕を襲う!!
「誰の仕業だ、これは!?」
「馬は!? 馬はすり替わっていませんか!?」
「何か罠が仕掛けられているかもしれないです~!!」
獣人達も起きてきた。皆、馬車を見てビックリしているようだ。
――パンパン!! と手を叩く音に、全員が静止する。
「皆さん、落ち着いて下さい。もう……犯人はユーちゃんですね?」
「これからの行程に備えた結果だよ」
まぁ、なんという事でしょう。
幌馬車は、立派な木製の箱型馬車に。荷車部分には座る為の座席が完備されています。クッション性を重視しており、快適な旅を約束します。
そして、車輪部分。元々の車輪を加工したその中心には、金属製の軸受け……そう、ベアリング。車輪がスムーズに回る事で、荷車を引く馬の負担を軽減させる、匠の心遣いです。
床部分にも匠のこだわりが。匠は床の木板を情け容赦なく撤去し、代わりに匠秘蔵の木材を使って新たに作成。
衝撃を吸収するダンパーを取り付けたのです。勿論、匠自作のスプリングも完備、抜かりはありません。
更に、何という事をしてくれたのでしょう。
この床には付与魔法で床暖房も完備。その正体は、遺失魔道具だったのです。
正に、世界に一つだけの馬車です。これには、天使も苦笑い。
「いつもながら、怖いくらいに素晴らしいんですよね……やだ、ほんと怖い」
「お褒めに与かり恐悦至極。乗り心地良い方がアリスもいいでしょ?」
「……まぁ、それは確かに」
外見は、あくまで箱馬車にしといたから。乗り心地を良くするために、内装は弄りまくったけどね。
************************************************************
「快適な旅だろ?」
その言葉に、全員が苦笑い。
「いや……快適過ぎるんですよ……普通の馬車の倍以上のスピードが出てますよ……」
「あの、ご主人様って一体何者なんですか?」
とはアイリ。ウサ耳がゆーらゆーらしている。
「只者じゃ無いのは解るんですがね、何か見慣れない武器とか持ってますし」
クラウス、敬語が少しずつ上手になり始めてるね。頑張って、メアリー先生。
「ご主人様は、優しいー!」
ありがとうメアリー。知らない人がお菓子をくれるって言っても、付いてっちゃダメだぞ。
「あの、気になる事があるのですが、よろしいでしょうか?」
挙手とはいい心がけだ、ジル君。
「なんだい、ジル?」
「ご主人様の事を詮索するという意図は無いんですけど、ご主人様がお持ちの道具は魔法の品ではありませんか? 魔道具か……遺失魔道具か」
鋭いね、ジル。ジル以外の獣人組、呆然。
「どうだろうね? ご想像にお任せするよ」
彼等に秘密を明かす事は、しない。僕の為にも、彼等の為にもだ。
……
さて、海である。
海岸の少し先には、巨大な石造りの橋がある。東大陸と南大陸を結ぶ大橋だ。
この世界は、東西南北に四つの大陸が存在する。イングヴァルト王国があるのは、東大陸。ミリアン獣王国があるのは南大陸だ。
海を行く手段が無いならば、この大橋を渡る必要がある。
この大橋、過去に召喚された勇者が号令を出して建造したらしい。理由は「種族間の不和を解消し、共に世界を平和にするため」だそうだ。
最も、その勇者が生きている間には完成しなかったそうだが。
その勇者の名前はシンタロー。そう、和食のシンタロー氏である。
そんな、勇者が遺した遺産とも言える大橋は見事な物だった。
「この橋を渡るには二日はかかる……普通なら」
「イングヴァルト側の検問と、獣王国側の検問でも時間が取られるでしょうね。それを考えると、確かに二日はかかります……普通なら」
クラウスとジル、君達は何故”普通なら”を強調するのかな?
「折角だし海水浴でもしたい所だが……」
「水着がありませんから、無理でしょう」
しまった、水着を買うのを忘れていただと……!? 僕とした事が、何という失態を……!!
姉さんの均整のとれたプロポーション、アリスの母性を感じさせるボディライン、アイリの控えめながらバランスの良い肢体を、水着が覆うその姿を見逃すとは……!!
ちなみに、メアリーは十歳だからね、そんな変な目で見ないよ。幼い少女に変なトラウマ植え付ける人は、先生許しませんからね。
十三歳のアリスはいいのかって? まぁ、二つしか違わないし……ほら。
「ご命令なら、脱ぎますが」
「真顔で何言ってんの、そんな命令しないよ。第一、姉さんとアリスもいるでしょうが」
真顔で服に手をかけようとするアイリを制止する。いや、興味がないわけでは無いんですけどね!!
「海水浴はまたの機会だな。さて、そしたらさっさと橋に向かう?」
「それが、いいと思います〜! 橋は両国が守護してますから、魔物も出ないので野営するのも安心ですから〜!」
メアリー、何気にしっかり者ね。全員で相談した結果、僕達は橋を渡る事にした。
……
イングヴァルト側の検問は、特に問題無く通過出来た。そして、橋も順調に馬車で進んでいった。二組の商人達を追い越したが、特に問題も無かった。
しかし、トラブルに愛された僕達である……何事もなく、とはいかないらしい。
「だから本当の理由を言え、人間!」
剣や槍を構えた獣人の兵士達か、僕達を威嚇していた。何でこうなるのん?
「いや、だから人間族が不当に奴隷にした獣人達を、故郷に送り返しに来たんだって。あとは観光目的かな」
「誰がそんな話を信じるか! 大方、更に獣人を浚って奴隷にするつもりだろう!!」
リーダー格の獣人に便乗して、周囲の獣人兵士達が「そうだそうだ!」と声を上げる。
「どうするか……アイリ、説得は可能?」
「そうですね、同じ獣人の言葉ならば聞いてくれるかもしれません」
そう首肯すると、他の三人と一緒に進み出た。
「こちらのユート様、キリエ様、アリス様が仰っている事は本当です。奴隷商人が盗賊に殺された際、私達の身の上を知って保護し、故郷に送り届けてくれているのです」
アリスの言葉に目を見開くリーダー格。すると、僕をキッと睨み付けて、また罵倒してきた。
「なんて事だ……貴様、こんな幼い少女に何をした! 無理矢理言わせているのか? それとも洗脳の魔法でも使ったか!」
「こいつ、めんどくせぇ」
「「「「「「確かに」」」」」」
同じ獣人族の四人も、僕に賛同してくれるレベル。
「温厚と評判の僕も、そろそろ我慢の限界なんだけど」
「黙れ人間風情が! 商人ならいざ知らず、人間族の冒険者が足を踏み入れていい地ではない!」
そうなの? と獣人達に視線を向ける。んなワケないやん、と獣人達が首を振る。
「はぁ……国の兵士相手だから、揉め事は起こしたくないんだ。”俺は”正当な理由を話した、それでも通さないつもりか?」
「当たり前だ!!」
そうかいそうかい、それなら……。
「ちょっと、実力行使……しようか?」
……
「アッーーー!!」
……
封印の縛鎖でボーラされた兵士達が、地面に転がりながら冷汗を流している。
視線の先には、涙と鼻水と涎で顔をグチョグチョにしながら、白目を剥いて悶絶している彼等のリーダー格の姿!! どんな恐ろしい事があったら、こんな状態になるんだろうね!!
そして、何か刃が付いた銃を持つ人間族の冒険者……!! そう、俺だよ!!
「で? 次に実力行使して欲しいのはどいつだ? じっくりたっぷり激しく相手をしてやるぞ?」
涙目でブンブンと首を振る兵士達!! クラウスとジルも股間を抑えて首を振っている!!
「ほぉ、遠慮は要らないんだがな? なら、俺達は通って問題ないのか?」
「……そ、それは」
言い淀む兵士の鼻先の地面に、銃弾をブチ込む!!
「も、問題無いであります!!」
「おい、お前一人だけか?」
「「「「何ら問題無いであります!! ようこそミリアン獣王国へ!!」」」」
よし、問題解決だ。
「最初からそうしてりゃ良かったんだよ、全く……おい、それ解いてやるけど暴れるなよ? 暴れたら息子さんの元気が無くなるどころじゃ済まないからな」
「「「「sir、yes sir!!」」」」
涙目でガクブルする兵士達を解放して、リーダー格のボーラも解いてやる。
「もう……もう勘弁して……息子が……俺の息子が……」
「反省したろ? 息子さんも回復してやるから、大人しくしてろよ」
回復薬を(ズボンの上から)股間にどばー。これですぐに回復するだろ。
「じゃあ俺達は行くぞ、帰りも絡みやがったら……解ってるだろうな?」
「「「「「絶対に絡んだりしません、絶対に!!」」」」」
「よろしい、それでは任務に戻りたまえ」
さぁ、橋の検問を通ろう。
「……あわわわわわ」
「……ひいぃぃぃぃ」
「ご主人様すげ〜」
「どうやら私達のご主人様は、とんでもない人みたいですね……」
獣人組の視線がドン引いていた。それにしても、最近は実力行使ばっかりしてる気がするなぁ。
……
そのまま、僕達はミリアン獣王国の王都を目指す。王都レオングルまでは、ハイスペック箱馬車で二日程かかるだろう。
「先程のようなトラブルを避ける為にも、村や町は避けるべきだと思います」
そう助言してきたのは、ジルだ。線の細い少年という印象のジルだが、年齢の割にしっかりしている。
「えー、そういうもんか?」
クラウスが年齢の割にしっかりしていない。
「そういうもんだろう。早く解放してあげたいし、トラブルは避けて通りたいもんね。王都までは野営続きになるが、皆は問題ないかな?」
「野営らしからぬ野営のお陰で、睡眠も十分取れます。問題ありません、ご主人様」
まぁ、一般的な野営ではないのは認める。しかし言うようになったな、アイリ。
「ご飯も美味しいし~、温かいお湯で身体を洗えるし〜、馬車の床があったかくて寝心地いいです~!」
天真爛漫に笑うメアリー。この子はいつでも明るくて、ムードメーカーとして場を和ませてくれる。
ここまでの道中で、僕達は獣人達とだいぶ打ち解けた。獣人達も、僕達を信用できる人間と判断してくれたようで、率先してお手伝いや雑用を引き受けてくれるようになった。
皆、ここ最近は三食しっかり食べているお陰で、痩せ細って弱っていた身体は回復している。お陰で彼等の見た目は、今現在クラウスはスポーツマンっぽいワイルド系男性だし、ジルは線は細いが美少年だ。
アイリはウサ耳美少女で、メアリーも可愛らしいイヌ耳少女という感じである。
……もうすぐ、彼等ともお別れなんだと思うと、少し寂しい気がするな。
……
さて、王都レオングルまでの旅路も終盤だ。今夜の野営を終えたら、ついに王都入りである。
「もうすぐ王都レオングルだ。着いたら早速、奴隷から解放しよう」
僕の言葉に、獣人組は嬉しそうに微笑んだ。
「ここ最近、ご主人様ばっかり見張り番じゃねぇですか。今日は俺が見張ってますよ」
クラウスが、そんな事を言ってくれる。
「私もがんばる~!」
「ご主人様、僕達に任せて下さい」
「そうですよ。ご主人様も、どうかゆっくりお休み下さい」
折角の気遣いだ、お言葉に甘える事にしようかな?
「それじゃあ、申し訳ないけど……」
しかし、僕の“目”があるものを捉えた。
「いや、待った。装備を着用、警戒態勢を整えてくれ」
僕の言葉に、全員に緊張が走る。
「マップに何か掛かったんですね?」
「ユート君、魔物ですか?」
「いや、人かな? 数は三。さっき通過した村から来ているみたいだ。盗賊……はないな。冒険者か、巡回の兵士か解らない。万が一に備えて、対応出来るように準備してくれ」
その言葉に、全員が装備を身に付けていく。
姉さんは革鎧を着込み、腰にレイピアを差す。その隣、ローブは着たままだったアリスが、魔導師の杖を手に周囲を警戒している。
獣人達にも、武器を持たせる。
力と体格に優れるクラウスには、ショートソード。同じく僕より力があるステータスのジルには、ショートソードとバックラー。
アイリは脚力による俊敏性が優れているため、ダガーを二本渡している。メアリーは狩りで使った事があるらしいので、弓矢を渡している。
これらは四人へのプレゼントなので、普通の武器だ。遺失魔道具なんて渡したら、僕達と同行している間はともかく、別れた後で目を付けられてしまうだろうからね。
やがて、警戒しながら焚き火を囲んでいると、一人の男が現れた。その周囲には、二人の女性。
全員が武装しているが、こちらへの敵意は感じない。
「やぁ、こんばんは。いい夜だね」
何か、暢気に挨拶をして来た。
「こんばんは、旅の方でしょうか?」
「私はグレン、冒険者でね。王都レオングルを目指している所なんだ」
そう言って、男は胸元から銀色のプレートを出す……銀級冒険者のライセンスカードに間違いない。
「そうでしたか、僕はユートと言います。同じく冒険者です、まだ銅級になりたての駆け出しですけどね」
同じように、僕もライセンスカードを見せた。
「そうかい」
グレンと名乗った男は視線を巡らせると、姉さんを見て目を見開いた。
「おぉ、なんて美しい! 艶やかな紺色の髪、知性を感じさせる瞳、整った顔立ち……まるで天より舞い降りた天使のようだ!!」
正解、本物の天使だよ。
「そちらの女性も、なんと見目麗しい! 絹糸の様な蒼銀の髪に、蕾のような瑞々しい唇! そして母性を感じさせる雰囲気! 高貴な身分と言われても信じられますよ!!」
正解、公爵令嬢だよ。
「美しき天使様、麗しのお嬢様。よろしければお名前を伺っても?」
「は、はぁ……キリエと申しますが」
「ア、アリスです……」
すごい! アリスはともかく、姉さんがドン引きだ!! 僕がやらかした時以外では、平然としている姉さんがドン引きだ!!
「今夜はなんて素晴らしい夜なのか。貴女達のような美しい人に会えるなんて! 神に感謝しなければなりません!」
この世界の神は、人を駒にして戦争ゲームするクズどもなんだぜ。
「キリエさん、アリスさん。良かったら私達と旅をしませんか? 銀級冒険者であるこの私ならば、貴女達を守る事も容易いでしょう、そう……死が私達を分かつまで、ね」
そう言って、グレンがウインクをかます。ていうか、コイツただのナンパ野郎か。ムカつくなぁ、このイケメン。
「「あ、結構です」」
――即答。
「ご安心下さい、そちらの仔ウサギちゃんに仔犬ちゃんも、私が幸せにしてみせます。大丈夫、私は全員を平等に愛せる甲斐性を持つ男です」
「ただの女好きじゃねーか」
アレか、他の二人はコイツのハーレム要員か? いいのかな、女性達が姉さん達を睨んでるけど。
「お断りします、ユーちゃんと離れる気はありません」
「私もユート君に着いていくために旅に出たので」
「私のご主人様は、ユート様です」
「私もご主人様と一緒がいい〜!」
モテ期が来たのかと勘違いしてしまいそうだぜ。それにしても、見た目イケメンなヤツが振られている姿って、なんて気持ちがいいものなんだ。
「……何なんだい、君は?」
苛立たしげに僕を睨んでくるグレンだが、僕のせいじゃないよね?
「いや、アンタが何なんだ? 人の連れにコナかけるのが銀級冒険者の常識なのか?」
「やれやれ、最近の銅級は先達に対する礼儀がなっていないな」
「人の連れにナンパする奴に、礼儀を語ってほしくないよ」
すると、姉さんとアリスが前に出る。
「失礼なのはそちらでしょう」
「貴方がどれだけ強くても、ユーちゃんの足元にも及びません」
アリスと姉さんがそう言い返すと、グレンは口元を歪めた。
「ほう……この魔法剣士グレンに敵うと。面白い、君のジョブは何かね?」
「付与魔導師だけど?」
さすがに銅級で、付与魔導師と聞いては黙っていられなかったのだろう。
「ハッハッハ、付与魔導師とはね! ならば、どちらが彼女達に相応しいか、剣で決めようじゃないか」
「冒険者ギルドでは私闘を禁ずると規定があるはずですが」
姉さんが声をかけるも、グレンはにっこり笑って僕に視線を戻す。
「君も冒険者の端くれなら、僕から彼女達を奪ってみせたまえ! それとも怖いかね、付与魔導師君!」
「都合の悪い事は聞こえないのか、便利な耳だな」
銅級付与魔導師に対し、剣での決闘を仕掛けてくるコイツは、間違い無くロクデナシだな。
「実力主義は嫌いじゃないが、格下の銅級に対して大人気ないよな。それに、アンタ付与魔導師をナメてるだろ」
僕の言葉にも、グレンは平然としている。あー、完全にナメているな。
「何より……奪うも何も、この娘達はアンタのものじゃない、勘違いするなよ」
さて、それじゃあ……宣戦布告といきましょうか。
「その辺、お前の身体に叩き込んでやる。相手になってやるから、かかって来いよ」




