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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第2章 ミリアン獣王国
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02-02 盗賊/獣人

これまでのあらすじ:美少女二人に挟まれて眠るのはいいものだ、寝不足だ。

 嬉し恥ずかしな眠れない夜が明け、朝食を済ませて僕達は歩みを再開する。

目指すは南西だ。その最中、野生の獣や鳥を狩ったり、野草を採取したりしていく。宝物庫ストレージがある以上、食材が多い分には困らない。


「それにしても、ユート君は凄いですね。食べられる野草なんかを、手早く採取していました」

「あはは、それはズルしてるからさ」

 僕の左目の義眼・真実の目プロビデンスには、解析とマップの機能付与が盛り込まれているからね。

「”地図マップ”に連動するように、”範囲捜索エリアサーチ”の魔法も付与している。捜索対象をマップに表示できるんだ。そのおかげで、すぐに見つけられたんだよ」


 最も、制約はある……一度、左目で見た物で無ければ、捜索は出来ない。しかし、そのデメリットを考慮しても、普通の人にしてみれば破格の性能だろうなぁ。

「本当に、ユート君は凄いですね……」

「凄いのは、実は母さんなんだけどね」


 そう、五年間の修行中に教えてもらった驚きの事実。解析アナライズを始めとする母さん仕込みの魔法だが、失われた魔法という特殊な魔法らしい。

 母さんは魔王討伐の旅で発見した古文書を解読してその存在を知り、父さん達の助けになると思って習得したらしい。その為、僕も身内以外にはその辺りを秘密にするようにと言われている。


 更に南西を目指して進む僕達の移動速度だが、昨日よりそのスピードは早い。歩けば疲れ、その歩みは徐々に遅くなる。

 じゃあ、疲れないようにすればいいじゃない。よろしい、ならば付与魔法エンチャントだ。


 というわけで、僕達の装備に”疲労軽減”と”疲労回復”の法術を付与しました。

 基本的に、姉さんは聞けば何でも教えてくれるけど、どうしようもない時以外は頼らないように自戒している。そのため僕は王都で神殿を訪れ、神官さんにお布施を渡して法術をかけてもらい、詠唱を耳コピしたのだ。

 さすがに教えては貰えないからね。


「昨日と比べて順調ですね」

「言う必要はないかもしれないけど、魔力を消費し過ぎないようにしてね? 微々たるものでも、積み重なれば山だ」

「はい、わかっています」

 アリスは笑顔で頷いてくれたから、大丈夫だな。僕や姉さんは遺失魔道具アーティファクトを使い慣れているから、その辺りの調節は問題無しだ。


「常時発動は、まだ研究中なんだよなぁ」

 異世界モノのだと、魔法を常時発動する方法がある。主に空気中にある魔力とかを取り込む、とかが定番だよなぁ。

 あるいは、魔力を蓄積するものか。

 快適安全空間セーフゾーンは疑似魔石を使っているが、感覚的には充電できる電池で、もって一晩だからな。物によってはそれだけじゃ足りないし、魔石は貴重で希少だし。

 なので、その辺りはまだ試行錯誤中だ。


「常時発動……発想が凄すぎて、もう……」

「アリスさん、その内慣れますよ」

 人を何だと思っているのかね、君達。


 ……


 二時間ほど、談笑しながら更に街道を進み、南西の町を目指す中。

「……あれ?」

 マップに表示された、この街道の先。人を示す光点が多数あった。

「どうしましたか?」

「マップに人が表示されたんだけど、様子がおかしい」

 その言葉に、二人は首を傾げる。


「ユーちゃんの判断は?」

「固まっている人達、馬、これは馬車か。そして、それを囲んでいるコイツらは……」

「……盗賊、その可能性が高いと思います」

 アリスの言葉に首肯する。


「ちょうど通り道だ、捕らえて南西の町で突き出すか」

 顔を見合わせ頷くと、僕達は駆け出す。走りながら、装備を整える。マップでの警戒も忘れない。

「救助対象、残六! 敵数、残十!」

 マップには、四つの死亡者を示すバツ印。既に殺された人も居るようだ。


 更に走る中、救助対象の内二つの光点がバツ印に変わった。

「救助対象、残四! 敵数、残十!」

「……見えた」

「あれは、獣人? もしかして、獣人奴隷……?」

 襲われる馬車で、手を広げて立っている成人男性と、その背後に居る少年少女には獣の耳と尻尾がある。そして、その首には……奴隷階級である事を示す、首輪がはめられていた。


「アリス、獣人奴隷を救うのに、何か問題があるか?」

 獣人との確執は聞いている。アリス的に、獣人に対する忌避感等はあるのだろうか?

 最も、あっても助ける事に代わりは無い。アリスを参加させるかさせないか、だけだ。


「いいえ、ありません。早く助けてあげましょう」

 少し安心した。アリスならば獣人であろうと見捨てはしないと解っていたけどね。

 いつもの優し気な雰囲気を醸し出すアリスの目が、キッと睨み付けるように盗賊に向けられた。


「じゃあ姉さん、アリスは馬車と獣人達を守るように左右へ。アリス、魔法銃を使って構わない」

「はい!」

「任せてください」


 それでは、始めよう。

 ――パァンッ!!

 右手の銃剣で狙いを定め引き金を引く。乾いた銃声が響くと、銃弾は盗賊の腕を撃ち抜いた。丁度、成人男性に剣を振り下ろそうとしていた為、剣を取り落とした。

 痛みに蹲ろうとした、その盗賊の腹を蹴る。盗賊はそのまま後ろに転がり、悶える。


「ここからは、”俺”達が相手をしよう」

 獣人達と盗賊達の間に立ち、銃剣を構える。姉さんとアリスも、馬車の左右に陣取った。

「さぁ、お仕置きの時間だ」

 成人直後くらいの俺達を睨み、盗賊の一人が声を張り上げた。

「男は殺せ! 女共は高く売れそうだ、出来る限り傷付けるな!」

 その言葉に、意表を衝かれて呆然としていた盗賊達が剣を構えた。


「”来たれ水の精霊三柱、我が元に集え”」

 アリスが詠唱を開始する。それと同時に、走り出して来た盗賊の足に向け、魔法銃を撃つ。

 詠唱中の牽制……じゃないな。盗賊は足を地属性の魔法弾で撃たれ、血を流して倒れた。使いこなしているなぁ。


「“我が求むは天の恵み、この意に従い矢となれ”」

 アリスに殺到する盗賊は三人で、一人が足を撃たれ行動不能。

 更に二人が迫るが、一人は肩を同じように撃ち抜かれた。


「“敵を撃て、水の矢ウォーターアロー”!!」

 三人の盗賊に向けて放たれた水の矢ウォーターアローが、それぞれの足に突き刺さる。

「「「ぎゃあああああっ!」」」

 流れるように盗賊を制圧し切ったアリス。アリスの戦闘を見るのは初めてだが、宮廷魔導師が太鼓判を押すだけの事はあるな。


「制圧します、降伏は認めましょう」

 そう言いながら、盗賊達の剣を持つ手にレイピアを振るうのは姉さんだ。吸い込まれるように、レイピアの切っ先が盗賊達の手に突き刺さる。

「いてええぇっ!!」


 他の盗賊が姉さんに剣を振り襲うが、そんな攻撃に当たる姉さんではない。

「遅いです」

 更に、姉さんの攻撃は止まらない。父さんが鍛えたレイピアは刃が付いているので、斬る事も出来るが……その本質は刺突だ。


 一度腕を引いた姉さんは、再びレイピアを突き出す。無駄を排除した、正確無比の突きが盗賊の足を刺す。

「あああぁっ!!」

 蝶のように舞い、蜂のように刺す、とはこの事か。三人の盗賊は、両手足を刺されて地べたに這いつくばった。


 さて、そんな風にのんびり二人の戦いを眺めていた俺なのだが……。

「くそっ、何だこれは!」

「う、動けねぇ!」

 盗賊達の身体に巻き付く、銀色の鎖。その両端の先端には、錘が取り付けられている。

 日本では鎖分銅と言えば、イメージが付くだろう。そう、所謂”ボーラ”だ。


 勿論俺が使うボーラが、ただの道具であるはずが無い。

 ――遺失魔道具アーティファクト封印の縛鎖グレイプニル”。

 ”捕縛バインド”を付与した、捕縛専用遺失魔道具アーティファクトだ。


 盗賊ごときに破られるほど、ヤワな性能ではない。剣を取り落とし、両手足を縛られて芋虫状態の盗賊達。俺は彼らの前で身を屈める。

「縛られて地面に転がされた芋虫さん達、どんな気持ち? ねぇねぇ、今どんな気持ち?」

「こんのガキャアアアア!!」

 煽ってやると、すぐに激昂した。


「はい、お疲れさん」

 その額に、ゴム弾をぶっぱする。至近距離から放たれたのは、非殺傷性とはいえ銃弾。

 頭に血が上ったまま、盗賊達は意識を失った。


 ……


 盗賊達を縄で縛り、馬車から離れた場所に転がす。生き残った四人は、全員獣人だった。

「僕達は冒険者だ。君達に危害を加えるつもりは無いから、安心してくれていい」

 そう言うも、四人は警戒した表情のままだ。


 獣人の1人は、茶髪の狼の獣人。二十歳で、ガタイのいい男だ。

 彼の名前はクラウスというらしい。彼は元・樵のようで、ステータスは僕を上回る程だ。


 一人はまだ幼い、シルビアくらいの年齢の黄土色の髪の少年だ。彼は虎の獣人のようだが、栄養不足なのか線が細い。

 彼の名前はジル。この子は十一歳か、同年代のシルビアに比べステータスが高いが、種族特性なのかな? 


 一人は赤毛をした犬の獣人で、十歳の少女だ。名前はメアリー。

 彼女も栄養不足なのか、手足が枯れ木のように細くなっている。彼女のステータスもシルビアより高いのだが、ジルよりは低めだ。


 最後の少女は、十三歳の灰銀色の兎獣人。

 アイリという名前で、こちらを警戒しながらメアリーを庇うように立っている。しかし、彼女も栄養不足かガリガリだ。

 ステータス的には、僕と同程度だな。


「何もしないってのに。まぁ、言っても信用は出来ない、か」

「……当たり前だ、人間め。俺達をどうするつもりだ……」

 クラウスが、僕を睨みながら言う。

「……どうしようか? 助けた後の事は、深く考えてなかったな」


 アリスに視線を向けると、苦笑していた。

「一般的には主人を失った奴隷を保護した場合、保護した人が主人を引き継ぐ事になりますね。奴隷商で主従契約は必要ですが」

 そういうものか。

「勿論、奴隷商人を殺害して奪うなどすると、普通に犯罪です。鑑定板などで確認すると、賞罰で殺人と明示されますね」

「じゃあ、盗賊達あいつらは、奪った奴隷を他の奴隷商人に売るつもりだったのかな」

「そうかもしれませんね」


「ユーちゃん。馬は無事ですし、馬車も使えそうです」

「そのまま足として使わせて貰おう」

 そして、獣人達をジーッと見る。うん、”目”によると賞罰は何も無いね。

「君達を保護して、今は暫定で僕達が君達の主人だ。この先にある町で、奴隷商に寄って正式な主従契約を結ぶ」

 ギリッと歯軋りの音がした。


「で、その後で君達との奴隷契約を解除して、解放しよう」

「は?」

「えっ?」

「……へ?」

「お~?」

 呆気に取られる獣人達。姉さんとアリスは、「やっぱりね」という顔で苦笑する。


「ん? だから奴隷から解放するよって」

「「「「何で!?」」」」

 だって、賞罰無しの奴隷なんて、きっとろくでもない理由で奴隷になったに違いない。それに人間族の大陸で、獣人の奴隷……それも、三人は幼い子供だ。


 彼等は人間族に捕らえられて、無理矢理奴隷にさせられたのではないかと思うのだ。だったら、さっさと解放してあげて、故郷に帰らせてあげたい。

 その理由を話したら、獣人達は更に絶句していた。


「君らの出身は?」

「……ミリアン獣王国だ」

 なんという王道展開。

「それなら丁度いいですね。私達の旅の目的地はミリアン獣王国です」

「ユート君、この方達を獣王国へお送りする事は可能ですか?」

「うん、勿論そのつもりだ。そういう訳だから、安心してくれ。僕達が家まで送り届けるよ」


 訝しげなクラウスに対し、ジル・メアリー・アイリは目を輝かせた。

「何の為に、そこまでするって言うんだ」

「自己満足だけど?」

 そう、僕は正義の味方でも何でもない。

 彼らを助けたのだって、通り道に盗賊が湧いていたからだ。そして彼らを解放するのは、自分なりの価値観によるもの。


 僕は身内に甘く、敵に容赦はしない。だけど、関わった者がそのどちらでも無ければ? 本来は、どうぞお好きにっていうスタンスだけどね。

 明らかに彼等は不当な扱いを受けた被害者だ。ならば(態度次第だが)良い方にいくように動く。

 これは自分のルールというか、美学だ。だから、あくまで自分の為にそうする。


「奴隷のままでいたいなら、構わないけどね。とりあえず腹が減ったし、飯にしよう」

 七人分の食事を作るのだ、さっさと取り掛かろう。


 ……


 机の上に並べられたお椀。香り立ついい香り。

 それを前に、獣人奴隷達はお椀を凝視し、涎を垂らしていた。

「……食べないの?」

「……食べていいの?」

 手を付けない彼らにそう問いかけると、期待に満ちた目で返された。


「ユート君、彼等は奴隷なので、主人からの許可が無いと食べられないんですよ」

 なんてこった、そういうものなのか。

「どうぞ、食べていいよ」

 僕がそう言うと、獣人達は凄い勢いで食べ始めた。


「「「「~~~~~っ……!!」」」」

 一口食べた彼等は感動したのか、涙ぐみ……直後、ガツガツガツガツ!! と、掻き込むようにお粥を食べていく。ろくに食べていなかっただろうから、胃に優しいお粥にして正解だったかな。

 おかわりもあるからね、たーんとお食べ。


「さて、僕達も食べようか」

 いただきます、と手を合わせて、お粥を食べる。

「美味しいですね」

「この辺りは冷えますし、身体が温まります」

「二人ともありがとう、とても美味しいよ」

 作ってくれたのは、姉さんとアリスの二人だ。


 僕はその間、奴隷商人とその護衛らしき男二人の亡骸を埋葬した。その辺に。

 そして、犠牲になった三人の獣人の遺体は、宝物庫ストレージに収納した。生物は収納できないが、生命活動を終えた場合は収納できるのだ。


 何故そうしたのかと言われれば、理由は簡単。故郷に埋葬してあげたいからである。

 それを皆に話したら、姉さんとアリスは笑顔で首肯し、獣人達は少し涙ぐんでいた。


 ちなみに、盗賊達は。

「む~っ! む~っ!」

 両手足を縛り、猿轡をして、地面に転がしております。そう、僕達はその目の前での~んびりと食事をしているワケでして。

「あー、美味しいなぁ。姉さんやアリスみたいな美少女が作ってくれたご飯は美味しいなぁ」

「むが〜っ!!」

 ここぞとばかりに、煽っておきます。


 食事を済ませた後、獣人達は馬車の荷台を片付けて寝かせるようにした。

「ほれ、毛布。一人一枚あるから、安心して使うといい」

「……何から何まで、世話になる」

 だいぶ態度が軟化したクラウスが、小さく頭を下げる。


 そして僕達だが……。

「今日は見張りが必要だろう。僕が見張っておくから、姉さんとアリスはテントで休んでいて欲しい。明日は姉さんが馬車の操縦を、魔法が使えるアリスには外敵への対処を頼みたいんだ」

「う~ん……今日は、しょうがないですねぇ……」

「解りました、今日は我慢します……」

 すっごく不服そうです。


 姉さんはさておき、アリスは昨日真っ赤になって固まってたじゃねーか! とは思うが、一緒に寝たくないわけではないので、絶対口に出したり、しません。


************************************************************


 女性陣と獣人達が寝静まり、僕は少し作業をしながら見張りをしていた。無論、寝れない盗賊達からは見えないようにしている。

「ふむ、こんなものかなぁ」

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