外伝Ⅰ-04 南大陸の王達/婚約
僕の名前はユウキ・サクライ。アヴァロン王であるユートからの勅命で、ニグルス獣聖国・リレック獣皇国との会談に訪れている。
まぁ、会談は無事に終わったよ。こちらの人的被害はゼロだから、無事って言って良いよね。
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さて、神殿に一泊させて貰い、翌日の朝。僕はユートからある連絡を受けていた。
「つまり、ギルス帝国に対抗する為に冒険者として僕達が参戦するわけだね?」
『そのつもり。作戦名は“冒険者だヨ! 全員集合”です』
「ネーミングセンスが相変わらず迷子だね!?」
いつも思うけど、ユートのネーミングは落差が激しい。
真実の目なんかは良いと思うんだ、ナイスセンス。
世界の窓や、ジルの眼鏡型地図は……何だかなぁ、って感じ。
そして、識者の眼鏡で見た時に……“持つ地雷パイセン”と“お仕置きバット”が正式名称だと知った時、思わず脱力してしまった。
それはさておき、今度はこちら側からの報告だ。
『ふーん、ニグルスはまだ馬鹿ではなさそうだが、リレックは駄目だな。夜は問題無かった?』
「ユートがくれたお守りのお陰で」
ラルグリス王国の問題に対応する時に、ユートが製作した遺失魔道具だ。加盟国に宛てがわれた部屋全てに設置出来る量を用意されていたのには、ビックリした。
自動生産工場……あれ、便利だよね。僕の錬成剣も、あんな風に量産できないかな。
『後は、帰還するだけだろ? 聖都を出たらすぐに転移すると良いよ。待ち構えている暗殺者とかが、待ちぼうけ喰らうはずだから』
「……良いね、それ」
その案、採用させて貰うべきだろう。
……
朝食をご馳走になり、僕達は会談をした応接室に通された。
「さて、それでは我々はこれで失礼させて頂こう」
「うむ、貴殿等の考えを理解する機会に恵まれたのは僥倖だったな」
獣王陛下と獣帝陛下の言葉に、獣聖と獣皇が一瞬顔を顰めた。
獣聖としては、悪魔族への対抗策を得ておきたい所だろう。そして獣皇は、自分の放った兵士達を、一切動くことなく殺害した僕を警戒しているらしい。まぁ、知った事では無いけどね。
「では、これで失礼します」
「待たれよ」
一礼して踵を返す僕達を、獣聖が制止した。
「昨夜、話し合ったのだが……勇者ユウキに勇者マナ、それに後ろのドワーフや竜人の護衛。貴殿等に、移籍を促したいと思っておるのだ」
……自国への勧誘か。昨日、殿崎さんが僕達を鑑定していたから、ステータスを知って僕達が欲しくなったんだろうね。だが……。
「「「「お断り致します」」」」
即答する僕達に、獣聖が眉間に皺を寄せる。
「爵位も待遇も、希望に沿えると思う。よく考えて貰えぬかな」
「我々はアヴァロン王に忠誠を誓った身です。ユート・アーカディア・アヴァロンを裏切るような真似は致しません」
バッサリ斬り捨てる僕に、獣聖は言葉を切った。
「そういう割には所属がコロコロ変わっただろ?ヒルベルトからクロイツに行った途端に、アヴァロンに移籍しているじゃねぇか」
黙った獣聖に代わり、獣皇が茶々を入れて来る。
「ヒルベルトは召喚した国というだけです。クロイツへの移籍は僕達の意志が無視されていましたし、不当な言いがかりで僕達を攻撃する国に思い入れなんてありません。僕達が忠誠を誓うのはアヴァロン王のみです」
「私達は、移籍の勧誘には応じません。アヴァロン王の臣下は皆口を揃えてそう言うでしょう」
そもそも、僕達はユートの人柄に惹かれて集まったんだ。待遇や爵位で釣られるような者は、一人もいないさ。
「彼らの意志は変わらぬだろうよ。アヴァロン王を知る者ならば、誰だってそう考える」
竜王陛下がそう告げて、さっさと歩いて行く。
「そうだなぁ。ユート・アーカディア・アヴァロン……彼に手を出すなんてしない方が良いぞ。悪い事は言わない」
獣帝陛下が竜王陛下に続く。
残った獣王陛下は、腕を組んで僕達の横に立っていた。溜息を一つ吐いて、陛下は口を開く。
「我等が世界同盟の旗の下に集ったのは、アヴァロン王の……ユート殿という存在に惹かれたからだ。一度、彼と会って話してみれば解る。利益や立場等、そんな事はどうでも良いものに成り下がるぞ」
それは、獣王陛下からのアドバイスだった。
竜王陛下は、この二人を既に斬り捨てて考えているだろう。獣帝陛下は恐らく、未だユートの力を恐れているんじゃないだろうか。
そして獣王陛下は、ユートを想うと同時に……同じ大陸、同じ種族である彼等にも足並みを揃えて貰いたいと思っているんじゃないかな。
「では、失礼するぞ。ユウキ殿、行こうか」
「そうですね。それでは獣聖陛下、獣皇陛下。失礼致します」
呼び止める声は、もう無かった。
……
馬車に乗る前に、三カ国の王達にこの後の行動について相談をする。
「では、聖都を出て平原に出たら、アヴァロン王国に転移しましょう」
ユートからの提案を伝えると、三カ国の王達は笑顔で首肯した。
ちなみに、識者の眼鏡で確認した所……やはり、リレック獣皇国の兵士達が待ち構えている。懲りないね、獣皇。
聖都を出て、ユートから貰った門弾を撃つ。兵士も馬も馬車も通れるくらい、大きな転移魔法陣が展開された。
「あまり頼り過ぎると、堕落しそうだよなぁ」
「ははは、確かにな!」
獣王陛下と獣帝陛下が笑い合いながら、魔法陣を潜っていく。それに竜王陛下や兵士達が続き、僕達が最後に潜る。
マップを確認すると、背後から二カ国の兵士達が迫って来ていた。だが一分間の開門時間が過ぎれば、もう手は出せない。残念ながら、時間切れだよ。
必死に追い縋ろうとする兵士達を見ながら、僕は転移魔法陣を潜った。
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アヴァロンに戻ると、ユートは不在みたいだった。多分、エメアリア魔法国に向かったんだろうな。
「あら、戻られていたんですね」
僕達に気付いたレイラさんが出迎えてくれる。
「お帰りなさいませユウキ様、マナ様、エルザ様、マリア様。それに獣王陛下、獣帝陛下、竜王陛下。ようこそいらっしゃいました」
完璧な所作で挨拶をするレイラさん。アヴァロン王国侍女頭だもんね。
「お邪魔しているよ、レイラ殿。壮健そうでなによりだ」
「ありがとうございます、竜王陛下。ご主人様を始め、皆様に良くして頂いているお陰です」
レイラさん、皆に愛されるお姉さんみたいな存在なんだよね。ユートも何だかんだで、レイラさんを頼りにしているし。
「レイラよ、ユート殿はおられるか?」
「申し訳ございません、獣王陛下。只今ご主人様は、エメアリア魔法国へ出掛けておられます。夜には戻ると仰っておりましたが……」
「ふむ……獣王、竜王。どうする?」
多分、ニグルス・リレックの件で相談したいんだろうな。
「確か、エメアリアはギルス帝国の侵略戦争に対応している最中であったか」
「うむ。それならば、先に我々で意見を取り纏め、世界会議で今後の対応を決めるのはどうだ?」
「ふむ、それが良いだろうな」
どうやら、エメアリア・ギルス戦争でユートが忙しいのを察してくれたみたいだ。ありがたいね、こうして気遣ってくれる人達で良かったよ。
「僕の方からも、ユートには伝えておきますね」
「頼めるかね、ユウキ殿」
「えぇ、任せて下さい」
それから少し会話して、陛下達は自国へと戻って行った。
……
「さてと、そしたら僕達も参戦の準備を進めようか」
とはいえ、いつも通りの戦闘なのでやる事はほとんどないんだけど。宝物庫に、必要な物はほとんど入っているし。
「今回はアヴァロン王国軍じゃなく、冒険者としての参戦なんでしょ?」
「うん、ユートが率いる冒険者部隊……って事になるらしいよ」
「エメアリア魔法国に出番があるかどうか……大丈夫かなぁ?」
問題はそこである。今回は僕達も自重した方が良い……よね?
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それから数日後、結論から言うとエメアリア魔法国にもかろうじて出番があった。
悪魔族四天王ズールと同化した、遺失魔道具製作者バルムンド・ギアブリッツによって生み出された生ける屍。負傷したユートを守る為、僕達と一緒にエメアリア軍が総出で事に当たってくれた。
お陰で、エメアリアの死者はゼロという大勝利を収め、戦争は終結した。
……
そして、勇者タイシと皇女レインベルがエメアリア魔法国に所属する事になった……のだけれど。
「いやぁ、王様の遺失魔道具はやっぱ格が違うよねぇ。バルムンドの遺失魔道具じゃあ、ここまで楽々転移魔法なんて出来ないっしょ」
「アヴァロン王国……本当に凄い国なのですね。おと……いえ、ギルス皇帝が敗けるのも道理です」
戦争の翌日、なんか二人がアヴァロンに居るんですけど。まぁこの二人だけじゃなく、各国の王様や殿下達が集まっている……。
場所はユートの居室の上、天空庭園。アヴァロン王国で、一番高い場所だ。
「じゃあ、タイシの部屋とレインベル皇女の部屋は六階に用意してあるから。エメアリアの部屋と繋いでおくから、行き来も楽になると思うよ」
「なんつーか、本当にありがとうございます」
「僕の製作した遺失魔道具を渡しておくから、活用してくれ」
うん、これは完全にアヴァロンメンバーになりそうだな。完全に身内扱いだ。
「ユート、良いの?」
プリシア女王がユートに困惑顔を向けているが、ユートはカラカラと笑って答える。
「奥さんと僕の部下なわけだからね。それに二人は身内になったんだから、支援や保護は僕の責任でもある。身内を守る為なら、加減なんぞしないよ」
相変わらず男前な暴君である。ユートのズルい所なんだよなぁ……こういう所は、敵わないって思ってしまうよ。
そこで、レインベル皇女がおずおずと手を挙げながら言う。
「アヴァロン国王陛下。私はもう皇女ではなく、ただのレインベルというプリシア女王陛下の側仕えです。そうですね……皆様、私の事はレインとお呼び下さいませんか」
確かに彼女はもう、エメアリア魔法国に亡命したわけだもんね。皇女の座を捨てて、恋人と二人で他国に駆け落ち……何か、物語になりそうな話だよね。
「ふむ……そういう事なら私もラピスと呼んで貰いたいな」
「そうですね、私もフィンとお呼び頂けますか?」
「……それなら、私の事はカレンと呼んで欲しいですね」
ラピストリア王女・フィーリア王女・カレナシア王妹が便乗した。ま、まぁ……確かにその方が、呼びやすいけどさ。
「ユウキ殿、王女を付けなくても良いからな?」
「そうです、呼び捨てで良いですから!」
この二人、何だかグイグイと来るようになったな。
あと、カレナシア王妹がフリードさんの方をチラチラと見ている。
これは、きっとそういう流れなんだろうな。
多分、ユートとプリシア女王の婚約が成立したのが原因だと思う。前例の無い事、その前例を作ってしまったのだ。
それなら自分達も! と思っても仕方ないと思う。
でも、そうしたら……僕はアヴァロン・ラルグリス・トルメキアの貴族を掛け持ちする羽目になる……のかな? 考えただけで、大変そうなんですけど。
……
「……勇者ユウキよ、少々話があるのだが良いだろうか?」
「そうですね、私からもお話したい事がありますので、同席できればと思うのですが」
……ラルグリス王とトルメキア女王からの、鋭い視線。こ、この時が来てしまったか……。
「お二人共、待って貰えるか」
そこに待ったをかけたのが、ユートである。助け船なのか、場を引っ掻き回す気なのか……読めない。
「ユウキの事に関しては僕も共に責任を負う。僕も同席させて貰うが構わないかな?」
……どっちにもなりそうである。台詞だけは男前発言なんだけど。
こうして、僕達は応接室へと移動した。
……
「で、ユウキ殿はラピストリアと恋仲なのかね?」
「フィーリアも、ユウキ様を慕っているようなのですが、既に恋仲なのですか?」
迷いの無いストレートな質問から始まった。
「……お二人と、交際させて頂いています」
ここで取り繕ったり、言い訳するのは見苦しいもんね。だから真剣に彼女達と生きていく……その覚悟を、ここで見せなければ!
「……そうか、良かったなラピストリア」
優しく微笑んで、ラルグリス王はラピスに語り掛けた。
「いやぁ、ユウキ殿の噂が入ると浮足立つラピストリアを見て、早く告白なりなんなりすれば良いのにと思っていたものだ」
「ち、父上! それ以上はあぁっ!!」
「ふふっ、それはフィーリアもですわ」
「お、お母様っ!?」
トルメキア女王の言葉に、フィンが慌て出す。
「アヴァロン王国の話を聞くと、ユウキ様の事をよく聞いていたじゃない。ちゃんと告白できて、想いが実ったみたいで良かったわぁ」
笑顔で娘の醜態を暴露する親達に、僕は思わず苦笑してしまった。
「「ユウキ(殿)(様)!!」」
……怒られてしまった。
「嫁ぎ先がアヴァロン王国の貴族……それも勇者となれば、貴族共も黙るであろうよ」
「ええ、考え得る中で最高のお相手だわ」
……う、うーん。こうも簡単に受け入れられると、何だか……ね。
あ、でも……これについては聞いておかなければ。
「あの、王位の件はよろしいのですか?その、継承権問題があるでしょう?」
そう、この二人は王位継承権を持つのだ。
「それについては、心配には及ばぬよ」
「ええ、問題ありません」
そんな即答!?
「「……!?」」
ラピスとフィンも、何で!? という表情である。
「実はね……つい先日、亡き夫の子を身籠っている事が解ったのよ」
「そうなんですか!?」
トルメキア女王は、第二子を身籠っているらしい。それなら、まぁ……。
しかし、ならラルグリス王は? 皆の視線を受けて、ラルグリス王が苦笑しながら衝撃の発言を繰り出す。
「実は……後妻を娶る事になったのだ。既に、私の子を身籠っていてな」
「……へ?」
実は、ラルグリス王がバルドレイに囚われている際に、世話をしていた侍女の女性と心を通わせたのだという。彼女の存在があったからこそ、ラルグリス王は自害せずにいられたのだとか。
ラピスが、完全に沈黙している。
「…………でも、それだと王位継承権第一位になるか、第二位になるかしか変わらないんじゃないか?」
ユートの疑問は最もだ。しかし、両王は首を横に振る。
「下の子に押し付ける……じゃないけれど、任せても良いんじゃないかしら」
「ラピストリアには苦労をかけてしまったからな。出来るだけ、やりたいようにさせてやりたいのだ」
親心、というやつなのだろう。その分、下の子に重圧が圧し掛かると思うんですけど。
そのケアはちゃんとしてあげて頂きたいです。義理の弟か妹になるんだし……。
「とりあえず真実の目で見た所、トルメキア女王が身籠っているのは男の子です」
「デリカシーって概念、知ってる!?」
本人の許可なく確認するのはどうよ!? 思わずツッコミを入れてしまったよ!!
しかし、トルメキア母子は逆に喜んでしまった。
「本当!? 男の子ですって、フィーリア!! 弟よ!!」
「王位継承権の事は一度置いておいて、嬉しいです! 弟が欲しいと思っていたのです!」
トルメキア母子が盛り上がっている中、ラルグリス王がユートに声をかける。
「その、アヴァロン王……頼みがだな……」
「今度ラルグリスにお邪魔するから、その時に赤ちゃんの経過を確認するよ」
「おぉ、ありがたい!」
……何か、問題が一気に解決した気がするんだけど。
「というか、父上……捕らえられている時に侍女と……? 喜ぶべきか、怒るべきか……」
ラ、ラピスが何か影を背負っているんだけど……。
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後日ユートが確認したんだけど、ラルグリス王の後妻も男の子らしい。
それ以来ラピスとフィンも、アヴァロンと自国を行き来するようになった。勿論、王女として政務をする合間にである。
それにしても、婚約者が五人……かぁ。僕がこんなにモテるとは思っていなかったから、何か不思議な気分だよ……。
でも、こんな僕を好きになってくれた彼女達を、一生をかけて大事にしていかなければ。そしてサクライ侯爵として、領地経営を頑張らなくてはいけない。よし、頑張るか!
「ユウキ。テーマパークにさ、小さな子供が遊べる施設も作ろうよ。年代別にすれば良いんじゃないかな」
「あ、それ良いね。メリーゴーラウンドはやっぱり欲しいよね」
とりあえず、テーマパークの建設が目下の課題かな。




