02-01 旅路/野営
これまでのあらすじ:アリスが仲間になった!!
アリスをパーティに加えた三人旅。イングヴァルト王国の王都から南西へ向かうこと約八時間、僕達は最初の町に立ち寄っていた。
「そこの三人、止まれ!」
街の城門を守る門番が、僕達を制止する。
「王都の方から来たのか? 盗賊では無いだろうが」
「ええ、冒険者です」
腰の鞄から、ライセンスカードを取り出して、門番へ差し出す。
「銅級か……む、付与魔導師だと? 付与魔導師で銅級とは……」
「付与魔導師が剣を持っちゃいけないって決まりは無いでしょう? 付与でステータスを補強すれば、後は技術次第です」
これは誤魔化しじゃなくて、事実だ。
「ふーむ……そちらのお嬢さん達も、ライセンスを」
「はい」
「どうぞ」
手渡されたそれに視線を巡らせた門番が固まった。
「ア、アークヴァルド公爵の……」
「いえ、私はただのアリスです」
毅然とした態度で、アリスは門番にそう言った。
旅に出る際、アリスは公爵令嬢である事は可能な限り伏せるつもりだと、僕達に宣言した。なので、この王都から離れた最初の村で、ライセンスカードを再発行するために立ち寄ったのだ。
「なるほど、何か事情がおありのようですね。いや、引き止めて大変失礼を致しました。どうぞお通り下さい」
多分、僕と姉さんがアリスの護衛とか思ったんじゃないかな。剣士が前衛で、付与魔導師がサポートとか、直近の護衛とか、もしくは肉壁とか。
この町の名前はアルメン。
僕達は冒険者ギルド・アルメン支部へ向かう。扉を開いて中に入ると、王都と違い一つだけのカウンターが正面にある。
併設された酒場も含め、誰もいないようだ。これはラッキー、あまり公にしたくない事をするし、都合が良い。
「冒険者ギルドへようこそ、依頼ですか?」
やる気のなさそうな三十代後半の女性が、これまたやる気のなさそうな声で問い掛けてくる。
「いえ、彼女のライセンスカードの再発行手続きを」
姉さんがそう言うと、アリスがライセンスカードを差し出す。
「再発行? めんどくさっ……と言うか、持っているのに何で再発行なんてえ、ええぇえぇぇ!?」
アリスのライセンスカードを受け取った瞬間、受付の女性が大声をあげた。
「よ、よろしいのですか?」
「はい、お願いします」
ちなみに、ライセンスカードの再発行は銀貨五枚かかります。
「で、ですが公爵様の……」
「お手数をかけますが、お忍びの旅に必要でして。アークヴァルド公爵も了承しています、こちらを」
更にアリスが差し出したのは、アークヴァルド公爵の封蝋がされた文書だ。それを慌てて開いてみると、目を丸くしてアリスを見た。
「ジョブや登録場所はそのまま、名前をアリスとして登録して頂きたいのです」
「か、かしこまりました! ただちに!!」
女性は慌ててカウンターの奥へ引っ込んだ。
ライセンスカードは、魔道具でも遺失魔道具でもない。
ただの金属のプレートだ。その為、プレートに手彫りしていく……何気に面倒な作業だ。
なので……。
『あぁっ、ズレたーっ!!』
「だ、大丈夫でしょうか……私のカード……」
「これで四回目ですね」
先程の受付の女性が、思わぬ依頼でミスを連発したとしても、仕方ないと思うんだ。ここは菩薩のような心境で、彼女の奮闘の終わりを待とう。
三十分後、僕達は町を後にする。門番に再度挨拶をし、街道を再び歩いて進む。
「良かった……無事に受け取れました」
「随分緊張して作業していたから、仕方ないさ。元のライセンスはどうするの?」
再発行前の、フルネームが刻まれたカードは、そのまま受け取っていた。
「いざという時の為に、宝物庫に仕舞っておこうかと思います。権力者を相手にする場合、私の身分も一つの武器になりますからね」
意外と強かな所もあるようだ。
しかし、可能な限りは避けるつもりだが、万が一の時の為に本名でのライセンスカードは持っておいた方が良いだろう。それは僕としても考えていた事だから、否は無い。
「まぁ、使う場面が無い事を祈ろう。さて、食材なんかは足りているし、先へ進むか」
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ミリアン獣王国までは三つの村と二つの町、そして大陸と大陸の間にある海を越える。次の町までは大体二日半くらいか。
「そうすると、今夜は野営ですか」
嫌悪感や忌避感を感じさせない様子で、アグレッシブ公爵令嬢がそんな事を言う。
「大丈夫です、アリスさん。私達の野営はハッキリ言って、普通の冒険者の野営とは違います」
「……ですよね」
苦笑いして言う姉さんに、苦笑いして言うアリス。失礼な、ちょっと便利なだけじゃないか。
……
更に半日ほど歩き、日も暮れ始めた。
「そろそろ、移動も厳しいか。よし、野営の準備をしよう」
僕がそう言うと、姉さんが苦笑いする。
「野営の準備とは?」
「テントその他諸々を出す」
まず、テント”快適安全空間”を出します。
次いで、アウトドア用のBBQコンロ(自作)を出します。
そして、屋外仕様のテーブル(自作)と椅子(自作)を出します。
更に、調理器具(自作)と食材を出します。
「さぁ、キャンプだ」
「野営ですよね」
「成程、普通じゃないですね」
そう言いながら、二人はある物を見て首を傾げる。
「ユーちゃん? このコンロって……?」
「それはBBQに使うコンロかな。創造者の小箱で作ったんだ。焼く・煮る・蒸すと、調理にとても助かる逸品だよ。正直、自信作」
再び姉さん、苦笑い。
「孤島の家に設置したコンロでも良かったんじゃないですか?」
「いや、屋外で調理するならこういうのが良いなって思ったんだ」
どうも、アウトドアにもインドアにも精通する男、ユートです。
「結構たくさん食材がありますね……そう言えばさっき、食材は十分って言っていましたけど……鮮度とかは大丈夫なんですか?」
「あぁ、宝物庫には“時間停止”の付与が施されているんだ、言ってなかったっけ?」
なので島で狩った獣肉や魚、王都で買い込んだ食材、この道中で採取した野草等も、鮮度を気にせず保管できる。
「……じ、時空魔法ですか……? 失われた古代文明の魔法では……」
自分の“宝物庫の指輪”を見て、頬を引き攣らせる。
「付与魔導師の利点はそこなんだ。詠唱を覚えて、効果をイメージできれば付与できる」
ちなみに魔力は、刻んだ文字に後から注ぎ込んであげるだけでいいから、その場で魔力を全て要求されない。
「ちょっと何を言っているのか解かんないです」
「えー。まぁ、噛み砕いて言えば詠唱しなくていい、魔力はちまちま注ぐだけでいい、って事かな」
ちなみに、何でそんなレア魔法の詠唱とかを知ってるか。
使い手が知り合いだから……というか母さんだ。ゲートの魔法も、時空魔法だからね。
冒険者や商人が旅の道中、野営での食事というのはかなり簡素なものだ。固いパン、乾燥させた野菜を煮たスープ、干し肉等がポピュラーである。
最も、それに加えて野草を採ったり、獲物を狩ったり、魚を釣ったりするらしいので、一品二品追加される事もあるそうだ。
しかし、それは運が良ければで、安定して毎昼毎晩食べられる事は、無い。その為、日持ちする物で済ませるのが大半だ。
さて、それに対し僕達はと言えば……
「うん、やっぱり思ったとおりだ。王都の米は、リゾットにすると丁度いい」
「米を食べた事はありましたが、こんなに変わるなんて……すごく美味しいです」
「鮭の蒸し焼きも美味しいですね。王都で調味料を買っておいて、正解でした」
「アルミホイルが無いから、専用の器具を作ったけど上手くいったよねー」
「アルミホイル?」
本日のメニューは野菜たっぷりリゾットに、鮭のホイル焼きに近いもの、鹿肉ベーコン入り目玉焼きです。
この場に他の冒険者や商人がいたら、睨まれるだろうなぁ。
「これでも、簡素な食事に対する心構えはしていたんですけどね。こんなに美味しい食事を食べられるとは、思っていませんでしたよ」
「公には出来ませんけどね」
苦笑するアリスと姉さん。何気に姉さんとアリスは仲が良い。
善きかな善きかな、美少女二人が仲良くしている様子、これはとてもいいものだ。
「……」
少し照れ臭そうにこっちを見る姉さん。そう言えば、あなた心が読めましたっけね。
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さて、問題がある。シャワーはゴリ押しして、二人で済ますように誘導できた。
僕が食器を片付けたりとかするから~と言って、ゴリ押ししたのだ。一緒に、入りたくないとは、言ってはいねぇ。でも、流石にそれは憚られたので。
しかし、コレは避けて通れない。
「ベッドは流石に三つ無いです。なので、僕は床に布団で寝るので二人がベッドを使って」
それに対し、二人の反応。
「いえ、押し掛けて同行したんです。私が床で寝れば済みます」
公爵令嬢を床に寝かせて、自分達がベッドを使うとか有り得ないし。
第一、アリスはもう僕達の身内だ。身内は甘やかすのが、僕のジャスティス。
「ベッドをシェアすれば、寝床の心配はありませんよね?」
とは姉さんだ……まぁ、あなたはそう言うよね!
「誰と誰が一緒に寝るの?」
「……わ、私は……」
「私とユーちゃんは姉弟ですし、遠慮は要らないでしょう?」
「っ!! わ、私もユート君なら、一緒で構いません!!」
いや、この娘さん達ねぇ……。
「君ら、二人で寝なさい。女同士なら何の問題も無いでしょ」
残念そうな顔をされた。なんでやねん。
「あ、それならベッドを二つくっつけて、三人で川の字になりましょう!」
「姉さん、ちょっと何を言っているのか解かんないです」
「……川の字? 複雑な寝方になりますが……」
「アリス、ツッコむ所そこじゃないと思います」
この世界の川を表す文字は、棒を三つ並べる感じの川とは違うからな。
あっコラ姉さん、ベッドをくっつけるな! アリス、止めて……手伝い出した!? ちょっ、まっ……!!
……
「どうしてこうなった」
「すぅ……すぅ……」
「………………」
寝息を立てる姉さん、目を閉じて身動ぎしないアリス。
右に姉さん、左にアリス。
僕の腕を抱えるように眠る姉さん!寝間着のシャツをちょっと摘んで引っ付いているアリス!
起きてるだろ姉さん!! 顔真っ赤じゃねーかアリス!?
……ですが、両隣の感触がとても素敵なので。二人を起こすような、無粋な真似はしないと、僕は誓いました。
三人での旅、一日目は何だか色々疲れたな。とりあえずベッドをもう一つ作るのが、明日の最優先課題か。
とりあえず、寝れるかな……。




