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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第1章 イングヴァルト王国
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01-11 幕間/ゴンツの独白

ゴンツさんのサイドストーリーを書く事になるとは、出した当初は思っていませんでした。

 俺の名前はゴンツ、冒険者だ。

 以前は銅級の冒険者だったんだが、今はある事情で鉄級になっちまっている。そうなった時には、原因になったあの人を憎悪した。

 だが、その後……あの人達の慈悲に触れて、俺は心を入れ替えた。そう、俺は絶対に忘れやしない……あれは、運命的な出会いってやつだったんだ。


************************************************************


「ようこそ、冒険者ギルド・イングヴァルト王国王都支部へ! 冒険者登録でしょうか?」

 そう言って笑顔でお決まりの挨拶をするのは、我らが看板受付嬢のソフィアだ。

 ソフィアは美人でスタイルも良く、性格もいい。言い寄る男は星の数、靡いた男は一人もいない。

 俺達みたいな荒くれ冒険者の、数少ない癒しだ。


 そんなソフィアに相手をして貰っているのは、成人したてくらいのガキ二人だ。二人組は男と女で、冒険者登録をするらしい。

 男の方はパッとしない顔立ちの、ナヨッとした小僧だった。しかし、その隣に立つ女の方は……ソフィアに負けないくらい美人だ。


「ユートさん……付与魔導師、ですか。その……付与魔導師は実戦的なジョブではありませんし、冒険者になるのはお勧め出来ないのですが……」

 付与魔導師だと? ハズレジョブのくせに、冒険者になろうとしやがっているのか。何て身の程知らずだ。

「構いません、登録して下さい」

 しかしユートとかいうガキは、態度を崩さない。


「ソフィアちゃんよ、言葉で言っても解らないヤツには、少し現実を知って貰った方が良いんじゃねえの?」

 俺がそう言って近付いても、ガキは顔色一つ変えやしない。

「小僧、悪い事はいわねぇから止めておきな? 安心しろよ、そっちの姉ちゃんは俺達が面倒見てやるからよ」

 こんないい女なら、いくらでも面倒見てやるさ。勿論、ベッドの上でもな。


「ユーちゃん、私を守ってくれますか? 視線が気持ち悪いんです」

「姉さん、そういうのは小声で言いなよ。この人達がいくら気持ち悪いからって」

 俺達を無視しながら、そんな事をほざきやがった。さすがの俺も、キレちまったよ。


 ムカつく小僧に、冒険者様の実力ってヤツを叩き込んでやろう。そう思って拳を突き出したが、小僧に叩き付けた拳を逆に痛めた。とんでもねぇ硬さだった。

 思わず剣を抜いて攻撃しようしたが、抜く前に隣の女……確か、キリエって名前の女だ。そいつが、俺の喉元にレイピアを突き付けてきた。


 ――騒ぎを起こした罰として、俺達は鉄級冒険者に降格させられちまった。


 ……


 ギルドから出たあいつらを尾行していったが、気が付いたら撒かれちまっていた。

 だが、心配は要らねぇ。奴らはゴブリン三匹の討伐依頼を受けて、東の村に行く。


************************************************************


 俺達は翌朝、王都の門から出て奴らを待った。

 そして、門から出て来た奴らを尾行して、東の村に辿り着く。奴らはすぐに森に入るみたいだ。


 ゴブリン討伐の隙に、小僧の方を殺っちまおう。そして、女の方は三人で少し痛め付ければ、すぐに従順になるだろうさ。

 後は、自分の立場ってヤツを身体に教え込んでやればいい……ヘヘ、楽しみだぜ。


 ……


 付与魔導師の小僧が、ゴブリンを一瞬で斬り殺した。

 アイツの持っている武器は、どうやらかなり使える物みたいだ。でなければ、付与魔導師が一端の戦闘なんてものを出来るはずが無い。

 丁度いい、小僧の命といい女、そしてあの武器……全て俺達が貰ってやる。


 ……そう思っていたら、奴らは走り出した。俺達に気付いたのか。それとも、ゴブリンを見付けたのか。

 奴らの走る先に、ゴブリンが見えた。どうやら、後者みたいだな。

 なら、ゴブリンと戦っている隙に背後から……。


 そう思って、急いでいるのに……追い付けねぇ!! 何だあいつら、メチャクチャ足が速い!!


 ……


 気付けば、俺達はゴブリンの集落に取り残されたようだ。何処を見ても小僧共はいない。

「くそっ、ツイてねぇ!!」

 憤りから声をあげてしまったが、それが良くなかった。ゴブリン達に気付かれたのだ。


 ゴブリンの大群が追って来る。俺達は必死に走っているが、振り切れやしない。

 くそっ、こんな所で死んでたまるか!!


 ゴブリンの放つ投石なんかで、あちこち傷だらけだ。

 クソッたれが!! これも全部あのガキ共のせいだ!!

 何とかゴブリンに追い付かれずに、森を抜けると東の村が見える。


 村の入口には、黒い鉄の塊をその辺に転がしたあの小僧がいた。アイツのせいで……!!

「逝ってこいクソガキ!!」

「やなこった」

 擦れ違い様に剣で傷付けて、ゴブリンの餌にしようと思ったのに。

 俺は小僧に何かをされて、腹に激痛が走った。ブチ殺してやりたいが、命あっての物種だ。

 せいぜいゴブリン達に、美味しく食べて貰いやがれ!!


 ……


 俺は夢でも見てんのか?

 ゴブリンの足元が爆発して、死んでいく。小僧や女の持つ鉄の塊から何かが飛び出し、ゴブリン共を殺していく。

 あっという間に、あいつらはゴブリンの大群を殺し切りやがった。

 呆然としていたら、あいつらに何か言われたらしい村人達が俺達を縄で縛りやがった。くそっ、走り通しで動けやしねぇ!!


************************************************************


「クソガキがっ!俺達に手を出して、ただで済むと思ってるのか!?」

 どんなに睨んでも、どんなに叫んでも小僧は平然としていやがる。その顔がムカついて、更に怒りが沸いてくる。


 ――パァンッ!!

 小僧の手に持っている武器から、何かが飛び出した。ゴブリン共を殺していった、何かだろう。

 それが……俺の、股間のすぐ先に……。

「これで済むと思ったら大間違いだぞ、テメェは絶対に……」

「言動には気を付けた方が良い」

 ――パァンッ!

「ひっ!?」

 股間に……さっきより、近いところに……!!


************************************************************


 俺が意識を取り戻したのは、ギルドの部屋の一室だった。

 股間がいてぇ……息子が……俺の息子が……。


 その痛みで思い出した。感情の無い目、冷えきった声……あのユートとかいう奴は……ヤバい……!!

 クソッ、ついてねぇ。

 あいつに手を出して返り討ち。ギルドも除名処分……犯罪奴隷行きか……。


 その後、ソフィアがやって来て事情を聞かされた。その内容に、俺ぁ耳を疑っちまった。

俺達をギルドに連行して来たあいつらは、何と俺達を処分しないように嘆願したという。

 あれだけの事をして、一歩間違っていたら死ぬ所だったっていうのに……? 何て、事だ……。

 あいつら……いや、あの人達は、何者なんだ……?

 ************************************************************


「本当に、申し訳ありませんでした!!」

 次の日、依頼を受けに来たあの人達に、俺は土下座をした。

「散々迷惑をかけたにも関わらず、俺達を……庇ってくれて、すみませんでしたあぁっ!!」

 股間の痛みが、逆らってはいけないと訴えていやがる!! この人の機嫌を損ねないようにしねぇと……!!


 そうしたら……あの人は……。

「あぁ、うん。そんなに全力土下座されるとは……いや、うん。じゃあ、謝罪を受け入れるよ。それじゃあ、ちょっと立って貰っていい?」

 あの人の言う通りに、俺達は立ち上がった。


 そしたら、あの人はカバンの中から三本の瓶を取り出して……。

「ちょっと冷たいぞ、そぉい!」

 俺達の!! 股間に!! かけてきた!!

 やっぱり、まだ怒ってますか!? 漏らしたみたいになっているんですが!?


「どう、痛みは引いた?」


 ……あれ? あの日からずっと痛みが抜けなかった息子が……痛くない!! まさか、まさか今のは!?

「自分で作った回復薬なんだ、効果はあったでしょ?」

 回復薬は、とても、高価です。


 だっていうのに、この人は……この御方は!!

「「「ありがとうございましたーっ!!」」」

 俺達はもう一回、土下座した。悲しくもねえのに、涙がとまらねぇっ!!


************************************************************


 その日から、俺達はユートさんを兄貴、キリエさんを姐さんと呼ぶ事にした。

 兄貴と姐さんは、ぶっ飛んでると思うくらいのスピードで依頼をこなしていく。そして、あっという間に銅級冒険者に昇級しちまったんだ。


 銅級になったお二人は、旅に出るのだと言う。俺達は鉄級に落ちたままで、付いて行く事が出来ない。

 だが、諦めねぇぞ……さっさと銅級に戻って、兄貴と姐さんに付いて行ってみせる!

 その為にも、今日も依頼だ! 今ある依頼は……!!


『ゴブリン討伐依頼』

ゴンツさんが再登場するかは未定です。

次回の投稿より第2章となります。

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