01-11 幕間/ゴンツの独白
ゴンツさんのサイドストーリーを書く事になるとは、出した当初は思っていませんでした。
俺の名前はゴンツ、冒険者だ。
以前は銅級の冒険者だったんだが、今はある事情で鉄級になっちまっている。そうなった時には、原因になったあの人を憎悪した。
だが、その後……あの人達の慈悲に触れて、俺は心を入れ替えた。そう、俺は絶対に忘れやしない……あれは、運命的な出会いってやつだったんだ。
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「ようこそ、冒険者ギルド・イングヴァルト王国王都支部へ! 冒険者登録でしょうか?」
そう言って笑顔でお決まりの挨拶をするのは、我らが看板受付嬢のソフィアだ。
ソフィアは美人でスタイルも良く、性格もいい。言い寄る男は星の数、靡いた男は一人もいない。
俺達みたいな荒くれ冒険者の、数少ない癒しだ。
そんなソフィアに相手をして貰っているのは、成人したてくらいのガキ二人だ。二人組は男と女で、冒険者登録をするらしい。
男の方はパッとしない顔立ちの、ナヨッとした小僧だった。しかし、その隣に立つ女の方は……ソフィアに負けないくらい美人だ。
「ユートさん……付与魔導師、ですか。その……付与魔導師は実戦的なジョブではありませんし、冒険者になるのはお勧め出来ないのですが……」
付与魔導師だと? ハズレジョブのくせに、冒険者になろうとしやがっているのか。何て身の程知らずだ。
「構いません、登録して下さい」
しかしユートとかいうガキは、態度を崩さない。
「ソフィアちゃんよ、言葉で言っても解らないヤツには、少し現実を知って貰った方が良いんじゃねえの?」
俺がそう言って近付いても、ガキは顔色一つ変えやしない。
「小僧、悪い事はいわねぇから止めておきな? 安心しろよ、そっちの姉ちゃんは俺達が面倒見てやるからよ」
こんないい女なら、いくらでも面倒見てやるさ。勿論、ベッドの上でもな。
「ユーちゃん、私を守ってくれますか? 視線が気持ち悪いんです」
「姉さん、そういうのは小声で言いなよ。この人達がいくら気持ち悪いからって」
俺達を無視しながら、そんな事をほざきやがった。さすがの俺も、キレちまったよ。
ムカつく小僧に、冒険者様の実力ってヤツを叩き込んでやろう。そう思って拳を突き出したが、小僧に叩き付けた拳を逆に痛めた。とんでもねぇ硬さだった。
思わず剣を抜いて攻撃しようしたが、抜く前に隣の女……確か、キリエって名前の女だ。そいつが、俺の喉元にレイピアを突き付けてきた。
――騒ぎを起こした罰として、俺達は鉄級冒険者に降格させられちまった。
……
ギルドから出たあいつらを尾行していったが、気が付いたら撒かれちまっていた。
だが、心配は要らねぇ。奴らはゴブリン三匹の討伐依頼を受けて、東の村に行く。
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俺達は翌朝、王都の門から出て奴らを待った。
そして、門から出て来た奴らを尾行して、東の村に辿り着く。奴らはすぐに森に入るみたいだ。
ゴブリン討伐の隙に、小僧の方を殺っちまおう。そして、女の方は三人で少し痛め付ければ、すぐに従順になるだろうさ。
後は、自分の立場ってヤツを身体に教え込んでやればいい……ヘヘ、楽しみだぜ。
……
付与魔導師の小僧が、ゴブリンを一瞬で斬り殺した。
アイツの持っている武器は、どうやらかなり使える物みたいだ。でなければ、付与魔導師が一端の戦闘なんてものを出来るはずが無い。
丁度いい、小僧の命といい女、そしてあの武器……全て俺達が貰ってやる。
……そう思っていたら、奴らは走り出した。俺達に気付いたのか。それとも、ゴブリンを見付けたのか。
奴らの走る先に、ゴブリンが見えた。どうやら、後者みたいだな。
なら、ゴブリンと戦っている隙に背後から……。
そう思って、急いでいるのに……追い付けねぇ!! 何だあいつら、メチャクチャ足が速い!!
……
気付けば、俺達はゴブリンの集落に取り残されたようだ。何処を見ても小僧共はいない。
「くそっ、ツイてねぇ!!」
憤りから声をあげてしまったが、それが良くなかった。ゴブリン達に気付かれたのだ。
ゴブリンの大群が追って来る。俺達は必死に走っているが、振り切れやしない。
くそっ、こんな所で死んでたまるか!!
ゴブリンの放つ投石なんかで、あちこち傷だらけだ。
クソッたれが!! これも全部あのガキ共のせいだ!!
何とかゴブリンに追い付かれずに、森を抜けると東の村が見える。
村の入口には、黒い鉄の塊をその辺に転がしたあの小僧がいた。アイツのせいで……!!
「逝ってこいクソガキ!!」
「やなこった」
擦れ違い様に剣で傷付けて、ゴブリンの餌にしようと思ったのに。
俺は小僧に何かをされて、腹に激痛が走った。ブチ殺してやりたいが、命あっての物種だ。
せいぜいゴブリン達に、美味しく食べて貰いやがれ!!
……
俺は夢でも見てんのか?
ゴブリンの足元が爆発して、死んでいく。小僧や女の持つ鉄の塊から何かが飛び出し、ゴブリン共を殺していく。
あっという間に、あいつらはゴブリンの大群を殺し切りやがった。
呆然としていたら、あいつらに何か言われたらしい村人達が俺達を縄で縛りやがった。くそっ、走り通しで動けやしねぇ!!
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「クソガキがっ!俺達に手を出して、ただで済むと思ってるのか!?」
どんなに睨んでも、どんなに叫んでも小僧は平然としていやがる。その顔がムカついて、更に怒りが沸いてくる。
――パァンッ!!
小僧の手に持っている武器から、何かが飛び出した。ゴブリン共を殺していった、何かだろう。
それが……俺の、股間のすぐ先に……。
「これで済むと思ったら大間違いだぞ、テメェは絶対に……」
「言動には気を付けた方が良い」
――パァンッ!
「ひっ!?」
股間に……さっきより、近いところに……!!
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俺が意識を取り戻したのは、ギルドの部屋の一室だった。
股間がいてぇ……息子が……俺の息子が……。
その痛みで思い出した。感情の無い目、冷えきった声……あのユートとかいう奴は……ヤバい……!!
クソッ、ついてねぇ。
あいつに手を出して返り討ち。ギルドも除名処分……犯罪奴隷行きか……。
その後、ソフィアがやって来て事情を聞かされた。その内容に、俺ぁ耳を疑っちまった。
俺達をギルドに連行して来たあいつらは、何と俺達を処分しないように嘆願したという。
あれだけの事をして、一歩間違っていたら死ぬ所だったっていうのに……? 何て、事だ……。
あいつら……いや、あの人達は、何者なんだ……?
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「本当に、申し訳ありませんでした!!」
次の日、依頼を受けに来たあの人達に、俺は土下座をした。
「散々迷惑をかけたにも関わらず、俺達を……庇ってくれて、すみませんでしたあぁっ!!」
股間の痛みが、逆らってはいけないと訴えていやがる!! この人の機嫌を損ねないようにしねぇと……!!
そうしたら……あの人は……。
「あぁ、うん。そんなに全力土下座されるとは……いや、うん。じゃあ、謝罪を受け入れるよ。それじゃあ、ちょっと立って貰っていい?」
あの人の言う通りに、俺達は立ち上がった。
そしたら、あの人はカバンの中から三本の瓶を取り出して……。
「ちょっと冷たいぞ、そぉい!」
俺達の!! 股間に!! かけてきた!!
やっぱり、まだ怒ってますか!? 漏らしたみたいになっているんですが!?
「どう、痛みは引いた?」
……あれ? あの日からずっと痛みが抜けなかった息子が……痛くない!! まさか、まさか今のは!?
「自分で作った回復薬なんだ、効果はあったでしょ?」
回復薬は、とても、高価です。
だっていうのに、この人は……この御方は!!
「「「ありがとうございましたーっ!!」」」
俺達はもう一回、土下座した。悲しくもねえのに、涙がとまらねぇっ!!
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その日から、俺達はユートさんを兄貴、キリエさんを姐さんと呼ぶ事にした。
兄貴と姐さんは、ぶっ飛んでると思うくらいのスピードで依頼をこなしていく。そして、あっという間に銅級冒険者に昇級しちまったんだ。
銅級になったお二人は、旅に出るのだと言う。俺達は鉄級に落ちたままで、付いて行く事が出来ない。
だが、諦めねぇぞ……さっさと銅級に戻って、兄貴と姐さんに付いて行ってみせる!
その為にも、今日も依頼だ! 今ある依頼は……!!
『ゴブリン討伐依頼』
ゴンツさんが再登場するかは未定です。
次回の投稿より第2章となります。
 




