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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第1章 イングヴァルト王国

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01-10 幕間/イヴェール・ヴィスタリオ男爵の独白

※注意

今回のお話は、ドロドロしています。そういう話が苦手な方は、飛ばして下さい。

 我が名はイベール・ヴィスタリオ。

 イングヴァルト王家に仕える男爵家の嫡男である。


 この度、アルファルド第一王子殿下が十歳の誕生日を迎えられた。

 我が国では、十歳を迎えた王子は部隊を指揮し、王都周辺の魔物を狩るという伝統がある。アルファルド殿下も、例に漏れず伝統遠征を行う事になった。

 私は何とか、その部隊に参加する事に成功したのだ。この遠征でアルファルド殿下の覚えが目出度くなれば、子爵……いや伯爵位の叙爵も……。


 ……


 くそっ、近衛兵達が邪魔で、アルファルド殿下に取り入る事ができない。

 他にも同じ事を考えていそうな連中が、あちこちにいる。しかし、近衛兵達に睨まれて近付けない。

 こうなったら、魔物に襲われそうになった殿下を、私が救って恩を売る事にしよう。


 ……


 何でこうなるんだっ! 

 王都の周囲を巡る遠征は、この街道で終わると言うのに!

 森の中からは、百をゆうに超える魔物の群れ。それが、我々に向かって突進して来ているのだ。

 おのれ魔物め……!! 


************************************************************


 魔物の群れに遭遇してから一時間あまり……我々は必死に抗っていた。凄まじい数の魔物は今も森から飛び出して来ている。

 最早、撤退しか術は無い。しかし近衛兵達に守られた殿下は、近衛隊長と言い争いをしている。

 我々一般兵士を盾に逃げると言う近衛隊長が、残って戦うという殿下を宥めようとしていた。

 こんな……こんな所で死にたくねぇ……!!


 そんな時だった。一人のガキが、戦場に走り込んで来た。

 そのガキは、私達に上昇効果を与える付与魔法をかけてきた。身体に力が漲るのが解る。これなら……!!


 さっきよりは大分マシだが、それでも数が多くて溜まらない。一匹魔物を仕留めて、気を抜いた時だった。

「キキキキキッ!」

 襲いかかって来たのは巨大蟷螂だった。

「くそっ!!」

 ギィンッ!! という激しい金属音。

「あっ、しまっ……!!」

 剣先が、巨大蟷螂の甲殻に負けて折れ、明後日の方向に飛んでいった。


「ッアアアアァァッ!?」


 その方向から、ガキの声がする。先程のガキに刺さったらしい。

 ……私じゃ無い。私は悪くない、悪いのはガキのくせに戦場に飛び込んで来たあのクソガキだ。

 俺は悪くない……。


************************************************************


 一時間程の後、魔物の増援は無くなった。

 他の兵士達が集まって、どよめいている。どうやら、さっきのガキを見ているらしい。

 見えてしまったのは、眼球を無くして血塗れになったガキの顔だった。


「うわっ……ひでぇ……」

「お、おい……眼球が無いぞ……」

 俺の……俺のせいじゃ……!!


「ケッ、ガキが戦場に割り込んで来たんだ、目玉一つで済んでラッキーだろ」

 そうさ、悪いのはこのガキだ。俺のせいじゃない、俺じゃないんだ……。


 その瞬間。

「邪魔です、どいて下さい」

「ハフゥッ!?」

 股間に走る痛み。全身から吹き出る脂汗。

 俺は股間を蹴られた、このガキと一緒に戦場に乱入しやがった、娘に。


「こっ……小娘っ……てめっ、何……っ!!」

「ユーちゃん、傷口を見せて下さい……あぁ……これでは……」

 俺を無視した小娘は、ガキを見ている。

「こっ……このガキッ!!」

 あまりの痛みに悶て地面を転がりながらも、クソガキどもを睨む。いつかもっと成り上がるこの俺が、舐められてたまるものか。


「死ななかったから良かったじゃ済まされねぇぞ! お前らみたいなガキが遊び半分で飛び込んで来れるほど、戦場は甘くはねぇんだ!!」

 しかし、ガキは何も言わない、小娘は俺を無視したままだ。

「このクソガキ……てめぇら、このまましょっ引いて……!!」


 だが、割って入ったのは幼い少年の声だった。

「よい、その者を責めるな」

 俺は何とか食い下がろうとするが、殿下には逆らえない。クソッ、俺は股間を蹴られたっていうのに……!!


 そんなガキ共は、王家のメダリオンを持っていた。その為、殿下は奴らを王城に連れて行くことにしたらしい。

 クソが、偽物に決まっている……。


 ……


 王都に戻った夜、俺は父上に呼び出された。

 左目の無い少年と、その姉の少女は国賓の為、王都で見かけても手を出さないようにという達しが来たのだ

 国賓だと? 奴ら、一体どんな手を使って……?


************************************************************


 あのガキどもは、王都を去ったらしい。

 しかし、奴らは絶対に怪しい。この国を守る為にも、俺が何とかしなければ。


 男爵家の嫡男とは言え、貴族としては最下級の爵位だ。そんな一兵卒が、殿下に上申しても耳にすら入らない可能性が高い。


 ……そうだ、公爵家の令嬢であるアリシア様も、もう十歳。十歳となれば、婚約者を探す時期だろう。

 見目麗しいアリシア嬢なら、婚約者に相応しいだろう。俺が公爵家に婿入りし、アルファルド殿下に直接進言するのだ。公爵家の人間ともなれば、殿下も無碍にはすまい。


 そうだ、これは国の為。この国の為に、俺には権力が必要なのだ。


 ……


 クソッ、公爵の一人娘アリシアに出した求婚の返事が来ねぇ! イエスしか無いだろうが、クソッ……!!

 アリシアの夫になれば、俺は次期公爵だというのに!! 俺の何が悪いというのだ!!


 ……


 父が死んだ。そう、父は不慮の事故で死んだ。

 まさか、馬車の車輪が緩んでいたとは誰も思うまい……。

 これで、男爵家は俺が継ぐのだ。


************************************************************


 魔物の氾濫スタンピードが起こったと、冒険者共から連絡が入った。大迷宮攻略隊の小隊長として、先行させられた俺は仕方なく大迷宮へ向かった。

 心配はいらない、俺には五十人の部下たてがある。


 ……


 大迷宮の入口に立っていたのは、見間違えるはずもない……奴らだ。クソが、奴らは冒険者になってこの国に戻って来やがったのか!


 事情を詰問すれば、奴らが二千匹の魔物を討伐したなどと、現実味の欠ける証言をする。

 ふざけるな、お前らにそんな事が出来るはずがない!! どうせ、魔物共が同士討ちをしたんだろう。

 しかし、これはチャンスだ。

「魔物は全て我々が討伐した、お前達は我々に救出された。そうだろう?」


 そう、手柄は俺にこそ相応しい。このガキどもは、帰りの道中で部下に殺させよう。そうすれば、真実は闇の中だ。

 いや、小娘は生かしてやろう。俺の股間を蹴った恨みは、ベッドで甚振り尽くして晴らさせてもらう。美しく育ったこの小娘なら、性奴隷に丁度いい。


「そんな馬鹿な話があるか! 我々の功績を簒奪するのか! あの魔物の大半はこのユート達が討伐したのだぞ!」

 しかし、奴らの隣にいた冒険者共が反抗してきた。

「冒険者風情が、この私に噛み付く気か! 反逆罪で処刑するぞ!」

「何が反逆だ、正論を言ったまでの事だ!」

「おい、こいつの首を斬れ!!」

 道中と言わず、ここで殺すことにしよう。どうせ、魔物に殺された死体がそのへんに転がっていたんだ。生存者が居なくても、不自然じゃない。


 ――パァンッ!!


「ぐあぁっ!?」

 俺の側近の手が、あのガキに撃ち抜かれた。

 あれは銃なのだろうか? 見たことが無い、光を反射する黒い銃……。


「とりあえず話が解る人間が来るまで、コイツら黙らせるか」

「貴様っ!」

 これは反逆罪だ、国家反逆罪だ。

 この国に必要不可欠な俺を害そうとしている、処刑だ!!

 ――パァンっ!!

「ぎゃああぁっ!!」

 焼けるような痛みが脚を襲う。


 俺の兵士達が飛び込んで来た。

「貴様、その御方がヴィスタリオ男爵と知らぬのか!」

「男爵様、ご無事ですか!」

「ああぁっ……くそぉっ!! 処刑しろ、このガキを殺せ!」


 しかし、その後……ガキの撃った布に魔法陣が展開され、そこからアルファルド殿下が現れた。

「……まったく、お前は騒動に巻き込まれてばかりじゃないか?」

「やっ! 済まないな、アルファ」


 何故だ? 何故、殿下がここにいる? 何故、あのガキと親しげに話している? 何故? 何故? 何故? 

 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故!?


「さて、話はキリエから聞いている。我が国の兵士達の愚かな振る舞い、この国を背負う者として謝罪する」

 俺が、愚かだと? 俺は愚かじゃない、この国に必要不可欠な存在だ。

「で、殿下! これは、その……!!」

 俺の声に振り返った殿下の目は、冷ややかな視線だった。殿下、私は……。


「この場に居る者達は、全員我が国に泥を塗った。処分は追って下す」

 ふざ……けるな!! そうか、この殿下は偽物だ!! 本物の殿下が、こんなクソガキと親しいわけがないんだ!!

 そうだ、偽物が殿下の名を騙っている!! ならば忠臣としてすべき事は一つだ!!


「こ、こうなったら……!!」

 俺は剣を抜き、殿下を騙る偽物を斬り捨てるために!!

「……ふん」

 しかし、偽物は何の感慨もなさそうに……俺の首目掛けて、剣を振るった。


 何故だ……? 何故俺が……?

 最期に目に付いたのは……ゴミを見るような殿下の顔だった。

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