16-05 ヨシュア/快気祝い
これまでのあらすじ:ヨシュア大迷宮に突入しました。
「成程、死者蘇生に必要な根源魔法は二つだったのか」
ヨシュア大迷宮なう。正確には、ヨシュア大迷宮の最深部・ワイズマンの隠れ家なう。
「攻略開始から五時間……これまでで最速の攻略時間ですね」
はい、攻略完了でございます。
何が起こったのか、簡単に振り返るとしよう。
まず、魔導兵騎に乗ったままダイナミック入場!
最初に仕掛けられていたのは毒の状態異常魔法陣! 守護の首飾りにより無効化!
襲い掛かる魔物達! 速攻で壊滅!
仕掛けられていた麻痺・石化・昏睡・魔力吸収・体力吸収・魅了・五感の阻害といった、多岐に渡る状態異常魔法陣! 軒並み守護の首飾りや解呪で無効化!
襲い掛かる大小様々な魔物達の数々! 特に攻撃を受ける事も無く、一匹残らず壊滅!
守護者ヘカトンケイルが現れた! 十人でひたすらフルボッコ、ヘカトンケイルは攻撃する間どころか、座った状態から立ち上がる事も出来ず、ものの一分でボロ雑巾状態になった!
そのまま最深部に突撃おたくの根源魔法! 時間の根源魔法を会得した!
ドワーフ族のワイズマン、ヨシュア・ノクトリア・ワイズマンの記録映像が現れた! 話はスルーだ!
「ふぅ、ヨシュア大迷宮……恐ろしい大迷宮だったぜ」
「嘘だよね、絶対! はぁ……哀れ過ぎるよ、ヨシュア」
というか、魔導兵騎や魔力駆動二輪を駆使して、時には魔力駆動四輪で轢き逃げアタックをかまして突破。
状態異常が効かない以上、魔物もヘカトンケイルも僕達からしたらちょっと邪魔な障害物以外の何物でもなかったな。
「あはは……先輩とこの大迷宮の相性は悪過ぎと言うか良過ぎと言うか……」
「ユート様にとっては、最も与しやすい大迷宮でしたね」
それな。僕がただの付与魔導師だったならば、もう少し苦戦したかもしれない。
しかし僕は刻印の付与魔導師……普通の付与魔導師とは一味も二味も違うのだ。
刻印付与魔法と遺失魔道具、これまで会得して来た根源魔法。更には鍛え上げて来たレベルとステータスで、相当に強くなっていると思う。
「それじゃあ、さっさと出るか!」
「ヨシュア……生前から幸薄いとか言われていたけど、死後も幸が薄いんだね……」
相手とタイミングが悪かったとしか言いようがないね! 懸念要素が無ければ、もうちょい真っ当に攻略したんだけど。
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【名前】ユート・アーカディア・アヴァロン
【職業/レベル】付与魔導師/103→106
【状態】ヨシュア大迷宮踏破(+50)(NEW)
【技能】時間の根源魔法Lv1(NEW)
【称号】ヨシュア大迷宮踏破者(NEW)・速攻踏破者(NEW)
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攻略完了を告げた僕達の報告に、クエスト王が死んだ魚の目になっていた。自国の戦士達が必死に攻略に臨んでも踏破出来ていない大迷宮を、ものの五時間で踏破されたのだから気持ちは解らないでもない。
しかし、こちとら普通じゃないのだ。
「し、しかし攻略情報を貰えるのはありがたい……うむ、気を取り直して考えれば、別段損をする訳では無いしな……!!」
必死に自分に言い聞かせるようなクエスト王に、少々申し訳ない気持ちになってしまう。
「それで、探し求めていた根源魔法は手に入ったという事か?」
「正確には時間の根源魔法と、魂魄の根源魔法の合わせ技だな。生前まで時間を巻き戻した肉体に、魂魄を戻してやるらしい。欠損に関しては時間を巻き戻すだけらしいな」
「ほほう……そういう仕組みなのか」
「巻き戻す時間と、巻き戻したい範囲によって消費する魔力が変わるらしい。まぁ、それについてはアテがあるから大丈夫だ」
宝物庫の指輪に保管しているクラリスの遺体は、“時間停止”の影響を受けているからな。
……あれ? って事は、時間停止の魔法って根源魔法なのか?
少し気になったので、クエスト王国を辞した後でキリエに聞いてみる。すると、驚きの事実が判明した。
「時間の操作は、確かに根源魔法か、それと同格の魔法でなければ成し得ません。ですが、ただ特定の範囲内の時間を止めるならば、時空魔法で行使する事が可能です」
時間停止も相当凄いと思うんだけど、出来んのか。
「ふふっ、驚いていますけど、汎用性は知っての通り低いですよ?」
キリエの説明によると、本来の時間停止はそんなに便利なものではないそうだ。
というのも、範囲や継続時間に膨大な魔力消費が伴う。詠唱も長いので、実戦の中で発動しようとするのは相当に困難。
宝物庫の時間停止が有効なのは、”指輪という小物の中に生まれた空間に対する時間停止”だかららしい。詳細を省くが、要するに魔力で生み出した空間は実空間ではないから、魔力消費が大した事無いという事らしい。
「そもそも、魔道具も遺失魔道具も複数効果を付与するという考え自体が無かった訳ですし」
何で気付かないんだろうね、不思議だね。
さて、そうすると今回の攻略で会得した根源魔法は、それらの上位互換なわけだ。
「時間停止に巻き戻し……それに時間を進める事も出来るのか」
「もう、そんな楽しそうな顔をして……」
おっと、顔に出ていたか。しかし優先はそっちじゃない、早速やりますかね。
「ジョリーンとリリルル、クラリスを集めようか」
「解りました、では連絡しますね」
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「さて、それじゃあ行くぞ」
ジョリーンにはキリエとアリスが、リリルルにはリインとクリスが対応する事になった。
そして、クラリスの方は僕とアイリ・メグミだ。欠損を抱える二人は欠損した箇所にそれぞれ一人、クラリスの時間巻き戻しをアイリとメグミが、魂魄魔法で魂を身体に戻すのを僕が担当する。
削られていく魔力の回復をエイルやヒルド・ノエルに頼み、かれこれ三時間程が経過した。
「あ、あぁ……! わ、私の腕が……!!」
元に戻った両腕を見て、リリルルが涙を零している。
「どうですか、違和感なんかはありませんか?」
「ええ、すっかり元通りです、リイン様! クリス様!」
「……ん、良かった」
感涙するリリルルを抱き締めるリインとクリス。
そして、もう一人。
「……す、凄い。何の違和感もない……本当に、私の身体だ……!!」
右腕と右足を取り戻したジョリーンが、自分の腕や足の感触を確かめて、笑みを零す。
「あ、あぁ……! ジョリーン!!」
駆け寄ったマルクが、強くジョリーンを抱き締めた。
「良かった……良かったな、ジョリーン……!!」
「あぁ……ありがとうマルク! キリエ様、アリス様……本当に、ありがとうございます!!」
マルクを抱き返しながらも、ジョリーンは泣き笑いながら二人に感謝の言葉を返す。
「良かったですね、ジョリーンさん」
「ええ、本当に」
笑顔で頷きながら、キリエとアリスは下がった。二人をそっとしておこうという配慮かな?
そして……。
「……いけます!」
「クラリスさんの身体……傷も塞がりました!」
宝物庫の指輪に収納していたクラリスの身体は、無事に元に戻った。後は、魂魄魔法でクラリスを元の身体に戻すだけだ。
「さぁ、クラリス」
こくりと頷き、クラリスの魂が自動人形の身体から抜け出た。
<では陛下……お願いします>
「あぁ、行くぞ」
アレキサンドリア大迷宮で、ノエルの魂を元の身体に戻した時にやり方は覚えた。どうやらティルファニア大迷宮のお陰で、根源魔法の適正も得られて使用可能になっている。
「さぁ、復活の時間だ」
白い光を纏った僕の手がクラリスの身体と魂に同時に触れ、その魂が僕の身体を介して肉体へと戻った。
……ついでだ、試してみるか? そのまま自動人形に触れると、更に何かがクラリスの身体に注ぎ込まれていく。
「あ、あのー陛下? 何を?」
自分の体に戻って一瞬歓びに満ちた表情になったクラリスが、訝しげな視線で僕を見る。
「喜べ、クラリスのレベルやステータス情報なんだが、自動人形から転記できるらしい。理由や原理は知らんが!」
「な、マジですか!?」
つまり、僕の婚約者レベルのスペックをそのまま本来の身体でも振るえるという事だ。会得した根源魔法なんかも、そのまま使用可能らしいね。
全ての処置を終えて、クラリスの身体から手を離した。
「おぉ、本当に……本当に私の身体に……!! い、生き返ったんですね、私!! さっきは何か、陛下が常識破りしてたから感動が遅れて来ましたよぉ!!」
余計な事は言わんで宜しい。
「あぁ……本物の身体なんだな、クラリス!!」
「良かったわね……エルザにメールしてあげなきゃ!!」
「おめでとうくーちゃん!!」
「良かったな、クー……おめでとう」
親しい者達からの祝福の言葉に、クラリスは笑みと涙を零した。
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さて、場所を移してアヴァロン王城のパーティールーム。
集まったのはコアメンバーに友人達だ。そうそうたるメンツだが、集めた理由は簡単。
「今日は良い事があった。よろしい、ならば宴だ!!」
という事で、アヴァロンメンバーや仲間を集めてパーティーをする事にしたよ!!
今日は身分も関係ない無礼講だ。政治的なやり取り? 何それ美味しいの?
加盟国の王達への報告は悪いが明日にさせて貰う。というか、加盟国の王の大半が既にここにいるし!! 事の次第を話したら、南大陸で会談に向かっているはずのメンバーが飛んで来たし!
いや、まぁ仕方ないよね。エルザが来たがるだろうし、そしたらユウキ達も来るし、そしたら同行している王達も来るよね!
「それじゃあ、代表してジョリーン! 乾杯の音頭を!」
「え!? 私なのか!?」
だって君が、冒険者パーティのリーダーだったでしょうが。
「で、では……えぇと他国の皆様へのご説明は、明日にでも陛下が行うそうなので……とりあえず、念願叶って我々は元の姿を取り戻す事が出来た。これから一層、アヴァロン王国の発展の為に尽力していきたいと思う。偉大な国王陛下と親愛なる仲間達に、心からの感謝を……それでは、乾杯!!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
「最速での大迷宮踏破に、欠損回復と死者蘇生……お前、そろそろ本気で何でもありになって来たんじゃないか?」
呆れたようなアルファの言葉を皮切りに、他国の友人達が集まって来る。
今日招いたのは、エメアリアとユエルを除く国の王達。ヒルベルト・トルメキアの王は呼んでいない……呼べなかったよ、嫁達に止められて。
殿下勢は、アルファとシルビア・アクセル君に、エミリオとシャル。
ブリックとマチルダに、マックとリア、フローラ殿下やエリザベート殿下にミランダ。
竜王の息子・グラムとジオ。
騎士国三王子にミレイナ、シャルル。
ダーム王子も無論いる。
ユエル王も参加したがっていたのだが、残念ながら国の用事で抜けられないらしい。
そして……。
「アヴァロン王、本気でパないですね」
「うん、アヴァロン王はパねぇわね」
ケルム獣帝の娘、双子のファニール殿下とオニール殿下だ。
というのも、大迷宮攻略中にアヴァロン王国に入った連絡……アヴァロン王国の親善大使を獣帝から命じられたそうだ。その辺の話、まだまとまっていないんだけどなぁ……。
「いえ、友好関係を結ぶ為の話ですから、早過ぎるという事は無いかと思いまして」
「そうそう、それに私達はアヴァロン王国の首脳陣の誰かに嫁ぐように言われているからね!」
「それ、言っちゃダメなやつじゃないの、オニール殿下?」
ポロっと口が滑ったらしいオニール……ではなかったようだ、首を横に振りドヤ顔をしてみせている。
「陰でコソコソするのは性に合わないもの! 正々堂々、婚活しに来ましたって宣言すれば良いじゃない!」
「そういう事です。ちゃんと理由を話しておいた方が信頼関係を築くのも早いと思いますし」
素晴らしい心意気と言わざるを得ないな。ここまでストレートど真ん中で勝負する気概、僕は嫌いじゃない。
「変な貴族とかが来るくらいなら、真っすぐぶつかってくる殿下達の方がこっちも気楽で良いな。獣帝には了承の返事を伝えておいてくれ」
「「はいっ!!」」
さてさて、彼女達は誰に嫁ぐ事になるのやら。
そして、先日正式にアヴァロン王国に滞在する事となったヒルベルト王国のカレナシア王女。
「カレナシア王女、楽しんでいるかな?」
「これはアヴァロン国王陛下、お声をかけて下さって恐縮です」
「恐縮する事は無いよ、今日はオフだオフ。アヴァロンでの暮らしはどう? 困った事は無いかな?」
「ふふっ、快適過ぎて困ってます」
僕の砕けた口調に、カレナシア王女も笑顔で返す。
「アヴァロンという国名の由来が理想郷と伺いましたが、確かにここは理想郷ですね。アヴァロンが建国してから、世界は良い方向に動き始めていると兄は言っていました。私もここに来て、その通りだと確信しました」
ラインハルト王がそんな事を言っていたのか。
ヒルベルト王国の問題はまだ山積みだろうが、彼ならうまくやっていくだろう。僕もそれなりに支援はしようと思っている。
「今度、ラインハルト殿に取り次いで貰えないかな? 過大評価はむず痒いものの悪い気はしないし、色々話して友好関係を築きたいと思うんだ」
「ありがとうございます、アヴァロン王。きっと兄も喜びます」
だと良いな。
「ちなみに、あちらの方にフリード達がいるよ。良かったら行っておいで」
「!! そ、そうですね、先日のお礼もまだし足りませんし、少しお話でも!! では、失礼致します!」
……春だねぇ。今、冬だけど。
あとは……トルメキアの王女、フィーリア殿下かな。彼女はユウキ達を取り囲む恋人達と、そこに入ろうとしているラピストリア王女を見て、むむむ……と唸っている。
「フィーリア殿下、楽しんでいるかい?」
「あ、アヴァロン王陛下! この度はお招き頂きまして、誠に感謝しておりますわ」
カーテシーで挨拶をしている姿は、ちょっと背伸び気味の少女って感じだ。
これでも彼女、六十代なんだけどね。エルフではまだまだ子供扱いされる年だと、リインが言っていたっけか。
「まぁ、今日は無礼講だし楽にしてくれ。ユウキとは話せたかな?」
「へぇっ!?」
内心を見透かされた事に動揺したのか、変な声で驚いてみせるフィーリア殿下。
面白い……ちょっと小動物っぽい感じがする。
「ほら、トルメキアでの件で色々関わっていただろう? ウチのメンバーでは、一番関りがあっただろうからさ」
「あ、そ、そうですね! えっと、まだ……最初に挨拶を少ししただけで……」
「そうなのか? じゃあちょっと呼んでこようか。ユウキ、ちょっといいか?」
僕の声に気付き、ユウキがこちらに振り返る。
「ユート、それにフィーリア殿下? どうかした?」
「あぁ、フィーリア殿下がユウキと話したいらしくてさ」
「ア、アヴァロン陛下!? にゃ、にゃにをっ!?」
テンパって慌てる殿下が可愛らしい。そして、これは弄り甲斐がありそうだ。ユウキには是非とも彼女を篭絡して貰いたいね。
「それじゃ、僕は挨拶回りを続けるから。ごゆっくり」
「ア、アヴァロン陛下ぁっ!? な、これで何を話せとっ!?」
愛の告白でもなんでも、お好きなようにどうぞ!! 命短し恋せよ乙女!! あっ、エルフ族は長命種でしたね。
さてさて、今日は無礼講なので執事やメイドの子達も思い思いに楽しんでいる。そんな様子を見ながら佇んでいる、男に僕は歩み寄った。
「よっ、食ってる?」
「ユー……い、いや……陛下……」
すっごく嫌そうに陛下って呼ぶよね。
「今回は身分も何も無いパーティーだ、普段通りで良いからさ」
すると、一瞬目を閉じ……そして僕を真っすぐに見据えた。
「ユート・アーカディア・アヴァロン……魔王国で言っていた仲間の命というのは、彼女達の事だったのか」
おや、正確なフルネームになったな。
そう言えばマサヨシ達には一度話した事があったっけ? あれはメグミが、協力者になって欲しいって言って来たのを断った時だったか。
それが今では、四人揃って僕の周囲にいるんだから、人生どうなるか解らないよね。
「あぁ、そうだ」
「……そうか」
そう言って、マサヨシは僕に背を向けて歩き去って行く。一言だけ、消え入りそうな声で「おめでとう」と言い残して。
悪いヤツでは無いんだよなぁ。ただ思い込みが激しくて、考えが甘くて、理想ばっかり口にして、地に足付いていないだけで。
……ダメ男だなそれ。
おっと、ユウキ達が別室に行ったらしいな。ユウキとその恋人達……そして、ラピストリア王女とフィーリア王女。
……ははーん、そういう事? 少し、アドバイスでもしておきましょうかね。
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そんな盛大に飲み食いしている最中、僕はある事態に気付いた。
大迷宮攻略中はジルに任せ、帰還してジョリーン・リリルル・クラリスの治療と蘇生を終えた後は、僕が真実の目で監視していた懸念事項。ギルス帝国が動いた。
パーティーを楽しむ皆に視線を向け……僕は手にしていたグラスを置く。折角の快気祝い、折角の楽しい時間に水を差すのは無粋だろう。
「キリエ、ちょいとやる事が出来たから、エメアリアに行って来る」
側に居たキリエに一声かけると、何やら考え……そして頷いた。
「必要があれば呼んで下さいね?」
「あぁ、勿論」
呪詛魔導師オーギュストと、ヴィクトリアという暗殺者の女。それに加え、複数名の生命反応が確認できた。
その数、二十五人……それと一人。合計二十八人が、エメアリア魔法国の王都マギアルカを目指している。
六組に分かれながら、固まって動いている。ひたすらに一直線に向かっているから、これは気球だろうな。王都の門も王城の防衛機構も、空高くを飛ぶ気球には対応出来ないだろう。
さて、ギルス帝国の暗殺者達の狙いは……当然プリシアだろう。
ただ一つ問題がある。オーギュストとヴィクトリア以外にも、真実の目に情報が表示される者が居た。
クロイツ教国で一度、彼を見た事があったからな。
タイシ・タナカ……同行者の中に、勇者が居る。
 




