16-03 新たな星/エメアリア魔法国へ
これまでのあらすじ:世界会議で、とんでもない事実に気付きました。
「という事で、完成しました軌道衛星!」
三日かけて製作したソレを背に、僕は胸を張って仲間達に宣言した。だというのに、仲間達の視線は呆れを含んだものだった……解せぬ。
「何故にそんな、”またかよ、やっちまったなコイツ”って目をしてるのかな?」
「視線でそこまで解るのに、ユートは何で自重というものをしないのかな?」
ユウキの秀逸な返しに苦笑してしまう。
「僕が自重したら、アヴァロン王国は存在してないだろうね」
「ノリと勢いの結果生まれた国……かぁ」
マナさんや、そんな遠い目をしないで?
「で、とりあえず聞いておきたいです。この、きどうえいせい?というのは何ですか?」
挙手して質問をして来たクラリスに頷きで返し、解説を始める。
「プリシアの提案で、空高くから地上を見下ろせば広範囲に渡って解析出来んじゃね? ということに気付いたんだ」
「……い、今更感……」
「確かに、視認すればいいなら上空から見下ろすだけで済みますものね……」
そうなのだ。そんな簡単な事に気付かなかったのは、僕の発想力がまだまだという事だね。
「で、試してみたんだ」
「えっ、実行に移したんですか?」
いつの間に?みたいな顔をするキリエ。うん、言ってなかったからね。
「結果は成功。魔王国を上空から見下ろして把握したら、魔王国に潜伏していた悪魔族を発見出来た」
その言葉に、全員が口をあんぐりと開けて固まってしまった。
「あぁ、安心してくれ。見付けた悪魔族はもう、この世から退場しているよ」
「違うだろユート・アーカディア! そこじゃないんだよ!?」
「……早業」
見せ場どころか、戦闘の描写すら省かれた哀れな悪魔族に黙祷。
「折角この手法が有効な事がわかったから、それなら遺失魔道具にしてしまおうと思ってね。そんな訳で完成したのがこの軌道衛星型遺失魔道具”天地を見通す星”だ」
「待って、そのネーミング……まさかとは思うけど……」
「お察しの通り、”破滅を呼ぶ星”の発展形だよ。衛星兵器としての側面もあります」
「誰かこの暴君に、自重するっていう事を教えてあげて!?」
「ハ、ハハハ……ヤバいヤバいとは思ってたけど……」
「この人、世界征服でもする気なのかな……?」
勇者達が項垂れている、日頃の疲れが溜まっているのかな……無論、本気でそう思っているわけではない。
ちなみに世界征服とか、面倒くさいからそんな事しないよ。
「とりあえず、こいつをいくつか作って飛ばそうと思う。特に東大陸の何処かに潜んでいる四天王ズールと、ニグルス獣聖国に潜んでいる悪魔族の発見を優先しないとね」
悪魔族のやる事は、到底放置できるものではない。
これまでは受け身に回っていたので後手続きだったが、そろそろこちらから先手を打たなければなるまい。その為にも、天地を見通す星は必要なのだ。
「ユーちゃん……絶対にこの衛星兵器の事は他国……いえ、ここに居る人以外には知られないようにして下さいね……」
疲れた表情のキリエに苦笑してしまうが、その意図は勿論解っている。
「守護の為に製作した遺失魔道具だからね。侵略するつもりかー! とか思われたら、溜まったもんじゃない」
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翌日、東大陸に向けて天地見通す星を飛ばしておいた。
あとはニグルス獣聖国の方なのだが、こちらは勇者としてユウキとマナ、同行者としてエルザとマリアに任せる事にした。
「まぁ、眼鏡もあるし、僕が適任っていうのは解るかな。ユートの名代、頑張ってみるよ」
「ふふ、ユウキは本当にユート君の右腕が板についてきたね!」
「うんうん、頼りにしてるよー、サクライ侯爵!」
「ま、こっちは任せてくれていいわよ」
何とも頼りになる連中だ。
四人はケルム獣帝国で南大陸加盟国の面々と合流して、ニグルス獣聖国へ向かうそうだ。
そして、僕達なのだが……ユウキ達を見送った後、北地区の開拓に向けて頭を悩ませていた。
「テーマパーク・スポーツ・劇場と来たわけだし、商業区画は王都になるからな。そうすると、何が良いかなぁ……」
観光スポット的な感じで考えると、他には……何があるかな?
すると、マサヨシがボソッと呟いた。
「……例のプールはどうなんだ」
視線を逸らしながらも、ちゃんと提案として口にしてくれたらしく、更に続ける。
「あれくらいの規模のプールなら、他の地域に見劣りしないと思ったんだが……」
プール開きはマサヨシが来る前だが、アヴァロンを案内する時に見せているからな。しかし……。
「あのプールな、ユウキのテーマパークに隣接して設置するって事になったんだよ。済まないな、折角意見を出してくれたのに」
「……いや、こちらこそ確認不足だった」
少しずつ、マサヨシも前向きになって来たかな?
「あ、それなら温泉はどうですか? 和風建築の宿泊施設も作って」
メグミの提案に、何処からお湯を引っ張るのかと言い掛け……言葉を飲み込んだ。温泉……これはアリじゃない?
日本出身のメグミ・ノゾミ・マサヨシと意見を出し合いながら、温泉宿の建設計画を話し合う。
温泉はどこから引くのかって? アーカディア島には山があるのだが、そこに源泉が湧いているんだよ。どういう原理かは知らないよ、きっと答えはファンタジーな要因だろうし。
結局その日は、遅くまで温泉宿について話し合いをしていた。
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翌朝、朝食を済ませて政務を始めた矢先に、プリシアから連絡が入った。
『忙しいところごめんなさい、今少し時間を貰っても大丈夫ですか?』
「構わないよ、急ぎの仕事でもないからね」
ここ最近、なんだかんだでプリシアと通信する事が多い気がするな。まだ女王になったばかりの彼女は、歳も近く、同じ王である僕に相談してくれるのだ。
僕もまだ国王になって間もないし、彼女の苦労はよく解るので相談に応じている。
『ありがとうございます、ユート。件の魔石発掘の件なんです』
「あぁ、あれか。その様子だと良い報告かな?」
『えぇ、そうなんです。既に魔石を、三つも発掘できたらしくて』
世界会議からまだ五日しか経っていないのに、もう成果が出始めたのか。予想済みとはいえ、これは少し驚きだ。
「確か、既存の鉱山で試したんだよね?」
『はい、そうです! あと、ダイヤモンドも出たそうなんです』
それはそれは、国としてはホクホクだね。ウチには鉱山は無いから、羨ましい限りだよ。
『それでですね、その……感謝の印として、発掘できた魔石を差し上げられたらと……どう、でしょう?』
「……いいの? 貴重品だろうに」
『ですから感謝の印になると思ったのです。お祖母様も、賛成して下さいました』
何か悪い気もするが……しかし折角の厚意だし、ありがたく受け取っておこうかな?
「解った、そういう事ならありがたく受け取らせて貰うよ。それで、いつ行けばいいかな?」
『そうですね……午後一番の鐘が鳴る頃はどうでしょうか?』
おや、今日か。
ちなみに午後一番の鐘が鳴るのは、午後一時くらいである。まぁ、急ぎの用事も無いし構わないだろう。
「解った、それじゃあ転移の姿見で訪問するから、準備だけ頼めるかな?」
『えぇ、任せて下さい! あ、昼食はどうします? ご婚約者の方もいらっしゃいます?』
嬉しそうな声色に、苦笑してしまう。
折角なので、昼食はご一緒させて貰おう。今日手が空いているキリエとエイル、ヒルドを伴って訪問する事を伝えて通信を終える。
それじゃあ、友人に会いに行く為にも仕事を片付けましょうかね。
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午後一番で連絡を入れて、エメアリア魔法国と繋がる転移の姿見を起動する。
「エメアリア魔法国は、行くのは初めてですね」
「あぁ、初めての場所に行くのはいつになっても心が躍るね」
少し楽しそうなキリエに、僕も笑顔で首肯した。
アヴァロン王国を建国してからは、冒険をする回数が減っている。しかし世界各国を巡る冒険をするのが、僕とキリエの当初の目的だ。
今回のエメアリア魔法国訪問は、冒険の範疇に入るかどうかは置いておくが……だって、転移門で一瞬だし。しかし、初めての場所に行くのは旅と言って差し支えないだろう。
姿見を潜り抜けると、そこには笑顔を浮かべて待ち構えていたエメアリア魔法国女王プリシア・ヴァン・エメアリアの姿があった。
「ようこそユート、キリエ、エイル、ヒルド」
身に纏う華美過ぎない純白のドレスは、桃色ロングヘアとの相性がバッチリだ。プリシアの笑顔も相俟って、誰もが美少女だと断言する可憐さを醸し出している。
「出迎えに感謝するよ、プリシア」
「こんにちは、プリシアさん」
「お邪魔しまーす!」
「プリシー、やっほー!」
僕達の気楽な挨拶に、側に控えていた貴族連中が視線を鋭くする。しかし、プリシアはそんな事に気付かず、笑顔で僕達を迎えている。
「それじゃあ挨拶もそこそこにして、昼食会にしましょうか。御祖母様も待ちかねてると思いますし」
先代も一緒か。まぁ、それは全然構わないから問題無いね。そこらに居る目付きの悪い貴族共だったら、面倒臭いなぁと思っていたが。
「そうだね、ご相伴に預からせて貰うよ」
王城の廊下を進むプリシアの後に続き、僕達は廊下から見える景色を見る。中々綺麗な庭には、多様なオブジェがある。騎士や動物を象った石像だ。
真実の目で見ると、あれは生きた石像という名前の魔道具らしい。所謂、ゴーレムか。
「流石は魔法国だな、ファンタジーだ」
「あら、気付かれてしまいましたか。後でお見せしようと思ったのに」
すると、後ろからなぜかゾロゾロと付いてくる貴族の一人が苦言を呈す。
「女王陛下、生きた石像は王城の守りの要でございます。いくら世界同盟の盟主とは言えど、他国の王に王城の防衛機能を晒すような真似は……」
「大丈夫ですよ、カロン男爵。彼らはエメアリア魔法国の友人ですもの。それに、ユートの事だから遅かれ早かれ気付かれるに決まっているでしょう」
何でも無い事のように告げるプリシアなのだが、その言葉に貴族連中は顔を顰めた。
「ならば尚の事、王城に招くべきではないのではありませんか!?」
「その通りです、女王陛下!」
「国の防衛に関わる事です、もっと事態の重要さを認識して頂きたい!」
「第一、陛下に対して馴れ馴れしいではありませんか!」
あー、どうやらこいつらは僕を歓迎していないようだね。恐らくは、彼らの狙いは権力……もしくはプリシアなんだろうな。
『お兄ちゃん気付いている?』
オリジナルの竜眼を持つエイルも、やはり気付いているようだ。最も、その声色は「どうでもいいけどねー!」みたいな感じである。
『あぁ、こいつらはプリシアに取り入って婿入りでもしたいらしいな。それで、仲良さげにしている僕に嫉妬している……ってとこか?』
竜眼で見える感情の色……この色は確か嫉妬だったはずだ。馬鹿馬鹿しい、僕達は友人だというのに。
「口が過ぎますよカロン男爵、オブリ侯爵、ハワーズ伯爵、メルド男爵、クアッド男爵」
一人、悠々と歩いている貴族が涼し気な声色で告げる。確か世界会議にも出席していた人で、エドワード・ヴァン・クランベルだったか。
宰相を務めるクランベル公爵の長男で、僕達の四つ年上だったはずだ。赤髪はスッキリと切り揃えられ、青い瞳は意志の強さを感じさせる。
体格はガッシリとしており、ちょいと筋肉質な印象を受ける。エミリオといい勝負なんじゃないかなー?
そんな体育会系のイケメンは、僕達に視線を向けると申し訳無さそうに苦笑した。多分だけど、「すぐ黙らせるから、穏便にお願いします」って感じかな? 確信した、彼は心もイケメンだ。
「アヴァロン王陛下は、女王陛下が直々に招かれた御友人であり賓客です。無礼な発言は看過出来ませんね」
「エ、エドワード殿……!」
「此度の御来訪は、我が国から言い出した事でしょう。それに快く応えて下さったアヴァロン王国の皆様方に対して、そのような物言いをするとは理解に苦しみます。第一、何故貴殿等はここに居るのです? 私のように、女王陛下に呼ばれたのですか?」
エドワード殿の言葉に、顔を歪めて足を止める貴族連中。プリシアは知った事ではないと言わんばかりに、歩みを止めずに先へ進んでいる。エドワード殿と僕達は、そのままプリシアの後に続く。
「エド、あまりイジメてはダメよ?」
貴族達に聞こえないくらいの位置になって、苦笑気味にプリシアがそんな事を言った。女王らしくない、普通の少女のような声色だ。
「解っていますよ陛下。ですが、アヴァロンの皆様方に対する無礼は見過ごせないでしょう?」
「まぁそうね。エドが言わなければ私が言っていたもの」
ふむふむ、どうやらプリシアとエドワード殿は気安い間柄みたいだね。
「我が国の貴族が失礼致しました、アヴァロン王国の皆様方。私はクランベル公爵家長男のエドワードと申します。どうぞお見知りおきを」
「丁寧な挨拶痛み入る、エドワード殿」
「エドは私の従兄で、子供の頃からよく一緒に遊んでいたの。今は奥さんと子供の相手で中々そうもいかないんだけれど……」
おや、妻子持ちだったのか。気安い感じだし、プリシアの許婚とかなのかと思ったのだが、予想が外れたな。
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さて、昼食会の会場で待ち構えていた先代女王であるジェニー・ヴァン・エメアリア。僕達を見て立ち上がり、側へと歩み寄って来た。
「ようこそ、アヴァロン王とその婚約者の皆さん。うちの孫のワガママに付き合わせて済まないねぇ」
「ご壮健のようで何よりだ、ジェニー殿。エメアリア魔法国には来てみたかったし、渡りに船だった」
「ははは、そうかいそうかい!」
カラカラと笑う先代女王は、以前と比べて丸くなった印象だな。多分、女王の重責なんかから解放されたからだろうね。
「お祖母様、あまりアヴァロン王を困らせないで下さい」
「おやまぁ、女王陛下はアヴァロン王にご執心かい?」
「なっ……な、何をいっているんでしゅか!」
……噛んだな。顔を真っ赤にしたプリシアは、ちらりと僕を見て……顔を更に赤らめて先代に向き直って文句を言う。
エドワード殿は、そんなプリシアを愉快そうに眺めているだけで、助け舟を出すつもりは無いらしい。
「ご、ごめんなさいユート! お祖母様の戯言は聞き流しといて下さい、ボケが来てるだけなので!」
「失敬だね、あたしゃまだまだ現役さね。プリシアも良い年だ、早く伴侶を見つけるんだよ。アヴァロン王なんて九人も見つけて安泰じゃないか」
おっと、その話題はやめようか?
「人それぞれだろう、ジェニー殿。プリシアなら必ず良縁に恵まれる、慌てる事は無いさ」
「……そ、そうですよね。慌てる事なんて無いんだから……」
おや、ちょっとプリシアの元気が無くなった。
感情の色は、落ち込んだ感じ……か? え、何でだろ?
「良縁ねぇ……お隣さんが下の皇子を婿にだなんて言って来ちゃいるが、帝国のボンボンだしねぇ。可愛い孫を任せるなら、人格的にも立場的にも信頼の置ける男が良いんだがねぇ」
そう言って、エドワード殿に視線を向ける。
「この孫は、さっさと相手見つけて結婚しちまうし」
「勘弁して下さいよ、お祖母様も……ステファニーの事は認めてくれたでしょう?」
凛々しいエドワード殿は崩れて、情けない声を上げていた。成程、身内の前ではこんな感じなのね。
「恨み言くらい言わせてくれても良いだろう? 全く、エド以外に信頼の置ける相手なんて、目の前の超優良物件以外はとんと思い浮かばないよ……まぁ、既に九人も相手がいるけどねぇ」
おっと、矛先がこっちへ。というか、知り合って間もないヤツをそこまで買い被るのもどうかと思うよ。
「まぁ、王同士の婚姻なんて前代未聞だ、そうそう上手くいくはずもないさね」
それはそうだ。それぞれの国の王と女王では、どうしても優先するのは自国の事になる。夫婦喧嘩が国家間戦争に発展するかもしれないと来れば、そんな危険な結婚は認められないだろう。
よほど互いを想い合うというのなら、どちらか……もしくは揃って出奔するしかないね。つまり駆け落ちだ。
僕にそのつもりは無いし、プリシアも強い責任感を持つ女の子だから、そんな選択はしないだろう。
「……そう、ですね」
……まさかとは思うが、プリシアの元気が無いのは……。
い、いやいやいや! 流石にそれは無いよね!
自惚れるなよユート、僕がそんなモテるはずが……無かったら、九人も婚約者はいないわな。う、うん……きっと、気のせいだよ、うん。




